東方優幻想   作:エウラス

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新章第12話

新章第12話:咲夜の変化

 

咲夜「次はこっちをお願いしてもいい?」

優希「おう、任せとけ」

咲夜「それにしても……本当にいいのかしら? 客人である佐伯をこき使ってるような形になっているんだけど」

 

戸惑いの混じった表情で眉を八の字にゆがめる咲夜。それに対し、俺は気にするなと笑いながらいくつもある部屋の中の一つで掃除機をかけていた。

何でこんなことになっているかというと、こっちに来て間もない時期のことだ。ぼーっと過ごしているところで、俺の目に留まったのがあちらこちらで見かける咲夜の姿。あんまりにもあちらこちらで見かけるもんだから気になっていたんだけど、その謎はあっさりと紅魔館の住人たちの口からきくことになる。

 

『咲夜(さん)はいつもあんな感じ』

 

と。それを聞いて俺はびっくりしていた。だって、いくら普通よりは力があるとはいえ女の子だ。そんな彼女がせわしなく周りの掃除をしたり、料理をしたり、客が来れば対応もしている。その客の中にはもちろん俺も含まれていて、俺がちょっとしたことで困ってたらどこからか現れては世話をしてくれていた。ぶっちゃけ、彼女が休んでいる姿を見た覚えがなかった。そんな彼女に少しでも楽をしてもらいたいという思いもあって、俺は出来る限りのことを無理ない範囲で手伝うことにしたわけだ。無理なく、ってのは咲夜からの提案。これを承諾してくれないと絶対に手伝わせない、と言い切られてしまった。

そんなわけで、俺は咲夜や妖精メイドたちの仕事でもある掃除の一つを手伝っていた。

 

優希「それにしても、いったいいくつあるんだよ。俺が掃除した部屋だけでもすでに二けた超えてるだろ?」

咲夜「正確には23部屋ね。部屋だけでいうなら三桁はあるわ」

優希「多すぎない?」

咲夜「来客用もあるにはあるのだけれど、大半が妖精メイドたちの部屋よ。一応、私と美鈴、パチュリー様とこあの部屋もあるわ」

優希「あ、パチュリーにも部屋あったんだ。てっきり大図書館で寝泊まりしてるのかと」

咲夜「いくら何でもそこまで非常識じゃないわよ」

 

それでもそうなるかもしれないという考えはあるらしく、咲夜の顔に浮かんでいたのは苦笑いそのものだった。あいつの普段の生活態度を聞いたら、少なくとも俺以外にもその結論に至るのは多いと思う。だって、生活の8割近くが読書って感じらしいからな。

本を読み始めたらてこでも動かない大図書館の主の姿を思い浮かべて苦笑しつつ、俺は部屋の中にある塵なんかを掃除機で吸っていく。咲夜曰、本来なら部屋に敷かれているカーペットをひっくり返して丸めて一度廊下へ。その後に箒とちりとりによる手動式の方法で掃除していたんだとか。それを部屋数分するんだから当然時間もかかる。

それに引き換え、俺が出した掃除機は別にカーペットをひっくり返す必要はない。そのまま直に吸えちゃうからだ。

 

咲夜「便利ねえ……。一度に多様な道具を河童たちが試作して、試させてもらったけれど……酷い目にあったわ」

優希「河童の発明品なあ。噂に聞くけど、結構な差があるらしいな」

咲夜「ええ、便利で画期的なものもあれば、はた迷惑な趣味全開で謎の絡繰りを創り出すこともあるもの。最低限、前置きがあるだけまだましだけれどね」

優希「ちなみに、それってどんな結果になったんだ?」

咲夜「ありとあらゆるものを吸い込んで、圧縮分解してしまう絡繰りだったわ。佐伯風に言えば機械、だったかしら? まあ、そんな性能なうえ、文字通りありとあらゆるものを吸い込んでは分解しちゃうのよ。それこそ、明らかに吸い込み口より大きなものまで吸い込んでしまうからたちが悪くて」

優希「うわあ……」

咲夜「私が慌てて時間を止めて機械を止めたからよかったものの、下手をしたら紅魔館自体がなくなっていた可能性も否定できないわね。結果的に、一部屋分の家具なんかが全部吸い込まれた程度で済んだけれど」

優希「程度、ってレベルで済ませていいのかなあ」

 

噂には聞いてたけど、実際に被害にあったらしい咲夜の感想を聞くと驚きを通り越して呆れしか出ない。確かににとりの奴も異変中、俺が出した機械なんかを怪しい目で見てたことはある。約束通りってことで、異変中に使ってたのと同タイプの機械を出してやったら嬉々として分解、再構成してはその機能をしらべてたっけ。河童は得てしてあんな感じ、と言われてしまった時の衝撃はすごい。河童のイメージが。

確かにそんなものに比べられたらこの掃除機なんて可愛いもんだ。吸引力の変わらないあれこれとはいえ、そんな非常識な能力はついていない。現代の科学技術は安全に対してとっても気を遣ってるからな。

それから雑談を交えつつ、いくつめかの部屋を掃除したところで昼飯の時間になった。いや、感覚的に言えば実質夕飯の時間なんだけどな。

 

咲夜「それじゃあ、私はお嬢様方を起こしに行ってくるから、美鈴たちをお願いできるかしら?」

優希「おう、役割分担だな」

咲夜「お嬢様たちは寝起きがちょっとアレなのよね。だから少し手間取るかもしれないわ」

優希「はは、まあゆっくりでいいぞ」

 

俺が笑って答えてやると、咲夜も小さく笑みを浮かべてから姿を消した。実際には時を止めてる間に移動してるんだろうけど、目の前で起きたこと自体は忍者みたいだなと思ってしまった。咲夜がもし忍者ならさぞかし優秀だっただろう。

などと脱線し始めた思考を元に戻し、俺は美鈴たちを夕食に誘いに行った。

 

 

食堂に皆が集まったのはそれから一時間程してからだった。主な理由としては、お嬢様ズがしゃっきりするまでのタイムラグとどこぞの本の虫のキリがいいところまで、発言が原因だ。色々とフリーダムすぎる。結局その一時間くらいの間はほぼ美鈴と喋るくらいしかすることがなかった。

 

レミリア「さて、食事の時間なのだけれど……なぜ料理が全く並んでないのかしら? 代わりにあるのは本……なのかしらね?」

 

カリスマ的な雰囲気を漂わせるレミリア。だけど、そんな彼女の前髪が微妙に跳ねていてどうにも閉まらない。

今日も順調にカリスマブレイクしているお嬢様なのだった。

そんな彼女は置いておくとして、皆も不思議そうに首をかしげている。状況を知っているのは多分俺と咲夜くらいだろう。

 

優希「いや、せっかくだから俺がいる間は食事担当してやろうかなって思ってな。勝手に出すのもいいんだが、どうせなら要望通りのものがほしいだろ? みんなの前に置いてあるのは料理本でな。そこに書いてる奴を見せてくれたら俺が出すぞ」

 

ちなみに本にはさらにどんな味、とかどんな食べ物が使われてるかなんかも細かく書いてる。アレルギー云々は伝わらないだろうが、大体のイメージはつくだろう。それでも難しい場合は実際に出してみて合わなければその時にどうにかすればいい。

ちなみに食事の用意ってのは俺の提案だ。食事の準備だけでも気にしなくていいなら、咲夜の負担も大分へるだろう。そういう考えがあった。

 

美鈴「なるほどー、それで絵が多いんですね。……あ、これおいしそう」

フラン「わー! いろんなデザートが載ってる! お兄さん、私これがいい!」

優希「ちゃんとご飯食べてからな? デザートもちゃんと聞くから」

フラン「ぶー! ……それじゃあどれにしよっかなあ」

レミリア「へえ、洋食も思ったよりいろいろあるのね? でも、食べたことのない味というのも気になるわ。どれも捨てがたいわね……」

パチュリー「ジャンクフード……なぜかしら、とても心が惹かれるのは」

こあ「私はここでの食事以外ですと宴会の時に口にしたものだけですし、目移りしますねえ」

 

みんなそれぞれに楽しんでいるのか、ページをめくっては入ってくる料理の情報にくぎ付けだ。レミリアとフランは何気に一緒に同じ本を読んで仲良くあーだこーだいってるし、美鈴はすっごい真剣に中華料理中心に見ているようだ。パチュリーは……うん、これ以上不健康さに拍車かからないようにしてほしいと願うばかりだ。こあはどれも新鮮なのか、目を輝かせてページをめくってはたまに『あ、これは知ってますね』と喜んでいた。ちなみに咲夜はというと、珍しく困ったような表情を浮かべて本を眺めているようだ。気になったのでちょっと近づいてみるか

 

優希「咲夜、難しい顔してどうしたんだ?」

咲夜「! え、ええ……ちょっといろいろありすぎてどうしようかと思って。それに、いまいちよくわからない食材があるのよねえ」

優希「例えば?」

咲夜「牛って何なのかしら?」

優希「……あー、そうか。幻想郷じゃそういえば見てないな」

 

咲夜に言われて俺はそういえばと思い出す。幻想郷にある肉の代名詞といえば、鶏肉だ。ついで、山の中で自生する猪やしかなんかの野生動物の肉。日本って昔は牛肉を食べる文化がなくて、畜産なんかもほとんどやってなかったはずだ。幻想郷においてはどうなのか分からないが、少なくとも俺が牛を見た覚えはなかった。

 

優希「外の世界じゃ鶏肉、豚肉……近いのはイノシシかな? と、それについで有名な肉が牛肉なんだよ。特に牛肉は高価なイメージが強くてな。グレードが良ければよいほど、油が乗って蕩けるような食感になるらしいぞ」

咲夜「高級な肉系統の食材っていうことね? うーん、気になるわ」

優希「肉の味を純粋に楽しみたいならステーキ一択だろうなあ。それもシンプルな塩にブラックペッパースタイル。その後に好みでいろいろソースをつけてみるといいさ。ちなみに、良い肉ほど浅く火を通して生に近い感じで食べるのがうまいらしい」

咲夜「なるほど……それじゃあ私はそれとパン、後はスープとサラダを付けようかしら」

優希「かしこまりました、お嬢様」

 

なんとなく気取ってそんなことを言いながら、俺は咲夜の前にご所望の品を出してやる。一応提案していた通りのレアの焼き具合にし、皿の上には簡潔な味付けになったステーキが乗っている。脇にはソースを幾らかおいておく。わさび醤油は鉄板な。

んでもってスープはとりあえずシンプルなコンソメスープに具材は玉ねぎと人参に卵。分かりやすいは正義だ。

サラダもシンプルにレタスにきゅうり、プチトマト……後はポテトサラダを小盛にしてからオーロラソースをかけておいた。あまり嫌いな人はいないだろうし、洋食に慣れてる咲夜なら問題ないだろう。

最後にパンだけど、まあシンプルにふわふわに焼き上げたロールパンにしておいた。一番無難だし、うまいからな。

 

優希「さて、それじゃあ召し上がれ――って、どうしたんだ? 咲夜」

 

我ながら完璧な準備だ、と思って咲夜を見たらちょっと様子がおかしかった。普段と同じような表情ではあるんだが、ちょっと落ち着きがないようにも見える。

 

咲夜「あ、いえ……お嬢様と呼ばれるの初めてだったものだから」

優希「え? まあ、言われてみればメイドである咲夜からしてみれば立場正反対だもんな。でも、咲夜だってきちんと着飾ってればお嬢様って言われても不思議じゃないと思うぞ? きれいだし、可愛いしな」

咲夜「っ!?」

 

俺がそういうと、咲夜はボンッ! という音がしそうなほどに顔を真っ赤にして俯いてしまった。その姿を見た瞬間に、俺は自分が行ったことを思い出してしまったと思う。周りとみると、いつの間に本から視線を外した一同がこちらをにやにやとみていた。若干一名、不機嫌そうだけど。

いつのまにっ!?

 

優希「あ、いやこれは……」

レミリア「あらあら、佐伯ってば口がうまいわね?」

優希「ま、まて! 誤解だっ!」

レミリア「あら? それじゃあさっき言ったのは嘘ということかしら?」

咲夜「……そうなの?」

優希「うっ!?」

 

レミリアの言葉に、さっきまで恥ずかし気にうつむいていた咲夜の顔がすごい勢いでこっちを向いた。その表情は普段の4割増しに無表情で、視線も物理的に貫けるんじゃないかってくらいに鋭い。

 

優希「い、いや……嘘じゃないけど、改めて指摘されると恥ずかしい!」

レミリア「ふふ、よかったわね? 咲夜」

咲夜「わ、私は別にそんな……」

フラン「むー! お兄さん、ちょっとデレデレしすぎだよ!」

レミリア「……あら」

咲夜「……」

 

咲夜の照れた表情が新鮮でチラ見してたのがバレたのか、フランが不機嫌そうにテーブルをバンバンと叩いていた。

いや、別にデレデレしていたつもりはないんだけど。

ちょっとした居心地の悪さを感じていると、そんなフランの様子をみた俺と咲夜とフランを除くメンツが隅の方に集まりだした。

いったい何事?

しばらくそんな様子を俺たち三人でいぶかしげに見ていたんだが、そんなにしないうちに解散したレミリアは疲れたような表情を浮かべていたものの、ほかの面々はどこか面白そうな表情なのが印象的だった。

 

優希「えっと?」

レミリア「まあ、佐伯が天然の女たらしだっていうのは置いておいて、そろそろ食事にしましょうか?」

優希「ちょっと待て、誰が女たらしだ!」

美鈴「あはは……本人に自覚なしなのがまた困りものですね」

パチュリー「そのうち刺されるんじゃないかしら? だめよ? 折角生き返ったのだから、命を無駄にしては」

優希「物騒! すごく物騒! 俺は刺されるようなことをしたような覚えはありません!」

こあ「なんていってますけど……」

レミリア「まあ、そりゃそうなるでしょうね。もし周囲の気持ちに気付いていてあんなことを言ってるなら袋叩きだけど、そうじゃないのは分かり切ってるし」

 

なんだか好き放題言われているんだけど、何この針の筵状態。

俺は困って隣にいた咲夜に視線を送ったんだが、なんだか目を泳がせて背けられてしまった。少しだけ心にダメージを負いながらフランにも目を向けてみたが、よくわかっていないようで周りを見回して首をかしげている。

なにがどうしてこうなった。

その後、俺たちは微妙な空気を残したまま食事に移り、そのまま解散することになった。

 

 

優希「はあ」

 

自分の部屋に戻った俺は、ため息をついてベッドに倒れこんでいた。体はそこまで憑かれていないんだが、心が疲れ切っている。原因は言うまでもなく、さっきの食事時の一件だ。

 

優希「それにしても……咲夜の奴、様子おかしかったけど大丈夫かな」

 

ふと、俺は咲夜の様子を思い返しながら仰向けになる。天井に浮かんだような気がする彼女の様子は、いつも平静にしているのとは大違いだった。今思えば顔が赤かった気がする。そこから導き出された結果は。

 

優希「風邪かっ!?」 ※大間違い

 

体を起こしながらそう口に出してみれば、なんとなくだけどそういう兆候はあった気がする。情緒不安定な感じがしたのも、体調が悪いのを隠すためだったのかもしれない。きっと今まで働きすぎて、体調を崩してしまったんだ。ほんの少しだけ考え込んだ後、俺は部屋を出た。

 

 

視点変更:side咲夜

 

咲夜「ふう……」

 

自分の部屋へと戻った私は閉じた扉に背中を預け、ずるずるとそのまま座り込んだ。そしてそのまま、右手を頬に、左手を胸にあてた。顔は熱くて、心臓は微妙にうるさく自己主張を繰り返している。

いったいどうしてしまったんだろう、私は。食堂での一件からどうにも調子がおかしい。

 

咲夜「……どうしてしまったのかしら」

 

思わず不安になって、私自身を顧みる。困ったのが、この感覚が嫌と感じるようなものではないということだった。ちょっと苦しいけれど、嫌じゃない。

 

咲夜「そういえば、今日は随分と助けられたわね」

 

思い返すのは今日一日の佐伯との仕事の時間。

最初はもちろん、手伝いを申し出る佐伯に対して丁重に断りを入れた。それは客人である佐伯にそんなことをさせるわけにはいかない、という思いもある。それ以外に言えば、単純に私のメイド長としてのプライド故だった。だけど、何故かかたくなに手伝うことを諦めなかったから仕方なく一緒に行動することにした。その結果、予想以上に手際がよく、いつもの何倍も速くかつ疲れも少なく済んだ。料理彼が出してくれたことで負担は段違いだったのは間違いない。

客人である佐伯を働かせることに対して遠慮していた私を逆に気遣ってくれたし、何より一緒に仕事をしている間にした他愛のない会話が心地よかった。掃除をする彼の背中や、道具の受け渡しなどで触れ合った彼の手が大きいことを知った。彼は男で、私は女。そんなことすらも忘れていた私は少なからずそのことを思い返して内心慌てていたのだけれど……。

 

咲夜「あれは、反則よ……」

 

そう言ってそのまま顔を膝にうずめた。

あれ、というのは言わずもがな佐伯の優しい対応だ。メイドである私に対してのまさかのお嬢様扱い。しかも、壊れ物を扱うような繊細な気づかいをしてくれた。思えば、あれは女扱いをしてくれたということだ。前々から彼は紳士だったけれど、それが私個人に向けられたときの衝撃はでかい。間違いなく彼のあれは無意識で、私だからという理由で優しいわけではないのは分かっていたとしても。そして最後の極めつけは綺麗、可愛いという誉め言葉だ。今まで社交辞令で言われたことなんかはあるし、下心満載な男からのそれもあった。だけど、それに対して感じることはない。異変のことが引きずっているのもでかい。それに対して佐伯の言う言葉のほとんどがほとんど無意識。いわゆる心の底からの言葉であるからたちが悪いわ。

……これは認めるしかないわね。

 

咲夜「私は……佐伯優希に惹かれている」

 

この感情を恋、というにはあまりにも急すぎる感情だと思う。だからこそ、私はまだこの感情にちゃんとした名前を付けないことにした。まさか自分が……と思う気持ちはでかい。でも、否定したくても体が反応している時点で何の言い訳もできないのだから。

でも、そうなると危惧すべきはライバルの存在ね。何せ、少なく見積もっても両手の指の数では足りないほどに彼に好意を寄せている存在が多いのだから。フランお嬢様も今日の反応を見る限りグレー。ほかに言えば、異変中の反応などから察しても妖怪の山関係の連中はほぼ全員。うどんげと妖夢もまず間違いなく黒。

 

咲夜「ふぅ……飛んだ相手に惹かれてしまったものね」

 

顔を上げ、立ち上がってスカートについた埃を払った私は思わず笑みを浮かべた。

ところで、背中に感じたノックの音で少しびくりとしてしまった。さっきまでとは別の意味で騒がしくなった心臓をなだめ、平静を装って対応しようとして――。

 

咲夜「はい、どうぞ」

優希「咲夜、ちょっといいか?」

咲夜「っ!?」

 

そこから現れた相手の顔を見て、無理だと判断した。

 

 

視点変更:side優希

 

空いた扉の先から見えた咲夜はやっぱりどこか様子が変だった。微妙に視線が泳いでいるし、顔も赤い。気持ち息も荒い気がする。これは重症だ。

 

咲夜「ど、どうしたの? 急に」

優希「いや……さっき食堂での様子がおかしかったみたいだから気になってな。でも、今ので確信した」

咲夜「っ!?」

 

俺がそう告げると、異常なくらいに驚きを顔に表現してこちらを見てきた。さっきまで赤かった顔が青白くなり始めている。

 

優希「咲夜……お前」

咲夜「あ……え、えっと……」

優希「体調悪いんだろ!」

咲夜「……」

 

俺が自信満々でそう指摘すると、何故か目を丸くしてきょとんとされてしまった。さっきまでの顔色の悪さが一転し、なんだか普通に戻っている。

あれ? 何で?

あまりに急激に変化する咲夜の様子に戸惑っていると、咲夜は徐々にその目をうすーくし、どこか呆れたような色がにじみ始めていた。

 

咲夜「はあ……まったく、とんだ勘違いね。どこをどう見て、私の体調が悪いという結論にいたったのよ」

優希「いや、だって……実際顔色悪かったし、普段と様子が違っただろ? だから調子が悪いんじゃないかって」

咲夜「私はいたって健康よ。……まあ、誰かさんのおかげでちょっとだけ調子がくるっているのは確かだけれど」

優希「ええっ? 俺のせい!?」

咲夜「ふふ、半分は冗談よ。でも気にしないでいいわ。別に病気とか、そういうたぐいのものではなくて心構え的なものだから」

優希「う、うーん……そうか? でも、あまり無理はするなよ? 半分は俺のせいみたいだから、どの口が言うんだって感じだけどさ」

 

急に元気がよくなった咲夜に戸惑いながらも、本人がここまで元気だというのであればそうなんだろう。実際に顔色は悪くないし、ちょっとテンション高めに感じるくらいで様子もいたって普通だ。

 

咲夜「それにしても、わざわざそれを確認するために来たの?」

 

言葉はどこか呆れたような様子だったけど、咲夜の表情はどこか嬉しそうだ。改めて指摘されると恥ずかしいが頷いておくとしよう。

 

優希「まあな。風邪とか引いててしんどい思いしてたらって思ったらついな。咲夜だって女の子だし、心配なんだよ。まあ、こっちの奴らが外の世界の人間よりはるかに頑丈だって言ってもな」

咲夜「……そう、ありがとう」

 

小さく何かをつぶやいているようだったけど、その内容までは聞き取れなかった。それでも、笑みを浮かべている辺り迷惑がられているわけではないんだろう。頬舌されて内容でちょっとだけ安心した。ないとは思いつつも、やっぱり怖いもんは怖いからな。

 

咲夜「まあ、立ち話もどうかと思うし入ったら?」

優希「ん? あ、ああ……いいのか?」

咲夜「ええ、別に問題ないわよ?」

 

不思議そうに首をかしげながら部屋へ招いてくれた咲夜。その後にちょっと緊張しながらついていき、部屋の中へ入った。

中に入って思った感想は、思ったよりも女の子してるというものだ。ところどころに可愛らしい小物が置かれていたり、ピンクが基調のベッドやその上に置かれたぬいぐるみなんかがほほえましい。

 

咲夜「あまり楽しいものだとは思えないのだけれど、そんなに興味深いかしら?

優希「いや……ちょっと咲夜のイメージと違ったなってな。悪い、ぶしつけだった?」

咲夜「別にそれはいいわよ。でも、イメージと違うってどういうふうに?」

 

自分のベッドに腰掛けながら首をかしげる咲夜。そんな様子も普段と違ってギャップを感じていい。

っと、咲夜に見とれてる場合じゃないな。

 

優希「そうだな……その前に俺が勝手に感じてた咲夜のイメージを言っとかないとだめだよな」

咲夜「そうね。じゃないとよくわからないし」

優希「とはいってもそんな大層なものじゃないぞ? いつも堂々としててスマートな仕事をしてるきっちりした奴だなって思ってたんだ。だから、部屋にも本とか多くて私物が少なそうなイメージをしてたんだよ」

咲夜「そうなの? 私、別にそこまでお堅いつもりはなかったのだけれど」

優希「硬いってのとはまた違うのかな。何て言うんだろう、仕事人間っていうのかな? だから、こういう可愛いものをもってたりするとは思わなかった。いい意味で驚いたよ」

 

俺はそういって机の上にある子猫の置物をつん、とつつく。ほかにも似たような置物がいくつかあり、丸テーブルの上は小さな動物の集会所みたいになっていた。猫だけじゃなくて犬とか鳥もあったりと、種類的なバリエーションこそないもののポーズなんかは豊富だ。猫だけでいえば、伸びをしているポーズやらうずくまってるポーズ、丸まって寝てるポーズとか。

 

咲夜「人里に行くときとか、霖之助さんの店による時にちょくちょく買い足しちゃうのよ。お給料をもらってても、あまりほかに使い道もないし」

優希「へえ、やっぱお給料とかあるんだな」

咲夜「もちろんよ。お嬢様がその辺に手を抜くはずがないわ」

優希「そっか、付き合いは長いのか?」

咲夜「ええ、物心ついてしばらくしたくらいのころからずっとね」

優希「思ったより長いな! 咲夜って今いくつなんだよ」

咲夜「うーん……どうなのかしら。あんまり自分の年齢を気にしたことがなかったものだから覚えてないのよね」

優希「……そうか、なら仕方ないさ」

 

なんとなくだが、その辺の下りはあまり軽々しく聞くべきではない気がした。だから俺は何気ない返事でその答えをスルーすることにする。自分の年齢を気にすることがないような状況って言ったら、たいていろくな状況じゃなかったことを指すからだ。考えてみればわかることだった。特殊な力を持っているとはいえ人間であるはずの咲夜がなぜ、吸血鬼のレミリアのそばにいるのか。もちろん、レミリアたちとの関係性は一切疑ってない。ただ、レミリアたちと行動を共にするようになった理由が必ずあるはずなのだ。

 

優希「まあ、でも少なくとも10年以上は一緒ってことだろうな。咲夜って別に不老不死じゃないんだろ?」

咲夜「もちろんよ」

優希「ちょっと見てみたかったかもな。咲夜の小さいころ」

咲夜「楽しいものでもないと思うわよ? 今よりももっと不愛想だったもの」

 

どこかぶっきらぼうな物言いだけど、気持ち顔が赤いことから恥ずかしかったんだろう。小さいころの自分ってのは良くも悪くも純粋だからな。俺だって小さい頃の自分を見られることがあれば恥ずかしいと感じるだろう。

うん、いたずらばっかしてたからな俺。

 

優希「まあ、でもよかったよ。俺の勘違いだったみたいで」

咲夜「ふふ、むしろ元気なくらいよ? 佐伯が仕事を手伝ってくれたおかげでいつもよりは動いてないもの」

優希「そう言ってもらえると助かるな。まあ、ここにいる間は頼ってくれていいぞ? 特に飲食関係は間違いなく頼まれるだろうし」

咲夜「そうね。意外といえばそうだけど、美鈴がびっくりするくらいに喜んでいたのが印象的だったわ」

優希「あー……こっちって基本的に純和風な生活スタイルだろ? 紅魔館ではそれに少し洋風が混じってるけど。でも、美鈴ってはっきり聞いたわけじゃないけど中国周りと関係が強いんじゃないかな。拳法使いってのもそうだしさ」

咲夜「そういえば、レミリアお嬢様が昔そんなことを言ってたような気がするわね」

優希「で、まあ。ここ幻想郷にはその中国の料理ってのがないんだ。調理技術もそうだが、材料やら道具やらも特殊なのが多くてこっちじゃ再現しにくいんだろうな。似たようなものは出来ても完全なのは不可能っていってもいい」

咲夜「それであの反応だったのね。美鈴はあまり不満とかを口にしないから」

 

確かにそんな印象だよなあ、美鈴って。

いつもニコニコしているか幸せそうな寝顔か、はたまた咲夜に居眠りがバレて泣きそうな顔してるかのどれか。基本的に悩みがなさそうな生活をしてる。

 

咲夜「佐伯は前から感じていたけれど、よく見ているわね。私のこともそうだけれど、ほかのことも。美鈴のことも言われなければ特に何も思わなかったかもしれないわ」

優希「んー、そうかな? それは多分、俺だからってわけじゃないと思うぞ。長いこと一緒に暮らしてるからこそ、見えない部分があるんじゃないか? もしくは、近すぎるからこそ気づかないか」

咲夜「近すぎるからこそ、ね」

優希「おう。もちろん逆もしかりだけどな。近すぎても遠すぎても、見えないものはあるんだ。俺だって全部が全部分かるわけじゃないし、むしろ周りからは鈍感だとか鈍いとか言われまくってるしなあ……納得いかん」

咲夜「ふふ、それは反論できないんじゃないかしら?」

優希「どういう意味だよっ」

咲夜「だって――」

佐伯「っ!?」

 

そこで咲夜は立ち上がり、座っている俺の席の横に来て顔を寄せてきた。あまりに自然によってくるものだから、予想外の力さに硬直する。ふわりと耳をくすぐるサラサラの髪と、香りにドギマギしてしまう。そんな俺を横目に小さく笑う咲夜。

 

咲夜「気づかないでしょう?」

優希「な、何がっ?」

咲夜「ふふ、そういうところよ」

 

咲夜はそこまで言って満足そうに笑って体を離す。軽く腕を組んでくすくすと笑う姿は小悪魔めいていて、それでいて輝いて見えた。そんな姿を見てドキドキしつつも、呆れてしまう。

 

優希「まったく、そんなわけのわからないなぞかけしてくるくらいなら本当に大丈夫そうだな。そろそろ俺は部屋に戻るぞ?」

咲夜「あら、もう? もう少しゆっくりしていけばいいのに」

優希「明日もあるんだろ? ならゆっくり休んどかないとダメだろ」

咲夜「……そうね、お休み。佐伯」

優希「ああ、お休み」

 

さっきまで笑っていたと思えば今度はちょっと寂し気。咲夜ってこんな情緒不安定な奴だったかなあ、とか思いながら俺は咲夜の部屋を後にするのだった。

一方、咲夜はというと。

 

 

咲夜「……はぁ」

 

予想以上に大胆なことをしてしまった自分の行動を顧みて盛大にベッドの上を転がっていたのでした、丸。

 

 

 

 

 

 

 

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