この世界にも雨は降るんだな、と小さく呟いた。6月は雨の降る季節だと誰かが言っていたような気もする。アスファルトに叩き付ける雨粒はどこか無機質に感じられる。
この世界は私と違う世界で、何かあるようであの教室以外は何もない世界。安全で便利なだけの、生きる事を保証された世界。そんな何もない世界が今この時も少し羨ましく思える。学校の帰り道、住宅地の道を通りながらそんなことを考えていた。
よくよく考えれば、向こうでは考える事もやめていたような気がする。いつから自分の思考さえしゃだんしていたのだろうか。これじゃあ本当に律以下な人だなと思う。
突然ポケットに入っていた携帯が動く。それにびっくりして、恐る恐る携帯を取り出し覗き込むと
「あ、よかったです!如月さん携帯持ってないかと思いました!」
「……私は、律にこんな事出来るのかとびっくりした」
私の言葉にきょとんと首をかしげる画面に映り込んだ律。律は、他人の携帯にも入り篭めてその携帯を動かすこともできるのか。こちらの世界の特徴か、それとも律自身の特徴か……。
「で、どうしたの」
「はい!前原くんの屈辱を晴らす作戦に是非ご参加を!」
「…………」
なにがあったんだろう、前原くん。そして律の言うその言葉にどこか不思議な恐さが考えられた。
「……申し訳ないけど、私今日病院の定期診断日だから」
「そうでしたか……分かりました。殺せんせーに伝えておきます」
「……ん?」
先生まで関わっているのか。本当に何をしでかそうとしているのか。律にみんなが参加しているのか、だとかなんで先生がと聞けば、先生が言い始めたことでE組みんなに収集をかけているらしい。そこで思わず私の先生への評価が落ちる。
「ところで、如月さん」
「?」
「その辺りから猫の鳴き声がします」
雨の音が響いてる中、私には気付かない音を律が聞き分けた。猫……向こうの世界では微弱ながらも
「多分音域が高いので子供かと思います」
「……分かった、ありがとう。なんとか保護してみるよ」
……まぁ、色々と頑張ってと伝えて。と言うと笑顔で彼女は画面から消えた。耳を済ませば雨の音が聞こえる。が、よくよく聞けば確かに雨音ではない高い音が道の先から聞こえた。
「にー」
それは箱とタオル。タオルがもぞもぞと動いている。手で触れるとそのタオルは湿っていた。
梅雨で夏も近く、気温も暖かいと思える中でもこの雨の中では風邪を引くのではないか。持っていたビニール傘をその場に一旦置き、手のひらで捕まえないように腕で抱きかかえる。にー、と鳴く子猫は白い濡れたタオルから顔を出す。白くてとても綺麗な翠の目をしていた。
翠……それは血の色とは反対の色。
「……私で、ごめんね」
置いた傘を手に取り、一度家に戻ろうと走り始めた。
即刻帰ってお風呂場に連れていき、
そして渇かしながら、教材の入れていた籠を空にし、そこにタオルを敷いてその中に猫をいれる。……お腹、空いてるかな。餌をあげてあげたいけどこのままだと予約していた病院の時間に間に合わない。……どうしよう。
「時間……もう出ないとまずい」
1つ閃いたことがある。けれどそれは本当に可能なのかは分からない。可能性は酷く低い、けどやるしかないよなぁ。そう思って急遽携帯を取り出す。電源を付けて、何も画面を押さず呼ぶ。
「律、大至急お願いが」
Another side
「まぁ貸しを作っておくのも悪くないって思ったんだよ」
「如月さんに、ですか?」
カルマさんの携帯から見えるのは如月さんの部屋。思いのほかシンプルな家具で、殆どが長く使われている痕跡が見えていて恐らく使い古しのものを買い取ったと推測する。
白い毛並みの日本ではそこらにいるであろう子猫はカルマさんの持つ猫じゃらしに食いついて遊んで来る。上の位置で上下に揺らすことしかしていないので上下運動にしかならない。
「カルマさん、まだ生まれて間もない猫なので上下運動は控えた方がいいかと」
「そうなの?」
「いえ、捨てられていた訳なので足が不自由の可能性も0とは言い切れません」
そっかー、と返事をすると子猫をベッドの上に置き猫じゃらしから違うおもちゃ、布で出来たボールをぽんと放る。すると子猫は一度首をかしげたもののすぐに飛びついた。
「まぁ俺がしたい喧嘩って真っ向勝負なんだよねー」
そう言って鞄から取り出したのは何か小さい本。カバーが付けられていて何の本だかはよく分からない。
如月さんから連絡が来た理由として、拾った子猫をみていてほしい、ということだった。E組のクラスの殆どは作戦を実行後、校舎で烏丸先生の説教を受けている、はず。端末から端末で移動出来る私はそれから逃れることが出来た。
そして、流石に私だけで子猫を見守るのには荷が重いということで作戦にも実行せず、尚かつ如月さんの住所を知っているカルマさんに連絡すると渋々ながらも来てくれた訳で。
私の調べたデータを元に子猫用の食べ物とおもちゃなどなど、暫く猫を部屋に置いておけるような物を買って如月さんの部屋に訪れていた。
「この子、どうするんでしょうね」
如月さんが住むこの場所は一軒家ではなくアパート。少しずつではあるがペット可のアパートも増えて来てはいるがここがどうなのかというのは分からない。如月さんが病院の帰りに学校に寄り、仮の保護者である烏丸先生からアパートの書類を拝見しに行くとのこと。
「もしここがダメなら里親探しだろうね」
「……見つかりますでしょうか?」
里親が見つからなければ殆どは保健所に連れていかれる。日数が立ってしまえば……
「E組全員で探すことになるだろうし大丈夫だよ」
Another side fin
病院から出ると雨はさっきより酷くなっていた。駅から病院が近くて本当によかったと思い傘を差して歩き始める。
色々検査はしたが医者の人に入院一歩手前、と言われてしまった。それは微弱ながら改善しつつある体重だ。初めて計ったとき154cmの身長でありながら40kgにも満たない。それは本当にまずいこと、らしい。
向こうの世界では食べるために人を殺す必要があった。殺したくはない、けれど死にたくない。必要最低限生きる仕事をするために食事もあまりとらずにいた。それこそ一日1食はいい方だった。
早く学校に行かないと烏丸先生帰ってしまう。
ようやく本校舎の横道、E組校舎へ向かうための坂が目の前にある。仕方ない。丁度今は誰もいない。雷もなっていないし、問題ないはず。傘を閉じて跳び、そして駆けた。
E組校舎への坂はくねった道でまっすぐ行った方がかなり早い。木の幹を飛び移って行く。校舎まではあっという間だった。
学校について職員室を覗いたが、誰もいなかった。校舎は意外と静まり返っていて、もう帰ってしまったのかなと思いながらも教室を覗いた。
「…………」
「…………どうした、如月」
妙に威圧感のある烏丸先生と、なぜか正座している生徒何名かと先生。……一体、これはどういう状況なのだろうか。そう聞けば
「他のクラスの生徒に軽く復讐をしたそうだ」
……あぁ、律が言っていた前原くんの屈辱をどうとかいう話か。確かに、正座してるメンバーの中に前原くんが肩をすくめている。この様子だともう反省したからいいんだと思うんだけどなぁ。そう思って口にする。
「雨、強くなってますしそろそろ帰らせたほうが……」
「…………そうか」
凄く不機嫌と疲労な表情の烏丸先生。そして苦痛から解放されたかのような生徒の顔ぶれ。
「いやはや……先生、足が、痺れて」
「足……?」
どの触手が足なのだろうか。そして渚くんはこんな中でもメモを取る。多分先生は正座で痺れるとかそんなことなのだろうか。
「あ、烏丸先生。アパートの書類ありますか」
「……今必要か?」
疲れている中申し訳ない気持ちながらもお願いをする。早く帰ろう。
昨日から更新する予定でした本当に申し訳ありませんでした……。
恐らく一週間ほどお休みをとると活動報告にて宣言させていただきました。一応あれからは倒れるなどのようなことは起きてないので、ただまだ少し調子が悪い感じです。
しばらくは定期更新のペースが落ちると思っていて下さい。一応頑張りはしますが、趣味の範囲でやっているのも事実なので。
主人公の体重についてはBMIのほうを参考に致しました。もしダイエットなどを考えてる人がいればまずBMIについて調べてみて下さい。主人公は異常な体重です。決して参考にしないでください……。
そして健康な体が欲しいです。切実に。いや本当にもう。
この先も活動報告で体調や更新のお休みなどをするのでそちらをご覧下さい。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。