東方優幻想   作:エウラス

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新章第8話

新章第8話:永遠亭での出来事

 

幽々子さんたちとの生活を終えてから数日が経った頃。

俺はその日の朝のうちに次の宿泊先へ移動することにした。

何故か俺が出て行く際、妖夢と映姫がやたら寂しそうに見ていたが、一体なんだったのだろうか。

ここ最近、結構一緒になって騒いでいた分さみしくなったのかもしれないな。

とはいえ、こちらからした無理な約束でもある。

ここはしっかりとほかのところも見て回らないといけない。

そう気持ちを新たにして次の宿泊先である屋敷を見上げる。

 

優希「相変わらず辺鄙なところにあるよなあ……。いや、それを言ったら幻想郷の大概がそうなんだけどさ」

 

周囲を見回してもあるのはどこまで行っても竹である。

迷いの竹林なんて言われているくらいだから、それくらいは当然だろう。

しかし、せっかくのいい屋敷なんだからほかにもうちょっとなかったのだろうか。

 

うどんげ「やっぱり! 来てたのね、佐伯」

優希「うん? おお、うどんげじゃないか。ああ、お邪魔しに来たよ」

うどんげ「ふふ、皆も楽しみにしてたのよ?」

優希「悪い悪い。でも順番は順番だし、その辺は勘弁してくれ」

うどんげ「分かってるわよ。私だってそこまで理解がないわけじゃないんだから」

てゐ「とかいって、佐伯が来るまでずっとソワソワしてたのはどこの誰うさ?」

うどんげ「っ!? て、てゐ!?」

優希「よお、てゐ。元気してたか?」

てゐ「当ったり前うさ! 私から元気を取ったら何も残らないじゃん」

 

いや、腹黒さといたずらは残るだろう。

言ったらもれなくいたずらの対象率が上昇するのでやめておくことにする。

一方、なにやらてゐの登場と同時にうどんげの様子がわたわたとせわしない。

 

優希「? どうしたんだ、うどんげ」

うどんげ「べ、別に何でもないわよ!? さっ、早く中へ入りましょ!」

優希「おおっ? わかったわかった、そんなに押さないでくれって」

 

何やら焦ったように俺の背中を押すうどんげにたじたじになりつつも門をくぐる。

うーむ、順番性にしたのは間違いではなかったと思っているが、待たせすぎたか?

ここまで待ちきれないほどに楽しみにしてくれていた彼女に申し訳なく思いつつ、永遠亭に上がり込む。

 

 

てゐ「……鈴仙も大変うさ」

 

そんな腹黒ウサギのつぶやきを聞き逃しながら。

 

 

優希「へえ、そんなことがあったのか」

 

客間への道すがら、最近あった出来事を話題にしていた。

こちらからの情報は皆と、ということだったため主に受け身だ。

 

うどんげ「そうなのよ。お師匠様ったら、すぐに新薬の実験をしたがるものだから……」

てゐ「しかも、逃げようと思っても8割の確率で捕まるウサ」

優希「逃げ足早そうなてゐでもそうなのか……」

てゐ「逃げよう、と思った時にはすでに手遅れだったというパターンが多いかな」

うどんげ「そうね、自然な流れで誘導されて盛られていたこともあるもの」

優希「……あの人、割とまともな人だと思ってたんだけどなあ」

 

異変の時は頼れるお医者さんポジションだった永琳さん。

しかして実態はかなりのマッドサイエンティストの毛があるらしい。

何度かその実害にさらされたのか、二人は顔を青ざめさせて震えていた。

 

てゐ「幻想郷の中では常識人なのは確かだと思うよ?」

てゐ「けど、ちょっと自分の世界に入ると……ね」

優希「ううーん、そういう人間ってこっちでもいたからな」

優希「とりあえず、どんまいとしか言えない」

うどんげ「それでも、佐伯が来てくれたからしばらくは大丈夫だと思うけどね」

優希「うん? そうなのか?」

うどんげ「ええ、姫様の退屈しのぎだって佐伯がいれば何とかなるでしょ?」

優希「まあ、外の世界でしか得られないものを出してやれば多少は大丈夫かな?」

優希「でも永琳さんは?」

うどんげ「佐伯がいてくれるだけで無茶なことはしないでくれるわ」

うどんげ「そういう約束だし」

優希「……なるほど」

 

こっちは結構、前時代的な生活を余儀なくされているようだからな。

平和になってから知ったが、基本引きこもりらしいあのお姫様には十分な効果があるだろう。

肝心な永琳さんといえば、俺がいる間は変なものは試さないと約束しているらしい。

だが、それは根本的な解決になっていない気がするんだけど……いいんだろうか。

 

てゐ「今に始まったことじゃないから仕方ないウサ」

てゐ「それでも、お師匠のおかげでいろいろ助かってることは多いからさ」

優希「そっか……まあ、それならいいんだけど」

うどんげ「さて、着いたわよ」

 

促されて客間に足を踏み入れると、すでに話題の二人が座っていた。

人数分のお茶と座布団も用意されていて、至れり尽くせりである。

 

輝夜「あら、やっと来たの? 待ちくたびれたわよ」

永琳「いらっしゃい、怪我なんかしてないでしょうね?」

 

顔を合わすなりそれぞれの反応を見せてくれる二人。

性格出てるなあとか思いながら、少しだけ返しに困ってしまう。

表情に出ていたのか、何かに気付いたように八意先生が苦笑していた。

 

永琳「妖怪の山の件は知っているから、それ以外でということよ」

優希「えっ、なんで……って、射命丸のやつか」

輝夜「ご明察~。まったく、気をつけなさいよ?」

てゐ「そうウサ。おかげで鈴仙ってばしばらく気が気じゃない感じだったんだから」

うどんげ「ちょ、ちょっと! てゐっ!?」

優希「あちゃー……心配させちゃったか。ごめんな? うどんげ」

うどんげ「べ、別に気にしてないわよっ」

優希「そ、そう?」

うどんげ「それよりも! 今日はせっかくうちに来たんだから、ゆっくりくつろいでなさい」

うどんげ「今からご飯作るから」

優希「あ、ああ……。ありがとう」

うどんげ「う、うん……」

 

勢いに負けた感じでお礼を言うと、はにかんだ笑顔を浮かべて客間を出ていく。

そんな彼女の後姿を見送った後、部屋の中に向き直ると――。

 

輝夜「春ねえ……」

永琳「春ですね」

てゐ「お花畑ウサ」

優希「今夏だけど!?」

 

なんだか遠い目をして言う皆に思わず突っ込んでしまった。

輝夜やてゐは分かるけど、八意先生までとは。

 

輝夜「そんなのわかってるわよ。私たちが言ってるのは別の意味だから」

優希「? 別の意味?」

永琳「まあ、それについてはいつか分かることだからそう焦らないことよ」

てゐ「とはいえ、あの様子だとそれがいつになるやら……」

優希「う、ううん?」

輝夜「まあまあ、それよりも折角だから妖怪の山での顛末を聞かせなさいよ」

優希「え? そりゃいいけど、新聞に載ってたんだろ?」

輝夜「あんな脚色だらけの新聞読んでも、どこまで信じていいかわからないじゃない」

優希「ひどい言いよう! だけど否定できないのもすごい!」

永琳「佐伯君は内容を見たのかしら?」

優希「あ、そういえば見てなかったな。まだあったりする?」

てゐ「そういうと思って持ってきておいたウサ」

優希「準備いいなあ……どれどれ?」

 

てゐの差し出した新聞を手に取り、内容をじっくりと見てみる。

俺が白狼天狗の宿舎にとまることになったのを皮切りに話が進んでいて、思ったよりもしっかりとした内容で書かれていた。

少しだけこういう新聞にありがちな脚色はあったりもするが、それでも大きく逸脱するようなものでもないみたいだ。

 

優希「ちょっと大げさになってるとこはあるけど、おおむねこの通りだぞ?」

輝夜「えッ……うそでしょ?」

優希「いやいや、普段がどうなのかは知らんけどこれはほぼほぼそのまんまのこと書いてるぞ」

永琳「あら……でもある意味では予想通りともいえるわね」

輝夜「うーん、あの文屋がまともに記事を書くとは……」

てゐ「こりゃ鈴仙も大変ウサ」

優希「ん? うどんげがどうしたんだ?」

てゐ「こっちの話だから気にしないでいいよ」

てゐ「それよりも、そろそろご飯が出来るころだろうから楽しみにね」

優希「ン、そういえば基本的に提供側が多いかったからちょっとワクワクするな」

 

一応、妖夢の料理は何度か口にしたけど、他人の手料理はそんなに口にしていない。

そう考えると、うどんげが作る料理っていうのは結構なレアものだ。

普段から永遠亭の家事を担当しているようだし、期待も持てるだろう。

そんなことを考えていると、廊下からうどんげが顔を出した。

 

うどんげ「さっ、出来たわよ。てゐも運ぶの手伝って」

てゐ「はいはい、それくらいはするよ」

優希「あっ、俺も――」

永琳「まあまあ、佐伯君はゆっくりしてなさい。私も行ってくるから」

優希「は、はあ……そういうことなら」

 

なんとなくこういう時は手伝うのが板についているせいかちょっと肩透かしを食らってしまった。

所在なく視線をさまよわせた後、渋々席に着く。

一人残った蓬莱山が愉快そうに笑っていてちょっと癪に障る。

 

輝夜「なんだか不満そうな顔ね」

優希「うーん、なんていうか何かしてないと落ち着かないんだよなあ」

輝夜「そこまで行くともはや病気ね。あなたの甲斐甲斐しさは」

輝夜「誰かにもてなされるのにも慣れておくことよ」

優希「その点、輝夜はもてなされるプロだよな」

輝夜「それがいいことなのかは、時によりけりだけどね」

輝夜「あなただって年増の女に迫れられるのは嫌でしょう?」

優希「……ああ、なるほど」

 

輝夜の言っているのはおそらく、いわゆるおとぎ話になっていた部分のことだろう。

年を取らないということは昔もこんな少女の姿をしていたはずだ。

つまり、見た目だけ見れば年端も行かない少女に求婚してくるおっさん連中……。

自分が同じ立場になったとしたら納得できないでもない。

ある種難題を出したのはそういう心境もあったんだろうか。

そんな他愛のない話をしながら待っていると、うどんげたちが戻ってきた。

 

うどんげ「はい、お待たせ」

優希「おお!」

 

少しだけ自信に満ちた笑みを見せながら彼女の置いた料理の数々。

それらは豪華さこそないものの、一つ一つに気持ちのこもった暖かいものに感じた。

例えばほうれんそうのお浸し。

一見地味に思えるこれは、いろいろと味の濃いものばかり食べてた俺には恋しい味だ。

それに、キャベツと卵、それにタケノコを使った炒め物。

同じくタケノコの天ぷらに、シンプルな玉ねぎとジャガイモの味噌汁。

それにつやのある真っ白な白米!

外食なんかではまずなかなか手を出さないだろう、家で作った料理って感じだ。

実はずっと自分の出した料理ばっかりで、人の手で作った料理には飢えている。

 

優希「どれもうまそうだな……」

うどんげ「そう? 普段よく出る内容だけど」

優希「なんていうのかな……ほら、俺の出してるのって手作りってわけじゃないだろ?」

優希「だからこういうのが新鮮でさ」

てゐ「そういわれてみれば、基本的に佐伯がいるときはずっと佐伯だよりだった気がするね」

永琳「そうね。異変中だったから仕方ないとは思うけれど」

優希「まあ、もちろん妖夢のところでもごちそうしてもらったんだけどさ」

うどんげ「? なら別に……」

優希「いやあ、こういう家庭的な感じのは久しぶりなんだ。ほかのところもそうだけど、宴会って感じでさ」

うどんげ「あ、ああ~……そういうことね」

 

ようやく言わんとしていたことが伝わったのか、うどんげもすっきりした顔をしてうなずいていた。

 

うどんげ「そういう意味では、変に準備してなかったほうが良かったのね」

優希「うん、それがだめってわけじゃないんだけどな。特別扱いってのは苦手なんだ」

輝夜「実際、特殊な立ち位置にいるのは確かだと思うんだけど?」

永琳「そうね。佐伯君は言ってみれば幻想郷の恩人であり、良き友人だもの」

優希「大袈裟だなあ」

てゐ「そううさ。もうちょっとやんわりと食料担当って言ってあげて!」

優希「それはそれで違うからな!?」

うどんげ「もう! 話はいつでもできるんだし、冷める前に食べて食べて」

優希「おっと、悪い。それじゃさっそく……いただきます!」

 

まずは味噌汁を一口。

これが意外とそれぞれの家庭ごとに違いがあって面白いんだ。

どうやら永遠亭では一般的な合わせみそを使っていているらしい。

濃すぎず、薄すぎない絶妙な汁に玉ねぎとジャガイモのほんのりした甘み。

思わず白米をいくらかかき込み、味噌汁を口に含む。

行儀が悪いが、俺は割とこれが好きだったりする。

 

うどんげ「ど、どう?」

優希「うん、ちょうどいい塩梅だと思う。ごはんにもよく合うし!」

うどんげ「! じゃ、じゃあ今度はこれ食べてみて!」

優希「お? タケノコの天ぷらか……どれ」

 

少し弾んだ声をあげて勧めてくるのに流されるまま、俺はタケノコの天ぷらを口に運ぶ。

口にした瞬間、さくりっ、とした心地の良い触感とほっくりとしたタケノコの歯ごたえ。

そして、下味をつけているのだろう。

何もつけなくとも感じる甘味を感じるダシの風味が鼻を突き抜けていく。

咀嚼するたびにしみ出してくるうまみが癖になる。

 

優希「ああ、これもうまい! これ、タケノコに下味つけてる?」

うどんげ「ええ、ポイントは一度煮付けてから冷ましたのを使うことよ」

うどんげ「そうすると味が染みて、タケノコ自体も柔らかくなるの」

優希「うんうん、やっぱりうまいな……」

優希「いつもうどんげが作ってるのか?」

永琳「ええ、そうよ。たまに私が作ることもあるけど普段はうどんげに任せてるわ」

てゐ「私も作るって言ってるのに~」

輝夜「てゐが作ると食事が食事としては他の締めなくなるでしょ?」

輝夜「別の意味では楽しめるから私としてはたまになら構わないけど」

うどんげ「……と、言うわけよ」

優希「うどんげも苦労してるなあ……」

 

困ったように笑ったうどんげに、俺も笑い返す。

妖夢とは違っているが、これはこれで苦労しているといえるだろう。

妖夢が量に困っているなら、うどんげは質に困ってるといったところか?

そんな会話を楽しみながら、次は卵とタケノコの炒め物にはしを付ける。

少し濃いめの醤油で味付けされたそれは単体で食うと少し喉が渇いてしまう。

しかし、それをご飯の上に乗っけて食べることで程よい味加減になった。

ご飯が進んで気が付けば空になる。

 

うどんげ「ほら、お変わり食べるでしょ?」

優希「ああ、ありがとう」

うどんげ「これくらいでお礼なんていいのに……はい、どうぞ」

 

そういいながらも嬉しそうにほほ笑み、うどんげが茶碗を返してくれる。

さっきと同じくらいに盛られた白米を前に、俺はもう一度炒め物を乗っけてかき込む。

 

輝夜「いい食べっぷりねえ」

永琳「ええ、本当に。やっぱり男の子はこれくらいでないといけないわね」

 

なんだかほほえましいものを見るような視線を感じるがスルーだ。

今はただ、うどんげの作ってくれた料理に集中しよう。

さて、そろそろ口の中がくどくなってきたな。

ここで俺はあえて手を付けていなかったほうれん草のお浸しに箸を伸ばす。

見た感じ、ゴマを振り、ダシを少量かけただけのシンプルなものだ。

口に入れてみると、予想通りな味とともにややひんやりとしたシャキシャキ感。

さっきまで口の中を覆っていた濃いめの味が洗い流されてリセットされる。

そうすることでまた次を食べたくなるわけだ。

俺は再び箸を動かし、思い思いに食べ続けるのであった。

 

 

優希「ふぅ~……食いすぎた……」

 

あれからお代わりをもう一回追加した俺は、少し苦しくなったお腹をさすりつつお茶を飲んでいた。

ちょっと無遠慮が過ぎたかなとおもったけど、うどんげはむしろ嬉しそうに食器を運んでいく。

 

うどんげ「これだけ食べてもらえたなら、頑張って作った甲斐があったわ」

優希「ああ、本当にうまかったよ」

優希「そうだ、なんかしてほしいこととかあるか? できることなら常識の範囲内でよければ聞くけど」

うどんげ「! ほ、本当にっ!?」

優希「んおっ!? お、おお……あんまり無茶なことじゃなければ?」

うどんげ「分かってるわ。……滞在中までに考えておくわね」

 

えらく真剣な表情でぶつぶつ言いながら洗い場に行ってしまった。

……いったい何をさせよと思っているのだろうか?

てゐじゃないんだから変なことはしないと思うが。

 

永琳「まあ、そんなに心配しなくても害はないと思うわ」

輝夜「あの子もちょっとまだ、いろいろと試行錯誤してるのよ」

輝夜「変なことを頼んでも、呆れたり怒らないで上げてね?」

てゐ「頼んだよ、佐伯。うどんげは結構、繊細だからさ」

優希「えーっと……よくわからないけど、大丈夫だよ」

優希「どんなうどんげだって、うどんげさ」

輝夜「まっ、あんたならそういうでしょうね。だからあんまし心配はしてないんだけど」

永琳「むしろ恐ろしいほどに鈍感なことのほうが心配ね」

優希「鈍感?」

 

ここ最近、いろんな奴から言われてる気がする。

寄ってたかって鈍感鈍感って……俺、そんなに鈍感か?

一人首をひねっている間にも話は進んでいるようで、いつの間に一人だけ輪から外されていた

 

てゐ「あれは素だから治らないんじゃないかなあ……」

永琳「私もすでにさじを投げているわ。薬でどうにかするわけにもいかないもの」

輝夜「そうねー、そんなことしたらうどんげが何するかわからないし」

優希「いまいち話が分からないんだが?」

輝夜「あんまり気にしないでいいわよ、独り言だから」

優希「えらく大きな独り言だな!? おまけに俺だけ輪の外!」

 

なんで唐突にはぶられてるんだ。

一人理不尽な疎外感を感じていると、うどんげが返ってきた。

 

うどんげ「あら、どうしたの? 佐伯」

優希「なんか知らんが、会話の輪から外されてたところ」

うどんげ「最近、私もその対象にされることはあるわね……」

優希「そうなのか。じゃあはぶられ仲間だな」

うどんげ「ふふ、なによそれ」

 

おかしそうに笑いながら、うどんげは自然に隣に座ってきた。

まあ、別におかしいというわけじゃないんだけどちょっと緊張するな。

うどんげにしてもそうだけど、こっちの女の子ってレベル高いし。

 

優希「さて、ちょっと遅めの朝食をごちそうになったことだし、デザートでも出そうか」

てゐ「ひゃっほー! 待ってましたっ!」

うどんげ「現金ねぇ……」

輝夜「そうはいっても、佐伯じゃないと出せない物はいっぱいあるでしょ?」

永琳「ええ、長い間生きているけれど、食べなれない物というのは新鮮でいい刺激になるわ」

優希「そういうもんなんだ?」

うどんげ「私はそこまで長生きじゃないから分からないけど……師匠たちは、ね」

てゐ「ちなみに、こん中じゃ鈴仙が一番の年下うさ」

優希「えっ! マジでっ?」

うどんげ「ちょっと癪だけど、本当よ。てゐのほうが長く生きてるみたい」

輝夜「年長者は永琳よね」

永琳「ここまで長く生きているとどうでもよくなるほどの誤差でしかないわよ?」

優希「ということは八意先生、輝夜、てゐ、うどんげの順なのか」

 

大したことではないんだけど、俺の中ではちょっとした衝撃的事実だ。

とくにてゐの場合、見た目も行動も子供っぽいところがある。

それを考えるとついつい小さい子って感じてしまうんだよなあ。

あ……でも、時々見せる表情はどこか大人びてる時があったっけ。

 

優希「でもまあ、皆きれいだし、かわいいしで年齢とか特にって感じだけどな」

輝夜「あらあら、お口が上手なことで」

永琳「ほどほどにしときなさいよ? 泣く子が出てくるから」

てゐ「悪い気はしないけどねー。でも、いつか刺されそうウサ」

優希「なんかこっち来てから妙に変な連携たててない?」

3人『さあ~?』

優希「ぐぬぬ……」

 

どうもこの3人を組ませると孤立無援状態になってしまうな。

こうなったらうどんげの応援をもとめるとしよう。

 

優希「うどんげは……って、どうした?」

うどんげ「……」

 

途中から何も言わないなって思ったら、顔を真っ赤にしたうどんげがいた。

……あれ、ちょっとまずったか?

 

うどんげ「……わ、私もきれいとかかわいい子に見えるの?」

優希「うん? そりゃもちろん」

優希「それに、うどんげは見た目も雰囲気も同年代な感じで接しやすいから助かってるよ」

うどんげ「そ、そうなんだ……えへへ」

 

何やら嬉しそうに笑いながら、背を見せる。

こっそりと覗き見た彼女の顔はだらしなく緩んでいた。

……そんなにうれしい、のかな?

 

優希(そういや、こっちに実力者の男って少ないんだっけ)

 

ふと、俺はそんなことを思い出していた。

争いあうのは主に女の子同士。

交流に関してもごくごく一部になるだろうし、大体が人間になるだろう。

人間が妖怪相手に可愛いとかきれいだとか言うのは難しいのかもしれないな。

 

てゐ「あの顔はまーた勘違いしてるよ」

輝夜「ま、いいんじゃない? 鈴仙は幸せそうだし」

優希「もう気にしない方向で行くか……」

優希「ほれ、皆も好きなのを注文してくれ」

永琳「あら、この本は?」

優希「ああ、どんなのがあるかわかりづらいって意見があってさ」

優希「カタログがあれば見た目だけならわかるだろ?」

 

俺はスイーツ関係の写真の載ったカタログ本を机の上に置いて開く。

どうやらうどんげも戻ってきたらしく、興味深そうに本を覗き込んできた。

うっ……ちょっと近いな。

肩のすぐ近くにうどんげの顔があって、彼女からふわりと甘い匂いがした。

 

うどんげ「ねえ、どんなのがあるの?」

優希「お、おう……こんなのとかかな」

 

ちょっと緊張しているのをごまかしつつ、カタログを開いて見せる。

そこには和風のものから洋風のものまで数多く載っており、色鮮やかにページを彩っていた。

それをみた皆の表情が輝いているのは……まあ、仕方ないことなのかな。

 

輝夜「へえ~……抹茶を使ったけーきっていうのもあるのね」

輝夜「けーきって確か、紅魔館のメイドも作ってる洋風の甘味でしょ?」

優希「うん、外の世界じゃ和風の物と洋風の物を合わせることも多いんだ」

優希「抹茶ケーキは代表例ともいえるかな」

輝夜「へえ、それじゃ私はこれにしようかしら」

永琳「私はそうね……このベリータルト? というのでお願いするわ」

てゐ「むむっ! 人参を使ったケーキとかもあるのね……私はこれ!」

優希「はいよ。うどんげはどうする?」

うどんげ「おいしそうなのがいっぱいで迷っちゃうな……」

うどんげ「おすすめとかあるの?」

優希「うん? そうだなあ……これとか?」

 

そういって俺は何度かページをまくり、映った写真を指差した。

個人的に好きで、外の世界にいたときは迷ったら食べていたもの。

そう、それこそ――。

 

うどんげ「あっぷるぱい?」

優希「そっ! 俺が外の世界にいたころはとりあえず食べてたんだ」

優希「サクサクした生地で甘く煮たリンゴを包んでるって感じだな」

うどんげ「佐伯も……うん、それなら私はこれにする」

優希「じゃあ俺も久しぶりにアップルパイにしるか」

 

希望の物を皆に出してやると、皆思い思いに楽しみ始めた。

まあ、女の子が甘いもの好きっていうのはどこでも同じだな。

俺はそんな様子をほほえましい気分で見守りつつアップルパイを口に入れた。

市販品で食べると大抵はなくなってしまうサクッとした食感にまず感動する。

どうしても時間が経つと湿気などを吸ってしんなりしてしまうパイ生地。

それが俺の能力で出したものにはなく、まるでできたてのような歯ざわりと温かみをもっていた。

その後に少し遅れてやってくるパイ生地とは違ったサクッ、とした食感。

甘く煮付けられたリンゴの果肉が、大きすぎず小さすぎない大きさでスライスされている。

たまに大きすぎてリンゴの主張が激しいものもあるが、これはそれがない。

恐らくは俺の好みを強く反映しているのかもしれないな。

 

優希「どう?」

うどんげ「すごくおいしい……こんなの食べたことない!」

優希「そっか、喜んでもらえたならうれしいよ」

優希「俺も小さいころに食べたときはびっくりしたもんさ」

うどんげ「へえ、佐伯の小さいころの話?」

優希「ああ、まあ……こっちじゃよくわからないけどよくあることだよ」

優希「誕生日会で初めて母さんが作ってくれたのがアップルパイでさ」

輝夜「へえ、いいお母さんじゃない」

優希「そうだな。正直、当時の俺はショートケーキが出てくると思っててさ」

優希「かなりごねたらしいんだけど、一口食べて態度がころっと変わったらしい」

永琳「ふふ、佐伯君にもそういう時期があったのね」

てゐ「普通に子供してるなあ」

優希「実際普通の子供だったはずだしな」

 

こっちに来ることなっていなければ、おそらくは今も普通に過ごしていただろう。

そう考えると少しだけ感傷的な気分に浸っちゃうな。

……みんな、げんきにしてるんだろうか?

 

優希「でもま、こっちはこっちで毎日が退屈しないよ」

優希「いろんなことに巻き込まれたりするし、暇はしないな」

うどんげ「佐伯の場合はいきなり最悪レベルな異変に巻き込まれたものね」

優希「ほんと、あれにはびっくりしたな」

永琳「最初にあったのは妖怪の山の面々だったのよね?」

優希「ああ、正確には犬走とだな」

優希「偶然に会って助けて、他の皆と会って~……て流れかな」

輝夜「なるほどね。それで早苗に刺されたと」

優希「あの時は無我夢中だったからなあ……今となっては不用心だったと反省してるよ」

うどんげ「そのあとも無傷で帰ってくることのほうが少なかったじゃない」

優希「うっ……あ、あはは……」

 

ジト目でそういわれると痛い。

確かに大小はあれど傷を負わずに帰ってきたことのほうが珍しい。

 

うどんげ「まあ、あんな怪我をすることはそうそうないでしょうからそのあたりは安心してるけどね」

優希「そうだな。妖怪の山の事件は結構珍しい部類に入るって聞いたし」

輝夜「そうね。私たちがこっちに来てからの話だけど、聞いたことがない規模だったわ」

永琳「あの文屋が珍しく追い詰められたという話ですし、そういうことはそうそうないと思いたいわね」

てゐ「まっ、あの文屋にはいい薬じゃないかな?」

一同『お前が言うなっ』

 

息の合った俺たちの言葉に、『ひどいウサー』と縁起がかった態度を見せるてゐ。

それを見て笑いながら、俺はこの場所でもきっと、いろいろと楽しい日々を過ごせる予感を感じていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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