「賞金は山分けで行こう!」
「頑張れ如月!」
本当に
……ばれているよなぁ。先生はどこかそわそわとしている。完全に私たちのことを勘づいているのだろう。だがこの生徒の空気的に止めるのもめんどくさいし。1つ深い溜め息が零れた。
しょうがないかな。やるしかないか。
そう決心して普段通り先生の前に姿を現した。
「おやぁ?如月さんどうしました?」
……既に舐めきっている顔。どこか不快感を感じたがあくまで普段通り。
「なんで舐めきった顔なんですか……これ、宿題です」
「おや、もう終わったのですか。提出期限はまだ先ですが」
「早いうちに終わらせておいて損はありませんし」
ふむ、とわざとらしく言葉を発する先生。小テストの紙を置き、マッハのスピードでノートを開き採点をしてくる。宿題の採点が終わり私にノートを渡してきたところで、隠し持っていた先生用ナイフを使って先生の胴体を狙った。
もちろん先生に思いっきりかわされるが、目的はそちらではない。膝(関節がないが恐らくその辺りだろう)に置いてあった小テストは宙に散らばる。散らばっている中で距離を取らせる為にナイフを投げた。後ろからの掩護射撃もある。
「琴音!」
その言葉とともに投げ出されたのは
射撃をかわしながらもこちらに意識されているらしい。けれど距離を取ってしまえば
鞘から抜いて宙で縦の向きに
「にゅわっ!?」
その斬撃覇は空間を移動して、先生に向かった。
が、もちろんかわされ先生の後ろの木に当り、幹に傷が出来ただけのものとなった。
「くっ」
重力のままに落とされるので受け身を取って地面に当る衝撃に備えた。
無傷で終わるが、先生もまた無傷。
「残念でしたねぇにゅるふふ」
「くっそー……行けると思ったのに」
ぞろぞろとみんなが草むらから出て来る。起き上がって土ぼこりを叩いた。みんなは悔しそうな顔を浮かべる。
「如月さんの動体視力は素晴らしいですね。ですが貴方は得に警戒してますから」
「でしょうね」
「気付いてたのかよ!殺せんせーずりー!」
「でも先生」
「にゅ?」
この様子だと気付いてないようだけれど。辺りに散らばった小テストの紙。もう既に殆ど完成していて、後少しの人数分のテスト作成を行っていたのだろう。
「にゅわーッ!?小テストの問題用紙がー!?」
それは掩護射撃で穴だらけになった問題用紙。斬撃覇は空間を移動するものなので問題用紙には当らないような距離にしたが、気をつけても無駄だったかなと考えた。
「あちゃー、これじゃあ次の時間小テスト間に合わないねー殺せんせー」
「この暗殺も無駄じゃなかったな」
私に警戒し過ぎてテストのことをすっかり忘れていたのだろうなと考えた。嬉しそうに満足したようにぞろぞろと校舎内に戻って行く生徒。
「マッハで問題用紙かき集めればよかったのでは……」
「いえ、貴方の事ですから近距離であればどんな攻撃をしでかしてくるかは分からない。距離を取れば接近してくるか遠距離攻撃のどちらかですからねぇ」
「……過大評価し過ぎかと」
そもそも私は気付かれないように暗殺するのが得意な戦法で、既に警戒されていれば意味がない。しかもこんな相手だ。
「殺す事で生きることしか私は出来ない、ただのしがない暗殺者ですから」
「…………」
ただただ呟いた言葉に先生は返事もしない。落ちた宿題のノートを持って校舎に戻って行く私を引き止めることもしなかった。
「ということで小テスト作成が間に合わなかったです……よって宿題を2倍にします!」
「小さぇ!」
批判が諸々飛び交う中、そう来たかと思った。
テスト用紙を散蒔いたことによって銃弾がぎりぎりまで見えない状態にと提案したのは私で、延期になる事は薄々分かっていた。みんなも中間テストが終わってすぐにまた小テストというのはうんざりしているのが目に見えた。が、仕返しが来るとは私の考えになかった。
「暗殺失敗したんだってー?」
あぁまたか、と隣からの言葉を聞き流す。
「まぁ2回も触手破壊されたんだから警戒されるだろうねー」
「……暗殺を中止する理由でもなかったし」
へー、とわざとらしい相づちをうつ。必要最低限に接せればいい。そう思いながら机の中に教材を取ろうと手を伸ばした。
……湿っぽい感触。中身を覗き込んでみれば4、5匹の蛙。
「それ可愛いっしょー?」
にやにやとした顔をするカルマくん。……わざわざ捕まえてきたのか、蛙を。随分と手にかける悪戯だなと思い、蛙をそっと手で包み込んで立ち上がる。
「にゅる?如月さんどうしました?」
その言葉に皆がこちらを向く。いえ、と短く言葉を返して窓に歩み寄り立て付けの悪い窓を開けてそっと外に蛙を帰す。一度に全部の蛙を返す事はできないので2回ほど往復して何事もなく席に座った。さて湿ったこのノートはどうしようかと、考える必要があった。
Another side
5時間目が終わって、背伸びをしたところに珍しく如月さんが僕のところに向かってきた。
「どうしたの?」
「……ノート、湿っちゃって。日当りのいいところに置きたいんだけど」
「あ、あたしのところ置きなよ!」
茅野が如月さんの持っていたノートを受け取り日当りのいい机の位置に置いた。でも少し不思議に思う。ここのところ雨が降っていないし、どうやってそんな湿るのだろう。そう聞くと言いづらそうに、けれど話してくれる。
「……カルマくんが、机の中に蛙入れたみたいで」
確かにさっきの時間の最初、突然立ち上がったと思いきや外に何かを放したように見えた。あれは蛙だったのか。殺せんせーも特に気には留めず授業をそのまま再開させたのですっかり忘れていたが。
「なんでまたカルマくんが……」
確かに彼は悪戯好きだけれど女子にするようなことはなかったし、以前殺せんせーに手入れされたことでだいぶ落ち着いたと思っていたのだけれど。
「如月ちゃんに構って欲しかったり?」
楽しそうに話す茅野の言葉に如月さんは表情を変えない。渇いたような笑いの声を発するだけで。
「えっと、じゃあノートお願いします」
「うん!多分放課後には渇くから!」
深々とお辞儀をして如月さんは席に戻って行く。その様子を見届けてると、椅子を引いたその時何かに気付いたようでそこにあった何かを取る。
あれ、ブーブークッションじゃあ……投げつけるようにブーブークッションをカルマくんの席に放る。挑発気味のカルマくんの表情に如月さんは無視する事を決め込んだようで気にも留めない。
しょっちゅうあんなことをしてるのかな……。
「ねぇカルマくん」
「あれー?渚くんもサボり?」
掃除の時間。時々カルマくんはサボりに行く事を知っていてどこでサボっているのかも知っていた。
草むらで寝転がるカルマくんは顔を動かして僕の方を見る。
「如月さんになんでちょっかい出すのか聞いていい?」
「えー?気に入らないからだよ」
「気に入らないって……」
んー、と唸り始めるカルマくん。数秒して目を瞑るのでいつ寝てもおかしくないよなぁと思いながら待ってると、突拍子な言葉が出てきた。
「人間、やってないんだよねー」
「……え?」
「そろそろ掃除終わるよ、戻ろう」
勝手に会話を切り上げられ、そのままカルマくんは僕の言葉も聞かずにそのまま校舎へ行ってしまう。
人間をやっていない、だから気に入らない?人間をやっていないということはどういうことなんだろう。
この後の放課後にその意図は分かった。