東方優幻想   作:エウラス

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みなさんどうも、エウラスです。
今回は餓狼戦後のちょっとした日常をかいてみました。
気になる情報もちらほら……この話はどこへ向かうのでしょうね?
なお、次回からは別勢力の住処への移動です!
どこかは楽しみにしておいてくださいね。


新章第四話

第四話:餓狼戦、その後

 

餓狼が企てたクーデターのような事件から数日が経った。

端的に言えば、あの件を境に宿舎内の団結力が高まったように感じる。

今まではあまり交流のなかった男女の組み合わせもちらほら。

そんなペアの中に……。

 

要「もう怪我は大丈夫なんですかっ?」

空牙「あ、ああ……大丈夫だぞ」

要「本当にですか?」

空牙「本当だってば」

優希「……平和だねえ」

 

遠目に付かず離れずと会話している空牙と要の姿。

そんな二人を視界に入れながら、ほほえましい気分になる。

あの時、空牙が取った行動は褒められるべきものだ。

自己犠牲が過ぎると良くないが、結果的に皆が助かったのだから別にいいだろう。

功績を讃えられ、男側の白狼天狗の隊長に昇格したらしい。

 

文「あやや……白狼天狗の宿舎にも春が来たんですかねえ」

椛「今まで餓狼がうるさかったのも多分にありますけどね……」

優希「まあ、あいつ俺どころか桔梗たちに当たりが強かったもんな」

優希「今考えれば、別に俺や桔梗たちだけに対してではなかったんだろうが」

 

自分の部下である白狼天狗も捕食対象だったんだろう。

ちなみにあの中級妖怪は結局、あいつの子飼いだったかは明らかにならなかった。

更に言えば、あいつがどうやってあそこまでの封印術を扱えたのかも……。

両方共死んでしまった今、真相を知ることは難しいかも知れない。

 

優希「ま、済んだことだし……深くは気にしないでおこうぜ」

優希「ここ最近、慌ただしい日が続いたからのんびりと過ごしたいわ」

椛「そう言われてみれば、折角来てくれたのに大したおもてなしもなく……」

優希「いや、気にするなって」

文「では、今日はまったりとここでの生活を満喫してはどうでしょう?」

文「と言うより、今日までなんでしたっけ? 滞在予定は」

優希「厳密には昨日かな。無理言って次の予定先には断りを入れておいたよ」

優希「俺だってこのままサヨナラってのも味気ないしさ」

椛「ではっ! 汚名返上のために剣舞をっ!」

優希「いや、そういう気合入ったのはいいよ」

椛「そうですか……」

 

目に見えてしゅん、とする椛に文と二人で苦笑いを浮かべる。

やる気があるのはいいことだけど、今日はゆっくりしたいんだ。

多分、剣舞なんて日常生活でやってるもんじゃないだろう。

俺が見たいのはそういう、特殊じゃない素の生活風景だからな。

 

優希「白狼天狗って暇な時はなにしてるんだ?」

椛「う? 暇な時ですか……にとりたちと一緒に大将棋をしたりですかね」

優希「大将棋……?」

 

これまた聞きなれない単語が出たな。

聞いた限りで予想がつくのは大規模な将棋?

まさか、人がコマ代わりになってやるとかじゃないだろうな……。

 

椛「ふふ、佐伯さんが予想しているようなものではないですよ?」

優希「うっ、顔に出てた?」

文「難しそうな顔はしてましたね」

 

『ほら』と写真を取り出された。

いつの間に撮ったんだいつの間に。

言われたとおり、顎に手を当てて難しそうな顔したガキが一人。

なんともこうしてみると恥ずかしいもんである。

 

椛「普通の将棋は知っていますか?」

優希「ああうん、歩とか桂馬とかあるやつだよな?」

 

一般的な将棋はルールこそ知らんものの、存在は知ってる。

俺的には角から始める人生ゲーム的なのが好きだな。

 

椛「大きな違いはやはり駒の種類が多いことですね」

優希「駒の種類が?」

椛「ええ、普通の将棋は8種類ですが、大将棋は29種類あるんです」

優希「に、29っ?」

 

軽く三倍もあるじゃねえか。

ただの将棋だってそこそこにかかるイメージが有る。

それに対して29種類もあるような将棋って……うわあ。

 

優希「俺は確かに文系だけど、そういう頭使ったゲームは苦手だな」

椛「そうなんですか? 結構楽しいですよ」

文「傍から見てる分には地味な絵面ですけどね」

優希「皆が皆そうなのか?」

椛「ん~……共通して好きだとは思いますよ」

椛「でも、細かい趣味趣向は皆違いますね」

優希「その辺は人間と同じなんだな」

文「個人差が出るのは当り前ですよ、自我があるんですから」

文「でも、白狼天狗は総じて食い意地張ってるのは確かですね」

椛「文さんっ!!」

 

ああ、やっぱそうなんだ。

餓狼が居なくなってからの食卓は大変だったからなあ。

なにせ出すそばからのおかわりコールだ。

前は女の子ばっかだったけど、男連中も混じったことでやばかった。

だって、女の子よりも食うもん、男連中。

 

優希「でもまあ、美味しそうに食べてくれるのは見てて嬉しいかな」

椛「そ、そうですよねっ!?」

優希「反応がいいからついつい、色々出しちゃうんだよな」

文「居なくなった時の反動がでかそうですが」

椛「うっ、そういえば佐伯さんがいる間の食事は豪華でしたからね……」

優希「えっ? あれでか?」

 

ここ数日に出したのはせいぜい、一般家庭に出そうな料理だ。

肉とか魚が好評なようで、それよりにはしたのは確かにある。

そういえば、この世界ではそれらは結構貴重だって話だっけ。

そういう意味じゃ豪華といえば豪華なのか……。

ハンバーグや豚のしょうが焼きなんかが豪華というとちょっと違和感。

ちなみに、前に鶏の唐揚げを出したこともあったんだけど――。

 

文『二度と出さないでください……私が居るときは絶対に』

 

と、青い顔をして懇願されたのでここではそれ以降出してない。

なまじ美味しい美味しいって言ってただけにショックだったんだろう。

やっぱり烏天狗ってだけあって鳥料理はダメなのか……。

そう思ってしまった一時だった。

ちょいと脱線しすぎたか。

 

優希「まあ、食料自体なら定期的に持ってこれるけど」

椛「ほ、本当ですかっ!?」

優希「うっ!? 近いっ!? 近いからっ!!」

椛「……~~~っ!?」

『きゃっ!?』 

『何やってんですか、椛隊長!』

 

指摘して数秒、ものすっごい勢いで後ろに飛び退かれた。

勢いが激しすぎて後ろの麩を突き破るレベルで。

何やら騒がれているみたいだが、こっちはそれどころじゃない。

唇がふれあいそうに鳴るほどに寄せられた整った顔。

それにふんわりしたいい匂い。

そんな映像やらが蘇り、心臓が痛いほどに鳴っている。

幻想郷の子は皆、妙にセーフティーゾーンが広すぎだ。

俺みたいな女の子との付き合がなかった男には刺激が強すぎる。

程なくして、明らかに不自然な笑みを浮かべた椛が戻ってきた。

 

椛「あ、あはは……すいませんでした」

優希「いや、別にいいんだけど……」

優希「嫌な気分だったわけじゃないし」

椛「ほ、本当ですか?」

優希「うっ……」

 

微妙に涙目プラス上目遣いはやめてくれないでしょうか?

これを可愛い女の子にされて戸惑わない男は居ない。

逃げるように視線を彷徨わせていると――。

 

文「まったく、私を置いて二人だけの世界を作るとは……」

 

と、不機嫌な態度を隠そうともしない文の姿があった。

さっきから何もしゃべらんと思ったら……。

 

優希「別に二人の世界を作ってるわけじゃないんだが……」

文「いーですよ~だ」

文「どうせ私は外野なんですから」

椛「あ、文さん……」

 

あらら、本格的にいじけてしまったらしい。

畳の上に膝を抱えてつま先立ちしながらのの字を書くとは古典的な。

普段の行動がアレなだけに誤解されがちだが、彼女は結構繊細だったりする。

細かいことも気にするし、顔には出さないが凹んだりすることもあるんだそうだ。

そんな彼女がここまで露骨にいじけてる辺り、よっぽどだったのかもしれない。

たしかにちょっと置いてけぼりにしすぎたかな。

 

優希「悪かったって、文も一緒に話そう? なっ?」

文「……」

優希「こ、困ったな……どうすればいいんだ?」

文「いつでもいいですから、今度は私の家にも遊びに来てください」

文「そしたら許してあげます」

優希「うっ、う~ん……」

 

女の子の家に、かあ……。

女子寮男子寮みたいなこことは違う分、ちょっと緊張するな。

まあ、でも……そんくらいで機嫌直してもらえるなら安いもんか。

 

優希「分かったよ、でも他の皆のとこにも行かないといけないんだ」

優希「結構先になるけど、それが終わったらでいいか?」

文「む~……お預けを食らった感じですが……」

文「それで手を打ちますかね」

椛「何が『それで手を打ちますかね』、ですか」

椛「拗ねた振りなんて子供みたいなことして」

優希「……え?」

文「ふっふっふ、言質は取りましたから撤回はなしですからねっ」

 

ニヤリ、と不敵に笑う文に俺は盛大にため息をつく。

は、嵌められた……。

別に俺にとってデメリットなわけじゃないから別にいいんだけど。

 

文「さて、佐伯さんを自宅に招待する約束もとれたことですし……」

文「少しだけ真面目な質問を良いですか?」

優希「ん?」

 

何やら一気に雰囲気が変わった。

そんな空気に、俺はちょっとだけドギマギ。

さっきまで安穏とした空気だっただけに。

 

椛「文さん、もしかして……」

文「ええ、聞きたいのはズバリ、『何故妖力を宿しているのか』ということです」

優希「……え? 俺??」

文「気づかれてないんですか?」

 

妖力って、たしか妖怪しか持ってないもんだったよな?

そんなもの、人間の俺が扱えるはずもない。

気づいてないも何も、そんなわけがないんだが。

 

優希「えっと、それっていつのことだ?」

優希「俺自身はさっぱりわからないんだが」

文「私たちが気づいたのは餓狼との戦いの前ですね」

椛「ほら、餓狼が佐伯さんを相手にうろたえていたときですよ」

優希「……あの時、か?」

 

文や椛に対してあの一言を言ったときのことだろう。

言われてみれば、あの時の事って結構うろ覚えだな。

飢狼のことを許せないという気持ちが前に出ていたってくらいか。

 

優希「ちなみに、今もその妖気って出てる?」

文「……意識してやっと分かる程度ですが」

優希「マジで?」

文「今までは意識してなかったんでわかりませんけど、今は確かに出てますよ」

椛「でも、あの時に出ていたのは文さんに劣らないレベルでしたよね?」

優希「……俺、人間だよな?」

文「何故本人が一番不安げなんですか」

優希「だって、俺自身そんなのまったく分かんないし」

優希「ずっと人間だって思って生きてきたから違うと言われても困る」

椛「ご両親も普通の人間だったんですか?」

優希「そのはずだよ? 少なくとも、人外だって聞いた覚えはない」

 

そもそもな話で、当時の俺が妖怪だとかを信じられたとも思わない。

今でこそこういう現実に直面してるから信じられるだけで。

そういうことを踏まえてあえて言ってなかったのだとしたらお手上げだ。

 

優希「……まあ、その上俺って一回転生してるだろ?」

椛「あっ、そういえばそうでしたね……」

椛「見た目の変化が髪の色くらいしか変わらないので忘れがちですが」

 

そうなんだよなあ……俺の今の髪色って薄い桃色。

転生した時の影響なのかはわからないがちょっと気になる。

俺自身の髪色は黒ってのが無意識にあるからかもしれない。

他のやつがどんな髪色でも、そいつらしい色なんだろうなで済むんだけど。

 

優希「……まあ、転生した時に何かあったのか、元からなのかは今は分からんな」

優希「一応、個人的な想いもあって紫に外の世界での俺のことを調べてもらってるけど」

文「あやや、そうなんですか?」

優希「ああ、俺自身はもう帰るつもりはないけどな」

椛「……佐伯さん」

優希「そんな深刻そうな顔をしないでくれ」

優希「仕方なくじゃなく、俺は俺の意思でここに残りたいって思ってる」

 

これは偽りのない本心だ、誤解はされたくない。

そういう思いも込めて二人の目を見てしっかりと伝えておく。

そんな俺の意思を汲んでくれたのか、二人も困ったように笑っていた。

 

文「私たち自身は残ってもらえるのはすごく嬉しいです」

文「けど、佐伯さんの心境を考えると素直に喜びづらいですね」

優希「そんなもんかな……割りと俺は吹っ切れてるぞ?」

椛「そ、そんな簡単に……」

優希「いやいや、俺なり真剣に考えて出した結論だぞ?」

優希「そもそも、一回死ぬ覚悟を決めた時点で帰ることを諦めてる」

椛「……」

優希「きっかけは突然だったけど、こっちに来れてよかったって思うよ」

椛「本当ですか? 少なくはない危険を浴びてきたはずですが」

優希「そうだな、そこは確かにその通りだよ」

優希「でも、それ以上にかけがえの無い出会いもあった」

 

文と椛の二人を見て、俺は軽く微笑みかけてやった。

やっておいてなんだけど、結構恥ずかしいな。

照れ隠しも兼ねて頬を描きながらその場を立つ。

 

優希「ちょっと、軽く皆の様子見てくる」

 

 

優希「ちょっと、軽く皆の様子見てくる」

 

そう言って立ち上がった佐伯さんは返事も待たずに部屋を出て行く。

去り際、彼の耳が真っ赤だったので恥ずかしかったのかな?

でも、それは残された私たちだって同じことだ。

 

文「……ずるいですよね、ああいうのをなんの打算もなくいうんだもの」

椛「無意識にジゴロの素質はあるかもしれないですね」

椛「文さんも熱心にアタックしてるみたいですし?」

文「そ、そういう椛はずるいのよっ!」

文「いつもいつも自然と相手にされてるじゃない?」

 

ムスッと頬を膨らませる顔は上司らしくもない。

あえて言うのであれば、女の顔をした年頃の少女だ。

……あまりに言うと藪蛇にもなりかねないからやめとこう。

お互いに無言のやり取りを終え、彼の出て行った先を見る。

何人かと親しげに話しながら笑う姿は輝いて見えた。

うん、あの人はいつだって笑っている姿が一番だ。

そんなあの人が、いつの間にか妖力を持っていた。

気にならない、といえば嘘になる。

だけど瑣末な問題だよね、あの人はあの人だもん。

空牙に冷やかされたのか、追いかけっこに興じる佐伯さん。

そんないつまでも和やかな風景を遠目に見ながら自然と笑う。

 

椛「平和、ですね」

文「ええ、いつまでもこんな時間が続けばいいと願えるくらいには」

 

平和な日常を願う。

なんとも妖怪らしからぬことを考えながら、時間は過ぎていった。

 

 

優希「ったく、お前ももうちょっと手加減ってのをだな」

空牙「悪かったって、謝ってるだろ?」

優希「まあ、俺も言うほど怒っちゃいねえんだけどさ」

 

談笑してるところを後ろから押された。

それだけ聞けば、興が乗った可愛いもんだといえる。

だが、『地面を削るレベルで吹き飛ばされた』後ではグチの一つもでようもんだ。

……我ながら、よく生きてたもんだと思う。

 

優希「やっぱ妖怪ってのはタフなんだな」

優希「まだ数日しか経ってねえのに骨治るか? 普通」

空牙「そりゃお前も似たようなもんだろ」

優希「俺のは能力で治してるだけだからな」

優希「お前の傷だって治したのは俺だけど、骨まではどうにもならん」

 

そう、俺の能力は便利なようで微妙にかゆいところに手が届かない。

傷の手当にしても、外傷は治せる。

だけど、骨と内臓関係に関しては自然治癒を高める程度に収まっていた。

何でもありな能力であるのは確かだが、それなりの制限もあるってことだろう。

 

優希「で? こんなところまで足を運んでどうしたんだよ、急に」

 

目的地についたところで、気になってた疑問を投げかける。

急に付き合ってくれ、と言われて連れだされたんだ。

目的地も聞かされてなかったが、九天の滝を目指してたのか。

 

空牙「お、おう……なんというかな、ちょっと相談があるんだよ」

優希「相談?」

 

目に見えてオロオロと落ち着きがなくなったな。

忙しなく周囲に誰もいないかを確認。

その上で更にもう一度確認してからようやくこっちを向いた。

一体何だというのか。

 

空牙「実はな……」

優希「お、おう」

空牙「……その、最近どうも要のやつが口うるさくてな」

空牙「どうにかできないかな、と」

優希「……はぁ?」

 

体操深刻そうな雰囲気を出しておいてこれか?

俺は呆れたのを隠そうともしないでため息をつく。

 

優希「……具体的には?」

空牙「やれ安静にしてろだの、やれ危険な任務に一人でいくなだの」

空牙「俺は隊長を任された身だ、呑気にしてられないだろ?」

優希「……」

 

口には出さずに額に手を当てて天を仰ぐ。

そ、そうか……こいつ、アレだけわかりやすいのに気づいてないんだな?

色恋に疎い俺だって分かるってのに、要のやつも不憫な。

だが、これは難しい問題だ。

答えをポンと出してやるのは簡単だが、それが必ずしもいいわけじゃない。

こういったものは当人同士で気づき合わないと意味が無いんだ。

あくまで、俺の主観も入ってるけどそう思う。

空牙のやつは今までまともに仲間内での会話もなかった。

特に、『好意』を受ける感情が鈍すぎるんだ。

あー、どうやって説明したもんか。

 

優希「いいか? 空牙……それはどうにもならん」

空牙「ええっ!? お前しか出来ないと思って相談したのに……」

優希「いや、最後まで聞け」

優希「口うるさいってのはそれだけお前を心配してるってことだ」

空牙「やっぱ俺って頼りないのか?」

優希「そういうことじゃない」

優希「喩え話をするとだな……俺とお前は友達だろう?」

空牙「おう!」

優希「じゃあもし、お前は俺が無茶をすると知ったらどう思う?」

空牙「全力で止めるな。無理でも協力する」

優希「そうなるよな? 多分要のやつも似たような気持ちなんだよ」

空牙「……でも、俺とあいつは友人ってほどじゃないぞ?」

 

こいつ……マジに言ってんのか?

あんだけわかりやすいアプローチ掛けられてるのにわからないと?

これは予想以上の朴念仁だな。

 

優希「あいつにとっちゃお前は恩人だろ」

優希「いい感情を持っていたとしても、悪い感情はもってないはずだぞ?」

空牙「うーん、まあそうなんだろうけどなあ……実感がわかねえ」

優希「……そりゃまあそうだろうな」

 

こいつからしてみれば急展開もいいところだろう。

だが、それはこいつが打算無しに取った行動が招いたもんだ。

これがもし下心満載なものならここまでにはならなかっただろう。

 

優希「まあ、そんなに心配なら一緒に行動すればいいとでも言ってやれば?」

優希「要、結構腕もたつし……器用だしな」

 

そう、要は白狼天狗の中では割りと高い位置に居る実力者だ。

とは言え、空牙や椛ほどではないらしいが。

しかも彼女は意外と家庭的なところも持っている。

家事炊事はもちろんのことも裁縫だって得意。

荒事の多い警備隊長の補佐としてはうってつけの配役とも言える。

などと適当な事をいい連ねてやると、それで納得してくれたらしい。

しきりに『さすが優希だな』とつぶやきながら頷いていた。

騙してるようで若干、いたたまれないところはある。

でもま、遠回しとはいえ友の幸せは願ってるから勘弁して欲しいもんだ。

 

優希「しかし、本当に色々とあったもんだよなあ」

 

崖っぷちに腰を下ろしながら、滝を眺めぼやく。

その横に立ちながら、空牙も苦笑い気味に頷いた。

 

空牙「……感謝してるぜ」

優希「なんだよ、藪から棒に」

空牙「多分、お前が居なかったら皆危なかった」

空牙「聞けば、文様たちも危なかったんだろう?」

優希「……まあ」

空牙「あの小狡い餓狼のことだ、いろいろ策を弄して作戦を結構しただろう」

空牙「その際にお前が居てくれたのが不幸中の幸いだ」

優希「よしてくれ、俺は当然のことをしただけで……」

空牙「そうか? それでも――」

 

空牙は不自然に言葉を切り、指をさす。

そんな動作に俺もつられて滝の方を見て――。

 

優希「あっ――……」

空牙「お前に感謝してる奴はいっぱいいるんだぜ?」

 

そこに整列するように並んでいた白狼天狗たちが目に入った。

照れてるやつ、笑ってる奴と色々いるが皆こちらに手をふってくれる。

思わずそれに手を振り返しながら、どういうことかと空牙を見た。

 

空牙「……ま、俺たちは感謝してるってこった」

 

恥ずかしげにゆらゆらと尻尾を振りながら頬を掻く。

……やれやれ、恥ずかしい奴め!

そんな悪態をついても、嬉しい事は確かだった。

本能に逆らえないように釣り上がる口の端が恨めしい。

 

空牙「ま、これから俺たちでたまにやる演舞をする」

空牙「だから見ていってくれないか?」

優希「ああ、もちろんだ」

空牙「そうか、人間に見せるのは初めてだが楽しんでいってくれ」

 

そう言って飛翔していく空牙を見送り、俺は滝を真正面に座り直した。

合流した空牙は2,3言交わした後恐らく持ち場と思わしき場所へ。

よーく見ると、中には椛の姿もあり、桔梗や要も居るようだ。

全員、それぞれの刀を持ち、構えに入る。

そのどれもがまったく違う構え。

振り下ろすものもいれば横薙ぎに振り払うものもいる。

最初はそれぞれの個人スペースでのそれぞれの型を見ていたが――。

 

優希「おお……」

 

徐々にそれが1:1、2:2、3:3の複数に変わっていく。

当たるか当たらないかというギリギリのラインを薙ぐ太刀筋。

見ていてヒヤヒヤするものがあるが、その流れるような動作の掛け合いに引き込まれた。

椛の場合は珍しいのか、盾を用いての弾き返しも見せている。

いつものいじられキャラっぷりはどこへやら。

悠々と刃を弾き、避ける彼女は隊長としての貫禄が見え隠れしていた。

実際余裕が有るのか、何度かこっちへの視線が感じられる。

 

椛『楽しんでくれていますか?』

 

そんな声が聞こえるような不安げな表情。

俺はそんな心配は微塵もいらない、という意味を込めて満面の笑みで親指を立てる。

 

椛『っ!』

 

一瞬、目を丸くしていたみたいだが今は演舞の最中。

気を抜けないレベルの駆け引き速度になってきていた。

それだというのに、椛の尻尾は忙しなくふられている。

その様子に気づいているのか居ないのか、相手は気にする素振りもなく続けていく。

演舞が始まって10分くらいしただろうか。

どうやら演舞も最後の盛り上げどころになったらしい。

椛と空牙の合図で、男女が一人交代になるように整列。

その全てが今は、九天の滝を見据えていた。

つまりは俺に対して背を向けている状況なわけだが……一体何を?

そう思っていた俺の疑問は、まばたきをした次の瞬間にかき消された。

 

優希「――はっ?」

 

何かの合図が聞こえたかと思えば、まばたきの間に滝が横一文字に割れていた。

誤解が無いように言っておくが、この滝はかなりの大きさだ。

かの有名なナイアガラの滝ほどではないにせよ、である。

それを20名足らずの抜刀の力のみで割ってみせたのだ。

しかもだ、遠目に見てもはっきりと水が断絶されているのが見えるくらいに。

唖然としていると、どんなもんよ、とでも言いたげな空牙の顔。

それ以外にも皆、誇らしげな顔でこちらを見ていた。

これには俺も応えるべきだろう。

立ち上がり、惜しげもない拍手を送る。

たった一人の人間の拍手なんて大した音は出ない。

だけど、皆の顔は満足気だった。

ハイタッチをする奴まで居る始末だ。

 

文「ずいぶんと練習していたみたいですよ?」

優希「……みたいだな」

 

最早いつの間にか横に立っていた文に驚くこともない。

ただでさえ素早い天狗の中でも随一と自負する彼女だ。

ま、それを除いても圧倒的な力を持った妖怪相手だからもはや当然だろう。

 

文「さっき空牙も言ってましたけど、佐伯さんが初めてですよ?」

文「この演舞を公開した人間は」

優希「良かったのか?」

文「良くなければ公開してませんよ」

文「それに、天魔様のお墨付きですから」

優希「旋風のか」

文「……天魔様を呼び捨てにする人間も佐伯さんくらいですよ」

 

呆れ半分、恐れ半分といった具合に苦笑。

うーん、実際餓狼を一瞬で塵に変えたんだ。

旋風だってかなり強いやつだってことは分かってる。

が、俺の知ってる普段の旋風があんな感じだ。

俺からしてみれば軽口の叩きあえる女友達みたいな感覚。

 

文「どうでしたか? 宿舎は」

優希「……いいところだよ。正直、もうここでもいいかなって思うくらいには」

優希「それでも、やっぱり色んなとこを見て回りたいんだ」

文「いいんですよ、そういうと思っていましたから」

 

わかっていた、という割に少しさみしそうな顔。

おちゃらけた雰囲気が多い文にしては珍しい。

そんな顔されるとちょっと罪悪感あるな。

と、思っているとすぐに表情を切り替えた。

 

文「これ以上しんみりしていてはいらぬ気を遣わせますからね」

文「でも、最有力候補……程度には考えてあげてください」

優希「ん、善処するよ」

文「そうしてあげてください」

文「椛だって珍しく張り切っていたんですから」

優希「ああ、分かってる」

 

さて、と……そろそろ俺からも何かしてやるか。

と言っても俺からできることなんてたかが知れてるわけだが。

あいつらの好みも考えれば『アレ』が一番だろう。

 

優希「おーい! 礼に今日は好きなもん出してやるぞー!!」

 

立ち上がりながら言った俺の言葉に、ここまで歓声が聞こえる。

やっぱりあいつらは食い意地張ってるわ。

こんだけ離れてるのに何を出してもらうか相談してるのが分かるレベルで。

そんな様子を見て文も笑っていた。

……餓狼のことを多少は思わなくもない。

出来れば、別の形で救ってやれたりも出来たんじゃないか、と。

 

文「前を向きましょう、佐伯さん」

文「悔やむ必要なんてないですよ」

優希「……やれやれ、何のことを言っているのかな?」

文「佐伯さんも案外意地っ張りですねえ」

 

愉快そうに笑う文にほんの少しの反発心も込めて頭を抑えてやる。

されるがままになっているので少しは落ち着いた。

なんか嬉しそうな顔してたのが気になったけど。

……そっか、そうだよな。

悩んだってしかたない。

あの時点では、俺がやったことは間違いではなかったと思いたい。

文の言葉に救われた……ま、素直に言葉には出してやらんけどな。

男には意地を張ってでも隠したいもんだってあるんだ。

ともあれ、これから忙しくなるな。

期待のこもった目がこちらに向いている。

さあて、言い出しっぺとして満足させてやらないとな!

俺はそんな気合とともに、宿舎へとつながる扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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