「あらやぁだ、お兄さんたらぼーっとして…任務も終わった事だし早く帰りましょ?」
SPである黒服の男達数十人の
「…あァ、そうだな…だが、御前の能力ならターゲットだけを
「うふふ…まぁそうなんだけどね、私がお兄さんと一緒に居たいか「……」うそうそっ、上の命令なのよ、お兄さんは何かと使えるけど信用ないから見張っておけって!だから鋒を向けるのは止めて!」
「…ふん……俺は便利屋じゃないし弱者に犠牲を強いる解放軍に疑念を抱いてるだけだ——ほら…帰るぞ、逢いたい奴が居るんだ。」
無言で
「……御前は仮にも今回の仕事の
当時は魔力制御に難があり自分以外を連れてテレポート…長距離の空間転移は危険を伴う為文明の利器、車に頼るしかなかったのだが此の小さな優しさがアリスの中に彼を想う気持ちを徐々に芽生えさせたといっても過言ではない。
(…ふふ……こういう処で好きになっちゃうのよね…)
「えぇ、何なら抱き抱えてくれても…冗談よ、それにしてもお兄さんが逢いたい人って…若しかして例の女の子?」
若干のヤキモチも踏まえ肩を貸して貰いながら強奪した車に乗り込む、本来騎士では無い二人…正確には悠騎が運転するのは違法であるが此の場合は致し方ない事とも言える
アリスの問いにあァ、と短く答える悠騎…その横顔に面白く無さげに頬を膨らませる
「サラさん…だったかしら?絵描きさん…お兄さん、他の事は大抵何でも出来るのに絵は壊滅的に下手だものね、教えて貰ってるの?」
つい意地悪を言ってしまう、だが面白くないのも事実だ…此の身が女であれば…と最近は呪い始めてすらいる
「…煩い、振り落すぞ。……まぁな、ミミズが這いつくばった様なロケットよりは最近はまともなものが書ける様になった気がする…」
(…あれには私も暫く固まったもの…何を如何したらあんな得体の知れないものが書けるのかしら…?というかロケットだったのね…二足立ちしたおこじょに見えたわ…出発前に見せて貰ったあれ)
振り落すと言いながら追っ手を撒きつつアリスの身体に障らぬ様に注意して車を走らせる悠騎の言葉に内心苦笑する、そしてふと…彼が何故
「…ねぇお兄さん?何でお兄さんは解放軍に…いいえ…此方側に入ったのかしら?」
「…其れを聞いて如何する?上にでも密告するつもりか?」
「いやね…純粋な興味よ、好きな人の事を知りたいと思うのはイケナイ事かしら?」
「………良いだろう、此のルートだと時間は如何しても掛かってしまう…暇潰しに掻い摘んで話してやるよ、俺が
アリスに語られる彼の物語、それは今となっては
未来では名も無き神を構成する悲しい物語
—————
———
「おにいさま!早くしないとお誕生日会に遅れちゃいますの!」
「毎年毎年嫌になるよ…ぼく、そんな事するよりもっとパパとママと一緒にいたいな…」
可愛らしいドレスに身を包んだ白い髪をツインテールにした女の子…ぼくの妹の春姫は生まれつきアルビノという病気だ、そしてパパとママはお爺ちゃんのお仕事のお手伝いで一緒に居られる時間が少ない
「むぅ〜っ、今日は学校のお友達やカナちゃんも来るんだからはーやーくーッ!」
「わわ…っ、ひっぱらないでよ春姫!わーーっ」
パパが言ってたけど昔はだいそんふじょしッて言って女の人が男の人を支える風習があるみたい…もっともぼくと春姫にはそれは当て嵌まらないけど
「おにいさま!それを言うなら男尊女卑ですわっ」
…こうやってぼくの考えてる事まで言い当てるのはやめて欲しい
2時間後
「はぁ…本当にめんどくさい…」
お爺ちゃんは普段は面白いのにこういうイベントの時は真面目で嫌になる…いっぱい居る大人のひとがぼくに話しかけてくる…ご機嫌とりならお爺ちゃんかママ達にすれば良いのに…食べ飽きた高級料理……春姫の作った焦げた卵焼きの方が温かみがあるよ、ぼくのが美味しいけど。
…救いがあるとしたら…
「うふふ、いやですわみっちゃんたら…♪」
楽しそうな
「ご、ごめんなさいっ、さっちゃん!」
何?どうしたの?
「うぅ…私のお人形が…」
「春姫ちゃんひどーい!」
何かいやな感じがしてぼくは春姫達の元に向かう、周りの大人達も気付き始めたようだ
「ごめん…春姫が何かしたの?」
「あ、悠騎くんだ!あのね、春姫ちゃんたら
「うぅ…っ、おにいさまぁ…っ」
見ると腕がもげた人形…春姫も皐ちゃんも泣いてる……仕方ないか…
「そのお人形…ちょっと貸して?」
「え?…ぁ…っ!」
了承を得る前に人形を手に取り"腕が捥げる前"に時間を戻す…最近やり方を覚えたぼくの特技の一つ…これで皆喜んでくれると人形を渡そうとするんだけど
「ねぇ?どうして…皆ぼくを見て怯えてるの…?」
さっきまで普通に話していた女の子達も…遠巻きに見ていた男の子すら怯えてる…周りの大人達はブレイザー…?とか概念干渉系ですか…流石《時空の翁》の御孫様ですな…とか良くワカラナイ事を口にしているけど知った事じゃない…治した人形を皐ちゃんに手渡そうと向き直る
「ひ……っ…」
「ごめんね…春姫は幼稚園の頃からばか力で多分触っちゃっただけなんだと思うから…はい、治したよ…っ!?」
バチンッ…と手を叩かれ人形を落としてしまう…手を叩いたひとは…
…目の前の皐ちゃんだ
「こわい…っ、こわいよぉ…っ…!」
え…?
「黒之、なんでおまえそんな事が出来るんだよ!?人間じゃねーよ!」
何で…?
「そういや春姫も髪の毛白いしなっ、悪魔なんじゃね?!」
ッ…!
ゴッ!
「いてェ…ッ!何すんだよ黒之ッ!」
「ぼくの事はどうでも良いよ…でも、春姫は悪魔なんかじゃないッ!取り消せッ!離せ…離せよっ…ッ!!」
泣き噦る春姫に迫ろうとしていたクラスメイトを殴る、周りの大人達に止められ引き離されるけど彼等は最後迄ぼくを…《悪魔》と呼んでいた
—————
———
その次の日から、彼等や噂に乗じたクラスメイト達の虐めが始まった
下駄箱にカエルやトカゲの死骸を入れられその度にお墓を作ってあげたり
トイレの個室で用を足している時に泥水を掛けられたり
靴に画鋲を入れられたり
体育館シューズを隠されたり
飼育係だったぼくが可愛がっていた小鳥を偶然を装い故意に殺したり……流石にこの時はぼくも首謀者を殴ったり蹴ったりしてやり返したけど
そんな事をされてもギリギリ平気でいれたのは、彼等が春姫には何もしてこなかったからだ……大好きな妹を護れているなら…ぼくは笑って堪えてやる
そんな事が一年以上続き、8歳の誕生日を迎えようとしていたある夜
「…お兄さま…ッ…」
春姫が僕のベッドに入り込んできたのだ、最初は意味が分からなかったけど何だか様子がおかしい…
「私は…お兄さまに何も返せませんけど…せめて…ん…っ…」
!?な、何…?これ…ちゅーだよね?吐息が荒い春姫を押し退けようとするけど本気で押し返したら春姫が転んじゃうかもしれない…や…っ…
「んん…ッ…は、る……っ、した…いれちゃ、…ゃ…っ!」
「ん…っ…ふ……かわいい…おにいさま…」
家族…妹とちゅーなんて普通じゃないと首を振るも春姫は何故か首輪を持ってる…これ以上何をするつもりなの…?
「…これからは…私がお兄さまを護ります…だから…ね、私の
何?僕は…犬や猫じゃないよ?ご本でお勉強って…僕も学校でしてるものじゃないの?
困惑する僕の首に無理矢理首輪を付けようと腕を伸ばす春姫…何だか良く分からないけど普通じゃない事は理解出来る
後退りして何とか逃れようとしたその時
「…悠騎?春姫?未だ寝ていないの?」
ママだ、ドアの前で部屋の様子を伺うママが来てくれたおかげで何とか助かる
「………お兄さま、明日の夜…続きをしましょう」
ゾクッ!
「っ………ぅ、ん……ママ、今開けるよ…」
僕の知らない春姫の眼に理解の及ばないナニカを感じ震え上がる…でも、ママを待たせていたら怪しまれちゃう…から、ドアを開けて笑顔で迎える
「…悪い子ね、でも丁度良いわ…1階に降りてきてママとパパのお話を聞いて……貴方達二人にとって大事なお話なの」
「ごめんなさい…春姫、起きてる?パパとママがお話があるって…」
僕は…ウソをついた、ついさっきまであんな事をしていたんだ…春姫は起きてるのに、春姫を…大切な妹を護りたくて初めてママにウソをついた
「ん……起きましたわお兄さま…行きましょ…?」
『起こしてくれて、ありがとうございます』…と微笑みながら耳許で囁く春姫は…何時もの春姫じゃない様な気がして何だか怖い…
—それから、パパとママの話を聞いた気がするが詳しい内容は覚えていない…隣に座る春姫がたまに送る視線…"私の大好きなお兄さまは…あの事をバラしたりしませんよね?"と物語っている気がして話なんて耳に入らない…
「……と、今話した様に悠騎、御前には本格的に
「……はい、パパ…あの…今年はお爺ちゃんは来るの…?お爺ちゃんは英雄なんでしょ?僕…お爺ちゃんにも鍛えてもらいたい……強くなりたいんだ…!」
僕はあの誕生日の日以来からパパやプロの
僕の意思を汲み取ってくれた上でパパは首を振る
「……お爺ちゃんは…ダメだ、悠騎…御前は此れからどんどん強くなる…昔、七星剣王になったパパが言うんだ…間違いなくな?
——でも、今はお爺ちゃんに逢っちゃダメだ……解ってくれ。」
?…パパ…泣いてる…?
「悠騎…春姫、もし…もしもパパやママが二人を残して遠くに行く事になっても……2人は良い子で待っていてくれる?」
…ママ……?
「………春姫はちゃんと待ちますの、お兄さまと二人で…」
おかしい…何か…何かが…
「……二人とも、すまなかったね…もう寝なさい。明日は誕生日…なんだ…」
何かが引っ掛かる中パパとママは微笑みながら優しく僕達の頭を撫でてくれる……安心出来る手……陽だまりみたいな暖かさ……さっきまでの不安も和らぎ眠気を感じ小さく頷いてベッドに戻る…
そして……
—————
———
「…あれから二年…習わし通り、主等を殺そう…ッ!」
「く…ッ!悠騎ッ!春姫ッ!逃げろッ!!」
何故か何時もの誕生日と違い誰も出席していない1階中央のエントランス…其処では鴉の様な黒い羽が付いた鎧…おっきな鎌…まるで死神みたいなお爺ちゃんがパパを足蹴にしていた
「パパッ!?」
血反吐を吐きながら僕と春姫を背にして双刀の
「お父さん…ッ!悠騎っ、春姫っ、早く…ッ!」
「………弱いのぅ…哀しい程に。
——《弱さは罪》所詮此の世は弱肉強食よ……強ければ生き、弱ければ死ぬ…そういう世界に生まれた以上弱い侭では何をされても文句は云えないと識れ。」
鎌が円を描くように投げパパを牽制しながらママの拳圧が飛び交う度に家が揺れ、柱を砕く拳を指先一つでいなすお爺ちゃん…小さい僕でも解る、お爺ちゃんは強過ぎる……其れも底が見えない位に…!
「っ、お兄さま…!早く逃げましょうっ!」
春姫が腕を引っ張る、気付けば激しい戦いで家に火が付いて燃えている…でも、このままじゃパパやママが…!
「やめて!パパとママを殺さないで…ッ!」
「……終いじゃ、時空斬《じくうざん》…!」
「ぐあァッ!」
「か…ふ…ッ」
「パパッ!?ママァッ!?」
僕だけが、何をしたのかが"視"えた
大鎌の刃先に一種の亜空間を極薄にしたもの纏わせコーティング、"叩き斬る"という概念とした其れを持って一薙しパパとママの胴体周辺の空間に刃先を覆う空間を接続させ遠距離から叩き斬った…斬ったんだ…パパとママを…ッ!
「…その様子、"視れた"のじゃな…その歳で大したもんじゃ…じゃが…
——逃げんかいッ、戯けが…!」
「良くもッ!良くもパパとママをッッ!!」
僕の
何度も…何度も!激しく金属音を鳴り響かせて斬り込む僕だけど此奴には全く届かない…っ
「……歳の割には筋は良い、才能もある………がッ、儂には届かん…ッ!」
ッ!?
足払いを受け転倒する前に服を掴まれ上空へと投げ飛ばされる…凄まじ過ぎる力に僕は…無様に地を這う
「お兄さまッ!?」
「……安心せい、御主等は殺さぬ様に彼奴等から嘆願は受けておる…本来…双子等産まれる筈の無い"可能性"じゃ…賭けてみる価値はあるからの
——じゃが…儂を恨む為にその背に消えぬ傷は刻ませて貰うぞ…!」
大鎌を振り上げる気配を感じる…身体を強く打ち付けられて動けない…
(パパ…ママ…ごめんなさい…っ…春姫…にげ、て…っ…)
死を覚悟した、その時
ザシュッ!
「なッ!?」
彼奴の驚いたような声が聞こえた…顔には赤い血が…っ!?
「…にぃ…ま…」
胸に刺さった鎌は引き抜かれる…代わりに春姫が横たわる…静かに……無慈悲に…(うそだ…いやだ……っ)
「お…ぃさ……」
力なく差し出された腕を掴む…僕は…此処に居ると伝える為に…(こんなのは…いやだ…ッ!)
「…いきて…ね…おにぃ…さま…」
涙が止まらない…何で何も言えないのだろう…こんな時に…ッ!(まって…ッ…逝くな……逝かないでくれ…ッ!!)
「……だいすき…だよ…」
「ぁ……春…姫……?」
春姫から力が抜けていくのを……命が抜けていくのを感じる……
「…儂の血を継ぐなら強くなれ…でなければ…何も護れぬぞ?」
「あぁ…あぁァァァァッ!?!」
無情で…無残で、何ら実りのない死を目の当たりにする…僕は……ッ…春姫…ッ…パパ…ママ…ッ…!
「………る…さない…」
内側から"チカラ"が溢れてくるのが解る…でも…パパもママも…春姫も…ッ!もう…戻ってこない…ッ!!
「……——…佳いぞ、想定外じゃ……もっと憎め…!儂を殺せッ!」
何かを言ってる…でも…耳に入らない…
「ゆる…ない…ッ!」
「来るが佳い…ッ、儂を…終わらせてみよッ!!」
ぶちッ…!
「ゆるさないッッ!!ぶっ殺してやるッッッ!!!」
—————
———
僕は…
「…俺は、"何か"を突き破った様な感覚を感じた後の記憶をすっぽりと無くしていた、その後の事もぼんやりとだが…如何やら俺は師に発見される迄傷だらけで路地裏に潜んでいた様だ。
ボロボロの布切れで暖を取り…残飯を漁り…到底ヒトとしての尊厳等無い時間を過ごした記憶はある…」
「…………そう…」
車を走らせ始め随分と時間が経った、追っ手を撒く為に最適であるが険しい道を走り終え目的地である孤児院の前迄辿り着く。
同時に彼の人生の転機である8歳迄を語り終えた悠騎は今は証拠である車を塵も残さず破壊している最中だ。
「……お兄さんは…私みたいな仲間が居たのかしら?前に話したわよね…私の
恐らくその時に居たのか、と聞いているのだろう…悠騎はゆっくり首を振る
「……俺には仲間等居なかったよ、先生に保護されてインドに渡ってからは修行や勉強に勤しんでいたから尚更…な。
寧ろ御前よりマシかもしれんぞ?…生い立ちを聞くに…」
互いの過去を知りアリスは思う…捨てられる事と目の前で両親を喪う事…何方も…比べる事が出来ない"痛み"…アリスは初めて彼の強さに対する姿勢を垣間見たのだ。
「……ま、人間誰しも辛い事はあるって事さ…「あ!ユウキあんちゃんだっ!」…悪ガキ共め…朝早く何してたんだ?」
小さい男の子や女の子、年若いシスターが出迎え悠騎の背を押したりじゃれついて来るのを呆気に取られ見守るアリス、二階の窓からは筆を取るエプロン姿の女性が此方を見ている
「ちょ、お兄さん?この子達は…?」
「何って…孤児院のガキ共だよ、サラは世界中を渡り歩いて絵を描いているが今は此処でガキ共に絵を教えながらモデルを探してるんだとさ」
きゃー、わーっ…と朝焼けの空の元孤児達の歓喜の声が…元気な子供達の相手をする姿はとても敵にも味方にも恐れられる存在とは思えぬ程、最初は目を疑ったアリスもふ…っと微笑み彼に追従する様に
「うふふ、お兄さんばかりじゃなくて私も遊んであげるわよ〜♪」と子供達と戯れる、その姿もまた《黒の凶手》と呼ばれる暗殺者ではなく一人のアリスとして映えるものであった、同時に…アリスは悟る事になる
(…お兄さん…貴方の
—————
———
「……その、動いちゃダメなのか?」
子供達の相手をしていたが途中でサラに呼び出され絵のモデルを頼まれ致し方なく椅子に座っている悠騎、昔から本を読んだり鍛錬したりと両極端な質であった為ただじっとしているのは性に合わない様だ
「…ダメ、じっとしてて」
絵を描くのに集中しているサラは露出度の互い姿でキャンバスに色を与える、日焼けした肌に射干玉の髪…割と簡単そうに見えるが被写体の内面を映し出そうとするとかなり難しくなる
「……俺なんぞ書いても楽しく無かろう…?」
動けないならせめて会話でも…と思っての会話振りだが思いの外サラは楽しそうだ
「…私は楽しい、それに孤児院の子達の為だから…」
そうか…と一言だけ返す悠騎は窓からの風景を眺める事にするが不意にサラから声を掛けられ姿勢を正す
「……覚えてる?私と…あの絵を見た時の事…」
あれは…彼が彼の師を《大教授》に師を診て貰う為に遠い異国へと、出向いた時の事だ
—————
———
『……良い絵だな…』
『……こんな絵の何処が良いの?こんな…ろくでなしの絵…』
彼女、サラ・ブラッドリリーの父親は有名な画家では無い、寧ろ無名であり一つの絵に熱中した結果彼女を放ったらかしにし…挙句、キャンバスに突っ伏す様にして絵の完成を待たずに命を落とした
彼女は自分から父親を奪った絵を憎んでいた、それでも…父親との繋がりを失いたくなくて…其の為に《大教授》を頼りに病弱な身体を治す為に此の地に来たのだ。
そんな矢先…アジア圏の人種柄だろうか、自分より少しだけ幼そうな少年に絵を褒められ憤りを隠しながらも呟く
『…そうか……でも、俺にはこの絵には気高い戦士の"魂"を感じる』
『っ…!』
何を言ってるのか解らないという
『……誰に笑われても…謗られても…一筆一筆に全身全霊をかけ…否、魂を乗せる様な良い絵だ……誇れよ、あんたの大事な誰かの絵は…良い絵だ、嘘が介入しない、一筆一筆が此の絵を描いた者の足跡の様で…見る者の魂を震わせられる絵だよ、完成した絵が見たいな…今度は』
じゃあな、と出口へと向かい踵を返す彼に聞こえるかどうかの声音で呟く
『……どうして?』
『ん…?』
振り向く彼に問い掛ける、この人物なら…答えを持っているかもしれないと期待して
『どうして…私の大事な人って解るの?』
何だ…そんな事か、と彼女に近付き指先を目尻に伸ばしながら…
『……ほら、泣いてる…』
『…っ…』
気付けば涙で衣類を濡らしていた…あれ…どうして…?…と涙を拭うも止め処なく溢れ、流れる度に涙を拭う少年はただ涙を拭いながら言葉を続ける
『…あんた、その絵を見て複雑な
…今度観る時は完成した絵を笑顔で見せてくれよ?』
『ッ……ぅん…っ…うん…ッ…』
涙を拭い微笑む少年、それは痛みを識り喪う喪失感を識っているからこそ為せる或る意味本人には自覚は全く無いがヒトの心を救う御業。
…後の遥か未来、虐げられるだけの無辜の人々…または救いを求めるヒトに救済を行う彼の生き様をカタチにした彼だけの伐刀"神技"の
泣き噦るサラの涙を拭い続ける少年だが埒が明かないと顔ごと胸元に抱き寄せる、少し無理な体勢ではあるが今は…これで良いのだろう。
その時にサラの中では朧げな気持ちが何時の間にか明確に浮き彫りになっていた、父親との繋がり…其れを求める為、夢を叶える為にこの絵の完成を果たす…そして…
(何時か…見てもらうから…"私達"の絵を…)
—————
———
「…そんな事もあったな……モデルは見付かったのか?」
「うん、あった。…未だ……でも、近い人なら居る」
昔話に花を咲かせる間時刻は11時、昼時だ…恐らく一階ではアリスが精魂尽き果てているだろう、悪魔の軍勢を薙ぎ払う救世主ではなく、サラ・ブラッドリリーとして黒之悠騎という個人を描いた絵は今日だけではなく長い時間を掛けて尚完成していない
ふと、
「お疲れ様…そろそろご飯だし行こ、早くしないと私達の分なくなるから」
筆を置いたサラは彼の腕を掴み早く、と急かすが悠騎としては食事より睡眠を…と思うが首を振り肯定、余計な一言を口にして
「……確かに、俺は一食位抜いても良いがサラは線が細いからな?ちゃんと食べて色んな絵を描いて欲しいし……好きだから」
腕を握っていた力が僅かに強まる、絵を教えている手前彼の言葉足らずな部分は目の当たりにしてきたが…同時に…僅かな期待で問う
「好き、って…?」
彼は高みを目指し歩み続けるものが好きだ、ヒトにせよ…物にせよ…だから…答えは解ってる
「それは勿論、サラの絵とサラ自身だな」
「ッ〜!?」
筈だった、彼女としては自分の絵、という答えを予測していたが完全に斜め上…
「ほら、早く飯にしようぜ?…サラ自身が元気で描かなきゃ此れから先も俺が楽しめないだろ?俺はあの絵も、サラが描いてきた今迄の絵も…そして此れから先もずっと描く絵が好きだ、サラの絵は出来上がる度に、あの絵に似た感じがするからな。」
「……ありがと」
予測とは異なる答え…其れでも、解放軍から催促され納品する絵ではない、有りの侭の自分が描く絵を好きでいてくれる…本当の自分の絵を絶対的に肯定してくれる一人の
後の世に、孤児院であった此の地に出来た教会には彼女の絵が飾られる…モ筆者である彼女とモデルである彼の意向に拠り題名は聞く者が聞けば苦笑せざるを得ないものとなる
射干玉の髪を揺らし、日焼けした肌を持つ異国の青少年…《悪魔》と恐れられながらも搾取され虐げられる弱い存在には一切手を上げず救いの手を差し伸べる優しき存在
絵の題名は——『救済の悪魔』——彼がヒトとして遺した遺物の一つとして
今回は二本立てで此方を先に読んで頂けたら彼方のシリアスモードが活きるかと思いました(苦笑)
でも、精一杯読み手の方々にも楽しんで頂ける様に考えていますので特に強制等は御座いません(笑)