暫くの間お仕事や様々な理由から投稿ペースが落ちてしまうかと思われます。
そのことをここで報告させていただきたく思います。
さて、本編についてですが、今回は白玉楼でのお話です。
ただし、幽々子と妖夢だけでは寂しい感じがしたので追加キャラも用意してます。
まあ……お察しの方も多いと思われますが、続きは本編で!
第五話:
椛「寂しいですけど……また来てくださいね?」
優希「ああ、分かってる」
空牙「ここはもう、お前の家だと思ってくれても構わねえ」
空牙「何かあったらまたこい」
優希「そう言ってもらえるとよりやすいな、ぜひそうさせてもらうよ」
優希「それじゃあ、またな!」
名残惜しいのは何も皆だけじゃない。
俺だってやっぱり、寂しいと思う気持ちはある。
数日とはいえ寝食を共にしたのもあるしな。
そんな気持ちをとりあえずで吹っ切るために扉をくぐった。
椛たちに別れを告げてくぐった先に現れたのは――。
優希「……うん、やっぱここは肌寒いな」
日本庭園のような美しさを薄ぼんやりした霧が覆う。
そこは白玉楼……一応は死んだ者が集まる冥界に建つ。
外界はそろそろ夏にさしかかろうかっていう気温だけど……。
ここではそれにあわせた薄手のYシャツに綿ズボンでは寒いくらいだ。
いや、本当は寒いわけじゃなく、本能からくる寒気らしいんだけど。
と、もの思いにふけっていると建物の中から慌ただしい音が……。
妖夢「お待ちしていましたよっ! 佐伯さんっ!」
優希「……料理中だった?」
妖夢「……?」
妖夢「あ、すいません。包丁を握ったままでした」
恥ずかしげに手に持った包丁を持て余す妖夢。
最初の印象がアレだっただけに、ちょっとだけ身構えてしまった。
何かあれば斬れば解決すると思ってる、とかいう評価もあるらしい。
なんとも物騒な女の子だ。
優希「ってことは、幽々子さんが暴走する前につくらんとな」
妖夢「えっ、でも来たばっかりなのに……」
優希「ほら、俺の場合は望めば出てくるから気にするなって」
優希「それに、これからしばらくは厄介になるんだし」
妖夢「……そうですか、正直助かります」
疲れたような笑みを浮かべる妖夢。
色白なところも合わせて今にも倒れてしまいそうだ。
初対面の印象がなければ病弱と言われても納得できるだろう。
……今やそう思うことは到底できないが。
妖夢「そういえばですね、佐伯さん以外のお客さんも来てるんです」
優希「うん? 俺以外の?」
俺が来たことで料理を無理して作る必要もなくなった。
そのこともあって、妖夢とゆったりと幽々子さんのとこへ向かっている。
道すがら聞いたのが俺以外の客人の情報だった。
まあ、別に俺だけが泊まりに来るわけじゃないだろう。
……でも、ここの宿泊客ってことは。
優希「やっぱりその人も幽霊だったりとか?」
妖夢「幽霊も居ますね」
優希「も?」
『もう、小町! いくら休暇中とはいえだらけすぎです!』
『か、勘弁して下さいよ……映姫様ぁ』
優希「……なるほど、閻魔様と死神ね」
妖夢「あ、あはは……」
姿は見えないが声と内容だけで誰か判別が出来る。
幻想郷ひろしといえど、あんな問答するのはあの二人くらいだ。
つか、普通に呼び合ってたのも聞こえたしな。
何度目かの曲がり角を曲がったところでようやく件の二人が目に入る。
異変中も何度か見た、正座したお姉さんに説教する子供の図。
立場上は映姫のほうが上なんだが、初見では戸惑う図だな。
映姫「そもそもです、今日は佐伯さんが来る日ですよ?」
映姫「何なんですか、その破廉恥な服装はっ!」
小町「……それはアタイの服装が普段から破廉恥ってことですかね?」
映姫「屁理屈はいいのです! 今すぐに服装を正しなさいっ!」
小町「お、横暴ですよ~……そもそもアタイはこれしか持ってないんですって」
優希「……相変わらずだな、二人共」
映姫「邪魔をしないでください!」
映姫「今は説教の途中で……す……?」
優希「やっ、久し振り」
映姫「えええっ!?」
優希「ええっ?」
なんでそんなに驚くの。
まるでここにいるはずのない奴がいるみたいな目だ。
わたわたと焦っている姿は見た目相応な可愛い少女。
だけど、これでも閻魔様なんだよなあ……。
……ん? 閻魔?
優希「あれっ、そういや閻魔としての仕事は大丈夫なのかっ?」
映姫「へっ……ご、ごほん……! お仕事に関しては大丈夫です」
映姫「ちゃんとした休暇をもらいましたから」
優希「へえ、閻魔にも休暇ってあるんだな」
小町「権力に物を言わせたあれをそういうなら……」
小町「ああ、すいませんすいません! 何もいいませんからっ!」
優希「……あの二人っていっつもあんな調子なん?」
妖夢「え、ええ……まあ」
懺悔棒を振りかぶりながら力をためている映姫。
頭を抑えながら逃げ惑う小町。
言われなければ二人が姉妹だと言われても不思議じゃないな。
ルナサ「……騒がしい」
メルラン「いいじゃない、賑やかな方が楽しいわよ?」
リリカ「う~……ご飯が待ち遠しいよ~」
優希「……ん?」
ルナサ「うん? あなたは?」
眠そうな目をした金髪黒服の女の子の目が俺を捉える。
なんとなーく、目があってしまったので目線を離せなかった。
うっ、なんだろう……ずっと見てるとこっちまで眠くなる!?
メルラン「あら? あなたは生きてる人間さんよね?」
優希「あ、ああ……佐伯優希、一応人間だ」
メルラン「佐伯さんね! 私はメルラン・プリズムリバーよ!」
外野から声がかかったおかげでようやく視線を外す。
薄い青色のウェーブのかかった髪。
それを更に薄くした青色の服を来た少女だ。
こちらは金髪の子に比べるとテンション高めだな。
リリカ「人間? ただの人間がここに来られるわけないし~……」
リリカ「お兄さんは能力持ちなのかな?」
優希「ん? ああ、一応ね」
優希「えっと……?」
リリカ「あっ、まだ自己紹介してなかったよね」
リリカ「私はリリカ・プリズムリバーだよ」
優希「ということはもしかして3人は姉妹?」
ルナサ「……正解、私はルナサ・プリズムリバー」
抑揚のない声で『おめでとう』と言われるとなんとも不思議な気分。
こんなに気持ちがこもってないように感じるおめでとうは初めてだ。
だけど、悪意はない……少なくとも素がこうなんだとは感じた。
あんまり表情変わんない上にぼんやりした受け答え。
……ああ、不思議ちゃんポジションなのかな?
リリカ「ルナサ姉さんはいつもこんな感じだけど気を悪くしないでね」
ルナサ「……それ、どういう意味」
メルラン「ルナサ姉さんはいつも口数少ないからね~」
メルラン「おまけに陰鬱を操る音色の奏者のせいか性格もおとなしめだし」
優希「奏者?」
リリカ「うん、私たちは3人揃って楽団を開いてるんだ」
優希「へえ、楽団か!」
優希「幻想郷じゃあまり楽器を扱ってる奴っていないよな」
妖夢「そう言われてみれば、あまり居ませんね」
小町「ぜえぜえ……歌をうたう夜雀ならいるが、楽器は彼女たちくらいだろうさ」
優希「あ、お疲れ」
映姫「お見苦しいところをお見せしました、佐伯さん」
全体的にちょっとだけ乱れた映姫が悠々と帰ってきた。
おそらく、知らないところで説教をおえたんだろう……物理的に。
普段がきっちりしてる奴だから、こう髪の毛はねてたりすると面白いもんだな。
と、笑っている俺に気づいたのか不思議そうに小首を傾げる彼女。
うん、狙ってやってないのは分かるけどあざとすぎる。
優希「ほら、髪の毛跳ねてるぞ」
優希「それにスカートも汚れてる」
映姫「えっ?」
映姫「あっ、あわわ……」
手短に髪の毛を寝かしつけてやる。
スカート部分は……さすがにデリケートな部分だから本人に任せておこう。
俺はそこまで無神経じゃない……はずだ。
優希「で、なんで皆そんななんとも言えない表情を向けてるんだ?」
小町「いや、だってねえ……?」
メルラン「あはは、まさかあの閻魔様をこうも簡単に扱うとはね」
ルナサ「……仲良し」
映姫「~~っ!?」
映姫「み、みみみ、皆そこに正座しやがれです!」
小町「うわっ!? 映姫様が壊れた!!」
映姫「黙れってんですこんちくしょう!!」
幽々子「も~……私のご飯はいつやってくるのよ~……」
一同『……』
幽々子「あら? 佐伯くんじゃない、よく来たわね」
なんともマイペースな人だ。
あまりののんびりな雰囲気に飲まれ、気まずい沈黙。
その後に苦笑いを浮かべて冷静になった。
うん、さすがは有力者だ。
無意識に混乱を収めてしまうなんて!
幽々子「それより妖夢~! ご飯作りさぼらないでよ~」
幽々子「これ以上待たされたらおやつ全部食べちゃうんだから」
妖夢「ちょっ! それ買いに行くの私なんですよ!?」
幽々子「なら早くぅ」
映姫「……まったく、相変わらずだらしないんだから」
優希「ん?」
映姫「ほら、幽々子! 駄々こねないできちんと待ちなさい」
幽々子「う~……映姫のいけずぅ」
幽々子「今回だってあなたが頼みこむから泊めてあげたのに」
映姫「そ、それは……というかそれは他言無用のはずじゃない!」
優希「……なあ、小町。あの二人ってもしかして?」
小町「結構長い付き合いだよ」
にしし、と笑う小町の言葉になるほど、と頷く。
映姫は超がつくほどの真面目な性格だ。
どんな相手にも敬語を崩さないくらいには。
そんな彼女があそこまで自然体に話すんだ。
ただならぬ関係だとは思ってたけど、そっか……。
優希「友達なんだな」
小町「いんや、親友だとさ」
妖夢「ああ、閻魔様もそうおっしゃってくれていたんですね」
小町「というと、そちらの主様も?」
妖夢「はい、『恥ずかしいから面と向かっては言わないけど』と」
小町「はっはっは、こりゃまた……」
小町「言うことまで同じとは、とんだ似たもの同士だね」
優希「はは、そうだな」
仲良しなのはいいことだ。
互いのほっぺたをむにむにしあってる姿はまさに友達同士。
……友達だよね?
と、不安になっていると――。
『ぐ~きゅるるる……』
一同『……』
幽々子「……どうしてそこで皆黙るのかしら?」
幽々子「おまけに私を見ないでくれる!?」
妖夢「いえ、でも……」
腹ペコキャラの代名詞である幽々子さんだ。
しかも、お腹すいたって催促もしていた。
これは紛れも無く幽々子さんの……ではない。
多分だけど、さっきの音は割と近いところから聞こえた。
と、俺は視線を軽く後ろに向ける。
ルナサ「……お腹、空いた」
そこには、無表情でお腹を抑えた金髪っ子の姿が。
メルラン「ね、姉さん……もうちょっと我慢しよ?」
リリカ「そうだよ、すぐには出来ないから……ね?」
ルナサ「……」
優希「う……」
まるで飢えた子犬のような目が俺を見ている。
……なんだろう、この助けてあげなきゃってなる感情は!
俺はおもむろにアメリカンドッグを出して渡してやる。
すると、表情がわかりづらいけどほんの少しだけ嬉しそうなものになった。
見たことがないんだろう、いろんな所から見て最後にひとかじり。
ルナサ「……おいしい」
優希「そっか、それは良かった」
美味しいと分かったら後は夢中だ。
そんなに大きくもないもんだからあっと言う間に食べつくす。
小食そうに見えて割と食うんだな、この子も。
……ん?
リリカ「今、どこから出したの?」
メルラン「特にそんなのが出せそうなものも持っていないみたいだけど……」
優希「ああ、まあ……そういう能力なんだよ」
幽々子「あらあら、忘れてたわ!」
幽々子「佐伯くんが居れば食べ放題じゃないっ!」
優希「俺を食料担当みたいにいうのやめてくれないっ!?」
ただでさえ、行くとこ行くとこで食べ物ばっかだしてるんだから!
それ以外で使う場面なんて、せいぜい移動くらいだ。
……あれ? そう考えると間違いでもない気がしてきた。
妖夢「だ、大丈夫ですよ! 佐伯さんの能力は立派ですし!」
優希「ありがとう、妖夢……」
小町「まあ、危険なことがない今となっちゃ活用の場が狭まるのはしかたないさ」
映姫「ええ、それに……」
優希「?」
映姫「『そういうことにしか使わない』……」
映姫「そこが佐伯さんの良い所です」
優希「……?」
しょうもないところに使ってるって所だろうか。
いや、食事を出すのだって状況次第じゃ重宝されるだろう。
優希「でもさ、折角こんな力があるんだ」
優希「もうちょっと皆のために有効活用出来ればいいと思うんだよなあ」
そう、この能力は何でもありではある。
だけどその何でもありってのも使い手の想像力次第だ。
そういうのに乏しい俺では、短絡的に料理を出すとかが多くなっちゃうわけで。
うーん、もうちょっと能力の使い道を考えないとな。
映姫「本当に……佐伯さんは……ですね」
優希「ん?」
映姫「いえ、なんでもありませんよ」
映姫「それより、早くお昼にしませんか?」
幽々子「そうよお! 佐伯くんが居るなら私、本気出すんだから!」
優希「おいおい……まあ、俺はいいけど」
妖夢「あ、あまり無理はしないでいいですからね?」
優希「まあ、問題ないよ」
優希「……ん」
リリカ「? どうしたの、お兄さん」
優希「ん、いや……ちょっとな」
優希「大したことじゃないから気にしないでくれ」
『ふーん?』と、とくに怪しむ様子もなく頷いてくれた。
まあ、とくに隠すようなことじゃないんだが……。
優希(……能力を使った時のフィードバックが和らいでる?)
そう、会話の最中でなんとなーく感じていた違和感。
その正体がそれだ。
俺は前と違って能力による体力消費が激しい。
食べ物関係ならまあ、余程じゃなければ大丈夫程度。
だけど、長距離移動するほどの扉は違う。
転生直後に使った時は、それこそめまいを起こす程だった。
それが今はほぼ何の問題もなく感じる。
そう、まるで息を吸うかのように自然と出せた。
……妖力を出せるようになった、というのも関係してるのかな。
テンション高めの皆の後ろをついてあるきながら、そんなことを悩んでいた。
朝食とも昼食とも言える中途半端な時間。
そんな時間に始めた食事は、昼を超えた頃にようやく終わる。
小規模で宴会を開いたって言われても頷けるくらいの食事量。
それらの大半が幽々子さんのお腹に収まった。
なんであんなに食ってるのに太らないんだ。
と思っては見たけど、よく考えたらあの人亡霊だもんな。
優希「……それで、君たちはどうしたの?」
今は自由にしていいってことで廊下を歩いていた。
そんな俺の後ろをついてくるのはあの楽団のプリズムリバー姉妹だ。
彼女たちは異変の最中に遭うことはなかったっけ。
そのせいか彼女たちに対する知識は一切ないんだよな。
と、尋ねられて彼女たちはこちらを見上げている。
……なんだろう、背丈的に見れば妹が3人出来た気分だが。
リリカ「えっと、私たちもちょっとよくわからないんだけど……」
メルラン「ルナサ姉さんがお兄さんについていくって聞かないのよ」
優希「ルナサが?」
ルナサ「……メルランのバカ、内緒って言ったのに」
メルラン「あれ? そうだっけ」
悪いことはしてないんだが、涙目のルナサをを見ると申し訳ない気分になる。
聞くに一番の年長者らしいんだけどな。
自分の胸元くらいにある顔に視線を合わせて頭をなでてやる。
感情の読み取りづらい金色の瞳に自分の顔が写っていた。
何度か落ち着かせるように撫でてやると。
ルナサ「ん……もう大丈夫」
優希「大丈夫か?」
ルナサ「優しいね、佐伯さん」
撫でていた手を取り、控えめな笑顔を見せてくれた。
優しい、か……。
泣かれたりするのが嫌っていう自分本位な行動だったけど。
まあ、そう思ってくれてるのを否定するほどじゃないか。
メルラン「ごめんね、佐伯さん」
リリカ「普段はあまり積極的じゃないんだけどなー」
優希「いや、大丈夫だよ」
優希「もっと破天荒なのと知り合いだし、ルナサくらいなら可愛いもんだ」
その筆頭格に位置する文の顔を思い浮かべて苦笑い。
あいつはあいつで悪気はないんだが、礼儀正しく迷惑かけてくるのもすごいよな。
それだけ、新聞づくりに熱心なんだろうけど。
優希「それで、俺に何か用だった?」
ルナサ「……お礼」
優希「お礼?」
ルナサ「ご飯ごちそうしてくれたお礼、演奏を聞いて欲しい」
メルラン「そ、そういうことなら私たちにも言ってよ」
リリカ「そうそう、姉さんの演奏をソロで聞いたら大変なことになっちゃうでしょ?」
優希「大変?」
リリカ「あー……とね?」
リリカ「私たちの演奏にはそれぞれ、感情を揺さぶる能力が込められてるんだ」
メルラン「私で言うならテンションが上がっちゃうわよ」
優希「テンションが上がる……別に悪いことじゃないような?」
リリカ「上がりすぎて、面倒くさい感じになるレベルだよ?」
優希「そ、そうなのか?」
優希「じゃあルナサにもそういう力が?」
ルナサ「私のは逆に落ち着く演奏」
メルラン「姉さん、美化はよくないよ」
リリカ「ルナサ姉さんのはメルラン姉さんのとは真逆だと思ってくれたらいいかな」
優希「真逆……落ち込んじゃうとか?」
リリカ「うん、うつ病に近い感じ」
うつ……そこまで行っちゃうのね。
なるほど、そうなると二人の演奏を聞くのはまずいわけか。
お礼として聞かせたいってことだろうけど……ん?
優希「じゃあ、リリカちゃんは?」
リリカ「なんで私だけちゃんづけ……えっと、私のは調和だよ」
優希「調和?」
メルラン「私の噪の気と姉さんの鬱の気を緩和してくれるの」
ルナサ「つまり、普通の音にしてくれる」
優希「ああ、それでソロで聴いたらって言ってたのか」
なるほど、この三人が楽団を開いてるのはそういうのもあるのか。
優希「そうか、そういうことならぜひ聞かせてもらおうかな」
リリカ「ほんと? 時間は大丈夫?」
優希「大丈夫大丈夫」
優希「こっちに来てから音楽らしい音楽は聞いた覚え無いから楽しみだ」
実際、幻想郷ではあまり音楽を聞かない。
良くも悪くも、自然の音が多いんだよな。
それが悪いとは言わないけど、娯楽に適度な音は欲しい。
そういう意味じゃ、ここで彼女たちと会えたのは良かった。
早速ということで、彼女たちを連れて幽々子さんのところへ。
演奏はそれなりに騒がしくなるため、許可がいるんだとか。
ルナサを筆頭に許可を求められた幽々子さんはというと――。
幽々子「あら、いいじゃない。妖夢におやつ用意してもらわないと~」
と、予想以上に乗り気で受けてくれた許可は嬉しい。
嬉しいんだけど、いいんだろうか。
ルナサたちは許可されたことを喜びながら準備に。
まあ、演奏って言ったら楽器使うわけだし準備もいるよな。
そんな道すがら妖夢たちと話しながら歩く。
妖夢「あまり深く考えないほうがいいですよ?」
妖夢「あの人は感性の赴くままに動きますから」
優希「……それでいいのかあの人は」
映姫「幽々子は知り合った時からああなのです」
映姫「……でも、私はそれで良いと思いますよ」
優希「?」
いつもは些細な事でも説教の種にする映姫。
そんな彼女がほんの少しだけ顔に陰りを見せてうつむく。
しかし、その違和感もすぐに消えていつもの凛とした顔に戻る。
映姫「さあ、そうと決まれば私たちも参加しましょう」
優希「あ、ああ」
小町「騒霊の演奏なんて宴会の時以来だねえ」
優希「えっ? 宴会の時に居たのか?」
妖夢「佐伯さんは色々と大変でしたからね……気づかなくても無理は無いと思いますよ」
そうか、あの場にはいたんだな。
もしかしたら向こうからしたら顔はしってたのかもしれない。
そうじゃない可能性もありうるけど。
場所は結局、西行妖の下で行うことになったらしい。
この桜、見た目は綺麗な桜の木だが実はとんでもないもんなんだとか。
満開に近づくに連れ人を死に誘う能力を持っている、と短く聞かされた。
大丈夫なのかとも思ったけど、今は封印されてるらしい。
俺の心配は何のその、ルナサたちは桜の木の下で軽い演奏を始めていた。
いわゆる慣らしってやつだろうか? 詳しくないから知らないけど。
時折聞こえてくる単体の演奏。
それらをきくと何故か気分が上がったり下がったりする。
……はっ、まさかこれが説明してたやつか!?
見ると妖夢たちも似たような感じになっている。
妖夢「な、慣れませんね……この感覚」
小町「どうにも調子が狂っちまうねえ」
優希「俺もなんか……ああ、なんか気だるく……」
優希「と思ったけど盛り上がってきたぜええ」
直後素面に戻されて微妙な空気に。
皆も経験があるんだろう、同情の笑みを浮かべられた。
な、なるほど……単体ずつで聞くとこんなことになるんだな。
さっきまでの自分を思い出して顔が熱くなる。
ああ、穴があったら入りたい。
リリカ「さあ、皆! 準備が整ったよ~!」
メルラン「めいいっぱい演奏するから楽しんでいってねっ!」
ルナサ「……頑張る」
それぞれの楽器を構え……ない?
というか、楽器が中に浮かんでいる。
目を丸くしていると、それに気づいたリリカちゃんが笑う。
リリカ「そういえば言ってなかったよね」
リリカ「私たちの能力は手足を遣わず演奏する程度の能力だよ」
優希「あっ、それで」
なるほど、それでかは分からないが宙に浮いてるのか。
つまりはそれが彼女たちにとっての構えになるようだ。
リリカちゃんはキーボード。
メルランはトランペット。
そしてルナサはヴァイオリンか。
それぞれの性格がよく出ているというべきかもしれない。
用意された観客席に座ったまま、静まるのを待つ。
そして――。
優希「っ!」
音が弾ける。
まずは最初に3人全員によるサビと思われるメロディー。
調和されたその音はさっきみたいに情緒不安定にさせるものじゃない。
どこまでも透き通っていて、すとん、と心に入ってくる。
音楽知識はほぼない俺には表現しきれないが、すごいとしか言いようがない。
ちょっとしてサビから抜けたのか、ルナサのヴァイオリンソロ。
言うまでもなく気分が落ちてくるが、さっきの音で興奮仕切った俺には丁度いい。
合間に適度にリリカの音が混ざることで程よい落ち着きを持たせる狙いのようだ。
徐々に盛り上がる頃合いになり、ソロがメルランのトランペットへと移り変わる。
落ち着いていた気分がだんだんと高揚してくる。
優希「すげえ……」
そんな言葉が自然と出てくるほどの音楽だ。
ドンドンと盛り上げるを見せる音は最後にトリオでしめられる。
余韻に浸るかのようにゆっくりと消えていく音。
それを楽しんだ後、俺は惜しげも無く拍手を送る。
遅れて、他の皆も満足気な拍手を送っていた。
優希「こんな音楽初めて聞いたわ、すごいな!」
リリカ「えへへ、そう?」
優希「ああ、一人ひとりの個性を活かす所が特にな」
優希「落ち着かせたり盛り上げたりのポイントがうまかったよ」
メルラン「いやあ……そこまで褒められると嬉しいな」
メルラン「ね? 姉さん」
ルナサ「……お礼、出来た?」
優希「ああ、またぜひ聞かせてくれよ」
ルナサ「……うん」
ほんのりと頬を染めて頷き、両手で帽子を抑えながら顔を隠す。
何この生き物、すごく可愛いんだけど!
椛とはまた違った可愛さだな、うん。
いやあ、それにしても音楽っていいな。
吹奏楽部の奴らが楽しそうに演奏してたのも分かる気がする。
幽々子「相変わらずいい演奏ねー」
メルラン「ありがとうございます!」
幽々子「ふふ、お礼というわけではないけれどゆっくりしていって頂戴」
幽々子「大抵のことは妖夢に聞けば分かるから」
妖夢「……分かってましたけどね」
映姫「こら、幽々子! あなたはまたそんなことを……」
小町「まあまあ、映姫様。硬いことは言わないでおきましょうよ」
小町「久しぶりの休暇なんですから」
映姫「休暇とはいえ、締める所は締めないと……」
幽々子「何よ~、自分だって演奏中は子供みたいにはしゃいでたくせに」
映姫「こ、子供じゃないわよ!」
映姫「ですよね!?」
優希「えっ? いや……あはは」
笑ってごまかすしかない。
だって、両手を上げて目をキラキラさせてた相手だぞ?
それをはしゃいでない、とはさすがに言えない。
俺の反応が好ましくないのか、映姫は顔を真赤にして唸り始めていた。
……勘弁してくれ、まじで。
ルナサ「……演奏、楽しくなかった?」
映姫「うっ……」
ルナサ「じー……」
映姫「た、楽しかったです」
ルナサ「……よかった」
幽々子「ふふ、さすがの映姫も彼女には弱いみたいね」
小町「ちょっと意外な一面を見た気分ですよ、アタイは」
遠目にルナサたちの応酬を見ながらの会話。
確かに映姫がああも押されてるのは珍しいかも知れない。
大抵の相手に有無をいわさずに説教をするしな。
無表情ながらに、ルナサの目には何かを訴えるものがある。
あれを耐えられる奴が居るなら見てみたいもんだ。
幽々子「さ、今度はこっちの番ね」
幽々子「妖夢、とっておきのお部屋に案内してあげて頂戴」
妖夢「はい、任せて下さい」
優希「とっておき?」
妖夢「はい、特別なお客様のための部屋です」
妖夢「とはいえ、ちょっと広めなだけなんですけどね」
幽々子「ちょっと~、言わなきゃ分からないでしょ?」
映姫「変な見栄を張るからでしょう?」
優希「まあまあ、映姫もその辺で……な?」
映姫「む……そうですね」
気兼ねない仲だからこそ、すぐに争いがちだな。
折角、一時とはいえ生活を共にするんだ。
ギスギスした感じになるのは遠慮願いたい。
優希「……そういえばさ、ここって割りと人型の霊は少ないよな」
優希「ここにいて俺って害はないんだろうか?」
幽々子「その辺りは問題ないわ」
映姫「ええ、そうならないように限定的にこの周辺に結界を張りましたから」
優希「ええっ?」
つまり敷いてなければ害はあるってことだよねそれ。
無意識に自分の体にペタペタと触ってみる。
……うん、特に変わりはない……よな?
そんな様子を見てか、妖夢に少し笑われてしまった。
しょうがないじゃん、俺だって人間やめたいわけじゃないんだし。
優希「ま、まあ……とりあえず滞在の間は大丈夫なんだな」
妖夢「ええ、何十回も確認しましたから」
小町「ま、アタイも珍しく本気で手伝ったんだ」
小町「不備はないと自信を持って言っておくよ」
映姫「そうであって欲しいですね」
小町「そ、その反応はないんじゃないですかね……映姫様」
メルラン「そこの死神さんはよくサボってるって噂ですもんね」
ルナサ「サボりはよくない」
小町「うっ……!?」
映姫「身から出た錆です、受け入れなさい」
小町「ちぇ~……」
優希「ま、やる時はやるってことは分かってる」
優希「あの時は映姫を守ろうと必死だったもんな」
小町「ちょっ! そのことを話題に出さないでくれないかいっ?」
映姫「……ふふ、そうでしたね」
映姫「あの時、私は小町には助けられっぱなしでした」
ルナサ「あの時?」
幽々子「そういえばあなた達はあの時合流してなかったものね」
幽々子「その時のこと、良かったら話すわよ?」
優希「ちょっと、幽々子さん!?」
あの時のことはなるべく、記憶を戻さざるを得なかった相手のみにした。
それはあの時のことが辛い記憶として残ることを俺が危惧したからだ。
だが、それにたいして幽々子さんは大丈夫とでも言わんばかりに微笑む。
助けを求めようと妖夢に視線を写したが同じように返された。
むーん……仕方ないか。
ルナサ「……大事なこと?」
幽々子「そうね、大事なことよ」
幽々子「佐伯くんのことを知るためにもね」
ルナサ「! 聞きたい」
リリカ「一体何の話なのかわからないけど……」
メルラン「まあまあ、聞けば分かるんじゃないかしら?」
幽々子「ふふ、それじゃあ今から佐伯くんの部屋に集合よ」
一同「はーい」
優希「俺の部屋なのね……」
とはいえ、仮の住まいだからそこまで気にはしないが。
せめて、一声確認くらい取ってくれてもいいんじゃなかろうか。
そんなことを和気あいあいとした雰囲気で進む皆を見ながら思うのだった。