東方優幻想   作:エウラス

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新章第10話

新章第10章:永遠亭での職場体験と思い出作り

 

優希「ふああ~……」

うどんげ「おっきなあくびね……ちゃんと寝たの?」

優希「う~ん、寝たつもりなんだけど……眠りが浅かったのかな?」

 

人里でバザーを見て回った日から翌日のこと。

うどんげに起こされた俺は、皆の待つ食間へ向かっていた。

なんということはない、朝ご飯の時間だからだそうだ。

昨日おとといと作ってもらっているので今日は御馳走してほしいんだとか。

どうせあのぐーたらなお姫様の要望だろう。

それにしても……。

 

優希(つけてくれてるんだ、あれ)

 

隣を歩くうどんげの胸辺りに光っている物が朝日を浴びて輝いていた。

こうしてプレゼントしたものを着けてもらえるのってうれしいもんだな。

人によっては特別な時にだけ着けて普段は大事にしまっておくなんてこともある。

それはそれで大切にされてるんだなとは思う。

俺はやっぱり、実際に着けてもらってるほうが嬉しいけどな。

等と考えていたら食間についた。

 

優希「おはよう、皆」

輝夜「もう、遅いわよ? 佐伯」

優希「ふぁ~……すまんすまん」

永琳「まだ眠そうね? 目覚ましに一本どうかしら」

優希「ん、ありがとう……うぅっ! 味はともかく利くなぁ」

 

苦笑いしながらあいまいに笑われてしまった。

だが正直な話、味は結構えぐい。

苦いのか酸っぱいのかわからないし、なぜか最終的に甘くなる。

おまけにドロリとした緩い水あめのような液体だし味が結構残るんだ。

効き目に関していえば間違いなく一級品で、眠気はどっかへ消えてしまった。

……ぶっちゃけ、薬の効果よりも味のせいかもだけど。

 

てゐ「効能だけ見れば最高うさ。でも、その分ちょっと味がえぐいんだよね」

輝夜「どうにかできなかったの? あれ」

永琳「あれでも大分抑えているのよ? 試験品は飲めたものじゃなかった……らしいし」

優希「らしい?」

うどんげ「あれはもう飲みたくないわね……」

 

どんよりした声をあげたうどんげをみると目が死んでいた。

どうやら相当えぐい味の物を飲まされたようだ。

何度か聞いてはいたけど、本当に新薬の実験台にされていたのか。

それぞれの要望通りの品を出して一息ついた頃。

 

輝夜「そういえば今日はどうするの?」

 

そんな風に、思い出したように尋ねられた。

その問いに対しては明確な答えはないんだよなあ。

なんせ、俺の目的は皆の普段の生活を見て自分と合うかって話だから。

 

優希「私生活についてはある程度見させてもらったんだけど、他に永遠亭で普段からしていて見せてない部分ってある?」

永琳「そうねえ、まだ診察なんかの部分は見せてないことになるのかしら? 診察を受けたことはあるけれど」

優希「あっ、そういえばそうか」

 

言われてみれば俺自身が診察・処置されることはあっても他の人をしてるのは見てない。

というかここって本来は不確定多数? の患者を診るのが仕事なんだよな。そういう意味ではまだ永遠亭の本来の部分ってのは見てないかもしれない。

 

永琳「ちょうど今日は診察日だし、佐伯君も見学していく?」

優希「ええ? こういうのってプライバシーとかそういうのがあるんじゃないのか?」

永琳「ええまあ、そういう内容の物ももちろんあるわ。けれどそれは一握りよ。そういった場合は私の判断で裏方に回ってもらったりするから」

うどんげ「そうね。基本的には雑用をお願いすることになっちゃうけど‥…」

優希「うん、それでいいよ。そもそもな話居候だしね、俺」

 

居候という言葉に苦笑いを浮かべられたものの、職場体験? はこうして始まった。

 

とある患者の場合

 

村人「やあ先生、今日も悪いんじゃが見てもらえるかのう」

永琳「ええ、大丈夫ですよ。本日も腰で大丈夫ですか?」

村人「うんうん、頼む。……うん?」

 

診察時間になってしばらくしてから来た初めての患者さん。

どうやら常連だったようだが……。

 

優希「おじいさんもこちらの患者さんだったんですね」

村人「おやおや坊やじゃないか。どこか悪くしたのかい?」

 

心配そうにそうこちらへ顔を向けたのは里のとある商店のお爺さんだ。

いつも買い物によると世間話をさせてもらって仲良くさせてもらえていると思う。

白くなった髪を撫でつけながら不安そうな顔をしている姿はあまり見たくないな。

 

優希「いえいえ、実は今永遠亭の職場体験をしてるんですよ」

村人「ほうほう、ここで働くのかね?」

優希「それはまだ未定、ですね。ここだけでなく、色々な場所を巡っているので」

村人「そうかそうか、坊やは不思議な力があるからなあ。どこに行っても大活躍じゃて。ほっほっほ」

村人「あたた……」

永琳「ほらほら、変な体勢のまま笑うと腰に響きますよ」

村人「すまんのう、坊やがいるとつい話し込んでしまって」

永琳「佐伯君は聞き上手ですからね」

 

なんだか本人を目の前にしての話題はむずがゆいな。

表情に出ていたのか、小さく笑った永琳が軽く手招きしてきた。

何だろうと思って近づくと、薬の名前と効能の記された紙を渡される。

これは……腰痛に効く軟膏らしいな。

 

永琳「私は患者さんのマッサージを続けるから、うどんげにその紙を渡せば用意してくれるわよ」

優希「そういうことか。了解、行ってくるよ」

 

二人からのねぎらいの言葉を受けつつ、俺は診察室を出て薬品庫へ向かった。

 

 

うどんげ「あら、どうしたの?」

 

薬品庫に近づいたと思ったらうどんげがひょっこりと顔を出してきた。

気づくの早いな。

 

優希「うん、永琳からこれをうどんげにさがしてもらえって」

うどんげ「どれどれ……? ああ、いつものおじいさんね。腰痛持ちの」

優希「そうそう、永琳が今マッサージで手が離せないから代わりにな」

うどんげ「そっか、普段なら私が佐伯の代わりを兼任してるのよね……えーっと」

 

ガサゴソと中で薬をあさっている音がする。

手持ち無沙汰でふと扉に目を向けると、物々しいどくろマークと立ち入り禁止の文字。

そして無許可で服用すると身の安全は保障しない、の注意書きのおまけつきだ。

いやあ……おおよそ薬の保管されている場所の表記とは思えない物騒さだな。

毒と薬は紙一重とかはよくいうけど。

そういえば、さっきから薬品棚をあさる音が聞こえなくなったような?

気になってのぞき込んでみると――。

 

うどんげ「うーん、お師匠様ってばどこにいれたんだろう?」

優希(うっ!?)

 

どうやら一番下の棚に入っている薬をあさっているのだろう。

四つん這いで頭を突っ込んで再びガサゴソしているうどんげの姿が目に飛び込んできた。

しかし、それ以上に俺が気まずくなる原因が。

 

優希(きわどすぎるっ!!)

 

目の前でふりふりと振られているスカートだ。

今更かもしれないがうどんげのスカートは結構短い。

二―ハイソックスのおかげか普段通りにしてたらあまり気にならなかったんだが……これは非常にまずい。

見えそうで見えない、そんなきわどいラインでゆらゆらと揺れていた。

俺は平静を装い、一度その場から少し離れた後に声をかけることにする。

 

優希「うどんげー、あったかーっ?」

うどんげ「あったわ……あいたっ!?」

 

ガツン、といういい音がした後にうめくような声。

どうやらあの体制から勢いよく立ち上がろうとでもしたらしい。

想像できるだけにいたそうだなあとか思いながら慌てて薬品庫の中へと入った。

 

優希「大丈夫かっ?」

うどんげ「う~……」

 

痛そうに頭を押さえ、涙目でこちらを見るうさ耳少女。

うん、可愛いね。

でもさすがに放っとくのもよくないから頭を軽く撫でてやる。

意外とこうするだけでも痛みって薄れていくもんなんだよね。

 

うどんげ「さ、佐伯?」

優希「痛いの飛んでけってな。どうだ?」

うどんげ「う、うん……まだちょっと痛い、かな?」

 

気持ちうるんだ瞳を向けられるとちょっと照れてしまう。

 

 

うどんげ「は、はい。これだからもっていってね?」

 

ひとしきり撫でてやったことで満足したらしい。

さっきまでの泣き虫さんはどこへやら、きりっとした表情で薬瓶を渡してくれた。

そんな彼女がほほえましいなあ、とか思いつつうなずいて答えておく。

 

優希「ああ、うどんげも気をつけてな」

うどんげ「もう! そう何度もぶつけたりしないわよっ」

優希「悪い悪い。それじゃあいくな」

 

ちょっと困りつつも笑って返し、俺は薬瓶をもって永琳のところへ戻った。

 

 

優希「なあ、思ったより患者さんすくないみたいだけど、これでやってけてるのか?」

 

お昼を回ったころ、『いったん休憩ね』という言葉とともに食間に戻ってきた。

それぞれのリクエストに応えた食事を出してやったあと、俺はそう尋ねたわけだ。

いや、患者さんが少ないのは非常にいいことなんだぜ?

でもだ、午前中だけとはいえ両手で足りる程度の人しか来ていない。

正直こんなので収入的にやっていけるのかと心配していたんだが……。

 

永琳「心配しなくても、どちらかといえば診療所のほうがおまけみたいなものよ?」

永琳「基本的には常備薬の補填や点検が主な収入源だから」

優希「えっ、そうだったのかっ?」

輝夜「そりゃあそうよ。考えてもみなさい? わざわざこの距離歩いてまで来るなんて、そこそこ健康よ?」

てゐ「まあ、例外もいるけどねえ。最初に来たじいさんなんて慧音とか妹紅を乗り物扱いしてきてるしさ」

うどんげ「そして、そこにもわずかながらの収入が発生してるんだけどね」

優希「ふへえ、なんか俺が暮らしてた世界とは違って別の意味で複雑そうだ」

うどんげ「佐伯のところって、もっと忙しかったの?」

優希「病院関係ってことなら相当な。基本的に連日大忙しさ」

永琳「そんなに病気が流行っているのかしら?」

輝夜「その割には文明ははかどっているんでしょ? 不思議よねえ」

 

輝夜は携帯ゲーム機をプラプラさせながら苦笑い。

俺は食事時まで離さず持ってきてるお前に苦笑もんだわ。

 

優希「んー、というよりさ。人口が違いすぎるんだと思うんだよ」

永琳「そうなの?」

優希「まあ、俺が住んでいた国だけで何億って人間がいたからなあ。そんだけいれば、病人や重傷者もそれなりに固まるだろ? それに、文明の関係で交通関係の事故も多いんだ」

うどんげ「……大変なところで生きてきたのね」

優希「慣れたらそうでもないんだが、それでもふと気を抜けば危険は隣にあったな」

てゐ「落とし穴とか?」

優希「そんなん仕掛けるのはてゐくらいだってのっ!」

てゐ「にしし」

 

悪戯っぽく笑いながら、てゐは席を立って部屋を出た。

なんでもこの後、妖怪ウサギたちのしつけがあるんだとか。

見た目は可愛い兎なんだが、れっきとした妖怪らしいんだよなあ。

ふと気づいたらよく、寝室に紛れ込んで何匹か乗っかってるんだ。

可愛くてついつい好きにさせてるけど。

 

優希「午後はどうするんだ?」

永琳「そうねえ……今日は私一人でも大丈夫よ。ゆっくりしてなさい」

優希「お、おう……」

 

いきなりゆっくりしてくれと言われてしまったな。

今日はこのまま職場体験をして終わるかと思っていただけに拍子抜けだ。

そんな俺の反応にやれやれという仕草をした後、永琳がうどんげに何やら耳打ちをしている。

何事かと思っていたら、うどんげの顔が一気に真っ赤に染まった。

本当になんなの!?

あまりの真っ赤具合にちょっと心配になっていると――。

 

うどんげ「さ、ささ、佐伯はさ、この後暇っ?」

優希「へっ?」

 

今度は素っ頓狂な声を上げながらの問いだ。

いや、たった今目の前で暇になったのは見ていたはずですよね?

自分のから回り具合に気付いたのか、うどんげはさらに真っ赤に。

 

優希「ま、まあ……暇だな。永琳一人でいいってことは、うどんげも自由なのか?」

永琳「ええ、この後来る予定の患者もせいぜい2,3人くらいだもの」

永琳「正直なところ、言い出した私が言うのもどうかと思うけれど、手伝ってもらうことがほとんどないのよね」

優希「おいおい……」

輝夜「そういうことだから、今日はおとなしく二人でどこかへ出かけてきなさいな」

優希「うーん、そういうことならそうさせてもらうかな?」

優希「うどんげもそれでいいか?」

うどんげ「う、うん……大丈夫」

優希「? じゃあ出かける準備して玄関で待ち合わせしよう。どれくらいかかりそう?」

うどんげ「私はそこまでかからない……というかこのまま出ても問題ないわよ?」

優希「ありゃ、それじゃこのまま出るか」

うどんげ「ええ」

 

まだほんのりと顔は赤いけど、そこそこに調子を取り戻したらしい。

うどんげははにかみながら俺の横に並び、永琳たちへと振り返る。

 

優希「じゃあ、夕方までには戻るよ」

うどんげ「行ってきます、お師匠様、姫様」

永琳「ええ、楽しんでいらっしゃい」

輝夜「時間はそこまで気にしなくても大丈夫よー」

 

けだるげに、それでもどこか温かい表情を浮かべていう輝夜。

そして何かを見守るような温かい視線をうどんげに向ける永琳。

……いったいなんだというのだろうか、この初めてのおつかい感。

ともあれ、俺たちは空いた時間を有効活用しようということでさっそく屋敷を出る。

 

 

うどんげ「で、どうするの?」

優希「うーん、出るって決めたもののそこまでの案があるわけじゃないんだよな」

 

突然決まったうどんげとのお出かけ。

とはいえ、前みたいに里に出てっていう目的があるわけでもない。

そうなると俺はどうするかなーって気分になるわけだが――。

 

うどんげ「よかったら、竹林の中を歩いてみない?」

 

と、ほほ笑みながら提案してきた。

ふむ、竹林の中か。

そう言われてみればまともに歩いたことがなかった気がするぞ。

異変中にしてもそうだが、基本目的地との間はショートカットしてたし。

 

優希「うん、いいんじゃないか?」

うどんげ「決まりね。それじゃあゆっくりお散歩と行きましょう」

優希「おう」

 

穏やかな顔で笑ううどんげに、同じように笑いながら返して永遠亭を出た。

 

 

そろそろ夏を過ぎ、秋を感じる風を感じながらチクリの中を歩く。

笹の葉とそれ以外の何かが歩くたびにサクサクと音を立てる。

 

優希「色々と忙しい毎日を送ってたからなあ……こういうのんびりしたのもいいもんだ」

うどんげ「やっぱりそうだったんだ」

優希「やっぱり?」

うどんげ「話を聞くだけでも大変そうだもの。それに、疲れた顔してるわよ?」

 

うそん、と思いながら顔を触るがもちろん分からない。

思えばこっちにはあんまし鏡が多くないから自分の顔を見ることもなかったわ。

そんな俺の様子がおかしかったのか、うどんげは困ったように笑った。

 

うどんげ「こう見えても師匠と一緒に患者の人間をみることだってあるのよ?」

優希「うっ、やっぱり本職ってのはすごいもんだなあ」

うどんげ(それに……佐伯の事、誰よりも見てるし)

優希「うん? なんか言った?」

うどんげ「なんでもないっ! それよりもこの後はどうする?」

うどんげ「のんびり歩いてるのもそれはそれでいいんだけど……」

優希「うーん、そうだなあ」

優希「とりあえず立ち話もなんだし、せっかくだからこの辺でちょっとすわろっか」

 

俺はそういって椅子を作り出すとうどんげと二人で腰を掛ける。

しかし、よくよく考えたら、俺はそれぞれの家での生活を見学させてもらっているわけだ。

だけどこと永遠亭に関していえば、それぞれがわかりやすかった。

輝夜の奴は自堕落で事あるごとに面白いことがないかを考えてたな。

永琳は基本的には輝夜の世話、新薬の開発なんかをためしている。

てゐは……うん、あいつは悪戯に命を懸けすぎだな。

うどんげはどうだろう?

 

うどんげ「?」

 

視線を向けられてこそばゆいのか、ちょっとソワソワした感じ。

でも気になるのかちらちらとこちらを見て、視線が合えば慌てて顔を背けていた。

なんだろう、この可愛い生き物……とと、それはおいといて。

うどんげは元々は月に生きてきた玉兎っていう種族なんだっけ。

 

優希「うどんげはさ、地球に来てどう思う?」

うどんげ「? 急にどうしたの?」

優希「いやさ、俺も突然こっちに来ることになって、当時は慌てたなあって思ってさ」

優希「能力が能力だから、物品やら食品でホームシックになることはないんだ」

うどんげ「ほーむしっく?」

優希「郷愁っていえばいいのかな、うどんげたちには」

うどんげ「ああ、なるほどね」

うどんげ「……月、かあ」

 

何気なく、という感じでうどんげは後ろ手を組みながら空を見上げる。

秋だというのに覆い茂る竹林の青々とした葉っぱに遮られているはず空……。

その先を見つめるように、赤い瞳が少しだけ揺れていた。

 

うどんげ「前にちょっとだけ話したよね、私が戦争から逃げ出したっていう話……」

優希「ああ、紅魔館に行ったときのことだよな」

 

覚えててくれたんだ、と複雑な表情を浮かべながら照れくさそうにこちらを向く。

 

うどんげ「私ね、臆病者だったんだ。でも、月ではそれなりに良い立場にいたのよ?」

優希「そうなのか? もしかして永琳たちと一緒にいるのにもその辺に関係あるとか」

うどんげ「ええ、私は元々月の労働力としての玉兎だったの」

優希「そういえば玉兎ってしばしば聞くけど、どういう存在なんだ?」

うどんげ「ん~……言い方は悪いけど、奴隷みたいなものかな」

優希「ど、奴隷っ?」

 

思わぬ言葉が出たことにぎょっとしていると、苦笑いで返された。

思ったよりも深刻そうじゃない態度に首をかしげる。

 

優希「その様子だと、そこまでひどい扱いじゃないのか?」

うどんげ「ええ、大したことはないわよ。みんな能天気に好き勝手してるもの」

優希「思ったより緩いんだな」

うどんげ「そうね。私はそんな玉兎の中でも、依姫様達に目をかけてもらっていたわ」

うどんげ「あ、分からないと思うから言っておくけど月ではお師匠様と姫様はすごく高い地位にいたの」

うどんげ「それで、そのお師匠様直々に鍛えられたのが綿月依姫様と豊姫様よ」

優希「へえ、それじゃあ結構なエリートだったんだな」

うどんげ「まあね。でも、今じゃこうして逃亡しちゃってるんだけどね」

 

ちょっとだけばつが悪そうな顔をしながらも、その顔は消して暗いだけじゃない。

吹っ切っている、わけではないんだろう。

それでも前を向いて生きているんだなってことは十分に感じられた。

 

優希「それにしても、逃げるったってよく地球までこれたな?」

うどんげ「前も言ったでしょ? 月の科学力は地上を超えてるって」

うどんげ「月から地球へ渡る船もあったわ。私はそれに乗って地上におりてきたっていうわけ」

優希「船……宇宙船ってやつか。本当に飛んでもねえな」

 

俺は乾いた笑い声をあげてどや顔のうどんげに返す。

 

うどんげ「ねえねえ、今度は佐伯のことも教えてよ」

優希「俺の?」

うどんげ「うん、こことは違う発展の仕方をしてるって話よね?」

うどんげ「料理一つとってもそうだけど、すごく色んな種類があったし……」

優希「ああ、確かにこっちに比べるとそうなのかな」

うどんげ「外の世界ってどんなところ?」

優希「ん~……論より証拠かな。こんな感じの建物がいっぱいあるんだよ」

うどんげ「本? ……へえ、思ったよりも発展してるのね。まるで月みたいだわ」

 

俺が出した住宅関係のパンフレットで、適当に家が並んだ写真を見せた。

すると、のぞき込むようにして身を寄せてくるわけで……。

 

優希(ち、近い……)

 

もうちょっと身を寄せれば、頬がくっつくんじゃないかってくらいに身を寄せられていた。

確かにパンフレットはそこまで大きくないから、のぞき込むのも分かるが。

 

優希「後、そうだな。こんな乗り物があるぞ。自動車っていうんだけど」

うどんげ「? なにこれ、駕籠?」

優希「簡単に言えば、これに乗って燃料さえあればすごい勢いで走れる乗り物だよ」

優希「ただ、資格が必要で、それなしに乗ると捕まって裁かれる」

うどんげ「資格がいるのね。ふ~ん……早いの?」

優希「うん、こっちだとたとえようがないけど結構な速さが出るよ」

優希「もちろん天狗とか妖怪よりも遅いがな」

うどんげ「あまり大したことはないのね」

優希「そういうなって、結構高いんだぞ?」

優希「それに、こっちと比べると障害物とかあちらこちらにあるから危ないし」

うどんげ「そっか、外の人間って飛べないんだっけ」

優希「そうそう」

 

それからも二人でとりとめもないことを話し続けた。

お互いの居た世界との相違点を見つけてはお互いに首をかしげる。

とも思えば妙に似通っている場面があって笑いあう。

ひとしきり笑いあった俺たちは肌寒くなってきた風に体を震わせる。

周囲に意識を向けてみると、いつのまにか薄暗くなってきていた。

 

優希「気づいたらもうこんなに日が傾いてたんだな」

うどんげ「ほんと……」

優希「そろそろ帰るか。結構ここまでも歩いたし、この時期の陽はすぐ沈むからな」

うどんげ「……ね、佐伯」

優希「うん?」

 

椅子から立ち上がって伸びをしていた俺は、軽く体勢を戻して首をかしげる。

その瞳は少しだけ不安げで、思わず息を呑んでしまった。

 

うどんげ「佐伯は、帰ったりしないよね?」

優希「しないよ。っていうか、帰れないことくらい分かってるだろ?」

 

苦笑いを浮かべながらの言葉に、うどんげはしまったという顔を浮かべた。

すぐに顔を伏せて申し訳なさそうな雰囲気をにじませる。

しょうがない奴だなあ。

 

優希「俺はここで生きるって決めてる! そもそも、そのための拠点探しをしてるわけだろ?」

うどんげ「うっ、そういえばそうだったわね」

優希「まあ、昔を思い出してたまにしんみりするくらいはあるかもしれない」

優希「でもそれと帰るかどうかは別の話だからな。心配するな」

うどんげ「……ふふ、そうね」

うどんげ「ありがとう」

 

安心させるために強めに言い聞かせると、きょとんとした後に笑顔を浮かべてくれる。

その勢いのまま立ち上がり、俺の手を取ると、うどんげが走り始めた。

 

優希「お、おいっ? 急に走るなって……とと!」

うどんげ「ほら、早くしないと夕飯に間に合わないわよ?」

優希「ったく、仕方ないなっ!」

 

どこか吹っ切ったような笑顔を浮かべるうどんげに負けじと足に力を籠める。

自然とつながれた手が柔らかくて、温かくて……少しこそばゆい。

きっと俺の顔はそれなりに赤くなっていると思う。

だけど、まあ……。

 

うどんげ「これからもよろしくね、佐伯っ!」

 

うどんげの奴もまた真っ赤だから、お相子ってところかな。

うっすらと差し込む夕日を背中に、俺たちははしゃぎながら家路につくのだった。

 

 

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