東方優幻想   作:エウラス

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第9話

第9話:終焉

 

ジャリッ、という音を立てながら進む。

ようやく地に足をつける事ができてから結構経つ。

光の粉をまいていたが、ここからは懐中電灯に切り替えていた。

 

優希「……暑いな」

 

滝のような汗を掻きながら、何度目かになる愚痴をこぼす。

服なんてもうびっしゃびしゃだ。

うあ~……シャツとか張り付いて気持ち悪い。

それに関しては皆も一緒……というか皆のほうが不快だろう。

 

霊夢「うだるわ~……何よこの暑さ、喧嘩売ってんのかしら」

霊夢「今ならいくらでも買ってやるわよ?」

魔理沙「変な方向に怒るなよ……暑苦しい」

椛「はぁ……はぁ……」

椛「あうぅ……お風呂に入りたい……」

うどんげ「流石に、敵地ど真ん中でそれは難しいでしょ」

うどんげ「はあ~……せめて涼しくなるような何かがあれば……」

優希「……」

一同『……』

 

そこまで言ったところで、俺達は誰からとも無く立ち止まる。

ぴちょーん、という水音が響いた。

そして、皆真剣な顔をして見合わす。

 

優希「俺が涼しくなる霧でも出せばよかったじゃん!」

一同『もっと早く思い出して!!』

 

 

優希「いやあ、悪い悪い……あまりにきつくて思考放棄してたわ」

霊夢「ったく、おかげで地味に手間取ったじゃない」

椛「ま、まあ……その代わりさっぱりしましたし」

 

そう、あれから涼しくなるように周囲に霧を出そうとした。

だけど、そうすると起きえるだろう現象のために着替えたわけだ。

ま……真夏に汗かきまくった後にコンビニとか入るのを想像してほしい。

それでまあ、女の子の場合着替えってのも結構手間取る。

結果、割りと時間を割いてしまったわけだ。

風呂までは入ってないから幾分思うところはあるが、おいておこう。

 

優希「……それにしても、こんな場所に住んでいて良く無事だな」

霊夢「住めば都っていう言葉もあるじゃない?」

霊夢「多分、ここに住み続けてたなら慣れてると思うわよ」

優希「あー、まあ……そうだよな」

うどんげ「私はまっぴらごめんだわ」

椛「私も暑いのは苦手です……」

 

さっきまでの暑さを思い出したのか、二人はげんなりしてる。

まあ、俺も正直暑いのは得意じゃない。

どっちかって言うなら寒いほうがマシだと思う。

 

魔理沙「にしても、全く人間の姿が見えないな」

霊夢「……正確には、生きてる人間は、だけどね」

椛「佐伯さん、大丈夫ですか……?」

優希「……大丈夫」

 

そうは答えたものの、うまく表情までは作れてない。

それは気遣わしげに見る皆の顔を見るまでもなく分かる。

平然を装って出したはずの声も震えたしな。

さっきまで緊張感のない会話をしてたのもある種ごまかしみたいなもんだ。

視界の端々に、多分人間だったんだろうなって思うものが見える。

 

優希「うっ……」

 

周囲が暑いのもあってか、とてつもない臭いがしている。

多分、これが死臭ってやつなんだろう。

俺はたまらず、臭いを消すための効果も周囲の霧に込めた。

 

うどんげ「……これから会う皆を許してあげてね」

うどんげ「きっと、どうしようもなく追い詰められた挙句の決断だろうから」

優希「……ああ」

 

分かってる、と続けたけど声になってるかはわからない。

戦争っていうのは、こういうもんなんだろうか。

どうしても、本当に命の危機に迫られたら……殺してしまう。

彼女たちはもともと人外だ。

こういう殺しも、認められていた部分もあるらしい。

頭ではそう理解していても、拒絶したい思いもある。

こんな不可思議な中にあっても、俺はまだ……外の人間だった。

暫くの間、俺達の間に会話らしい会話は出ない。

気を遣ってくれたのか、はたまたかけることが見つからなかったのか。

なんにせよありがたいことだ。

そうして、暫くの間無言で歩いていると開けた場所に出た。

これだけ明るければ懐中電灯もいらないだろう。

 

優希「……ここが?」

霊夢「いいえ、ここは旧都ね」

魔理沙「地霊殿はこの先にあるぜ」

優希「そうか」

 

短めに返事をして、先へ進む。

さっきよりも視界が開けた分、余計に見たくないものが目に入る。

皆もそれが分かっているのか、幾分か沈んだ空気になった。

倒壊した建物も多い。

もともとは店だったのだろうか……破けた提灯なものもあった。

まるで大きな地震でもあったかのような荒れ果て具合だ。

 

霊夢「……どう? うどんげ、椛」

椛「見える範囲では敵の姿は見えません」

椛「ただ臭いの方は……死臭が強すぎて」

うどんげ「私も似たようなものね。生き物が立てるような音はしないわ」

魔理沙「けっ……いつもは騒がしすぎるくらいだってのに」

 

苛立つように蹴っ飛ばした木片が乾いた音を立てる。

普段ならそんな行動を諌めるもんだが、皆何も言わない。

複雑な感情……それは皆の中にもたしかにあった。

 

椛「……! あれは!」

霊夢「何か見えたのっ?」

椛「ええ、間違いありません。鬼のお二人と、それ以外の妖怪の姿が見えます」

優希「人間の姿は?」

椛「……見えませんね。どうやら、休憩しているようです」

椛「っ! ただ、遠目から見ても重傷です!」

優希「急ごう!」

 

さっきまでの沈んだ空気を吹き飛ばし、彼女たちのもとへ走る。

大した障害物なんてないからまっすぐ駆け抜けるだけだ。

近づくに連れ、大きな建物の前に寄り添うように集まる子たちが見えてきた。

しかも、かなりの傷を負った状態でだ。

歯が砕けるんじゃないかってくらい噛みしめる。

 

優希(どうして……こんな酷いことばかり起こってるんだっ!!)

 

言いようのない怒りが湧いてくる。

しかし、それは向こうも似たようなものらしい。

走り寄ってくる俺の姿を見て、二人が鬼の形相を向けてきた。

 

優希「うっ……!?」

 

これは……幾度か受けてきた視線。

背筋を伝う冷や汗……これは殺気だ。

よく見れば、二人共かなりの怪我を負っている。

片方はすらりとした長身だが、左腕が不自然に変色していた。

もう片方は小さく幼い容姿だが、不釣り合いな風穴を開けてふらついている。

そんなあからさまに満身創痍な姿で、戦おうとしていた。

もういい、やめてくれ……。

これ以上、そんな姿を見せないでくれ。

 

勇儀「……人間の男が一人来たと思えば、後ろにいるのは見た顔じゃないか」

萃香「霊夢っ、魔理沙っ……! お前らまで敵に回るのかっ!?」

霊夢「寝言は寝てから言いなさい!」

霊夢「あなた達を助けに来たのよ」

勇儀「何……?」

萃香「わかってるんだろうね……鬼は嘘が嫌いだよ」

魔理沙「そんだけ減らず口叩けるなら死ぬんじゃねえぞ!」

魔理沙「佐伯、お前の力で治せるか!?」

優希「言われなくてもやってる!!」

 

俺は全力で能力を使う。

二人は全身から吹き出すように出現した霧に身構える。

しかし、その霧が傷を癒やし始めたことに気づいてくれたようだ。

驚いたように目を見開き、自分の体の確認をし始めていた。

その時だった。

 

優希「……うっ!?」

 

とてつもない疲労感と共に、唐突な吐き気に襲われた。

 

優希「ゲホッ!?」

霊夢「佐伯っ!」

椛「さ、佐伯さんっ!?」

 

咳き込むようにして何度か吐き散らす。

しばらく吐いて、ようやく落ち着いてきた。

何だったんだ……なんか、体に力がはいらん……。

ふらふらとする上、意識がぼんやりとする。

それに、なんか鉄の味が……ん?

 

優希「……えっ?」

 

ふ、と……無意識に口元拭った手にぬるりとした感触。

それを目に入れた瞬間、俺は驚きのあまり固まってしまった。

一言で言うなら真っ赤だ。

もうちょい補足するとすれば、自分の周りも。

その時になってようやく、血を吐いたんだと理解した。

 

優希「ぐっ……」

魔理沙「お、おい! 大丈夫か、しっかりしろ!」

勇儀「な、何がどうなってるんだいっ?」

萃香「とりあえず、そいつは味方なのか……?」

椛「はいっ! 佐伯さんは私たちを助ける手伝いをしてくれています!」

萃香「……そうかい。それでお前、大丈夫か?」

優希「あ、ああ……大分落ち着いた……」

 

暫くの間うずくまっていたらなんとか落ち着いた。

裂けそうな胸の痛みも、割れるように響いていた頭の痛みも。

今まで力を使ったとしても、こんなことはなかった。

一体、俺の体に何が……?

 

うどんげ「……呼吸も安定しているし、脈も正常ね」

うどんげ「だけど、急に吐血なんて……あなた病気でもしていたの?」

優希「いいや、そんなことはないはずだけどな」

優希「……すまん、心配かけた」

 

能力で出した手ぬぐいで口元、手を拭く。

 

さとり「あ、あの……」

優希「えっ……あっ、悪い! 驚かせちゃったか?」

 

見た目が子供っぽいのが多い幻想郷の中でも特に子供っぽい。

そんな感想を抱く少女が、心配と不安をまぜた表情を浮かべていた。

なんとも独創的なアクセサリーを胸元につけてるな。

とと、現実逃避はこの辺にしとこう。

他の子達も不安げにしてるみたいだし。

 

優希「なんかいろいろとすまん」

優希「自己紹介が遅れたけど、俺は外来人の佐伯優希だ」

勇儀「外来人……こんな状況でかい?」

霊夢「まあ、そういう反応になるのもわからなくはないわ」

霊夢「実際、私も含め大半は同じ反応だったもの」

萃香「ふぅん? でも、今一緒にいるってことは問題ないってこと?」

魔理沙「現に、お前らの傷を治してくれたろ?」

さとり「……そうですね、ありがとうございました」

優希「いや、当然のことをしただけで……」

お空「ねえ、あなた!」

優希「えっ、はいっ?」

お空「さとり様や皆を治してくれてありがとう!」

お空「私は霊烏路空! お兄さんは優しいね」

優希「あ……うん」

 

あまりにもストレートな裏表のないお礼に面食らう。

こっちにきてから、スパっと礼を言われたのって初めてじゃないか?

見た目はそれなりに大きい方だけど、屈託のない笑顔。

そんなギャップのある子だった。

その光景を見て、皆も毒気が抜かれたらしい。

一様に困ったような顔を見合わせていた。

 

霊夢「あんたのとこのペットもたまにはいい仕事するじゃない」

さとり「自慢のペットですからね」

お空「うにゅ?」

優希「あはは、空がいい子だってことだよ」

お空「わーい、褒められたー!」

 

小さい子供にするように頭をなでてやる。

そんなことも嬉しいのか、空は嬉しそうに両手をあげていた。

感情表現がすごく素直な子なんだろう。

椛とは別方面で心配になる子だ。

だけど、今はこの子に感謝しとこう。

 

勇儀「悪かったね、疑っちまって」

勇儀「あたしは星熊勇儀。見ての通りの鬼さ」

萃香「私は伊吹萃香。まあ、勇儀と同じ鬼だね」

萃香「しかしまあ外来人とはいえ、まともな男がいたことには驚いたよ」

優希「は、はあ……」

 

笑いながらバシバシと背中叩くのやめてくれないかな。

意外と見た目の割に力が強い。

さっきまで殺す気で見ていた奴とは思えんな。

和気藹々としていると、おずおずといった感じでさっきの子が歩み寄ってきた。

 

さとり「挨拶が遅れましたね」

さとり「私は古明地さとり……地霊殿の主で、お空やお燐の飼い主です」

優希「あ、どうも」

優希「お空やお燐って?」

お空「お空は私の事だよ!」

お燐「そして、私がお燐こと火焔猫燐さ」

お燐「さとり様を助けてくれてありがとう、お兄さん」

優希「あ、うん」

 

なんのことかと思ったけど、愛称なんだろうと納得しておく。

お燐の方は比較的知性があるらしい。

容姿から察するに、多分化け猫かなんかだな。

 

さとり「ほら、こいしもちゃんと挨拶なさい」

こいし「はーい!」

こいし「私はさとりお姉ちゃんの妹で、古明地こいしだよ!」

優希「おおうっ?」

 

さとりと並んでみると確かに似た女の子に抱きつかれた。

胸元のアクセサリーもよくにていたけど、目が閉じてたな。

さっきから背中にくっついてるお空と反対……。

つまり、正面から抱きつかれて変な声が出た。

うーん、娘を持つ親の気持ちってのはこんなもんだろうか。

……娘って言うには少々、育ち過ぎな子もいるみたいだけど。

 

ヤマメ「あっはは! 面白い人間だねえ……佐伯だっけ?」

優希「うん? 君は?」

ヤマメ「私は土蜘蛛の黒谷ヤマメだよ」

優希「あっ、じゃあ地底の入り口に張ってた蜘蛛の巣って?」

ヤマメ「ああ、私のだね」

ヤマメ「あらら、引っかかっちゃったんだね……ごめんよ?」

 

大して悪くは思ってなさそうな顔で謝られた。

ちょっと複雑だけど……まあ、別にいっか。

軽く窒息しかけたけどな!

……ん?

 

優希「なあ、ヤマメ」

ヤマメ「なんだい?」

優希「その桶……誰か入ってない?」

キスメ「ギクッ!」

優希「……その擬音を口に出すのは初めて聞くかも」

 

苦笑交じりにそう言うと、桶からそーっと顔が生えてきた。

ああ、桶に入り込んでるだけで生首ってわけじゃないんだ。

ちょっとだけ安心した。

もし、殺した人間の生首でも入れてたらどうしようかと。

桶から顔を出した少女は、落ち着かなさそうにしていた。

 

キスメ「わ、私はつるべ落としの……き、キスメ」

優希「ああ、よろしくな」

キスメ「っ!」

優希「あっ」

ヤマメ「あはは、気にしなくていいよ。ちょっと人見知りでね」

ヤマメ「なれない相手にはだいたいこんな感じよ」

キスメ「~~っ」

優希「……ぷっ」

優希「はは、そうか。分かったよ」

 

顔を真っ赤にして講義の目だけヤマメに向けている。

あんな可愛らしい行動見せられたら微笑ましいとしか言えない。

ヤマメに対しては気兼ねないのか何やら喋っている。

だけど、俺と目が合うと引っ込んでしまう。

小動物のような可愛さがあるな。

そんな彼女の背後の雰囲気がどんどん暗く……あれ、暗い?

 

パルスィ「妬ましい……まったくもって妬ましいわね」

パルスィ「私一人おいて皆だけで自己紹介なんて……」

優希「え、えっと……」

パルスィ「パルパルパル……」

 

キスメたちの影に隠れててわからなかったわ。

しかも、なんだかよく分からない擬音?まで口走り始めたんだけど……。

目にもなんか力がないし、大丈夫なのか?

ちゃんと目線が合うようにしてみる。

 

パルスィ「パルパルパ……っ!?」

優希「大丈夫か?」

 

よく見ると、その子は西洋風の顔立ちをしていた。

しかも耳がとんがっている……つまりエルフ耳だ。

ここまで顕著な外国人っぽい子は珍しいかもしれない。

と、当の本人そっち抜けで観察してたらみるみる顔が赤くなっていく。

 

パルスィ「な、ななな、何よ!?」

優希「うおっ?」

優希「だ、大丈夫なのか……?」

 

もしかしたら精神的な操作でも受けたのだろうか。

本気でそんな心配をし始めた頃、背後から笑い声が聞こえた。

え? あれ、笑われてる?

 

勇儀「パルスィのそれはいつものことさ」

優希「ええっ、そうなの?」

萃香「ほら、ちゃんと自己紹介しときなよ」

パルスィ「……橋姫の水橋パルスィよ」

優希「橋姫……?」

霊夢「ま、読んで字のごとく橋を守る女神みたいなもんよ」

霊夢「来る途中に橋があったでしょ?」

優希「ああ、あったな」

勇儀「普段はそこで立っていて、地底と地上の奴の出入りを監視しているのさ」

さとり「ですが、少々嫉妬深い性格でして……」

パルスィ「何よ……私を差し置いて私の紹介なんて……妬ましいっ」

優希「……な、なるほど」

 

何となくだけど人となりは分かった気がする。

見ようによってはツンデレってやつになるんだろうか。

限りなくヤンデレに近い気もするけど。

とりあえず、これで全員かな。

 

優希「他にはもういないか?」

さとり「ええ、ここにいるので全員です」

霊夢「しかしまあ、随分と派手にやられてたわね」

萃香「はは……流石にいろいろ覚悟したもんだよ」

萃香「あたしらは悪運がいいらしい」

椛「縁起でもないことを言わないでください」

うどんげ「そうよ、たとえ死んでも無理矢理にでも起こすからね」

ヤマメ「それはなんとも……」

さとり「それにしても、暑い……」

こいし「お兄ちゃんたちはよく平気だったね?」

優希「っと、忘れてたな」

優希「ふっ!」

 

文の時レベルの重傷に思わず治癒の霧を使っていた。

そのせいもあって、冷却の霧を出すの忘れてたぜ。

ほんと、ああいう光景を見るのは心臓に悪い。

それにしても……。

 

優希(……さっきの激痛は一体?)

 

涼しくなったことによる驚きと喜びを表情に出す皆。

そんな彼女たちを眺めながら思ったのはさっきの現象だ。

無我夢中で彼女たちの傷を癒やそうとした。

正直、それだけなら文の時だって同じだ。

なのに、今回は明らかに様子がおかしかった。

血をはいた後だっていうのに、今は健康体そのもの。

むしろ体が軽く感じるくらいだ。

一体……俺の体で何が起こったんだろうか。

 

霊夢「……」

優希「? どうした、霊夢」

霊夢「佐伯、今は大丈夫なの?」

優希「ん、ああ」

優希「不思議と、さっきより体が軽いくらいなんだよ」

椛「そ、そんな……あれだけ血を吐いてたんですよっ!?」

うどんげ「うーん、でも……確かに目もしっかりしてるわね」

うどんげ「それに、血色や脈拍も正常だし」

優希「くすぐったいな……」

 

もう何度も繰り返した応酬だが、なれないなあ。

女の子との免疫はそうそうできやしない。

『馬鹿』、と頬を染めてそっぽを向くのがまた。

後、なんで椛はパルスィと一緒になってパルパル言ってるのかな?

 

お空「わー、涼しいー!」

お燐「これもお兄さんの力なんですか?」

優希「ああ、そうだよ」

優希「俺の能力は、望みを具現化する程度の能力だから」

勇儀「望みを具現化だって?」

優希「簡単にいえば、傷を治す霧を出したければ出せる」

優希「んでもって今みたいに周囲を涼しくすることもできるってこと」

さとり「反則じみた能力ですこと……」

ヤマメ「てっきり霧を操る程度の能力かと思ってたけど違うんだね」

魔理沙「それどころか、こいつがいりゃ飯までタダだぜ?」

椛「そういえば、私たちを助けてくれた時は温泉も作っていましたね」

萃香「はえー……酒も出せたりするの?」

優希「ああ、出せるだろうな」

萃香「へえ? そりゃ楽しみだね」

霊夢「こらっ、酒盛りなら諸々済んでからにしなさい!」

 

『えー』と不満気な声を上げる二人。

まあ、勇儀さんと萃香は鬼らしいし……好きなんだろうな。

 

優希「和気藹々としてるとこ悪いけど、そろそろ移動しよう」

勇儀「おっと、そうだね」

こいし「そういえば、ここまではどうやって来たの?」

キスメ「さっき、縦穴の途中にいっぱい罠張った……」

優希「ああうん、それに引っかかったんだけどね?」

キスメ「ご、ごめんなさい……」

優希「良いって良いって」

魔理沙「紫のやつにスキマで入口まで送ってもらったんだ」

さとり「あら、まだスキマを操れるだけの力を残していたのですね」

さとり「さすがは幻想郷有数の実力者といったところでしょうか」

霊夢「いいえ、そこの辺も佐伯がいるからってところが大きいわ」

霊夢「佐伯、飴出せる?」

優希「ああ、えっと皆どんな味がいい?」

 

俺の問に、不思議そうな顔を浮かべながら答える。

そんな皆に、それぞれ好みの味で作った飴をだして渡してやった。

しかし、酒の味とか魚の味とか……なんてもんを要求するんだろうか。

 

萃香「ほお? ほんとに酒の味がするよ」

勇儀「不思議な感覚だねえ……ん?」

さとり「えっ?」

椛「お気づきになられたみたいですね」

 

椛の言葉通り、信じられないといった様子で体を動かし始めた。

一通りの能力も使っているのか、おどおどまでしている。

 

こいし「今まで力の補充できなかったのに……」

優希「うわっ!?」

こいし「えっへへ、ごめんね? 驚かしちゃったかな」

 

気がついたら真横にいたこいしに変な声を上げてしまった。

多分、この子の力なんだろうけど……何をしたんだろう。

 

霊夢「ま、感じてもらったとおり限定的にとは言え力も扱えるわ」

霊夢「とはいえ、それでも今の紫じゃ洞窟の入口までが限界みたいなのよ」

お燐「じゃあ、最低でも入り口までは行かなきゃいけないんだね」

お空「でもでも、これだけ力があれば人間なんて楽勝だよ!」

優希「ああ、それなんだけどさ……」

さとり「『なるべく死人を出さないようにしたい』、ですか」

さとり「優しいのですね」

優希「へっ?」

 

思っていたことを読み当てられてぎょっとする。

もしかして、読心術でもできるのか?

 

さとり「私は名前の通り覚妖怪……つまり心が読めるのです」

さとり「今はかなり集中しなければ読めませんが」

優希「へえ~……なるほど」

優希「それじゃあ、さとりには司令塔的な感じでいてもらおうか」

さとり「は、はあ……」

こいし「えっと、殺さない程度に動きを止めろってこと?」

優希「ああ……出来れば、あまり人殺しの瞬間は見たくない」

勇儀「分かってるさ」

萃香「ああ、好き好んでの殺生はしないよ」

 

他の皆も理解はしてくれたらしく、うなずいてくれた。

そんな反応に、内心すごくホッとする。

いくら悪い奴だからって、死ぬの見るのは少しきつい。

 

霊夢「良い? できるだけ戦闘は避けるのよ」

霊夢「ジャマをするやつを蹴散らして、一気に入り口まで戻るわ!」

勇儀「いいねえ、一点突破……シンプルで気に入ったよ!」

萃香「鬼の恐ろしさってのを今一度思い知らせてやろうじゃないか」

お空「へへ~、私もやっちゃうぞー!」

優希「……大丈夫か? あれ」

椛「あ、あはは……鬼様は昔から戦闘欲がつよいものですから……」

さとり「うちの子は何も考えてないんでしょうね」

さとり「核の力が使えないって不満気だったから、いろいろと溜まっているんでしょう」

優希「待て待て、今核とか言わなかったかっ?」

さとり「言いましたけど……」

霊夢「前にこいつらが起こした異変の時は大変だったわよ?」

魔理沙「元凶は限りなく神奈子たちだけどな」

優希「何やったんだよ、あの人達は」

霊夢「八咫烏の力を取り込ませたらしいわ」

霊夢「その時は大きすぎる力に飲まれて暴走してたけどね」

魔理沙「バカ言え、あいつは素面でも危ないだろ」

魔理沙「無邪気に大砲ぶっ放すんだから」

お空「うにゅ?」

 

ぎゃーぎゃーと話してる俺達に目を丸くするお空。

ああ、なんだろうか……あの顔はわかるぞ。

純粋無垢で、何も知らない子供の目をしてる。

善悪も分かってなさそうだし。

前途多難だなあ、とか思いながら乾いた笑いを上げる。

ほんと、大丈夫か? この調子で。

 

 

勇儀「はぁっ!!」

萃香「ほいよ、その程度じゃもう傷すらつけらんないよ?」

『ぎゃーっ!?』

お空「逃がさないよ! えーい!!」

『ああぁぁぁぁっ!?』

 

結論としては、心配は微塵も必要なかった。

案の定、蜘蛛の巣が無くなったことにより人間が侵入。

しかし、結構な数が送り込まれていたにも関わらず今は半壊状態だ。

無抵抗だと思っていた相手が手痛い攻撃をしてきた。

それだけで奴らの思考を混乱させるのには十分だったらしい。

とはいえ、向こうは向こうで粘る。

今では倒した数を競うように先行する3人を狙い大量の矢、妖術が放たれた。

 

勇儀「おおっと、これは危ないね」

萃香「よっと、しつこい男は嫌われるぞー?」

「うるせえ! ここまでコケにされてただで帰れるか!」

お空「わわっ、あぶあぶっ!?」

優希「もう、世話が焼けるっ!!」

 

数が多いのに先行するからそんなことになる。

呆れながらも急いで追いつき、結界をはった。

入り口で襲われた時よりも遥かに硬く、しっかりとしたものだ。

 

お空「あ、ありがとう! お兄さん」

優希「どういたしまして!」

「ちぃっ! またあの結界か!」

「どうにか突き崩せ!!」

優希「むっ!」

 

さっきまでは奴らの攻撃もでたらめに近い感じで打たれていた。

だけど一点集中に切り替えたみたいだな。

一点に集る衝撃にちょっとだけ焦ったけど、意識すればそうでもない。

 

椛「がら空きですよ!」

「ぐあっ!?」

「て、てめっ……アッー!」

うどんげ「またつまらないものを撃ってしまったわ」

 

椛たちも善戦してくれてるから数も徐々に減っている。

今のところは順調だな。

……間に響いた、どこか嬉々とした叫び声は気にしないでおこう。

歪みない奴め。

 

こいし「よっと」

さとり「よそ見している暇などありませんよ?」

「なっ、てめえらいつの間に!?」

さとり「さ、こいし。手短にやってしまいましょう」

こいし「はーい!」

『ぐああぁぁっ!!?』

優希「おふっ、えげつないな……」

 

見た目が小さい女の子だからと油断するなかれ。

二人の少女は手を繋ぎながら、色鮮やかな弾を撒き散らす。

ほぼ至近距離で放たれたそれを避けることはまず無理だろう。

言うなればいきなり現れた竜巻に巻き込まれたようなもんだ。

ボロ雑巾のようになりながらその辺で伸びているのを見てちょっとだけ同情。

極めて快調……そう思っていた時だった。

 

優希「うっ!?」

椛「っ! 佐伯さんっ!?」

 

急激に視界が歪み、体の中で何かが蠢くような感覚を覚える。

視界が傾いたとかと思えば、ぼんやりとした衝撃。

そこで初めて、倒れたんだと気付く。

さっきから度々、体の調子が悪い。

震える腕で体を支えながら上半身を起こす。

 

優希「うっ……なん、なんだろ……」

うどんげ「きっと慣れない環境に体がついていけてないのよ」

パルスィ「地底は人間には適してないものね」

キスメ「……痛いの?」

優希「大丈夫大丈夫……」

魔理沙「明らかな空元気じゃないか、全く……」

「お、おい! あいつらの動きが鈍ってるぞ!」

「よし、今のうちに畳み掛けろ!!」

お燐「そうはさせないよ!」

ヤマメ「そおれ、蜘蛛の巣にはこんな使い方もあるんだから!」

「ちぃっ!!」

 

ヤマメの脳天気な言葉とともに張り出された蜘蛛の巣。

それは飛んできた矢や妖術を受け止める。

多少は燃えているように見えたけど、お燐の力のようだ。

流石に効果が薄いと感じたのか、連中も刀で切り払いながら接近。

 

ヤマメ「むう、本調子なら切られやしないのに!」

萃香「ま、近づいてくるってんなら……」

勇儀「私らの出番だねえ」

椛「私も行きますっ!」

 

蜘蛛の巣が薄れた場所から飛び込んできた相手を出迎える。

そんなに数もいなくなってきたうえに各個撃破状態だ。

今の彼女たちなら楽勝だろう。

 

優希「……よし、動けるようになった」

優希「こっからは駆け抜けるぞ!」

霊夢「大丈夫なの?」

優希「いつまでもここにいるわけにもいかんだろ」

さとり「……そうですね、行きましょう」

お空「よぉし、風穴開けちゃうよー!」

『えっ!?』

お空「えまーじぇんしーっていうんだっけ?」

お空「よくわかんないけど、吹っ飛べーっ!!」

『う、うおああああっ!?』

 

スタートの合図と言わんばかりのお空の砲撃。

それを受けて、俺達は走り始めた。

爆煙が残る場所を駆け抜けると同時に並ぶ影3つ。

 

勇儀「味方ごと打つ奴があるかい、この鳥頭っ!!」

萃香「いくら私らでも効いたよ……」

椛「うっ、うっ……死ぬかと思った……」

優希「あ、あはは……ご愁傷様」

お空「うにゅ?」

 

相変わらず何も分かってない顔してらっしゃる。

それを見てこれ以上いう気も失せたらしい。

三者三様の表情を浮かべながら飛び上がる。

 

魔理沙「佐伯、お前は私の後ろに乗れ!」

優希「頼んだっ」

 

空をとぶことができない俺は、魔理沙の箒に飛び乗った。

 

「く、くそ! 奴らを逃がすなっ!!」

パルスィ「しつこいわね……パルパルパル」

「……あっ? そういやお前……さっきオレの邪魔したよな!」

「はあ? そりゃお前だろ。足踏んだのお前だったよな!」

優希「な、何だ何だ?」

ヤマメ「パルスィのやつが嫉妬心を煽って喧嘩させたのさ」

パルスィ「煽るのもしょうもないほどの嫉妬心だったわ」

優希「おお……すごいな」

 

眼下では清々しいほどの仲間割れが行われている。

それを全部パルスィで起こしたというのだから驚きだ。

大して何かしたようにも見えなかったんだけど……。

しいて言うならパルパル言うてたくらいか。

 

パルスィ「喧嘩できるような相手がいるなんて……妬ましい」

 

挙句、喧嘩させておいて妬むという傍若無人っぷりである。

橋姫さんはどうにも気難しい性格のようだ。

 

 

魔理沙「よっと、到着だ」

優希「サンキュ、魔理沙」

 

ようやく洞窟の入口から光が差してきた頃。

風を切りながら外へ出た魔理沙はふわりと地面へ足をつけていた。

それを確認してから、残っていた浮遊感を味わいながら降り立つ。

あたりを見回してみたが……特にいないみたいだな。

 

優希「……よし、皆ちゃんといるな?」

霊夢「心配しなくてもちゃんといるわよ」

さとり「はい、こちらも大丈夫です」

優希「おし、それじゃ……」

優希「紫さん、お願いします!」

紫『流石に随分かかったわね』

優希「まあ、結構深かったしな」

紫『ふふ、すぐ開けるわ』

 

その一言と同時に、スキマが現れた。

見た目に関して全く拒絶感がなくなったのは喜ぶべきなのか……。

嫌な意味で成長してきている自分に密かに遠い目をする。

 

優希「さあ、皆先に!」

さとり「はいっ!」

勇儀「やっとまともにいられるね」

萃香「はっはっは、粘ったかいがあったってもんだ」

 

どんどんとスキマをくぐって行くのを見送る。

最後に誰も居ないことを確認して――。

 

優希「よっしゃ、帰ろう!」

 

俺もスキマへ飛び込んだ。

 

あれから、地底の皆にもいつもの通り俺のことを説明した。

そして、恒例のお風呂からの食事会の流れ。

そんな食事の席の中で、俺はぼんやりと今日のことを振り返っていた。

そう、他でもない今日起きた突然の体の異変だ。

立て続けに2回も、体の自由が利かなくなるほどの体調不良。

果たして俺の身に何が起こっているのだろうか。

 

萃香「いやあ、それにしてもお前……気に入ったよ!」

優希「あいてて!」

うどんげ「ちょ、ちょっと! 佐伯は一応血を吐いてるのよ!?」

椛「そうです! いくら萃香様でもだめですよ!」

萃香「お、おお?」

 

面食らったように気の抜けた声を上げて下がる。

あんな真正面からの肉弾戦をかます鬼相手に大した勇気だ。

椛に至っては噛みつかんばかりの勢いである。

まあまあ、と二人をなだめておく。

萃香にも悪気はないんだろうしな。

 

優希「しかし、そんな背丈でよくあんな馬鹿力が出せたな」

萃香「鬼だからね」

 

鬼だから。

なんともシンプルな答えだ。

鬼といえば俺でも何となくはその強さが分かる。

鬼のような、とかよく例えられるくらいだ。

先人はそんな鬼の強さを知ってそんな例えを上げたんだろうな。

 

勇儀「しかしあんた、地底にいる時は結構倒れていたようだが大丈夫かい?」

さとり「病気とかではないとおっしゃっていましたけど……」

優希「うーん、それが本当に分からないんだよな」

優希「血を吐いた時も、辛かったのもほんの少しだった」

うどんげ「確かにそうだったわね」

椛「ですが、服があんなになってしまうほどですよ?」

優希「そりゃまあ……たしかに俺だって異常だとは思うけどさ」

 

椛に突っ込まれた点に関して口ごもる。

視界の端には、俺が着ていた今は真っ赤な服。

服を真っ赤に染め上げるほどの吐血をしておいて健康なはずはない。

本来なら俺だってそういうところだけど、自分自身不思議なくらいだ。

ただひとつ言えることは、前よりも格段に体が軽くなったってことか。

 

霊夢「不思議な話ね……」

永琳「一度ちゃんと調べたほうが良いわ」

永琳「佐伯くん、診察室へ来てちょうだい」

優希「あ、分かりました」

 

 

紫「……」

 

都合のいいタイミングで連れ出してくれたわね。

さすがは永遠亭の頭脳というべきからしら。

心配げな子たちとは対照に、私は少し悩んでいた。

そう、私は彼の身に起こっていることは何となく分かっている。

だけど、もし『そう』だったとして……これは軽々しく彼に言えることじゃない。

 

霊夢「紫、ちょっといい?」

紫「ええ」

 

いろいろと考えていたら霊夢に呼び出された。

多分、あの子もいろいろとさとい子だから気づいたのかもね。

私は自然体で先を歩くあの子についていく。

喧騒が遠ざかり、対照的にとても静かになってしまったわね。

いつもであれば彼がいるであろう離れまでやってきて足を止める。

 

霊夢「……あいつの身に何か起きてるんでしょう?」

紫「あら、一体何の……」

霊夢「……」

紫「……分かったわ、ちゃんと答えておきましょう」

 

無言で札を構えながら睨むのはやめてほしいわ。

とはいえ、今回の件に関してはあまりふざけるのも良くない。

私は彼から『感じた』ことを整理する。

 

紫「……まず、人間としての佐伯くんは死にかけているわ」

紫「吐血を含む不調はそれが原因ね」

霊夢「人間として、ね……」

霊夢「あいつは、何になりかけてるというの?」

紫「……ここからあくまで仮説よ?」

霊夢「それでも良いわ、聞かせて」

 

これほどまでに真剣な霊夢は初めて見たかもしれない。

一体何がこの子を駆り立てるのかしらね。

 

紫「あなたも巫女なら分かるでしょう?」

紫「彼の中にあるはずの霊気が薄れていることに」

霊夢「ええ、分かってるわ」

紫「そして、代わりに増えている気は神気」

紫「……これに対して考えられることは」

霊夢「……望神になりかけているのね」

 

さすが霊夢といったところか。

この子も同じ結論に至ったらしい。

それであれば、もう一つの可能性にも行き着いているはず。

 

霊夢「あいつは、望神の使いとして……この異変を止めるためにいるの?」

紫「そうね、そう考えるのが妥当よ」

霊夢「……はぁっ」

 

長い間ためたと思ったら盛大なため息を吐かれてしまった。

霊夢は確かに冷静な判断ができる。

だからといって、感情がないわけじゃない。

成り行きとはいえ、肩を並べて戦った相手が消える。

そう想像して穏やかでいられるほど彼女も経験を積んでないのだから。

何も言うこともせず、何も言われることもなく。

しばらく会話をしなかった。

 

 

優希「やっぱ、そういうことだったんだな」

紫・霊夢『!?』

 

しまった、という表情で固まる二人に苦笑い。

俺に聴かせるつもりは全く無かったんだろう。

だけど、何となくだけどそんな気はしていたんだ。

阿求が言ってた事も考えると、そうなる可能性ってのも。

それに、体が軽くなった……。

つまりそれは体が人間の時のそれと変わってきているってことだ。

実際、永琳先生にも肉体構造が変わってきているって言われたし。

流石に、神格化してるとまでは分かってないみたいだったけどな。

 

優希「そっか……俺、人間じゃなくなりそうなのか」

霊夢「佐伯……」

優希「ん、大丈夫。気にしてないといえば嘘になるけど……」

 

気遣うような視線に耐え切れず笑っておく。

無理矢理に近いもんだったからか、余計に表情が暗くなる。

だけど、別に悲観的になってるわけじゃない。

 

優希「全部終わって、もし外にいられなくなったらさ」

優希「幻想郷は俺を受け入れてくれるか?」

紫「……ええ、その時はできうる限りのサポートをするわ」

霊夢「そうよ、遠慮無く言いなさい」

優希「そっか、それなら心配はないな」

 

霊夢達の心強い返事に、やっと心の底から笑えた。

うん、やっぱり放っておけはしない。

俺は『最期に』彼女たちへ笑いかける。

そして――。

 

紫「っ!?」

霊夢「佐伯っ!?」

優希「ありがとう、俺は行くよ」

優希「説教は全部終わった後にな」

 

それだけ言い終えて、俺は全力で霧を出した。

永遠亭を覆い尽くすほどの、『眠りの霧』を。

俺が何をする気か悟ったのか、二人は必死でこっちに走ってくる。

しかし、能力でこちらへ来れないように結界を張った。

 

霊夢「佐伯っ……あんたまさかっ……!!」

紫「早まったマネはやめなさいっ!」

優希「……」

霊夢「うっ……」

紫「ま、まち……な……」

 

暫くの間は耐えていたようだけど、やがて床に倒れる。

 

優希「……ごめんな」

 

聞こえないかもしれない謝罪を口にしておく。

そして、集中。

……なるほど、妖怪の山のてっぺんでか。

脳裏に自然と浮かぶのは記録に残っただろう人物の最期。

どうすれば良いのか自然と浮かぶんだから不思議なもんだ。

最後に目を開けて、永遠亭を振り返る。

思えば短い間だったけど、随分と賑やかな毎日を過ごした。

最後にまた、皆で賑やかな食事を取れなかったことが悔いだ。

 

優希「ありがとうな……」

優希「それと、ごめん」

 

もう一度謝って、俺は走り始めた。

 

…………………。

……………。

……。

 

 

霊夢「……うっ」

 

名前を呼ばれたような気がして、ゆっくりとまぶたを開ける。

ぼんやりとした意識のまま、重たい体を起こした。

ここは……永遠亭よね?

なんで私、こんなところで寝てるのかしら。

 

紫「全く、やっと起きたかしら?」

霊夢「あいたたた……あまり耳の近くで声ださないでよ」

 

ガンガンと響く頭にはちょっとつらい。

あー、そういえば永遠亭で宴会を開いたんだっけ?

ハイペースで飲む萃香たちに乗せられて飲んで……。

涼みにここに来たところまでで記憶が途切れていた。

 

霊夢「あ~……酔いつぶれて寝てたのね」

紫「珍しいじゃない……あの程度の量で酔いつぶれるなんて」

霊夢「飲み方が悪かっただけでしょ」

 

からかうように発せられた言葉に悪態で返す。

本気で相手を指定ても疲れるだけだしね。

それに、頭も痛いし。

 

 

廊下を進んで広前へ向かうと、やっぱり同じようにして寝ている面々。

よくもまあ、こんだけ集まったものね。

普段は地上に出てくることさえないさとりたちまでいるし。

……はて。

 

霊夢「そういえば、私たちはどうして宴会を開いたのかしら?」

 

 

その日、幻想郷を襲っていた異変は人知れず終焉を迎えた。

誰も知ることもなく、覚えていることもないままに。

誰一人、ここ一月の間に起こったことは覚えていなかった。

それを一人の少年が願い、去ったからだ。

 

『皆が笑って過ごせる幻想郷にもどれ』

 

それが少年の最期の願いだった。

 

 

 

第一章・完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、突然こんなところで終わった!?
とかお思いの方もいらっしゃると思います。
ですが、これはあくまで第一章であり、2章目につながります。

当初はこういうふうにする予定はなかったのですが、とある案が浮かびこういう形をとりました。
察しが良い方は何となく分かるんじゃないでしょうか?
というわけで、次回からは第2章がはじまるよ!
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