時は少し遡り某都内
「……愚かな孫よ、然し…儂の手から離れ世の汚点のみを見続けた結果ああなったというのであれば上々か。」
月明りを具現化したような銀髪、黒と銀のオッドアイをした"青年の身体をした男"が観葉植物を愛でながら口許を歪ませ笑う。
「……私を呼び寄せた理由が其れですか、万全の彼なら兎も角今の彼は古傷を深く抉られた獣も同然…繊細で力強い彼の槍捌きを味わえないのは残念ですが
——他の誰かに彼を渡すのも嫌なのは確かです、彼は私の映し鏡に成れる存在…貴重な理解者ですから」
天使の様な出立、だがその秘めし力は世間に『捕らえるという考えを放棄させた』
当然彼女にも仲間と呼べる存在は居たしそんな些末事で剣が鈍る程脆弱ではないが…矢張り堪えるものがあるのも事実。
そんな折、彼…黒之悠騎が現れた、無表情にも関わらず何処か痛みを湛えた瞳、何より一合一合から伝わる祈りにも似た深い哀しみと自己に対する強い怒り、何かに突き動かされる様に力を求め続けながら『何としても生きなければならない、生きて生きて生き抜いて…生きるべき人々を救う為に身を削らねばならない』という脅迫観念…否、彼自身が生まれ持っている不器用な優しさにヒトとしても戦士としても
——何より、
「……一応言っておくがの、アレはまだ17じゃ、其れに…」
「ふふ…元服制度を用いれば結婚は出来ます、其れに…必要な儀式が終われば彼が貴方に代わって新しい《クロノス》と成る…あなた方巨神の頭目に」
「…クク…怖いおなごじゃのぅ…。精々頑張って口説き堕とす事じゃな、まぁ…今更儂が彼奴の肉親面をするつもりはないがの
——儂の権限であの辺りの警察は用が済み次第退去させるでな、派手に
孫も厄介な相手に好かれたものだ、と肩を竦めるがその孫に苦難の道を歩ませた己が言えた事では無いと喉を鳴らし笑う英雄。
彼こそが英雄、
「…助かります、私としても…何より彼も余計な犠牲は望まない筈ですから。」
一礼した後で美しき剣の極地は救えなかった存在達への悔恨にもがき苦しむ想い人の元へと向かう。
理性を失いつつあるとはいえ片手間では手に負えぬ相手…能力に頼らずとも何れは生身で槍の極地へと至る逸材、相対すれば無傷では済まないが其れでも構わない。
…あの、ひとりぼっちで泣いている不器用な
(…私が、貴方の"救い"に成ります……貴方の重荷を共に…)
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———
「ッ…眼を覚ましなさいよバカッ!!」
「…遅い、10回は殺せるぞ?」
「この…ッ(当たらない…ッ、速過ぎる…!)」
摂氏3,000度の炎が狂えし《悪魔》に飛び交うが難無く交わされる、其れ処か残像を焼かせた上で耳許で囁かれる始末…彼が本気なら此の遣り取りだけで言葉通り以上殺されている
だが彼はそうしない、ステラが皇女だからではない…純粋に気に入った相手を殺したくはないからだ。
そもそも、何故邪魔をしてくるのか理解が出来ないのだ、悠騎にとっても人質にとってもビショウを始めとする此のグループは"悪"そのものであり生かす価値は無い。
其れにも関わらず如何して?
己が身が握り潰される様な痛みに絶叫を木霊させるビショウを横目で見ながら影の中から奇襲を掛けるアリスの一撃を大きく後ろに跳躍し躱しながら左右同時に斬り掛かる一輝と珠雫の一撃を左右逆手持ちにしていた釵で受け止める、無論、術の解除は未だ見られない
「目を覚まして…春姫さん…ッ!」
「…君がしたいのはこんな事じゃない筈だろ!」
一刀修羅は一日一回、1分限りの技、然も時間が過ぎれば衰弱する
だが、其れを踏まえた上で4対1というアドバンテージがあるにも関わらず差は埋まらない、寧ろ殺すと言うだけで殺してこない処か反撃もしていない悠騎からしてみれば"4対1でこれか"と僅かな落胆…しかも能力は使わず、だ。
(……春姫が願ったのは…俺が生きる事、師が望んだのは…力無き善なる人々や此の世全てに息づく存在を救う事……ならば、俺が為そう…誰よりも強くなった上で…此の世は力が無ければ意見は通らないのだから)
そう、悲しいが今回の少年の様に力が無ければ母親は護れなかった、否…其れどころか自分の身すら如何なっていたか…最悪殺されていたかもしれない、其れが現実であり此の世の真理だからだ。
だからこそ悠騎は力を求めた
——もう二度と自分の様な存在を出さぬ様に…幼い自分自身に『弱さは罪』という呪いにも似た戒めを課して。
「……何故、私が其処の塵を始末するのを邪魔するの?私が始末しなければ人質は皆死にますよ?」
春姫として振舞った上で問う、正確には人質だけでは済まない、下手をしたら警察の突入隊も死ぬ…ならばビショウには犠牲になって貰うべきだし其れが一番犠牲が出ない遣り方でもあった
然し、一輝は真っ直ぐ悠騎を見詰め答える
「今この場で君がする事を黙って見ていたら…二度と友達として一緒に笑い合えない気がするから…だから止めるッ…絶対にッッ!!」
気合いと共に繰り出される袈裟斬り、躱すのは容易い…だが…此れを躱したら自分の中の何かが確実に彼等との繋がりを否定する予感を悠騎は抱いてしまった。
(黒鉄……御前は………)
初めて"友"と呼べる存在に逢えた、だが…此の身は彼等とは違う…自らが護ると決めたものの為なら他人を殺す事に何ら迷いも無い
そんな自分の口から彼等を"友"と呼ぶのは憚れる、その間も迫る曇りの無い刃……ならば…此処で斬られるのも悪くない
…友と思える者の手に掛かるなら…
そんな風に思った瞬間彼の目の前に紅い飛沫が舞う
「…ッ…は…っ…」
「イッキッ!?」
「お兄様!?」
膝を着く一輝、臨戦態勢だったステラや珠雫、アリスは一瞬何が起きたか解らなかった…だが、悠騎だけが何が起きたのか把握した
「……《比翼》…何をしに来た…」
「…《悪魔》と雌雄を決する為に、ですが…腑抜けましたね…あの程度の剣戟なら素手でも対処出来るでしょう、私が識る貴方なら」
ギリッ…という音が口から聞こえた気がする、気付けば
然し世界最強の剣士は其れを容易くいなす…否、実際には"いなすしかない"のだが其れでも彼女位だろう、正確にいなせるのは。
「ふふ…何時見ても良い突きです、——ですが…それ故に見切り易い、尤も並の相手なら其の槍の特性上一撃で無力化出来るのでしょうが」
「……黙れ…良くも黒鉄を…ッ!」
ステラ達3人の手に拠り出入口に運ばれていく一輝を傷付けた目の前の騎士に怒り心頭とばかりに2本の槍を巧みに用いた猛攻を仕掛ける悠騎
だが彼自身も解っている事を女は無慈悲に突き付ける
「……彼を傷付けたのは元を辿れば貴方の弱さ…私は貴方を救っただけです」
「黙れェェッッ!!」
槍の特性上距離を取れば刀や剣には有利、然し懐に入り込まれれば不利という点を互いに理解している2人の打ち合いは一合斬り結ぶ度に周囲に衝撃波を生じさせる。
全体的な速さでは《比翼》が上だが《悪魔》は彼女の速さに対応出来る位の速さも技術もある、その上力や回避能力に秀でているが矢張り剣の頂きに立つ者…こと基礎技術と経験では彼女に軍配が上がる為互いに必殺を狙った一撃も相手が積み重ねてきた技術や得物の違いにより阻まれ斬り傷程度の負傷にしか成らず攻めあぐねている。
既に辺りは直径5メートルのクレーターが無数に出来る程の闘いが繰り広げられていた
「有り難迷惑だッ…俺は…あの瞬間斬られても良いと…ッ」
既に何十と斬り結んだ上で救いなど必要無いと首を振る悠騎、与えられるだけで何も返せない、それ処か与えてくれた存在は皆死んでいく…此れ程口惜しい事は無い、其れ処か初めて出来た友にすら応えられない…
其れならば…
「——友を斬る苦痛を…親しい者を喪う喪失感をあの少年にも味合わせる気ですか?」
「ッ…!」
攻撃の手が一瞬だけ緩む、其の瞬間柄を用いた当て身を察知し後方に飛び退き躱すが懐に入り込まれ《アダマス》を巻き上げられ手から離れる…其れが意味するは術の解除だが幸いな事にビショウは度重なる苦痛により気絶していた。
「……私と相対しているのに余所見はしないで下さい、——其れ程迄に喪うのが怖いですか?」
「何を…ん…ン…ッ!?」
何を言う、と続けようとしたが虚を突かれいきなり押し倒され馬乗りに成られた挙句唇を奪われる…口内に入り込んでくる舌は柔らかく母を連想する甘い匂いがするがし思考が蕩けていくのを感じ力が抜けていくが首を振る事で必死に抵抗の意思を示す
「…ン…ふ…ッ……」
「は…っ…ゃ…め…ッ…」
「……ん、…止めませんよ……私は…"消えません"…何せ世界最強の剣士で犯罪者ですから。
——だから安心して身を委ねて良いんですよ?私が一生傍に居てあげます…貴方の傍に……貴方の理想…無辜の人々の安寧にも同意出来ますから…」
啄む様に何度も唇を奪われ剰え舌を絡め取られる始末、けれども…悠騎にとっては其れが嫌悪感を抱くものではなくなってきた
何より…此の女は恐らく自分の過去を知っている、知っている上で共に在ると耳許で囁かれれば最早虚勢を張る必要も無くなり抵抗する事を放棄してしまった
「………初めて…だから…」
奇遇ですね、私もです…と聞こえる…見た目では同性同士の逢瀬、与えられるばかりの
「…愛しい人との接吻は…心地良いものですね…悠騎…」
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暫しの時が経ち着衣の乱れを整える、押し倒された際に乱れただけだが母が躾には厳しかった為悠騎は今でもそれに従い礼節や身なりを整える習慣が身に付いた
「………言っておくが…新宮寺黒乃との契約は俺が卒業する迄だ…待てるのか?其れに…あんたも知ってるが俺は…」
其処まで言葉を紡ぐが指先を押し当てられ制される
「…少しだけ長い気もしますがお仕事ですからね、強くなるだけなら毎日私と斬り結ぶだけでも事足りますが。
《トリシューラ》…神代の時代から何十、何百というヒトの手を巡り破壊神の依代が持つとされる槍……女としてはそんなものは捨てて欲しいと言いたいですが…其れが貴方の"祈り"なら其れすらも受け入れましょう…。」
優しく微笑む高貴なる白、全てを吞み込む黒は正反対の筈の彼女に無意識に求めていたものを垣間見た上で今度は自分から頬に手を添え唇を重ね…
「ちょッ!何やってんのよユウキーーッ!?」
る前にステラの叫び声に制される
「……煩い皇女様ですね、——悠騎、続きはまた何れ…寂しくなったら此方に連絡を…暫くは滞在しています。その時は女装も捨て難いですが有りの侭の貴方で…ね?」
悪戯っぽく微笑み住所が書かれていると思わしき紙を懐に忍ばせるエーデルワイスの大胆さに赤面する悠騎、思わず頷いてしまうがステラに続き現れたアリスに抱き着かれ尻もちをついた事で我に帰る
「お兄さん大丈夫!?怪我してない!?返事しないと襲っても知らないわよ?!」
「怪我はしてるが襲うなッ!気色悪いッ!!」
げしげしと顔を蹴る度に見え隠れする女物の下着に羞恥心を覚えるが貞操を奪われる位なら幾らでも見せてやると言わんばかりに蹴る、蹴る!、蹴りまくる!!…無論怪我はしない程度に
「ふふ……何時でも尋ねて下さい、私の
「……あァ、無茶はするなよ…俺の
そんな…何処にでもある様なありふれた風景を漸く手に入れた己が番に手を振り立ち去る女騎士、その姿を番と認識した上で見送る嘗て悪魔と呼ばれた学生騎士。
人並みの幸せをやっと得る事が出来た友人にステラは首を傾げていたがアリスは納得した上で其れでも彼の事を想う…命を救われ、嘗ての自分も今の自分も全てを引っ括めて自分である、と許容してくれた人物に恩義と敬愛…ほんの少しの本気な恋情を抱きながら。
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「…皆さん、本当に御免なさい…」
気が付けばもう夕方、先程迄刃を交えていた4人に頭を下げる、一輝の傷は思ったよりも浅かったが包帯姿が痛々しい
「……別に、私は…寧ろ自分の甘さを痛感させられたというか…結果的にはあのきのこ頭を止めなきゃ皆死んじゃってた訳だし」
「そうね、幾ら影の中に爆弾を引き摺り込んだとしても建物自体が爆破されたら下手をしたら二次災害もあり得るわ…でも、春姫はもう少し周りを頼りにすべきなのは解ってるわよね?」
「えぇ……そうですね…一輝さん、珠雫さん…御免なさい…」
ステラは剣士としては本気で剣を振るっていた、アリスも本来なら影を刺そうとしたが其の隙を見せない悠騎に対しあの場では最善手の奇襲を仕掛けるも容易く躱された…純粋に経験と力不足だったのだ、命を賭けた戦闘経験…と言えば簡単だが。
にも関わらず自分達にも非があった、と許す姿勢を見せる辺り大人である
「……お兄様を斬ったのはあのエーデルワイスですし、義憤と考えれば納得は行きます…でも、お兄様は私のものだということは覚えておいて下さいね?」
何処か拗ねたように一輝を自分のものと言って憚らない珠雫、その様子が可笑しくて、くす…と笑うが
「おいおい、随分と美しい友情ごっこじゃないか?黒鉄一輝君…?」
声の主の方を向くと複数の女子に囲まれながら此方を…正確には一輝を嘲笑う眼差しで見詰めるキザっぽい男に一輝は近付いていく
「…桐原君、さっきはありがとう。助かったよ」
「弱き者には手を差し伸べないとねェ」
頭を下げる一輝に対し桐原と呼ばれた男は嫌味ったらしい喋り方、此れだけで如何いう育ち方をしたか解るというものだ
「…私、あいつ嫌い」
「貴女と意見が合うなんて珍しいですね…」
口にはしないが悠騎もうんざりした様な表情、聞く所に拠ると入口を見張っていた2人組みを倒し人質を避難させただけでアレらしい
「あァ、そういえば学生手帳は見たかい?」
「え…?……!」
横に移動し学生手帳を覗き込む、すると一輝の対戦相手は目の前の桐原静矢その人である
「棄権したければしても良いんだぜェ?腰抜け一輝君?」
「あんたッ!いい加減にしなさいよッ、イッキは強いんだから!」
あまりの物言いに怒りを顕にするステラ、然しそんな彼女の剣幕もどこ吹く風とばかりに一呼吸だけ間が空き笑い出す
「くく…いや失敬失敬、でも自分の事を随分と良い風に吹き込んでるみたいだからさぁ?
—ちゃんと教えてやらなきゃダメじゃないか、君が去年僕と戦うのが怖くて逃げ出した事をさ?」
「っ……」
「え…?」
「あー笑った笑った…そうだ、其処の君、良かったら今から遊びに行かないかい?君、結構好みの顔してるんだよね」
腹を抱え一頻り笑った後悠騎…正確には春姫をナンパする手前相当の女好きと言える、春姫は微笑みを浮かべながらゆっくりと近付き一輝達に動揺を与えるが
ぱしィンッ!
「ハルキ?!」
「春姫さん…っ」
「ぶッ!…何すんだこのアマッ!」
「ふふ、謹んで御断りしただけですわ?
——"お友達"を放ったらかしにしてほいほい付いてく程安っぽい女でもなければお友達を笑われて怒らない屑じゃないんですの、悔しかったら一輝さんに勝ってから出直して下さい?マダオさん?」
「!…ありがとう…春姫さん…」
思いっきり平手打ちされ数メートル程吹っ飛ばされ怒りを剥き出しにする桐原に満面の笑みを浮かべ一輝の元へ戻り腕に抱き着くその足取りは淑女そのもの…生まれてくる性別を間違えたのでは?と疑う程のものだったがステラや珠雫に嫉妬の念は無い、寧ろ尊敬の念を抱かせる程凛々しく"ヒトとして美しかった"
一輝は最初眼を見開いていたが悠騎の口から出た科白に微笑みを浮かべ寄り添う、無論…親愛なる友人として。
「っ…良いだろう、だが俺が勝ったら御前は俺のものだ!」
血走った眼を向け闘犬の如く唸る桐原、そんな彼に対し裾で口許を抑えながら悠騎は笑う
「構いませんわ、——貴方が彼に勝つなど万に一にも有り得ない話ですから…勝つのは私の大切な友人です」
えー…と、次回は某願いが叶う珠の作品に出てくるネタを拝借致します、所謂一輝君めっちゃ強化回です(笑)