落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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前回の後書きであの方との絡み云々を述べましたが今回かなり親密に絡み合いました(笑)


嵐の幕引き

「はぁッ!?」

 

「おぉっ!」

 

全く同時に口をつく言の葉、ステラは何があったのか解らないとばかりに、日下部は何故か目を輝かせている

周囲の生徒達も唖然としていたり怖いもの見たさか足を止めるものも居た

 

「な、なにごとーーーッ!?」

 

「スクープ!スクープ!大スクープッ!」

 

状況を整理するに黒鉄の妹と名乗る少女、黒鉄 珠雫(くろがね しずく)と黒鉄が口付けをしている所為で騒ぎ立てている様だ。

当の黒鉄は…ダメだ、半放心状態だ

 

「は…っ……、——ずっと御逢いしたかった…」

 

「し、珠雫…」

 

潤んだ瞳が物語る"想いの強さ"妹の行動に座り込む黒鉄…成る程、此れが今流の兄妹の挨拶というものか

 

「ちょっとイッキ!あんた何やってんのよッ!?」

 

「ぼ、僕だって解らないよ!」

 

ルームメイトとしてか流されつつある黒鉄に怒鳴りつけるステラ、はっとした様に我に帰った

そんな二人を他所に珠雫は実の兄を愛おしむよう見詰め

 

 

「勿論、口付けですよ?口付けとは親愛の証、恋人という浅い絆の男女でも行っていることです。ならば固い絆で結ばれた兄と妹が口付けを交わすのはごくごく自然な流れ、外国では挨拶みたいなものですし」

 

至極当然とばかりに微笑む、成る程…7歳の頃に舌を差し込まれたが挨拶ならあれはファーストキスでは無いな、彼女の言い分に目から鱗が落ちる気持ちで聞いていたがステラを始め日下部が異議ありと声を上げる

 

「私の国では兄妹でそんなキスしないわ!」

 

「他の国でもしないと思いまーす」

 

…然うか、しないのか…まぁ確かに日本の常識的倫理観ではしないのだろう、少しだけ残念に思いつつ事の成り行きを見守る

 

 

「だ、そうだけど…?」

 

「他所は他所、ウチはウチです。4年分の愛おしさを考えれば、今の私たちには夜の(まぐ)わいですら只の挨拶…」

 

流されっぱなしの黒鉄、其れを言い包める珠雫、彼女の食指が黒鉄の頬から鎖骨に掛け這う情景は中々に絵に成るが如何せん公衆の往来である、紡がれた言葉には俺以外の全員が口を揃え

 

「「「そんなワケあるかーー!!」」」

 

…見事にハモった。

 

「珠雫、女の子がそんな事言っちゃダメだろ!」

 

「ふふ冗談ですよ、でももしお兄様が望まれるのであれば…」

 

兄としては当たり前の反応の筈だが珠雫は微笑みを絶やさず寧ろ煽るかの様に再び顔を近づけ…

 

 

「ダメーッ!!」

 

ようとしたがステラに阻まれ距離を置かれる、珠雫の体重が何キロあるかは解らないが小柄な体躯から予想するに30ないし40キロ前後はあろう人間を持ち上げ退かす腕力は鍛錬に拠る賜物か。

 

 

「しっかりしなさいよ、イッキ!何流されそうになってんのよ!」

 

「あ、有難うステラ」

 

面を食らっていたという事もあるだろう、だが然し…確かに流され易い質なのかもしれない。

ふと先程感じた嫌な気配を珠雫から感じ視線を向ける

 

 

「あなたが噂のステラ殿下…なぜ私たちの庶民的コミュニケーションを邪魔するのですか…?」

 

成る程、確か4年程逢っていないと黒鉄が言っていたな…些か行き過ぎているコミュニケーションだが第3者に邪魔をされる謂れは無い、言い分は尤もなのだが

 

 

「こんな糸を引くような兄妹のコミュニケーションがあってたまるか!」

 

ステラの言い分も尤も、なのだと思う、往来の面前では自重を促すのが一般的なのだろう。

 

「それは私とお兄様が決める事です、貴女には関係ありませんよね?」

 

「……ッ…」

 

 

「解ったら田舎のお姫様は黙っていてください」

 

確かに、此れ以上はルームメイトとはいえ赤の他人がズカズカと脚を踏み入れる権利は無い

だが…少なくとも二人の関係は仲の良い友人、俺には居なかったから良く解らないが恐らく親友と呼ばれる間柄だというのは此処数日間で理解していた為助け船を出す事にする。

 

「…黒鉄妹、君と黒鉄のコミュニケーションの取り方にとやかく言うつもりも、ましてや4年越しの逢瀬を邪魔する権利も無いが彼女は恐らく節度を持て…と言いたいのだろう、少なくとも往来の面前で性向を匂わす発言は学生の本分を逸脱しているのではないか?」

 

「そ、そうよ!其れに私とイッキには深い関係があるんだから!」

 

 

「…確かに、私も行き過ぎた面はありますが…ステラさん、どんな関係ですか?」

 

 

丸く収まりそうなのだがステラが意固地に成り珠雫も彼女の口から黒鉄との関係を聞くまで納得しないだろう、しどろもどろなステラに詰め寄る珠雫を見遣りながら今度こそ事の成り行きを見守る

 

 

「イ、イッキは…」

 

 

「どんな関係ですか?」

 

 

腕を組み両者を交互に見遣っていたがステラの口から耳を疑う科白が紡がれた。

 

「イッキは私のご主人様で、私はイッキの下僕なんだからーっ!」

 

「「「!?」」」

 

…吃驚した、否、確かに仲が良いとは思っていたがまさかそんな関係に…1歳年下の黒鉄の手の速さに感心していたが日下部はシャッターを切り始める

 

 

「特ダネスキャンダルきたーァッ!創刊号の見出しは…"俺の腕の中でMO☆GA☆KE☆(もがけ)〜鬼畜なルームメイトと奴隷な皇女の〜淫らな密室72時間で決定!!」

 

…実に仕事熱心である、然し仮に噂程度だとしてもゴシップ好きなマスコミにでも流出されたら色々と面倒だ……今の内にカメラを割っておくか?

 

 

「長いよ…それに誤解だから…」

 

 

…如何やら誤解の様だ、黒鉄…俺は信じてい

 

 

「誤解じゃないわ、決闘で勝ったのと引き換えにイッキ命令したじゃない?」

 

 

”ステラ…俺と同じベッドで寝ろよ…”

 

 

「誰だその格好良い奴!?」

 

 

…たかった、何か実物より野性味が溢れた黒鉄がステラをベッドに押し倒している像が視えた、此れはもう擁護出来ないな…等と考えていた矢先未知の殺気に思わず首を向ける

 

 

「本当ですか…?」

 

 

「お兄様?本当なのかと聞いているのです…」

 

珠雫だった、眼は座り実の兄に対し独占的な態度で接する様が何処か春姫を思い出させる

 

 

「まあ、一応本当かな…ベッドとはつまり2段ベッドの事で…」

 

 

あァ、成る程…2段ベッドの上下の何れかに、という事か、納得した。

 

…少なくとも俺は。

 

 

「ひひっ…ふ…ひひ…」

 

 

「そぉですか…本当ですかぁ…ふひひ…っ…」

 

 

「あの…珠雫さん…?」

 

…駄目だ、黒鉄の口から肯定された時点で暴走している…彼女の"想いの強さ"に興味を抱くと同時に見渡せる範囲全域に魔力を巡らせる

 

「珠雫が今お兄様を自由にして差し上げます…飛沫け!宵時雨!」

 

 

「珠雫!それはダメだって!」

 

「大丈夫ですお兄様、私の属性は水…炎属性のステラさんを()れます」

 

 

「そんな事言ってるんじゃないよ!」

 

黒鉄の必死な制止も耳に入っていないのか霊装を両手で握る珠雫、其れに呼応するかの様に灼熱の剣を顕現させるステラに念の為黒鉄の周りも術式の範囲内とする

 

 

「傅きなさい、妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

 

 

「え?」

術式構築完了、此れでステラと珠雫"以外"には損害は出ない…本来は憤怒の壊炎《パスパタ》の被害を最小限に留める為に発動させる障壁なのだが新宮寺の教えが良いのか割と速く構築出来た、今なら《アダマス》10割、《トリシューラ》7割でも扱えるだろう

 

 

「随分と慎ましい霊装ね、あんたの胸と同じで」

 

「其方こそ、下品な胸の女は霊装も品がないんですね、どちらも無駄にデカいだけ」

 

「あらあら、胸も心も貧しい者のひがみは聞くに堪えないわね」

 

さぁ、遣るなら遣ってくれ、一度とことんやらないと収まらないだろう…此処迄来たら。

 

「デブ」

 

「ブス」

 

 

「……黒鉄、女とは怖いな…避妊だけはしっかりしろよ」

 

「……そうだね、悠騎君…取り敢えず誤解は解きたいから暇な時にゆっくり語り合おうか?」

 

 

 

「「くたばれーッ!!」」

 

ドゴオォォンッ!!

 

—————

———

 

「校内での霊装の使用は認められた区域以外では原則禁止なのだがな、黒之は被害を最小限に留める為に使用したから不問に伏すがその前に上級生ともめていたと聞く…ヴァーミリオンと黒鉄は校内の女子トイレ全ての掃除が終わったら帰って良し、黒之は情状酌量を以て反省文を明後日までに提出しろ」

 

 

「……了解した、だがトイレ掃除を手伝うのは駄目か?あの場でああ成る前に止められ無かったのは俺や黒鉄…周りの所為でもある」

 

レポート用紙を受け取り申し出るが「御前は女子トイレに脚を踏み入れる変態か?」とにやついた笑みを浮かべられやんわりと断られる、如何やらモヒカン達が男子トイレや校内の清掃をしている為反省文以外罰が無い様だ

 

仕方がないので2人に謝罪した後校舎から出るが…先程から視線を感じる、絡み付く様な嫌な視線だ

足元に落ちていた石を手に取り気配のある方へ投げる、無論加減してだが人に当たれば怪我は免れない勢いで投げた石は影から現れた人物の掌で受け止められる。

 

「やん、お兄さんのい け ず♪——相変わらず無愛想なのに面倒見が良いのね、お兄さん(悪魔)は」

 

壁以外何もない筈の場所から現れた一人の男…否、心は乙女だったか…生徒名簿を見た時に同姓同名かと思っていたがまさか本当に入学しているとは…。

 

「………軽口を叩きに来たなら帰ったら如何だ、俺が何の為に此処に居るのか解らない訳では無いだろう?(黒の凶手)

 

「うふふ…やァよ、其れにお兄さんの考えている事なんて昔から解らないわ。——矛盾しているもの、力を求める癖に弱い子を見捨てきれない甘さとか…それでいて強さを得る為には手段を選ばない処とか……まァ、私もそんなお兄さんに救われた口だからお兄さんの事が好きなんだけどね♪」

 

…やれやれだ、此のオカマは……腕に引っ付いている処を誰かに見られでもしたらあらぬ誤解を招く

 

 

「取り敢えず、部屋に来ない?可愛らしいルームメイトさんは当分来ないだろうからゆっくり話せるわよ?」

 

「…御前と二人きりとなると色々な意味で身の危険を感じるが…良いだろう」

 

—————

———

 

「………さて…、今回の標的は誰だ?」

 

表札を見るに目の前のオカマ…有栖院 凪(ありすいん なぎ)のルームメイトは珠雫であった、黒鉄家は俺の黒之家と同じ名も地位もある家だ、そして凪は要人暗殺を請け負う《黒の凶手》として解放軍に属している、大方任務の為に入学したのだろう?と発破をかけるがのらりくらりと躱されている

 

 

「ふふ…答えてあげたいけど私はまだ解放軍を抜けるつもりは無いから…お兄さんこそまた此方(解放軍)に来ない?短い間だけどお兄さんに救われた人達は決して少なくないわ……貧乏クジを引く癖はあるけど其れでもついてくる人は後を絶たないでしょうね」

 

既に何回同じ遣り取りをしただろうか、気付けば陽も傾いていた為此れ以上の言及は諦める事にした

 

「……残念だが今回の雇い主(クライアント)からは色々と学ぶものが未だ有る、其れに今の生活は割と好きだ。

闘い方は泥臭いが其の在り方こそが尊いと思える剣士

意地っ張りで頑固だが強い意志を持つ皇女

御前のルームメイトは兄に対する純粋な迄の強い想いを秘めている…そういった強さを持つ者は男女問わず認めている

——仮に、其奴等に危害を加える事に成るのであれば…其の時は、貴様を魂ごと滅すると識れ。」

 

自分でもどんな顔をしているか解らない、が凪の顔からは余裕は無い…気付けば彼の膝が震えている

 

「………ふふふ…相変わらずの危ない魅力ね…、安心して、流石の私も《悪魔》と事を構えるつもりは無いわ、奇襲だろうが何をしようが私じゃ貴方には勝てないもの…何せ"能力が効かない"んだから……でも、残念ね…フラれちゃったわ」

 

精一杯の虚勢か、くすくす笑う凪だが「取り敢えず今は大人しくしているわ、何なら普段から一緒に行動しても良いわよ♪」と冗談めかすので冗談は存在だけにしろと悪態で返してやる

 

 

其れからは昔話に花を咲かせていた、凪とは2、3回仕事を共にした中だが何故か好かれてしまった……正直な話、《比翼》と闘えた喜びと彼のアプローチから逃れられた喜びが同じ位だとは胸の奥にしまっておきたい

暫くした後玄関のドアが開く音が聞こえ振り向く、凪以外の入室者は一人しか居ないからだ

 

「……あら、漸くルームメイトに逢えたわ…遅いから心配しちゃった♪」

 

「……邪魔をした、後は「待って下さい…お話があります」…有栖院、もう暫く留まらせて貰うぞ」

 

お兄さんなら大歓迎よ〜♪等と笑う凪とは対照的に表情を曇らせている珠雫を案じ留まるが一向に会話が進まない、何かを伝えようとしているのは解る為急かす事はせず窓から見える景色を楽しむ

 

 

「………ゆっくりで良い、自分の中で整理してから言葉にすれば良いさ…」

 

 

「…不思議な人ですね…まるでお兄様が増えたようです…」

 

 

…黒鉄に似ているだろうか?俺は自分で言うのも何だが無愛想で良く人に嫌われている気がする、凪にしろ珠雫にしろ俺を買い被り過ぎだと思う

 

 

「………貴方なら…お兄様の為に怒りを顕にしてくれた貴方には話しておくべきでしょうね、私が知っているお兄様の事を…」

 

 

「……聞こう、俺も奴の原点が識りたい…」

 

ぽつりぽつりと語り始められた黒鉄の過去

 

黒鉄家は代々優秀な伐刀者を排出する家系である事

 

然し、生まれ付き魔力の低い黒鉄は親戚は疎か父母にすら"存在しない者"として扱われていた事

 

ある冬の日、家出した黒鉄が曽祖父黒鉄龍馬に救われた事

 

幼い彼女は其れ迄兄に対して行われていた事に気付き家族に対し憤りを感じた事

 

彼女は多くの事を語り俺と凪は黙って聞いていた、黒鉄の努力の仕方からそういった背景はあるのでは…と予測はしていたが矢張り直接聞いた方が事実として受け取り易い。

 

 

「……そして決めたんです、母の愛も、父の愛も、兄の愛も、妹の愛も全て私がお兄様に与えようって…」

 

 

(……成る程、お兄さんが気に入る訳ね…)

 

 

語り終えたのか「御免なさい、逢ったばかりなのにこんな事…」と頭を下げようとする彼女の頭を撫でる

 

「っ…黒之、さん…?」

 

びくっと肩を震わせる珠雫の頭を撫でながら語るは兄だった俺だからこそ言える主観、其れを押し付けるつもりは無いが一つの考え方として知っていて貰いたいが為に語る

 

 

「………俺にも昔、此の身を呈してでも護りたい妹が居た…兄の立場から言わせて貰うが君の愛情はきっと黒鉄にも届いている…。——他者に不信感を抱いている君に信じろとは言わないが…せめて君が愛する黒鉄()の事は信じてやって欲しい…妹が如何でも良い兄なんて居ない筈だからな」

 

一頻り撫で終えた後今迄の黒鉄と此れからの黒鉄は違うと微笑む、きっと…春姫ならこうしたから

 

「(昔から敵わないわね…お兄さんのあの笑顔には)…珠雫って人間が嫌いよね?元々人見知りなのかもしれないけど珠雫の場合家族との事が輪を掛けたって処かしら」

 

「……」

 

俯いてしまう珠雫、頭を撫でてしまったのは施設の子供達によくやってしまう俺の悪癖だ…反省せねばと自己嫌悪していたがどうも怒っている感じではない…その、裾を掴まれている

 

「まっ、此れから長い付き合いに成る訳だし、話したくなったら何でも話してちょうだい、兄や姉だと思ってね♪」

 

顔を上げ微笑んでいる珠雫、良かった…怒らせてはいない様だ。

だが一つ気になる事があったので物申させて頂く

 

 

「……御前は心は兎も角身体は兄だ、未だ工事も始めていないのだろう?」

 

 

「あらやぁだ、お兄さんったら♪心も身体も乙女なら抱いてくれるのかしら?」

 

…勘弁してくれ、割と本気でやりそうで恐怖を感じながらも嵐の様な初日は幕を降ろすのであった

 

 

 

 




次回は箸休め的な意味合いで別作品の主人公と絡む外伝物でも書こうかと思います、興味の無い方は閲覧注意でお願い致しますm(_ _)m
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