東方優幻想   作:エウラス

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それぞれの未来へ(導入編)
プロローグ


プロローグ:帰ってきた外来人

 

どこまで見回しても広がる自然。

それを見て俺、佐伯優希は感嘆の声を上げる。

異変の時には見られなかった、あるべき姿の幻想郷だ。

その地に、俺は今『実体のある体』で立っていた。

一体全体、何がどうしてこんなことになっているのだろうか。

俺は、昨日の判決内容を思い返していた。

 

 

映姫「判決……黒! あなたは転生し、幻想郷で生きていくのです」

優希「……えっ?」

 

転生して幻想郷で生きる?

一体何を言っているんだろうか。

戸惑いが隠せずに、映姫を見つめたまま固まっていた。

 

映姫「貴方は私たちを悲しませました」

映姫「ならば相応の罪を償うべきです」

優希「……」

映姫「ですから貴方には、自らの行いを幻想郷の皆に知らせるのです」

映姫「転生して、ね」

 

映姫が最後に微笑み、そう告げる。

その言葉を反芻して、何度も頭のなかで繰り返す。

そうか……俺は……。

 

優希「俺、生き返る事ができるのか……」

映姫「全く同じというわけには行きませんがね」

映姫「あなたの体はすでに消滅してしまっているので」

 

ああ、そうか……あの時力を使った時に。

そう考えれば俺が元の肉体に戻れるはずがない。

しかし、そうなるとどうするんだろうか。

 

映姫「心配ありませんよ」

映姫「確かに少しだけ外見がかわるかもしれませんが基本はあなたです」

優希「う、うーん……」

優希「というより、本当に俺……転生してしまって良いのか?」

映姫「諦めてください、決定事項です」

 

ズバッと言われてしまっては仕方ないか。

正直な話、嬉しくなかったって言えば嘘になる。

皆とまた会えるんだ。

元気にしているかどうか、見て回るのも良いかもしれない。

 

映姫「ようやく素直になったようですね」

優希「いろいろ複雑じゃあるけど、やっぱ嬉しいよ」

優希「俺、ほとんど幻想郷をみたことがないからな」

映姫「そうですか……では、この後の話をしましょう」

 

 

優希「まあ……いざ転生って時はどうなるかと思ったけど……」

 

それから、映姫の指示で俺は転生。

儀式とか準備とかいってたが、思ったよりも簡単だった。

新しい体に入ったことで、姿は少し変わっているが問題ない。

だって、変わったのってせいぜい髪の色くらいだし。

そういえば、こちらへ戻る前にも小町にも事情は説明した。

それらを聞き終えた彼女普段と違う真面目な顔で――。

 

小町『一人で全部背負い込むんじゃないよ、ったく……』

 

と、ほんの少しだけ涙を見せて……最終的に笑ってゆるしてくれた。

同時に一緒にいた映姫からの助言も思い出す。

 

映姫『兎にも角にも、まずは八雲紫と会うといいでしょう』

映姫『そのほうが色々と円滑に進むでしょうから』

 

さり際に言われたその言葉。

まあ、確かこの世界の管理者だとか言ってたからな。

そういう役割を担ってるんだろうってのは察していた。

 

優希「すべてを語るなら……あいつらに一番に謝らないとな」

優希「……とはいえ、どこに居るんだろう」

 

本来の力を取り戻した紫ならどこにでも一瞬で移動できるだろう。

今ももしかしたらあっちらこっちら移動してるのかもしれない。

そんなことを考えると、探すのがだるく感じてしまうのも仕方ないというもんだ。

軽く伸びをして、今後の方針を考えながら歩くことにした。

 

 

優希「……不思議だよなあ、まだ力が使えたとは」

 

あれからしばらくして、俺はくせに近い感じで飲み物を出していた。

あまりにも当たり前になってたから気づかなかったけど……。

 

優希(一回死んだんだし、能力もなくなると思ってたんだけど……)

 

首を傾げながら、俺は出していたソーダに口をつける。

流石に人に見られたら珍しがるだろうから瓢箪にいれておいた。

更に、俺は能力が使えることを再認識して気付いたことがある。

いくつかは、なんで異変の最中に気づかなかったってことまで。

例えば、目的地に瞬時に移動できるドアだ。

スキマのビジュアルがよくなったもんだと思って欲しい。

とにかく、それを使って俺は博麗神社の近くに来ていた。

 

優希「ただこれ、あんまし使えないな……」

 

一度は死ぬほどの力を使ったせいだろうか。

以前ほど気軽には出せないくらい疲れる。

出すものにもよるんだろうけど、ドアを作った時は一瞬めまいがした。

この辺はいろいろ、慣れていくしかないな。

と、考え事しながら見上げるのは長ーい階段。

想像してみて欲しい、見上げた階段の終わりが見えない光景を。

げんなりとする気分になるのも分かろうというものだ。

 

優希「……ま、仕方ないから登ろう」

 

そんな独り言をつぶやき、俺は長い最初の一歩を踏み出したのだった。

 

 

違和感。

それは一言で言えばその程度の物だった。

だけど、何かしらね……あまりにも重要なことを忘れている。

そう思わせる何が私の中にあった。

 

霊夢「……居るんでしょう? 紫」

紫「あらっ、バレてた?」

 

茶目っ気のある態度で返す紫にはキツ目の視線で返す。

境内をはきながらも、私は構わず話を続ける。

 

霊夢「あんたも気付いてるんじゃないの?」

紫「……あら、霊夢も何か感じているのかしら?」

霊夢「ええ、思い出そうと思っても思い出せないけどね」

紫「実は私もなのよね……なにか大事なことだったはずなのだけど」

紫「それと、どうにも変な怒りもあるわ」

霊夢「ああ、それは私もね」

 

眉を潜めてそう答える紫に私も同調してうなずいておく。

 

霊夢「あと、不思議なんだけど人里に出るのを避けたくなるのよ」

紫「ふふ……私はつい滅ぼしてしまおうかと思ったこともあったわ」

紫「……藍に止められていなければ危なかったわね」

霊夢「あんたね……幻想郷のルールを作った本人が破ろうとしてどうすんのよ」

紫「分かってるわよ……だから耐えてるんじゃない」

 

不満気な声には耳を貸さず掃除を続ける。

それにしても珍しいことだ。

あの紫ですら人里を滅ぼしかねないほどの嫌悪感を抱いている。

だけど、その根本的な理由が全く思い出せなくて困っていた。

ちなみにこれは私たちだけの話ではない。

幻想郷きっての名のある勢力皆がそんな感じだ。

そのため、今はよほどの自制力のある奴以外は里への侵入を禁じている。

 

紫「異変なのかとも思って各地を調べては見たけれど……変わったことはないしね」

紫「ただ、幾つかの箇所に争ったような後は残っていたけど」

霊夢「そうなの?」

紫「ええ、炎で焼かれたような後や弓や刀が残っていたわ」

紫「他にも、微量な妖力とかも」

 

でも、それはルールを守らなかった人間が襲われた可能性もある。

そんな私の考えも紫にはわからないはずはないだろう。

だからこそ、取り留めもない情報として出したのか。

つまりは情報はないってことらしいわね。

 

霊夢「後ね……どうも、一人忘れてる気がするのよねえ」

紫「あら、奇遇ね……私もなのよ」

霊夢「紫も?」

紫「私たちだけではないわ……幻想郷の全勢力がよ」

 

いよいよ持っておかしい。

これはもしかしたら、意識を阻害するタイプの異変?

古明地のところの妹にちかいものがある。

実害があるわけではないが、このまま行けば人里が潰れかねない。

私が本気で異変とみなして動くべきか。

そう迷っていた時に、その呑気な声は響いた。

 

優希「ついたー!」

 

と叫ぶなり、少年は両膝に手を置いて肩で息をした。

見たところ只の人間である彼にはこの距離の階段はきついんでしょうね。

ふう、と汗を拭った少年の目に……二つの人影が映る。

 

ドクンッ……!

 

なぜだか分からないけれど、彼を見ると心臓がざわめく。

だけどそれは人里の男を見た時とは違い、不快には感じない。

固まっている私たちを見て、少年は頭を掻きながら歩み寄る。

そして、私たちの脇を通り過ぎるようにして賽銭箱にお金を投げ入れた。

1,2回と手を叩き、一礼。

そこまでしてようやく、彼は二人に向き直った。

 

優希「ただいま、霊夢……紫」

 

 

ただいまとはいったものの、今のタイミングは正しかったんだろうか。

言った後で、俺はそんなことを考えていた。

映姫ですら話をしてからやっと思い出したようだったし……。

いきなり前触れも無くこんなこと言ったら変な奴って思われるか。

そう思って会話を続けようとしたのだが……。

 

霊夢「優希っ!!」

紫「佐伯くんっ!?」

優希「ぐぇっ!?」

 

俺の口から発せられたのはヒキガエルの断末魔のような声のみだった。

 

 

優希「ゲホゲホッ……思い出したのか?」

霊夢「……ええ~、思い出したわよ?」

 

しばらくしてやっと首元から手を話した二人に向き直る。

いきなりのことで窒息死するかと思ったわ。

そんな俺をもう一度締めてやろうと言わんばかりな霊夢が少し怖い。

罪は俺にある。

甘んじて受けようと思ったが、いつまでもその時はやって来ない。

どうしたのかと思って見ると、二人共顔を伏せていた。

 

霊夢「……なんでこんなことをしたのよ」

優希「え~っと……まあ、辺に引きづられたくなかったからな」

優希「だから、何もなかったことにしようと思ってさ」

霊夢「巫山戯んじゃないわよ!!」

優希「っ!?」

霊夢「アンタね! あの一瞬で、私たちが感じた気持ちが分かるっ!?」

霊夢「今の今まで忘れていた、この悔しさが分かるのっ!?」

 

悲痛な叫びだった。

これが、俺がやったことに対する罰だ。

ああ……何となく察してはいたけど、やっぱり記憶を消したのは正解だった。

もし、俺が転生もできないような立場だったら、間違いなく気にしていただろう。

俺に対して淡白だった霊夢ですらこれだ。

椛や早苗、うどんげが聞いたらどんなに怒られるか。

 

紫「……佐伯くん」

優希「はい……」

紫「もちろん、皆へ真実を伝えるつもりはあるのよね?」

優希「そうじゃなかったら、わざわざここに来ないよ」

紫「そう、なら許してあげるわ」

霊夢「ちょっと、紫っ!?」

紫「別にいいじゃない、彼は帰ってきたんだし……それに」

 

すぅ……と目を潜めた紫はおれをその眼光で射抜く。

あまりの恐怖に瞬きどころか身動きすらできない。

 

紫「もう、こんな勝手なことはしないと約束してくれるわよね?」

優希「も、もちろん……」

紫「ならこれで話はおしまいよ」

紫「それじゃあ、早速皆をここへ呼びだそうかしら」

優希「えっ!? 今っ!?」

紫「善は急げと言うでしょう?」

 

有無を言わさない笑顔を残して、俺にとっての死刑宣告を告げたのだった。

 

 

優希「う、うわあ……」

 

改めて見ると、幻想郷にいた奴っていうのは結構多い。

ちらほら見た覚えがない奴が居るみたいだけど。

好奇な目にさらされるだけなら問題ない。

だけどだ……。

 

『…………』

 

どこからか、穴が空くレベルで見つめられている視線を感じる。

多分、霊夢たちみたいに感づいてるのもいるってことだろう。

ざわざわと騒がしい博麗神社の会場内は乾いた音がなることで静かになる。

音のしたほうを見ると、手を合わせた形で宙に浮く紫の姿があった。

 

紫「さて、まず初めに、わざわざこうして集まってもらって申し訳なかったわ」

レミリア「全くよ……なぜこんな真っ昼間に?」

勇儀「私らみたいな地底の奴までとは大掛かりだね」

萃香「大方、そこの坊やが関係してるんだろう?」

優希「うっ……」

 

さらに集まる視線に少しだけいたたまれない気分になる。

ちらり、と視線を送ると『自業自得よ』と目で語られた。

た、確かにそうなんだけど……実際言われると凹むな!

 

紫「察しのいいのはすでに気付いているようだけど……」

紫「ここにいる佐伯優希くんに、私たちは大きな借りがあるわ」

『借り……?』

『なんだろう……』

慧音「見たところ、ただの少年のようだが……彼は一体?」

優希「ここからは自分で話すよ」

優希「……ただ、一つだけ先に断っておきたいことがある!」

輝夜「あら、何かしら?」

優希「これから思い出すことは、かなり辛い記憶になると思う」

優希「俺は他にも事情があって、結果的にその記憶を皆から消したんだ」

『記憶を消す……』

阿求「そ、そんな……私はあなたのことを全く覚えてないですよ?」

優希「一度見たものは忘れない程度の能力だっけ……」

優希「でも忘れていることは、俺の能力が効いていたってことだ」

勇儀「まどろっこしいねえ……」

勇儀「私らは後悔しない、だから思い出させな!」

萃香「そうだね~……多分、この変な違和感もそこから来てるんだろう?」

優希「良いんだな?」

 

俺の最期の警告に、皆は顔を見合わせた後に静かに頷く。

それを見て、もう俺に迷いはなかった。

償いを受けるべきは俺にある。

卑怯者だのなんだの罵られても構わない。

 

優希「俺の能力は……望みを叶える程度の能力だ!」

 

そう叫び、俺は皆の前に手をつきだした。

それは皆の記憶の蓋をあけるための光。

皆の記憶を戻してくれという願いの光。

その光を受けた皆が、ありありと分かるほど表情を変えていく。

信じられないという顔をしたまま、俺を見て。

 

優希「それとまあ……これを見て欲しい」

優希「あの日、何があったのかを教えるよ」

 

光が収まった後、俺はとある映像を作り出した。

空中に映しだされた映像には、あの日の俺の記憶がある。

そう……あの話を聞いた後の、俺の行動が。

 

~回想~

 

優希「ありがとうな……」

優希「それと、ごめん」

 

無意識にそうつぶやいて、俺は走りだしていた。

場所はもう分かっている。

妖怪の山の頂上を目指して走った。

 

 

優希「はぁっ……はぁっ……!」

 

どう動けば良いのか分からないけど走り続けている。

迷いの竹林が予想以上に複雑で、最終的に仕方な一直線に突っ切った。

その際にいくらか切ったのか、擦り傷が多い。

ひりつく痛みを感じながら、今は平原を走っていた。

体にいつも以上の疲れがないのは、多分体組織が変わってるんだろう。

何事も無く平原を通りすぎて、安心していた頃だった。

 

 

「此処から先は通さないぞ!」

「人間は出て行け!!」

優希「くっ!?」

 

突然の攻撃にもなんとか結界を張りながら駆け抜ける。

それを見ていくらかの集まりが刀を構えていた。

あれは多分、椛と似てるとこを見れば白狼天狗だろう。

真っ直ぐな剣戟をギリギリのところで避けて前へ。

 

「くっそう……ちょろちょろと!」

優希「悪いが、先に行かせてもらう!」

「あっ!?」

 

にとりによく似た服装した子たちのところまでいって一気に跳ねる。

イチかバチかなところはあったが、難なく彼女たちを飛び越えることができた。

慌てて追いかけてくる声を無視して、走る速度を上げた。

 

 

優希「はぁ……はぁ……」

優希「ゲホッ!?」

 

明らかに限界が近い。

なんとか追ってくるやつらから距離を取ることはできた。

だけど、その分のダメージはでかい。

神格化してるってのに、なんでこんなに痛いんだろうなあ。

それでいて身体能力とかは問題なく強くなっている。

……不思議な話だ。

 

優希「急がないと……あいつらが起きだしてくる前に……」

天魔「ほう……? 興味深いな、わしにも教えてくれんか」

優希「っ!?」

 

急に真後ろから声が聞こえて、俺は慌てて距離をとった。

ドスの利いた声だったから気付かなかったが、女の子?

だが、見た目は同じ年くらいの子だが明らかに空気がおかしい。

背中に生える翼なんかを見ても、こいつは……強いんだろうな。

冷や汗を浮かべつつ、徐々に距離を取ろうと後ずさる。

 

旋風「わしは天狗たちの長である天魔の栗林旋風じゃ」

旋風「して、お主……出迎えに行ったであろう部下はどうした?」

優希「っ!?」

 

ぶあっ、という音が聞こえてきそうなくらいに総毛立つ。

まずい……今まで浴びてきた殺意よりもはっきりした殺意だ。

真向から受けてると足が震えそうになるほどの。

だけど、俺にだって譲れないものがある。

 

優希「あいつらは、邪魔だったから眠らせてきた」

旋風「……そうか、ならば」

優希「っ!?」

優希「がはっ!?」

旋風「痛い目を見てもらう必要があるじゃろう?」

 

一瞬。

瞬きをした1秒にも満たない時。

それだけの間に、旋風とか言う奴は俺の真後ろに立っていた。

その右腕を俺の血で染めて。

 

旋風「ふん、この程度なら今のわしでも敵ではないな」

優希「ゲホッ……」

優希(ったく、何回刺されたら良いんだろうな……)

 

風穴の開いた右肩を抑えながら悪態をつく。

深手を負った分、動きは鈍ったが逆に思考は冷静になった。

血払いをする旋毛を冷静に見据える。

 

旋風「目で見たところで無駄ぞ」

 

そう聞こえたと思えばまたしても姿が消える。

どうせ見えはしないんだ、俺は結界を張っておく。

それも、自分の体を覆う鎧のように。

程なくして何度もその結界を打つ音が聞こえる。

 

旋風「ほう……結界か」

旋風「じゃが、薄いな」

優希「くっ……!」

 

素早い攻撃から一転して、重いタメのある一撃。

ヒビが入る音と一緒に結界ごと吹き飛ばされる。

こいつ……天狗のくせに意外と力も強いな。

これで本調子じゃないっていうんだから不思議な話だ。

 

旋風「よく耐えおる……」

旋風「じゃが、わしの怒りはこの程度ではすまんぞ!!」

優希「っと!」

旋風「むっ?」

優希「あいつを縛る茨よ!」

 

まずはあいつの動きを止めないと話にならない。

牽制程度に後ろに引いたと同時に複数本の茨を呼び出す。

皆と同じなら、あいつは飛べないと践んだからだ。

案の定、至る所から生え襲いかかる茨を鬱陶しそうに避けていた。

 

旋風「小細工をっ!」

優希「まだまだ!!」

 

茨に気を取られている間に、更にあいつの足元を沼のようにする。

 

優希「ぐはっ……!!」

 

ハイペースかつ大規模な力の放出に耐え切れずに吐血。

だがそんなことを気にしている余裕なんてない。

畳み掛けるようにして動けないように地面に縛り付けた。

苦しげなうめき声を上げ、顔をしかめる。

顔以外を茨で縛り付けたんだ……しばらくは動けないだろう。

 

旋風「くっ……このわしが遅れを取るとは……」

旋風「何が望みじゃ……」

優希「何も……強いて言うなら、俺の邪魔をしないでくれ」

優希「俺はこの異変をおわらせに行く」

旋風「何っ……?」

優希「悪いが時間がないんだ。説明もしてる暇はない」

 

それだけ言い残して、俺はその場を走り去った。

引き止める声が聞こえたような気もするが無視するしかない。

思った以上に時間をくっちまったな。

しらんでくる空を舌打ちしたい気分で見上げる。

 

 

もうどれくらい走ったんだろうか。

すでに体はガタガタだ。

元から力の使いすぎで限界の近い体。

それに加えて天魔を名乗る子から受けた傷も深い。

吐血を繰り返したことも相まって血が足りないのか視界が霞む。

でも……。

 

優希「ここ、か……」

 

もはや走るどころから歩くことも満足に行かない。

そんな体を引き摺るようにしてついに辿り着いた。

妖怪の山の頂上……そこから少し下った場所。

そこに立つと、なぜだかわからないが懐かしい気分になった。

 

優希「さて、と」

 

そこで大きく息を吸い、吐く。

いわゆる深呼吸ってやつだ。

そして、そこで意識を集中する。

今までとは違い、体中から淡い光が漏れ出していた。

 

優希「……はあ、なんでこんなことになったんだろうな」

優希「でもま、嫌なことばっかりじゃなかったけど」

 

誰にともなく、最期の瞬間までの間にしゃべる。

 

優希「いろんな奴に会えたし」

優希「ほんと、平和な時に来てみたかったよ」

 

体から放たれる光が徐々に大きくなっていく。

だんだんと意識も薄くなっていた。

多分、もうそんなに持たないな。

よし……消える前に望みを。

 

優希「皆が笑って過ごせる幻想郷に戻れ!」

 

そう叫んだ瞬間、俺の体が一気に軽くなる。

いや、軽いって言うよりは消えていた。

足から徐々に消えていく体を何とも言えない気分で眺める。

よくアニメなんかじゃ見るけど、自分がなるとはなあ。

 

優希(皆……元気でな)

 

皆の笑顔を思い浮かべながら、俺は静かに目を閉じた。

 

 

 

優希「……と、まあ……こういうことだ」

 

時間にすれば大したことはない出来事。

だけど後ろめたい内容には違いない。

突き刺さるような視線を感じながら、俺は気まずさを感じていた。

皆の方を向くことができないでいると――。

 

椛「なぜそんなことを……?」

優希「ん……俺は霊夢や阿求たちが話してた内容を聞いたんだ」

優希「それを聞いて、考えた上でだよ」

早苗「霊夢さんたちが話をしていたと言うと……?」

霊夢「望神の件ね」

うどんげ「何よそれ」

霊夢「まあ、もう隠す必要もないしちゃんと説明しておくわ」

 

~少女説明中~

 

霊夢「……と、いうわけよ」

 

最後に深い溜息をつけて、霊夢は話を締めくくった。

内容を聞き終えた皆はやっぱり驚いているみたいだな。

まあ俺だって多少は驚いたし、無理も無いか。

 

霊夢「私たちも席を外させたんだけど盗み聞きしてたみたいでね」

優希「うっ……悪かったって」

妖夢「では、佐伯さんはその話を聞いて……?」

優希「いや、それだけが原因じゃない」

優希「何人かは知ってるだろうが、地底で具合が悪かったろ?」

椛「ええ、血も吐いていましたし……」

優希「あの時、俺の体は神格化を始めてたらしくてな」

優希「今思えば、その望神ってのになってたんだろう」

永琳「あの肉体の変化はそういうことだったのね」

優希「ああ」

優希「吐血も、人間の体が拒絶反応でもおこしてたんじゃないかな」

 

永遠亭を出た頃には多分、俺の体はもうほぼ人間じゃなかった。

じゃないとアレだけ走り続けて疲れないわけがない。

ていうか、俺あんなに動けなかったはずだし。

 

優希「それで、焦ったっていうのもあるんだよ」

霊夢「焦った?」

優希「神格化を始めていたと言っても、あんだけ体調悪かったんだぞ?」

優希「もしかしたら死ぬんじゃないかって思ったんだよ」

紫「死にはしないと思うのだけれど……」

優希「万が一だよ」

優希「もし俺が何もなさず死んじまったら、異変が終わらないかもしれない」

優希「だから俺は、この選択肢を選んだんだ」

優希「皆が変に気負ったりしないように、記憶を消してな」

 

だけどそれは間違いだった。

真実を知った霊夢の言葉にはかなり考えさせられたな。

きっと他の奴らも大なり小なり同じような考えだろう。

だから俺も素直に謝っておくことにした。

 

優希「勝手な真似をして悪かった!」

 

頭を下げて俺なりに真摯に謝罪を述べる。

暫くの間、戸惑うような声が聞こえていたが――。

 

霊夢「謝る必要があるのは私らもよ」

優希「……へ?」

 

そんな予想外の一言に、俺は思わず顔をあげていた。

 

紫「そもそも、このような異変を許したことが悔やまれるわ」

紫「早めに対処しておけば大事にはならなかったのだから」

優希「えっ……えっと?」

レミリア「ま、あれよ」

レミリア「確かに佐伯のしたことは褒められたことじゃないわ」

レミリア「だけど、そのことに感謝もしている」

輝夜「もしこのまま貴方がこの世を去ったままだったら怒ってたけどね」

優希「うっ……」

勇儀「とはいえ、坊……いや、佐伯だけを攻めるわけにも行かないさ」

萃香「そうだねえ」

萃香「だからお互い悪かったってことで両成敗ですまそうってわけさ」

優希「い、良いのかそれで……?」

霊夢「うじうじうっさいわね、男のくせに」

優希「その言い草はひどくないかっ!?」

 

あまりに変わらないいつものノリに思わず乗ってしまう。

そんな俺の反応に、いくらか笑っている。

 

霊夢「今更ごめんとかありがとうとか煩わしいわ」

霊夢「だから、今私達がいえることはこれだけよ」

優希「? なんだ?」

紫「そうね、本来なら幻想郷入りした時に言うべきだったけれど……」

 

皆に聞こえるようにそう告げた紫の言葉に皆納得したようだ。

俺が一体何のことかと戸惑っていたら――。

 

『ようこそ、幻想郷へ!』

 

そう、笑顔で迎えられていた。

ある子はその目に涙を浮かべて。

ある子は澄ました顔をして。

そんな彼女たちらしい姿勢を持って俺を迎えてくれていた。

 

優希「……ああ、ありがとう」

 

色々とこみ上げるものがあって、それだけしか言えなかった。

もしかしたら罵詈雑言の限りを尽くされると思っていただけに余計だ。

全てを洗いざらい告白した俺は、やっと胸のつかえが取れた気がしていた。

 

優希「これからよろしくな、皆!」

萃香「よーし、そうと決まったら宴会だー!」

霊夢「ちょっ! ここでやる気っ?」

紫「丁度いいじゃない、ここにはほぼ皆居るんだし」

霊夢「だとしても準備はどうすんのよ……」

優希「そこは俺がなんとかするさ」

幽々子「あら~、そういえば佐伯くんがいれば食べ放題なのよね」

 

なんとも賑やかな風景。

おそらくはこれが本来の皆の姿なんだと思う。

一度は死んでしまったけど、俺はその甲斐はあったと思っている。

だってさ、あいつらの笑ってる顔を見てみろよ?

異変の最中では見たこともないようないい顔をしてる。

これからはきっと、こんな顔を見る機会も増えるんだろうな。

そう思うと、俺は自然と笑みが浮かんできた。

 

霊夢「なにぼさっとしてんのよ、佐伯!」

紫「準備するわよー!」

優希「ああ、今いく!」

 

これから先の生活に期待ができる。

そんなことを考えながら、皆が待つ輪の中へ走ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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