東方優幻想   作:エウラス

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新章第13話

第13話:秋空の夜会

 

レミリア「お月見?」

 

咲夜との一件から二日経った最終日の午後のこと。レミリアたちに誘われてお茶を飲んでいた俺は話題の流れから外の世界の行事ごとについていろいろと話していた。そのうちの一つであるお月見に興味を示したのか、目をお丸くしている。

 

優希「ああ、俺たちのいた世界では普通お月見といえばこのくらいの時期の満月にやるもんだな。月見団子とか作って、それを食いながら満月を眺めるんだ」

フラン「へ~……さっき聞いたひな祭りっていうのもだけど、お兄さんの世界っていろいろやってるんだね」

優希「そうだなあ……日本ってお祭り好きなとこがあるからさ。ことあるごとに何かしらの行事を行おうとするんだわ。もともとは日本じゃしてなかったような外国の行事なんかもとりこんだりしてたな」

レミリア「人が多すぎて騒がしいというのが玉に瑕だけれど、それでもたまに見る分には楽しそうな世界ね」

フラン「うーん、私はその多さがさっぱり想像できないなあ。人里にだっていったことないもん」

レミリア「そういえばそうだったわね……。でも今なら能力も制限できているし、行ってみるのもいいかもしれないわ。とはいえ、人の生活は基本が夜主体だから、私たちからすれば早起きするか、寝ずにいるかしないとダメでしょうけど」

フラン「そっかー……」

 

姉の言葉に少し残念そうな表情を浮かべるフラン。そんな様子を困ったような、うれしいような表情を浮かべてお茶を飲むレミリア。少し前まではこうして二人でお茶を飲むことすらできなかったって話だ。それからすれば、レミリアは思うところがあるんだろう。当の本人であるフランよりも。

 

咲夜「ですが、佐伯の言っていたような行事の体験ならできそうですね」

フラン「! ほんとっ?」

優希「まあ、お月見なんてほんと単純なもんだからな。外の世界風にするんならお月見団子は必要だけど、別にそこまでかたっ苦しく考えなくてもいい。結局なはなし、月を見ながら何かしてればお月見みたいなもんだろ」

レミリア「えらく適当ね。本当にそんなのでお月見になるのかしら?」

優希「きっちりしたお月見ってんならちょっとアウトかもな。でもさ、気兼ねない仲でする月見なんて格式ばったもんにする必要なんてないだろ? それこそ、楽しければおっけーだ」

レミリア「まったくもう……。でも、その通りかもしれないわね」

フラン「うんうん! 楽しければいいってのには賛成だよ!」

優希「だろ? でもお月見だけってのもさみしいな。基本喋りながら飲み食いするだけだし」

パチュリー「一つの行事で区切る必要はないんじゃないかしら?」

優希「お?」

レミリア「あら、珍しいわね」

 

横からの第三者の声に視線を向けてみれば、そこには普段は大図書館から出てこないパチュリーの姿が。レミリアじゃないけど珍しい。本人も自覚があるのか、少し苦笑気味で咲夜の用意した椅子に座った。

 

パチュリー「私だってたまには動くわよ。それに、咲夜から何やら計画しているって話を聞いたのよ。今は煮詰まってるみたいだから知恵をだしにでも、とね」

優希「そういうことか。それで、さっきの助言ってわけね」

パチュリー「そ。外の世界では多くの催しがあるのでしょう? なら、一つで盛り上がらないなら二つ以上組み合わせてみればどうかしら?」

優希「ふむ……あ」

フラン「どうしたの?」

優希「組み合わせるって話でいろんなイベントを思い浮かべてたんだが、そういやそれなりに面白そうなのがあったなあって」

レミリア「へえ、どんなの?」

 

期待に目を輝かせるフランに、興味深そうなほかの面々。彼女たちを見回しながら、俺はちょっとだけ笑ってそのイベントの名を口にした。

 

優希「ハロウィンだ」

 

 

ハロウィン。元々は宗教的な意味合いを持つ祭りだったみたいだが、今ではどの国もほとんどそういった面はみられなくなった。たいていの人間が思い浮かべるのは、仮装してパーティーとか家々を訪問してトリックオアトリートって言ってはお菓子をもらうのがほとんどじゃないだろうか。

などと思ってはいるものの、俺はあんまりハロウィンというものをよくしらなかったりする。知識としてはあるが、ハロウィンを大々的なイベントとしてみるような地域でもなかったからだ。だからというわけでもないが、せっかくだしみんなとハロウィンをしてみたいなと思った。

 

小悪魔「具体的にはどうすればいいんでしょうか?」

優希「あんまり難しく考えなくてもいいんだけどな。適当に好きな衣装を着て飲んで騒ぐってのがハロウィンみたいなもんだしさ。外の世界じゃ一応、悪魔や魔女、お化けの格好をするのが主流だったかな」

レミリア「えーっと、うちのメンバー大半がそのものなんだけど?」

優希「つっても、みんな服装ほとんどいつも一緒じゃん。今まで突っ込まなかったけど、この世界の住人は一着しか持ってないのかっ!?」

 

そう、この世界の住人はなぜかほとんど来ているものが変わらない。寝巻かそうじゃないかの違いくらいしかないんだ。最初のほうはあまり気にしてなかったんだが、ふと気づいてから観察してると服装が変わることがまずない。霊夢みたいな職業的なもんならわからなくもないんだが、それ以外は特に職業的なって面も薄いのに変わらない。

 

レミリア「別に一着ってわけじゃないわよ? ただこれがお気に入りなだけ。それに同じのが何着かあるからきまわしてるわけじゃないからね?」

優希「そっちのほうが驚きだわ。……まあ、話を戻すか。外の世界じゃ悪魔やら魔女ってのは空想上の存在で考えられててな。多種多様ないろんな魔女悪魔、お化けがいるんだよ」

パチュリー「そうなの?」

優希「ああ。外の世界の魔女のイメージで基本的なのは魔理沙みたいな格好してるやつだな。悪魔は……小悪魔みたいな外見で服装はもうちょっと露出が多いっけ」

小悪魔「ええっ!? は、破廉恥ですよ!」

優希「まあ、俺もそう思うが……なんか外の世界だとサキュバスみたいなのが結構頭にくるんだよな。次点でサタンとか吸血鬼とか。吸血鬼も女の場合は露出が多い傾向にあるな。男の場合はタキシードのイメージか」

咲夜「外の世界では露出が多いのが普通なのかしら?」

優希「いや、そこまでじゃないかな。露出を抑えた服装をしている奴もいるし、それなりに露出してるやつもいる。個人差だよ。ただ、悪魔とかの想像上の奴はどっかその辺があいまいでな。普通じゃありえないものを想像しているのか、そういう傾向はあるかもしれん」

美鈴「実物を見たことがないなら仕方ないかもしれませんが、どこか複雑な気分ですね」

 

苦笑いを浮かべる美鈴に俺もまた似たような表情で返す。イメージの大半が二次元の影響だとは言いづらい。

 

優希「それだとみんなはあまり普段と変わらないかなあ、と思ってな。一応はいろんな衣装が載った本を出してみた」

レミリア「もはやおなじみになってきたわねえ」

 

呆れの混じった声音であるものの、レミリアは一番に本を手にしていた。周りもそれを見ていろんなカタログ雑誌を見ているようだ。

 

優希(さて、俺はどうするかな)

 

みんなが仮装するのに俺だけ何もしないのはさすがにおかしい。そう思いカタログに目を向けてみたものの、どれにするかという決定的なものがなかった。普段からあまり自分の格好を気にしない分、こういう時に困る。

 

咲夜「佐伯はどんなものにするの?」

 

迷っていたら咲夜から声がかかった。その返答に迷いながら、俺は小さくうなってから正直に答えておく。

 

咲夜「そう、普段から無難な服ばかりだなあと思っていたけれど……そういうことだったのね」

優希「あ、そういう感じにみられてたんだ」

咲夜「心配しなくても格好悪いとかじゃないわよ? ただ、良くも悪くも普通というのかしら……」

優希「普通か」

フラン「何々? 何の話?」

咲夜「佐伯が普段着ている服についての感想ですよ」

フラン「お兄さんの? うーん、普通かなあ」

レミリア「普通ね」

パチュリー「まあ、可もなく不可もなくかしら」

小悪魔「へ、変じゃないと思いますよ?」

美鈴「個人の好き好きによりますからねえ」

 

あれ、これってどう受け取ればいいんだ? 微妙にマイナスイメージ持たれてるような気がする返答だったんだが。

なんとも微妙そうな表情での微妙な返事に、何とも言えない気分になる。もともとそこまで気にしてはいなかったはずなんだけど不思議なもんだ。

 

レミリア「そこまで気になるのなら、この機会に少し見直してみればいいじゃない」

優希「うーん、それもありか。でも俺もあまりそういうの詳しくないからな」

咲夜「アドバイスをしてあげたいところだけれど、私たちも外の世界の服装というのはいまいちわからないのよね」

パチュリー「結局は、本人が納得するかしないかじゃないかしら? それよりもハロウィンとやらはどうするの?」

優希「本題を忘れるとこだったな……。えっと、とりあえずみんなには変装用衣装をいくらか用意しようと思う」

 

ハロウィンっぽい衣装を参考資料も交えながらいくらか出していく。積みあがっていく衣装を見てみんなも興味深そうだ。意外だったのは、あまりこういったことに積極的ではなさそうなパチュリーもそれなりに乗り気だっていうことだ。

 

優希「俺は俺で着替えてくるから、みんなはみんなで好きなのを着てみてくれ。大き目に感じると思うけど、着用した時点でサイズが合うようになってるから」

美鈴「おお、便利ですねえ」

小悪魔「それなら単純に見た目だけで選べそうです!」

フラン「どれにしよっかなー」

優希「着替えが済んだら俺の部屋をノックしてくれ。それからしばらくした後に戻ってくるよ」

咲夜「あら、どうして?」

優希「ほら、お互いにお披露目は一斉にのほうがいいかなって」

レミリア「ふふ、そうね。なら咲夜、あなたなら能力でノックしてすぐに戻ってこれるでしょう? それでいきましょう」

優希「ああ、なるほど。それじゃあノックが聞こえたらすぐに向かうよ。それじゃあ、後で」

咲夜「ええ、後で」

 

和気あいあいとしているみんなをしり目に、俺は一度自分の部屋へと戻ることにした。

 

 

あれから軽く30分近くたったころ、ようやくノックの音が聞こえたので部屋を出ることにした。あれこれと悩んだ結果、ありがちなヴァンパイアの衣装にすることにした。吸血鬼姉妹のいる場所でどうなんだとは思うものの、男のヴァンパイアなんて見たことないし、別にいいかなと決定。軽ーくおしろい的なものを塗って青白い肌を演出し、服装は派手すぎない程度に豪華な白黒のぴっしりとしたタキシードに似たものを。ついでにと言わんばかりにつけたマントがなんとも滑稽に感じたけど、これはこれでありかなと思っている。

などと物思いにふけっていると、やっとみんながいる部屋にたどり着いた。念のためにノックすると、みんなの返事が聞こえたので少し間を開けてから扉を開く。すると――。

 

優希「おお……」

 

俺の目に入ってきたのはいろんな衣装を身に着けた紅魔館一行の姿だった。

 

レミリア「ふふ、お気に召したかしら?」

 

レミリアが着ていたのは予想に反してかわいい系の衣装だ。多分、衣装の大部分が赤いからって理由で選んだのだろうそれは赤ずきん。小さい容姿もあって、意外と似合っている。童話の赤ずきんに比べると少々勝気な雰囲気が出てしまっているけど、それはそれでありだろう。

 

フラン「えへへ、私は? 私は?」

 

そんなレミリアの後ろから出てきたのはこれまたかわいらしい恰好をしたフラン。彼女は素直な性格の通りかわいいものを選んだらしい。いわゆる童話の不思議のアリスの服装だ。純粋な子供に似た思考と行動をとっているフランにはある意味ぴったりともいえる。

 

美鈴「ふっふっふ、私はちょっとおふざけ系っぽいのをえらんでみましたよ!」

 

そう宣言して前に出たのは顔に札を張り付けた美鈴だ。この時点でお察しかもしれないが、キョンシーの仮想らしい。ご丁寧に動作までまねているのでわかりやすい。しかし、美鈴はやっぱりここでもネタ枠に突っ走るのか……ある意味尊敬するよ。

 

パチュリー「たまには別の格好をするのも悪くないわね。ほら、これなんてすごく着心地がいいわ」

 

そういって影のほうで満足そうにしているのがパチュリーらしき黒いもこもことした物体だ。顔だけは出ているものの、いわゆる着ぐるみパジャマというものっぽい。モチーフはクロネコなのか、フード部分にちょこんとついた猫耳がアクセントになっていて実にかわいらしい。

 

小悪魔「えへへ、なんだかこうしてみると魔法を使えるような気分になっちゃいますね」

 

そんなパチュリーの隣に立っていたのは小悪魔だ。彼女はどうやら魔女風の衣装を選んだらしく、ステッキみたいなものと魔理沙の服の色違いで紫を主体としたものを着用していた。パチュリーがネコの使い魔という設定になれば完全な主従逆転の図だな、うん。

 

咲夜「ええっと、あまりメイド服以外を着ないから落ち着かないわね」

 

そして最後に現れたのが、普段と違って恥ずかしそうな表情を浮かべた咲夜だった。彼女はどうやら普段からきているメイド服に近いゴスロリって呼ばれるジャンルの服を選んだようだ。黒が主体で白の布地がアクセント程度にちりばめられた服。頭の上には小さいシルクハットが斜めに着けられていた。普段とあまり服装的な路線は変わらないものの、まとっている雰囲気が違うためか幾分か可愛らしさも出ているように感じる。

 

優希「いやあ……やっぱりみんなすごいな。かわいいし、よく似合ってるよ」

 

何のひねりもないが、そんな俺の誉め言葉にもそれぞれの反応を返してくれた。

 

レミリア「ふふ、当然ね。それよりも……佐伯のそれはもしかして吸血鬼の衣装かしら?」

優希「ああ、わかるか?」

フラン「うん、ちょっとだけ違いはあるけど私たちが見たことある男の人はみんなそんな感じだったもん」

レミリア「正直、最初に入ってきたときはちょっとびっくりしたわよ? 肌も青白いし、本当の吸血鬼かと思ったじゃない」

咲夜「その、それは大丈夫なの?」

優希「ん? これはおしろいっていう一種のメイクみたいなもんだな。顔を洗えばとれるから」

咲夜「そう、ならいいのだけれど」

フラン「普段はあんまり服を気にしたことなかったけど、こうやって変えてみるのもいいね!」

 

フランは嬉しそうにくるくると回りながら自分の服を鏡越しに見ていた。そんな様子を俺たちは微笑ましいものを見る感じで眺める。

 

優希「さて、次は飾りつけと料理だな!」

 

せっかくのハロウィンなんだし、ここは派手にしよう。俺はそう考えて能力を使い、普段みんなが食事をしているこの部屋を派手に飾り付けた。ふわふわとカボチャを浮かばせたり、かわいくデフォルメされた幽霊やらドクロなんかの置物をちりばめたり、机の上には多種多様なお菓子や料理を並べたりといろいろだ。それを見たみんなはまた一様に楽し気な表情を浮かべてくれていた。

 

フラン「わー! 色々出てきたよ、お姉さま!」

レミリア「ほんと、佐伯には毎度のことながら驚かされるわねえ」

優希「ま、これだけが取り柄みたいなとこもあるしな」

咲夜「そんなことはないと思うわよ? とても紳士だし、普段は少し頼りないところがあるけれど……その、ここぞというときは頼りがいもあるし」

レミリア「あら」

フラン「そうだよ! お兄さんは今のままが一番だと思うな」

優希「お、おう……」

 

気恥ずかしいのか珍しく顔を背けながらの咲夜と満面の笑みでいつも通りの直球のフラン。あまりに手放しに褒められてしまい、こっちもなんだかこそばゆい。そんな俺たちの様子を見てレミリアたちの奴はなんか驚いてるみたいだし……どういう状況だこりゃ。

 

優希「ごほんっ。まあ、とりあえず飲み食いしながら騒ごうぜ。祭りってのはそういうもんだしな。んで、ひと心地ついたらのんびりとお茶とかしながらお月見って感じでさ」

咲夜「それは良い案ね」

フラン「私あれ食べたーい!」

レミリア「もう、フランったら……はしたないわよ?」

パチュリー「まあまあ、良いじゃない。今日はお祭りなんでしょう? 羽目を外すことも必要よ」

レミリア「ふぅ、そうね。それじゃあ私も見て回ろうかしら」

美鈴「立食パーティー風なんでしたっけ? 珍しいですよね」

優希「ああ、好きなもん食べながら話したい奴と話すのがコンセプトだからな。本場じゃマナーがどうとかあるんだろうけど」

 

それぞれの行動をとるのを見ながら俺もさっそく軽めのものから皿に持っていく。一口サイズのフライとサラダなんかを適当に口に運んでいると、軽く袖を引かれた。

 

優希「ん? ああ、レミリアか。どうした?」

レミリア「ちょっといいかしら?」

 

何やら真面目な雰囲気を出してるので俺も顔を引き締めてレミリアについていく。とはいえ、会場である部屋からそうは慣れているわけでもない部屋の隅だ。

 

レミリア「咲夜とフランのことなのだけれど……」

優希「何かあったのか?」

レミリア「……気づいてないの?」

優希「?」

 

目を丸くしてこちらを見るレミリアを見返すと、あちゃーという感じで額に手をやられた。おまけに一人でぶつぶつと、『そういえば佐伯ってそういう感じだったわね』、とか『これだから鈍感は』などと言われている。

俺が一体何をしたというんだ。

無言の抗議を続けていると、若干呆れたような目を向けられた後にため息をつかれた。

 

レミリア「本人同士が気づいてないんじゃろくなことも言えないわ。でも、一応これだけは言っておくわね?」

優希「ん?」

レミリア「咲夜もフランも私にとってはどちらも大事な家族よ。だから、あなたがどういう決断をするにせよ……どうか誠実であってちょうだい」

優希「……よくわからないけど、わかった。俺なりに不義理にならないようにするよ」

レミリア「ええ、お願いするわ」

 

そこまで言うと、なんだか困ったような笑みを浮かべて背を向けた。そのまま肩越しにこちらをみつつ――。

 

レミリア「とはいえ、貴方なら私が心配するようなことにはならないとはおもうのだけれど」

 

と言って手を振りながら去っていった。

 

優希「……何だったんだ?」

 

問われたことの意味なんかを考えてみるもいまいちよくわからない。口ぶりからして咲夜とフランに関係することなのは確かだろうけど、誠実にっていうのも謎だ。俺は二人に何か失礼なことでもやらかしてるのだろうか。

 

優希「うーん……わからん」

フラン「どーしたの? お兄さん」

優希「んおっ? ふ、フランか……びっくりした」

 

変な声をあげてしまったせいか、いつの間にかそばに来ていたフランは目を丸くしていた。その表情はさっきのレミリアに似ていて、そういうところはやっぱり姉妹なんだなと感じる。しかし、姉との決定的な違いはその無邪気さだろう。すぐに笑顔を浮かべて俺の腕を引っ張ってくる。

 

優希「とと、急に引っ張られると危ないぞ?」

フラン「えへへ、ごめんなさい。でもでも、もう料理がなくなっちゃうよ?」

優希「えっ? ……うわ、まじか。結構出したと思ったのに」

フラン「私もだけど、見た目よりもずっと食べるよ?」

 

言われてみればそうか。普段の食事は若干の体裁を気にしているのか、レミリアなんかは少食だ。しかし、宴会の時なんかのように羽目を外せるときには意外と食べてるのを目にした記憶がある。それ以上に酒を飲みまくってた気もするが。

 

レミリア「ねえ、佐伯。ワインなんかはないのかしら?」

優希「いや、出せるには出せるけど。まあ、レミリアたちは見た目で戸惑いがちだけどれっきとした成人だもんな。どんなのがいいんだ?」

レミリア「そうねえ、お酒をあんまり飲まなかった佐伯に詳しいことを言っても通じないと思うから適当に外の世界のものを選んで頂戴」

フラン「私赤ワインがいいな!」

優希「あいよ。……そうだな、この辺でどうだろ?」

 

そこまで有名どころではないものの、一定数の人気のあるものを適当に数本出してやる。それを早速咲夜に出してもらい、二人はそれぞれの飲み方で味わっていた。

 

フラン「へえ……おいしいね」

レミリア「ええ、昔のんだものよりは劣るけれど……なかなかの味ね」

優希「お気に召してもらえたようで何よりだ」

フラン「よーし、もっと飲んじゃうぞー!」

レミリア「ふふ、私も負けてられないわね」

 

レミリアたちはアルコールが入ったことで少し気分が大きくなっているらしい。ワインの瓶を抱えたまま料理の山へと突撃したようだ。それぞれに和気あいあいとしゃべっているのを眺めながら、俺は自分用のソフトドリンクを飲みほした。

 

優希「おー……いい月だねえ」

 

あれから数時間ほど騒いだ後、少しだけ疲れた俺たちはバルコニーに出て咲夜の入れてくれた紅茶を飲みながら夜空を眺めていた。雲一つない満天の星空の中で、自分を主張するように光る月に圧倒される。だからと言って別に威圧感なんかがあるわけじゃなくて、どちらかというと落ち着くような感じだ。

そんな感じで一人黄昏ていると、両隣に二人の気配がして左右を見る。

 

優希「咲夜にフランか」

咲夜「ご一緒してもいいかしら?」

フラン「私もー!」

優希「ああ」

 

二人が左右に並んだあと、二人とも月を眺めるようにして上を向いた。その二人の横顔はどこかさみし気で、月明かりに照らされたそんな表情が少しいつもと違って見えたせいかドキッとした。よくよく見ればほんのりと赤みを帯びているのはワインを飲んだせいだろうか。

 

フラン「お兄さん……明日には出て行っちゃうんだよね」

 

ふと、ぽろっと出たような感じでフランがそう呟く。その言葉にフランのほうを見てみれば、捨てられた子犬のような目をしていた。あまりにも辛そうだったから、俺はそんな顔を見てられずに頭を撫でてやる。

 

フラン「……えへへ、やっぱりお兄さんは優しいね」

優希「そんなことは……」

咲夜「いいえ、佐伯は優しいわ。ほんのちょっぴり、優しすぎる気もするけれど」

優希「さ、咲夜?」

 

フランを撫でていると、微妙にいつもより距離の近い咲夜が顔を寄せてきた。おまけに俺の空いたほうの手を握るというおまけつきだ。俺よりは冷たい手だけど、柔らかくて小さな手の感触に戸惑う。

 

咲夜「佐伯は誰彼構わずに優しくしすぎだと思うわ。その優しさは時に残酷になるものよ」

優希「そう、なのか?」

咲夜「それがどういう意味なのかは言えないけれど、少なくともさみしい思いをする誰かが生まれるわね」

フラン「咲夜の言う通りかなあ。……優しいのはお兄さんのいいところだけど、みんなに優しくしすぎるのも考え物だよ?」

優希「うっ……悪い」

フラン「謝らなくていいよ。これはどっちかというと、私たちのわがままだもん」

咲夜「ええ、だからせめて今日だけは……」

優希「さ、咲夜っ? それにフランもっ」

 

二人はいつもより大人びた笑顔を浮かべ、俺の腕に抱きついてきた。女の子特有の柔らかさと、気にしないようにしていた二人の香りに動けなくなってしまう。そんな俺を置き、咲夜たちは何やら満足そうに笑ったまま夜空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

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