偶然こちらの小説掲載サイトを見て、同じように執筆されている方の作品を拝見しました。それがきっかけで、こうして初めての作品を掲載してみようという気になり今に至ります。
東方についてもにわか知識しかなく、主な情報源が二次創作であるため間違った解釈などをしているところも多々あると思いますが、こういう風に捉える人もいるのか、とでも思っていただければ幸いです(気に入らない方がいましたら、画面左上のバック・トゥー・ザ・フューチャーボタンを押してください。何も知らなかった頃の過去に戻れるかもしれません)
さて、あまりくどくど書いても面白くありませんし、望まれてもいないでしょう(笑)
早速本編へどうぞ!
プロローグ:幻想郷へ
ねっとりとした嫌な空気を乗せた風を感じつつ、暗闇の中を歩く。
正確には数歩先すら見えづらい山中っぽいけどそれは些細な問題だ。
一番、重要視しなきゃいけない問題はただ一つ。
優希「俺、どうしてこんな所にいるんだろ」
考えれば考える程に分からない。
俺は確かに通学路を家に向かって歩いていた……そうつまり帰宅途中だ。
なのにふっ、と……物思いにふけってた間に周囲の風景が一変していた。
今から多分1時間ほどまえになるか……。
さすがにその時までは恥ずかしくなるくらいに動揺していた。
ドッキリにしちゃ不可能だし、夢にしちゃリアルすぎる。
いろいろ整理した結果、俺個人で悩んでもどうしようもないって結論に至ったわけだ。
我ながらに楽観的だとは思う。
優希「おーい! 誰かいませんかーーー!!」
時折こうして大声を上げながら山中と思しき道を歩く。
日もくれたこんな場所に人がいるのかと言われればいささか疑問だ。
だけど、さっきから妙に騒がしいような気もする。
こういうのをなんていうんだっけ、ざわめき?
と、誰にともなく問いかけていると――。
「おい、いたかっ!?」
「何かの声は聞こえた気がするんだが……」
「いいや、だがこの辺りにはちげえねえ!!」
「へへ、手こずらせやがって……捕まえたらたっぷりかわいがってやらねえとなあ」
優希「……」
人の話し声に声をかけようとして……やめた。
その口調と話の内容が、あまりにもホワイトなものではない気がしたからだ。
ああいう手合に絡まれるとろくな目に遭わないのは常識だ。
そーっと、音を立てないように近くの茂みに身を隠――。
???「ひっ……!?」
優希「へっ?」
そうとして、思ったより近くで上がった声に驚く。
どうやら先客がいたらしい……どうにも嫌な予感がする。
優希「……もしかして君、あのガラの悪い奴らに追われてる?」
???「くっ!!」
優希「うわっ!?」
何気なく話しかけただけのつもりだった。
なのに、相手の女の子は酷く焦ったように茂みを飛び出す。
俺はやっとこさ見つけたまともそうな子を慌てて追いかけた。
???「はぁっ、はぁっ……くそっ!」
優希「っ! き、君……怪我を?」
???「それがどうしたというのだ?」
???「貴様ら人間の仕業であるというのに!」
優希「え? 君だって……」
人間じゃないか、と続けようとして少し言いよどむ。
というのも、彼女の姿がちょっと変わっていたからだ。
江戸時代とかの人が来てそうな服に重そうな片刃の刃物。
そして――。
優希「犬耳と尻尾?」
???「私は狼だっ!!」
いぬみ……もとい狼耳の女の子がものすごい剣幕で詰め寄ってくる。
そのまま斬りかからんばかりに刃物まで構えてだ。
優希「うわっ!? わ、悪かったって!」
???「……?」
優希「悪気はないんだってば……でも、コスプレにしては気合入ってるな」
優希「もしかしてなんかの撮影か?」
???「お前は一体、何を言って……」
「おい、あれ!」
「ちっ、やっと姿を現しやがったかっ! 追うぞ!!」
???「なっ!? くそっ、これだから人間は信用ならないんだっ!!」
優希「へっ……?」
急に罵倒されてしまい、呆気にとられて棒立ち状態になる。
そんな間にもものすごい勢いで去っていく女の子の背中。
陸上選手も顔負けなレベルだ。
そういえば、狼だとかも言ってたっけ?
「おう、お前は見ねえ顔だが……あいつ捕まえるつもりなら手を貸せ!」
「俺たちは先にいってるぜ!」
俺に一声かけると、男たちは駆け出していった女の子を追いかけていったらしい。
なぜかは分からないがどうにも仲間だと思われたようだ。
俺はその光景も呆然として見送った後、頬を掻く。
優希「……俺のせい、だよなあ」
あの子は俺を追いかけてきた男の一人と勘違いしたんだ。
それであの茂みから飛び出してしまった。
俺があの時、ここを隠れ場所に選ばなきゃ彼女もあの場所から動かなかっただろうし……。
何より、状況も知らずに引き止めてしまったのがまずかった。
優希「だーっ! しゃあないな、もうっ!!」
面倒事は嫌だけど、それ以上に女の子が傷付くのはもっと嫌だ。
何かに言い訳をするようにして俺はすでに遠くなりつつある男たちの背中を追いかけた。
すると、そうもしない間に男たちの動きが止まる。
???「来るなっ! 汚らわしい人間どもめっ!!」
「へへ、すぐにそんな口きけなくしてやるよ」
「この人数に勝てると思ってるのか? 『今の』妖怪たちに」
???「……くっ」
ビンゴ……どうやら彼女は追いつかれてしまったらしい。
俺は焦らず、奴らの脇を遠回りするようにして女の子の方へ向かう。
正直、喧嘩なんてあんましないしこんな状況だって初めて遭遇する。
だけどまあ、幸いにして都合のいい茂みがここにはたくさんあるんだ。
そんな時、俺に湧いて出る作戦なんて一つくらいしかない。
そうしてジリジリと動いている間にも話は続いている、
???「何故私たちを襲う……私たちは好んで人間を襲った覚えはない」
「理由? まあ色々あるけどよ」
「嫌がる女を無理やり従わせるのって興奮するじゃねえか」
???「下衆め……」
やっぱり……彼女はどうにも、自分が人間でないような口ぶりだ。
対する男たちもまた、そのことに疑問はもってないようだし……。
それに妙なことはまだある、男たちの服装だ。
これまた江戸時代の農民やらが来てそうなボロい着物。
そして、手には簡単に手に入らなさそうな弓やら刀が握られている。
優希(……本物、なのか?)
あまりにも現実離れした状況。
なのに不思議と戸惑いより納得が勝る。
状況は未だによくわかっちゃいないが、何か一本の線で繋がっている気がした。
「さぁて、今まで大分手こずらされた分きっちりお返しさせてもらうぜ?」
「そうとも、お前のお仲間には随分と暴れられたからなあ?」
「とはいえあいつらも深傷をおってるだろうけどな」
???「っ! 貴様らぁっ!!」
いよいよもって緊迫した空気が流れ始める。
流石にこれ以上は隠れたまま行動することもできんだろう。
なら――!
優希「こっちだっ!」
???「……えっ!?」
「何だてめえは! おい、追え、追えー!!」
「ちっ、獲物の横取りかこのガキっ!!」
茂みから飛び出した俺は女の子の手を掴み、奴らから引き離すように走る。
女の子は何が起こったのかわからないような表情を浮かべていた。
しかししばらくしてからハッ、としたように俺の手を払いのける。
???「手を離せ、人間っ!!」
優希「お、おい! そんなこと言ってる場合じゃないだろ? 早く逃げないと――」
???「人間は……特に男は信用できない。何を企んでいる?」
鬼気迫った様な顔、それにこの寒気のするような気迫。
もしかしたらこれが殺気とかいうやつなのかもな、と他人事のように思った。
背後からはあのヤクザっぽい奴らの声が近づいてきている。
早く逃げないと……そう手を伸ばそうとして――。
???「触るなぁっ!!」
優希「がっ……!?」
彼女が持っていた大ぶりの刀で切り伏せられた。
……痛い。だけどどうやら刀身ではなく背のほうで殴られたらしい。
いわゆるみねうちというもんだ。
だけどこっちだってここまでやってるんだ、諦める訳にはいかない。
そう思って上げた視界に入ったのは戸惑いの表情。
???「……な、何故何もしない!? やられた振りでもしているのかっ!!」
優希「ぐっ……俺は何もしないから、早く逃げるぞっ……」
???「そんなことをしても騙されな――」
優希「っ!?」
戸惑いながらもこちらへの警戒を解かない少女。
そんな彼女の後ろから、奴らのものだろう矢が複数迫っているのが見えた。
優希「危ない!!」
???「――えっ?」
後ろから飛んできていた矢が見えた瞬間、俺はとっさに彼女を突き飛ばしていた。
おそらく腕前は大したことがなかったんだろう、明後日の方向にも飛んでいっている。
そのおかげか、気付かずに当たるなんてことにはならないですんだ。
だけど――。
優希「~~~っ!!」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるなんて言ったのはどこのどいつだ!?
運悪く一本だけ俺の足を貫く。
あまりの激痛に声にならない悲鳴を上げた。
痛え……流石にここまで痛いとは思わなかったぞ!?
???「あ、ああ……」
優希「ちっ……」
どうやら彼女も俺の様子に何が起こったのか理解したらしい。
青ざめた顔をしてその場にへたり込んでいた。
万事休す! このままじゃあふたりともどうなるかわかりやしない。
そう思っていた時だった。
『――望みなさい』
優希(!?)
体の内側から響くような声に状況を忘れて驚く。
気づけば周りは真っ白な霧に覆われていて……澄んだ空気を感じた。
あの子の姿もなく、男たちの姿もない。
もしかして、これは夢なのか?
『もし、彼女を助けたいと願うなら……望みなさい』
優希(何をだよっ!?)
『何でもです。貴方が望むもの、それは全て具現化されます』
『ただし、それは貴方自身へは干渉はしない……』
『……さあ、望みなさい……あなた自身に眠る力のままに』
優希(意味がわからない……だけど、もし助かることが出来るなら)
優希(あいつらをこの場から退ける何かが欲しいっ!!)
そう願った瞬間、白かった視界は一気に晴れてさっきの場所に戻っていた。
今のは一体……いや、今はそれはどうでもいい。
もう目に見える範囲まで近づいてきていた男たちに向かって俺は願った。
優希「見えなくなるとこまで吹き飛べ!!」
「なっ……!?」
「か、体が浮いて……どうなってやがる!?」
「お、おい……まさかこのまま……!?」
『うわああああああぁぁぁぁ……』
優希「……まじでか」
手を広げた先にいた男たちは俺の願った通り、吹き飛んでいった。
それこそ、見えなくなるというレベルを通り越してだが。
俺は座り込んだまま、自分の手を見つめる。
本当に具現化したんだ……『あいつらを吹き飛ばす風』を。
『覚えていなさい……望めばどんなものでも具現化できるその力の強さを』
『そして、その力を自分が正しいと思うことに使うのです』
優希「お、おいっ!? 何なんだよ、これ! なんで俺がこんな……」
『私に出来るのはここまでです……健闘を』
優希「おい、待ってくれ! おい!! ……くそっ」
こんどこそ問いかけても何の反応もなくなっていた。
願ったことを具現化する……訳がわからない。
だけどさっき起こったことも夢じゃないはずだ。
明らかにキャパシティーを超え始めている状況に頭痛がしてくる。
……ついでに足の痛みも。
足を貫通した矢がなんともシュールだ。
優希「痛っ……!!」
思い切って刺さっていた矢を折り、引き抜いた。
痛みを通り越して麻痺し始めてる……消毒薬なんてないし化膿しなければいいが。
優希(待てよ? 傷口を治したりすることは出来ないだろうか?)
俺はそう考えて、傷を治す霧のようなものをイメージしてみた。
しかし、霧状の何かはでてきたが傷が治ることはないらしい。
どうやら、あいつが言っていた自身に干渉しないってのはそういうことのようだ。
仕方なく俺は手持ちの荷物で治療を始めた。
俺は出来る限り清潔な布地で傷口を縛り付ける。
……よし、これで多少はマシだろう。
???「あ、あの……」
優希「あっ、はい?」
すっかり忘れてた……女の子を助けるために無茶したんだっけ。
足を引きずりながら彼女に手を貸す。
憔悴しきった様子で立ち上がった彼女はどこか気まずそうだ。
優希「そういえば、君は大丈夫だったかっ?」
???「え? ええ……でも」
優希「そうだ、俺は佐伯優希っていうんだ。改めてよろしくな」
???「へっ? ……あ、はい。私は犬走椛と言います」
椛「危ないところを助けてもらってありがとうございます、佐伯さん」
大分口調が変わったことに驚いたけど、おそらくこっちが素なんだろう。
無理矢理っぽさはあるけど、ようやく見せてくれた笑顔にこちらも頷く。
ボロボロにくたびれた服や傷が見え隠れする肌が痛々しい。
優希「犬走って言ったっけ? いま手当するから」
椛「で、でも……」
優希「大丈夫、服を脱いだりしなくてもいけるはずだから」
椛「あ、これはさっき出ていた霧……?」
それだけ告げて、さっきイメージした霧を彼女の周囲に浴びせる。
すると、なんといえばいいのだろうか。
見えている部分だけではあるが、彼女の傷が徐々にふさがっているようだ。
数分もしたら、犬走のふくらはぎ辺りにあったかすり傷はなく綺麗になっていた。
椛「す、すごいっ……傷がふさがりましたよ!?」
椛「佐伯さんは怪我を治す力があるんですかっ?」
優希「あーうん、その辺は詳しく分かってないから説明も難しいけどね」
椛「じゃあ、どうして自分の傷は縛っているんですか?」
優希「あ、ああ……これね」
優希「こういう山道を歩くときは足首痛めないようにつけるんだ」
椛「なるほど……」
椛「……足は大丈夫ですか?」
優希「まあ、大丈夫だ。歩けるし」
優希「……それよりさ、状況がいまいちわかってないんだけど」
足が治っていないことがバレたら犬走のやつが気にしそうだ。
ここは黙っておき、あえて話題を変えることにしよう。
そう思って口を開いたんだが、彼女は予想以上に驚いているようだった。
椛「……? この度の異変についてもですかっ?」
優希「い、異変? 何、事件でもあったの?」
椛「……そういえば、見慣れない服装をなさってますね」
優希「うん? え、そう?」
いきなり話が変わった気がするが、神妙な顔で犬走が頷く。
そういうのなら彼女のほうがよっぽど変わった格好してるが。
背丈は小さいけど、この子幾つくらいなんだろう?
椛「お話したいことはたくさんありますが、できればまずは移動しましょう」
椛「ここにいてはまた、あいつらが襲ってくるかもわかりませんし」
優希「あ、そうだな」
それに関しては賛成だったので同意しておく。
案内してくれるというので小さな背中を追うようにして歩く。
優希(道もないのに物怖じもしないんだな)
まるでそこに道があるから、というくらいに迷いのない歩調にあわててついていく。
都会育ちの俺にはこんな山道は少々きつい。
その辺はちゃんと気づいてくれているのか、気遣わしげにこちらを時折振り返ってくれる。
優希「どこに行くんだっ?」
椛「私の仲間たちが潜伏している洞窟です」
椛「出来れば、佐伯さんの力を貸していただきたくて……」
優希「そういうことならもちろんだっ」
ほとんど崖に近い坂道をひょいひょい登る犬走。
その後ろをひぃひぃ言いながらもなんとかついていく。
何度か彼女に手助けをもらいながら。
そんな感じで少しずつではあるけど、どうやら目的の場所についたらしい。
天然の洞窟っていうんだろうか、ちょうど死角になるような場所に空いた横穴。
その前で立ち止まって、犬走さんが頷く。
俺も何となくうなずきで応えてその後について歩く。
中に足を踏み入れた俺の第一印象は、『酷い』だ。
外の様子と大差なく、天然の洞窟と言った出で立ち。
そんな中で、申し訳程度に敷かれた布地に傷だらけの女の子たちが寝ていた。
あまりの光景にいろいろこみ上げそうになるが抑える。
優希「……この子たち、みんなさっきの奴らに襲われたのか?」
椛「……はい」
掛ける言葉がなくて無言になっていると、寝ていた女の子たちと視線が合う。
???「……なっ!? お、男!?」
???「何っ!?」
???「ついにこんなところまで嗅ぎつけてきたのっ!?」
優希「うわっ!」
一瞬の間をあけて、とんでもない勢いで臨戦態勢を取る。
その子たちの表情に一貫してるのが、怒りや恨みといった負の感情。
そりゃそうだ……こんな女の子たちがここまで傷つけられて恨みがないわけがない。
どう対応すべきか迷っていると、慌てた様子で犬走が前に出た。
椛「まっ、待って下さい! この人、佐伯さんは恩人さんです!」
???「……本当に?」
椛「はいっ! 現に、私を庇って足に矢を……」
???「そうですか……ふぅ……」
椛「文さんっ!」
文って呼ばれた子が力を抜いたのを皮切りにみんなも手をおろしてくれる。
とはいえ、まだ警戒されてるのは空気で分かった。
訝しげな目線が不躾に向けられてるの当り前といえばそうである。
俺は刺激しない程度に寝ている文って子の具合を見てみた。
……うっ、ひどいな。直接見たわけじゃないが腹部にすごい血の跡がある。
優希「……犬走、ちょっといいか?」
椛「佐伯さん?」
優希「もしかしたらだけど、俺の力で傷を治せるかもしれない」
椛「ほ、本当ですかっ?」
優希「とはいえ、俺もこの力を使ったのはさっきが初めてなんだ」
優希「こんな大怪我だ……治せなかったらごめん」
椛「いえ、ぜひお願いします」
文「……信用できるの?」
椛「正直、私もまだ怖いですけど……佐伯さんは恩人ですし」
文「……貴方がそこまで言うのならとりあえず信用してみるわ」
文「……申し訳ありませんが、お願いします」
優希「ああ」
うーん……さっきより大きな霧で傷を包み込んで……。
そんなイメージをしていると、文の周囲にふんわりとした霧が漂い始めた。
その様子に背後からも息を呑む気配を感じる。
彼女のことが心配で、俺のことも警戒してるんだろう。
だけど、今はとりあえず彼女の傷を癒やすことを最優先に考える。
暫くの間、霧はふわふわと漂っていた。
そして――。
文「……痛く、ない?」
椛「あ、文さん!?」
文「き、傷はっ?」
優希「うわっ!?」
興奮したように自分の服をまくり上げる文に慌てて後ろを向く。
一瞬見えた文の肌には傷らしい傷があったようには見えなかった。
健康的な引き締まったお腹が……て、煩悩退散っ。
俺は慌てて両手で目を覆って後ろを向く。
優希「一応男がいるんだから、気をつけてくれよ……!?」
文「あやや……すいません、こんなに体が軽いのが嘘のようで」
文「色々と不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」
優希「いや、別に……綺麗だったと思うぞ?」
文「お、お腹の話じゃありませんってば!」
文「……先程までの態度についてです」
優希「ああ……」
文と呼ばれていた少女も含め、皆バツが悪そうだ。
でもそれは仕方がないことだって理解してる。
優希「いや、事情は察してるから気にするなって」
優希「それより、皆も傷だらけだから治すよ」
???「ひゅいっ!? わ、私も?」
優希「ほら、怪我してるならきちんと治すっ」
???「……確かに、助かりますしお願いしましょう」
優希「よし、任された」
さっき文にしたのと同じように、傷を治す霧をイメージする。
大きめにイメージしたため、洞窟内に霧が充満していた。
優希(……やっぱり、あの声が言ってたのは本当だったんだな)
他の皆が楽になったという声が聴こえる反面、足の痛みが消えない。
それに、犬走にこっぴどくやられた右肩辺りも。
どうやら、良くも悪くも自分に影響がないようだ。
霧が晴れてようやく皆の顔もまともに見れるようになった。
改めて見ると、洞窟内にいるのは犬走をのぞいても5人か。
椛「良かった……佐伯さんはすごい治癒能力をもっていたんですね」
優希「ああ、まあ……」
椛「私を庇って怪我を負っていたので気になっていたんです」
優希「さ、サンキュー。もう大丈夫だよ」
心底ホッとしたような表情を浮かべる犬走に何も言えなくなる。
仕方ないだろ? これで怪我は治ってませんでした、っていったらどうなるか……。
そんな俺の内心はおいて話は続く。
優希「改めて自己紹介しとくよ。俺は佐伯優希っていうんだ」
にとり「私は河城にとり。助かったよ、盟友」
穣子「私は秋穣子だよ。まだまともな男も存在してたんだ」
静葉「秋静葉と言います。便利な力を持ってるんですね」
雛「私は鍵山雛と申します~。この度はありがとうございました」
文「私は射命丸文です。椛を助けてもらったらしいですね」
優希「まあ、完全に偶然だけど」
文「それでも感謝します……ありがとうございました」
神妙な顔をして頭を下げる女の子たち。
それを前にしてちょっとこまってしまう。
男として女の子を助けるのは当り前だとおもうんだが。
優希「大変な所みたいだけど、できたら状況を教えてくれないか?」
優希「正直、俺自身も何が起こってるのか分からなくてさ」
文「……ふむ、服装から察するに外来人の方ですね」
文「佐伯さんは幻想郷という言葉に聞き覚えは?」
優希「いや、無いな。なんだそれ……」
椛「幻想郷っていうのは――」
少女説明中……。
椛「――と、いう具合でしょうか」
優希「うへー……」
幻想郷という場所と、それに対しての自分の立ち位置的なものを説明された。
要約すると、この世界は俺が住んでいる世界とは近くて遠い存在らしい。
ここには人間だけじゃなく、妖怪や妖精……果ては神様までいるとか。
そして彼女たち幻想郷の住民からみて、外の人間である俺は外来人と呼ばれるそうだ。
言われて俺は犬走の風体に対して改めて意識を向けた。
最初はコスプレかと思っていたが、もしかしたら犬走はそういう存在なのかもしれない。
他の子はパッ、と見た感じ普通の女の子だけど……。
文「ちなみに、佐伯さん以外は皆人間じゃないんですよ?」
優希「ええっ?」
そんな疑問はあっさりと否定された。
優希「犬走は確かにそうかなって思ったけど……」
にとり「ちなみに私は河童だよ」
雛「私は厄神です~」
穣子「農作物の豊穣、豊作を司っている神様の一人だよ」
静葉「私は落葉の神です。穣子と二人で幻想郷の秋を担っています」
文「私は烏天狗です、椛の上司になりますね」
椛「あ、私は白狼天狗ですよ」
優希「お、おおう」
いっぺんに自己紹介されて俺もちょっと面喰らう。
そうか、彼女たちは本当に人間じゃないと。
普段の俺なら一蹴するかもしれんが、自分自身がとんでもないことになってるからな。
それに、夢じゃないかって希望はとっくの前に足の痛みで打ち砕かれている。
優希「オッケー……とりあえず、ここが俺のいた日本じゃないってのは分かった」
優希「それで、なんで人間の男たちに襲われてるんだ?」
事実としては認識できたが、理解は到底追いついちゃいない。
なんでまたこんな目にあっているのやら。
そんな俺の心境はほっぽって話は続く。
文「あまり驚かないんですね」
優希「十分驚いてる。驚きすぎて逆に冷静なだけだ」
なるほど、と苦笑いをうかべる射命丸に同じように返す。
文「実はというと私たちもまだ把握しきれていないんです」
文「ただ、相手が必ず人間の男であるということは分かっているのですが」
優希「それで俺を見た時の犬走、口調がちがったのね」
椛「あの時は申し訳なかったです……」
椛「そ、それにみねうちとはいえひどいことを」
にとり「しょうがないよ、状況が状況だもん」
河城の言葉に同調して頷く。
人間の男たちに襲われてるっていうのにのこのこ現れたんだ。
そりゃ警戒して当然だし、同じ立場ならそうしただろう。
雛「そういえば~……どうにも名のある者ばかりを狙っているようにも思いますねえ」
優希「うん? そうなのか」
静葉「言われてみればそうですね……他の哨戒天狗は襲われなかったようですし」
穣子「近くに哨戒天狗がいても脇目もふらずにこっちに来たよね」
椛「……どう見ますか? 文さん」
文「うーん……普段力があって威張っている相手に、というのかもしれないわね」
優希「ということは皆、多少は腕に覚えがあるんだな」
にとり「まー、とはいえ各種族ではってレベルだけどね」
椛「この中ですごく力があるのは文さんくらいですよ」
文「いえ……今の状況では皆同じようなものでは……」
優希「そうそう、そこも気になってたんだ」
優希「なんで妖怪である君たちが人間に負けているの?」
当然の疑問だ。
俺の常識……と言えるか分からんが、普通は彼女たちみたいなのに人間が敵うはずもない。
その疑問に関しては想定内だったんだろう、一様に苦い顔を見せる。
文「それが、どうも彼らも妙な力を使うようになっていて……」
椛「単純な腕力で見ても、彼らのほうが上だったように感じました」
優希「なんかおかしい話だな」
にとり「それだけじゃなくて、私たち自身の力が弱くなっててね……」
雛「確かにそうですね~……厄の気配を感じることすらできないです」
優希「……んー?」
優希「つまり、人外の力は弱まっていて人間の力が強まっていると?」
なんか引っかかる……妙に都合が良すぎるような?
とはいえ、こっちのことについてド素人の俺じゃ考えるだけ無駄だった。
皆も思うところがあるのか、何となく沈黙。
『きゅるるる……!』
一同『っ!?』
優希「うん……?」
どうしたもんかなあと思っていると、なんとも気の抜けそうな音が鳴り響く。
気のせいじゃなければ近くから……というか皆の方から聞こえたきがするが。
ちらっと視線を彼女たちに向けると、一様にそっぽを向かれた。
もしかして――。
優希「今の、腹の虫?」
一同「……」
訪ねてみたけど、無言で更にそっぽを向かれた。
皆さん、それは肯定と捉えられるんですよ。
そのあまりの抜けた雰囲気に俺はついつい吹き出してしまった。
文「何がおかしいんですかっ!」
優希「いやいや、妖怪だとか神様だとか聞かされたから気後れしてたんだけど……」
優希「普通の女の子とかわんないんだなって思ってさ」
椛「うう……仕方ないじゃないですか。もう3日も木の実ばっかりなんですから」
優希「み、3日も? よく生きてたな」
文「普通の人間とは体の作りが違いますからねえ」
静葉「とはいえ、私たちにも限界は有りますよ」
穣子「うう、ひもじいよう……」
怪我やら不安やらで抑圧されてた分、別の欲が出てきたんだな。
いやまあ、俺自身も腹は減っている。
本来なら俺だって寮に戻って飯を食ってる時間だしな。
しかし、この様子だと皆は食料はもってないわけだ。
俺もこんなことになるなんて思ってないから持ってないわけで……ん?
優希「……もしかしたら用意できるかも」
椛「本当ですかっ!?」
優希「うおっ?」
他の誰よりも早く詰め寄ってきた犬走のどアップに驚く。
出会った当初の険悪さはどこ吹く風だ。
後ろに控えてる5人も、犬走ほどじゃないけどそわそわと期待の目を向けている。
優希「とはいえ、確証は持てないぞ?」
優希「俺の力でどうにかできるかなって思って」
にとり「うん? 盟友の力って治癒能力じゃないのかい?」
椛「そういえば、佐伯さんの能力ってどういうものなんですか?」
優希「えーっとだな、説明するにも俺自身が理解しきってなくてさ」
手短に、俺が力を得た時の話を皆に話す。
ついでに、どういう条件で使えるのかってことも判ってる範囲で話す。
椛「あの時にそんなことが……」
優希「ああ、だから俺もわからないことだらけでさ」
文「椛にはその声が聞こえなかったの?」
椛「ええ、あの時は動揺してましたけど……聞こえなかったです」
にとり「じゃあ、盟友にだけ聞こえる声だったってことか」
優希「さっきから気になってたんだけどその盟友ってのは何だ?」
にとり「私たち河童にとっちゃ人間は盟友なのさ」
優希「なんじゃそら……」
得意気に胸を張る彼女に苦笑い。
にとり「とはいえ、今じゃ盟友と呼ぶのもはばかられるけどね」
静葉「人の子がここまで愚かだとは思いませんでした」
静葉「あっ、もちろん佐伯さんのことは別としてですよ?」
優希「うん、ありがとう」
優希「若干話がそれちゃったけど、その力で願えば食べるものも出てこないかなって」
穣子「あっ、なるほどー!」
文「早速試してみてもらえませんか?」
優希「もちろん」
快諾して意識を集中する。
……と、ちょっとだけ思いついて俺はとある物たちをイメージした。
すると――。
一同「わぁっ!!」
優希「おおう……マジでか」
半信半疑ではあったけど、出るわ出るわ料理の山。
それは多分、こっちにはあまりなさそうな洋食だった。
ハンバーグとかシチューとか、そういうのね。
美味しそうな匂いもしていて、それが幻じゃないのは確かだった。
しかし……。
優希(影響を受けないってことはこれもやっぱりそうなのか……?)
嫌な予感がしつつもパンを軽くちぎってシチューにつけて食べてみた。
パリッとしてもちもちした焼きたての様な食感のフランスパン。
それに様々な旨味が凝縮されただろうシチューの味がしみ込んでいて――。
優希「うめえっ!」
あまりの旨さと味がしないんじゃないかって思っていた俺は思わず驚嘆の声を上げる。
その言葉にみんなキラキラとした目を向けていた。
犬走に関してはヨダレがたれているが、指摘はしないでおいてあげよう。
椛「わ、私たちも食べて良いんですかっ?」
優希「もちろん、思う存分食べてくれっ!」
椛「わふぅっ!!」
優希「うおっ!?」
椛「がつがつがつっ!」
文「あやや、鬼気迫るものが有りますね……」
にとり「気持ちはわかるけど」
犬走のすさまじい食い気に、皆笑っていた。
それもちょっとの間のことで、彼女たちはすぐに思い思いの食べ物に手をのばす。
物珍しいのか、匂いを嗅いだりしてから口に入れては驚きの表情を浮かべていた。
雛「見たことのない料理ですけれど……これは外の料理ですか?」
優希「ああ、すごいお腹へってるみたいだったからガッツリしたのをと思って」
穣子「恵みに感謝だよぉ」
優希「しかし、いよいよ便利な力だな……食べ物まで出せるなんて」
遭難した時にはぜひともつけておきたい能力だな。
そもそも、遭難したとしてもすぐに帰還できそうでもあるけど。
ふと、俺は彼女たちの姿を見る。
相変わらず美味しそうにシチューやステーキを頬張る姿は可愛い。
だけど、ちょっとお世辞にも綺麗とはいえない状態だった。
多分お風呂なんて入る余裕もなかったんだろうな。
そう思って一声かけた後、洞窟の奥を見に行く。
優希「うーん、思ったより空間が広くていいな」
これだけ広ければ……うん、行けそうだ。
俺は彼女たちが喜ぶ姿を思い浮かべながら、作業に移るのだった。
文「ふぅ~……極楽ですねえ」
久方ぶりの温かい湯船に潜り込み、体の芯から温まる。
異変が本格化してからというもの、こうして湯浴みすることすら不自由でしたからね。
妖怪とはいえ女の端くれ。
こうして体を清められるのは非常に有り難い話です。
椛「温かいですね……」
静葉「ええ、まさかこんな洞窟の奥でお風呂に入れるとは思いませんでした」
穣子「佐伯に感謝だね」
そうなのです。
私たちだけを残して奥で何をコソコソしているのかと思ったのですが。
蓋を開けてみれば洞窟の一角を温泉に作り変えていたという驚きの状況でした。
さすがの私もこんなとんでもない能力なんて聞いたことがありませんが。
文(悪い人間ではなさそうでよかったです)
椛も含めみなさんは大分、彼のことを信頼しはじめているようです。
ですが、私はまだ完全に彼のことを信用しきってはいません。
人間というのは悪知恵ばかりが働く生き物なのはしっていますからね。
……いざというときは、私がみなさんを守らないと。
とはいえ――。
文「いいお湯ですね~……」
にとり「まったくだ~」
雛「うふふ、疲れが飛ぶようですね」
今はただ、この束の間の幸せに浸かっていることにしましょう。
またいつ、息つく暇のない戦いに身を投じる事になるかわからないんですから。
一方その頃――。
優希「これでよし、と……」
皆をお風呂に入れた後、俺は急いで包帯と薬を出して足首の治療をしていた。
と、いうのも……俺はまだ、この能力が自分自身に及ばないことまでは話していない。
優希「言ったら犬走の奴、気にしそうだもんなあ」
犬走とあった時と同じことをつぶやきながら、縛った傷口を見て苦笑い。
初対面の時はどうかとおもったけど、素のあいつはすげえ真面目そうだった。
そんなあいつに、実は自分の負った傷は治せない、なんて知ったら悩みそうだ。
あの場合、どうしたって仕方ないことだった。
そう言ったって納得はしそうにないからなあ。
優希「さて、後はと……」
硬い土の地面を見下ろして頷く。
うん、この上で雑魚寝はないな。
明らかに体への負担がやばいし、なにより衛生的ではない。
せっかく風呂に入って綺麗になったのにまた汚れさせるなんて意味ないしね。
それと、せっかくだから畳でも出してその上に布団を敷くか。
更に、人数分のお茶請けなんかも出しておく。。
畳とかは汚れちゃうけど、どうせ使い捨てのつもりだから気にしない。
文「あややっ!? これはまたきちんとした寝床ですねっ」
にとり「布団だー!」
椛「ああ、二人共っ!?」
優希「あはは……気に入ってもらえたようで何より」
飛び込むようにして布団に寝転がる射命丸と河城を見て笑う。
他の三人はちょっと遠慮してるみたいだけど、嬉しそうではある。
ちなみに彼女たちの着替えも能力で出しておいたからピカピカだ。
雛「何から何まで申し訳ないです」
優希「お礼ならいいって、勝手にやってるだけだし」
優希「じゃあ俺もひとっ風呂浴びてくるわ」
穣子「いい湯加減だったよ~」
静葉「ゆっくりとしてきてくださいね」
優希「ああ」
椛「……?」
文「どうしたんですか? 椛」
椛「あ、その……」
急に声をかけられて少し驚いてしまう。
私の様子に疑問符をとばす文さん。
……あれは、見間違いでなければ足を引きずっていたように思う。
あの時、佐伯さんは傷は治ったと言ってましたけど……。
椛「もしかして、佐伯さん……傷が治ってないんじゃ……」
にとり「へっ? でも私たちの傷は治ってたよね?」
椛「うん……でも、なんか歩き方が変だったから」
雛「気のせいじゃないでしょうか……」
気のせい……そう言われてしまえば納得できるくらいの違和感。
確かに、ちょっとだけ気になるってくらいで明らかに鈍くはなかった。
もしかしたら気のせいだったのかもしれない。
静葉「それにしても、この状況下で男に助けられるとは思わなかったですね」
穣子「うん、それに関しては同感」
穣子「とはいえ、外来人みたいだし事情が違うのかな?」
にとり「最初にあった時はどうだったの? 椛」
椛「え? そうだなあ……」
椛「最初は私の隠れてた茂みにいきなり突っ込んできたの」
雛「あらぁ、では隠れてる椛さんにきづいたのかしら?」
椛「う~ん、そういう感じではなかったと思います……」
あの時、佐伯さん自体も驚いた様な顔をしていた。
思うに彼もあの男たち関わり合いになるのを避けようと隠れようとしたのかも。
実際あの後、飛び出した私に一番最初に追いついた彼は動揺していた。
それに、今思えば私のことを心配していてくれたのかも。
椛「でも、その後追いつかれて危なかったところを助けに来てくれたんです」
にとり「へえ! かっこいいじゃん、盟友」
椛「でもね、私もすぐには信用できなくて斬りかかっちゃって……」
穣子「えっ、それ大丈夫なの?」
椛「も、もちろん峰打ちですよ?」
雛「それでも、佐伯さんは椛さんを助けてくれたんですね」
椛「はい……その、飛んできた矢から私を庇ってくれました」
椛「それで足首あたりに一発当たったみたいで……」
あの時のことを思い出すと、心が痛む。
もっと早く信じていれば、佐伯さんが怪我をすることはなかったのに。
今更ながらに、峰打ちしちゃったことも気になってきた。
椛「私、怖がられたりとかしてないかな……」
文「大丈夫じゃない? 彼、終始私たちの心配しかしてなかったし」
にとり「だねえ……自分だって大変だろうにさ」
言われてみればそうだった。
あの人だって自分の帰る世界がある。
にとり「出来ればこのまま、解決までついていてほしいんだけどなあ」
静葉「それは流石に難しいのではないでしょうか」
穣子「彼にとっちゃ私たちの面倒を見る義理はないしね」
一同『……』
穣子さんの言葉に皆沈んだ気分になる。
彼が居なくなるってことは、私たちはまた昨日までの戦いを強いられるということ。
下手をすれば死んでしまうことだってあり得る。
かと言って彼に残って欲しいっていう権利だってない。
闇の晴れない未来に対して、溜息をつくのだった。
優希「うひい……染み渡る……」
二重の意味で体に染み渡る湯船の温かさに思わず声を漏らす。
なんで人間ってのはこう、湯船に浸かると声だしちまうんだろうな。
優希「大変なことになったなあ……」
つぶやき、考えるのは今日のこと。
昼間では普通に学校に行っていたはずなのに、とんでもないことに巻き込まれたもんだ。
しかも、訳の分からない能力まで手に入れてしまった。
風呂桶やらボディータオル、シャンプーなどが出るのをぼーっと眺める。
あの声は確か、この力を自分の正しいと思ったことに使えっていってたな……。
正しいことってなんだろうか……思えばいくらでもあるけど――。
優希「男は女を守るもの、だよな!」
最早家訓に近いその一言をつぶやき、気合を入れなおす。
事情を聞けば、彼女たちには今、抵抗する力はほぼない。
そんな彼女たちを放り出したらどうなるかは目に見えている。
優希「守って、やらないとな」
優希「こんな状況だ……死ぬ覚悟も、しておいたほうがいいのかな」
足首に空いた風穴を見て、俺は顔をしかめる。
だけど、その傷口がさっきまでの覚悟が必要だという現実を見せてくれた。
そうさ、たまたま当たったところが足だっただけ。
もし下手をすれば、俺も……犬走もただじゃすまなかったんだ。
これは遊びじゃない、生死をかけた戦いだ。
優希「……よし」
俺はもう一度気合を入れなおすと、湯船から飛び出した。
優希「ふぅ、いい湯だった」
どうやらお風呂もちゃんと効果を得られるらしい。
転げまわったり隠れたりして結構どろだらけになってたからなあ。
ちなみに、足の包帯は巻き直したのは言うまでもない。
なぜ風呂にはいる前に巻いた、俺。
優希「ん?」
一同『はぁ……』
暗い顔でふかーいため息を吐く皆の姿がちょうど目に入る。
何かまだ問題でもあるんだろうか。
優希「どうしたんだ? そんなため息ついて」
優希「あっ! お茶うけが口に合わなかった?」
椛「あ、佐伯さん……ええっと……」
優希「あ、あ~……言い難いことか?」
女の子には色々と言いづらいことも多いだろう。
俺は何となく気恥ずかしくなって視線をそらす。
文「いえ、そういう類いのものではないですよ」
文「ただ、これからどうしようかと思いまして」
優希「明日からかー……なんか方針でもあるのか?」
文「とりあえずは勢力ごとに固まる必要があると思っています」
優希「勢力?」
雛「幻想郷には主だった勢力があるんですよ」
雛「私たちで言えば妖怪の山関係者ですね~」
優希「ああ、ここって妖怪の山っていうんだ~」
随分と物騒な名前だなあ、おい。
そう説明されれば人外がいっぱい居るのもうなずける。
とはいえ、どうやらその勢力がまだ揃ってないってことか。
優希「……それって多いのか?」
椛「いえ、主な力を持っているのは他には3名ですね」
優希「さっきのため息は、その子たちとの合流が難しいってことだな?」
穣子「えっ、あ~……間違いではないんだけど……」
優希「あれ、それとは別件?」
椛「その、ですね……」
なんだか煮え切らない態度だな。
どうにも埒の開かない押し問答をしている感じだぞ。
そんな空気を破ったのは射命丸の声だった。
文「ええ、単刀直入に言えば私たちは佐伯さんの助力を得たいと思っています」
椛「文さんっ!」
射命丸の言葉に返答する前に、犬走が焦ったような声を上げる。
それなりに打ち解けたと思ってたんだけど、まだ警戒されてるのかな。
文「もちろん、貴方にだって帰るべき場所があるのはわかっています」
文「きっと、その力を使えば帰ることも可能でしょうしね」
優希「ああ、まあ……」
確かに考えなかったわけじゃない。
俺の世界に帰るためのドアを念じてみればそれらしいもんは出てきたしな。
だけど、俺はそのドアを開ける事はできなかった。
理由はまあ、彼女たちを見捨てられないってとこだな。
文「だから無理なお願いをしているのは分かっているんですけど――」
優希「うん、別に構わないけど?」
文「是非協力を……って、ええっ!?」
射命丸の言葉を遮る形で即答した俺に驚きの声が上がる。
他の皆も概ね似たような表情を浮かべてるんだが……。
あれ、なんかおかしいこと言ったっけ。
にとり「い、良いの? また危ない目に遭うかもしれないんだよ?」
優希「ああ……そうだな?」
優希「でもそれって、俺が居なかったら皆がもっと危ないってことだろ?」
雛「そうですね」
優希「なら今更だろ? ちゃんと危なくなくなるまで面倒みるよ」
一同『……』
開いた口がふさがらない。
傍から見た感想といえばその一言につきる。
パクパクとしてるのを見れば金魚とかにも似てるな。
椛「なんだか、悩んでいたのがバカみたいですね……」
優希「ん? えっ、もしかしてさっきのため息って……」
文「てっきり佐伯さんは元の世界に戻ると思っていましたからね」
優希「なーんだ、そんなことだったのか」
穣子「佐伯って変わった性格してるね」
優希「んー、男は女を守るもんだっていうオヤジの言葉がこびりついててさ」
優希「癪ではあるんだけど、今ではそれが普通になっちまったんだよな」
今はなき親父殿だが、死ぬ間際までその言葉を吐いてたっけ。
そういう時くらいはもっと感動的な言葉でも言ってみろって思ったもんだ。
今となって実に親父らしいと思っていた。
優希「そういうわけでいらない心配は抜きだ」
雛「有り難い言葉です~」
優希「それじゃあ、取り敢えず今日は寝るか」
優希「夜中に動くのは何かと危ないしな」
文「そうですね……では、明日朝一で守谷神社へ向かいましょう」
優希「神社があるのか」
にとり「ああ、そこにさっき話してた3人がいるはずだよ」
椛「この状況とはいえ、神様が3人いるのだからきっと籠城しているはずです」
椛「下手に逃げるよりは、あの地で待機するほうが危険も少ないでしょうから」
優希「了解、それじゃ明日は起きて飯を食ったらすぐに守谷神社へ向かおう」
椛「あれ? どこへ行かれるんですか?」
優希「うん? そりゃ……少し離れた場所にだけど」
何を当り前なことを言ってるだろうか。
俺はそんな軽い口調で答えたのだが、犬走の表情が一気に曇った。
椛「やっぱり、私と近くにいるのが不安なんですね……?」
優希「えっ? いや、そうじゃないだろ?」
優希「いい年頃の男女が一緒に寝るのはまずいってこと」
椛「……へっ?」
椛「あっ……! そ、そういうことだったんですね」
優希「他にどんな理由があるんだよ……」
優希「ま、ついでに何かあってもすぐに対応出来るように入り口にいようかとね」
文「一人で大丈夫ですか?」
優希「ああ、警報装置でも設置しておくさ」
にとり「あ、それならこれも使うといいよ」
優希「おっと! ……これは?」
にとり「光学迷彩スーツだよ」
光学迷彩って、いわゆるステルスってやつだよな?
なんでまたこんなものが……まあ、使わせてもらおうか。
優希「ありがと、使わせてもらうよ」
にとり「ああ、使うときは胸元のボタンを押すんだぞー」
優希「あいよ」
優希「それじゃ、みんな……明日から頑張ろう」
俺の言葉に皆、さっきまでにはない光を瞳に秘めてうなずいてくれた。
なんだか、一端にリーダーみたいなことしてんなあ。
とはいえ、彼女たちの様な可愛い子に頼ってもらえるのは男冥利に尽きるってもんだ!
……そう、その時まではそんな軽い気持ちで考えていた。
それがこの先、色んな意味で重い出来事へつながっていくとは考えもせずに。
再びエウラスです。
いかがでしたか? 主人公がちょっと性格イケメン過ぎな気がするでしょう?
本人はできるだけ、普通の少年っぽさも出そうと奮闘しています。後々の文章で出せたら良いなって思ってますがどうなることやら……。
原作キャラは旧作を除く東方神霊廟までを予定しております。というのも、神霊ですらあやふやなレベルでしか知らないため、書きようがないからですね。これからも、その設定は間違ってるといったこともあると思いますが、独自解釈であると思ってください。
次回は山の神様たちと合流しようと思いますよ