落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

19 / 29
今回はほぼ二本立てです、過去を振り返る描写を掘り下げた回はoriginの方なので其方も読んで頂ければより面白くなる…かもです(笑)

キャラ崩れ、長文にはご注意下さいm(_ _)m


デート前夜–凍てついた心を動かすのは…–

「………ッ!」

 

 

(何よ…何なのよこれ…ッ!)

 

 

ぎりッと歯軋りが室内に虚しく響くのを聞きながらステラは心底憤る、目の前の…過酷過ぎる未来を(悠騎)に強いた老人にも、恐らく此の事全てを識り唯見守る白き頂にも…自分達の為に、と今も尚苦しみに堪えている悠騎にも

——そして…今迄何も知らされず、また、何もしてやれなかった自分自身や一輝達にも

 

 

「……此れが、彼奴の望み…儂等の一族に課せられた宿業…世界の(ことわり)じゃ、数ある未来の一つで御主は龍馬の曽孫と結ばれる。

途中…何度も苦難はあるがの、痛み無き人生に成長は伴わぬ、…それも…少しずつ狂い始めておるが…未だ修正の範囲内じゃ」

 

 

目の前の老人が何かを言っているがステラの耳には入っても理解が追い付かない…否、認めたくないのかもしれない

 

だが…遂に彼女の中で何かが弾けた

 

 

 

「……何で……何で…っ…悠騎(かれ)なんですか……ッ!!」

 

 

「……………黒之の家に産まれた者の運命(さだめ)だからじゃ。—黒乃想厳(くろのそうげん)…彼奴も当初の遣り方は過激じゃったが運命という水面(みなも)に石を投じ変革を齎そうとしたようじゃな…近い未来、彼奴の子孫が現れるであろう…」

 

 

涙を目尻に溜め悲痛な叫び声をあげるも無慈悲に、そして抗う事の出来無い現実(リアル)を突き付けられる

 

 

「……此れで解ったでしょう?貴女達が…『表の人間』が彼にしてあげられる事はありません。——出来るとすれば…彼の望む未来(ゆめ)を叶えてあげる事です。」

 

 

全てを識っていた上で、理を外れた者として側に居られるエーデは無情に彼女が己の(悠騎)に抱く想いを断ち切らせ様と言葉を続ける、『私にしか…彼は愛せない』…と。

 

勝ち誇るでもなく…唯事実を突き付ける

 

 

尤も、彼女(ステラ)が勘違いをしている能力に気付き正しく力を使い熟した上なら話は別だろう。

 

 

其れに悠騎は近い未来に己が親友が外側へと到る未来迄は見れていない…彼の能力はその強過ぎる異物(トリシューラ)により発揮されたりされなかったり…されても中途半端にしか見れない為"垣間見た"という形容しか出来無いのだ。

蛇足だが…恩恵があるとすれば覚醒前の彼の"眼"でも《比翼》の最速すらをも捉える程動体視力と広範囲の空間把握能力、個人の魔力やその動きを観る事が出来るという点か。

 

 

 

「…っ…認めない…ッ…!」

 

 

「…何をですか?」

 

 

涙で眼を赤くしながらステラは呟く、こんな不条理あって良い筈が無い…その一言を皮切りに彼女は感情をぶち撒ける

 

 

「一人で抱え切れる様な問題では無い事を押し付けるソウガさんも…全てを識りながら…ユウキを止めないエーデも…!

何より、私達の想いを無視して勝手にそれが幸せだと思い込んで……何も言わずにただ苦しみに堪えて笑っていユウキも…ッ!私達…うぅん、私は絶対認めない…ッッ!!」

 

 

ステラの怒号に宗我は懐かしさから口許を緩ませる…半世紀前に亡くした妻と彼女を重ねているのだ。

言葉遣いこそ違えど言い分等はそっくりだからか…はたまた気が遠く成る程の大昔、其れこそ十数代に亘る程前に彼女等(ヴァーミリオン)の血縁関係であった名残かは解らないが。

 

 

(……儂も、良く怒鳴られたのぅ……じゃからこそ、悠騎には"生き残って"貰う為に早々に儂の力を…儂の命を摘まさねばならぬ……其れが掟じゃが…死ぬ前に、儂にしてやれるお膳立てはしてやるかの)

 

 

「お嬢ちゃんや、御主…悠騎が好きなんじゃな?」

 

 

両親や妹…孫の師を殺めたのは自身、だが本来出る犠牲は"家族"のみ…師は宗我と悠騎との戦いに割り込み(悠騎)を庇う形で交戦した結果的に死亡した

要は…彼は奪い過ぎたのだ、ならば与えるきっかけを作る位はしてもバチは当たらないか…と、掟に従い祖父を殺め、そして娘や孫すら殺めた血に塗れた一族の家長は異国の姫君に問う

 

 

「っ……わ、たしは……」

 

ステラに問う声はとても自らの家族を殺めた者の声とは思えぬ程優しく…まるで悠騎(かれ)と話している様な感覚を覚える

 

 

(私は…)

 

 

問われた瞬間脳裏に過るのは皆で過ごした日々…一輝との思い出…。

 

 

——悠騎との想い出……一度だけ、たった一度だけ見た綺麗で可愛い表情の中に垣間見た昔を懐かしみ…慈しむ様な優しい…彼本来の笑顔…。

 

 

「……………はい…、私は…彼が好きで…大好、き…で…ッ…」

 

 

(………ッ!)

 

ぽろぽろと涙を流すステラの言葉にエーデは嫉妬と同時に悔しい…と思いながら彼女を見詰める、此処まで言って未だ解らないのか…と言ってやりたいのを唯彼女を見詰めているだけに留まっているのは他の要因があるにせよ純粋に宗我という男が彼女を制せる程強いから。

概念系の能力すら通さぬ以上倒す方法は純粋な白兵戦…だが、神話の巨神(ティターン)と同じ筋力を170cm代の小さな身体で出せるのだ、能力に頼らずとも純粋に強い上に磨けば更に強くなる…まさに理不尽以外のなにものでもない。

 

 

 

「…佳かろう、じゃが知っての通り彼奴には其処な娘が居る…過酷な道を選ぶ事に成るが…其れでも、佳いかな?二人とも。」

 

 

そんな銀と黒の双眸を持つ英雄(理不尽)が問い掛ける…慈愛に満ちた眼で、孫の為に涙を流す竜の姫君と…同時に孫を救おうと凡ゆる手を尽くさんとする最強の白き翼に。

 

それは目の前の少女と、孫が愛した女が孫の宿業を変える存在に成り得ると信じている眼でもある

 

 

「…」

 

嗚咽で喋る事が出来ない代わりに頷く事で想いを伝える、一輝と悠騎…何方も大事なひとだった…未来を見せられて確かに何も知らなければ大いにあり得た未来だろう。

 

 

—だが、今は違う…宗我は過去を見せている時にこう言った

 

『…未来とは星にある程度定められておる、それは不幸や幸運の値が定められているからじゃ。

——じゃが…儂から言わせりゃンなもん反吐が出るエゴじゃよ。それに…魔人達の様に未来を作る者も居る……宿命は変えられぬが未来は変えられる…否、儂等が足掻かなかっただけで宿命も本当は…』

 

彼女は…ステラは、自身が辿る(未来)を知った上で彼を選んだ、其れは…

 

 

(……馬鹿ですね…貴女は…)

 

 

彼を護る、その気持ちはエーデにも理解出来る為何も言わずに彼女の背中を撫でている

 

 

「…そうか…よし、なら儂からのプレゼントじゃ!2人共…否、3人で明日明後日のデートを愉しむが良かろうっ、《比翼》は一応犯罪者じゃが此処でなら変装の必要は無いぞ?何故なら儂は黒之財閥の会長じゃからな!」

 

 

湿っぽい話は此処迄、と再び明るく振る舞う宗我は懐から何かの封筒を取り出し泣き崩れたステラの背中を摩るエーデへと手渡さんとする

 

 

「…これは?」

 

 

「儂が抱えとるリゾート地の中なら何処でも何の施設でも無料に出来るミラクル〜でわんだほーなフリーパスみたいなもんじゃよ、…御主等明日デートなのじゃろ?此れを有効活用するかどうかは任せるがの?」

 

 

にっしっし、と歯茎を見せて笑う様は童子の様だが彼なりに孫や彼女等を案じての計らいにエーデも微笑む

 

 

「…何時も定めや運命…貴方方の役割に対して頑固なのに珍しいですね、豆腐の角に頭でもぶつけたんですか?」

 

 

あーん、えっちゃんのいけず〜と身をくねらせる英雄(ばか)を汚物でも見る様な眼を向けるがそれも次の一言で変わる

 

 

「…儂はの、此れは好機(チャンス)だと思うておるんじゃよ…始祖だか何だか知らんが儂等後世の者に迄掛けた身勝手な"呪い"をぶっ潰す為の…な、二重神性覚醒(デュアル)にしろ御主等にしろ……何某かの意味がある、と…。

"可能性"として生かそうとしたが結果的に彼奴の(春姫)迄殺めた儂が今更こんな事を言うのは烏滸がましいがの。」

 

殺したくはなかった、そう述べる青年の眼は静かに閉じられる。

運命(さだめ)に従うしかなかった自分だが孫なら…悠騎ならその運命(さだめ)破壊(こわ)すかもしれない笑いながら

 

 

(…尤も、彼奴が儂の力も取り込み完全に覚醒すれば……何ての、其処迄望むのは高望み且つ酷じゃな、傷付かぬ様に何度も歴史の改竄は止めてきたんじゃ。)

 

 

「…じゃあの、取り敢えず済ませる事は済ませたから帰るぞい?此れから龍馬んとこの()が菓子折り持ってきてくるから出迎え(いたずら)してやる準備をしなければの。

——やれやれ、孫の為に堅苦しい話をしなけりゃならん、全く…未来を作るのは…運命を変えるのは若い餓鬼共(未来)の特権だっちゅーのに。」

 

早く楽隠居がしたいわい、と遠回しに今の悠騎に期待と心配をしている旨を告げ《時空の翁》は時空の歪みを通り帰っていく…その後ろ姿に敬意を払うべくエーデは頭を軽く下げ後ろ姿を見送る…捻れた空間が再び元に戻るまで何時までも。

 

—————

———

 

 

「と、言う訳で明日はリゾート地に行きましょう。」

 

 

「いや…何がと、言う訳なんだ?」

 

 

生徒会の役員の面々と他愛無い会話で親睦を深め刀華に『来週の試合、剣士としての貴方と本気で戦いたいです…だから…貴方も本気で来て下さい』と、念を押されるが『当たり前だ、《雷切》の本領…愉しみにしている』と戦闘狂(バトルジャンキー)である一面を見せる有様、施設で育ちはしなかったが割と似た者同士なのだろう、刀華と悠騎は。

 

そして(悠騎)は暫く泊まるであろうエーデとステラの分の食器を買いに街に出た結果帰宅するのが遅れ18時に帰宅してきた。

部屋には何故か泣き噦るステラと壁に頭を下げるエーデ…或る意味カオスな光景があり最初入る部屋を間違えたかと表札を見る程に眼を疑った…2人の気持ちも知らずに。

 

 

「だから…その、3人で遠くに遊びに行こ?って話よ、ユウキも最近ストレスが溜まってるって言ってたじゃない?」

 

 

「ふむ……否、エーデやステラが良ければ俺は其れでも良いがどうせなら一輝や珠雫達も連れて行きたいな……うん、何なら皆で「ッ…其れじゃダメなの…!」っ…ステラ…?」

 

 

ガタンッ!とテーブルを叩くステラにさしもの悠騎も眼を丸くする、今朝の事は自分は兎も角皆には関係無い…なら…其れ以外で彼女の機嫌を損ねたのかと不安がりながら…

 

 

「…悠騎、私もステラに同感します。此れは"私達と貴方"のデートです、今回ばかりは他の方には遠慮して貰うべきかと。」

 

 

助け船を出したのは何とエーデ、彼女にとってステラは今現在最大限の障害…本来なら邪魔者以外の何者でも無い

 

 

が、同時に同じ()を好いた者…何より、自分には出来無い事を…間違っている事を間違っていると声高に糾す太陽の様な彼女を同じ女として気に入ってしまった…だから、悠騎が自分を一番に愛するのであれば

 

ステラ(彼女)を認めるつもりでいる。

 

 

——其れ程の覚悟を決めていると知って…否、痛い程"識っている"からだ…彼女も…本当は悠騎にヒトとして生きて欲しいから…!

 

 

(…一度は壊れた方が良いと思った…それが…悠騎にとっての唯一の"逃げ"であり"救い"であると。

ですが…その結果、貴方の結末の一つを観てしまった以上、全力で其れを阻止するのが(つがい)である私の務めであり"愛"です…貴方は…私が護ります)

 

 

あの老人が垣間見せた未来…自身を悪と宣いながら無辜の人々を救う神、聞こえは良い…救われる存在からしたら其の姿は救世の具象化そのものだろう

 

—だが、其処にヒトの成長は無い…哀しい事ではあるがこの世には大きく分けて4つの人種が居る…犯罪者である前に多くの人々を救ったエーデにすら未来の夫の姿は"余りにも報われない"と思わせてしまった…。

 

…そんな未来を知ったら今迄と違うアプローチを掛けるのもさもありなんである。

 

 

「エーデ……解った、二人がそう言うならそうしよう。新宮寺には後で連絡を入れて許可を得るよ、…ステラ……君が何故怒っているのか解らないが…苦しめてすまない、その事だけは解る…本当にすまない…。」

 

 

本当は愛している者達との想い出を作りたいが確かに此れはステラの願いだ…と思い直し聞き入れた後、俯く友人に頭を下げる…怒らせた明確な理由は解らない。

 

 

だが、何某かの理由で傷付いているのは解るから…と謝罪する姿にステラはゆっくり立ち上がる

 

 

「……御飯にしましょ、気にしてないから…」

 

 

ステラは嘘が下手だと思う、意味も解らずただ言葉の上で謝られるよりは誠意は感じるが彼女が欲しい言葉は謝罪ではない……だが、彼女が知る眼前の騎士は決して弱音等吐かないだろう、悔しいが…今の彼が弱音を吐くとしたらエーデだけだ……何より、自分は未だ想いすら告げていない。

 

 

…其れ故に、酷い焦燥感に駆られる。

 

 

若しも…明日にも彼の意志が失せてしまったら…?

 

若しも…宗我に見せられた未来(神話)と同じ様に彼が築いたものが水泡に帰す最悪の未来を辿ったら?

 

 

若しも……一輝や珠雫…自分達の事すら忘れ、ただ"救済という概念"として永遠に在り続け…世界が終わり、また始まり…そしてまた終わるという循環を永遠に見守りその度に弱き存在を永久に護り続ける事が済めば消え行く…永遠の孤独の中に微睡む存在に成ったら?

 

 

(そんな事…絶対させない…ッ!させるもんですか…ッ!!)

 

 

自分を責め過ぎた結果、盲信的に力を求め続ける男はバツの悪そうな顔で買ってきた食器に卵と刻んだ玉葱と御飯を混ぜ合わせ炒めただけの炒飯を盛る、無論炒めている最中に塩胡椒で味付けはしているが

 

 

「……その、二人とも如何したんだ?…取り敢えずステラ、おかわりなら言え……俺に出来る事は少ないが炊事位なら出来るからな…?」

 

付け合わせの野菜スープを啜るステラに視線を向ける、昔から春姫の為に料理を作っていた為ちょっとした料理なら出来る

 

 

「…ありがと、美味しいわ…ユウキの料理、合宿の時に食べたあのさーたー……なんだったかしら?」

 

 

「サーターアンダギー…ですか?私は八つ橋が物珍しかったですね、お芋で作ったお菓子も美味しかったです」

 

 

「…芋の菓子は電子レンジで温めたものを皮を剥いて漉し更に漉したものをバニラエッセンスを入れて綿棒で捏ね回したものをラップで包むだけだがな?あの菓子の名前が何かは解らん、適当に作ったものなのに春姫は好きだったな」

 

 

腹が減っていただけか?と内心首を傾げる悠騎だが料理談義に成るとステラとの接点という事もあり話が弾む、自作の八つ橋もサーターアンダギーも、アイスを乗っけたドーナツ等も美味い美味いと食べていた春姫…

 

 

(……俺が…護れなかった大好きな妹……)

 

 

無意識にぽろぽろと涙が溢れて来る悠騎を二人はその様を黙って見ているが気付かれぬ様に声は掛けない。

 

「…すまない、少し食器は出しておいてくれ…後で片付ける」と学園側から特別に充てがわれた書斎として使っている部屋に向かいドアを閉め二人だけがその場に取り残される

 

 

「……前から…ああなの?」

 

 

「…いえ、ですが情緒が不安定な時はありました。寧ろ教室では泣いたりした事は?」

 

 

「全然。泣いた場面なんて初めて見たわ、入学初めは何時も無愛想…ショッピングモール事件の時以降は漸く笑ったりしてくれてたんだけど…最近は無理してたのね…」

 

 

「…そうですか……なら明日、明後日は彼が痛みを…苦痛を求めない様に楽しませてあげましょう、貴女が如何動くかは解りません、が…全てを知った上で彼を好いてくれた貴女を今更斬ろうとも思いません。

——御馳走様でした、今夜は少し用事があるので出掛けますがその間…彼の事、宜しく御願いします。」

 

 

互いに知り得る情報を交換し合い食器を台所に持っていくエーデ、彼女から認められるとは思っていなかったステラだが嬉しさを覚え少しだけ微笑む

 

 

(………うじうじ考えても仕方無いわよね、本当なら皆にも相談したいけどユウキが自分で話してくれない以上言い触らす形になるし…)

 

 

思い悩むステラだが首を振る、確かに皆彼を救いたいだろう…だが、真実を知った身の上で言うなら此れは重過ぎる…何せ世界の理もだが今後(未来)も一人で背負うとしているのだ、あの馬鹿(悠騎)

 

 

「ほんと…バカよ……」

 

だが…森羅万象の一切を破壊し剰え時空を担う等ヒトの許容量(キャパシティ)を超えている、無論…口下手な彼だ、説明する事すら難しいだろう…エーデが玄関から外に出る姿をぼーっと見詰めながら不器用な悠騎に想いを馳せ溜息を漏らす

 

—————

———

 

あれから何分経った事だろう…色々な事が頭の中を巡るが矢張り行き着く所は同じ…。

 

 

(それでも…)

 

 

頼ってよ…と、切ない想いが口を衝いてしまう…我儘なのは…私が一番理解(わか)ってるのに

 

一度口火を切ると…それは止め処なく溢れてくる…!

 

 

(…切ないよ…っ…ユウキ…っ…)

 

 

涙が溢れる…悲しさと…愛しさで……イッキがあのいけ好かない弓使いと戦ってた時迄、私はイッキが好きでユウキは友人とか親友の類だった。

 

でも…今迄当たり前に居た、私が憧れた騎士があんな酷い試合をして困惑していたら何時の間にか、離れていって…

 

文句の一つでも…うぅん、せめて…離れ様としている理由を聞こう…じゃないと…この胸のもやもやを引き摺ったままじゃイッキの気持ちには答えられないから…そんな気持ちで彼とエーデの戦いを見ていたら…

 

 

(何で……貴方なんだろ……貴方が普通の…何処にでも居る、ただ優しいだけのひとなら…何れだけ…)

 

 

思い掛けて首を振る…それじゃあユウキの今迄を…彼そのものを否定する事に成るから…

 

 

何より…私が憧れた騎士は…どんな時でも矜持(誇り)を持った男性(ヒト)だから。

 

 

 

「……ステラ…?」

 

 

「っ…な、何?」

 

 

ユウキの事を想っていたら目の前には…彼が心配そうに私を見詰めていた、気配を感じなかったのは私のミスだと痛感してしまう

 

 

「…否、一輝とステラが好きな男の為に泣いてるのか…とな…」

 

 

「……ぅん、そう…よ?」

 

涙を拭われビクッと身体を震わせる…エーデから襲った理由…今なら解る、悠騎は……彼は…

 

「……ねぇ、悠騎…?悠騎は……"幸せになる自分を心の底から赦せない"?」

 

「ッ!?」

 

ぴくっ…と指の動きが止まる、その眼が…表情(かお)が物語っている『どうして……君がソレを知っている…?』…と。

 

 

「ごめん…でも、気になっちゃって…」

 

気になっていたのは本当…彼はたまに遠くを見る様な眼をする時があったから、でも…確信を得たのは昨日が初めて…同時に…私が彼に対する気持ちも…。

 

 

「……今更、隠し立てする必要も無い様だ…良いだろう…少し長くなるが…君達4人…いや、3人には問われれば話すつもりではあった…俺の過去…今の俺を構成する原点(origin)を」

 

 

「…聞かせて、貴方の(過去)…じゃないと…」

 

 

私が、先に進めないから…貴方の口から…他人からじゃなく、貴方自身から貴方の(過去)を聞きたい…!

 

 

—————

———

 

ぽつり、ぽつりと語られるユウキの過去…産まれてから8歳の誕生日迄は何不自由なく育った幼少期

 

《時空の翁》黒之宗我の娘…黒之亜季(くろのあき)さんは彼女の夫…ソウガさんからしたら娘婿にあたる男性と学生結婚を果たし卒業してからは、ソウガさんの仕事の手伝いをしながら陰陽師としてそれなりに有名だった事。

 

 

結婚祝いとして与えられた家は豪邸そのものだけどユウキの質素倹約を地で行く姿勢は親譲りというか何というか…決して豪遊をする様な家庭環境ではなかった事、此れは日本の美徳を体現していると思う

 

 

6歳の誕生日にとあるきっかけで能力を人前で見せた事、大人達にはそれが伐刀者(ブレイザー)としての能力だと解っていたけど何も知らない子供からしたら"壊れたものを手を翳しただけで治す"等人間業ではない……悪魔の所業であると中傷された事も

 

 

それ以降無邪気故の虐めや嫌がらせ、言葉の暴力…それに負けず…大切な人()を護る為に7歳…鍛錬を積みたった1年でプロの伐刀者(ブレイザー)から一本取れる程に剣技を磨いた事…純粋に凄い事だと思う、身長だって小さ過ぎる子供が大人の…プロの伐刀者(ブレイザー)を相手取るなんて其れこそ"血反吐を吐いても歩み続ける"覚悟と努力が無ければ出来ないから…私やイッキと同じだと思い嬉しく思う。

 

 

そして…僅か8歳にして両親と妹を亡くした無慈悲な過去…彼の師により発見される迄は路地裏に潜みゴミ箱から残飯を…泥水を啜って生き永らえていた事…私が"既に知っている事を語った"

 

 

「……まぁ、此処からも色々あるんだがな…風呂、入るだろ?そろそろ沸かさなきゃ…」

 

 

ぐィッ!と裾を掴み立ち上がる事を制す、彼は話していない事があるから…驚愕に歪む視線が哀しく感じる…貴方は……私達を信用していないの…?

 

「…ウソツキ、其れは既に起きた事であってユウキの"気持ち"は語っていないじゃない…!」

 

彼が語ったのは既に起きた"事実"であり"現実"…

 

けど、彼は"自分の気持ち"を語っていない。

 

 

「……何が、言いたいんだ?俺は…」

 

 

「だからっ、辛かったとか…苦しかったとか!何で出てこないのよッ!」

 

 

胸倉を掴み無理矢理引き寄せられ、訳がワカラナイとばかりに顔を俯かせる悠騎に怒鳴り声を上げてしまう…本当は理解(わか)っているのに

 

——彼の心は既に、与えられるものを吸収し其れに応えこそすれどあの日…既に死んでいるという事に。

 

私の視線や言葉に耐え切れぬとばかりに振り切るユウキは…怯えてる様に見える。

 

…まるで凍て付いた心を…うぅん、自分の中のナニカを此れ以上見られるのを怖がっている様に

 

 

「……俺より…父さんや母さん…先生…春姫達の方が辛いし苦しかった、それに…世界には俺より苦しい者等幾らでも居る。

——この霊装(トリシューラ)にしろそうだ、先人達はもっと苦しかったかもしれん…偶々…俺が到っただけだ。

解るか?俺は…与えられて此処迄来た、力を…技術を……唯一俺の中で産まれたものがあるとしたら其れは彼等の"生きろ"という言葉と"人の世に愛を"という願いを叶える事…

 

…力無き無辜なる人々を救うという祈りだけだ。

正義の味方など移ろいやすいものでもなく、勇者等烏滸がましいものでもなく…悪魔の如き力を扱う一人の"ヒト"としてヒトを救う…ヒトを救えるのはヒトでしかないのだからな。」

 

 

霊装(トリシューラ)を抜きテーブルに乗せ自分はヒトとして誰かを救わなければならない…と言うユウキを見詰める、けど…漸く理解出来た、貴方は…

 

 

(…ユウキは……救いを求める事を"罪"と思ってる……漸く納得したわ)

 

 

…確かに、これは与えられたものかもしれない…霊装(デバイス)にしろ…命にしろ…願いにしろ…皆が繋いでくれたものかもしれない…でも…!

 

 

(違う…っ…気付いてよ…ユウキ…ッ!)

 

 

私は…結果的には誰も救われていない、と首を振る…

 

 

ユウキを護る為に運命に抗おうとしたご両親も

 

 

ユウキに愛情や生きる為の力を与え様としたお師匠様も

 

 

そして…自分の命を掛けてまで大好きなお兄さんを護ろうとしたハルキも…!

 

 

「——何より……貴方が本当の意味で救われてない…」

 

 

「なに…を…」

 

 

乾いた笑い…気付いて…あの人達の本当の気持ちを…貴方の中に息づくハルキ達の"魂"を…!

 

 

「…皆がどんな思いでユウキを護ろうとしたか解ってるの?」

 

 

「ステラ…君は…何を言いたいんだ…!先生や父さん…母さんも…春姫も…っ!俺とあの男が殺したッ!俺が居なければ…皆死なずに…ッ」

 

思わず頬を叩く…渇いた音、悲痛な叫び……自分を責める事がどういう事かユウキは未だ解ってない…!

 

 

「違うわ…貴方に生きて欲しいからじゃないッ!少なくともハルキは…大好きなお兄さんであるユウキを庇って死んだ!傷付いて欲しくなくて…護ってあげたくてッ!

 

—ユウキ…貴方が本当に皆の事を好きで…大好きで…っ…大切に思ってるなら貴方を好きな人達の本当の気持ちを…しっかり受け止めてあげて…っ…貴方自身の気持ちを……心を……見捨てないで…ッ!」

 

 

気付けば…私はまた泣いていた…だって…今のままじゃ報われない…。

 

彼を救った人達も…ユウキに"自分達が死んだのに御前だけ幸せになるな"なんて呪いを掛ける為に死んだ訳じゃない…っ…

 

ユウキにしてもそう…"自分の所為で皆が死んだ"と責め続けて…護れなかった事をずっと後悔して…っ…その贖罪の為に死後は見ず知らずのヒトの為に生きるなんてそんなの、もし私が救われる立場なら願い下げ…!

 

 

「……君は……ステラは…泣いてくれるんだな……っ…」

 

泣き噦る私の頭を抱き寄せ胸板で涙を受け止めるユウキ……狡いよ…こんな時でも貴方は…弱味を見せ様としないんだから…っ

 

 

「……すまない………何時か…君の様に泣ける日が来たら……その時は…一緒に泣いて欲しい……皆の為に泣いてくれて…ありがとう……っ…」

 

 

ぽつり…私の頭に何かが落ちた気がする…始めて聞く彼の震えた声…暖かい温もり…

 

 

「…ぅん……泣かせてやるわ…っ、今日みたいに…!」

 

 

 

やっぱり……私は、貴方が好き…ユウキ……優しくて…その所為でずっと自分を赦せなくて…理不尽な程に強い癖に油断も慢心も一切しない相手にも自分にも矜持(プライド)を求める気高い貴方が…っ

 

—————

———

 

そして次の日の朝

 

 

「……さて、二人とも準備は出来たな?」

 

 

「はい、何時でも」

 

 

「ばっちりよ!」

 

エーデが帰ってくる迄二人で泣き続けた為に目元が腫れている、だが…何処か晴れやかな二人に"用があると偽った"エーデは微笑みを浮かべ荷物を持っている。

 

ステラと悠騎はあれから距離が縮まった様だ、ステラは自分の中の気持ちを見定め、悠騎に到っては昨夜の一件からステラに対する想いが友人に対するものから…自分が知らぬ…喩えるならエーデを想う気持ちに近い何かを感じて内心動揺している。

 

彼女等二人にとっては此のデートでその感情の正体に気付ければ上々だが、その場合、悠騎にとっては大事な人達への裏切りであり自らが遵守しようとする未来を大きくかけ離れる事態を引き起こす…一輝とステラが辿る道

 

何より、彼には時間が無いのも事実…確かにステラに拠り凍てついた心に"火"は灯された。

然し、根本的な解決にはならない……救いがあるとすれば今迄よりは前向きに明日(未来)を歩めるという事、——自分は…救われるに足る存在だったのだ、と……エーデの自身を想う献身で…ステラの暖かい涙で…少しずつ心を覆う氷は溶け、妹達に少しは誇れる様になったから。

 

 

尤も、世界でも有数である実家、黒之財閥(とあるバカ)が何やら国を巻き込んで動いている…此れが如何なるかは此の時は未だ解らない。

 

 

「…に、しても…割と遠いな…」

 

 

「確かに、ですが人目を気にせず悠騎と戯れられるのは嬉しい事です、プールもある様なので愉しみですね」

 

 

エーデが用意したデート…それは彼の祖父が所有する会社の一つが運営しているのだが永く日本を離れており元々質素倹約を地で行く悠騎には縁がない場所、最初聞かされた時はあまりのスケールに驚いた様だが…まぁ、ある種の教育(調教)により日常生活の基本的な決定権はエーデにある、結婚前から尻に敷かれているのだ。

 

大抵の事象に於いて彼女が黒と言えば黒、白と言えb

 

 

「…何だか不快な声がした気がするわ、燃やしてやろうかしら?」

 

 

…こほん、まぁ、兎にも角にも…楽しいデートの始まり。

 

——己が身を顧みず他者を救えるヒトの美しい一面に憧れた上で、ヒトとは程遠い道を歩んでいた悪魔(悠騎)の記念すべき…ヒトとしての新しい朝の始まりである。

 

 

 




かなり蛇足を挟みましたが次回はタグの作者作品連動を踏まえオリキャラ複数を交えたデート初日…あわよくば二日目も行きたいと思いますが私の力量では難しいかもしれません(苦笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。