最近はいろいろと忙しい上、日常パートもあまりまともにかけてないなと
思っている悲しい今日このごろです。
今回のメインは多分小町と映姫。
第六話:白玉楼の恋事情
フォンッ、フォンッ……!!
優希「……んん~?」
雀の声が聞こえるってことは朝早くか。
こんな時間に一体何の音だ?
って……。
優希「……ここはどこだ?」
寝ぼけ眼のまま周囲を見回す。
ボリボリと寝ぐせだらけの髪の毛をいじっていてようやく思い出した。
そっか、俺は今白玉楼にホームステイしてんだっけ。
となるとなおさら、こんな風切り音がするはずがない。
ここは冥界の中だから普通は無風。
誰かが故意に起こしてない限りは風の音なんてないはずだ。
優希「……万が一ってこともあるし、見ておくか」
能力で出した濡れ布巾で顔を拭い、意識をしゃっきりさせる。
……よし、目え覚めた!
そんじゃあまあ、改めて注意して音の主を探してみますかね。
妖夢「ふっ、はっ!!」
妖夢「すぅ~……現世斬!!」
幾多の素振りを繰り返し、集中を高める。
その集中が最高潮に達したところで渾身の一太刀を放つ。
妖夢「……ダメだ、やっぱり師匠のようにはいかない」
力なく刀を背中にある鞘に戻す。
断ち切るつもりで立てておいた鉄塊には中程まで切れ込みが入っている。
だが師匠……お祖父様ならこの程度簡単に断ち切っただろう。
私には剣士として何が足りないのだろうか……。
こんなことでは、『あの時のような異変』に対応出来など出来はしない。
その度に誰かが傷つくのはもう嫌だ。
強くならないと……あの人の隣に立つなんてとても……。
……っ!? 足音!
妖夢・優希『誰だっ!?』
妖夢・優希『……へっ?』
………………。
…………。
……。
優希「やれやれ、そういうことだったのか……」
優希「すまん、変な早とちりしちまって」
妖夢「いえ、こちらこそ不審者かと思ってしまって……」
あれから、俺たちは互いに不審者が居ると勘違いしたことに気づいた。
お互いに謝り合い、照れくささに負けて吹き出した後ってわけだ。
優希「しっかし、まだ日も出てない時間なのに早いもんだな」
妖夢「そうでしょうか? 鍛錬のためいつもこの時間に起きてますよ」
妖夢「幽々子様の食事の準備も大変ですし……」
優希「ああ、確かにな」
あの人は底知れない胃袋の持ち主だ。
なんせ、普通なら大食いの男を10人くらい連れてきても足りる量。
それを涼しい顔して平らげた上におかわりを要求するレベルだ。
そんな人の食事を毎日用意してるなら大変極まりないだろう。
その上、毎日鍛錬も欠かさない……うーん、真似できないな。
妖夢「……佐伯さん」
優希「うん?」
妖夢「佐伯さんのその、趣味とかありますかっ?」
優希「……? まあ、人並みには」
妖夢「どんな趣味を?」
優希「えっ」
まさかここまで食い気味に聞かれるとは思わなかった。
別に死んでも答えたくないってわけじゃないけど……。
優希「……読書、かな」
妖夢「読書ですか?」
優希「ああ、俺は元々本好きなだけの人間だったからな」
優希「特に! 恋愛が絡む物はすきだな」
妖夢「れ、恋愛ですか……」
恋愛と聞いて、妖夢の顔がやや赤くなる。
おおう、初心だとは思ってたけどここまでか。
ほてった顔を冷ますように手で仰ぐ彼女は予想以上の生娘のようだ。
なんというか、よくある武道を嗜むキャラに通じるタイプだな。
優希「で、なんでまた急に趣味なんか?」
妖夢「あ、いえ……そのですね」
妖夢「佐伯さんはこちらに来て以来、娯楽などに困っているのではないかと思いまして」
優希「あ~、確かに外の世界と違って娯楽らしい娯楽ってないからな」
優希「でも、それ以上に妖夢や幻想郷の皆と過ごす時間は楽しいぞ?」
妖夢「ほ、本当ですかっ?」
優希「っ!?」
妖夢「ぁっ……」
俺の答えに身を乗り出す妖夢。
ただでさえ、隣に座っていたくらいの距離感。
それがさらに縮まって……つまり、彼女の顔が目の前にあった。
小さな丸顔も、驚いて見開かれた目も、小さな口も。
互いの息遣いすら近くに聞こえるほどの距離。
あまりのことに固まっていたのだが、先に動いたのは妖夢だった。
妖夢「あ、あ~! それじゃあ私は朝食の準備にいきますねっ!?」
優希「お、おう……」
顔を真赤にして、慌てるように縁側の廊下を走り去る。
途中、何かにぶつかったような音と小さな悲鳴が聞こえた。
……大丈夫かな、結構いい音したけど。
優希「……びっくりした」
何度かああいう状況になったことはあるが、やっぱり慣れるわけでもない。
特に今回は、相手も珍しかったから余計に。
最近、何かとこういうトラブル?が続いてる気がする。
女難の相でも出てたりしてな。
しかし趣味かー……こっちに来てからあまり本読んでないんだよなあ。
紅魔館に行った時は存分に読ませてもらうことにしよう。
優希「ん?」
小町「おや、早いねえ」
優希「そっちこそ」
優希「昼過ぎくらいまで寝てるイメージがあったよ」
小町「どんだけ睡眠キャラに仕立てあげられてるんだい、アタイは」
映姫「日頃の行い、というものだと思いますよ」
優希「お、映姫もか。二人共、改めておはよう」
映姫「ええ、おはようございます」
小町「おはようさん」
小町「そんで? 佐伯はこんなトコでなにしてるんだい」
優希「んー、強いていうならまったりしてる」
小町「まったりって……若いのにジジ臭いことしてるねえ」
優希「ほっといてくれ」
実際、こうしてボーっとしてられることってこっちじゃ稀だ。
いつでもどこでも、誰かしら横にいて何かしてることが多いわけだし。
たまにはここでお茶でも飲んで思索に耽るのもいいかもしれんな。
映姫「……あの、ですね。佐伯さん」
優希「うん?」
映姫「一つお聞きしたいのですが、佐伯さんはご趣味をお持ちなんですか?」
優希「……えっと、最近は趣味を聞くのがブームだったり?」
映姫「えっ? そうなのですか? 小町」
小町「そこでアタイにふられても……」
小町「ん~……アタイもそんな噂を聞いた覚えはないです」
映姫「ということだそうですけど……」
優希「ああうん、気にしないでくれ」
優希「さっき妖夢にも聞かれてな。短時間に二人ってのも珍しいなって」
映姫「……ふむ、そうでしたか」
『奥手とおもいきややりますね』ってつぶやいてるのが聞こえる。
……いまいち何を言ってるのか分からんけど知らん振りしといたほうがいいわな。
優希「話ならすわったらどう?」
映姫「そ、そうですね……失礼します」
優希「……」
小町「じゃ、アタイも失礼するかね」
右に映姫、左に小町が座る……それはいい。
なんでこっちの世界の女の子って距離感近いの!?
映姫は見た目が子供っぽいのもあってまだ冷静にいられる。
けど、小町はその……色々発育が良すぎやしないですかね!?
どことは言わないけど!
映姫「? 顔が赤いようですが、熱がおありなのですか?」
優希「っ!?」
映姫「ふむ……やはり熱いですね……」
映姫「体調が悪いのに動きまわるのは感心しません」
優希「い、いや……別に熱があるわけじゃない……んだけど」
小町「……や~、映姫様も見かけによらずやりますねえ」
映姫「何がです?」
小町「普通、熱を測るのにおでこつけますかね? 男相手に」
映姫「~~っ!!?」
そう、今俺は映姫におでこ同士をくっつけられているわけだ。
ということは映姫の幼さの残る、それでいて整った顔が目の前にあるわけで……。
あ、今度は映姫のほうが真っ赤になってる。
自覚なしにやっていたんだろうなとは思ってたけど。
だって、ちょっとしたことでも照れるこの子が意識してはこんなことしないだろう。
にしても、小町のやつ面白がってるな?
ニヤニヤと意味ありげな視線を送ってくるのが腹立つ。
今日の晩飯を覚悟しておくがいい。
映姫「わ、わわわ、私は最善の方法をですねっ!?」
小町「え~? でも、別に手でもわかりますよ」
小町「……映姫様ってば大胆ですね」
映姫「っしゃあ、その喧嘩買ってやろうじゃねえですか!?」
小町「ありゃ、いじりすぎたかね? ではさいならー」
映姫「小町!?」
映姫「……ぐぐぐ、逃げ足だけは早い!」
優希「逃げたところで晩飯の時に報いを受けてもらうから気にするな」
映姫「……ふむ、そういうことであれば私も何か協力しましょう」
いたずらっこのような笑みを浮かべる映姫。
なんだか微笑ましいな、真面目な子がいたずらに協力っていうのは。
だが、こいつはいつだって真面目すぎるからな。
たまにはこういうのもいいもんだろう。
優希「ふっふっふ、それなら今日限定で俺たちはチームだ」
映姫「ち、チームですか……」
優希「ああ、お互いに協力しあってあの死神をぎゃふんと言わせてやろうじゃないか」
映姫「……ふふ、そうですね」
映姫「徹底的にやってしまいましょう!」
優希「お、乗り気だな?」
優希「じゃあ早速作戦会議を――」
妖夢「あっ、佐伯さん……まだここにいたんですか?」
優希「おふっ、どうした?」
意気揚々と会議を始めようとしたところで寸止めされた。
むー、こういうのはノリが大事なんだが。
とはいえ別に妖夢にだって悪気があるわけじゃないだろう。
見ればいくらか出来上がった料理を両手に持っていた。
優希「っと、それ大変だろう? 手伝うぞ」
妖夢「あ、ありがとうございます……」
映姫「私も手伝いますよ。お世話になっているのですから」
妖夢「閻魔様にまで……申し訳ないです」
映姫「よいのですよ」
映姫「……そもそも、幽々子が食べ過ぎるのが悪いのですから」
妖夢「本当ですよ……閻魔様からもなにか言ってやってください」
映姫「言ってますよ、何度も」
優希「言ってはいたのか」
映姫「それでもあの子、『亡霊は太らないからいいの~』とか言うんですよっ?」
映姫「……張り倒したくなります」
妖夢「ですよね……私だって食事制限してるのになんで幽々子様だけ」
二人は切なげなため息をついていた。
……女性に聞いてはいけないタブーの一つ、体重の話ってやつかな。
でもな~……。
さり気なく二人の体を見て思うが、華奢過ぎる。
むしろもっと食べて、もう少し肉をつけたほうがいいと思う。
妖夢「あ、あの……佐伯さん? 私たちに何かついてますか?」
映姫「女性にあまり不躾な視線を送るものではありませんよ?」
優希「うっ、すまん」
さり気なくみてたつもりだけどバレてたみたいだな。
よく、『女は男の視線に敏感』って聞いたことあるけど本当だったとは。
今後は失礼なことが内容にしとかないと。
優希「……まー、あれだ。二人はダイエットしてるのか?」
妖夢「うっ……やはり太って見えますか?」
妖夢「実はこの前の宴会の時から少しだけお腹まわりに……」
映姫「私もです……0.5キロも増えてしまいました」
優希「たったの0.5キロじゃ……」
妖夢・映姫「0.5キロを甘く見てはダメです!!」
優希「……すいません」
何故か怒られてしまった。
彼女たちにとっては由々しき問題なんだろう。
この辺、男女の間で理解に溝があるよな。
優希「でもさ、二人共気にする必要ないんじゃないか?」
優希「むしろもっと食べておいた方がいい」
映姫「な、なんということを言うんですかっ」
妖夢「そうですよ、佐伯さんは私たちをだるまにしたいんですかっ!?」
映姫「……はっ! だからあんなに美味しいものばかりだすんですねっ!?」
優希「あらぬ誤解を受けている」
優希「俺がいいたいのは、二人共細すぎるってことだよ」
妖夢・映姫「えっ……?」
優希「なんだよ、その信じられないって感じの顔は……とと」
角を曲がったところで人魂が来たので驚いた。
その時に落としそうになった料理を持ち直す。
やれやれ、直接ぶつかるわけじゃないけど冷やっとするからなれないんだよな。
優希「二人共細くて華奢だろ? なんか倒れそうで危なかっしい」
妖夢「……太ってませんか?」
優希「少なくとも、二人共太ってるようには見えないな」
映姫「そ、そうですか?」
優希「とはいえ、それは俺の主観だからな」
優希「二人がそうでないというならなんとも言えないけど」
映姫「いえ、悩みは解決しました」
妖夢「ええ、私もです」
優希「そ、そうか?」
妖夢「ええ」
映姫「はい」
なんだかさっきまでのどんよりした空気が嘘のように晴れ晴れしてる。
一体何があったんだろうか……。
ま~、自分では太ってると思い込んでいただけで周りから言われたら安心したのかな?
と、勝手に結論づけて諸くまへの道を歩くのだった。
優希「書庫がある!?」
それは食事が済んで、妖夢の淹れてくれたお茶を飲んでいた時だった。
唐突に告げられたその驚愕の事実に思わず声が上ずる。
い、いかん……久しぶりに本が読めると思ったら少し興奮してしまった。
幽々子「その様子を見るに、相当好きなのねえ」
優希「……まあ、大好きだな」
幽々子「ほとんどが技術書とかだけれど、そうでないものもあるはずよ」
幽々子「妖夢、良かったら案内して上げなさい」
妖夢「あ、はい」
妖夢「何か注意事は有りますか?」
幽々子「そうねえ……特にはないわね」
優希「本を汚さず、折り目を付けず!」
妖夢「そうしていただけるとありがたいです」
優希「当り前だっ! 本を読ませてもらえるなら当然の約束ごとさ!」
小町「な、何かテンションがおかしくないかい?」
ルナサ「……下げる?」
リリカ「やめたげてよぉ」
メルラン「ならあげちゃう?」
リリカ「なんでそうなるのっ!?」
小町「……そんな羨ましそうな顔しないでくださいよ」
映姫「べ、別に羨ましくなんてないですっ!」
周りが色々言っているが、あまり耳に入らなかった。
ああ……! どんな本があるんだろうか!
妖夢「それじゃあ行きましょうか、佐伯さん」
優希「おう! 頼むな、妖夢!」
妖夢「っ! は、はい」
優希「楽しみだなあ」
子供っぽいレベルでテンションが上がってるは自覚してる。
けど抑えきれない楽しみってのはあるもんだ。
恋愛物があればいいんだけど、どうだろうなあ。
妖夢sise
佐伯さんと一緒に廊下を歩きながら、私は必死に荒くなった鼓動を抑えていた。
とはいうのも、さっきお願いされた時に握られた手。
そして、彼の普段はあまり見かけない無邪気な笑顔のせいだ。
あれをセットで真正面から受けたらこうなっても仕方ないと思う。
それにしても何なんのだろう、この感情は。
息苦しいくらいに鼓動は早くなっているのに、嫌じゃない。
むしろもっと感じていたいと思ってしまう。
妖夢(私、どうしちゃったんだろう……)
変化を実感し始めたのはつい最近。
そう、あの男狂異変の最中に佐伯さんと知り合ってからだ。
最初は他の男連中と同じだと思い、斬りかかってしまった。
彼の腕を成仏させ、死に至らしめるような眼にもあわせてしまった。
だけど、彼は困ったように笑って私を気使ってくれたっけ。
その頃からだ、漠然と彼が気になって鼓動が早くなるようになったのは。
優希「なあなあ、妖夢っ」
妖夢「ど、どうしました?」
優希「いや、なんか待ちきれなくてさ」
優希「すまん、ちょっと落ち着かないと」
深呼吸しながら落ち着こうとしているみたいですね。
普段から落ち着いているわけではないですが、ここまでではない。
それほどに佐伯さんの中で本というのは大事なものなのでしょうか。
私よりも?
……そう考えていると不思議と胸がチクリと痛む。
優希「……大丈夫か?」
妖夢「? なにがですか?」
優希「いや、なんか顔色が良くなかったからさ」
優希「体調悪いなら無理するな?」
妖夢「そ、そう見えましたか?」
どうやら心配させてしまったようです。
ダメダメ、折角佐伯さんの役に立てるというのにこんなことでは!
私は気分を入れ替えて彼の背中を押す。
優希「お、おいっ?」
妖夢「無用な心配はいりませんよ、さあ行きましょうっ」
優希「ん~……本当に大丈夫そうだな」
妖夢「そう言ってるじゃないですか」
まあ、実際は少しだけおかしいんですけどね。
とはいえ、今のところは深刻なレベルではないようです。
さあ、張り切って佐伯さん好みの本を探すとしましょうか!
さっきまで胸に感じていた痛みはいつのまにか感じなくなっていた。
どうにも厄介なものです、この感覚は。
優希side
いやあ、豊作豊作!
あれから通された書庫はそれなりに心躍るものだった。
中でも驚いたのが外来本……つまり外の世界の本だ。
読みかけで終わっていたシリーズが一巻から完結まで揃っていた。
今はそれを持ちだして部屋へ戻る最中である。
ちなみに妖夢は庭の手入れがあるからと途中で別れた。
優希「後でお礼言わないとなあ……ん?」
幽々子「あらあら、その顔から察するに良い物見つけられたかしら?」
優希「幽々子さん! お陰様でっ!」
10冊ちょいあるライトノベルを抱えながら頷く。
これでここにいる間、暇な時間は繋げそうだ。
改めて書庫を開けてくれた幽々子さんに感謝しておく。
本人は大したことないと朗らかに笑っていた。
幽々子「なら、今晩の夕食は期待していいかしら?」
優希「ええ、腕によりをかけて……てのもおかしいですけどね」
優希「思う存分ふるってやりますよ!」
幽々子「うふふ……楽しみねえ」
幽々子「ジュル……あらやだ、涎が」
優希「こういうのもなんですけど、女性としてどうなんですかね」
幽々子「もー、佐伯くんの出す料理が珍しくて美味しいからダメなのよ!」
優希「ええっ?」
思わぬ言いがかりもあったものだ。
しかし、そう喜んでもらえると能力冥利に尽きるというもんだ。
……つくづく、飲食関係に遣われてることが多い気がするが。
ん? 晩飯……。
優希「あっ」
幽々子「あら、どうしたの?」
優希「いや、映姫と約束しててさ」
優希「ちょっと小町へのお仕置きの打ち合わせを」
幽々子「あまりやり過ぎないよにね?」
幽々子「あれでも小町ちゃん、打たれ弱いんだから」
優希「かるーくお灸据えるだけですよ」
そう、朝飯からの書庫の流れですっかり忘れてた。
あの小町にしっかりとぎゃふんと言わせないと。
って、そういえば俺映姫の部屋知らないんだっけ。
優希「映姫ってどこにいるんですか?」
幽々子「映姫なら佐伯くんのお部屋から4個隣よ」
優希「あれ、まじですか?」
幽々子「ええ、周辺に部屋をとっておいたほうが交流しやすいでしょう?」
優希「配慮は有り難いんですけど……俺が男なのは理解してます?」
幽々子「ふふ、佐伯くんがそういうことしないのは十二分に分かっているわ」
幽々子「だからこその配備よ」
優希「そうでしたか」
そう言われては仕方ない。
信頼されているならその信頼を裏切らないようにしないとな。
俺はその後軽くお礼を言って幽々子さんと別れた。
優希「俺の部屋の4つ隣ってことは……ああ、ここか」
一度本を置きに部屋へ戻った俺は、再び部屋を出ていた。
理由はもちろん、映姫との作戦会議のためだ。
左右どっちかと思っていたが、見たら一発で分かった。
入り口の前に映姫ちゃんの部屋と書かれた看板があればそりゃね。
俺はそれを確認してから数回ノックをする。
すると、そうしないうちに短い返事と共に麩が開けられた。
映姫「どちら様で……佐伯さん?」
優希「おっす、映姫。作戦会議しようぜ」
映姫「作戦……ああ、なるほど」
映姫「では中へ」
一瞬、きょとんとしていたところを見ると忘れてたのかな?
でも中へといった時の映姫の口が釣り上がってたのを見逃さない。
部屋の主に承諾ももらえたので中に入る。
やっぱりというか、映姫の部屋にはホント何もない。
いや、最低限の家具一式はあるよ?
でもそれ以外のものってホント、カバンくらいのもんだ。
まあ、ひとまずの宿だからそうなるんだろうけど。
と、部屋を見ていると映姫は不安げにしていた。
映姫「どこか気になるところがありましたか?」
優希「ん? いや、別に」
優希「やっぱ仮宿ってなると、こういう感じになるよな」
映姫「こういう感じ?」
優希「なんというのか、こう……生活感がないっていうのかな?」
映姫「……ああ、なるほど」
映姫「私物もほぼないですからね」
言わんとすることがわかったのか、映姫は座りながら苦笑。
どこに座るか迷ったけど、座布団の置かれていた向かい側に座る。
さて……。
優希「どうこらしめてやろうか、あの死神さんめ」
映姫「そうですねえ……小町は大抵のことならのらりくらりとかわしますからね」
優希「変なところだけ高スペックだな」
映姫「そういったところを純粋に仕事に向けてくれたらいいんですけど……」
優希「それは……難しいかもな」
あいつはどう言っても暖簾に腕押しだろう。
とはいえ、大事な局面じゃちゃんとしている。
そこは評価できる点だとも思っているけどな。
だが、それはそれである。
優希「そうだなあ、とりあえずわかりやすいので言えばしょぼいのだすとか?」
映姫「例えば?」
優希「白ご飯の上にめざし一本のっけとくとか」
映姫「……周りが豪勢な食事をしているところにそれはきついですね」
映姫「特にその、佐伯さんの出すのはここでは味わえないものが多いですし」
優希「ああ、外の調理法やらが独自にあるからなあ」
おまけにこっちじゃ機器もなければ素材もないだろう。
そういう意味じゃ、調理法知ってても俺抜きじゃ味わえないだろうな。
紫さんなら可能だろうけど。
優希「ちなみに映姫は何か気に入ったものがあった?」
映姫「そうですね……あのでらっくすぱふぇ? というのが」
優希「……おおう」
マジか、思ったより女の子したもんを出してきたな。
てっきり煮物とかさっぱりしたものかと思ってたけど。
やはり映姫も女の子ということか。
映姫「後は焼きおにぎりも美味しかったですね」
映姫「あれから、何度か個人的に作ったりもしていますが」
優希「あれ、焼きおにぎりってこっちにはなかったの?」
映姫「ええ、調理法自体はとても簡単なのですが」
映姫「そのまま食べれるおにぎりを更に焼く発想がなかったのですよ」
優希「あー……そう言われたら納得もできるような?」
実際、なんでおにぎりを焼こうとか思ったんだろうな。
普通に生活してて、存在を知らなきゃわりと気づかん部類だ。
優希「小町は何が好きだって?」
映姫「えっと、確かたこわさとか、スルメイカが美味しいといってましたね」
優希「オヤジかあいつは」
言われてみればアイツも結構酒が好きな方だ。
そういう意味で、つまみになるようなものが好みなんだろう。
幻想郷に海がないらしいからその二つは食べれないだろうしな。
美味そうに食ってたっけ、アイツ。
そう思っていると、なんだか仕返しとはいえやるのが忍びなくなってくる。
ふと映姫の方を見ると、彼女も浮かない顔をしていた。
優希「……なあ、映姫」
映姫「……やめましょうか?」
優希「そうだな」
やっぱり俺は皆が笑って居るほうが好きだ。
だからこそ、一時とはいえ悲しませたくはない。
あんな屈託なく笑う死神を落ち込ませるのはちょっとな。
と、思っていると麩が叩かれた。
映姫「? どうぞ」
小町「失礼しま……て、ありゃ? あんたも居たのかい」
優希「おう、ちょっとな」
小町「そりゃまあ……調度良かったかね」
丁度いい?
二人揃って首を傾げていると――。
小町「さっきは悪かった! ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ」
そう勢い良く頭を下げた。
いつものからかい半分のではない、真面目なスタイルで。
それを見て俺と映姫は数秒目を丸くしてから吹き出した。
小町「な、なんで笑うんだいっ?」
優希「いや、なんていうかさ」
映姫「ふふ、気にしなくてもいいのですよ小町」
映姫「貴女がそういう人なのはよく分かってますから」
小町「ええ~……なんか不名誉な感じですね」
仏頂面で髪をかきむしる姿はガサツに見える。
だけどまあ、彼女は彼女なりにさっぱりとしたいい性格をしているな。
気恥ずかしそうに鼻の頭をかく小町を見てそう思えた。
思わぬ仲直りもできたわけだし、ご褒美でもだしますかね。
優希「んじゃ、飯前だからあまり派手なのは出せないけど」
優希「ほれ、ミニパフェとスルメイカ」
映姫「っ! ぱ、ぱふぇです!」
小町「おっ、こりゃ前くったつまみじゃないか」
小町「噛めば噛むほどってのが気に入ってるんだよねえ」
優希「そりゃ何より」
目を輝かせてパフェを頬張る映姫。
口の端からイカの足をのぞかせながら笑う小町。
そんな二人を見て、俺も頬を緩ませながらせんべいをかじった。
うん、やっぱせんべえは海苔巻きに限る。
映姫「……もう無くなりました」
映姫「佐伯さん」
優希「おいおい、もうちょっとしたら昼飯だぞ?」
映姫「う~……」
小町「ちょっ、映姫様何も泣かなくても……」
映姫「な、泣いてなんかないです!」
目の端に涙をにじませながら言われても説得力はない。
おまけにほっぺたにクリーム付けたまんまで威厳もなかった。
俺は笑いながら映姫のほっぺたについてたクリームを指で掬う。
そのまま何の気無しに口へ運んだ。
映姫「っ!?」
小町「ありゃ、佐伯ってば……」
優希「うん? なんかまずかったか?」
まさか横取りとか思われた?
いや、そこまで映姫も子供じゃないだろう。
時々そう思えるくらい暴走することはあっても。
苦笑いを浮かべる小町に対して、映姫は顔真っ赤だった。
優希「? おかわりいるか?」
映姫「お、おねがい、します……」
優希「でもこれで一旦終わりな?」
優希「これで昼飯クエなかったら、折角作ってくれてる妖夢にも悪いしさ」
映姫「え、ええ……」
まだ多少は顔が赤かったけど、映姫はまたパフェを食べ始めた。
しばらくすれば、また子供のように輝く笑顔。
うん、なんというかこうしてみると映姫も妹みたいだ。
小町「あんた、いつか後ろから刺されるよ?」
優希「なんでっ!?」
小町「いや、その自覚なしな部分が……まあいいや」
小町「とりあえず気をつけなよ?」
な、なんだ? 死神の小町に言われると洒落にならんのだけど!?
い、一応障壁張っとくか……強めに。
ここでは必要ないと思っていた障壁を展開。
でも、俺何か恨まれるようなことしたっけ……。
そんな俺のつぶやきが心のなかで消えていくのだった。