東方優幻想   作:エウラス

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はい、エウラスです。更に2話目の投稿です。

永遠亭に運び込まれた彼は、新顔の皆さんとの会話に大忙しです。
間に少しだけのんびりした話や、彼自身の考えなども出しておきたかったのでそういう構成になっていると思います。

ではでは、本編へどうぞ!


第2話

第二話:一時の平穏

 

『貴方はここで死ぬべきではありません』

 

声が聞こえる……次に、深い沼の中にいるような不自由さを感じた。

まるで夢を見ているような、自由の利かない体。

俺は一体どうしてしまったんだろうか……?

犬走にあって、その仲間を助けるために……。

 

優希「っ! みんな!!」

 

目を開けた俺が見た光景は、ただひたすらの闇だった。

あたりを見回しても黒、下を見ても上を見ても真っ黒。

座っていると思っている場所が地面なのかどうかも怪しい。

 

優希(そうだ……俺は確か、あの女の子に刺されて……)

 

助けに入ったつもりで、助けようとした相手に刺されたんだ。

その結果……多分、致命傷を負ったんだと思う。

つまり、俺は死んでしまったんだろうか……。

 

『貴方は、まだ生きています』

優希「っ!?」

優希「その声……あの時のっ!?」

 

すぐ近くで聞こえた声に振り向く。

その声は俺に力の説明をしてくれた謎の声だった。

慌てて周囲を見回してみるも、相変わらずの暗闇しか目に入らない。

 

『私は貴方であり、力です。姿はありません』

優希「……そっか」

優希「で、俺は死んでないとするなら、ここはどこなんだ?」

 

姿は見えない、その上で頭のなかに響くような声に納得する。

普通なら取り乱すんだろうけど、なんだろう……不思議と受け入れられた。

 

『ここは生と死の境です。このままぼーっとしているとその内死んでしまうでしょう』

優希「おおい!? そういう大事なことは早く言ってくれっ!!」

『かと言って誤った方向に進めば死にます』

 

一体どうしろというのか。

動き出そうとして立ち上がった俺は、足を止めて言葉を待った。

 

『心を落ち着けて、貴方を呼ぶ声に耳を傾けるのです』

『そうすれば、きっと貴方を待っている人たちに出会えますから』

優希「声を……」

 

言われたとおり深呼吸してから、全神経を耳に集中させる。

すると――。

 

『―――っ!』

優希「……? こっちから?」

 

言葉としては聞き取れないけど、なにか声が聴こえる。

その方向を見ると、何となくだけど光のようなものも見えた。

……間違いない、俺はあっちにいかないといけない。

そう思ったら自然と足が動き出していた。

その歩調はゆっくりで、散歩をするかのような速度だ。

急ぎたいと思っても、その歩調は変わらない。

きっと、『そういうもの』なんだろうと思う。

 

『……佐伯さん――』

優希「ああ、俺の名前だ……俺を呼ぶ声が聴こえる」

 

段々と体の感覚も戻ってくるような実感を覚えながら、緩やかに歩みが早まる。

声がはっきりしてくると同時に、点だったような光が俺を包み込む。

そして――。

 

優希「はっ……!?」

 

完全に光に包まれたと思ったら、全く別の場所にいた。

暫くの間呆然としていて、ようやく俺がベッドに寝かされていることに気づく。

体を起こそうとしたが、背中の腰に近い部分に鈍い痛みを感じて止めた。

 

優希「……そうか、俺……生きてるんだ」

 

生きてるという実感を痛みで理解する日が来るとは思っても見なかった。

これが痛感した、ということなのだろうか。

部屋に差し込む陽の光を、上半身だけ起こしてぼんやりと眺める。

多分、この日の高さならまだ昼前後だろうな。

と、我ながらマヌケなことを考えていた時だった。

 

???「えっ……!?」

優希「うんっ!?」

 

派手な音に驚いて振り向くと、見慣れない女の子が立っていた。

ああ、さっきのはあの銀トレイを落とした音だったんだな。

その上に乗っていたんだろうタオルやら薬っぽいのが見える。

 

???「お、お師匠様っ!! 人間が、あの人間が目を覚ましましたっ――!?」

優希「おおう……」

 

とんでもない速度で部屋から出て行った女の子の行動力に驚く。

ただでさえぼんやりしてるとこだったから、色々思考が追いつかない。

とりあえず、おなか空いたなあ。

程なくして、慌ただしい足音が聞こえてくる。

 

椛「佐伯さんっ!?」

優希「お? 犬走。おは――」

椛「佐伯さぁぁんっ!!」

優希「よぼぉっ!?」

 

開け放たれたふすまから姿を見せたのは犬走だった。

しかし、朗らかな挨拶は犬走の突進にちかい行動で遮られる。

柔らかくていい匂いはするんだけど……痛い痛いっ!

怪我してるとこもそうだけど、体中の骨がきしむ音がするっ!?

数瞬遅れて現れた射命丸も目を丸くして――。

 

文「こら、椛! 佐伯さんを殺す気っ!?」

椛「はっ……!? す、すす、すみません!!」

優希「ゴホッ、ゴホッ……!」

優希「だ、大丈夫……ちょっと危なかったけど」

 

慌てて犬走の行動を注意してくれた。

苦笑いで返しながら居住まいを正す。

よく見れば犬走や射命丸以外のみんなも居た。

それに、神社で見た子も含めた新顔もいくつか見える。

 

優希「えっと、状況がさっぱりわからんのだけど……」

優希「俺、助かったのか?」

???「ええ、正直微妙なラインだったけれどね」

優希「? えっと……」

永琳「初めまして、八意永琳よ。一応はあなたの担当医になるのかしら?」

優希「あっ、手当してくれてありがとう!」

永琳「あら、思ったより礼儀はしっかりしているのね」

永琳「でもお礼を言うならそっちの子たちにお願いするわ」

優希「えっ?」

永琳「あの子たちがあまりにも鬼気迫る顔で詰め寄ってきたものだから」

永琳「こちらとしては、渋々治療をほどこしただけなの」

 

『ごめんなさいね』、と一言添える辺りこの人もいい人っぽい。

こんな状況でもなければ、きっと優しいひとなんだろう。

しかし、そうか……皆そんなにも心配してくれたんだ。

 

優希「それでもありがとう。助けてくれたことに変わりはない」

永琳「……なるほど、天狗たちが力説するのも分かった気がするわ」

優希「あっ! 犬走たちもありがとうな」

優希「それと……悪い、迷惑かけた」

椛「迷惑なんかじゃないですけど……能力のほうについては説明してください」

椛「なんで自分に影響が出ないことをだまってたんですか?」

優希「あー……その……」

 

本人を目の前にしてこれを言うのは大分恥ずかしいんだが……。

言わないと納得はしない、という目をしてるし仕方ないか。

 

優希「犬走って真面目なところがあるだろ? 気にすると思ったんだよ」

椛「そ、それは……!」

椛「そうですね……現に、今もそう思ってます」

優希「だからあえて言わなかった。変な心配掛ける必要もなかったしな」

文「ですが、貴方自身に傷を治す力がないことは教えておいて欲しかったです」

文「でなければ、貴方をあんな中心に投げ出すようなことはしませんでした」

優希「うっ……」

にとり「本当だよ! 盟友さ、どんだけ寝てたか分かってるの!?」

優希「……3日くらい?」

雛「1週間くらいですね」

優希「う、嘘だろっ!?」

 

思ったよりも重体だったらしい。

そんな長い間意識がなかったのか……そりゃ心配もされようものだ。

意識してみれば何となく体がだるい。

これはその辺の影響もあるのか?

 

静葉「貴方自身の力は非常に強力です」

静葉「ですが、事情を知った以上は矢面に立たすわけには行きません」

穣子「だね。佐伯の力は他にも役立てるんだし」

優希「だけどなあ……」

???「申し訳ないのだけど、そろそろお話させていただいてもいいかしら?」

優希「ん?」

 

有無を言わさないような威厳を感じる語気に、俺は思わず言葉を切って視線を向ける。

その先に居たのは、なんとも形容しがたい胡散臭さを感じる女性だった。

何がどう胡散臭いんだ、と言われれば説明はしにくい。

他の言い方をすれば底の知れない相手、だろうか。

……しかし、自己主張の激しい胸元は刺激が強い。

 

紫「私は八雲紫……一応、この幻想郷の創始者にして監視者よ」

優希「紫……? それって確か射命丸たちが言ってた……」

文「ええ、スキマ妖怪とも賢者とも言われてますが」

優希「えっと、その八雲さんが俺に何の用なんだ?」

紫「幾つか確認したいことがあるの……今後にも関わるものだから」

優希「……ああ、分かった。分かる範囲で答える」

紫「助かるわ……あ、それと私のことは紫と読んで頂戴」

紫「八雲と呼ばれると紛らわしくなるから」

 

秋姉妹のように姉妹とかでもいるんだろうか……とりあえずうなずいておく。

 

紫「そうねえ……まず、貴方は外来人で間違いないわね?」

優希「えーっと、この世界の外から来た人間って意味だったよな? ならそうだ」

紫「なるほどね……通りでこの異変の影響を受けていないはずだわ」

紫「次に、貴方の能力についてなのだけど」

優希「ああ……これについては正直、まだ未知の部分もあって説明が難しいんだが」

紫「分かる範囲でいいわよ」

優希「えっと、それじゃあ――」

 

俺は今現時点でわかっている能力の特徴を事細かに説明した。

願ったものは大体具現化することが出来る。

でも人間やら動物なんかを創りだすようなことは出来ない。

その他にも幾つかの例外はあるものの、自分には影響が出ないってことも伝えておく。

一通りの説明を聴き終えた紫さんは興味深そうにしていた。

 

紫「なるほど、それで私たちの力を一時的に戻すことができたのね?」

優希「ああ、あの飴を食べたんだったらそうだな」

紫「ちなみにそれを飴以外に別の形ではできないの?」

優希「やってみるか……紫さんで試しても?」

紫「ええ、良いわよ」

優希「じゃあ早速……」

 

俺は怪我を治すときに使った霧と飴玉の能力強化を混ぜたものをイメージする。

すると、ややあって霧状のものが辺りを漂い始めた。

それを受けた紫さんは、うんうんと頷きながら俺の眼前に指を突き出す。

すると――。

 

優希「うげっ!?」

 

目の前に目玉の集合体の様な、とにかく気持ちの悪い光景が見えて顔を遠ざける。

何もない空間から、目玉がうようよした裂け目が生えていた。

ずっと見ていると嫌悪感から気分が悪くなりそうだ。

 

優希「えっと……何それ?」

紫「これはスキマよ」

優希「スキマ?」

紫「そ、私の力は境界を操る程度の能力……」

紫「だから、この空間という境界を割いて通り道を作ったわけ」

優希「と、とんでもない能力だな……」

紫「普段はこのスキマを使って幻想郷の各地へ移動したりしているのだけど……」

紫「今回、あなたをここまで運んだのもこのスキマよ」

優希「えっ、それってまさか……」

紫「言ってみれば瞬間移動ね」

優希「便利な能力だな……」

 

いわゆるど◯でもドアみたいなもんってことか。

でもそれってつまりこの目玉がうようよした裂け目に飛び込むってことだよな?

……やべえ、鳥肌が立ってきた!

あれ? でも俺ってここにこれで運ばれたって言ってたよな?

……忘れることにしよう。

 

紫「それでは最後に、これが一番重要なことなのだけど……」

優希「うん?」

紫「貴方はどうして私たちを助けてくれるのかしら?」

優希「……うん?? だって、困ってるんだろ?」

紫「まあ……困ってはいるけれど」

紫「でも貴方には本来、関係のない問題よ?」

優希「んー、そう言われるとなあ……」

 

紫さんの言うことも確かで、俺が彼女たちに付き合う必要はないんだ。

だけど、ちらりと横目で犬走を見るとやっぱり不安げな様子で見ている。

 

優希「でもやっぱり放っとけ無い」

優希「邪魔だって言うならどうしようもないけどさ……」

紫「……ふぅ、貴方苦労するわよ?」

紫「でも、だいたい貴方の人となりは分かったわ」

???「ちょっと、紫。本当に信用しても大丈夫なの?」

優希「君は?」

霊夢「博麗霊夢よ。霊夢って呼びなさい」

 

高圧的な態度もさることながら、巫女服姿にも驚いた。

……いや、正確には巫女服じゃないのか?

俺も詳しく知ってるわけじゃないが、あんな脇の部分が割れてはなかったと思う。

 

紫「彼の能力は非常に有用よ。居てもらったほうが良いわ」

霊夢「とはいえ、男よ? 今回の異変は男ばかりが関わってる」

霊夢「いつこいつがあいつらみたいになるか……」

優希「うーん、たしかに……」

霊夢「……何あんたまで同意してんのよ」

優希「えっ? だって原因が分かってないんだろ?」

優希「それだと俺はどうなるんだろうって思ってさ」

 

これは他人事じゃない。

正直な話、この異変と呼ばれてる現象が俺に影響あるかはわからないんだ。

現状目立った現象は起きていないからこそ恐ろしい物がある。

俺自身が肯定してことで、場の空気が少し重くなった気がした。

 

優希「ま、そうなるつもりはないけどな」

霊夢「大した自信ね」

優希「ちなみに根拠はない!」

優希「だけど、俺はできうる限りみんなを助けたいと思ってる」

 

これは心の底からの思いだ。

犬走の状態もそうだったけど、洞窟内の光景は本当に酷かった。

まだあんな思いをしている奴らが居るなら助けたいと思う。

そのためには俺自身の出来ないところ、出来るところをちゃんと理解しないと……って。

 

優希「ん、どうした?」

霊夢「それが素なら、あんたも大したもんだと思うわ」

優希「……どういう意味かわかる? 射命丸」

文「佐伯さんはそのままでいいと思いますよ」

優希「??」

 

何だか微妙な顔して笑うみんなに俺は首を傾げる。

まあ、悪くは取られてないみたいだし……いいのかな?

 

優希「聞きたいのってそんくらい?」

紫「ええ、今のところはないわ」

優希「じゃあ、俺からも幾つか聞きたいんだけど」

紫「何かしら?」

優希「いくらか知らない顔と名前を聞いてない人たちがいるなーって」

紫「ああ……なるほど」

???「それじゃあ、自己紹介といきましょう」

 

初対面のメンバーから一人、黒髪の女の子が出てきた。

平安時代のお姫様なんかが着てそうな服だな。

うーん、まるでおとぎ話に出てくるかぐや姫みたいな――。

 

輝夜「私の名前は蓬莱山輝夜。この永遠亭の主みたいなものよ」

優希「……もしかして月の?」

輝夜「そんなところに居た時期もあったわね」

永琳「懐かしいものです」

 

まさかのご本人登場である。

神様妖怪でもどうかと思ったけど、お伽話のキャラまで出おったか。

幻想郷ってのは本当になんでもありのようだ。

 

優希「それじゃあまさかと思うけど、そっちに居る二人も月から……とか?」

うどんげ「鈴仙・イナバ・優曇華院よ。私はそうね」

てゐ「私は因幡てゐ。地上のウサギうさ」

優希「まあ、地上にウサギがいてもおかしくはないもんな」

 

ウサギなのは頭から生えてるうさみみで分かってたんで驚きはない。

鈴仙って子はブレザーだし、てゐって子はワンピース。

服装的に見れば非常に親しみやすいんだけど……。

 

優希「それにしてもその……鈴仙って呼べば良いのか?」

うどんげ「大抵のやつはうどんげって呼ぶわよ」

優希「そ、そうか……うどんげね」

 

隠しきれてない敵意というか警戒具合にちょっと気圧される。

理由は十中八九俺の存在だろうし、あえて深くは言うまい。

目があったてゐには軽く会釈をされた。

ごめんね、という感じのニュアンスに見える。

 

永琳「私はさっきも軽く自己紹介したけれど、この永遠亭で薬師兼、医者をやっているわ」

優希「へえ、薬剤師でもあるのか! すごいな」

永琳「ちなみに私も月の人間よ」

優希「へえ……月にもやっぱりそういう職業ってあるんだ」

輝夜「月は地上に比べればかなり発達した技術をもってるの」

輝夜「だから医者だけでなく、技術者なんかも多いわ」

優希「ええ~……何か月のイメージが崩れるな」

 

俺たちのような普通の人間からしてみれば月はなんとなく幻想的だと思っている。

しかし、蓬莱山の言うとおりであるのならば結構俗世的みたいだな。

機械が乱立してる月なんてSFチックだと思うんだけど。

 

優希「何はともあれ、その医療と薬でたすけてもらったんだな」

うどんげ「お師匠様の薬はすごいんだから!」

優希「分かったって」

 

八意先生を差し置いてドヤ顔で指をさすうどんげには苦笑い。

師匠ってことは彼女も薬剤師か医者の卵なんだろうか。

八意先生も頭を抑えながらため息をついてる辺り、よくあることなのかもしれない。

しかし、先生のセンスってかなり奇抜だな……。

真ん中からバッサリと左右を赤と青で分けた服の色を見たら誰だってそう思うはずだ。

さて、ほかには……。

 

優希「あれ、そっちの二人は?」

藍「うん? ああ、私は八雲藍だ。紫さまの式をしている」

橙「私は橙だよ! よろしくね、お兄さんっ!」

藍「ちなみに橙は私の式に当たる……可愛いだろう?」

優希「えっと、式?」

 

計算式とかそういうもんじゃないんだろうな……多分。

わかりやすい顔でもしてたのか、紫さんはおかしそうに笑う。

 

紫「そちらの世界で言うのであれば使い魔と言われる存在になるわね」

紫「式神ともいうのかしら?」

優希「あ、ああ~! なるほど、そう言われたら分かるよ」

優希「でも、全くそうには見えないな」

紫「そうかしら? たしかに使い魔と言うには優秀すぎる子だけれど」

橙「えへへ~♪」

藍「もったいないお言葉です」

優希「へえ……」

 

いわゆる主と従者の関係ってことか。

それにしてはお互いの間に親密な空気がある。

多分、言葉にしている以上の関係なんだろう。

おや? あの子は……。

 

早苗「っ……!」

優希「あ……」

諏訪子「あ、こら! 早苗っ?」

神奈子「謝りたいんだろう?」

早苗「うう……」

優希「え、えっと……」

 

気まずそうな顔をして今にも泣きそうな女の子を前にたじろぐ。

二人に説得される形で、ようやく前に出てきた。

たしかに巫女服だけど、霊夢が来てるのとはまた違うタイプだ。

だが、脇の部分が開いてることには変わりがない。

こっちでの巫女服っていうのはこういうもんなんだろうか。

 

早苗「……あのっ!」

優希「は、はいっ?」

早苗「す、すみませんでしたっ!!」

優希「え……ええぇぇっ!?」

 

いきなり土下座されて俺は情けない声を上げてしまった。

そんな長い間生きてきたわけじゃないが、女の子に土下座なんてされたことがない。

というか、そんなことをさせたいと思ったことだってない俺だ。

 

早苗「私の早とちりで……貴方を死なせてしまうところでした……」

早苗「本当にすいません……」

優希「いやいやいや、頭を上げてくれよ!」

早苗「で、ですが……」

優希「俺は気にしてないから……ほら、なっ?」

 

何度か励ますように声をかけてやると、やっと顔を上げてくれた。

そこで初めてはっきりと顔をみたんだけど……やっぱり可愛い子だ。

相当気に病んでいたのか、目は赤く充血していて痛ましい。

 

優希「あれはそっちの二人を守るためだったんだよな?」

早苗「は、はい……」

優希「なら、立派なことじゃないか! 仲間を守るのは当然だろ?」

早苗「えっ? で、でも……」

優希「デモもカカシもない! 君は悪く無い、OK?」

早苗「……」

 

無理矢理に謝罪や後悔の言葉を遮っての言葉に早苗って子は戸惑っているようだ。

彼女の目は助けを求めるように後ろにいる二人に目線を送る。

 

神奈子「そっちの坊やがそう言ってくれてるんだ。ありがたく受け取っておきな」

諏訪子「そうそう、ここで野暮なこというつもりもないだろうし」

優希「もちろん。ただ、自己紹介はしてもらえると有り難いかな?」

早苗「あっ、これは失礼しましたっ……!」

早苗「遅ればせながら、守矢神社の巫女をしております東風屋早苗といいます」

優希「こちや? 随分と変わった苗字だな」

早苗「へ、変でしょうか?」

優希「ううん、いい名前だと思う」

神奈子「さて、そろそろ私たちの自己紹介もさせてもらおうか」

諏訪子「早苗だけずるいよー」

 

少しだけ重くなった空気を吹き飛ばすような明るい声が上がる。

『頑張った』という労いの声をかける二人に、東風屋も安堵の息をついていた。

実際、人を傷つけた場合に謝るのはすごく勇気がいることだと思う。

今回はまさかの被害者側になってしまったわけだが。

改めて二人の方に視線を向ける。

一人は赤い半袖の上着の下に白いゆったりした長袖の服が伸びている。

よく見ると縄のようなものをいたるところに巻きつけているという変わった出で立ちだ。

比較的小さい子が多い中では珍しく、俺ほどじゃないがちょっと高めの身長だった。

 

神奈子「私は八坂神奈子。今は山の神様をやっているよ」

優希「へえ……どんな神様なんだ?」

神奈子「そうさねえ……例えば、風雨を自在に操ることは出来るよ」

 

風雨を自在に、か……。

嵐なんかを起こすことが出来るってだと考えるととんでもないな。

ふと、もう一人の神様にも目を向ける。

青と白をの服装……たしか壺装束っていったっけ? を着ていた。

短いスカート部分の裾から覗く足はハイソックスが大半を占めている。

他には……麦わら帽子みたいなのに目玉みたいなのがついてて衝撃的だ。

 

諏訪子「私は洩矢諏訪子だよ。土着神の神様をやってるんだ」

優希「これまた聞いたことのない……」

諏訪子「八百万の神様って言葉くらい聞いたことあるでしょ? その内の一つだよ」

優希「まあ、大まかにはわかるけど……どんな能力なんだ?」

諏訪子「んー、簡単にいえば大地に関わるものは大抵創れるかな?」

諏訪子「岩石とか、土水、植物とかね」

優希「……うん、俺の能力も大概だとは思うがとんでもないな」

諏訪子「他にも祟り神を従えてるから、そいつらの使役も出来るよ」

優希「そりゃ……遠慮願いたいな」

諏訪子「悪いことばかりじゃないんだけどなあ」

 

祟り神と聞いちゃ悪いイメージしか沸かない。

それがご不満なのか、洩矢は可愛らしく頬を含ませていた。

さて……とりあえず、俺以外の自己紹介は済んだかな。

 

優希「んじゃ最後に軽く自己紹介しとくよ」

優希「俺は佐伯優希。外来人? で、普通に学生してた人間だ」

霊夢「普通にしてたっていう割に、えらくご都合主義な能力を持ってるじゃない」

優希「だーから、こっちに来ていきなり使えるようになったんだって」

優希「向こうじゃごく普通の人間だったよ」

椛「普通の人間というには、結構順応が早いようにも思いますけど」

優希「そうかな……これでも結構驚いてんだけどな」

 

驚きの連続すぎて、正直もう大抵のことには驚かなくなってきている。

一度死にかけたこともあって、余計に色んな意味で落ち着いたのかもしれん。

と、考えていたところで腹から盛大な音が鳴り響いた。

うっ……一週間も寝てたから当り前とはいえ恥ずかしいな。

 

優希「腹減ったな……今何時かしらんけど飯にしてもいいか?」

 

そう言った瞬間、犬走たちをのぞいた新顔連中の顔が曇る。

 

輝夜「申し訳ないのだけど、今この永遠亭の食料も底を尽きかけているの」

優希「うん」

永琳「けが人に対して辛辣なことを言うようなのだけど……」

永琳「分けられるほどの備蓄がないの。分かってもらえるかしら」

優希「……ん? あれ……犬走たちから聞いてない?」

うどんげ「何をよ」

椛「あ、そういえば言ってませんでしたね……」

文「佐伯さんの生死がかかってましたからねえ」

 

これでようやく合点が行った。

まあ、俺の能力の説明でも詳しく言ってなかったかもしれない。

 

てゐ「私たちだってもうずっと雑穀ばかりうさ」

うどんげ「泣き言言わないの! 今は耐えないと……」

優希「えっと、食料なら別に気にしなくていいぞ? 俺が出すし」

一同『……はっ?』

優希「飴玉出してるのは知ってるだろ? 食べ物も飲み物も能力でだせるんだ」

霊夢「マジっ!?」

優希「うおおおおっ? ほ、本当だから揺らすなあぁぁぁ!?」

霊夢「じゃ、じゃあ今この場に料理を出してみなさいよっ!」

 

嘘だったらただじゃ置かない、という目でこちらを見る霊夢。

いや、嘘なんかじゃないわけだけど……犬走とはまた違った迫力があるな。

他のみんなもそれなりに期待してるっぽいし、適当に出すとするか。

え~っと……。

あれとそれと~……後、橙とか猫みたいだし魚があったらいいかな。

 

優希「こんなもんか?」

一同『……』

椛「わふぅっ!」

 

おお、相変わらずの欠食童子っぷりだ。

見てて清々しくなるくらいの食いっぷりは気持ちがいい。

射命丸たちも普通に思い思いの食べ物を手にとって口に運んでいた。

俺の能力で出したご飯を食べてきた犬走たちとは違い、他は唖然としているようだ。

 

紫「……驚いたわね、本当に食べ物だわ」

霊夢「見たこと無いものばかりだけど、本当に食べ物なの?」

優希「洋食なんだが、こっちじゃあまりみないもんなのかな?」

うどんげ「……た、食べてもいいの?」

てゐ「う、ウマそううさ……」

優希「あんな話聞かされた後でダメっていうわけないだろ?」

 

俺は苦笑いしてみんなに食べてくれるように促した。

霊夢やうどんげたちはちょっとだけ遠慮した後、それでもすぐに料理を口にした。

 

優希「ほら、橙には魚を用意しといたぞ」

橙「わーい!」

藍「すまないな……あれほど君を危険視したというのに」

優希「何度も言ってる気はするけど、状況が状況だし仕方ないって」

優希「えっと、多分好物かなって思って油揚げもだしておいたけど」

藍「油揚げっ……!? い、いただこう」

 

もふもふしてそうな9本の尻尾を揺らす藍さん。

多分、あれって九尾の狐っていうやつだよな?

油揚げも好物っぽいし。

 

早苗「まさか幻想郷で外の世界の食べ物を食べられるなんて……」

神奈子「懐かしいもんだねえ」

優希「あれ? 東風屋たちも外来人だったりするのか?」

諏訪子「ある意味間違いでもないかな? 幻想郷に移り住んで日は浅いからねえ」

神奈子「私たちは神だが、信仰がなくては存在を保てないのさ」

神奈子「外じゃ神様の存在なんて信じる奴は少なくなっただろう?」

優希「ああ、俺も含めて大半がそうだろうな」

 

神頼みなんてのをするのはいるが、心底信じてるのはそう居ない。

じいさんばあさんが関の山……もしくは宗教家くらいか?

そんな話をすると八坂さんも洩矢さんも苦笑いだ。

 

神奈子「それでこっちに来たのさ。まあ、主に妖怪相手の営業だけどね」

早苗「そういうわけで、私たちもこういった料理には懐かしさがあるんですよ」

優希「なるほど、そういうことならしっかり堪能していってくれ」

早苗「はいっ!」

神奈子「久しぶりにまともな食事だねえ」

諏訪子「ほんとほんと」

 

神様たちも満足気にコンソメスープを口にしている。

そうしている姿はごく普通の女の子にしか見えない。

 

永琳「姫さま、とくに異常はなさそうです」

輝夜「もう、永琳ったら……彼に失礼よ?」

永琳「ですが……」

優希「あ、もしかして和食のほうがよかったか?」

優希「言ってくれたら出すけど」

輝夜「そういう意味じゃないんだけどね……でもお願いしてもいいかしら?」

優希「了解」

 

とは言え、和食って言われても俺が思いつくのって筑前煮とかなんだが。

ま、とりあえずだしておこう。

犬走たちはもう以前、一緒に食べたこともあるのか勝手に食べてくれていた。

 

優希「あーもう、犬走。ちょっとこっち向け」

椛「? わぷっ?」

優希「腹が減ってるのはわかるけど、口元汚れてるぞ」

椛「あ、ありがとうございます」

優希「ソースとか服についたら染みになるから気をつけろよ?」

にとり「……もうちょっと早く言って欲しかったかなーって思う」

 

すでにベットリと服についてしまっている河城がジト目を向けてくる。

いや、ジト目を向けられる立場でもない気がするぞ……河城よ。

俺は無言でシミ消しに聞く薬を出して渡しておいてやる。

 

椛「この茶色いお肉でしょうか……? すごく美味しいですね!」

優希「ん? ああ、それはハンバーグっていってな」

優希「豚肉と牛肉のミンチを混ぜて焼いたもんなんだ」

雛「こちらは何なんでしょう?」

優希「それはオムライスだな。味付けて炒めたご飯を卵で包んでるんだ」

霊夢「鍋とか出せる?」

優希「出せると思うが……何鍋?」

霊夢「何でも良いわよ! 鍋ならっ」

うどんげ「人参が入ってたらうれしいかな……」

てゐ「私も私も!」

優希「はいはい」

穣子「さつまいもも入れようよ!」

優希「それは焼き芋とかデザート系で我慢してくれ」

 

何となく微笑ましい感じになってきて、俺はリクエストに応えて料理を出していく。

食料問題に関しては俺が居ればまず問題はない。

それが分かってもらえただけでも、大事な一歩かも知れないな。

実際、多少は壁のようなものがなくなったきがするし。

ふと、フランクフルトを手に紫さんが近寄ってきた。

美少女と言っても差し支えない分、妙な組み合わせだな。

 

紫「貴方の能力は、ある意味反則に近いわね」

優希「まあ、願ったものを具現化出来るって使い方次第じゃとんでもないよな」

紫「よくその力で好き勝手しようって思わなかったわね」

優希「……んー、たしかにそう言われてみればそうだろうけどなあ」

 

何だか言われてピンとこない。

好き勝手しようって言っても、何がしたいだろう?

すぐに思いついたのはボランティア的なもんだ。

この力があれば食糧不足で困ってるとこなんて一発で解決出来るんじゃないか?

 

優希「ま、せいぜい好きな食べもの出したりするくらいかなあ」

優希「これといってほしいものもないし」

紫「ふうん? 貴方が望めばここにいる私たちみんな、好きにできるのよ?」

優希「冗談でもやめてくれ」

優希「……あんないい顔してるみんなの曇った顔なんて見たくない」

 

そう言って見回すと、それぞれに活気づいた顔をしていた。

食べ物の争奪戦が始まってるみたいだが、まあ沈んでるよりは良いだろう。

多少の疲れのようなものは見受けられるものの、軒並み元気そうだ。

 

紫「……聞くだけ野暮だったかしらね?」

優希「何が?」

紫「なんへほふぁいふぁほ(なんでもないわよ)」

 

行儀悪くフランクフルトを口に入れたまま喋るので言葉になってない。

結局なんて言ってたのかも分かんないし、何だったのやら。

その後、みんなの抑圧された食欲が開放されるまで騒ぎは続いた。

そんな騒ぎの中で、俺に対する警戒もほんの少しだけ薄れたようでホッとしたのだった。

 

 

輝夜「さ、ここよ」

優希「おー」

 

和風の家ってことで予想はしていたが、畳に布団という典型的なものだった。

寮ではベッドだったが、布団ってのも情緒があっていい。

タンスやら机やらの必要最低限の家具もあるしいい部屋だ。

 

輝夜「さて、と……」

優希「うん?」

 

てっきり案内が済んだらそのまま去るもんだと思っていた。

だけど、蓬来山の奴はなぜか部屋の真ん中にある机の前に座る。

何となく俺もそれに習って正面に座った。

正面から見れば、お伽話ってのも案外的を得たことを話すもんだと感じる。

何人もの男を魅了し、惹きつけた月のお姫様。

それがうなずけるほどの魅力が彼女にはあったからだ。

ただまあ、美しいっていうよりは可愛いって分類だが。

 

輝夜「まずはじめに、こんな離れを用意して申し訳ないわね」

優希「ん? ああ……」

 

言われてから初めて気づいたが、ここは皆から結構離れた場所にある。

おそらく、それは彼女たちなりの警戒の現れだろう。

普通の状況であっても男女が同じ家にいるってのは結構なことだし問題はない。

 

優希「そんなの気にしないって」

輝夜「でも一応謝っておかないとフェアじゃないでしょう?」

優希「そんなもんか?」

輝夜「そんなもんよ」

 

まあ、聞くに彼女はここの責任者のようだし思うところもあるのか。

皆見た目はちっさいのに、俺なんかよりよっぽど達観してる。

考え方や行動が、見た目以上にしっかりしているからだ。

それはこの幻想郷って世界がそうしているのか。

 

輝夜「私個人としては、貴方のことは認めているわ」

輝夜「貴方はよくも悪くも、嘘をつけないくらい素直な人だもの」

優希「喜んでいいのか微妙な評価だな」

輝夜「ふふ、ごめんなさい」

 

いたずらっぽく笑う顔は歳相応なものだ。

そんな仕草一つとっても目を引くのだから質が悪い。

何となく気恥ずかしくなって目をそらす。

 

優希「私個人としてはってことは、やっぱそう思ってないのもいるんだな」

輝夜「ええ、少なくとも妖怪の山の集まり以外はまだ図りあぐねているようね」

輝夜「あ、紫は別としてね」

優希「へえ? あの人は俺のことを問題視はしてないんだな」

輝夜「実力者というのは総じて、人を見る目も育っているものよ」

優希「なるほど、じゃあ蓬来山もってことだな?」

輝夜「ふふ、そこは名言はしないでおこうかしら?」

 

面白そうに言ってるが、ありゃ本来なら強いって自信がある目だ。

こんな状況でなかったら、きっとすごいんだろう。

力がそうないっていう本調子でない犬走ですら岩を切り裂くくらいだし。

 

輝夜「永琳は私の護衛っていう立場だからあれだし……」

輝夜「うどんげは元々、人見知りなところもあるから」

優希「人見知りか……てゐは?」

輝夜「てゐはああ見えて結構頭がいいのよ」

輝夜「利害が一致しているうちは貴方のことも気にしてないと思うわ」

優希「信用されても居ないけど、敵意もないってことか」

輝夜「見た目の割にあの子、結構な時間を生きてるようだから」

輝夜「うどんげよりも遥かに年上よ?」

優希「マジでっ?」

輝夜「ええ、マジよ」

 

うっそだろう? あの見た目でうどんげより上なのか。

いや、まあ……確かにこの世界の住人って年上しかいないんだろうけど。

俺からしてみれば皆、年下の女の子にしか見えないんだよなあ。

 

優希「まあ、結構大変だとは思うが……信頼されるように頑張るよ」

輝夜「ええ、期待してるわ」

輝夜「でも、貴方は貴方らしくしていればきっと大丈夫よ」

優希「俺らしく?」

輝夜「騙されたと思って、貴方の感じた通りに行動してみなさい」

輝夜「それじゃあ、良い夜を」

優希「お、おう……」

 

意味深な笑みを残し、麩が閉じられる。

俺らしい行動をしてればいい、か……。

どういうことかは分からないが、今までどおりに行動すればいいらしい。

今は彼女の言葉を信じて、今までどおりに行動しよう。

だけど、そう思う反面今までどおりでもいいのかと思うところもある。

例えば、俺自身の体力やらについてだ。

 

優希「もうちょっと、動けるようにはしないといけないよな」

 

幸い、俺は長い間寝ていてさっき起きたのもあり眠気はない。

それならばと思い、早速行動に移すことにした。

 

 

外に出てみると、やっぱり夜風は冷たくて痛い。

刺すような寒さってよく言われるけどそれに近い感覚だ。

そんな中、俺は動きやすい格好に着替えて立っている。

そして、幾つかの道具を創りだしては早速筋トレを始めたのだが……。

 

優希「ぜえぜえ……し、しんど……!」

 

すぐに汗塗れになってぶっ倒れていた。

いくら文系とはいえ、これはあまりにも情けない。

それでも、少なくても俺は今の弱いままじゃ駄目だ。

いざって時に彼女たちを助けられるだけの力はつけておかないと。

汗が出たことで余計に痛いような寒さに拍車がかかる。

だけどそれはあえて思考の隅に置くようにして腕立てと腹筋を繰り返す。

 

優希「うぐっ……」

 

体を動かす度、背中側の腰に出来た傷がうずく。

いや、うずくなんてレベルではないかもしれない。

もしかしたらまだ薬が残っていていたからこの程度ですんでいるのか。

だけど、俺はそれでも体を動かし続けた。

理由は簡単、男としてもうちょっと頼られる存在でいたいからだ。

 

優希「ぐぐぐ……!」

 

20回目の腕立てが済んでボロボロでは先が思いやられる。

そんなことを思いながらも更に続けた。

 

 

うどんげ「私は今でも反対です……男をこの屋敷に置くなんて」

 

あの佐伯とか言う男を姫様が連れて行った後のこと。

私は彼以外が集まった部屋で思い切ってそう伝えておく。

その言葉に対して目に見えて表情が変わったのは妖怪の山連中。

 

椛「佐伯さんが危ない人じゃないのは分かってもらえたはずでは?」

うどんげ「いくらでも取り繕えるでしょ? 表面上はね」

文「そうは言いますが……あの人は嘘をつける様なタイプじゃないですよ」

文「隠し事はしていましたけどね」

うどんげ「そこよ。隠し事をしている時点で信用ならないわっ!」

うどんげ「てゐだってそう思うでしょ!?」

てゐ「んー? 私は半々かなあ」

うどんげ「半々って……」

てゐ「少なくとも今は利害が一致してるじゃない」

てゐ「もしあいつが本性を隠しているだけだったら袋叩きにすればいいウサ」

 

相変わらずてゐの考えることは腹黒い。

いい顔しているように見えて考えることはしっかり考えてる。

とはいえ、今回に関しては心強いけどね。

 

霊夢「ま、うどんげに賛同するってわけじゃないけど私も危険だと思うわ」

霊夢「今まではどうであれ、今後どうなるかは分からないのだから」

藍「そうだな……こちらの住人にも症状の遅いやつと早い奴が居た」

早苗「それでも、今の佐伯さんを否定するのは違うと思います!」

早苗「あの人は、自分を刺した私なんかを許してくれたんですよっ!?」

霊夢「それはわかっているわよ」

 

すさまじい形相で詰め寄る早苗を霊夢は鬱陶しそうに押し戻す。

彼女は助けられたのだから盲信しても仕方ない。

だけど、私を初めとして彼のことをよく知らない連中はそうはいかない。

 

うどんげ「佐伯をあの部屋に置いたのはせめてもの譲歩よ」

うどんげ「……食料難を解決してくれたのは確かだしね」

永琳「そこはほんとうに感謝しなくてはならないわ」

輝夜「そうね~……いくら不老不死とは言え、餓死はするから」

霊夢「餓死って……嫌な響きね」

 

引きつった笑みを見せる霊夢には同意しておく。

姫さまはそれでもまたよみがえることができるだろう。

だけど、私たちはその時点でアウトなのだ。

 

雛「でも、こちらも同じように空腹で危なかったですよ」

にとり「佐伯が居なかったらそうなるのも遠くはなかったかもね」

てゐ「警戒はしなかったの?」

穣子「まー、最初は男だってんで警戒はしはしたけどさ」

静葉「私たちの怪我も治してくれましたし、紳士的な方ですよ?」

うどんげ「それだって、上辺だけならなんともできるとわ」

神奈子「そっちのウサギは随分と慎重だねえ」

諏訪湖「まあ、疑心暗鬼になっても仕方ないとは言えるよ」

うどんげ「……二人も随分と佐伯を買ってるのね」

諏訪湖「早苗を救ってもらえた……その事実だけで十分さ」

神奈子「ああ、あのままだったら全員危なかった」

 

どこか悔しげな物が混じってはいるものの、その顔は穏やかだ。

極限状態で大事な人を助けられたからかしらね。

そういう意味でいうなら、食料では確かに助けられた。

でも、ただそれだけで私は男を信用することなんて出来ない。

今だって何をしてるか……。

私はそう思って席を立つ。

 

永琳「あら、どこへ行くの? うどんげ」

 

後ろから師匠の声。

私はそれに振り返らず一言だけ告げる。

 

うどんげ「佐伯の様子を見に行ってくるわ」

 

 

優希「……う、動けん」

 

あれから約30分くらいだろうか?

俺は思いつく限りの筋トレをやってみた。

背筋、腹筋、腕立てにスクワット。

それらをそれぞれ30回を1セットで何度かしていたらこの有様だ。

荒い息を整えながら、冷たい地面から空を見上げる。

 

優希「……綺麗だな」

 

余計な光がないせいだろうか。

空に浮かぶ星たちはみんなその存在をいつもより主張していた。

こんな光景、俺が住んでいた都会じゃ見られたもんじゃない。

詩とか書ける余裕が出てくれば良い題材になりそうだな。

何となくだけど頬がゆるんでしまう辺り、ちょっと変わってるとは思う。

 

優希「ん……?」

 

ふと、誰かの気配を感じてそちらを見る。

……気のせいか?

気配のようなものを感じた気がしたけど、とくに人影もない。

久しぶりに運動をして少し疲れたのかもしれないな。

ただでさえ、怪我をしてるわけだし。

流石にもう寝ておこう。

俺はそう思い部屋へと引き上げた。

 

 

……どうやらこちらに気がつくことはなかったようね。

あてがわれた部屋の方へ向かっていく佐伯を視界に入れたままちょっと思う。

私は一体何をやっているのだろうか、と。

もちろん、あいつが危険だと感じて監視をするために彼を見ていた。

だけど、あいつは特段おかしなことをするわけではない。

酷く必死に、トレーニングをしているだけだった。

瀕死の重傷を負い、その傷も癒えてないというのに。

 

うどんげ「あいつ、一体何をあんなに……」

 

常人ならば、あんな傷で体を動かそうなんて思わない。

ふと、あいつが寝転がっていた場所へ向かう。

そこには僅かだけど、血の跡があった。

これは間違いなく、傷が開いてるわね。

言われてみれば、腰のあたりをおさえていたようだったし。

 

うどんげ「ほんと、訳がわかんないわ……」

 

あの人間の考えていることが全くわからない。

そういえば、あいつは空をみあげているようだった。

ならって空をみあげてみると、そこにはいつもと変わらない星空。

少し笑っていたようだったけど、一体何が楽しかったのかしらね。

私はモヤモヤした気分をのこしたまま、屋敷へと引き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

今回は永遠亭の皆さんや霊夢一行と合流してからの一種の会合みたいな話になってしまいましたね。
僕はあまりどんよりとした雰囲気の話が苦手なので、適度に混ぜる感じで行こうと思ってます。うどんげさん敵意むき出しですね。そんな彼女が信頼してくれるのもそう遠くはないですよ!

次回は長くなりそうなので場合によっては前編後編になるかもです!
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