旅館の中を探検して、外に出てみようかと階段を降りて行くと目の前をマッハで移動する恐らく先生。先生の来た方向からは男子が大勢で追いかけて来る。
「如月!殺せんせーどっち行った!?」
「え……階段のほうは通っていないから向こうだと思うけど」
「サンキュ!」
先頭を切っていく前原くんはナイフを構えて凄い表情で私が指を指した方向に向かう。男子の皆、ナイフやら銃を持って前原くんについていく。……暗殺なんだろうけど、何があったのだろうか。しばらく動かず耳で様子を窺うと明らかに、男子の人数だけではないほどの大きな騒音。……本当に一体何をしたのか、先生は。
「どこ行った!?」
「探して吐かせろ!」
男女の声が古い旅館に響く。……E組以外はこの旅館を利用していないようでそれはそれでよかったなと思う。
とりあえず、そっとしておこう。そう思って旅館の軋む階段を降りて行った。
外の夜はやっぱり涼しい。探検する前はここのお風呂に入ったのだが、旅館の中はあまり空調も効いた感じがせず、涼む場所を探していた。古い旅館で、他のクラスの人はホテルだと言っていたが古い旅館の方がいいと私から思えた。
風情のある町並に灯りが灯っていて、とても綺麗だった。
「なーにしてんの」
「……涼んでるだけ」
後ろからの声。もう確認せずとも誰だか分かる。
今度はもうなんなのだろうか。出来ればもう、疲れたくないから涼んだら寝たいのだけれど。
「まだ髪濡れてるけど」
「……だから?」
首の後ろの短い髪に触れて来る。と思ったらその次に首に何かをかけられる。……タオル?若干それは湿っているようで、使用済みなのかと思わせた。
「いい加減さ、独りでいるのやめたら?誰も助けようがないと思うけど」
真剣な声に怒り混じりの感情。その言葉を言った顔はどんな顔なのだろうか。ゆっくり首だけを動かして見る。初めて見た真剣な眼差しだった。
「自分ではさー孤独を意識してるんだろうけど、孤独にしてるのは如月さん自身じゃないの?」
「……それは」
「否定ばっかりしても意味ないと思うけど?」
放つ言葉に言い返そうとするが言い返せない。私が何を言おうか読んでいるのだろうか。それと同時に
「なんで私にそう言って来るの?」
時々執拗な行動を私に取って来るカルマくんがよく分からない。別に放っておけばいい話だろう。私がどう生きるのも、彼がそれを見ているのも。
少し言葉にするのを戸惑ったのか、数秒して
「嫌いだから」
そう言った。嫌いだから、言うものなのか。その言葉の意味が分からなくて気にしないことにした。
「……それで、私にどうしてほしいの」
溜め息まじりの言葉。何かを忠告して来て、その理由が嫌いだからというのであれば私に改善を求めているということだろう。
けれどその言葉に呆れたように
「それくらい自分で見つけたら」
流石にその言葉にカチンと頭に来た。この人は一体本当になんだというのだ。当の本人は私のイライラに気付いていないのだろうか。
「……勝手すぎる」
「ん?」
「ちょっかいしてきて、私のことを嫌いという理由で否定して。
なのに改善方法を聞けば、自分で見つけたらってばかじゃないの!」
一気に言葉を続けたせいか、喋り終えて大きく息を吐いた。自分で思っていたより声は出て、辺りがしん、と静寂に包まれたような気分にさせられた。
と、静寂が流れてカルマくんの笑い声が唐突に吹き出た。
声をあげて笑う空気と様子に呆然とするしかなかった。
「なーんだ、ちゃんと怒れるじゃん」
「……怒ってた?」
気付いてなかったの?と笑うカルマくん。なんだろう、ちゃんとという言葉は。
「ちゃんとしかめっ面して。
無表情の言葉だけじゃ本当にそう思っているのか分からない。みんなには伝わるんだろうけど俺はガキだし?」
無表情の言葉だけじゃ……。つまりカルマくんは疑心暗鬼になっていたということ?その割にはどこかあざ笑うかのような最後の言葉。
「…………」
「ちゃんと嫌なことは嫌って言わないと俺分からなくてまた意地悪するかもね。人に何も言わず気付いてもらうまで待つなんて虚しいでしょ?」
虚しい。自分は虚しかったのか。今までちょっかいをし続けて来たのも私が嫌がらなかったから。放っておけばなんとかなると思っていたから、ということなのか。考え込む私の肩にかかったタオルを取り、背を向けて旅館へ入ろうとしていくカルマくん。
「風邪引きたいの?引きたくなければ戻ったら?」
いつの間にかすっかりと火照っていた体は普段通りに戻っていた。浴衣を着ているから別に熱は篭らないし、あっという間に涼むのか。旅館の中に戻ろうとするとカルマくんはその場に立って上を向いていた。
……上、というより旅館の2階窓辺り。そこに何かノートとペンを持った先生がこちらを向いてにやにやと笑っていた。
「……あのタコッ」
「え」
カルマくんも浴衣のはずなのに、駆け足で2階に向かって行った。懐からナイフを取り出したのはきっと気のせいではないのだろう。先生もまた駆けていくカルマくんを見てマッハで消えた。
……何を書き留めていたのだろうか。なんだか今日は一日慌ただしかったような気がする。
疲労が溜まってる。体は確かに疲労を感じていたがさきほどの話のおかげか精神的には少しすっきりしていた。
流石にみんな大部屋に集まっているよね。今日は早く寝てしまおう。そう思って2階へと歩いた。
「久しぶりィ!元気そうねェ!」
私は……そうだ。寝ていた。そしてこの懐かしい気がする甲高い特徴的な声は神様なのだろう。
相変わらず黒い空間。けれど前とは違って赤い光が蛍のように、いや夜の京都の仄かな光のようだった。相変わらず神様の姿は見当たらない。
「探してもォアンタには見つからないわよォ!」
きゃはははという相変わらず高く響く笑い声。空間が空間であって反響していく。反響してるくせに場所が分からない。……反響し過ぎて場所が分からないのか。
「……あなたが現れたって事は」
帰る情報だろうか。前はすぐに消えてしまったので流石に時間が経って現れるという事は何か分かったのだろう。
「残念でしたァー!暇だったから見に来ただけェ」
……さいですか。神様は意外と暇なようだ。私を帰すことを無視して。
暇だったから私を見に来たのか。だとすれば何か話すことはできるはずだ。そう思って思いついた言葉をそのまま言ってみる。
「……これは夢?」
「ブッブー。不正解ィ!」
これは……時々カルマくんからちょっかいを受ける時よりも不快感を感じる。何か私が言う前に
「不機嫌ねェ。ちゃんと教えるわよォ!
ここは紙っぺらでいう厚みの場所ォ!」
「……はい?」
不機嫌を察してくれたものの、説明がさっぱり分からない。紙の厚み?じゃあここは紙の世界とでも言うのだろうか。訳の分からない説明に混乱せざるを得なかった。
「まだ説明は終わってないわよォ!
世界って言うのはァ表と裏があるの!まぁその2つだけじゃないんだけどォ。アンタの元いた世界が表、今生活している世界が裏だとして、ここはその間ってわけェ!」
「……狭間ってこと?」
物分かりがいいと言ってご機嫌になる神様。こんなにも扱い易いのか。それにしてもなぜまた世界を紙で表すのか、私には分からなかった。
「まァ狭間って言っても距離は裏に近いんだけどねェ。狭間は
きゃはははと響く言葉はどんどんと遠ざかっていく。
そんな感じがした。
番外編のストックが2つになってしまった。
完結まで待つのもいつかネタを忘れそうで嫌なんだけど、かといってここで投稿してしまえば酷く面倒くさい気も……
まぁ追々考えるとします。少なくとも1学期が終わる頃までには番外編を作る予定です。
後投稿少し遅れて申し訳ないです……