第8話:地底の攻防・前編
優希「望神?」
阿求「……」
新しく多くの面々を救出した俺たち。
そんなある日のこと、数日の間部屋に缶詰だった阿求から呼び出された。
そして、そんな彼女から告げられたのがその名前だ。
望む神と書いて望神。
なんとも分かりやすい字体だけど……一体どんな?
紫「説明をお願いできるかしら?」
阿求「はい」
阿求「まず、望神とは肉体を持たない精神体……現象のような存在です」
霊夢「聞いたこともないわね……」
阿求「それもそのはずです」
阿求「幻想郷縁起の初期も初期にたった一度だけ現れたそうです」
レミリア「たった一度、ねえ……」
輝夜「姿は確認されてないのかしら?」
阿求「はい……先程も言いましたが、望神は現象のようなものです」
阿求「ですから、現れた、というよりも発生した、という方が正しいのではないかと」
紫「それの詳しい能力は?」
阿求「それが……とても佐伯さんの力によく似ているんです」
優希「俺の?」
言われて視線が俺に向けられる。
訝しげなものも含まれているからちょっと居心地が悪い。
神奈子「似ているだけであって、まだ坊や自体には関係ないだろう?」
神子「そうですね……失礼」
優希「いや、いいんだけど……」
優希「その望神が今回の原因と考えた根拠は?」
阿求「こちらを見てもらえますか?」
阿求は緊張した顔で袖元から巻物を取り出した。
おお……実際に巻物なんて見るの初めてだな。
広げられた書物には長きにわたっていろいろ記されていた。
ただ、俺にはあまりにも達筆すぎて、絵がかろうじて分かるくらいだ。
阿求「ここに、『人の子ら、弱きを嘆く』」
阿求「『強きを妬み、恨む暴徒と化す』とあります」
阿求「さらに、『姿なき声に力を授かり、人の子ら決起する』」
阿求「『声なき力は一人の人の子に力を託し、消滅せし』と続いています」
霊夢「それが望神と呼ばれたとも書かれてるわね」
優希「へー……」
白蓮「……その望を叶えた形が今の異変であると?」
阿求「実際に近いものがありませんか?」
阿求の言葉に、皆一様に硬い顔をして顔を見合わせる。
確かに、文体は古臭いが、状況は似ているとも言えた。
しかも、一人の人の子に力を託し……これはもしかして俺に当たるのか?
神奈子「前回はどうやってその異変を解決したんだい?」
輝夜「そうね……そこに記されるほどだから、解決もしたんでしょ?」
阿求「確かにされていますね……」
優希「おお、なら解決策もあるんじゃないか!」
霊夢「どうなの? 阿求」
解決策があるって可能性に、皆希望に満ちた目を阿求に向けていた。
しかし、何度もこちらを見ては渋るような態度を見せる。
そして、最終的に――。
阿求「すみませんが、佐伯さんは席を外していただけますか?」
阿求「これは、幻想郷の根本たる秘密に関わるので」
と、非常に申し訳なさそうに言われてしまった。
あらら、そういうことなら仕方ないか。
ちょっと気になりはするけど、解決策が見つかりそうなら良い。
俺は気にしないように告げてその場を後にした。
霊夢「……どうしたのよ、阿求」
阿求「すみません……ですが、彼に聴かせるわけには行かなかったんです」
阿求「彼の性格を考えたら、なおさらに」
そう言い放つ阿求の顔は、今まで見たこともないほどに硬い。
よく見れば手や肩が震えているみたい。
いったい、この書物に何が書かれているというのだろうか。
彼女が落ち着くまで、皆冷静に続きを待った。
阿求「……続きにはこう記されています」
阿求「『託された子、全てを戻すことの引換にこの世を去る』、と」
一同『!?』
阿求「望神とは本来、多くの存在が似た願いをした場合に発生する現象だそうです」
阿求「そのため、自らが望んだ事を起こす能力はない」
霊夢「だから他人に尻拭いをさせようってわけ?」
霊夢「随分と身勝手な神もいたものね」
阿求「おそらくですが……佐伯さんが選ばれたのは偶然であり必然です」
阿求「幻想入りしたのは偶然でしょうけど、選ばれたのは彼だったからでしょう」
輝夜「そうね、一か八かって状況でも彼なら間違いなく選ばれるわね」
輝夜の言葉には素直にうなずいておく。
あいつのことだ、力なんかなくっても男たちに立ち向かったことだろう。
そういう意味では、あいつが現れたのは幸いだった。
神奈子「その時の異変解決は、具体的にどうなったんだい?」
阿求「……幻想郷に住む全ての生き物の幸せを願い、消滅したそうです」
阿求「強すぎる願いに体が耐え切れなくなったのでは、と推測されていますが」
一同『……』
あまりのことに、一様に口を閉ざす。
そんな目をしなくても分かってるわよ……流石にこれは佐伯には言えないわね。
神奈子や輝夜たちのように、佐伯を良く知る人物は多い。
特に、私の目から見ても文とかうどんげは間違いなく。
そんな彼に、死んでくれと誰が願えるだろうか。
紫「阿求、他には何も書かれていないの?」
阿求「……すみませんが」
紫「ふう……皆? この場で聞いたことは……」
レミリア「分かっているわ、他言無用ね」
輝夜「流石にそんな話、うどんげに聞かせられるわけがないじゃない」
神奈子「私もだ。聞けば、必ず動揺するだろうからね」
白蓮「佐伯さん本人にも話はしないほうが良いでしょう」
神子「ええ、外来人が背負うべきことではないはずです」
参ったわね……まさか、解決法を探るはずがこんな事になるなんて。
少なくともこの解決策、佐伯本人にだけは絶対に知られてはならないわ。
普段から傷を追うことも厭わないあいつのことだ。
必要となったら、あいつは迷わずにその選択を取る。
後はどうごまかすか、だけれど……その辺りも口裏合わせておきますかね。
脳天気に聞いてくるだろうあいつのためにそんなことを考える。
やれやれ、気を使うのは慣れてないんだけどね。
優希「……なるほど、ね」
自分の部屋へと向かう道すがら、無線機に耳を当てていた。
そう、あの部屋においてある無線とつながっているものだ。
今しがた聞いた内容を数回、自分の中で反芻する。
この異変を解決した前任者は、かなり殊勝な人だったらしい。
自分の身を犠牲にして、それ以外の存在のために命を使った。
なんとも素晴らしいことである。
そして、そんな人と俺は似ていると思われているようだ。
優希「……まあ、否定はしきれないか」
幾度と無く、傷を負いながら皆を助けてきた。
不可抗力とはいえ、死にかけたことでさえあったっけ。
だけど、皆勘違いしているが、俺は死ぬことにためらいがないわけじゃない。
最後の最後まではあがくけど、それでも本当にダメなときは死ぬ覚悟もする。
俺が家族と同じに見られてるなんて傲慢なことは思わない。
でも、知人が死ぬ辛さはよく分かっているつもりだ。
だから俺は何があっても、今聞いたことは最終手段としてとっておく。
優希「……そう、あくまで最終手段だ」
そうつぶやき、部屋の戸を開けた。
………………。
…………。
……。
暑い……熱い……ここへ籠城することになってどれだけ経つのでしょう。
無用な争いを避けるため、力を失った方々には隠れてもらっている。
あくまで彼らの狙いは私たちにあるようです。
この天然の要塞に近い地底は、人間にとっても脅威。
本来であれば、そのことに感謝するのですが……。
勇儀「おう、さとり。大丈夫かい?」
さとり「……痩せ我慢も、そろそろ限界ですね」
勇儀「……そうかい」
お空「さとり様、しっかり……」
お燐「お水を持ってきましたよ」
萃香「しっかし、まさかここの環境が敵に回るとはねえ……」
萃香「地上の涼しさが懐かしいよ」
さとり「お二人共、お怪我は……」
勇儀「なーに、大した問題じゃないさ」
萃香「小細工抜きでこんだけ追い込めたら良いんだけどねえ」
軽口を叩いてはいますが、その傷は決して軽いものではない。
あの様子では、勇儀さんは左腕が折れていますね。
しかも、昨日まではなかった傷までも。
萃香さんもお腹に風穴が空いてしまっています。
正直、生きているのも不思議な傷なのですが。
勇儀「そういうあんたも、火傷だらけじゃないか」
さとり「まあ、かすり傷ですよ」
意地を張って笑いながらそう返す。
少なくとも、軽傷とはいえない火傷。
そんな私の腕を見ながら、お空とお燐は顔をしかめていた。
お空「力が使えたらあんな奴ら……」
勇儀「我慢しなよ」
勇儀「肉弾戦が得意である私らですらこのザマだ」
萃香「だねえ……今のあんたらは小娘程度の力しかないだろう?」
さとり「痛いところをつきますね……」
さとり「ですが、反論の余地もありません」
実際、普段はちょっと暑いかなで済むものがかなりきつい。
肉体構造まで人間に近くなってしまったのではないか。
そう疑ってしまうほどに、体がだるいのです。
それが分かるのか、お空やお燐にも心配されっぱなしです。
ふふ……主である私がこれでは恰好がつきませんね。
こいし「戻ったよ、お姉ちゃん」
さとり「こいし……大丈夫?」
勇儀「様子は?」
ヤマメ「ありったけの巣を張っておいたよ」
キスメ「私も、手伝った……」
パルスィ「奴ら、楽しんでるみたいね……妬ましい」
萃香「地の利はこちらにあるが、どう見てもジリ貧だね」
ヤマメ「うん……私の能力もこれでほぼ打ち止めだ」
パルスィ「私もよ」
キスメ「ごめんね、私……大して力がなくて……」
さとり「いいえ、気にしないでください」
さとり「私も似たようなものです」
攻めこまれて数日はそれこそ、私も前線に出ていました。
得意の読心術で相手の行動も読めましたし。
でも、日を重ねるたびにどんどんと能力が使えなくなり……。
今では自らの住処ですら脅威となるほどに弱っている。
幸い私たちは妖怪ですから、しばらくは飲まず食わずで生きていられます。
しかし、精神的な疲労はいつまでたっても癒えません。
さとり(博麗の巫女や、スキマ妖怪はどうしているのでしょうか……)
きっと彼女たちであれば、と思う気持ちともしかしたら、という気持ち。
どちらもあるのが正直なところです。
随分前に見てから、スキマを一切見ていないのですから。
あわよくば、この異変が早く解決されることを祈りましょう。
そんなことをさとりたちが考えていた頃。
俺たちは警報機の音に状況を知らせていた機械を取り囲んでいた。
そこに書かれた勢力の名前は大分減っている。
だが、今回はその中でも特に勢力が多めの場所だ。
地霊殿……名前を聞いただけではいまいちわからないな。
優希「ここはどんなところなんだ?」
霊夢「妖怪の山付近に入口のある地底洞窟……その先にある場所よ」
魔理沙「地下には核の力を備えた灼熱地獄跡ってのがあるんだ」
魔理沙「あそこは熱いぜ……」
優希「熱いのか……」
灼熱って言うくらいだし、核とか物騒なもんも聞こえたな。
そりゃ熱くもなりそうだ。
さて、今回いくメンバーだけどどうしたものか。
俺が行くのを素直に聞いてくれれば良いんだけど。
優希「じゃあ、今回も俺は行くか」
椛「……そうですね、それが良いと思います」
優希「おぉん?」
文「なんですか、その奇妙な声はっ」
いくらかに笑われてしまい、咳払い。
たまーに気が抜けるとこんな声が出ちまう。
とはいえ、そういう反応にもなろうもんだ。
今までダメの一点張りだった彼女たちからの肯定。
椛「今回は結構たいへんだと思うので、佐伯さんは必要だと思うんです」
諏訪子「そうだなあ……行き帰りが結構長いってのもある」
諏訪子「けが人がいることも考慮すれば必須だね」
にとり「環境も環境だし、盟友がいることで防げる点は多いよ」
優希「そうなのか?」
文「ええ、佐伯さんがおれば百人力でしょうね」
諸手を上げてそう言ってもらえるのはありがたい。
どんな形とはいえ、女の子に頼ってもらえるのは嬉しいもんだ。
水蜜「……地底ですよね、人間が行って大丈夫なんですか?」
優希「ん、知ってるのか?」
一輪「私たちは一時、地底に封じられていたからね」
優希「封じられてた……まあ、その辺はまた別の時に聞くとして」
優希「きつい場所なのか?」
にとり「さっきも言ったとおり、すごく暑いんだよ」
にとり「それに、怨霊とかもともと忌み嫌われた存在が多い」
霊夢「加えて、結構複雑怪奇な道をしてるのよ」
魔理沙「奇襲なんかするには持って来いだよな、あの地形は」
優希「……ふむ」
熱くて複雑な地形をした天然の地下迷宮ってところか。
そんな場所で、しかも大多数いたから今までは耐えれたってことかな?
とはいえ、逆に言えばそんなところにいる子たちが押されてるってことだ。
こりゃ、急いだほうがいいか。
映姫「ですが、彼のような真人間を送り出すのは少し抵抗があります」
紫「気持ちはわからないでもないけれど、彼は外せないわ」
映姫「……彼が死んでもかまわない、と?」
力はないはずなのに、にじみ出る気迫に少したじろぐ。
見た目はあんなだけど、閻魔って肩書は伊達ではないのか。
その気迫を真っ向から受ける紫さんもまた大したもんだけど。
あ、何人か落ちた。
小町「まーまー、映姫様。とりあえず落ち着いてください」
小町「……そういえば詳しく聞いてなかったけど、坊やの能力は?」
紫「望んだものを具現化する程度の能力よ」
紫「佐伯くん、お願い」
優希「あいよ」
本人より早く答えるのもどうかと思うけど、まあいっか。
俺はなにもないところから刀を作りだす。
これだけだと武器を出しただけにしか見えないな。
よし、ついでに外に小さめの池でも出すか。
それらを見た一部はかなり驚いたらしい。
信じられない、という視線を向けられてしまった。
優希「まあ……ざっとこんな感じかな」
優希「ただ、自分自身には影響がないんだ……一部を除いてね」
映姫「というと?」
優希「出した食料なんかは食べられるし味覚も感じる。風呂も入れるな」
優希「だけど、傷を癒やす霧や身体強化の類は一切効果なしだった」
小町「ああ……そういやそんなことを言ってたね」
映姫「では、あなたは自衛の手段を持たないということですか?」
優希「んにゃ、一応防壁は張れるから」
妖夢「その割には、映姫さんを庇う時は出していなかったですよね?」
優希「あー……そのだな?」
文「佐伯さんは一般的な外来人ですよ?」
文「戦うための知識とか、心構えがあるわけがないじゃないですか」
優希「……はっきり言われると傷付くんだけど、そういうことです」
一同『な、なるほど』
俺のことを詳しく知らない面々が納得してくれたらしい。
いや、まあ……その辺の経験が不足してるのは痛感してるよ?
だけどさ、もうちょっとオブラートに言ってくれたって罰は当たらないと思うんだ。
映姫「確かに有用性に富んだ能力ですね」
紫「ええ、そもそも私たちが能力を使えるのも彼の能力あってこそよ」
白蓮「そういえば、霊夢さんたちも多少能力を使っていましたね」
神子「力を温存していたのだとばかり思っていましたけど、違うのですか?」
紫「ええ、彼が出した飴や霧に能力を戻す願いをかけてもらっているの」
紫「限定的とはいえ、それでしばらくは能力が扱えるようになるわ」
一輪「では、彼の護衛をできて、送る場所に適した人選が必要になるのね?」
紫「ええ、その通りよ」
神奈子「加えて、坊やはかなり無茶をする傾向にある」
神奈子「その辺をちゃんと理解しておいてくれ」
優希「本人前にしていいますか?」
うどんげ「心当たりならいくらでもあるでしょ?」
優希「……」
くっそう、ぐうの音も出ない。
そりゃあさ? 確かに何度か無茶したよ。
だけど、あの時の行動がなかったら無事だったか分からない子もいる。
そういう意味じゃ、責められるもんでもないと思うんだけど。
紫「まあ、神奈子が言ったとおり、彼は無茶しがちなの」
紫「新しく救出された皆には知っておいて欲しくてね」
神子「確かに、私たちは彼の人となりを知りません」
白蓮「そうですね、相手をよく知るのは大事なことです」
優希「疑われるのはもう、毎度のことだからな」
優希「好きに疑ってくれて構わない」
いくらか乾いた笑みが浮かんでるのが見えた。
まあ……若干やけくそ気味だったのは否定しない。
だってさ、俺だって一応心はあるんだよ?
ほんと、よく砕けないで持ってくれてるよ……。
さて、話が大分逸れていってるから戻すか。
優希「さあ、そろそろ出るメンバーを決めよう」
優希「こうしてる間にも苦しんでる奴がいるはずだ」
霊夢「そうね」
早苗「とりあえず、椛さんは適任じゃないですか?」
椛「私ですか?」
文「確かに! 椛は鼻も目もききますからね」
椛「索敵ということでしたらお任せを」
椛「もともと、見張り役である私ですからお役に立ってみせます!」
優希「おお、心強いな!」
うどんげ「私も行こうかしら」
優希「ん……気持ちは嬉しいけど、無理してないか?」
うどんげ「ええ、あの時のような無様な姿は晒さないわ」
うどんげ「それに、佐伯なら守ってくれるでしょう?」
優希「……たく、当然だろ?」
不敵な笑みを浮かべあう。
良くも悪くも、うどんげのやつは遠慮がなくなってきたな。
なんかこう、服装も相まってクラスメイトみたいな気軽さがある。
顔には怯えとかはあまり見えないし、大丈夫だろう。
霊夢「ま、毎度毎度のことだけど私も行くわ」
魔理沙「今回は私もついていくぜ」
霊夢「私たちは知り合いだから、事情の説明が楽だろうしね」
優希「おお、助かる」
霊夢「んー……このくらいで抑えておくべきかしらね」
優希「そうだな……地底ってのがどんな感じかわからんけど……」
優希「洞窟を通るってことだから多いと逆にこまりそうだ」
帰りのことを考えれば余計にそうだろう。
ざっと見てみたが10近くいるみたいだし。
優希「よし、紫さん……頼む!」
紫「ええ、分かったわ」
永琳「無傷でとは言わないけれど、気をつけるのよ?」
優希「わ、分かってるって」
椛「大丈夫です、私たちが守りますから!」
魔理沙「敵は私が一掃してやるよ」
優希「頼もしいことで……」
優希「よし、先に行くぞ!」
俺はそう告げて、紫さんの開いてくれたスキマへ飛び込んだ。
優希「っと」
優希「……これが入り口か」
暗く、どこまでも続くような闇。
そんな感じでポッカリと空いた広めの穴が広がっていた。
周囲を見回していると、他の皆もスキマから飛び出す。
椛「! 皆さん、警戒してください!」
優希「っ!?」
椛の声が聞こえた瞬間、俺は反射的に全方位の結界を張った。
しばらくして、幾つかの衝撃と共に爆音が響く。
……これくらいならまあ、耐えれるかな。
「ちっ……てめえはそいつらの仲間か」
優希「その通り」
優希「て、わけで……悪いけど通してもらうぜ?」
「そう言われて、『はいそうですか』と通すわけがねえだろうが!」
「おめえら、やっちまえええ!!」
『おおおーーーー!!』
雄叫びを上げ、再び大量の矢、炎、雷などが乱れ飛ぶ。
その全てを防ぎきったところで、何となく違和感を感じた。
優希(……おかしいな、紅魔館ん時ほど辛く感じない?)
そう、何故かは分からないがそう感じた。
あの時は焦っていたってのもある。
だけど、あの時以上の質と量を兼ねた猛攻がまるで気にならない。
もしかしたら、ちょっとでも力は上がっているのかもしれないな。
霊夢「あら、あんたも随分と力を使いこなせてるじゃない」
優希「とはいえ、相変わらず俺は攻撃は苦手だけどな!」
「ちっ……!」
「遠くからダメなら直接たたっ斬ってやれ!」
「わかってらあっ!」
優希「っ! 流石にいつまでもは耐えれないぞっ!」
それでもまだ余裕はある方だが、防戦一方じゃ突破される。
そんな俺に、心配ないとでも言いたげに飛び出す影二つ。
霊夢「さーて、博霊の巫女に蹴られたい馬鹿はどいつかしら?」
椛「お前ら人間には借りがある……覚悟しろ!!」
「ぐっ!?」
「ええい、ちょこまかと……ぐぇっ!?」
霊夢「まだまだ、亜空穴!!」
「へもっ!?」
優希「うわっ……」
男の急所に躊躇なく入ったケリを見て思わずひゅん、となった。
全世界、どこであってもあれを蹴られたら正気じゃいられん。
どこのことかって? そりゃお察しください。
「へへっ、威力は大したもんだが隙だらけだぜっ!!」
椛「ふっ!」
「なっ!?」
一方、刀による斬撃で戦う椛も負けていない。
奴らは侮っている。
確かに椛の持っている刀は大ぶりで隙も多くなりがちだ。
しかし――。
「た、盾だと!?」
そう、椛は素早く刀を片手持ちに変えて盾を構えていた。
もともと、彼女は盾を持って戦う攻守優れた前衛らしい。
最初に両手で刀を使ったのは油断させるためだろう。
にくい演出だ。
椛「白狼天狗は攻めに関しては多種族に劣る」
椛「しかし、守りは誰にも負けないっ!!」
「ぐおっ……がっ!?」
優希「おお!」
霊夢「ひゅ~……」
戸惑いを隠せないでいる男の無防備な体を盾で吹き飛ばす。
さらに体制の崩れたところへの鳩尾への打撃を入れる。
流れるような連携で素早く意識を絶つ。
きちんと相手を殺さないようにしていて少しホッとした。
霊夢「やるじゃない、椛」
椛「霊夢さんや文さんに比べれば児戯に等しいですがね」
霊夢「謙遜ね……どんどん行くわよ!」
椛「はいっ!!」
「何してやがる、お前らっ!」
「ひぃ!?」
「で、ですが……奴らは異常に強くて……」
「なら弓や妖術使って足止めしろ! 何のために力があると思ってんだ!」
「そ、そうか!!」
霊夢「ちっ……! 面倒な」
椛「霊夢さん、後ろへ!」
霊夢「悪いわね」
優希「ふたりとも、戻れるか!?」
椛「ちょっと厳しそうです!」
優希「くそっ」
椛は器用に霊夢の前に立ち、火炎珠を盾で受け流す。
とはいえ、集中狙いされては移動も難しいようだ。
流石に少し離れすぎている上に、結界範囲を広げれば敵も入る。
しかも、能力自体の向上はしているが俺もまだ慣れてない。
結界を張りながら別の操作は厳しい……どうする!?
そう思っていると――。
「っ……!」
「お、おいっ!? どうし……ぐっ!?」
「なっ!?」
優希「えっ……今何が?」
うどんげ「私たちを忘れてもらっちゃ困るわね」
魔理沙「全くだぜ」
霊夢「魔理沙!」
椛「うどんげさん!」
さっきまでそこにいなかった魔理沙とうどんげの姿に驚く。
ついさっきまで、俺の後ろにいたはずだろ!?
指を銃の形にしたうどんげと、妙なものを構える魔理沙。
どちらも微妙にドヤ顔なのはこの際おいておこう。
「てめえ、よくも!!」
うどんげ「!」
魔理沙「しまっ……!?」
優希「っ! 魔理沙、うどんげ!!」
二人の背後から現れた二人の男に斬りかかられる。
遠目に見てもかなりの血が噴き出しているのが見えた。
慌てて結界を解いて飛び出そうとしたが、霊夢に掴まれる。
優希「おいっ、離せ! 二人が……!!」
霊夢「ったく、落ち着きなさい」
霊夢「あんたらも! ちょっと趣味悪いわよ!」
椛「そうですよ……佐伯さんに心配をかけないであげてください!」
「あっ? 何を言って……て、いねええ!?」
優希「あれっ!?」
血を吹き出していたように見えた二人はすぅっ、と掻き消える。
……そっか、忘れていたわ。
また奴らの資格に姿を現し始めた二人を見て笑ってしまった。
そういやうどんげのやつ、ああいうこともできたんだっけ。
魔理沙「へへっ、悪い悪い」
「なっ!? お、お前らいつの間にぇっ!!」
うどんげ「ちょっとは誰かが傷付く辛さがわかった?」
優希「……へいへい、反省しますよ……とっ!」
「なっ? か、体が……浮いて!?」
優希「飛んでけ!」
「う、うおおおーーー……!?」
うどんげ「……お節介なんだから」
優希「助けてもらっといて素直じゃないな」
苦笑いを浮かべながら、悪態をつくうどんげに返す。
この時点でもう、7,8人は戦闘不能にしたか。
とはいえ、どっから出てくるのか結構な数が周りを取り囲んできた。
相手もようやく本気になったってところか。
優希「皆、振り返らずに穴に飛び込むぞ!」
一同『了解っ!!』
「な、なにっ!?」
優希「あばよ、とっつぁ~ん」
「や、野郎……コケにしやがって!」
「奴らを逃がすなあっ!」
後ろからは怒号と一緒にかなりの数の攻撃が飛んで来る。
だけど、そんなもんくらいじゃあ俺の結界は破れない。
皆を守りつつ、穴に飛び込んだのを見た後――。
優希「じゃあな、間抜けども」
悔しさのあまり顔を真赤にさせている奴らを尻目に穴へ飛び込んだ。
……そう、飛び込んだまでは良かったんだが。
ここで問題です。
その先にあるのが横穴ではなく、縦穴だった場合俺はどうなるでしょう?
答えは今まさに体験中で……。
優希「うおおおいっ!? すげえ勢いでおちるんだけどおぉぉっ!?」
そう、重力に逆らうことなんてできるわけもない。
俺はとんでもない勢いで地底へ繋がる縦穴を落ちていた。
ちなみにさっき、驚いた顔をした霊夢達を通りすぎてる。
このまま行けばとんでもない衝撃映像をお届けしなくちゃならん。
仕方ない……早苗の時みたいに猛反発クッションを……!
優希「わぷっ!?」
両手を突き出して願おうとした瞬間、急に体全体を何か柔らかいものがまとわりつく。
しかもご丁寧に顔にも巻き付いていて、息が苦しい!
引き剥がそうとしたんだけど……なにこれ、取れねえ!?
優希「むぐぐぐっ!?」
霊夢「佐伯っ!?」
椛「これは……蜘蛛の糸ですね」
椛「今断ち切ります! どなたか佐伯さんを!」
優希「うおっ!?」
魔理沙「おっとと、大丈夫か? 佐伯」
優希「す、すまん……助かった」
『気にすんな』と、ついでに箒の後ろに乗せてくれた。
霊夢「ったく、とんでもない勢いで落ちていくから焦ったわよ」
うどんげ「佐伯って飛べなかったんだっけ」
優希「俺は穴は穴でも横穴だと思ってたんだよ」
優希「まさかこんなことになってるとは……」
椛「眩しっ……」
魔理沙「へえ、佐伯はこんなこともできるのか」
優希「まあね」
魔理沙の箒に捕まりつつ、光の粉を周囲に散らす。
さすが地底へ繋がるってだけあって、ほとんど光がない。
視界が心もとないのもまずいと思って出しわけだ。
そうしてみて良く見えるのが、尋常じゃない程の蜘蛛の糸。
まるで穴全体に蓋をするような設置の仕方だった。
……これって、もしかして。
霊夢「これはヤマメのしわざでしょうね」
魔理沙「だろうな……いわゆる最後の悪あがきってやつか」
優希「やっぱりそうか……ヤマメってのはクモなん?」
うどんげ「さあ……どうなの?」
霊夢「正確には土蜘蛛ね」
魔理沙「病気を操れるんだとか言ってたな」
優希「へえ……」
椛「……しかし、これだけの罠を仕掛けるとは」
椛「急ぎましょう……みなさんが心配です!」
優希「ああ、そうしよう!」
暗く開いた穴の中を光の粉を撒き散らしながら進む。
早く行きたいところだが、この先がどうなってるのか分からない。
そんなこともあって、ややゆっくり目に降りていた。
優希(さて……地霊殿ってのにいる子が無事ならいいけど)
そんな脳天気なことを考えながら。