第3話:紅魔館の激闘(前編)
ひんやりとした空気に肌寒さを感じて、目が覚める。
まだ10月に入ったばっかりだってのに、こっちは結構寒い。
地球温暖化がなけりゃこんな寒さも普通なのかもな。
俺は肌寒さを感じた原因である蹴っ飛ばされた布団を畳んで部屋の隅に置く。
優希「んっ―――! いてて……」
思い切り背伸びをしながらの深呼吸。
肺の中が清々しい空気でいっぱいになり、同時に寝ぼけた頭もはっきりした。
同時に腰辺りに激痛。
昨日、大分頑張ってしまったから眠気が残ると思ったんだがなあ。
多分一週間も寝っぱなしだったからだろうと思う。
霊夢「優希ー? 起きてる?」
優希「お? ああ、起きてるからはいっていいぞー」
その言葉を聞くや否や、速攻で襖が開く。
そういう遠慮がないところが霊夢らしいとも思う。
会って間もないが、そんなタイプなのは何となく分かる。
ズカズカと入ってきたかと思うと、きょろきょろと部屋の中を見回す。
優希「? どうしたんだよ、部屋の中を見回して」
霊夢「別に? 男の部屋っていう割にはきれいねーと思っただけ」
優希「昨日ここあてがわれたんだぞ? おまけに俺の荷物なんて全く無いぞ?」
『そうだったわねー』、と棒読みで返される。
分かってて言ったな、こいつ。
優希「で、要件は?」
ため息混じりに訪ねておく。
まさかそれを言うためだけに俺の部屋に来たわけじゃあるまい。
そんな俺の問に待ってましたとばかりの笑みが浮かぶ。
霊夢「もちろん、朝食の準備をしてもらうために決まってるでしょ?」
優希「……ま、なんとなく想像はできてたけどな」
霊夢「何よ。あんたにだってメリットがないわけじゃないでしょ?」
優希「メリットあるなしで出すって」
霊夢の言うメリットってのは異変中、またはその後の取り計らいについてだ。
異変中、俺はみんなの助けになる代わりに寝床を提供してもらえる。
それに異変解決後は元の世界に戻るための手伝いもしてくれるそうだ。
別にそういう利害関係抜きにして助けたいとは思ってる。
まあ、戻れるのはもちろんありがたい話なんだが。
椛「あ、佐伯さん。おはようございます」
優希「おお、犬走はいい子だなー」
椛「えっ? えっ?」
優希「どこかの巫女さんは朝の挨拶すらおざなりだったからな」
霊夢「それは私への当て付けかしら?」
早苗「霊夢さん、挨拶はしないといけませんよっ」
霊夢「ちゃんと起きてる? って挨拶したでしょ?」
それは断じて挨拶じゃない。
俺だけじゃなくてみんなもそう思ってくれてるらしく総じて苦笑い。
霊夢はどうにも現金なところがあるというか、ドライな性格みたいだ。
そっけない態度も目立つし、突き放したような言動もよく聞く。
だけどそれでいて嫌われないのは、そのさっぱりした性格によるものなのかもしれないな。
輝夜「あら、みんなもう集まってたのね」
うどんげ「早いわね、みんな」
てゐ「そりゃあ、朝ごはんの心配がいらなくなったからよ」
てゐ「でなきゃ、なるべく寝て飢えをしのいでたうさ」
優希「軽い口調で言われてるけど、涙を誘うぞそれは……」
永琳「実際、かなり追い詰められていたのは事実よ」
永琳「幸い、竹林のおかげで人間たちに襲われることはなかったけれど」
いつも余裕の有りそうな八意先生がため息を吐くとは。
まあでも、昨日のみんなの反応を見れば分からなくもない。
俺みたいな人間じゃ限られた食料のみで過ごせとか言われたら発狂してるわ。
揃ったみんなの意見を聞きながら料理をそれぞれ出していく。
ちなみに俺は朝はパン派だからトーストエッグだ。
優希「……ところで、これからどうするんだ?」
紫「そうね……出来れば他の勢力も助けに行きたいと思っているわ」
優希「他の勢力か……それってどんだけいるんだ?」
霊夢「ざっと数えても100人くらいね」
優希「多い……というには微妙な数だな」
文「それはまあ、実力者たちがそんなに多かったら大変でしょうしね」
椛「今回のようなことが起きるなら、多くても良い気はしますけど」
にとり「起こっちゃったもんは仕方ないさ」
優希「そうだな」
にとりの言うとおり、起こったものは仕方がない。
問題はこの問題に対してどう動くかってことだ。
それで今後のことを聞いたわけだが、当面は勢力集めになるか。
優希「やっぱそうなると出向くしか無いよな」
穣子「佐伯はダメだからね」
優希「えっ? いや――」
静葉「もう危ないことは禁止です」
優希「……そうは言われてもだな?」
俺の能力で怪我を治すことが出来るのは俺以外のみ。
そうバレてしまったからか、犬走たち妖怪の山関係者の視線が痛い。
だが、それに反してその他の連中はそこまででもない。
藍「だが、佐伯くんの力を借りたほうがスムーズではないのか?」
椛「ダメですよ。この人、すぐ無茶するんですからっ!」
優希「別に無茶っていうほどのことした覚えは……」
にとり「自分の怪我も治せない癖に刺されたりしたのはどこの誰さ」
優希「うっ……」
たしかにあれは考えない行動だったとも言えるかもしれない。
下手をしたら死んでいたかもしれないんだ。
ちらっと見ると、東風屋は少しだけ気まずそうにしていた。
とりあえず話題を変えておこう。
優希「だけどさ、実際にはどう救出に向かうんだ?」
紫「そうね……優希くんの限定的とはいえ能力を戻す技だけど」
紫「飴で戻した能力より強く感じたわね」
優希「えっ? そうなのか?」
雛「どうでしょう~? 私たちはまだ試したことがないので」
霊夢「それがどうしたのよ?」
紫「まあ聞きなさい」
慌てるなと言わんばかりに豊満な胸元からセンスを取り出す。
なんつーところから出してるんだよ。
目を逸らしながら咳払いを一つ。
それに対して意地悪い笑みを浮かべてる辺りわざとだな。
紫「おそらくだけれど、あれだけ力が戻れば多少の無茶はきくわ」
橙「でも、それってお兄さんがいないと……」
紫「そうなるわね」
そう言って視線を俺に、続いて妖怪の山勢に向ける。
意図することは分かる。
俺自身の意思と、彼女たちの説得だろう。
案の定というか、射命丸たちの表情は芳しくない。
文「力がどうにかなっているのであれば、スキマで皆を回収すればいいのでは?」
紫「残念だけど、そういうわけにも行かないのよ」
輝夜「煮え切らない言い方ね」
永琳「何が問題なんです?」
紫「今の私が開けるのは、各地の入り口に当たる部分までみたいなの」
優希「それってまずいのか?」
紫「そこの周辺にいてくれたら良いのだけれどね」
紫「居なかった場合、全員を誘導する必要があるのよ」
霊夢「そうなると、少なくとも交戦する覚悟はしといたほうが良さそうね」
紫「そうなのだけど、そうなると霊夢達だけで行くのは危険じゃないかしら?」
文「限定的とはいえ力が戻せるんですし、遅れは取らないと思いますが?」
紫「聞くけれど、もし相手がこちらの想定以上にいたらどうするの?」
紫「消耗戦を強いられて飴がなくなってしまったら?」
文「む……」
藍「少なくとも、ミイラ取りがミイラになるのは目に見えているな」
藍さんの言葉に周囲が押し黙る。
早苗「で、ですが……流石に心配しすぎじゃないでしょうか?」
紫「いいえ、慎重すぎるくらいのほうが良いわ」
紫「私たちは元々力を持ちすぎていた……過信は油断を生むものよ」
神奈子「確かに一理あるね」
早苗「か、神奈子様まで!」
神奈子「確かに坊やを送り込むのは不安しか無いのも分かる」
神奈子「だが、負傷したものが居ないとも限らないわけだろう?」
紫「そうなるわね」
諏訪子「不本意ではあるけど、そうなると優希は外せないだろうね」
諏訪子「予想だにしない出来事に対処するにも必要不可欠だ」
優希(話に入り込めん……)
おそらく彼女たちの中ではある程度の作戦が共通認識であるんだろう。
いくつか分かってない顔してるのも居るみたいだが。
椛「ですけど! だからといって佐伯さんを危険な目に合わせるのは……!」
優希「あー……なんだ、ちょっといいか?」
一同『?』
おそらくだけど、ここで黙ってちゃ同じことの繰り返しだ。
だからこそ、俺自身の意思をはっきりとさせておく必要がある。
俺はそう考えていた。
優希「犬走たちがそう言ってくれるのは嬉しいよ」
優希「だけどな、異変で困ってる他の奴らを放っておくのはまた違うだろ?」
椛「でも、それでまた死んでしまいそうな怪我を負うかもしれないんですよ!?」
優希「なら、俺は犬走たちのことも見捨てて逃げればよかったのか?」
俺の言葉に面食らったように押し黙る。
正直、こういう切り返し方をするのはあまり好きじゃない。
だけど、皆勘違いしているようだからこれだけは伝えとかないと。
優希「俺はもう、とっくに覚悟は出来てるんだ」
優希「この先、死ぬ可能性があるってことも」
ただの一般人な上に外来人である俺の言葉だ。
信じてもらえるとは思っていないが、真剣にそう続けた。
その言葉の真意を図りあぐねてるのか皆黙っている。
俺はそんな沈黙に耐え切れなくて続けた。
優希「だから、俺が傷つくことなんか気にしないで欲しいんだ」
紫「……ということだけれど、どうするのかしら?」
文「そういう風に言われたどうしようもないですね」
椛「文さんっ!?」
文「だからといって無茶をしていいとは言ってませんからね?」
文「佐伯さんは恩人なんです」
文「出来れば平和になった後、正式に宴会に誘いたいですからね」
優希「……肝に銘じておくよ」
射命丸のしんみりした口調でいうと、他の皆も黙りこんでしまった。
彼女も本当なら俺には出てほしくないってことなんだろう。
だけど、これから事を考えた上で俺の意思を尊重してくれたらしい。
椛「私はまだ、納得はしていませんからね?」
優希「犬走……」
椛「でも、佐伯さんが本気で他の皆さんを救いたい……」
椛「そう考えていることは分かりましたから、もう何もいいません」
にとり「だけどまあ、なるべく戦闘自体は私たちに任せておきなよ」
穣子「そうそう、佐伯は私たちの援護をしてくれたらいいからさ」
優希「お、おう……」
面と向かって先陣は切るな、後ろにいろって言われるのは複雑だな。
なんというか、守るべき相手に守られてる感じが。
紫「そこで、まず優希くんに一つお願いがあるのだけど」
優希「ん?」
紫「今、この瞬間も危険な目にあっている勢力が居るかもしれないでしょう?」
紫「それを貴方の能力で、どうにかして優先順位をつけて行けないかしら?」
優希「優先順位をって……どうするんだ?」
俺の能力は望みを具現化する程度の能力。
つまりは望んだものを作り出す力だ。
そういう具体的じゃないものには適応されない。
紫「ええ、だから『危険な目にあっている勢力を知らせる道具』を作って欲しいの」
紫「あわよくば、それにどれだけ危険なのかも分かるものを」
優希「? ……あっ! そういうことか」
物体なら作り出せるから、そういうのが分かる機械を出せってことだな。
理解が追いつけば後は簡単だ。
パソコンのような物をイメージし、皆の状況を知らせる効果をつける。
それが具現化されると、俺は早速スイッチを入れて操作を始めた。
周りはその機械が物珍しいのか、興味深げに覗き込んでくる。
……主に河城の目が怖い。
優希「頼むから分解しないでくれよ」
にとり「わ、分かってるって!」
にとり「……異変が解決したらいいよね?」
それでも分解したいんかい。
軽く笑った後うなずいてやると、嬉しげにしていた。
しばらく操作していると、幾つかの勢力の名前と思わしきものが羅列される。
同時に、その横にある文字は勢力たちの状況を表しているらしい。
少し体の一をずらし、紫さんにその表を見せた。
紫「……なるほどね。今の現段階では、紅魔館の一行が危険みたい」
霊夢「レミリアたちが? ……いや、でも能力がないのなら危険ね」
優希「紅魔館ってのはどこに?」
紫「比較的人里から遠くはない場所にある洋館よ」
文「そこには吸血鬼の姉妹と妖怪、魔法使いと人間がいます」
優希「人間? それって女の子なのか?」
霊夢「ええ、だから異変の影響は受けていないはずよ」
優希「そうか……なら良かった」
優希「……ん? よくみたら紅魔館にいる勢力、一つじゃないぞ?」
雛「あらあら、本当ですね」
霊夢「……あいつらもここに居たのね」
表示された名前は霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイド。
名前の感じからして女の子だろう。
状況は極限と表示されている辺り、あまり猶予はなさそうだ。
優希「紅魔館へスキマでの移動は?」
紫「可能よ」
紫「ただし、私はかなり集中しなければ人が通れるサイズのスキマは作れないわ」
霊夢「そうなると、紫は拠点にいてもらったほうがいいわね」
文「連絡手段はどうします?」
優希「俺が無線機を作ろう」
手早く、ワンプッシュで親機に繋がる無線を複数創りだす。
またしても河城の眼の色が変わったが、やんわり注意。
優希「子機と親機を作っておいた。親機は拠点に、子機はここから出る奴に」
藍「使い方はどうなっているのだ?」
優希「それぞれの掛けたい番号のボタンを押しつづけて話すだけだ」
優希『こんな感じだ』
椛「っ!? さ、佐伯さんの声がこっちからもっ!」
優希「そういう道具だからな」
優希「基本的にはこれを持って、状況が整ったらこっちから声をかける感じだな」
紫「それが良いわね」
藍『ふむ、こういうことだな?』
優希「そうそう」
早速使い方をマスターしてくれている藍さん。
どうやら拠点勢は大丈夫そうだ。
後は乗り込む方だが……。
霊夢「私は行っておいたほうが良いわね。色々円滑に進むはずよ」
優希「それなら、霊夢はまず確実だな」
穣子「全員で攻めこんだらだめなの?」
永琳「撤退に時間がかかっては元も子もないでしょうからね」
確かに、そういう感じで皆頷く。
攻めるのに向いているのがどういう布陣なのかは知らない。
そのため俺は皆についていくという感じになりそうだ。
輝夜「私も本来、荒事は苦手だから待機しておくわね」
てゐ「私は永遠亭周りのトラップ管理が忙しいウサ」
永琳「そうね……私は帰ってきた皆の看護のために残っておくわ」
優希「なるほど、じゃあ永遠亭の奴らは――」
うどんげ「私は行くわ」
霊夢「……うどんげ?」
妙に鋭い視線で俺を見据えながら、うどんげのやつが声を上げた。
その発言が意外だったのは俺だけじゃないようだ。
とくに永遠亭のメンツはみんな怪訝な顔をしている。
ゆっくりとこちらへ歩み寄り、通り過ぎる瞬間――。
うどんげ「……見極めさせてもらうからね」
そう言い残して、霊夢の横に並んだ。
どうやら彼女は俺という人間性を見るためについてくるらしい。
ある意味いい機会なのかもしれない。
優希「他はどうする?」
紫「向こうはおそらく8人ほどの勢力のはず」
紫「戻ってくることを考えたらそのくらいで抑えておくべきね」
優希「そうか」
霊夢「ま、私とうどんげがいれば多少の数ならどうにかなるでしょ」
うどんげ「ええ、力が戻れば奴らの撹乱するのは得意よ」
優希「頼もしいことで」
優希「それじゃあ、行くぞ!」
紫「ええ、では開くわよ」
紫さんの合図とともに、あの気味の悪い裂け目が現れる。
躊躇した後、意を決して飛び込んだ。
優希「……うおっ?」
スキマとやらをくぐり抜けた俺の眼前に広がっていたのは一軒の洋館。
深い霧の漂う中、その中であっても分かる血に染まったかのような赤。
紅魔館とよばれるのも頷ける。
後ろから霊夢とうどんげが両隣に並ぶ。
優希「ここが紅魔館か」
霊夢「ええ、吸血鬼の住む館よ」
霊夢「普段ならここに間抜けでも門番が立っているのだけど……」
霊夢はそう言って、壊された門を見て表情を歪める。
誰のものかは分からないが、所々に血の跡があった。
その様子を見てうどんげも眉をひそめる。
優希「……行こう」
霊夢「ええ、油断しないように行くわよ」
うどんげ「分かってるわ」
俺たちはそれぞれ頷き合い、慎重に館の中へと足を踏み入れた。
何度目かの安住を求めての移動。
周りが静かであることを確認し、私はお嬢様たちの下へ戻る。
咲夜「レミリアお嬢様……ここはしばらく安全そうです」
レミリア「そう……咲夜、あなたも休みなさい」
美鈴「そうですよ、咲夜さん」
美鈴「そんな傷だらけで……手当もまともにできていないじゃないですか」
咲夜「……あなたに言われたくはないわ」
そんな言葉に、力なく笑う美鈴。
右足と左腕、それに脇腹にも裂傷や火傷をしている。
いつもの脳天気さんはどこへやら。
美鈴の顔にも疲労の色が濃く出ていた。
だけど、それは美鈴だけに限ったことではない。
この場にいる皆がそういう状況なのだから。
パチュリー「ゴホッ、ゴホッ……!」
小悪魔「パチュリー様……しっかり!」
パチュリー「ええ……大丈夫、よ……」
フラン「私たち、これからどうなるのかな……」
レミリア「大丈夫よ、フラン。必ず私たちが助けるから」
咲夜「……命に代えても、私たちがお嬢様をお助けします」
魔理沙「そういうのは、本当の本当に追い詰められた時にとっとこうぜ」
魔理沙「ほら、なんとか腹の足しになりそうな物を見つけてきた」
咲夜「……またそんな無茶を」
どこへ消えていたのかと思えば、申し訳程度の食料を広げる。
なりふりかまっては居られないとはいえ、ひどい姿。
それは私にも言えることではあるけど。
アリス「……私は大丈夫よ。元々食事は必要ない体だもの」
魔理沙「すまないな……本当はアリスにも分けるべきなんだろうけど」
アリス「ふふ、魔理沙が遠慮なんて珍しいこともあるものね」
魔理沙「茶化すなっての……」
魔理沙「ほら、咲夜たちも食っとけ」
咲夜「悪いわね……」
美鈴「助かります」
それぞれ、思い思いに無言で食料に手を付ける。
どれも満足な量ではなく、私も欠けたクッキーを力なくかじった。
……ひどい味ね。
美鈴「……咲夜さん、もしここで見つかればもう後はありませんよ」
咲夜「……そうね」
薄汚れた薄暗い部屋。
そこは大図書館の奥にある、妹様の部屋だ。
つまり、出入り口は一つしかない袋小路の地下室。
ここがバレてしまえば、残る選択肢は二つに一つしかない。
勝つか負けるか、だ。
口の中に広がる鉄の味に顔をしかめる。
……いつの間にか唇を噛み締めていたみたい。
鉄の味の混じるそれを悔しさと共に飲み込んだ。
暗く静まり返った館内を警戒しながら歩く。
未だに空気になれなくて、俺的には修学旅行中の抜け出しに近いノリだ。
それでも、霊夢帯の出すピリピリとした雰囲気で緊張はしていた。
霊夢「うどんげ、気配はする?」
うどんげ「ううん……この近くにはないわ」
優希「二人は実際にアメの効果は初めてだったよな」
優希「調子はどうだ?」
霊夢「絶好調とはいえないけど、かなりいいわね」
うどんげ「ええ、これなら能力も使えそうだわ」
優希「二人はどんな能力を?」
永遠亭で落ち着いた時、改めて皆にはそれぞれ力があると聞いた。
何でもどれも~~する程度の能力、みたいな感じらしい。
霊夢「渡しの場合は空を飛ぶ程度の能力よ」
優希「へっ? でも、確か能力持ちってみんな飛べるんだよな?」
霊夢「ええ、そうね」
優希「じゃあ霊夢って、特段変わった力があるわけじゃないのか?」
霊夢「そうね~……私の場合は主に妖怪退治が生業だから」
霊夢「退魔の力と多少の体術なら得意よ」
優希「ほー……」
巫女さんらしい能力と、それらしくない能力をお持ちらしい。
なんとも身体能力の高い奴ばかりで面子が丸つぶれだよ。
うどんげのほうはどうなのかと思ってちらりと見る。
うどんげ「私は狂気を操る程度の能力……と言われてるわね」
うどんげ「本来は物の波長を操る程度の能力だけど」
優希「狂気……波長……?」
うどんげ「要はこういうことよ」
優希「えっ? って……あれっ?」
急にうどんげの姿が消えて焦る。
周囲を見回していると、急に背中を叩かれた。
優希「っ!?」
優希「えっ、あれ!?」
うどんげ「どう? 驚いた?」
霊夢「やれやれ、遊んでる場合?」
優希「い、今のって?」
うどんげ「光の波長を変えて屈折させたの」
うどんげ「私がみえなくなるようにね」
優希「あ、ああ~……そういう感じの能力なのか」
うどんげ「その他にも幻覚を見せたり、光線を打つこともできるわ」
霊夢に比べるとわかりやすいくらい能力してるな。
そんなことを口に出すと何か言われそうだから黙っておくが。
なるほど、幻覚や姿を消すか……結構有用そうな能力だな。
と、そんなことを考えていると先を歩いていたうどんげの足が止まる。
その横顔がその理由を物語っていた。
霊夢「……数は?」
うどんげ「3……5……いえ、7はいるわね」
優希「こっちに気づいてるのか?」
うどんげ「いえ、歩いて何かを探しているような感じよ」
うどんげ「……こちらの侵入に気づかれていなければ、探してるのは――」
霊夢「レミリアたちね」
霊夢の言葉に硬い顔をして頷く。
その肩が僅かながらに震えているの気づいた。
優希「……なあ、うどんげ。大丈夫か?」
うどんげ「大丈夫よ……」
優希「無理はするなよ? きつかったら隠れてていい」
うどんげ「情けはいらないわよっ!」
霊夢「静かに。見つかったら面倒よ」
優希「悪い……」
うどんげ「……」
何となく、俺にはうどんげが無理をしているように感じる。
気が強いように見せてはいるが、どうも虚勢に見えるんだ。
何がどう、と聞かれると困るけど。
はてさて、これからどうしたものか。
うどんげ「……やっぱり、こっちへ向かっているという感じではないわね」
うどんげ「手当たり次第に近くのドアを破ってるみたい」
言われてみれば僅かに何かを壊すような音が聞こえなくはない。
やっぱりその辺、ウサギだから耳が良いんだろうか。
幸いこちらには気づかれていないようだが、どうするべきか。
下手に騒ぎを起こせば俺たちの侵入を知らせるようなもんだ。
優希「そのレミリアたちがまだ見つかってないとしてだ」
優希「隠れるような場所に心当たりはあるか?」
うどんげ「紅魔館の連中とはあまり絡みがないからわからないわね……」
霊夢「……多分、地下だと思うわ」
優希・うどんげ『地下?』
偶然ハモっただけですごい目されてるんですけど。
何この子、人間不信ってレベルを超えている気がする。
霊夢「紅魔館にはフランドールっていう吸血鬼姉妹の妹がいるのだけど」
霊夢「そいつ、普段は地下に軟禁されてるのよ」
優希「なんでまた?」
霊夢「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っているからよ」
霊夢「本人曰く、手のひらを握るだけで破壊できるそうね」
優希「……そりゃまたけったいな能力だな」
霊夢「その上、気がふれていてどうにも感情の制御ができないらしくてね」
霊夢「多少はましになったらしいんだけど、それでも地下からあまりださなかったみたいよ」
うどんげ「まあ、そんな能力なら危険極まりないししょうがないんじゃないかしら」
優希「……で、どうしてそこだと?」
霊夢「紅魔館は広いけれど、あの地下室への入り口は大図書館の奥にあるの」
霊夢「普通に探してたら見つからないような辺鄙なところにね」
うどんげ「だからそこに隠れていると?」
霊夢「極限状態っていう佐伯の出した機械の結果を信じるならね」
霊夢はそうつぶやきながら、迷いのない足取りで先を進む。
それは音のしていた先とは別の方向だ。
瓦礫混じりだった館内だが、こっちの方は比較的綺麗だった。
もしかしたら奴らはこっちの方へ来ていないのかもしれない。
霊夢「着いたわ……この扉の先が大図書館よ」
うどんげ「馬鹿でかい扉ね」
霊夢「それだけの本があるのよ、ここには」
優希「本か……それは素晴らしい」
腐っても文芸部員だ。
図書館とか大好きだし、本という存在自体が好きだ。
主に読んでるのは物語系だがな!
状況次第じゃワクワクしてたんだろうが、今はお預けだ。
俺は意を決してその大きな扉に手をかけた。
重く、きしむような音を立てて扉が開く。
その先に開く光景はまさに、大図書館の一言に尽きる。
大量の本棚がまるでそびえ立つように並び立つ。
その中にはもちろん、幾つもの本が収められている。
光は極端に少ないが、闇になれた目ならある程度は見えた。
霊夢「普段なら、魔力で光が灯っているのだけど……仕方ないわね」
優希「足元がぼんやりしているのは危ないし、懐中電灯でも出すか」
うどんげ「何よそれ」
優希「言ってみれば前方を照らすカンテラみたいなもんだよ」
優希「ほれ」
うどんげ「へえ……便利じゃない」
俺の手元に握られている懐中電灯に目を丸くする。
そんなうどんげの顔はいつもと違ってトゲはない。
普段からこんな顔してれば可愛いのに。
霊夢「ここはあの辺りだから……こっちのほうね」
優希「おいおい、案内役が先々行かないでくれよ」
霊夢「早くしないと奴らがこちらに来る可能性もあるでしょ?」
うどんげ「……そうなる前に合流して逃げないと行けないわね」
優希「ああ、そうだな……急ごう」
あまりに周囲が静かだから麻痺するが危険なのは間違いない。
と、歩いていると何やらこの図書館の雰囲気に合わないドアが目に入った。
無機質な鉄のドアは牢獄への続くさまを想像させる。
多分、これが霊夢が言っていた扉だろう。
聞くまでもなく、隣に来た霊夢が頷く。
優希「よし、行こう」
霊夢「先頭は私が行くわ」
霊夢「顔見知りが一番多いのは私だし」
うどんげ「佐伯が先頭だと手洗い歓迎されるでしょうね」
優希「まあ……否定はできん」
人間の、それも男限定で起こっている異変。
そこにのこのこ男である俺が出向いたらどうなるか……。
いくら俺でもそれくらいは分かってる。
犬走たちに余計な心配かけたくないし、おとなしく二人の後ろについていく。
霊夢「レミリア! 魔理沙! 居るなら返事しなさい!」
一体どれだけ降りたのか。
長い階段を降りた先に広がっていたのは思いの外広い地下室。
だが、牢屋がある時点でただの地下室じゃない。
入口のドアから見て思った印象は間違いなかったみたいだな。
霊夢のよく通る声が響き渡ったかと思うと、奥のほうで人影が動く。
レミリア「その声……まさか、霊夢!?」
魔理沙「聞き間違えるわけないさ、霊夢だ!」
何やら騒がしいが、何名かがこちらに向かってきているらしい。
やがて、遠くから駆け寄ってきたシルエットがはっきりしてきた。
一人は白黒の、いかにも魔法使いって出で立ちをした金髪少女。
もう一人は、小さい子が多い中でも一際小ささの目立つ少女だった。
ただし、コウモリの羽が生えていたりと普通ではないけど。
喜ぶような駆け寄り具合だったが、途中でその顔が凍りつく。
明らかに俺を見ての変化だろう。
魔理沙「……どういうことなんだ?」
レミリア「まさか、霊夢達まで人間どもの手に落ちたの!?」
霊夢「はあ……どう見たら私がこいつに屈服してるように見えるの?」
うどんげ「寝言は寝ていってほしいわね」
優希「ひ、ひでえ」
別に屈服させたいわけじゃないが、もうちょっと言いようがあるだろ。
異変解決までの間、たすけあってるとかさ。
まあ、霊夢達の態度に多少は警戒がうすれたみたいだが。
しかし……この子たちもまあ酷い格好だな。
ぱっと見た感じ、怪我はなさそうだが。
魔理沙「で? 敵じゃないなら誰なんだ?」
霊夢「その辺の説明は他のも交えたほうが楽でしょ?」
霊夢「心配しなくても、多分こいつは大丈夫よ」
レミリア「霊夢がそういうのなら信用するけど……」
優希「……」
値踏みするような視線はやめてほしいもんだ。
別に悪いことしてるわけじゃないのに落ち着かない。
チラチラとこちらを振り返りつつ牢の奥へと足を踏み入れた。
そこにはもう嫌な意味で見慣れた光景。
咲夜「お嬢様っ!? そいつはっ……!!」
レミリア「落ち着きなさい、咲夜。敵ではないそうよ」
咲夜「……承知いたしました」
美鈴「信用できるのですか?」
霊夢「ええ、少なくともこいつに私たちを襲う意思はないわ」
うどんげ「今は、かもしれないけどね」
優希「不安を煽るようなことを言わないでくれって……」
ふん、と視線をそむけるうどんげにはため息が出る。
俺、別に彼女に何かしたわけじゃないはずなんだけどな。
さて、それよりもだ……。
優希「怪我をしているのは見たところ二人だな?」
咲夜「ええ、それが?」
優希「まずは怪我を治そう」
言い終わるよりも早く、意識を集中して例の霧を出す。
その突縁現れた霧に一瞬警戒したようだったけど――。
美鈴「これは……」
咲夜「傷が、癒えていく?」
たちまち傷が治っていくその様子に驚いたらしい。
さっきまで傷だらけだった腕や足の傷もふさがっている。
うん、こうしてみると本当に便利な能力だ。
小悪魔「も、もしかして治癒関係の力を持っているんですかっ?」
優希「えっ? あ、いや……それも持ってるというほうが正しいのかな?」
小悪魔「その、パチュリー様の病気はどうにかなりますか……?」
優希「病気……?」
パチュリー「ゴホッ、ゴホッ……!」
随分としんどうそうな咳を上げている子を見る。
どうやら、この子の場合は怪我じゃないらしい。
額に手を当ててみるも、熱があるってわけでもないのか。
レミリア「パチェは重い喘息を患っているの」
魔理沙「おまけに能力を封じられちまってから動きっぱなしだ」
優希「そりゃきついな……」
喘息になったことがあるわけじゃないから詳しくはわからない。
だけど、運動は愚か歩きまわるのだってしんどいと聞いたこともある。
この様子だとかなり悪化してそうだ。
俺は喘息が収まるはちみつのような飲み物を想像して創りだす。
優希「ほら、これを飲んでみてくれ」
小悪魔「これは?」
優希「喘息の症状を抑える薬みたいなもんだ」
アリス「よく都合よくそんなものを持っていたわね……」
優希「それが俺の能力だからな」
優希「とりあえず、苦しそうだから早く飲ませて上げてくれ」
小悪魔「は、はいっ……」
咳き込む少女を抱き起こすようにしながら、薬を飲ませる。
薬とはいえ、はちみつを飲みやすくしたようなもんだから苦くはない。
何度かに分けて飲み込んだ後、しばらく待っていると咳が止まる。
パチュリー「……驚いたわね。本当に楽になったわ」
小悪魔「本当ですかっ?」
優希「そうか、良かった……」
フラン「……お兄さんは、なんか他の奴と違うね」
優希「ん?」
フラン「なんていうのかな、ふんわりしてる!」
優希「ふ、ふんわり?」
フラン「そう、ふんわり!」
どういうことだろうか……。
軽そうに見えるってことか?
優希「さて、まずは簡単に挨拶をしておこう」
優希「俺は佐伯優希。外来人で、霊夢たちを助けるために同行してる」
レミリア「……そう、外来人だったのね」
レミリア「さっきは失礼な態度をとって申し訳なかったわ」
深く頭を下げるレミリアに『気にしないでくれ』と返す。
実際、予想はしていた分そこまでは気にしてない。
レミリア「私の大切な仲間を救ってくれたことにも礼を言うわ」
レミリア「私はレミリア・スカーレット。紅魔館の主にして吸血鬼よ」
フラン「私はフランドール! レミリアお姉さまの妹だよ!」
咲夜「傷の手当、助かったわ」
咲夜「私は十六夜咲夜。紅魔館のメイド長を務めているの」
美鈴「私は紅美鈴です! 一応門番させてもらっていますよ」
パチュリー「危ないところを助けてもらって感謝しているわ」
パチュリー「パチュリー・ノーレッジ……魔法使いよ」
小悪魔「私はパチュリー様の使い魔で小悪魔と申します」
優希「ふへえ……なんというか普通の人間はこん中じゃ十六夜と美鈴だけか?」
美鈴「いえ、私も妖怪です」
優希「えっ、マジで?」
『マジです』、と朗らかに笑うチャイナ服の少女。
帽子には龍の文字をかたどった星形のアクセサリーが付いている。
……もしかしたら龍の妖怪とかなのかもしれない。
さて、残る二人は……。
視線を向けられたうち一人は待ってましたという笑顔を向ける。
魔理沙「霧雨魔理沙だ! 私も人間で魔法使いだぞ」
優希「へえ、人間の魔法使いも居るのか」
アリス「普通は魔法使いというのが人外を示す種族名なはずなのだけどね」
優希「こっちじゃそうらしいな」
何でも、魔法使いってのは飯も睡眠もいらないらしい。
そういう意味一つとってももう人間とはいえないわけだ。
だが、本人曰く腹も空けば眠くもなるんだそうな。
確かにちゃんとした人間っぽさも残っている。
一方、もう片方は西洋風のドレスを着用した金髪碧眼の少女。
その腕には人形が抱かれている。
アリス「私はアリス・マーガトロイド……本来の意味での魔法使いよ」
優希「アリス……なるほどなあ」
アリス「何がかしら?」
優希「いや、西洋のお伽話にアリスみたいな子が出るんだよ」
優希「なんかそれっぽい子だなって」
とは言え、俺が感じるアリスの印象は冷めている、だ。
リアクションもそこまで大きくないし、常に冷静な会話をしている。
無機質、とまでは行かないがあまり感情表現は得意じゃないらしい。
会話も続かず、胸元に寄せている人形をふと見る。
アリス「この子は上海というのだけど、今は能力が封じられて動かせないの」
優希「人形を動かす? へえ……」
魔法使いというよりは人形遣いに近い能力なのだろうか。
今はぐったりとしている……というより、普通の人形だけど。
そんな自己紹介が終わると、霊夢のわざとらしい咳払いが響く。
本題に入るわよ? という目配せを送られる。
霊夢「私たちは手短に言うと、あなた達を保護しに来たわ」
レミリア「よくこの状況で来れたわね……さすがの私でも色々覚悟したのだけど」
霊夢「普通ならまあ……無理だったわね」
霊夢「こいつがこっち側に居てくれたおかげでどうにか助かってるわ」
魔理沙「佐伯がか?」
不躾な視線を向けられて居心地が悪い。
ひっそりと本を読んで密かに文を嗜む俺には注目ってのは縁遠いからな。
しかも相手は可愛い女の子ばっかりだし。
説明、と小突かれて狼狽えつつ前に出る。
優希「えっと、だな……俺の能力なんだが」
咲夜「傷を癒やす程度の能力ではないの?」
優希「厳密にはそれも出来る」
優希「俺の能力は、望みを具現化する程度の能力だ」
一同『望みを具現化?』
言葉だけでは理解が追いつかないのだろう。
まあ、一口に言ってしまうとそうなる。
優希「簡単にいえば、傷を治す霧が出したいなと願えば出る」
優希「喘息を抑える飲み物が出したいと思えば出せるわけ」
アリス「何よその反則じみた能力っ!?」
フラン「じゃあ、食べ物とかも出せるの?」
霊夢「こいつの出す食べ物はなかなかに絶品よ」
美鈴「そ、それはなんとも羨ましい能力ですね」
一部を覗いて涎が垂れてるのが見える。
可愛い少女だからこそ映えはするが、もうちょっと気をつけて欲しい。
まあ、食料だってまともに手に入れるのは難しいんだろう。
まさか、皆が皆食い意地はってるとか……ないよね?
うどんげ「ただ、こいつ自身へその能力の干渉がないの」
うどんげ「だから言ってみれば、私たちはこいつの護衛よ」
レミリア「あら、そうなの?」
優希「うぐっ……まあ、そうなんだけどさ」
霊夢「前にそれで死にかけた事もあって、うるさいのがいるのよ」
霊夢「特に早苗と哨戒天狗の奴が」
美鈴「何かあったんですか?」
優希「えーっと、大したことじゃないんだけど」
霊夢「なーにが大したことない、よ」
優希「いってええっ!?」
小悪魔「なな、何ですか!?」
腰辺りを思い切り叩かれてうずくまる。
こ、この鬼巫女め……なんつーことを!?
いくら八意先生の手当が的確とはいえ、まだふさがりはしていないんだ。
服の上からとはいえ叩かれたらそりゃ痛い。
うどんげ「どうも、助けに入った相手に勘違いで刺されたそうよ」
うどんげ「後、椛の方は矢から庇ってもらったとか」
霊夢「ちなみに刺したのは早苗ね」
パチュリー「刺されたって……よく生きてるわね」
優希「俺も死を覚悟したって……」
どういう経緯か、永遠亭に運ばれたからよかったものの。
あの時、霊夢達と出会ってなければ確実に命はなかった。
そう真顔で力説する射命丸の言葉でぞっとしたものだ。
優希「まあ……そういうわけで、俺自身は例外除いて自分の力を受け付けないんだ」
アリス「例えば?」
優希「温泉とかに浸かれるとか食べ物とか食べたり」
優希「そういうのは別に問題ないらしい」
魔理沙「必要最低限って感じだな」
霊夢「その代わり、こいつが居れば衣食住の心配はなくなるわ」
霊夢「もちろん、傷に関しても実感してもらったとおりだし」
うどんげ「その辺の利害も含めて一緒にいてもらっているわ」
なるほど、と概ね理解いただけたらしい反応。
まあ、他の奴らと違って本能むき出しではないしな。
皆も警戒はそれなりにしてるものの、認めてはくれているらしい。
さて、色々と身辺の説明は済んだところで例の飴玉をだす。
魔理沙「おっ! 飴じゃないか、1個もらい!」
優希「あっ!? もう……言う前に食べちゃって」
レミリア「これは何かしら?」
霊夢「佐伯の出した限定的にだけど能力を戻す飴よ」
美鈴「効力は?」
うどんげ「少なくとも、舐めている間は大丈夫よ」
フラン「ねねっ! クランベリー味はあるっ?」
優希「それはまだ作ってなかったな……ほい」
言われてもすぐに出せる。
フランちゃんはその飴玉を目を輝かせて口に放り込んだ。
満足いただけたようで、ご機嫌笑みを浮かべている。
優希「俺自身は、さっきも言ったとおり非凡な人間だ」
優希「身体能力は皆には遠く及ばんくらいにな」
咲夜「そうなの?」
優希「こっちに飛ばされるまでは平和な生活してたんだぞ」
霊夢「その割に適応は早かったけどね」
優希「……女の子が困ってたら助けるのは当り前だろ?」
そう、それは俺の根底にあることだ。
ぶっちゃければ女の子じゃなくても困ってれば助ける。
だけど、最早家訓のようにもなってしまっているそれが口を出た。
……後はまあ、憧れてなかったといえば嘘になる。
本好きってのは、皆一度はこういう異世界に夢をはせるもんだと思う。
と、ふと皆を見ると目を丸くして固まっていた。
優希「……?」
念のため背後を見てみたがこれといって何も変わったところはない。
一体何をそんな呆けた顔をしているのやら。
優希「ほら、早く行こうぜ」
優希「合流は出来たが、帰るまでが大事なんだから」
魔理沙「お、おう……そうだな」
霧雨の頷きに同調して、皆も困惑気味についてくる。
? 一体何をそんなにうろたえてるんだ。
俺はそんなことを考えながら、慎重に地下室の出入り口へ向かった。
優希「それにしても、帰ったらみんなまずは風呂と着替えだな」
優希「そんな格好じゃ辛いだろ」
拍子抜けするくらいに男たちには見つからない。
そんな緊張感のたりなさからか、そんな軽口も出せた。
言ってみれば、幽霊の噂を聞いて廃屋に来たが何も出ません状態。
でもまあ……実害がないならないで、それが一番である。
皆もようやく自分たちの容姿を気にするだけの余裕が出てきたらしい。
一部は恥じらいながら隠そうとしている。
魔理沙「あまり乙女にそういうこというもんじゃないぞ?」
優希「うっ、悪かったって……」
霊夢「しっ……! 静かに」
優希「!」
最期の廊下の曲がり角。
そこは出口である門につながらエントランスへ繋がるところだ。
その影から覗くようにしてエントランスを見る霊夢が手招きする。
俺たちは足音を潜めて、その先の光景を見た。
すると――。
「頭ぁ、本当にここで待つのか?」
「ああ、新しい侵入痕があるからな」
「へえ……だが、それでどうして待ち伏せを?」
「ここだけじゃねえよ。出入り口は全て固めてある」
「……こっちには蓄えがあるが、向こうはそうはいかんだろう?」
「へへ、ちげえねえ」
優希「……意外と馬鹿ではないんだな」
廊下の角から顔を引っ込めて、俺は皆の方を見る。
会話は途中からしか聞こえなかったが、集音器のおかげでどうにかなった。
しかし、待ち伏せか……それも持久戦狙いと来ている。
食料的な問題とかも別に俺が居れば問題ない。
だが、紅魔館にいたメンツは見るからにぐったりしている。
体じゃない、心のほうが参りかけてるんだ。
出来れば手早く脱出と行きたいところだが。
優希「……ふむ」
霊夢「あら、その顔は何か策でもあるの?」
目ざといな、霊夢は。
俺はそんな彼女に軽く笑う。
そして、この作戦の要であるうどんげに目を向けた。
優希「なあ、うどんげ」
うどんげ「な、何よ?」
優希「確か、君の能力で姿を見えなくしたりとかは可能なんだよな?」
うどんげ「で、出来るけど……」
優希「なら、それを使って奴らの脇をすり抜けられないか?」
俺の作戦は地味かつ単純。
うどんげの能力で俺たちの存在を意識外に向けてその隙に逃げるってものだ。
皆もその作戦で概ねうなずいてくれたが、肝心の本人が渋り気味だった。
しかし、周りの様子に彼女もため息をついたあとうなずいてくれる。
よし、それじゃあ早速……ステルスミッションと行きますか!
「しかし、頭。奴らを捉えたらどうするんで?」
「どうもこうも、まずは色々と調教してやらんといかんだろうなあ」
「ぐへへへ、俺らにもさせてくだせえよ?」
「分かった分かった……ふ」
優希(わかりやすいくらい胸糞悪い会話だな……)
うどんげの力によるステルス状態で、静かに奴らの横を通り過ぎる。
皆も会話には顔をしかめている……そりゃまあ、当然か。
フランだけは純粋に怯えているだけにも見えるが……分からないならそれでいい。
変に怖がらせることもないんだ。
それにもう数歩行けば紅魔館からの脱出は完了。
そうすれば別に怯える必要なんてない。
その時、俺はそんなことを楽観視していた。
だから、背後で上がる怒号を聞くまできづけなかったんだ。
一人、足りないことに。