東方優幻想   作:エウラス

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新章第7話

新章第7話:人里の夏祭り

 

幽々子「たまには人里へ行ってみない?」

 

それはホームステイ5日目のお昼の出来事だった。

俺がこの白玉楼に居るのも残り僅か。

そんな折に幽々子さんが提案したのが人里への買い物だった。

いつものほほんとマイペースな人だけど、今回に関しては突拍子もない。

妖夢も初耳なのか首を傾げてるし。

傾けていた湯のみを戻すととりあえず聞いてみることにした。

 

優希「そりゃ構いませんけど、どうして急に?」

幽々子「これよ、これ!」

優希「どれどれ……あっ、これ文々。新聞じゃないですか」

妖夢「なになに……? とある白狼天狗、想い人出現?」

妖夢「なんか、おもいっきり知り合いな気がするんですけど……」

優希「ああ、いや……どうだろ?」

優希「実は色々あってさ……」

幽々子「もー! そっちじゃない~~!!」

 

急に寝転がって駄々っ子みたいに暴れ始めた。

新鮮で見てる分には楽しい。

でもあんまり放置してるといじけるからこの辺で。

改めて冷静に見てみると、人里というワードに一つ引っかかる。

 

優希「……へえ、夏祭りか!」

幽々子「そう! それよ!」

 

ガバッ、と起き上がりながら目を輝かせていた。

どうやらお祭りに行くために人里へ行こう、となったようだ。

ふむ、お祭りかー。

外じゃあんまり行くことはなかったけど、みんなとなら楽しそうだ。

 

優希「いいじゃないか、行ってみようぜ」

妖夢「でも、いいんですか? 佐伯さんの目的は……」

優希「大丈夫、ここの生活ぶりはもう十分過ぎるほど堪能したしね」

 

なにせ外にでることがほぼない。

ここでの生活は、まず室内限定になるだろう。

結界の外に出たらどうなるかもわからないわけだし。

 

優希「それにまあ、幽々子さんも楽しみにしてるみたいだし」

幽々子「うふふ、焼き鳥にうなぎ……楽しみだわあ」

妖夢「……そうですね。止めても多分きかないでしょうし」

妖夢「たまには祭りを楽しむのもいいかもしれませんね」

優希「っしゃ、決まりだな!」

優希「他の皆は?」

ルナサ「……行きたいけど、予定が重なってる」

メルラン「ごめんねー、今日その祭りで演奏予定なんだー」

優希「ありゃ、そうなのか……」

リリカ「気にしない気にしない!」

リリカ「あ、でも演奏聞きに来てくれるとうれしいかな!」

優希「おう、任せとけ!」

ルナサ「これ、場所と時間……」

優希「ふむふむ、オッケー。そんくらいに皆で行くよ」

 

渡された紙はどうやら日程表らしい。

演奏の時間と場所だけでなく、祭りの全体図が書かれている。

他にもイベントがいつどこでやるのかも細かくかいてあった。

これだけ見ても気合が入ってるのは確かだろう。

 

優希「後は映姫たちだけど、どうする?」

映姫「ええ、ご一緒しますよ」

小町「アタイも行くかね」

小町「祭り事はすきだからさ」

優希「よし、それじゃあいつ頃でる?」

幽々子「んー……そうだっ!」

幽々子「3時頃に出ましょう」

妖夢「3時ですか? 開催までに2時間ほど空きが出来ますが……」

幽々子「いいからいいから」

幽々子「現地で一度、佐伯くんは別行動お願いしてもいい?」

優希「えっ? ……まあ、いいですけど」

 

なんだろう、露骨にハブられた感じがする。

そんな俺の様子に少しだけ心配気な妖夢たち。

でもそんな顔してちゃ祭りは楽しめない。

俺は気にするなって意味も含めて笑って頷いておいた。

 

優希「幽々子さんにも考えがあるんだろ、問題ないさ!」

妖夢「ふふ、佐伯さんがそういうのでしたら」

映姫「では3時頃に出発ですね」

優希「行くときは俺が通り道作るからな」

リリカ「あ、それじゃあ私たちもお願いしていいかな?」

メルラン「ちょうどその時間くらいにリハする予定だったんだ」

優希「おお、いいぞ。遠慮なくこい」

ルナサ「道遠いから助かる」

 

そういえば冥界って普通に来るならどうやってくるんだ?

俺の場合は扉を使って来れるからその辺曖昧なんだよな。

そういう意味では便利であり不便だ。

ともあれ、俺たちはそれぞれ3時出発という合図と共に準備のため部屋に帰った。

さーて、準備準備ーっと……。

 

 

優希「皆揃ったみたいだな」

 

3時きっかり、皆が揃っているのを見て俺は皆を見る。

うなずき返されたのを見てから、ちょっと神経を集中。

 

優希「はっ!」

 

それからすぐに扉を作った。

これでこの扉を開けた先は人里近くのはずだ。

先導も兼ねて扉を開けて先を歩く。

 

優希「よしよし、成功」

リリカ「わー、本当についちゃってるよ!?」

ルナサ「すごく便利」

小町「へー、アタイの能力を使うまでもなかったか」

 

皆それぞれに感心しながら扉を潜ってくる。

小町の能力ってなんだっけ。

今度詳しく聞いてみるか。

そんな様子に気づいたのか、近くの門番さんがよってきた。

 

門番「おっ、お前は外来人の坊主じゃねえか」

門番「てっきり妖怪が攻めてきたのかとおもったが」

幽々子「そんなことしないわよ~」

門番「悪い悪い、てことはやっぱり今日のアレ目的か?」

 

クイッと槍を向けた先にある祭の一文字に頷いて応える。

『なるほどね』、と豪快に笑う。

この人は入り口を番してるだけあって結構気が利く。

人里に住み始めたばかりの俺にもよくしてくれたっけ。

 

門番「閻魔様と西行寺の主さんはなかなか見ねえが……」

門番「その他の面々はよく見かけるし、悪さもしないのは知ってる」

優希「じゃあ通ってもいいか?」

門番「おう、楽しんでけ!」

門番「とはいえまだ準備中だけどな」

優希「ありがとう」

優希「さ、みんないこうぜ!」

 

それぞれに会釈しながら、門をくぐり抜けるとそこは人里。

いつもそれなりに活気のあるところだけど、いつも以上の熱気だ。

あちらこちらに準備で忙しく動く人が見える。

 

幽々子「さて~、それじゃあ悪いけど一旦ここで別れるわよ?」

優希「おっと、そういう話でしたっけ」

優希「どこに集合します?」

幽々子「そうねえ、ど真ん中だと人も多いだろうし……」

映姫「では、先ほどの門近くはどうですか?」

優希「そうだな、そこなら人も少ないだろう」

優希「じゃあそこに5時集合でいいのかな?」

幽々子「ええ、少し遅れるかもしれないけど」

優希「? 別に大丈夫ですよ」

幽々子「ふふ、それじゃあ皆行くわよ~」

妖夢「よくわかりませんが、行って参ります」

映姫「何を企んでるのやら……」

小町「まあ、あの人天然ですからねえ」

ルナサ「それじゃあ、後で」

リリカ「ライブには来てよね!」

メルラン「来ないと祟っちゃうぞー!」

優希「はは、判ってるよ」

 

それぞれの反応しながら、ぞろぞろと里中に消えていく。

見えなくなるまで見送ったところで、さて、とつぶやく。

することもなくて手持ち無沙汰だった。

 

優希「……一応一回家に戻るか」

 

家とはいえ仮のもの。

仮のものとはいえ家は家、やっぱり掃除はしとかないと。

そう考えて俺は自宅(仮)へと足を向けた。

 

 

やっぱり準備で忙しいのか、住宅地は気持ち静かだな。

久しぶりの家に戻ると、やっぱりというかそれなりに寂れてた。

ありゃー、こりゃ一回拭いたほうがいいかもな。

そう考えて裏手にある道具入れに向かう途中で見知った顔が通り過ぎた。

 

慧音「むっ、佐伯くんじゃないか」

優希「おっと、久しぶり」

慧音「うむ、久しぶりだ」

慧音「どうだ? 調子は」

優希「まー、ぼちぼちですね」

優希「そっちは?」

慧音「似たようなものだ」

慧音「チルノたちに説教をしたり、妹紅の様子を見に行ったりだな」

 

なるほど、概ね日常通りだったってわけか。

そうそうに生活状況なんて変わるもんじゃないしな。

などと一人納得しながら雑巾を道具入れから取り出す。

 

慧音「今日はどうしたんだ?」

優希「ああ、実はさ……」

妹紅「おーい、慧音ー……て、佐伯じゃん」

優希「おっすもこたん」

妹紅「だれがもこたんだっ!」

 

おお、今日も元気だな。

相変わらず目付きの悪さや言葉遣いのせいで威圧感あるが。

背負っているのは……割った薪?

視線に気づいたのか『ああ』、とつぶやく。

 

妹紅「屋台で火をおこすだろ? そのための薪をな」

優希「へえ、妹紅は火種か」

妹紅「ひっじょうに引っかかる言い方だがそうだな」

慧音「まあまあ、佐伯くんもあまりからかうのはよくないぞ?」

優希・妹紅『へーい』

慧音「まったく、お前たちときたら……」

慧音「それで、佐伯くんももしかして祭をみにきたのか?」

優希「っとと、そうそう」

優希「幽々子さんが行こうって騒ぎ出してさ」

妹紅「げっ、西行寺の亡霊くるのか!?」

妹紅「……屋台の備蓄たりるかな」

優希「大丈夫、最悪俺が出す」

妹紅「頼んだぞ、ほっといたら屋台が全滅するから……」

慧音「否定出来ないのが怖いところだな」

優希「はは……」

 

神妙な顔で頷く慧音に返した笑い。

乾いてた? 察してくれ。

 

慧音「しかし……ふむ、なるほど」

優希「何がなるほどなんです?」

慧音「いや何、ここに来る途中彼女たちに会ってな」

優希「ありゃ、そうだったんですか」

慧音「とある人にあるものを見せるために別行動してると言われたのだが」

慧音「うむ、ようやく合点が行った」

優希「??」

妹紅「なあ慧音、そろそろ行かないと準備間に合わないぞ?」

慧音「おっと、そうだったな」

慧音「それはすまないが失礼するよ、佐伯くん」

優希「あ、ああ……頑張って」

優希「……何だったんだろ、あれ」

 

意味ありげな表情で笑っていた慧音さん。

表情から察するにもこたんはしらんだろうな。

ある人ってのは俺であるのは確かだとして……。

 

優希「あるものってなんだろう」

 

そんなことを考えながら首を傾げていた。

 

 

妖夢side

 

妖夢「あの~、幽々子様。なんで佐伯さんを一人に?」

 

人混みの中を縫うように歩きつつ、幽々子様に問いかける。

恐らく理由はあるのでしょう。

でも、それでも佐伯さんだけ仲間はずれなのは少し可哀想。

そんな私の心境もなんのその。

幽々子様は朗らかな笑みをたたえていた。

 

幽々子「ふふ、ここだけの話だけど~……」

幽々子「妖夢……それに映姫、佐伯くんに惹かれてるでしょ?」

映姫「なっ!?」

妖夢「惹かれている……?」

映姫「な、なな、何を根拠にそんな!」

小町「いや、映姫様……その反応がすでにアウトです」

映姫「はっ!? う~……!」

妖夢「えっと、その……小町さんは分かるのですか?」

小町「分かるって……あ~……」

 

小町さんは何やら察したような顔で額に手を。

頭でも痛いのでしょうか、これからお祭りだというのに。

 

小町「いいかい、惹かれてるってのはつまりだな」

小町「佐伯のこと、男として好きってことさね」

妖夢「……みょんっ!?」

 

一瞬何を言われたのか分からなくて固まってしまう。

けれど、内容を反芻してそうかからずに理解した。

わ、わたわた、私が……佐伯さんを!?

でもでも、言われてみればあの胸を締め付ける痛みも……。

そう思えば理解できることがたくさんあった!?

一度自覚してしまったら意識せずにいられなかった。

今、間違いなく顔真っ赤だろうな……私。

 

映姫「まさか、こんな近くにライバルがいようとは……」

妖夢「……はっ、閻魔様も?」

映姫「……お恥ずかしながら」

 

ほんのりと頬を染め、卒塔婆で口元を隠す。

そんな閻魔様には普段のきついものはなくて……。

代わりに少しだけ、女らしく見えた。

 

映姫「図星をつかれたからというわけではないですが……」

映姫「二人は佐伯さんを狙っていないのですか?」

幽々子「もしそうなら即効で夜這い掛けて既成事実作ってるわよ~」

妖夢「よばっ!?」

小町「アタイはそうだねえ……恩人としては見てるよ」

小町「けど、映姫様のこともあるしそこまで執着してないかな」

映姫「……良いのですか?」

小町「アタイは別に? 二人が恋仲になることがあれば一緒に騒げばいいし」

小町「とはいえ、佐伯は競争率高いよ?」

妖夢「えっ……もしかして……」

 

小町さんの言い方から察するにそうなんだろう。

その言葉に閻魔様も反応したのか、少し慌てていた。

 

幽々子「そうねえ、まずルナサちゃんは間違いないわね」

妖夢「う、嘘……いや、でもあの反応は確かに……」

映姫「言われてみればやけに彼にアピールしていましたね……」

小町「後、妖怪の山の奴らも大半やばいんじゃない?」

妖夢・映姫「ええええっ!?」

 

もはや余裕が一気になくなってきた。

そのせいか、私は人前であるにもかかわらず大声を上げる。

ああ、視線が痛い。

でも、そんなことを言っている場合では!

 

幽々子「というか、今回彼に永住先を提供した勢力……」

幽々子「その中に確実に1,2人は居るわね」

小町「そうさねえ、あの臆病なうどんげでさえ真っ黒だし」

妖夢「う、うどんげさんまでですかっ!?」

 

何かと苦労が多い私にとっては一番の理解者であるうどんげさん。

まさか、こんなところで敵対することになるなんて。

でも言われてみれば確かに、あの人は佐伯さんの怪我に一番敏感でしたね。

どの場所から帰ってきてもまず一番に様子を見ていたのもうどんげさんでしたし。

こう考えてみると軽く見積もっても10以上のライバルがいる。

そこまで気づいた私と閻魔様は真っ青になっていた。

 

映姫「か、彼の人柄を考えれば当然ではあります!」

映姫「で、ですが……どうしましょう?」

妖夢「ですよね……私たち、女の子らしくはないですし」

映姫「こことか……」

妖夢「……」

 

お互いに盛り上がりの少ない場所に手を置く。

どことはいえないけれど、うっすら感じる程度の反発。

それを再確認して悔しくなる。

 

小町「女らしさってのはそういうとこだけじゃないさ」

幽々子「そうよお、まずは外見から!」

映姫「そういう言葉は自分を見て言いやがれです!」

妖夢(……閻魔様、ぐっじょぶです)

 

あまり強く言えないのもあって我慢。

でも閻魔様が私の心の叫びは代弁してくれた。

なんであんなに育ってるんだろう。

小町さんはわからないけど幽々子様が謎だ。

同じものを食べてるはずなのにこの差……。

どことはいわないけど。

 

幽々子「そこで話は最初にもどるのよ~」

映姫「?」

幽々子「貴方たち、祭りといえば何を思い浮かべる?」

妖夢「……踊りでしょうか?」

映姫「いえ、出店じゃないですか?」

小町「酒でしょ酒」

幽々子「あ、あのねえ……」

 

珍しく幽々子様が難しい表情を!?

頭を抱えていた状態から一転。

 

幽々子「ゆ・か・た、よ!」

3人『……あっ』

 

言われてみれば確かに。

今こうして歩いている間にも、何人か浴衣姿の女の子。

可愛らしいピンク色の生地に花弁を散りばめたデザイン。

それを薄い青色の帯で留めてあった。

女の私でも思わず目で追ってしまうような。

閻魔様も同じだったのか、呆けたようにそれを見送った。

 

幽々子「二人共十分に素材はいいのよ」

幽々子「でも、色々と硬すぎる」

妖夢「そ、そうでしょうか……」

映姫「私は閻魔として……!」

幽々子「それで佐伯くんをトラれてしまってもいいの?」

妖夢・映姫『―――っ』

 

佐伯さんのとなりを誰かに取られる。

想像した瞬間、今まで以上に胸が痛む。

 

小町「なるほどねえ、それでサプライズも兼ねて引き離したのか」

幽々子「ふふ、二人の性格の硬さは今すぐ変えられないでしょうけど……」

幽々子「外見くらいなら、ね?」

 

そうウィンクした幽々子様の視線の先。

そこには、色とりどりの浴衣が飾られていた。

 

 

優希side

 

優希「てことがあってさ」

霊夢「……異変が終わっても危ない目にあってんのね」

 

慧音さんたちと別れた後、俺は本腰入れて家の掃除に。

しかし、しばらくしてから通りかかった霊夢とまた話ていた。

とはいえ、ちゃんと掃除はおわらせたけど。

 

霊夢「あんまし無茶すんじゃないわよ?」

霊夢「あんたのこと気にしてる奴多いんだから」

優希「うっ、気をつけるよ」

霊夢「よろしい」

 

偉そうに緑茶をすする貧乏巫女さん。

時折俺が食料補給にいってるから大丈夫だろうが。

ちなみに魔理沙は来ない。

なんでも、実家を喧嘩別れで飛び出した経歴があるんだそうだ。

まさかとは思ってたけど、霧雨道具店てのが実家らしい。

いつも明るく無邪気なあいつが家出かあ……分かんないもんだな。

……と、時間を見ていると16時40分を指していた。

そろそろ待ち合わせ場所に行かないとな。

 

霊夢「どっか行くの?」

優希「言ったろ? 今日は幽々子さんたちと祭りに来てるんだ」

優希「何かしらんけど、一旦別行動してただけで」

霊夢「……はぁん」

霊夢「ま、楽しみにしておくといいんじゃない?」

優希「知ってるのか?」

霊夢「いえ、ただの勘」

優希「さいですか」

優希「まあ、俺は出るけど適当にくつろいでいってくれ」

霊夢「言われなくてもそうさせてもらうわー」

 

ほんとに言うまでもなかった。

平常運転の霊夢を尻目に、俺は扉を作って待ち合わせ場所へ。

 

霊夢「……ほんとあいつ、鈍感よねえ」

 

と、霊夢が独り事のようにつぶやいたのは知る由もなかった。

 

 

優希「よっと……まだ来てないか」

 

俺は周りを見回してからホット一息。

別に彼氏彼女ってわけじゃないけど、待ち合わせでまたせたくない。

またせるくらいなら待つ派である。

俺の場合、本を開けば時間つぶしも楽だしね。

そんな一人解説をして小さく笑っていると――。

 

幽々子「おまたせ~」

優希「ああ、やっと――」

 

その瞬間、俺の中で時間が止まった。

開いていた本を落としても、まったく体が動かない。

いつもなら本に汚れがつくからと気にするが。

いや、だってさ……。

 

妖夢「す、すいません……待たせてしまいましたか?」

映姫「時間より早く来ていたのですね……すみません」

優希「……」

妖夢「……佐伯さん?」

映姫「大丈夫ですか?」

優希「!?」

 

彼女たちが普通の格好をしていたなら俺も平静を保っていた。

だが、まさか妖夢と映姫が『浴衣姿』だとは想像もしていない。

そんな二人が身を乗り出して上目遣い。

これの魅力に耐え切れるわけがなかった。

普段が硬い格好をしている二人だけに余計に。

 

小町「おいおい、佐伯。なんか言ってやりなよ」

優希「はっ!」

優希「す、すまん……びっくりしすぎて……」

幽々子「あらあら、似合わなかったかしら?」

 

そんな幽々子さんの言葉に二人が不安げにしていた。

改めてそれぞれをしっかり見る。

妖夢は普段の服装からか、全体的に淡い緑色がベース。

それに朝顔の模様を散りばめた浴衣だった。

帯は白か……うん。

 

優希「えっと、妖夢。よく似合ってるよ」

優希「妖夢らしい、いい組み合わせだと思う」

妖夢「っ!」

妖夢「ありがとうございます!」

優希「お、おう……」

 

不安げな表情から一転、すごくいい笑顔で返された。

普段からそれなりに笑顔は見せてくれる。

だけど、ここまではっきりした笑顔は初めて見た。

そのせいか少しだけ顔が熱くなる。

……さて、妖夢だけ褒めるのは良くない。

改めて映姫の方を見る。

 

映姫「……」

 

小柄な体躯に、淡いピンク色のベースの浴衣。

ピンクの生地にはっきりと書かれた蝶の模様。

それらをまとめるように黄色の帯が巻かれていた。

その全て映姫らしさを消しているように感じる。

もちろん、いい意味でだ。

 

優希「映姫も……なんて言うんだろう、すごく柔らかくなったな」

優希「雰囲気変わってるけどよく似合うよ」

映姫「ほ、本当ですかっ?」

映姫「嘘を言ったら地獄行きですよ!?」

優希「脅迫っ!?」

優希「いやいやいや、ちゃんと似あってるし可愛いから」

映姫「かわっ!?」

映姫「ごほんっ! ……ならばいいのです」

 

何やら顔を真っ赤にしたかと思えば、すぐにいつもの調子に。

何なんだまったく。

こちとらしょっぱなから驚かされて調子狂いっぱなしだってのに。

ちなみに、幽々子さんと小町はいつもの服だった。

 

幽々子「うふふ、内緒にしてた甲斐があったわー」

小町「さっきの顔は見ものだったねえ」

優希「……人が悪いですね、幽々子さん」

幽々子「ふふ、でも良かったでしょう?」

優希「それは……否定しません」

 

俺は少し離れたところに居る二人を見る。

いつの間に仲良くなったのか、二人共互いを讃えてるようだ。

うん、落ち着いて見てみてもやっぱりよく似あってる。

普段二人共オシャレっぽいものをしないからな。

妖夢は常に刀を持ってるし、映姫は性格があれだし。

視線に気づいたのか、二人がこちらへよってきた。

 

妖夢「それじゃあ行きましょうか、佐伯さん」

映姫「私は人里には不慣れですので、よろしくお願いします」

優希「ああ、分かった」

幽々子「ふふ、両手に花ねえ」

妖夢「ゆ、幽々子様……」

小町「本当のことだろう?」

小町「映姫様もね」

映姫「わ、私は別に花と呼ばれるほどでは……」

妖夢「私もそんなに女らしくないですし……」

優希「……一応言っとくけど、二人共可愛いからな?」

妖夢「ふぇっ!?」

映姫「ふぁっ!?」

 

そんなに驚くほど可愛くないって思ってたのか。

実際、さっきから遠目に妬みの視線が飛んできてる。

主に俺に向かってだけど。

結構中心から離れてるはずなのによくみてんなおい。

それはさておき、二人は顔を真っ赤にして俯いていた。

かくいう俺も絶対赤い。

さっきから異常に暑く感じるし。

 

 

映姫「見てください、佐伯さん!」

映姫「何やら甘い匂いがっ!」

妖夢「あっ、焼きそば美味しそう……」

小町「お、あっちに鰻焼いてるとこあるね」

幽々子「ふふふ~……食べ物いっぱい」

優希「ははは……」

 

純粋に目を輝かせてで店を見ている映姫。

控えめに目当ての屋台を見ている妖夢。

後、おまけでつまみを探してる小町。

と、で店全体ロックオンしてる幽々子さん。

その4人と一緒に、俺は出店を回っていた。

ちなみに本格的に回る前に、余興ということでライブも覗いてきた。

俺たちの姿を目に入れた姉妹たちはウィンク。

それに応えるようにして手を振り返して演奏を堪能した。

どうやらあの後も続くようだったけど――。

 

リリカ「一曲聞いてくれただけで満足だよ」

メルラン「祭りは短いし、見て回って」

ルナサ「……聞きに来てくれてありがとう」

 

と言われてしまっては仕方がない。

変に気を使うのも悪いかと思って今に至る。

いやそれにしても……。

 

映姫「佐伯さんっ! あれ、アレを食べてみたいです!」

優希「お、おいおい……引っ張るなって」

おっさん「おっ、めんこい嬢ちゃんだな」

おっさん「兄ちゃんと祭りか?」

映姫「私はこう見えても閻魔なのですが……」

おっさん「なんだって!?」

おっさん「わ、悪いな……ほれ、サービスだ」

映姫「いいえ、きちんとお代は……」

優希「ほいよ、おっちゃん。これで」

映姫「あっ!?」

おっさん「おう、まいどあり」

優希「ほら、結構重いから落とすなよ?」

映姫「あ、ありがとうございます……でも、代金を」

小町「野暮なこといっちゃいけませんよ、映姫様」

幽々子「そうそう、男の甲斐性ってやつなんだから」

映姫「そ、そういうものなのでしょうか……」

映姫「でしたらその、ごちそうになります」

優希「良いから食べなって、解けちまうぞ?」

 

照れ隠しもかねてそう言ってやると慌ててりんご飴をかじり始めた。

どうやらご期待に召したようで、小動物のようにカリカリと夢中に。

確かに、ぱっとみただけでは可愛い妹分に見えなくもない。

だけど俺は知っている。

彼女はれっきとした難しい年頃の女の子。

そういう存在なんだと。

微笑ましい気分で映姫をみていたら、ふと妖夢がどこかを見ていた。

 

優希「……食べたいの?」

妖夢「はぅ!?」

妖夢「あ、あははー。何をみょんなことを言ってるんですか?」

優希「いや、別におかしく思わないって」

優希「祭りといえばこれだよなあ」

 

俺はそうつぶやいて焼きそば屋の前に立つ。

恥ずかしげにしながらも欲望には勝てないらしい。

妖夢もその隣に並んだ。

程なくして俺たちの番になった。

 

優希「おお、美味そう!」

おばさん「ありがとうよ!」

優希「焼きそば2つで!」

おばさん「あいよ! 彼女さんとかい?」

妖夢「か、彼女っ!?」

 

おばちゃんの言葉に妖夢が一気に真っ赤に。

心なしか半霊まで赤いんだが大丈夫か?

 

優希「そんな……妖夢に失礼だって」

優希「俺には釣り合わないから」

おばさん「そうかい?」

妖夢「あ、あう……」

おばさん「……頑張りなよ、嬢ちゃん」

妖夢「みょん!?」

 

何を頑張るのやら、俺は疑問符を浮かべながら焼きそばを受け取った。

列から離れて皆のところに戻る。

すると目ざとく焼きそばの包をみた幽々子さんがよってきた。

仕方ないな……ま、予想通りだけど。

軽く座れる場所に移動しながら包を差し出す。

 

優希「はい、幽々子さん」

幽々子「あら、いいの?」

優希「元々そうなるかなって思ってたのもあるんで」

幽々子「ありがたくいただくわー」

映姫「……まったく、幽々子ってば」

優希「いいって、皆で楽しまないと損だし」

妖夢「だったら佐伯さんも楽しまないと」

妖夢「私の食べかけでよろしければ半分どうぞ」

優希「おっ、マジで?」

 

実はちょっと食べたいなって思ってたんだよね。

あのおばちゃんの焼きそば、普通に美味そうだった。

なんで幻想郷にあるんだとかその辺はもうスルーだ。

あるからあるんだと思っておく。

ともあれ、程よく焼かれた野菜はシャキシャキ。

肉も麺もきちんと火が通り、絡まるソースがたまらない。

 

優希「うん、やっぱこれ食べないと祭りに来たって気にならないな!」

妖夢「ふふ、ハズレもおおいんですけどね」

映姫「ハズレですか?」

妖夢「ええ、その……美味しくないのもありまして」

映姫「なるほど……もしかするとこれより美味しいリンゴ飴も?」

小町「そんなに気に入ったんですか、映姫様」

 

パフェが好みだったり、映姫は甘いもの好きのようだ。

それにしても美味しいな、この焼きそば。

残りの半分だからボリューム的には足らないけど。

と、ここまで来てようやく幽々子さんたちの視線に気づく。

なんだかからかうようなものも含まれてるが……なんだ?

 

幽々子「あらあら、妖夢ったら大胆ね」

幽々子「それ、妖夢の使った箸でしょ?」

優希「……はっ!?」

妖夢「~~~っ!?」

小町「映姫様も、ナチュラルに佐伯の膝に乗るとは……」

映姫「はぇっ!?」

 

言われてみればからかわれて当然な状況だった。

なんで気付かなかった俺!?

ともあれ一度突っ込まれたら意識しないわけにも行かない。

二人は固まったように顔を真っ赤にしているし……あーもう!

 

幽々子「どう? 気分は」

優希「……まあ、その……悪い気はしないけど」

優希「二人を困らせないでやってくれ」

 

ついでに俺も。

恥ずかしくて二人の顔がまともに見れやしない。

なんだか少しだけ気まずい。

どうしたもんかと口を開こうとして――。

 

『ドーン!!』

 

一同『!』

 

突然夜空を照らす光と音に驚いて視線を上げる。

そこには華があった。

色とりどりの光を散らし、闇夜を照らす華が。

 

妖夢「綺麗ですね……」

映姫「ええ、風流です」

優希「……ああ、本当に」

 

夜空に止めどなく咲き誇る華たちを見る妖夢と映姫。

その二人の顔を盗み見ながら俺は空を見上げる。

 

優希「本当に、綺麗だよ」

 

そう、ポツリと呟いた。

今まで祭りなんて楽しいと思ったことはない。

人混みにうんざりして高い出店によるなんて馬鹿げてる。

そう思っていたけど……。

 

優希「……来てよかったな」

妖夢「はいっ!」

映姫「ええっ!」

 

すぐ側に咲いた二つの華に、自然と微笑み返していた。

 

 

 

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