東方優幻想   作:エウラス

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第4話

第四話

 

「てめえ、どっから現れやがった!?」

うどんげ「ひっ……」

「まあいい、姿を表したなら表したで好都合だ……」

「野郎ども、動けねえ程度にやっちまえ!!」

うどんげ「あ……あう……」

 

情けないことに、私は腰が抜けていた。

来る途中あいつには強がっては見たけど、やっぱり怖い。

もともと、私は極度な人見知りで臆病者だ。

おまけに月の戦争からも身勝手に逃げるような……。

そんな私には今の状況はつらすぎる。

平然と奴らの近くを歩いて抜ける皆とは違い、私は動けなかった。

迫り来る男たちや、幾つかの弓矢や妖術。

ああ……私はここで終わりなんだ。

そう思っていた私だったからこそ、その光景が信じられなかった。

 

優希「おいっ! 大丈夫かっ!?」

うどんげ「えっ……」

 

飛んでくる矢や妖術から庇うように立つ少年の背中。

助けが来るなんて思っても居なかった。

それも、私が誰よりも邪険に対応していた相手にだ。

私が呆けていると判断したのか、佐伯は私の前に立って防壁を張る。

近くに来た奴らには辛くも応戦をしているようだ。

 

うどんげ「……どう、して?」

 

問いかけてみても返事はない。

もしかしたら届いていないのかなって思ったけど違うみたい。

余裕のない顔で遠距離の攻撃を防ぎ、近距離への応戦。

そして、私は気づいてしまった。

彼の手足が震えていたことに。

佐伯自身の話を信じるなら、彼はこっちに来るまで平凡な生活を送っていた。

そんな一般人が、いざ戦場に送られたらどうなる?

いつも平然とした顔をしているから気づかなかった。

本当は彼も、怖かったんだ。

 

優希「一旦引くぞ!!」

うどんげ「あっ……!?」

 

動けないことはさっきの事でバレている。

そのせいか、私は佐伯に抱きかかえられていた。

あまりに突然のことで、こんな状況なのに動揺してしまう。

力強く私を抱きかかえてくれるその腕はどこか安心する。

今まで恐怖しか感じてこなかった男の腕に。

私の中で、佐伯に対する感情が変わっていくのを感じた。

 

 

「ちっ、あいつらどこに行きやがった……」

「近くを探せ! この辺りには隠れられる場所なんざ多くねえ」

「後、奴らは姿を消せる可能性がある……それ相応の準備もしておけ!」

優希「……はぁ、時間稼ぎにはなったか」

 

奴らの会話を聞きながら、俺は走り去っていく足音にホッと息をつく。

とは言え、俺たちが今隠れているのは紅魔館の一室。

そうしないうちに見つかってしまうだろう。

 

うどんげ「……どうして、私を助けたの?」

優希「どうしてって……そりゃ普通助けるだろ」

 

俺は無線機を持って音量を絞り、霊夢達に連絡を取る。

向こうはどうやら無事に切り抜けたらしい。

うどんげの能力が切れる直前で門まで走り抜けたそうだ。

 

優希「そうか……ならそのまま皆は一度戻ってくれ」

霊夢『あんたたちはどうすんのよ?』

優希「なあに、俺の力を忘れたか? どうにかしてやるさ」

霊夢『ったく……あんた、帰ってきたら小言の一つくらい覚悟しなさいよ?』

霊夢『特に椛と早苗が黙ってないと思うから』

優希「肝に銘じとく……」

優希「さて、と」

 

なんだか今までとは違い、警戒と違った意味で凝視されている。

一体何がどうしたというのだろうか。

そんなにもあの状況で助けが来たことに驚いてる?

そんなの俺が一番驚いてるんだ。

正直、ほぼ無意識に動いてたからなあ。

部屋の外からは慌ただしい足音。

奇跡的にまだこちらに踏み込まれてはいないがそれも時間の問題だ。

 

優希「奴らの会話から察して、さっきみたいにはいかないな」

うどんげ「……ごめんなさい、私……あの時」

優希「謝るのはこっちだって」

うどんげ「えっ……?」

優希「俺も似たようなもんだ。それに、うどんげが強がってたのは気づいてた」

優希「まさかここまでだと思ってなかったから……すまん」

 

うどんげが臆病だったのは仕方ないこと。

それを知った上でマシな作戦を立てられなかったのは俺の責任だ。

そうだとわかっていたら、皆に気張ってもらって戦うべきだった。

結果的に、戦いに不慣れな二人でこの場をくぐり抜けなきゃいけなくなったわけか。

相手側も姿を消すトリックまでは分かってないみたいがだ対策も立ててる。

正面から突っ込む以外は方法がないか。

 

優希「うどんげ、怖いのも……俺が信用出来ないのは分かる」

優希「だけど、今回は力を貸してくれないか?」

うどんげ「……どうすればいいの?」

優希「多分、相手はこちら囲んで来るだろう」

優希「だから、まっすぐにエントランスを突っ切る」

 

俺は能力で出した紙とペンで作戦を図にする。

要は、うどんげに正面突破の攻撃をしてもらい、俺が後ろを守る。

若干賭けに近いが、俺は意識を集中すれば全方位を守れるからな。

逆に、攻撃系等はあまり得意ではない。

だからうどんげまで苦手ってなるとどうするかなってとこだ。

聞く限りには荒事には慣れているそうだ。

 

うどんげ「それでも、こんな大規模なものになると足がすくんじゃうの」

うどんげ「過去に月で戦争が起きた時も、私は逃げ出してしまった……」

優希「戦うって言ったって形は色々だって……」

うどんげ「それに、私は人見知りだし……それもあって人間が怖いのよ」

 

どうやらうどんげなりに懺悔をしているんだろう。

きっと彼女の中では戦争のことは足かせに、人見知りは檻になっている。

こればかりは本人で変えていくしかないことだ。

辛いようだけど、精神面は人に言われてどうにかなることじゃない。

 

優希「ま、臆病だっていうなら俺だってそうだぞ?」

優希「本当は助けに入った時も全身嫌な汗でまくってたし」

うどんげ「……ふふ、そういえば手足も震えてたわね」

優希「げっ、見られてたのかっ?」

 

なんとか震えてないように見せたつもりだが失敗だったらしい。

なんという失態!

恥ずかしくて穴があったら入りたい状態の俺を置き、うどんげは立ち上がった。

その顔にはさっきまでの迷いはなくて、妙にスッキリしたものが見える。

隣に立ち、ドアを見据える。

 

優希「行けそうか?」

うどんげ「ええ、弾幕ごっこじゃ見せられない本当の弾幕を見せてあげるわ」

優希「そりゃ頼もしいことで」

優希「そんじゃ、俺はお前の背中を守らせてもらうぜ!」

 

俺はニヤリ、と笑うとうどんげの背中に自分の背をつける。

一瞬戸惑ったようだったけど、微笑むような雰囲気。

そして、一気に緊張感のある空気を出すと――。

 

うどんげ「月の兎の力、とくと見せてあげるわっ!!」

優希「平凡な学生の力もなっ!!」

 

なんとも格好の付かない啖呵を切って部屋を蹴破っての登場。

さすがの奴らもここまで派手な登場は予想外だったらしい。

あっけにとられる数名をうどんげの攻撃が容赦なく射抜く。

見た目は座薬に似ているというネタに近いもんだが攻撃の苛烈さがやばい。

まさに弾幕……とあるシューティングで言えば死ぬがよい、と言われそうなくらいに。

今まで受け身だった俺たちが攻めに転じたのは正解だったらしい。

思ったより順調にエントランスまで駆け抜ける。

 

「これ以上はいかせねえぞ!!」

「野郎ども、奴らを囲んで一斉にうてえ!!」

『おおぉぉぉぉ!!!』

優希「やっぱそう来たか……全方位障壁!」

 

うどんげの背中を守りつつ、全力で駆け抜ける。

彼女は彼女で、振り返らずにただ前の敵のみに全力をぶつけていた。

だが、向こうも粘る。

俺の障壁でも防ぎきれないのが幾つか出てきた。

 

優希「っ! うどんげっ……痛っ!?」

うどんげ「っ!? 佐伯!?」

 

いくらか防ぎきれなかったため、うどんげに当たらないように庇う。

それを分かっているのか、彼女も怯んでしまったらしい。

だけど、ここで立ち止まったら蜂の巣にされるだけだ。

 

優希「か、かすり傷かすり傷!」

優希「それより、ひるまずに突き進むぞ!!」

うどんげ「わ、分かったわ!」

 

一瞬、心配げな顔を見せてくれたがすぐに出口を見据える。

軽く火炙りにされた右肩をかばいながらも、障壁展開は怠らない。

後もう少し、俺はそこまで来て無線機の拠点ボタンを押して叫ぶ。

 

優希「もうすぐ出口だ! スキマの準備を頼むっ!!」

紫『やっと合図ね……心配させるんだから』

 

悪態をつかれるのは承知の上だ。

俺は無線機をしまい、うどんげに置いてかれないように走る。

 

優希「くっ……!?」

うどんげ「っ!!」

 

途中、何度か妖術のようなものを受けて声を上げる。

その度、うどんげの背中がビクつくが、それでも前を向いて走ってくれた。

そう、今はそれでいい。

こっちもそこまで重傷は受けてないし、ここで捕まるわけにも行かん。

 

「コケにされたまま逃がすかぁ!!」

「ここは通さねえ!!」

うどんげ「……邪魔よ、さっさとどきなさい!!」

『ぐあああぁぁっ!?』

優希「うわっ……」

 

仲間である俺がドン引きするレベルの瞬殺。

多分だが、光線のようなものが飛んでいったように見える。

それを受けた奴らは真っ黒に燃え尽きていた。

……自業自得だ、同情はしない。

後ろからは相変わらず追いかけてくる声が聴こえる。

前方に広がるスキマに飛び込めばこっちの勝ちだが……。

 

優希「とりあえずしばらく時間稼ぎっと!」

 

俺は門に巨大な壁を出現させておいた。

これだけしとけばしばらくは突破できまい。

 

うどんげ「やるじゃない」

優希「うどんげもな!」

 

何となくハイタッチをし、互いに顔を見合わせて笑う。

土埃やらなんやらでお互いひどい顔をしてる。

それでもある種の達成感を感じつつもスキマへ飛び込んだ。

 

 

優希「いやあ、相変わらずスキマはにが――」

椛・早苗「さ~え~き~さ~ん?」

優希「て……?」

 

スキマをくぐり抜けた瞬間に待っていたのは犬走と東風谷。

なんつーか、人前に出せないような形相になってるんだが……。

えっ、これ俺のせい!?

 

優希「ま、待て! ほら、無事だっただろ!?」

椛「隠しても無駄ですよ、うどんげさんから聞いてます!」

早苗「永琳さん、彼にきつーいお灸をすえてやってください」

優希「ちょ、ちょっとまて……俺はだな……?」

永琳「仕方ないわねえ、うどんげも手伝ってくれる?」

うどんげ「ええ、もちろんです」

優希「い、いやぁぁぁ~~~!?」

 

女のような悲鳴を上げながら、首根っこ掴まれたまま連行される。

助けてほしい、という視線も送ったが皆にスルーされた。

ひどい……。

 

 

霊夢「ふう、一時はどうなることかと思ったけど……無事でよかったわ」

魔理沙「霊夢が他人の心配とは珍しいな……春がきたか?」

霊夢「そういう馬鹿な発想は春告精とでも言ってなさい」

 

『そりゃないぜ』、と魔理沙に凹まれる。

冗談言うだけの余裕が出てきたのなら別に構わない。

事情はどうあれ、知人がひどい目にあうってのは目覚めが悪いものだから。

それにしても、あの時は本当に驚いた。

『先に行ってくれ』とだけ告げて、うどんげを助けに行ったあいつの行動に。

何度も言うようだが、あいつはただの人間で外来人だ。

あいつ自身言ってたように、争いごとの経験はなかったはず。

 

霊夢(それでもとっさにあんな行動が取れるなんてね)

 

結果的に皆、なんとか回収することは出来たけれど。

もしものことを考えると怖気がするわね。

完全に信用したとはいえないけど、ひどい目に遭わせたいわけじゃない。

いくら周りに対して一歩引いたスタンスをとっていても私は人間だ。

少しくらいは思うところもある。

さて、あいつはこれからどういう姿を見せてくれるのかしらね。

何となくだが、あいつはいい風を吹かせてくれる。

そんな気がしていた。

 

 

優希「ひ、ひどい目にあった……」

 

八意先生とうどんげに捕まって治療を施されたのは仕方ない。

それとは別に、主に妖怪の山連中からとんでもない勢いでお叱りを受けた。

理由はまあ……一人でうどんげを助けに行ったことが原因だろう。

それに関しては事情は分かるけど、一人で行動に出たのがいけなかったらしい。

もっと私たちを頼ってほしい、最後にそう懇願されてしまった。

流石にそれに対して首を振ると第二ラウンドに突入してしまう。

そういうわけで仕方なくうなずいておくことにした。

ともあれ、仲間が無事であったことは喜ばしいこと。

俺たちは風呂に入って綺麗になった紅魔館の皆も含めて豪勢な食事にした。

これに関しては皆すごく喜んでくれた。

今は食事に忙しい皆を遠目に見つつ、その笑顔を堪能しているってわけだ。

 

うどんげ「隣、大丈夫?」

優希「ん? ああ、どうぞ」

 

前の警戒心はどこへいったのやら。

ゆったりした表情で隣に腰掛けてきた。

もうあの時のような怯えの色はない。

一種の結託感を得たせいかもしれないな。

 

優希「改めておつかれさん」

うどんげ「ええ、そっちもね」

うどんげ「……傷はうずかない?」

優希「幸い、背中よりはマシだよ」

 

ちらり、と俺の右肩を気にするような視線。

でも、別に単なる火傷にかすり傷が少々だからな。

内蔵にダメージが残るレベルの刺し傷に比べたらマシだ。

それにしても、何となくうどんげの対応が前より良い。

とはいえ直接聞くのはどうだろう。

 

うどんげ「今まで、ごめんなさい」

 

そう迷っていたら、うどんげの方から話題を振られた。

どうやら、俺への誤解は多少なりとも解けたらしい。

俺は曖昧に首を振っておく。

特段気にしてない、そういう意味も込めて。

いわゆる体操座りの体勢で、彼女は膝に顔を埋める。

 

優希「別にうどんげは間違ってないと思うぞ?」

優希「得体が知れないってのには本人が一番分かってるからさ」

うどんげ「……それはそうだけど」

 

そこは否定してほしかったんだけど……。

とはいえ、この空気で茶化す気分にもなれない。

 

優希「ま、俺は気にしてないからお前も気にすんな」

うどんげ「何よそれ」

優希「さて、こんなところでしみったれてないで行こうぜ」

 

さっきまで離れていた俺がいうことじゃない。

それはうどんげも思ったのか上げた顔には苦笑い。

今回の件でうどんげとは打ち解けることも出来たと思う。

案外、早かったような気もするけど。

 

輝夜「佐伯」

優希「うん? ああ、蓬来山か」

優希「なんかリクエスト?」

輝夜「いいえ、そうじゃないわ」

優希・うどんげ「?」

輝夜「どうやら、少しは信頼関係を築けたみたいね」

うどんげ「っ!?」

優希「ああ……まあ、な?」

うどんげ「わ、私はちょっとお腹がすいたので失礼しますっ!」

優希「えっ? おい、うどんげ!?」

 

やたら焦ったように料理の山に突っ込んでいく。

周りからも顰蹙を買いつつも一心不乱に食べていた。

急にどうしたんだろうか……。

そんな様子に笑いをこらえきれないのか、蓬来山のやつが肩を揺らしていた。

 

輝夜「多分、照れ隠しでしょ」

優希「そうなのか?」

輝夜「そうなのよ」

輝夜「ところで……言ったとおりだったでしょ?」

優希「何が?」

輝夜「あなたらしい行動を取ってればいいって助言よ」

優希「……ああ」

 

『忘れてたの?』と頬を膨らます。

うん、完璧にそんなことは忘れてました。

こちとら色々ついていくのだけで必死なもので。

それにしても、膨らませた頬が見事にぷっくりしててすごい突きたい。

やったら怒られそうだからやらんけど。

 

輝夜「まったくもう……でも、それだけあなたが自然体ってことね」

優希「演技は苦手なんだよ」

輝夜「ふふ、そうでしょうね」

輝夜「さ、いい加減あなたも混ざりなさいな」

優希「とと?」

 

蓬来山に手を引かれて、少しだけたたらを踏む。

たまたま見られていたのか皆にもら笑い者にされるし。

だけど、こういう賑やかさも悪くないな……。

俺はそんなことを考えながら彼女たちの輪に混ざりに行った。

 

 

あらかた騒ぎ切ったところで、紅魔館の連中に眠気が来たらしい。

それを皮切りに、俺たちはそれぞれの部屋に戻って休むことにした。

 

椛「ちゃんと休むんですよっ!」

にとり「じゃないと拘束するからね」

 

とか去り際に釘を刺されてしまった。

言われなくてももちろん休むつもりだ。

だけど今回のことでも思ったけど、俺はまだまだ力不足を感じていた。

体力面ももちろんだけど、能力の使い方もだ。

だから、俺はまずは筋トレをして、その後能力の鍛錬もすることにする。

どちらも手探りになるが、やらないよりはマシだろう。

 

優希「よし、やるか!」

 

まずは腕立て、スクワット、腹筋、背筋を30回。

それを1セットとして10セット出来るようにする!

能力は想像力をもっと高めて、動きながらでも集中して出せるようにしよう。

あらかたの方針は決まった。

今日も静かな庭に、小さな音が響く。

 

 

うどんげ「……はあ」

 

寝落ち仕掛けていた紅魔館の門番……美鈴って言ったかしら?

そんな彼女の様子に、疲れているだろうしと解散したのはもうかなり前のこと。

そして各自自室に戻ったのだけど……。

 

うどんげ「……うう」

 

思い出せば思い出すほど恥ずかしい!

一体何のことか? そりゃあ佐伯にお姫様抱っこされたことよ!

あの時は色々と取り乱していたからさほど気にならなかった。

だけど、こうして冷静に振り返ってみたらそうはいかない。

 

うどんげ「……でも、あいつの腕……温かかったなあ」

 

布団に力なく身を任せる。

ボフッ、という音と軽い衝撃。

ぼーっとしているのは多分、疲れだけじゃない。

今までは人間って乱暴で残虐なイメージを持っていた。

だけど、あいつはそういうのとは違う。

さっき話をした時にこっそり飴を舐めて能力を使ってみたのだけど。

 

うどんげ(あいつの波長は、すごく穏やかだった……)

 

大抵の人間はムラこそあるものの、極端な波長が多い。

ああいう波長を見せるのは本当に落ち着いた人間だけだ。

それも、笑っている皆を見ている時が一番、穏やかな波長を見せた。

それとは反対に、私の波長は乱れっぱなしだ。

だけど、それが嫌とは感じない……不思議な心地よさ。

 

うどんげ「うう~……」

 

枕に顔を埋めて唸ってみても何も変わりはしない。

……今夜は長くなりそうね。

 

 

麩の外に広がる夜空。

そこに浮かび上がる銀の皿を眺めながら思う。

佐伯優希という外来人について。

私も大妖怪と呼ばれるほどの長い時を生きている。

だけど、ここまで面白い人間にあったのは久しぶりだ。

正確には、外来人では……だけれど。

 

藍「紫様、何をご覧になっているのですか?」

紫「あら、藍。あなたも起きていたの?」

藍「ええ、それより……それはスキマですか?」

紫「そうよ」

 

そう言って、私は小さなスキマから広がる光景を藍に見せる。

その光景に暫くの間、目を丸くしていた。

そりゃあ、そうでしょうね。

あの子ったら、あんだけ怪我をしてきたっていうのに訓練してるんだもの。

ただ、どうすればいいのかは分かっていないのでしょうね。

やれることをする、そんな手当たり次第という感じ。

 

藍「……呆れるほどに必死ですね」

藍「どういうつもりなんでしょうか」

紫「少なくとも、私たちに害のある行為ではないでしょ」

藍「どうしてそう思われるのですか?」

紫「そうねえ……長年の勘、かしら」

紫「ただ、あまり無理をしすぎるようなら止めないとね」

 

愉快……本当に面白いわ、この子。

意識せず笑っていたことに気づきつつも抑えられない。

あの哨戒天狗たち、随分といい子を連れてきたわね。

何度目かのトレーニングが済んだのか、大の字に倒れる少年。

その姿にほんの少しだけ期待して、私はそっとスキマを閉じた。

どうか、彼が幻想郷の脅威となりませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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