「…矢張り、其方の剣は美しい…」
砕城雷との試合から一週間、あまりにも圧倒的な力を見せ付けられ殆どの生徒が悠騎と当ると絶望と共に棄権した…其れは命が惜しいという賢明な判断だったのだが悠騎としては己が力を使い熟す為の時間と最早心の支えと言っても過言ではない恋人と共に居る時間が得られ一石二鳥である。
「ふふ…貴方もですよ、…漸く、昔の貴方に戻ってくれて嬉しい限りです…!」
二人は共に笑い合いながら友人達との想い出の地であり己が何者かを識った彼の地で斬り結び合う、火花…否、最早閃光を幾度となくぶつけ合う光景は言葉以外にも剣で語り合っている様にも見える。
「……実を言うとな、エーデ…余は其方に感謝しておる。
苦労を掛けて尚側に居てくれる其方…慈悲深い其方をもっと識りたいのだ…今代の《クロノス》としてではなく…黒之悠騎として…な!」
十字に振り抜く短長異なる刃をエーデルワイスは難無くいなす、だが此れは大振りを装った謂わばミスリード…尤も、此の程度の誘いに乗るなら彼女は最強の座を欲しいままにはしていない。
「…私も、貴方を識りたいです…現人神等仰々しい肩書きではなく…幼少期も含めた…貴方の全てを…!」
僅かな硬直時間を狙い目として肉薄する白き騎士、——だが…此れすらも黒き騎士による計算であった。
「………余の世界になってくれるのであろう?…余は其方の所有物であり其方は余の所有物…問われれば答えるし問えば答えるのが夫婦(めおと)であろう?」
前蹴り、またの名を喧嘩キックともいう其れを通常では考えられない速さ…少なくともマッハ10は計測されるであろう速度を何ら助走も無く繰り出すが其れに気付いたエーデルワイスは己が二つ名の由来となる双剣で防ぎつつ大きく後方に跳躍する…口許には嬉しそうな笑み、覚醒当初はかなり不安定な部分はあったが彼は今も自分の事を想っているし彼自身の願いも忘れていない…歪みはあるが想定の範囲内、自分が
「そうですね…私は…貴方の妻です、ですが…神話の様に浮気をしたら…鎖で繋いで監禁しますよ?後、子供は沢山作りましょうね…?」
着地が不十分だった為踏鞴を踏みバランスを崩しながらも浮気は赦さないと述べる、だが確りと子供は沢山欲しいと欲を言う妻に迫り来るは細長い剣での刺突の大雨、真紅の細長い剣を容易く使い熟す卓越した剣技は剣の頂に在る《比翼》に鬼気たる迫り具合である。
然しながら一突き一突きが音速を超えた際に生じる衝撃波とけたたましい音を木霊せる其れを的確に対処する《比翼》の剣捌きは流石の一言。
「…余は英雄が紡ぐ物語も神話もあまり好まん、あれらは刻が経つにつれ語り部と後世のヒトが捏造したものが多々ある。
——自らでは何も成せぬ…否、成そうともせぬヒトの願望が…"こうなって欲しい"という心が、…自分の脚で歩こうとはせぬ態度が気に入らぬ。」
軌道を逸らされながら呟くその姿に何か思う処がある白騎士、彼女に反撃の隙を与えぬ様黒き騎士は更に突く速度を上げ暴風を巻き起こす
「…何故、貴方は其処まで英雄や神を嫌うのです?貴方も神ではありませんか…?」
防御に徹する様は『貴方の心の声を…貴方の本当の声を聞かせて下さい…私だけに…』と物語る、神と呼ばれた男が自嘲気味に笑う事を識りながら。
「…余は確かに便宜上、神…否、神秘に値はする。何せ音速の壁を突き破って"無傷"なのだからな……やろうと思えば光速の域以上に動けるだろう、其の場合地上は余が歩いただけで消し飛ぶ事になるが。
だが、力や技は身体の使い方を何万…何億と"刷り込む"事で初めて意味を成す、…英雄や其の他の神も同じだ、彼等の殆どが才覚の差はあれど己が"研鑽で高みへと到った"」
そう、今彼は能力に頼らず覚醒した自らの身体能力と剣技のみで最強の剣士である彼女と渡り合っている、元々は剣が己が霊装とはいえ12歳から今迄は槍で戦場を渡り歩いた彼…ブランクは大きい筈にも関わらずその剣の腕前は彼女との命の掛け合い…打ち合いで更に練度を増し剣士としても槍使いとしても頂に至りつつある。
「——言葉や知識、其れこそ技も生き様も誰から借りても佳いし共感しても佳い、己が内からくる激しきものがあれば、な。
何故なら言葉は言葉でしかないし知識は正しく使われて初めて意味が有るからであり…生き様から何かを学ぶなら其れは尊ぶ事だ。寧ろ彼等の生き方に共感し、其の上で楽な道に走らず血反吐を吐きながら模倣…若しくは彼等を超す気高き意志を持った"
だが、それ以外…ただ単に己が願望を彼等に託すだけ託し、その上でただ彼等の偉業を歪曲し書き綴るだけの…自身の内から何も見出さぬ者が居るのもまた事実。
ゼウスにポセイドン、ハデスは無数にある創作物の中で何故か女体化されているものもあるらしい。
…まぁ、アレ等は戦後の行いが悪かった故どうでも良いが…日本の英雄なら黒鉄龍馬や絢辻海斗…彼等の名前のみだけ知っていようとその者達…偉大なる英雄の心を"識らぬ"者にはその内側迄の模倣は出来ぬだろうよ。」
「…酷いひとですね、仮にも貴方の御先祖様…いえ、広義的に見れば貴方の子供にも等しいというのに…。」
「ふ…親に弓引く子に加減はせぬよ、まぁ…幽閉されてからはエリュシオンで英雄達の愚痴や不満等を肴に酒を飲んだり英雄達の剣技を学んだりしていた様だ余の先祖も…死後は楽隠居はさせて貰えたらしい。
仕方が無い理由は有ったにせよ…かなり面倒くさい事をしたものよな、余の始祖は。」
成る程、要は英雄が嫌いなのではなく英雄という後世の人間が祭り上げ、偶像化した存在に己が"願望を押し付ける"だけの者が嫌いなのか…と納得した上で反撃に出る、が…剣の腹で受け止められ巻き技のモーションに入られるも距離を詰め鍔迫り合いへと持っていく『さぁ…もっと聴かせて?』…彼女の想いに応える様に太く短い刃で互いの第二撃を牽制し合いながら若き時空神は言葉を続ける
「…だからこそ…余は英雄譚や神話はあまり好まぬ。
…未来を担う者に有りの侭の…、泥に這い蹲りながら、愚物と謗られながらも一心に研鑽を積み剣の頂に立った者の
かの有名なライト兄弟も人間が空を飛ぶなど夢物語と馬鹿にされ笑われても其れを成した、…だが…果たして彼等の苦悩を書いた書籍が世に何れ程あろうか……
第六天魔王、織田信長にしろそうだ…うつけ者と言われながらに彼はその野望を後一歩という処迄漕ぎ着けた戦上手だ。
—だが、現実は彼等"英雄"の一部しか伝わっていないのが真実だ。
…それは贋作ではなく最早偽造だ、子に嘘を吐くなと教えねば成らぬ立場の者が既に嘘を吐く等あっては成らぬ事だとは思わぬか?」
悠騎は…《クロノス・悠騎》は笑いながらも泣いていた。
血に流れる記憶から観た敵味方に別れ10年にもわたり争ったオリュンポスの神々や自らが率いたティターン神族、それ以外にもエリュシオンに到れる程清い古代から現代の英霊、戦に拠り其れ等の犠牲になった者…、尚且つ抗う牙を捨て語り部として甘んじるヒトの為に。
何より…始祖の愚息たるゼウスとヘラ、両者以外にも神の犠牲になった無辜なる人々の為に…。
そして現代(いま)を生きる者であるエーデ…否、恐らくは人類全てにこうも問い質している。
『御前達は一度でも英雄と呼ばれる者達、神話として語り継がれた者達の痛みを考えた事があるのか?
若しも考えていなかったのであらば、今一度想いを馳せると良い、其処には眼に見えない"痛み"が彼方此方に転がっている
誰かにとっての英雄や神は…他の誰かにとってはヒトゴロシや悪魔と同義である事がある、眼を逸らすな、事実は事実なのだから。
——……其れでも、彼等を肯定するのであれば彼等に応えるべく…彼等の意志を引き継ぎ
と、自らが残した血を継ぎし現人神の身に潜み、覚醒と共に悠騎の"一部"として現代に甦った時空の神は怒り、悲しみ…そして父性にも似た慈しみの想いで悠騎と共に涙を流していた。
(…嘗て雌雄を決した筈の子の為に怒り、見ず知らずの英雄の為に泣き、其れらの犠牲者の為に哀しむ事が出来る……悠騎、神にしては優し過ぎる貴方だからこその魂からの"嘆きと苦痛"…確かに聞き届けました……けれど、一つだけ貴方の"間違い"を糾すとすればそれは……ッ!)
何時の間にか牽制し合っていた方の剣が彼の手から消えていた、瞬きした一瞬だけの出来事に困惑するが途端悪寒を感じ更に後方に跳躍
ズンッッ!!
「…矢張り避けよるか…此の程度では決まるとは思わなかったがな」
「…貴方位ですよ、剣を投げる瞬間を悟られる事なくギリギリ迄欺けるのは……——魅せて下さい、天上に鳴り響き遍く全てを刈り取る貴方の剣を…!!」
「……、——佳かろう…余の原罪を具象化した劔を以て…英雄達が死後辿り着く楽園の一端、確と其の眼に垣間見るが佳い…ッ!
涙を拭う少し涙脆い時空神を賞賛しながら短長異なる二つの剣の融合に魅入る。
遥か昔…此の世に名を馳せ神々に愛された英雄達の魂が住まう地の名を冠した剣。
闇よりも黒い真黒の刀身と腹全体が血よりも紅い両刃片手半剣は担い手の精神面を現すかの様に無骨、装飾品等で派手に飾られている訳でもないしスマートでもない…見る者が見たら不恰好にすら映るだろう。
——然し其れ故に飾り気の無い…一切の偽りが介入しないある種の"美しさ"に…英雄達の"魂"を体現するかの様な刀身に今世の剣聖は感嘆の溜息を洩らす。
(…美しい……飾る事のないヒトの…生死という生き物としての本質を追求したような剣、此れが…貴方の…悠騎の本質…ッッ!)
そして…己が二つ名を築いた双剣を構え直す。
——此れより先の剣戟は正に剛と柔が凌ぎを競う"剣の極端"…悔やまれるは此の場に神が気に入った人間たる一輝居ないという事実…。
(…其方なら…余の領域に到れるやもしれぬな……現代で誰よりも地を這いずり…もがき、才能に苦しみながらも歩む…余が慈しむに足る其方なら)
確実に命を刈り取りに来る美しき翼の如き双剣を己が魂の形である両刃の剣で防ぎ、地鳴りを起す程の踏み込みを以て押し返しながら此処には居ない友を想う。
ウオオォォンッッ!!
山荘の屋根を足場に高く跳躍しながら其の細身からは到底考えられぬ…まるで何億もの英雄達の雄叫びが暴風をも超える風として具現化した様な剣圧を繰り出し斬り結ぶ様は正に小さき巨神…初速では上回る筈のエーデルワイスは純粋に力で押し返され其の度に歯痒く思う、其れは簡単には斬り込みにいけない彼の鬼気迫る剣氣にもだが此の状況でも友を考えている彼に対する黒い感情がそうさせる。
(……貴方は…私の所有物です…ッ!他の事なんて考えさせません…ッ!!)
火花を散らし押し返された状態から繰り出される横薙ぎの剣圧により大きく吹き飛ばされるが何回転かした後小山の山頂で地を削りながら着地する彼女は狂おしい迄の愛情をぶつけるべく
数秒後、かなり離れていたにも関わらず流星の如き勢いで肉薄してきた剛の者は通常なら到底除去出来ない様な岩の群れを一太刀の元に薙ぎ払い、剰え白き閃光と化した番の上空からの双刃の振り下ろしを龍が昇るが如き斬り上げで迎撃、気流を作り出しながら再び宙を舞う彼女への追撃として天高く跳躍し
「…ッ……何て威力…何て強さ…っ!」
小さいとはいえ一つの山を丸ごと"叩き潰し"地盤を砕き、数十キロ四方へと地割れを引き起こした上で未だ追撃しようと左右非対称の双眸を以て真っ直ぐに"自分だけ"を捉える愛しき存在に身を震わせながら愉しそうに嗤う白き剣聖。
「矢張り…貴方との戦いは愉しい…ッ、もっと!もっと愛死合いましょう…ッ!!」
「ふふ…不埒な番よ、——だが、此れで終いよ。
幾万幾億の星となりし英雄よ、今こそ其方等の劔を…誓いを引き継ごう…ッ!伐刀"神技"
大規模に地形を変える程の戦いを以てして愛を紡ぐ剣戟に息を呑む存在が居る事に気付かぬ侭二人の
「…ッ、此れは…!」
一太刀で山を圧し潰す剣圧、其れに加え遍く時空間を…全てを"斬り裂く概念"を乗せた禁技を超えるまさに神技を放つ。結界に護られているとはいえ其れすらを否定する様な技の直撃は避けるが余波は凄まじいもの、それに堪える白き騎士は意識が遠退く中で微笑む
(……悔しいと思える戦い、貴方となら…更に…っ!)
—————
———
「……これで…私の23勝22敗一引き分けですか……最初の頃に比べて力は使いこなせている様ですね…というか馬鹿力過ぎます、未だ腕が痺れていますよ…?」
想像を超える速度を以てしても同時に襲い掛かる剣には対応し切れず打ち倒されたエーデルワイス、何合かの余波には剣で耐えていたらしく腕が痺れたと言い抱き抱えられている…尤も鎧諸共時間逆行により再生されている為ただ単に甘える為にわざと抱き抱えられているだけだが。
頬を膨らませる愛妻に苦笑しつつも先程の言葉に対する答えを紡ぐ、さしものエーデルワイスも頬を染める様は貴重だろう。
「…次も勝てば同点だな、力も技術も…あって困りはしなかろう?…少なくともあれば護れるものが増える。
——……浮気はせぬがややこは其方次第であろうな、何せ此の身は
「…えっちですね…でも、貴方が与えてくれるものなら…何でも受け入れますよ…?」と冗談ぽく笑う彼女の首筋に唇を落とす様は鴛鴦夫婦そのものだ
が、悠騎は此処で一つの願い…否、救済を口にする
「……余の命は其方のものであるが…願わくば、力無き善良なるヒトの為に在りたいとも思う…、無論…一番大事なものは何があっても護るがな。
——もう二度と…俺の様に絶望する奴を増やさない為に………生きる価値の無い俺が出来る事をしたい…ついてきてくれ、エーデ。」
「…勿論です、貴方が人を護るなら私が貴方を護ります。一度は絶望して…今でもその中を彷徨っているのに…もがいて…足掻いて…気高い
—ですが、一つ訂正するなら価値はあります……貴方は私の番…白と黒…異なる翼でも…」
きっと、誰をも救える筈です…と微笑む表情に救われつつある自分に自己嫌悪を覚える、死んだ片割れはこんな感情は学べなかった筈だから…でも、同時に彼女が居なければ絶望から立ち直れなかったのも事実…だから、優先順位では彼女に軍配があがるのは致し方無い。
一番大事なものは護る、と優先順位を付けている時点で正義の味方では無い、況してや勇者など烏滸がましいし英雄を名乗る気はさらさらない、神とて全知万能ではないのだ…ヒトに比べて遣れる事が多いだけで基本はヒトと変わらない。
己はクロノスと同じ《時空》を生れながらに制する力を持っているだけ…後は…《クロノス》として覚醒してからは巨神と恐れられた異常な迄の筋力を手に入れたが不思議と筋肉量が増えた様には思えない。
其れだけの力を持ちながら、全てを救えると思い驕り高ぶる気は全くないというスタンスが黒之悠騎という男だった。
——されとて、ヒトとしては正しい在り方ではあろう。
悠騎らしいと微笑みながら指を絡ませる、
"覚醒"の際に霊装が完全に別物に変化し人柄迄変わる等何人もの覚醒した騎士を見てきたエーデワイスは実際に見る迄は信用出来なかった、だが…今は信用している……最愛の男性の一部分であるから。
何より、口調こそ違えど本質的な処では同じなのだ。
彼は無害であり、他者を思い遣れる善良な人間が救済を求めたら迷わず手を差し伸べるだろう
——神とは真の意味で救いを求める者には手を差し伸べるものだと、そうで無ければ己が己自身を神とは認めないと彼の中のヒトとしての部分が強く願っているから。
尤も、《クロノス》としての彼は敵として相対した者に情けは掛けない。
掛ければ戦士としての誇りを傷付けると弁えているからでもある。
力量差があり過ぎた上で潔く降参すれば佳し、しなければ…砕城雷の様に一度は命を刈り取られる定めにある。
(……明日、生徒会を覗いてみるか……覗いた処で火に油を注ぐ様なものだが…)
元を辿れば自分が蒔いた種だ、ならば徹底して"悪"として対するのがせめてもの彼等に出来る事である…願わくば、生徒会メンバーに当たる時は誰でも良い、棄権してくれれば良いのだが…。
ふとガサガサッという音がした、学園関係者ならば即座に記憶を改竄せねばならないが物音の主は二人も良く知る人物であった。
—————
———
「あはは…お邪魔するわね…?」
ステラだ、手には《レーヴァテイン》が握られており恐らく鍛錬にでも来たのだろう。
「…ステラ、剣の鍛錬ですか?」
「ぅ、うん…まぁ…ね?…二人の戦いに圧倒されちゃったわ……」
「そう、か……」
頭を殴られた様な衝撃が悠騎に走る、結界は張っていた、つまり結界を張る前からずっと潜んでいた事になる…自分が其処まで余裕が無いとは思わなかった。
更に言うなら…あの会話も聞かれていた可能性がある、果たして何処迄理解が行くかは解らないが…
「……ユウキ、あのね…っ!「悠騎、どうやら彼女は私に用事があるようです…名残惜しいですが一度降ろして下さい」…っ…」
「あァ…解った…」
ほんの少し名残惜しいと感じるも彼女を降ろす、何かを言い争っている二人の会話をぼーっとしつつ聞くがエーデに任せておけば問題は無いと微笑みを浮かべるが直ぐに自己嫌悪に襲われる
(………あの試合を見ても…皆は相変わらず俺に話し掛けてくる……早く…嫌われなければ……じゃないと…皆に…)
危害が及ぶ危険性がある、運命の内側と外側に"在る"者の違い…エーデルワイスや他の魔人達…忌々しいがあの男も外側に到った者…其れ等は未来を創る力を持った存在
だが、此の身は破壊神の力と時空神の力の両方を得た身。
何が起こるか解らない、若しかしたら既に何か起きているのかもしれない…自分が知り得る未来に歪みが出るやもしれない…。
…黒鉄一輝が七星剣王になるという、今となっては自身が望む夢の一つでもある輝かしい未来が。
其れなのに…障害になるかもしれぬというのに離れたくないと願うのは…自分勝手でエゴの塊だ、其れが余計に悠騎を苛む
(……エーデは本当に甲斐甲斐しく世話をしてくれる…彼奴に相応しく在る為にも……皆を護る為にも…強くならなければ……もっと…もっと…もっと…ッ!)
無意識に掌から血が出る程手を握り締めている、彼自身は気付いているのだろうか?
彼の考えは一輝等を結果的に傷付けている事を。
確かに人を護りたいという願いに変わりは無い…寧ろ今迄以上に切に願っている。
そして願うばかりでは無くエーデとの語らい(死合い)で其の身は学生騎士では最早比肩する者が居ない程…否、下手をしたら西京寧々、新宮寺黒乃の現旧世界ランキング3位の両名が束に掛かっても軽くあしらえる程に強くなっただろう、彼が知り得る中で純粋な戦闘力で止められる存在が居るとしたらエーデルワイスか忌わしき祖父の二人のみという程力を得た。
けれど…代わりに何か大事なものが砕けてしまった、そして其れに気付かぬ侭力を今も求め続けている。
——自身が狂った原因であるにも関わらず。
(……護る……護り抜く力を得てみせる…ッ!)
否…本当は気付いているからこそ、自分を責め立てているのか…両親と妹…大恩ある師匠の死を招いた自分を罰する様に…贖罪を求める様に。
「…ユ__ウ____キッ!…ユウキッ…!」
「……すまない、少し考え事をしていた。何だ?」
「…貴方の意見を聞きたいので彼女の話を聞いてあげて下さい」
考え事をしていた彼にふと話が振られる、エーデルワイスとしては外の情報等本来与えたくはない……与えたくはないのだが、友人達の事で思い悩む位なら今の此の時期だけは少し位の自由は赦す事も番としての器量であり自虐的になっている彼の為になると信じての事だった。
小さく頷くステラは何だか言い難そうにしていたが意を決したのか口を開く
「……えっと…ね?実は私、イッキに…告白…されたの…」
「……ふむ、それは祝福すべき事だが…其れがエーデや俺を尋ねに来た理由と何が関係あるんだ?」
友人として友人の幸福を祝福するのは当たり前の事と今出来る
「——ねぇユウキ…もし、もしもよ?私が貴方に一日だけ…その、…恋人の予行練習をお願いしたら…引き受けてくれる…?」
思わず吹き出す、何を言っているのだ此の姫は…!?
「な、何を言ってる?…つまり、あれか?君は…」
「………淫乱ピンク…」
ボソと呟かれる言葉に「違うわよ!」と赤面するステラ、然し…此れは如何受け取っても…。
「……その…恋人とか、良く分からないの……イッキは優しいし、強いし…逞しくて…でも、…他に気になる人も…居て…イッキの気持ちにちゃんと応える為に協力…して?」
「……成る程、つまり私に斬られに来たのですね?」
「ッ…待ってくれ、エーデ…!…ステラ、君や一輝には多大な恩がある…だから…本来であれば引き受けたいが……俺はエーデに永劫の愛を誓った、彼女を裏切る訳には行かない。
だが………エーデが同伴するデートであれば…俺は引き受けても良いと思う、エーデも二人には借りがあるんだ、何某かの方法で返すのが道理だろう?」
双刃を構えた最愛の女性を制し友人の助けに成りたいと願い出る、エーデルワイスとしては何時でも斬り伏せて悠騎を略奪する事も出来た、寧ろその方が手っ取り早かったが…確かに、彼等の御蔭で厄介事を免れたのは確かだ。
「………………解りました、では今週の休日にでも如何ですか?場所は私がチョイスします。
尤も悠騎は私の所有物なのでステラが恋人の何たるかを知る迄…ですが。」
「……ありがと、じゃあ明日が終わったら休みだから…その、今の内にユウキとエーデルワイスが如何言う事をしていたのか…参考迄に教えて?」
さて困った…実を言うとエーデルワイスとはまともなデートをした事が無い、一応アリスからカツラと眼鏡は貰ったのだが…。
仕方無く取り敢えず自分達の今迄の逢瀬を振り返る事にした
「…最初は…あのショッピングモールの事件の際だ、あの時は無理矢理組み伏せられたな…エーデに」
「組みッ…!?」
ぼんッと煙でも上げるのでは無いかと思う程赤面している、…聞くべきでは無いと思うが彼女は興味津々だ
「あの時の悠騎は可愛かったですよ?『初めて…だから…』と瞳を潤ませている姿は筆舌に尽くし難かったです…」
顔が赤くなるのはステラだけでは無く悠騎も同じだった、然もあの時は女人同士に見える格好だ…そっち系の紳士淑女の皆様が観れば悶える事は必然であろう。
「あんた達あそこで何してたのよッ?!…っ、ほ、他には…?」
「何でしょうね?…その翌日、彼の部屋で誘惑していたのですが…」
突っ込まずにはいれないがちゃっかり先を進めるステラ、彼女も歳頃の乙女なのだろう…尤も、エーデルワイスも意地悪な笑みを浮かべながらあの時の事を思い出し頬を染める辺り乙女だ。
「……そういえばあの時の下着、最近見掛けないが最近は下着の面積が狭まってきているのは気の所為か?」
「!?な、ななな…ぁッ!?」
「……悠騎、それは言うべき事ではありません…貴方には私の全てを識って欲しいから…」
前々から不思議に思っていた事を聞く悠騎だが火に油…否、遺跡にダイナマイトを投げ込むが如き行為だ、ステラの心のライフはもう0に近かったが今ので完全に昇天し、当の言い当てられた彼女はといえば変化に気付いてくれていた彼の首に抱き着き耳許で囁き掛ける始末
「今はステラの「ぷしゅぅ…」……いや、帰るか…流石に此れでは話云々等言ってられないしな…?」
……倒れ込むステラの手を掴み最低限後頭部から転倒するのを阻止する、結界を解除すると辺り一面草木も生えていない荒地であった山々や木々は再生し元の状態へと戻るのを確認し背中にはエーデルワイスの胸を、腕の中にはステラを抱き抱えテレポートを以て部屋に帰還する
—————
———
「……其れでは、私は上のベッドを使わせて頂きますがくれぐれも彼女を襲わないで下さいね?
—じゃないと、貴方を殺して私も死にますから。」
「……寧ろ、其れでも構わないが…エーデには生きていて欲しいぞ?」
「…なら、しないで下さい。私の知る限り私を殺せるのは貴方位ですから…」
真剣な眼差しに頷き唇を重ねる、ステラが気を失い仕方無く一輝に事の次第を話した処『そっか…ステラの答えを待つって決めたし、申し訳ないけど暫く彼女の事をお願いしても良いかな?』と彼女の事を頼んできたのだ、悠騎自身一輝の恋敵に成るつもりは無いし何より悠騎には将来を誓った存在が居る…其れを解っているからというのもあるが純粋に人柄の良さを買われての事だろう。
「…念の為に2段ベッドを入れてもらっておいて助かったな……お休み、エーデ」
お休みなさい、という返事を聞き灯りを消す、自分が使うベッドにステラを、上のベッドをエーデに使わせ己はソファーに横たわる
(……何なんだろうな…此の状況は…)
恋人であるエーデは兎も角、ステラに自分が気に入られる要素があるとは思えない悠騎は寝返りを打ちながら考えている内に眠りについた…理から外れた身とはいえ休眠はする様だ。
其れから暫く経ち
「……ん…ユウキ…?」
時計の針を見ると午前3時、悠騎は疎かエーデすら眠っている時間に私、ステラ・ヴァーミリオンは目を覚ました。
何時もの部屋とは違う部屋、違うベッドに最初は戸惑うが彼の…黒之悠騎の寝顔に状況を把握すると同時に納得した様に頷く
(………ユウキ、私の我儘に付き合ってくれたんだ…)
あどけない表情…先程見た剣神の如き剣士としての表情…何か、得体の知れないものに憑かれた様な言葉遣い…ユウキ…私達が知らない間に貴方に何があったの?
……エーデと言い争いをしていた時に、何某かの理由で自分を責め過ぎて今にも消えてしまいそうな表情…其れでも私やイッキを含める何時もの皆に無理を押し隠しながら微笑む儚い表情…其れら全てが脳裏に過る。
(どの
あの日、私達の誇りを…生き様を、歩んで来た道を許容して心無い言葉から盾となってくれた大切な友人
最初は、悔しいけど憧れ…彼の中に気高い"騎士"を見たから、イッキに負けた時も其れは同じだった、其れからは良くトレーニングも一緒にしたけど最近は彼がトレーニングをする日は少なくなってきた…最初から居たのかすら不安になる程に。
気付けば私はベッドから出て指先が彼の頬に触れる…身動ぎに鼓動を高鳴らせながら指は頬から唇にゆっくりと這わせてしまう…こんなはしたない事…いけないのに…っ
そして、私が手に入れられなかったものを手に入れた彼女に対する羨望、嫉妬を現す様に静かに瞼へと指を伸ばし開かせ銀色の瞳を覗き込む…最初は見間違いかと思った…けど、矢っ張り見間違いじゃない…
(…この唇も…この瞳に写るのも…あの人……可笑しいわよね、私は…イッキが好き…なのに…)
失いかけて初めて気付いてしまった想い、深い闇の中でも私達の幸せを願う優しい彼に…私は…気付けば涙を流していた、気付かない間に私達は護られていた…でも、ユウキを護る人は…一人でも居たの?
『彼には私だけが居れば良い、—貴女達は彼に何もしてあげられないし、する必要がありません。』
違う…ッ!私は…うぅん、イッキもシズクも…アリスも彼を護りたい筈だし…私は…たまに見せるユウキの笑顔が好きで…
(…そっか…私は……好きなんだ、二人とも…っ)
『私は…イッキと同じ位にユウキも…好き…大好き…ッ…』と…彼女以外の二人が寝静まった筈の部屋には…涙に濡れた床と切なげな声が静寂の中に消えていった。
次回は寄り道して何かを書くかデートにするか悩み中です、悩みながら書いてる分は楽しいので(笑)