落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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今回はグロ系、鬱、駄文、長文が苦手な方はブラウザバックでお願い致しますm(_ _)m


合宿と因縁の決着–そして宿命は動き出す–

それから暫くの時間が経過し一行は学園の敷地外にある山荘へ向かっていたのだが…。

 

「もう、悠騎お兄さんたら!こんな楽しそうな事に私と珠雫を呼ばないなんてあり得ないわ!」

 

「…そうです、拗ねますよ?」

 

あの後アリスに見付かりエーデルワイスの事を黙っていて欲しければ自分と珠雫を連れて行けと脅迫され、其れならばエーデルワイスの変装を手伝えと交換条件を出す事で互いの利害が一致した上でアリスと珠雫、エーデルワイス、ステラ、一輝、悠騎の6人で途中迄バスに乗り残りは歩きで目的地を目指している。

 

アリスはふざけているようで真面目な時は真面目な人物だと解っているが珠雫にいたってはどうしても春姫に面影が重なり無意識に頭を撫でてしまう

 

「…ん…」

 

「……珠雫は言わないでも解ると思うが、遊びに行く訳じゃないんだぞ?ちゃんと解って…ッ」

 

恥ずかしそうだが何処か嬉しそうにしている珠雫から手を離しアリスへと視線を向ける。

 

はーい、とピクニックか何かのノリで肉やトウモロコシ、ピーマン、焼きそば等を大量に買った袋を手にしているアリスだが彼も彼なりに思っての行動なのだろう…ふと腕に当たる柔らかな感触、拗ねていたのは珠雫だけではなくエーデルワイスも同様だった、言葉を発しない分眼が物語ってくる

 

『私以外の女性と楽しそうにしないで下さいね…?じゃないと…』と、物騒極まりない考えを僅かに殺気混じりの瞳から感じ取り代わりに指を絡ませ手を繋ぐ事で『…御前だけと言った筈だ』という意味を込めて返す、如何やら意味が伝わった様で御満悦の様子

 

そんな二人の遣り取りにステラと一輝は苦笑を洩らしつつ見守るのだが珠雫は何故か面白くなさそうだった。

 

 

「……何だか、妬けるわね…」

 

「あはは…まぁ、二人とも色々あるみたいだし…——あ、着いたみたいだね、悠騎君の"個人授業場"…凄いや、自然が豊かで生き生きしてる…」

 

個人の思惑は兎も角辿り着いた下宿場は空気が澄みきっており近くには綺麗な川、少し離れた処に小さな池、山荘を背にする形で小山がある、彼等は途中迄バスに乗りその後歩いてきた道は山荘を中央に見立てると西側に位置する…見取り図を見て何かに気付いた一輝は悠騎に振り向き

 

「これ…もしかして…」

 

「気付いたか、小規模だが此処は四神相応(しじんそうおう)の地だ。方位磁石で見てみろ、東に川、西に大道、北に小山、南に池…全てに該当するから下宿先には最高だと思うぞ」

 

言われた通りに方位磁石と見取り図を照らし合わせると確かにそうだ、然し、風水等の知識に疎いステラは首を傾げる

 

 

「えー…と、しじんそうおー…って何?」

 

「あらあら、胸ばかり発達したお姫様はそんな事も知らないんですね〜、此れだから田舎のお姫様は」

 

「なんですって!」

 

 

例の如く啀み合う二人に一輝は宥めようとするが火に油を注ぐ事になるのは明白、髪を黒く染め一本に纏め、度が入っていない眼鏡を掛けたエーデルワイスがこほんと咳払いをして二人を制する…出来た妻だ。

 

 

「……四神相応とは風水の中でも最高の立地を意味するとみてくれれば良い、日本では天皇陛下が御住まいになられる皇居が立地以外にも様々な条件から至高とされるらしいな。

そして、条件的に此処も皇居に比べたらランクが数段落ちるとはいえ四神相応に分類される。

尚且つ、一輝が言った様に緑が覆い茂っているし陽当たりも良い…生命力に溢れている証拠だ、俺は生憎と専門家ではないが間違えていたらすまないが…ヨーロッパ式に言えばレイラインというべきか、あれは龍脈とは別物で人が方角を決めて遺跡や城等を建築するからな……王家が住まう城であればステラの家もそうだと思うぞ?」

 

幼い頃、母親から教わった知識…懐かしむと同時にこうして誰かに語るとは思わなかった自分自身に少しばかり驚愕を覚えるが皆は得心が言ったという風に頷く

 

 

「成る程ね、それにしてもユウキって本当博識よねー何処かの嫌味ったらしい割れた風船袋と違って」

 

「あらやだ、何処かから入れ過ぎた水風船の負け惜しみが聞こえませんか?お兄様?悠騎さん?ねぇ私だけかしらアリス?」

 

…実に仲が悪い、この二人のペースに合わせていたら進むものも進まない為後の事は一輝とアリス、エーデルワイスに任せる事にして悠騎は下準備を始める事にした、己が能力でテレポートを行い小山、川、池、大道の四方に印を刻んだ支柱を打ち付け時空間結界を張る準備を。

 

—————

———

 

悠騎が施した大規模な術式により"時間の進みが早くなっているもう一つの世界軸"の下宿所に荷物を置く一行、その区域内だけすっぽりと世界という絵から抜き出て代わりの世界に入り込む術式は膨大な魔力を持つ悠騎にしか出来ない荒技であろう。

トイレや浴場は男女別になっており食堂は共同だが人数分の部屋はある、望めば部屋で食べる事も可能だ…尤も話し合いの結果ローテーションで調理する事になるが。

最初の夜はアリスが持ち込んだ具材でバーベキューを行い親睦を深め此れからの進路を話し合い当初は悠騎がエーデルワイスを除く4人を見る予定だったが「女性陣は私に任せて下さい、悠騎は男性陣を」と此処でも甲斐甲斐しく悠騎の世話をする彼女に任せようとした矢先、此処で一つの問題が生じる

 

 

「……黒之絵留(くろのえる)さん…貴女は悠騎さんの親族らしいですけど、私は春姫さんなら兎も角貴女を信用する事は出来ません、お兄様を打ち倒した実績がある悠騎さんに教わりたいです」

 

 

…珠雫の言葉にも一理ある、実力が未知数の人物に教わるよりは信頼の置ける相手に教わる方が遥かに信用出来る。

 

 

「なら私が彼を倒せば問題ありませんね?…黒鉄一輝、私と闘いましょう。」

 

 

「………はい、御手合わせお願いします…!」

 

 

翌日《比翼》VS《落第騎士》のカードとなったが正体を知られないようにエーデルワイスは本来二刀流である処を一刀流で一輝を圧倒していた、それも完膚なきまで。

然し、此の戦いを通じ模倣剣技(ブレイドスティール)によりあの《比翼》の剣技を一部盗む事でさらなる成長を遂げた一輝、《比翼》と《悪魔》はその成長ぶりに剣技の上での彼に才能を見出した。

 

 

九日目、一輝の傷を刻を遡らせ再生させ男女に別れ合宿を行い暫く経つが珠雫は何故かエーデルワイスには心を開かない…元々人見知りにしろ…勘付かれたか不安を覚えるが教官役二人は鍛錬に集中する事となる。

 

 

「……来い、エーデから技を盗んだなら一太刀位は浴びせられるかもしれんぞ?」

 

「…行くよ…悠騎君…!」

 

「ちょっと〜、私も忘れないでよ…ね!」

 

影からの奇襲、そして影縛り…要は影に気を付ければ純粋な白兵戦には向かないアリスは御し易い、その攻撃の全てをいなす。

 

「能力に頼り過ぎだ…元々の職種を考えるなら致し方ないのだろうが、な?」

 

「んもぅ、お兄さんのい け ず っ」

 

一応心は乙女らしいので鳩尾に石突きを軽く押し当て降参させる。

 

そして《一刀修羅》を発動し新たに得た技…全身の筋肉を一斉稼働させる事により0から100の速度で動けるようになる技《比翼》を得た一輝は当初の想像以上に成長していたのだが…

 

「…攻撃が来ると解っていて尚且つ反応出来る速さなら未だ届かんぞッ!」

 

 

「ッ……底無しだね、君は…!」

 

槍と刀というリーチの差もあるが、かたや道場破り、かたや幾多の戦場を渡り歩いた《悪魔》…実戦経験の差や経験則から来る次の一手、意表を突いた筈の一撃にも対応する柔軟さは悠騎に軍配が上がる

 

首筋に鋒を突き付けられながらも一輝は笑う、一人で血が滲むように努力していた頃に比べて今は充実しているからだ

 

無論、悠騎もそれは同じ……師を亡くしてからはそれ以上の劣悪な環境だったが今は人としての愛を識り、多くを学んだ。

 

 

「美味しいッ!お城のカレーより美味しいわこのカレー!」

 

「本当…今日の料理当番は……悠騎さん!?」

 

「昔から料理も上手かったわよね〜…良い主夫になるんじゃないかしら?」

 

「…飴色に炒めた玉葱はルーにコクを与える、仮に嫁が出来て望むなら何度でも…色々作ってやるさ」

 

 

「…私も負けられませんね」

 

 

 

…本当に、様々な事を学ぶ1カ月であった。

 

 

——そして、最終日

 

「…あっちでは1時間だがこっちでは丁度一カ月だ、——拠って、今日は一対一の正式な試合をやる、試合前に怪我をしたくないというなら安心しろ、死なない限りは俺が治してやる」

 

一カ月経ち基礎能力は各人かなり上がっている、何せ《悪魔》と正体は隠しているとはいえ《比翼》の扱きに堪えたのだ、油断と慢心さえしなければ喩え有力選手に当たっても勝ち抜ける程にパワーアップしている。

 

 

まして、桐原の土俵に入る前に斬り伏せて勝ちを収める等造作もない。

 

 

「対戦相手を決めるのは矢っ張りアミダかしら?私としては悠騎お兄さんと…「………」と、思ったけど矢っ張りお兄さんが決めてちょうだいな、元々お兄さんの為の合宿でもあるんだから」

 

一輝に対戦相手を決める様に勧めるアリス、エーデルワイスからの殺気に気付いたのか僅かに震えている

 

 

「………なら、悠騎君…僕と闘って欲しい…君が未だ見せていない…《悪魔》としての君に挑みたいんだ…!」

 

 

「……、——何時か、こうなるとは思っていた……俺に付いてこれるか?」

 

 

付いていくさ…ッ!と力強い声と共に笑みを浮かべる…事実上の選抜戦決勝戦にも近いカードにステラ達は疎かエーデルワイスすら笑みを浮かべる

 

—————

———

 

「…それじゃあ、良いわね?

 

—let's go ahead!」

 

念の為に悠騎が張った結界内で観戦する皆、アリスの合図と共に互いの霊装を顕現させる二人、そして先に仕掛けるのは一輝であった

 

「…第一秘剣・犀撃…ッ!」

 

周囲の木々を蹴る事で縦横無尽に飛び交う突進力とスピードを活かした一撃、然し悠騎は此れを軽くいなす一撃を放つ

 

「……飛燕・曲…ッ!」

 

ゴゥッ!という形容が似合う双槍に拠る左右同時の横薙ぎ、鋒により裂かれた空気の断層が周囲の木々を薙ぎ払い少し距離がある川にまで届く、更には"斬撃がブーメランの様に戻る"という有り得ない技を以て一輝を捉える

 

「ッ…第二秘剣・蜃気狼…!」

 

然し、この1カ月で得た経験値が無意識の内に身を捻らせ最小限の傷だけで済ませ着地した後緩急のあるステップで残像を作る、尤も、此れは見破られる事が前提の謂わば"誘い"…本命は別にあるが悠騎も其れを知っていて誘いに乗る

 

 

「……良いぞ、武の真髄は"防と呼吸…タイミング"にある…!咆哮する者(ルドラ)ッ!!」

 

丸坊主になった森林に嵐の如き無数の衝撃波が地を揺らし雷光が如き鋭さで一輝の残像全てを穿つ鋒、本物の一輝が望んだ誘い通りの一撃を彼は…

 

 

「戦闘狂だよね、悠騎君は…第三秘剣・円…ッ!」

 

解っていた上で誘いに乗る友人に苦笑しつつも槍の鋒を刀で受け止めた後その勢いを殺さず反撃に転じる、悠騎が出した一撃以上のパワーをカウンターで放つつもりだが技量が同じ…或いは上の者には此れは致命的な隙だ

 

「御前もな……一輝、後方に跳べ…"消滅"するぞッ!」

 

何と此処で槍を手放す悠騎、ステラを始め血迷ったか!?と動揺が走るが彼の最愛の恋人、エーデルワイスと対峙する一輝だけは違った

 

(…あれを出すのですね…悠騎…)

 

 

「く…ッ!」

 

技の最中に身の…否、己が存続するか否かという不気味さを孕んだ危険を感じ後方に飛び退くも僅かに反応が遅れ左腕に刺される様な…否、"左腕が在った感覚が無くなる"

 

「………なに…あ…れ……ッ!?」

 

 

ステラが一言だけ呟く、一同に観えたものは同じ…然し誰もが己が眼を疑う

 

 

「…はは…君は…本当に…強過ぎって位強過ぎるよ…」

 

余裕など無い、然し目の前に在る強者(デタラメ)に笑わずにはいられなかった

 

「……賞賛される様な事じゃない、ちょっと掌打に魔力を乗せて触れたものの"存在を消した"だけだ…御前が予想以上に強くなっていたからな…少しだけ武芸者ではなく《悪魔》としての本気を出した」

 

木々も岩も…掌打を通じ発生した黒い波動の様な余波を受けた存在はその刻を奪われ消滅した…否、時間干渉により"最初からなかった事になった"…その存在を識るは記憶している彼等と消した張本人だけだ。

 

「…《絶掌》俺が生まれ持った力の遣い方の一つだ…その状態でまだやるのか?」

 

 

「……勿論、言った筈だよ?

——僕は君の強さに必ず到る、…僕の最弱(最強)で君の最強に挑む…ッ!!」

 

 

片腕だけの構え、《一刀修羅》からの比翼と雷光だろう、片腕を失った一輝に勝ちの目は薄いが其れでもこの気高い騎士に……最高の友に今までの自分を見せずして何が友か…ッ!!

 

 

「……良かろう…現在(いま)の俺の全力で御前の最弱(最強)を迎え討とう…ッ!憤怒の炎(パスパタ)…ッ!!」

 

 

離した槍《アダマス》ではなく《トリシューラ》を突き出し全力を出すと述べ、そして今持てる全ての魔力を注ぎ投擲体勢に入ると鋒からは全てを焼き払い破壊の限りを尽くす火柱が天を突く。

天候を変える程のそれは以前夜叉姫の禁技・覇道竜星すら迎撃し第二撃をも投擲した槍で跡形も無く穿ち尽くした。

 

 

《焼キ尽クスガ佳イ…全テヲ…!》

 

《トリシューラ》から声が聞こえた様な気がする…前回と違い何故か片言混じりだが細かい事は良いだろう。

穿つは己が友人、瞬きすら赦さぬとばかりに向かってくる黒鉄一輝…投擲せし其れは光槍の如き輝きを放ち彼の身を穿たんと襲う…ッ!

 

 

—————

———

 

 

『…勝ってこい、"絶対負ける訳にはいかない"なんてらしくない…肩の力が抜けた今の御前なら勝てる、だが…もしアドバイスをするなら、————しろ。』

 

 

一輝の初試合当日、あまりプレッシャーを掛けるのも悪いと手紙を机に忍ばせていた友人のアドバイスに思わず口を開くが一理あると思い首を振る。

 

 

「…全く、メールで済むのにこういう処が古風だよね…君は…」

 

控え室で手紙を見て苦笑する一輝、あの合宿…あの闘いが無ければ自分は緊張して本来の実力を出せずに負けていたかもしれない

 

——だが、今は寧ろ落ち着いている…学内戦で悠騎と戦えるか如何かは解らない…けど、彼やステラと戦うまで負けるつもりはない、両腕も貫かれた胸も元通りに再生された一輝の中では彼等との再戦を強く望む自分が居た。

 

 

『黒鉄一輝選手、試合時刻になりましたので…』

 

 

さぁ、先ずは一勝だ

 

 

—————

———

 

 

「まさか本当に出場するなんてねェ、そんなちっぽけな魔力(才能)で此の僕に勝てるとでも?」

 

 

相対する桐原と一輝、顔を合わせ早々に煽ってくる桐原だが一輝は微笑みを絶やさず言葉を交わす

 

 

「さぁ…如何かな、でも…彼女は隠れて戦意喪失した子迄射る君を屑といって毛嫌いしていたよ。」

 

 

「あのアマ…ッ!…ふ、まぁ良いや、さっさと君を倒して僕のものにすれば良いだけだ」

 

 

「——悪いけど、負けるつもりはないよ。」

 

 

怒りを顕にする桐原、だが其れでも…今の一輝には届かない……あの日見た、激しくも強い輝きを放つ光槍に比べたら目の前の《狩人》が放つ矢等惹かれるに足らぬから。

 

 

let's go ahead!

 

 

狩人の森(エリアインビジブル)…ッ!」

 

開幕早々己がフィールドで闘うべくステージ全体に森林を形成する桐原、だが…

 

 

「彼に比べたら…隙だらけだ…ッ!」

 

 

電光石火の如く一輝の刃が桐原の肩を斬る、無論…首を跳ねる事も造作は無いが彼は"アドバイスに従った"…『やられた事は10倍返しにしてやれ』と、先ずは去年の分の一撃だ。

 

 

「へあ…ッ!?」

 

 

アホ面とは此の事だ、まさか自分が落第騎士(ワーストワン)に斬られるとは思わなかったのだろう…肩を斬り落とす事も容易かったが其れではツマラナイ、何より彼…悠騎の美学が赦さないだろう。

肩から血を流す桐原、慌てて木の実の形をした煙幕を張るが一刀の元に薙ぎ払われ煙幕は霧散する。

 

 

「…桐原君、奥の手があるなら早く出してくれ…僕は僕の最弱(最強)を以て君の最強を打ち破る、彼ともう一度戦う為に。」

 

 

《一刀修羅》すら使わず此れである、最早決着は付いたも同義だが何かの間違いだ…こんな筈はない…と呟く桐原、そして

 

「調子に乗るなよ落第騎士(ワーストワン)がッ!」

 

『おぉーっと!此処で桐原選手狩人の森(エリアインビジブル)の本領発揮かーッ!?』

 

『……』

 

『ちょ、ちょっと西京先生何処へ行くんですか!?』

 

『ぁー?これ以上見る価値無いしばっくれるわ、もう勝負決まったみたいなもんだし』

 

 

漸く存在を消す桐原、完全ステルスにより何処から攻撃されるか解らない筈にも関わらず実況者の西京は勝負は決まったという

 

尤も、其れは間違いではないのだが。

 

 

「何でッ、何で当たらないッ!」

 

矢すら存在を消す程研鑽を積んだにも関わらず一輝は去年自分が受けた矢と映像で得た彼の行動パターン、思考、性格、それら全てを完全に掌握し向かってくる矢に対処しながら微笑みを浮かべる『もうおしまいかい?』と言わんばかりに。

 

「ひ…ッ…くそ…!驟雨烈光閃(ミリオンレイン)ッ!」

 

近付いてくる一輝に底知れぬ恐怖を感じ距離を取りながら放つ無数の矢の雨、だが…

 

「…《一刀修羅》ッ!!」

 

 

己の身に直撃する矢だけを弾き(はし)る、おかしい…!こんなに強い筈がない、と彼…桐原静矢は無意識に己が蔑んできた者の強さを認めてしまった

 

—その時点で彼は負けたのだ、己の弱さに。

 

 

「そ、そうだ!じゃんけんで決めようじゃんけんでっ!」

 

 

巨木の如き矢を放つ桐原、然し一輝は難無く躱す処か《隠鉄》を彼に突き刺さんとする

 

「僕達友達じゃないかっ」

 

 

…真の友達は友を蔑む事もましてや公衆の面前で無抵抗な友達に矢を向け…剰え射る事もしない、どの口が言うのか不思議でしょうがない。

 

「それ刃物!死ぬっ、死んじゃうッ!」

 

頭や心臓は兎も角刺された位では直ぐには死なない、というより自分は矢を何度も射ているではないか。

桐原は戦いを…否、七星剣舞祭に出場する事をステータスか何かと勘違いしているのでは無かろうか?

 

其れが今の彼の状態を招いたといって過言ではない。

 

ズドッ!

 

 

「あひ…ッ…!」

 

 

「……感謝なら彼女にしてあげて、きっと彼女ならどんな命でも美点を見出す筈だから」

 

 

『し、勝者、黒鉄一輝選手ッ!信じられませんっ!去年の七星剣舞祭の代表選手、桐原静矢選手を相手に無傷で勝利をもぎ取りましたッ!』

 

気絶した桐原へ生きている事への感謝なら悠…基春姫にする様にと囁く、其れは1カ月とはいえ自分を鍛え抜いてくれた友人に対する彼なりの"感謝"の顕れ。

 

 

少し、余談に入るが悠騎は決して派手で見栄えのする技で速攻を仕掛けるタイプでは無い、寧ろ堅実且つ地味目な技と戦術を好み必中必殺を淡々と狙う性質だ、其れ故に敵に付け入る隙を与え無い。

 

何時か聞いた事がある、何故伐刀絶技をあまり出さないのか…すると彼はこう答えた

 

『派手で見栄えのする絶技は確かに"試合"の中で使えば観客は盛り上がるだろう…だが、"命のやり取り"では一度見せたらそれは対応される…其れならば解っていても防げない様に基礎を磨き技を極限まで磨く。…俺が破軍に入学した最たる理由だ、力は制御出来て初めて意味を持つ。

——桐原が憶が一にもそういう意思を見せたのであれば、俺は奴の評価を見直さねばならんな』と、…去年迄の桐原は矢を消す事は出来なかった、つまり…彼は彼なりに研鑽を積んでいる、其れを知った時点でこうするつもりでもあったのだ、一輝は。

 

 

良いぞ黒鉄ーッ!

 

かっこいいー!

 

痺れたぜこんにゃろーーッ!

 

 

観客席からは好き勝手な歓声が飛び交うがステラと視線が合えば微笑み合う…何時の間にか、ステラと一輝の間にもエーデルワイスと悠騎の間柄に近い感情が芽生え始めていた。

 

—————

———

 

処代わり別会場…否、処刑場になりつつある別エリア

 

 

「ぐは…ッ…!」

 

 

「…余に一撃すら与えられぬか…其方は《城砕き》の二つ名を持つと聞いたが……——最大の一撃を余の前に披露してみせよ。」

 

『生徒会序列4位の砕城雷選手を人差し指一本で圧倒するこの男ッ!強いッ、強過ぎますッ!然し砕城選手も意地がある!ぼろぼろにされても倒れません!』

 

 

「(確かに…強いッ!だが…ッッ!!)うおおぉォォッ!!」

 

 

雄叫びを上げ己が霊装である斬馬刀を振り回す砕城に相対する男は射干玉の髪を靡かせ腕を組み彼を見詰めている、その双眸は黒と銀のオッドアイ…身体に纏うは背中に漆黒の翼を有した鎧、腰には太く若干短い剣と細く長い剣が帯剣されていた。

 

然しその顔立ちは…。

 

 

「クレシェンドアックスッ!!」

 

総重量10トンに及ぶ一撃、会場全体が揺れ塵芥(ちりあくた)が舞う……勝った、砕城がそう確信したその時

 

「——余の期待を裏切ってくれるなよ?…もう良い、其方はもう休むと佳い……往ね…ッ!《無間・斬》!!!」

 

「ぐあぁあァァァッ!」

 

いなす事も躱す事も可能だった、と言わんばかりに細長い剣の柄で受け止めた後有り得ないとばかりに後退りする砕城の両手両脚は疎か五本の指や胴体すら黒い閃光が走る

そして剣を再び鞘に納め通り過ぎる砕城の身が…四肢は疎か閃光が走った部位全てが刎ね飛ばされ鮮血を撒き散らしながら前のめりに倒れ伏す、明らかにオーバーキルである…まるで、"見せしめ"の様な惨状に周囲の刻は暫し止まるが悲鳴と絶叫を伴い再び動き出す。

 

 

『ッ!早くッ、早く担架ッ!』

 

実況席も観客も慌てふためく、絶叫が木霊す、ある者は座ったまま気絶する者も居た程だが…

 

「……ふン…」

 

刎ね飛ばされた肉片はまるで刻を逆戻りしたように身体にくっ付く、血もまた同様だった。

 

「…は…っはっ…!お、俺は一体…」

 

 

「…其方には余の試金石として相対して貰ったが…弱過ぎる。

故に一度その命で失望した分の期待を支払って貰った…まだやるというのであれば…今度は"魂を掛けるが佳い"…刈り取ってくれようぞ?」

 

 

「ッ……いや…俺の…敗けだ…っ」

 

最早意識すら手放したくなる…否、地獄の果てまで逃げたくなる程目の前の男に恐怖を抱く…自身の最大の一撃をまるで寄せ付けない巨神の如きこの男を。

この試合を見ていた生徒会一行も…否、学園最強の騎士である刀華はそれ以上に戦慄を覚え身を震わせた、言葉を交わした事は無いが黒鉄一輝とのあの試合…一目惚れにも似た昂揚感を懐かせたあの気高い騎士が持つ雰囲気をまるで感じさせぬ、冷たい表情(かお)と自らを遥かに凌駕するが…慈悲を感じさせぬ剣技に。

 

(前の試合とはまるで別人…本当に私が(やりた)いと切に願った人なの…?)

 

 

 

(…悠坊……あんたは…)

 

最早実況をする理由もなくなり席を立つ西京、その胸に去来するは"魔人の域に到ってしまった教え子"の事、自らの伐刀絶技を打ち破った時点で才能はあると薄々感付いていたが…教え子が抱いていた深い闇から救えなかったと自分に対する怒りで足場を踏み抜く

 

「……馬鹿野郎…ッ!」

 

—————

———

 

 

「…御疲れ様でした、悠騎…いえ、《クロノス》」

 

 

「…悠騎で良い……アレも…俺なのだろう…?」

 

 

「そうですね……今迄、グングニールやトライデントといった神話の時代に活躍した槍と同じ位に有名な槍(トリシューラ)をその身にやつしていたのです、霊装が"変化していた"代償かと…今は《トリシューラ》も今迄と同じ以上に扱えるようですが。尤も、"神性覚醒"を果した反動もあるのでしょうが。

——そんな事より……今日は一晩中側に居れますよ……?」

 

 

自室の合鍵を渡していた為最近甲斐甲斐しくやってきては身の回りの世話や相談に乗ってくれるエーデを抱き寄せる、そうか、と呟きながら。

 

…俺は……此れで良い……早く皆に嫌われなければ…。

 

 

優しく微笑むエーデに唇を塞がれ舌を絡める、互いの唾液を供給し合うような口付け……罪の意識に苛まれている俺を救おうとする優しさが身に染みる…少しでも報いようと舌先に吸い付き嬌声を上げさせる事しか出来ない此の身が情けない事此の上ない…

 

 

 

(…生まれて来て…御免ッ…先生…父さん…母さん…春姫…っ)

 

 

(悠騎……私を見てください…まだ…足りないんですね……貴方を救うには…)

 

 

—————

———

 

 

時は遡る事下宿最終日の夜、悠騎は久方ぶりに恋人との逢瀬を…語らいを楽しんでいた。

 

彼は思う、犯罪者だろうが何だろうが…其れが彼女を構成する一部であるならば此の身は…彼女を受け入れ様と。

 

 

(……すまない…春姫…俺1人が幸せになって……でも、仇は取るから……だから、エーデと居る時だけは…)

 

 

1人の雄として在りたい、彼女が抱える痛みも、優しい彼女の心も…全てを護り抜きたい、と。

 

 

全てを奪われ、其れでも尚己が境遇から生まれ出た歪な願いと仇討ちのみを成就させる為だけに生きてきた男は"愛"を知り欲張りになってしまった。

 

 

だが、其れは罪であろうか?否、断じて罪では無い…人は誰しも内に欲を秘めている

 

欲とは言い方を変えれば願いである、誰かを…愛おしい存在を護りたいという強く願った時、ヒトは…少なくとも騎の名を持つ男は己が身を超えるチカラを"得てしまった"

 

 

「……愛しています…私の悠騎…」

 

「…エーデ…永劫の愛を誓おう……ッ…」

 

 

(…愛を知り、真の意味での強さを識ったか……認めよう、其方こそが…この次元の破壊神よ。

—故に、今こそ其方本来の霊装に"戻る"刻と識れ。)

 

 

脳に響く声、何時か夢の中で聞いた様な声に違和感を感じるが嫌悪感は感じない、内側から溢れ出るチカラに気付き次いで《トリシューラ》から古今東西、様々な記憶と知識、新たな力の遣い方が悠騎の脳に流れ込む

 

 

《新たな担い手よ…己が血に流れし宿業を識り此の世の理を"破壊"するも今を許容するも其方次第…だが、其方は今、"覚醒"を果たし我の真の担い手となった。

願わくば…星が定める運命を破壊し新たな未来を紡ぐ力を人々に…。》

 

 

膨大な知識量に酷い頭痛が悠騎を襲う、だが此れに耐えられるのは彼が普通の人間ではない事の証明…《トリシューラ》が齎す影響が少なからず彼の中の"血"を目覚めさせつつある事に勘付いたエーデルワイスはベッドへと寝かせるべく動くが…

 

 

「……大丈夫だ、ただ…側に居て欲しい…魔人や覚醒についてもだが……あの男(祖父)の事……何より…俺の事…整理しなければならない事が多い…」

 

そんな彼女を…漆黒の翼を有した鎧を装着した状態で抱き締めながら今にも泣き出しそうな顔で呟く…《トリシューラ》が見せたもの以外…己が"血"が見せた記憶の中には太古の昔…帝がこの地を治めるより遥か昔のギリシャ、遍く天地を統べた神でありながら己が息子の手で討たれエリュシオンへと幽閉された筈の神、時空神クロノスに関するものがあった。

 

彼は幽閉される前に己を信仰する巫女を孕ませ、生まれた子供が自分達の先祖である事を識る。

 

そして、《時空間制御》能力を持つ子供が産まれる度、その子供を強く育て何時の日か己を破滅に追い遣った直接の原因…母なる存在を滅する為だけにその子供の親兄妹を当代の《クロノス》が殺し、そしてその子供が新たな《クロノス》として前代の《クロノス》を殺し代替わりを果たすという忌わしい習わしも識ってしまった。

 

原理的には蠱毒に似ている、何故なら蠱毒とは最後に生き残った個体を以て呪いを掛ける、まぁ黒之の場合は代替わりを果たす度に神性が高まり全体的な能力も強くなる性質上、気の遠くなる様な生き地獄にも似た"呪い"だ。

 

 

尤も、悠騎の場合は本来儀式を執り行う事で得られる結果の一部を別の要因で得た為かなり歪…覚醒の証たる銀色の瞳と黒の瞳のオッドアイは発露したが髪は黒いまま…とはいえ此の状態でも一応は時空神(クロノス)としても破壊神(シヴァ)としても"神性覚醒"した事になる…前代未聞の二重神性持ちだが今の悠騎にはどうでも良い事だった。

 

 

「大丈夫…私は…私だけは側に居ます。

—…だから悠騎…もう壊れても良いんですよ…?私が…貴方の新しい世界です…私の愛おしい旦那さま…。」

 

 

いっその事壊れた方が幸せだと思うから…と首に腕を回し優しく囁く…"覚醒"の際に床に突き刺さった悠騎本来の霊装(アダマスの双剣)はその真黒の刀身に主人の心を映し出す様な大雨が降り注ぐ窓を映し出していた。

 

見ず知らずの人々を想い…慈しむ事が出来る…"痛み"を誰よりも識っている彼。

自分の所為で父母を…妹を…師を…と、大切な人達に詫び自責の念に駆られ咽び泣く儚い此の愛おしい存在を護る為なら彼女は何でもするだろう…其れこそ、今此の場所に居る自分たち以外を斬り伏せ彼を力づくで掻っ攫う事すら躊躇無く。

 

 

——其れが、血に塗れた一族に生まれてしまった男を護る唯一の救いであり、自分に依存させる事こそが傷付けることの無い道であると信じているから。

 

 

「…俺は…俺は…ッ!!」

 

 

「…彼等が心配なら…せめて七星剣舞祭が終わる迄は留まりましょう……その後は…二人で何処か遠くに…」

 

暫く考え込み小さく頷いたのは…然程時間は掛からなかった、力に振り回されるかもしれない…自分の予想以上に力を得た彼はきっと此れから昔の様に…否、それ以上に周囲に恐れ、疎まれるだろう。

それはそれで仕方が無い、寧ろそれは自分が望んだ事に対する代償であり更に言うなら陰でこそこそとしている鼠に何を言われようが彼は気にしないだろう

 

——其れでも彼は一輝達だけは喪いたくないと思ってしまった…恐らく明日も明後日も…彼等の前では何でもない様に振舞う事だろう。

 

…初めて出来た大事な友達だから。

 




書き終えて思った事、な が す ぎ る ッ!

読んで下さっている方々は本当に申し訳ございませんッ、それから今更ですが御二方、コメント嬉しかったです!
次回は何が起きるかお楽しみ…と、言いたい処ですが外伝ものですね、割と速い時期に投稿出来るかと(笑)
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