破軍に入学し校内選抜戦を何試合か勝ち抜いていたある日、木々に覆われた小高い丘で三日月を背景に
無論、所帯持の新宮寺に夜中迄付き合わせるのも僅かばかりの良心が痛む為臨時講師の西京と一緒なのだが…
「前々から思ってたけどさァ?悠坊って良い身体シてるねェ…終わったら一晩…如何だい?」
…舐め回す様な視線に肩を落とす、無論落胆の意味合いで。
「…何処の変態オヤジだ……全く、真面目に…」
言い掛けて止める、以前同じホテルで宿泊した際鍵を抉じ開けベッドに入り込まれそうになった事があるからもあるが…。
——静かだが確かな"死" の気配を纏った存在が空間を捻じ曲げ近付いてくるのを感じたからだ。
「……何か来るねェ…、私やくーちゃん以上の…下手したらあのエーデルワイスすら凌駕する何かが。」
「——出方が解らない以上無闇矢鱈に動かない方が良いが…如何出る…」
《…此の気配……盟約者よ、抗うな》
段々と近付いてくる気配の主に心当たりがあるのか
腰まで伸びた髪、首に無数の髑髏を数珠繋ぎにして掛けその出立ちは苦行僧のそれ…手には…信じられない事に見覚えのある三叉槍が握られていた。
「こりゃァまた…見てるだけでぶるっちまうねェ…ッ」
「…同感だな、まるで勝てるイメージが湧かない」
現われ出た存在に抱いた感想を言葉にしながら鋒がカタカタと音を立てるのを感じ取る、何万という戦いを経て培った本能と身体が気付いてしまったのだろう…"アレには手を出すな…殺されるぞ"、と
其れは恐らく西京も同じの様だ、膝が震えている
「……"バイラヴァ"」
ッッ!?
「伏せてろ西京ッ!!」
「悠坊ッ?!」
謎の来訪者から紡がれた言葉、其れが意味するは"恐怖の殺戮者"、言葉そのものに理を統べる何かを感じ《アダマス》に全魔力を込め時空間障壁を発生させる
ドゴオォォンッ!ズドドドドオォォンッ!!
途端に無数の光の雨が降り注ぐ、否、実際には俺と西京を確実に殺せる極光が幾筋にも降り注ぐ、10発…100発…1000発と衝撃を亜空間に逃がすが余剰波だけで周囲の木々を薙ぎ払い、焼き尽くす中何とか周囲への被害も最小限に留めるがあり得ない声が目の前で聞こえる
「………あれを耐えたか、御前達の世界でも解り易く云うならAN602並の破壊力なのだがな、一発一発が」
「ッ…化物め、如何やって俺の領域に入り込んだ!」
「……簡単だ、何故なら我は
「並行世界の俺…だと?」
「悠坊の未来の姿…ねェ、其れにしては私やくーちゃん達が知ってる悠坊よりかなり乱暴な御挨拶じゃないの……さッ!」
時間を遡った事も並行世界に渡った事もあるが目の前の…無数の髑髏を首に掛けた男等知らない、そも彼の出立はシヴァ神そのものだ。
少なからず動揺を抱き数瞬アクションが遅れた俺をカバー為るべく西京が奴の背後に回り込み鉄扇を振るうが柄を巧みに扱われ阻まれる
「……小石に用は無い、失せろ」
「ゔあぁあ"ァァーッ!」
其の儘手首目掛け蹴り上げられた脚撃に拠り手首はあらぬ方向に曲がり、更に側頭部を蹴られ手毬の如く地べたを転がる西京
「…頭部に拠る蹴りは反射的に身を捻り最小限に留めたか…ヒトにしてはやる…——漸く2人きりになれたな。」
「ッ……何が目的で俺の前に現れた、あんた程の力があれば西京を無力化する術等…「…くだらんな」…何?」
「くだらぬと云った、御前達ヒトは道を歩く時に一々虫を踏まぬ様配慮するのか?——我が第一に想うは我の"家族"のみよ…妻を救う為であれば他の有象無象…ヒトであった頃の我の血を引く者達すら如何でも良い、もとより其方に逢いに来たのも我の目的に必要だからだ。」
…此奴が俺の未来の姿?…あァ、確かに俺も家族が居ればこう成っているのだろう
だが其れは、あくまで未来の姿の一つだ。
午後の試合が終わり夕方から鍛錬に勤しんだ事に拠る疲弊と最大出力で障壁を張った為に魔力はほぼ空、目の前には今の俺よりも数段…下手をしたらそれ以上に強い"死"そのもの、背後には痛みで悶え転がる西京…逃げ場は無い
自然と双つの槍を構える、取り回しがし易い様に《アダマス》1,5、《トリシューラ》2メートルと比較的近接戦寄りのスタイルを見た目の前の
「……彼奴といい御前といい…良かろう、力の遣い方を教えてやろう…!」
「…来いッ、自分の思い通りに成ると思うな!!!」
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———
処変わり何処か違う世界の宿屋、白銀の鎧に身を包み座禅を組み瞑想をしていた青少年が静かに眼を開ける
「………ちょっとだけ手伝おうかな、行ってくる」
「……気を付けろよ、彼の者は…」
「うん、解ってる……でも、行かなきゃならないから」
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「がはッ…!」
「…得物が多ければ強いという訳では無い、其方は己が血に連綿と刻まれた"記憶"を識らぬ様だな…」
此方は槍が二本に対しもう一人の俺は《トリシューラ》一本、然し乍担い手の地力が違ければその差も一合ずつ開いてくるのは自明の理である
此方の顔面を狙う石突きに拠る突きを躱すも其れすら折り込み済みとばかりに薙ぎ払われる一撃は頬を、魔力に拠る衝撃波を《アダマス》を覆う魔力の壁で突き破り攻めに転じようと思えば閃光もかくやといった突きが腹部を掠める等実に此方の手の内が知りに識り尽くした遣り難さに翻弄されていた
然も…一族の記憶を識らない、と一蹴される有様である
「っ……一族の記憶、とは何だ……大体、俺とあんたでは世界線が違うのだろう?——神速とはあんたの事を言うのだな…!」
此方の音速を超えて衝撃波を生じさせる突きを容易く躱しふ…と可笑しそうに笑う様がまた気に食わない
「…識りたくば祖父を殺す事だ。逆に問おう、神速というのは音速か?光速か?少なくとも"俺"は光速の域で動ける筈だがな…——其れ程迄其処な小石を護りたいのか…はたまた己が力に拠って消し飛ばすのが怖いのか…神域に達した我には皆目解らぬな」
冗談も通じないのか、はたまた俺の奥の手を知っているのか…否、識っているからこそ挑発していると見るべきか。
奇しくも条件は揃っている…後は西京さえ逃す事が出来れば
苦虫を噛み潰す気持ちで奴を睨んでいた俺に、一筋の光明が見えた。
「………此処が、もう一つの日本か…綺麗な処だね、桜が綺麗だし暖かいや」
何だ…?此の優男は…、突然光が差し込んだと思えば鎧を身に纏った男が現れた。
次第に防戦一方に成っているにも拘らず新手等御免被りたいが奴は此方には眼もくれず西京に近付き手を翳す
「……大丈夫、此の傷ならまだ助かる…」
一言呟き微笑んだかと思えば奴から《時空制御》時に感じる気配を感じ幾何学的な陣が展開され瞬時に傷が癒える…否、寧ろ元に"戻った"というべきか、時間逆行による復元魔法である。
「………勇気、ヒトであった頃の我が子孫よ、何用だ?」
「?…困っている人が居て手を伸ばして助けられるなら助けるのは当たり前でしょ、——喩え、違う世界軸の御先祖様でもさ」
此方を見て微笑む勇気と呼ばれた青少年、不思議な手甲を嵌め佇む姿は優しさの中に俺とは少し違った強さを感じる
「……兎に角、此方の味方という事で良いのだな?…頼みがある、西京を逃すなり護るなりしてくれ。——奥の手を使う…!」
「…良いよ、えっと…御免ねお嬢ちゃん」
「ちょ!お嬢ちゃんじゃなくて西京寧々、寧々さんって呼びな坊や!」
きゃんきゃんと姦しく騒ぐ西京を抱き抱え自分の周りにのみ障壁を張る勇気、術式の構築速度も瞬きすら終わらぬ内に展開する程速く、魔力制御も一切無駄が無い、その上凡夫は勿論の事神代の知識を《トリシューラ》から得た俺ですら理解が及ばぬ程複雑な術式……此れなら巻き込む心配は無いだろう。違う世界の血筋とはいえ頼もしいものだ、俺の子孫は。
「………さて…随分待たせてしまったな、効くか如何か解らんが…——その思い上がり事破壊してやる…ッ!」
地中にも障壁は張ってある、後は俺の身体が砕け素粒子レベルに分解されても瞬時に再生し続ける術式を組み込んだ時空間障壁を身体全体に張り《トリシューラ》の"行動"に拠る無限強化で身体能力を限界を超え増加させ、"意志"の力である破壊の概念を鋒のみに集中させるだけだ
「……来るが良い、何方が至高の突きを繰り出せるか試して見るのも一興よ」
斯様な状況であるにも拘らず頭の中はクリアだ、術式は全て展開した…《アダマス》を地に突き刺し下界を隔てる障壁をより強固にもし距離も充分取った…其れだけの大技なのだ。
筋肉が悲鳴を上げている、心臓は酸素を欲している
故に、此の一撃は神をも屠る一撃と相成る…!
「……
唯一残っている信仰心から来るマントラを呟く、目の前の神ではなく俺が信じた神に対して。
《トリシューラ》を構え突進体勢を取ると切先からは憤怒の壊炎《パスパタ》以上の炎に拠り陽炎が生じる
「な…っ、これは…!」
「…時空間制御は時間に干渉する事で"まるで"光速移動している様に見えるけど彼がしようとしているのは"文字通り"光速で突進するつもりだ、物体は光速に近付くにつれ運動エネルギーが無限に近付く……より簡単に言えば質量が無限に近付く、勿論相対性理論的に言えばそんな事は不可能だけど…魔法は不可能を可能に変えるから魔法なんだよ、科学的に証明しろと言われても原理までしか説明出来ないし此の戦いは僕には止められない。」
視界の隅で勇気と西京が何かを言っているが聞こえない、視界は紅い…呼吸をしているのかすら危いが…不意に黒鉄の気持ちがほんの少し分かった気がした
(…御前は、凄いな…黒鉄よ)
「おォォーーッッ!!」
口許だけ緩ませ俺は雄叫びを上げ初速から光速の99%で駆け出す、障壁内の木々は唯突き進むだけの…然しながら其れ故に猛烈な爆風を生み出すそれに拠り木っ端微塵に成り地には大蛇が這いずった様な大規模なクレーターが生じる
此れが100%に達した上で何ら保険が掛けられていない地上で放てば文字通り"世界を破壊する一突き"と成るのだが此の技の真に恐ろしい点は"絶対に避けられない"点と"全てのエネルギーが障壁内で渦巻く"という点である、地球処か他の星にすら影響を及ぼす規格外の一撃を一点に集めるのだ、まさに一撃一殺…否、障壁内に取り込んだ数だけ被害者が出るが今回は例外だ、一対一の真に強い者が生き残るシンプルな戦場、我が怨敵たる
其れを今解放する、誰の為でも無い…俺自身の矜持が力で女子供を必要以上に踏み躙るのが赦せないからだ。
草木が素粒子レベルで分解されていくのを感じる、同時に数瞬単位で身体が死滅し其の度に復元されるのを感じるが生きてさえすれば問題無い、奴を貫き倒す迄の辛抱だ
——が、彼奴も全く同時…否、より強力な技へと昇華させ放っていた。
「…短期間に良くぞ此処迄登り詰めた、——然し、驕ったな…其れがヒトの限界よ。」
先程の光の雨が横振りに降り注ぐ中奴は漆黒の魔力光を放ちながら全く同じフォーム、同じ速さで突進してくる、然し奴の魔力光が近付く度に此方の魔力が喰われる様な錯覚と共に100%に到る処か減速…光の雨を防ぐ障壁も僅かに瓦解していく
ズガアアァァァンッ!!
「…か…は…ッ……」
強大なエネルギーの塊同士の衝突、上空から見たら恒星(ほし)同士がぶつかり合った様に見えたであろう勝負に打ち勝ったのは漆黒の魔力光を放つ…否、正確には周囲のマナを己が身に集約する術を持つもう一人の俺であった
「………弱いとは言わん、其の域に達した頃の俺は齢20歳…17歳で達したのであれば此の世界での俺は大成するだろう…だが…未だトリシューラの真の力を出し切れていない…また何れ逢おうぞ」
腹部を貫いていた槍を引き抜き次元の彼方へと去っていく……衝突の際俺の突きも奴を捉えていたのか腕から青い血を流しながら
(ち……久々の…敗北だ…)
刺された痛みよりも無理な能力の使い方をした為に俺は地へと伏した
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———
結局、あの後は勇気に拠り身体を復元され事無きを得た、起きた瞬間泣き顔の西京が居てびっくりしたが
「…ばか、本当…柄にもなく心配しちまったじゃないのさ…」
…こうして見ると歳は俺より上な筈なのにまるで歳下の様だ、無意識に頭を撫でてしまうのは本当…直すべきだと思う
そんな俺達の遣り取りに微笑んでいた勇気は不意に真面目な顔で此方を見詰める、何かと思っていたら手甲を嵌めた手で俺に触れ、触れられた瞬間あるイメージが脳裏に浮かび始めた
(……此れは…………そうか……だからあの男は父さんや母さん…春姫を…)
其れは《黒之》とルーツが同じである《黒乃》の血に流れる太古からの記憶であった、そして俺の家族の死の遠因は…俺である事も識ってしまった。
「どうかしたのかい?悠坊…?」
頭を撫でていた手が自然と止まっていたらしく上目遣いで見詰めてくる西京、「…何でもない」と返すのが精一杯な俺を他所に勇気は背中を向ける
「……さてと…其れじゃあ僕は行くよ、やらなきゃならない事があるんだ」
「……そうか、助力感謝する……後……身体に気を付けてな…」
ありがと、と短いが気持ちの良い返事に少しだけ身が軽くなる
「………彼の名前は想厳、僕から数えて5代前の黒乃家当主だったヒトだよ…——喩え此の身に神様の血が流れていても…僕は僕だし君は君だ、其れだけは忘れないで」
…俺は俺…か…
「…噫、覚えておく。——御前も、死ぬなよ……今度は俺が其方の日本に行く、…もう一人の俺が拓いた武術を学ぶ為にな?」
「ふふ…僕が元の世界に戻ってたら、ね?……
手を振って去り行く背を見送る、大きな運命を背負った優しくて…それでいて傷付き易い弱さとそれすら強さに変える逞しさを持った子孫を。
「……行っちゃったねェ、違う世界の魔法技術…興味があったんだけど仕方無いか〜……其れにしても、今日は格好悪い処を見せちゃったからがっくしさね」
両腕を頭の後ろで組み愚痴を零す西京に思わず「……別に格好悪いと思ってはいない…、寧ろ…助かった」と返す、心からの言葉だからだ。
「……へェ…慰めてくれるのかい?」
途端に拗ねたような眼差しを向けてくる、恐らく世界ランク3位としての誇りを傷付けられたと思ったのであろう
「解釈は好きなように……だが、西京の御蔭であの時命拾いをしたのは事実だ……恩人を蔑めるつもりも侮るつもりも無い」
本心から来る言葉に態度が徐々に軟化していくのが解る、寧ろ…何だか嬉しそうだ
「……ふふ、やめたやめた、悠坊は良くも悪くも素直なんだろうね。飾り気が無いとも言えるが其れは歳を食うと皆忘れちまうものだから大切にしときな、——後、此れから二人きりの時は西京じゃなくて寧々って呼ぶ事、命の恩人なんだから当然聞けるだろ?」
小さな身体で踏ん反り返る夜叉姫に自然と笑みが零れる、本当は…笑う権利すら無い俺だがせめて此の学園に居る間だけは笑顔で居たいものだ
「……解った、今後とも指導鞭撻の程宜しく頼む…寧々」
「あいよ、臨時講師の腕が鳴るってもんさ♪」
何とも頼もしい講師も居たものだ、そう思いながら不可思議な逢瀬を果たした一日は過ぎていった
今回の番外編の時系列は汚い赤座()が出て来る前位です、本編に影響を及ぼしますがネタバレになりますので言及は控えさせて戴きます。
次回はある意味楽しいお買物回です(笑)