落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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前編がギャグノリに対し後編はシリアス全開です、そして悠騎君の答えが出る回でもありオリジナル要素取り入れ回にも成りますので…皆様の期待を裏切ってしまわないか物凄く不安ですがオリ要素導入、独自解釈、海神貶め、オリ主×____が苦手な方は御注意下さいm(_ _)m


デート後編–重なる想いと波乱を呼ぶ者–

「ふぅ…ふぅ…ッ…」

 

 

「穢されても可愛いですよ、悠騎…」

 

ぴくンっと跳ねる身体、というか水着姿の彼に指先を這わせるエーデ、ステラは一輝の身体と悠騎の身体をある意味堪能した訳だが…

 

 

「…やっぱり…男の人の身体ってしゅごぃ…ッ」

 

悦に浸る淫ピ…(もとい)ステラ、あれだけ揉み拉かれたというのに悠騎は目覚める気配が無い、まぁ、傭兵稼業で身に付いた睡眠中に殺意や攻撃の意思等の周囲の"悪意"に反応する技術があれば寝首を掻く事すら出来ぬが…良いのか、それで

 

 

「問題ありません、寧ろ起きられると逆——(ぴー)する時に手古摺りますから。

——さて、そろそろお遊びは抜きにして…真面目な話をしましょうか?」

 

 

…左様ですか。

 

身なりを整え優しく自分の最愛の男性(ひと)を撫でる白き翼、恍惚としていたステラだが彼女が何を考えているのかを理解すると口を開く

 

 

「…ユウキの中の《クロノス》…ね、伐刀者(ブレイザー)の視点からすると時間の神様っていう因果干渉系能力が意識を持ったものなのかしら…あれ、でも…?」

 

 

「…彼は言わば彼等(黒之)の血に流れる"魂"、私達が霊装(デバイス)と呼ぶものに己が魂を投影したのでしょう、彼の霊装(デバイス)三都破壊者(トリシューラ)の他にも有りますが…解りますよね?」

 

 

「!…まさか…《アダマス》?霊装(デバイス)が意思を持つなんてありえないわ!」

 

 

あり得ないと首を振る、だが…思えば霊装の変化も彼の変化の原因でもあると頭を抱えるステラ

 

エーデもこの辺りは俄かには信じられなかったが、否、難しく考え過ぎたのだ、二人とも

 

霊装(デバイス)とは伐刀者(ブレイザー)の魂を具現化したもの。

そして宗我は言いました『儂等と起源を同じくする者は《アダマス》の名を冠する武具を顕現出来る』…と、恐らく…いえ、十中八九覚醒を引き金(トリガー)とする事で《アダマス》は《クロノス》へと覚醒を果たす…血縁関係に在る方が居て幾つかの条件を満たしているなら解りませんが現状では彼と宗我以外に《クロノス》は居ませんから確証は出来ませんが唯一解っている事は今が好機である事…巨神としての力を使い熟した上で今迄通りの戦技を奮える様になった場合…全力を出した私ですら止められません。」

 

 

言い切って先日の戦いを思い出す、来ると解っていても其の剣速と全身の力を使って振り抜かれる一撃は唯の唐竹の風圧でさえ山を潰す…然も、あれで未だ本調子では無い、といった物理で殴るを馬鹿の様に体現した剣技に《悪魔》として培った技術が合わされば自分にすら手に負えない。

 

そう言うエーデは悠騎の髪を慈しむ様に弄りながらも何かを決意した様な瞳で彼を見つめている。

 

 

「…私と似たタイプの剣士かと思ったけど、違うの?」

 

 

「確かに似てはいますが規模が違います、其れに加えて彼は未だ"能力の真価"を見せていない。

星が定めた運命からしたら私達魔人よりも厄介且つ最強のジョーカーでしょうね、何せ自らが定めた能力・概念・運命すら捩伏せる生きた"力"の具現体…故に、彼等は現人神と呼ばれるのですから。

いえ、寧ろ限定的とはいえ小さな"願望機"というべきでしょうか…本人に自覚はありませんが。」

 

 

 

少しだけ未来のステラ、彼女は己が能力に気付き"ドラゴン"として骨を溶接する事が出来るが悠騎は自らの傷を"繋ぐ"等生温い事はしないだろう

 

 

——何故なら彼の場合、在り得た可能性(結果)を並行世界の何処かから"無理矢理"持ってくるだけで傷など負う事も無く対象を抹殺出来る。

 

遣ろうと思えば人類抹殺等椅子から動く事も無く出来る…謂わば彼の能力は時空間を司り其れを操る事で幾つかある未来の可能性から"結果"を導き出す事が出来る"小規模な願望機"なのだ。

 

 

 

其れも、生きて自ら其れを為せる事が出来るという厄介極まりない存在である。

 

何せ魔人ですら"外側"に至る前の、其れこそ存在する過去を潰されるだけで消滅するのだから。

 

 

 

 

尤も、ヒトとしての(悠騎)はそんな巫山戯(ふざけ)た事はしないだろう、何より彼の矜持が其れを赦さない、闘うなら自らの手で闘う、其れが騎士、黒之悠騎だ。

 

仮にしたとしても無辜の人々の祈りを聞き届けた上でヒトの手助けをするだけ、おんぶに抱っこ等ヒトを衰退させるだけだと自らの経験則から弁えているから。

 

 

 

 

 

——だが、其れはあくまで"悠騎"として。

 

彼の内に潜む者(クロノス)は、悠騎の影響を多分に受けてはいるものも、全盛期は神々の王として"黄金時代"と呼ばれる実り豊かな時代を築いた王としての面もある。

本来の力を取り戻した上で尚且つ必要に迫られれば何をするか解らない面も大いにあるのだ。

 

 

 

「…(クロノス)がその気になれば、傷一つ負う事なく私を消せます、私が居たという歴史を"根絶"する等造作もありません。

無論私は彼も悠騎の一部と見た上で接していますが…未来でのあんな姿を見た手前、最早原因の先送り等出来ません」

 

 

「エーデ……其れで良いの?」

 

 

悠騎を想う気持ちは強い、だからこそ自ら"嫌われ役"を買おうとしているエーデを哀しげに見詰めるステラ

 

だが、今この瞬間を有効活用しない手は無い…それに

 

 

「…私だって、彼を救いたいんですよ?

——大丈夫です、(クロノス)も…悠騎の一部、何れは乗り越える道ですから。」

 

 

「…そっか…なら、私次第、ね…今更、恥ずかしいけど…」

 

強い覚悟(おもい)に最早何も言うまいと眼を閉じるが己が成そうとしている行為に赤くなるステラ

 

 

「…美味しい処は譲ってあげるんですから我慢して下さい。それに、こうでもしないと悠騎は"捕まえられませんから"」

 

 

「うぅ…わ、解ってるわよ……後で茶化すなんて無しだからね!」

 

 

「さぁ?それは如何でしょう?——何はともあれ、計画開始です。」

 

 

二人の乙女が動く、愛する(悠騎)の為に、もう一人の彼が抱える(絶望)を祓う戦いが始まる。

 

—————

———

 

 

「…ふぅ…良い湯だな…」

 

気が付いたら夕方を過ぎていた、何故か身体中がひりひりするが恐らく日焼けでもしたのだろう…如何やら介抱してくれていた二人の了承を得て汗を流すべくコンタクトを外し洗面台に置いて一人湯船に浸かる俺は銀色の瞳を水面に映しながら

 

 

 

 

——余は記憶にある()へと語り掛ける

 

 

 

「——若しくは…其方(オケアノス)の呪いやもしれぬな、其方は中立と唱いながらその実、裏切り者の立場に立っていた故…」

 

 

海の巨神(ティターン)であり余等、ティターンの長兄であるオケアノスに愚痴を漏らす、彼奴の娘を愛人として孕ませ其の報復か如何かは覚えていないが彼奴(あやつ)の娘であるメティスと…母なる存在の言葉により戦争の優劣が決まったと言っても良い

 

 

「はッ、今更過ぎた事を言うつもりは無いがな、オケアノスよ…仮に今代、目の前に其方やテティス、メティスが現れたなら破壊の概念しかない亜空間へと閉じ込めてくれよう…永劫の苦しみを…。

——積年に渡る俺達(クロノス)一族の苦しみを…"痛み"の一端を味わえ、勝者であり中立者でありながら"母なる存在"を消さなかった愚物よ。」

 

 

俺の中の(クロノス)を抑え込む、父ウラノスが王位剥奪の前に残した"呪詛"でクロノスは徐々に蝕まれその結果子を呑み込むという凶行に及んだ

 

 

それ自体に同情も弁解もしない、事実は事実だ…言い訳はしない。

 

 

—だが、長兄の癖に兄弟を纏めずティタノマキア()の時も父ウラノスの時も中立を決め込み…その実寝首を掻いた上で後世にちゃっかりと名を残しているその在り方が気に食わない。

 

 

此の大地そのものを"星"と仮定するのならば、今現在伐刀者(ブレイザー)は疎か人類を縛る者の正体は…残念な事に俺達(ティターン)を産み出した存在でもある。

 

親の間違いは子が糾すのが道理であるにも関わらず…何もせず…否、巨神(ティターン)の面汚しであるオケアノスよりヒュペリオンの方が俺は好きだ、何せ《高みを行く者》の名を持つ様に向上心が極めて強い太陽神である、彼の在り方は一輝のそれを…違うな、此の場合は一輝がヒュペリオンに似ている

 

 

「一輝…御前と俺が兄弟なら…俺は此処迄悩んだのだろうか…」

 

 

あり得ない…もしもの話で場を濁す、だが、もし彼奴(一輝)が弟か兄ならば俺は矢張り兄弟の幸せを願うだろう…オケアノスとは違い、な。

 

 

「…さて、そろそろ出るかな…っ!?」

 

 

ふと、浴槽から出ようとした矢先、先程プールで見た水着を着たエーデとステラのシルエットが見え慌てて浴槽に戻ろうとするが…

 

 

「——長い独り言は済んだかしら?(クロノス)様?」

 

 

「な…ッ!?」

 

 

ガシッと腕を掴まれ引き戻される、振り解くのは造作も無い、造作も無い…が…っ

 

 

「…私達に怪我をさせまいとして思い切った行動が取れない…その甘さが貴方の美点であり欠点ですよ、悠騎…」

 

 

「エーデ…!?何で…ッ」

 

何で…!ステラが《クロノス》の事を知っている!?…そう問い質す前にステラが妖しく笑う

 

 

「…知らないのはユウキよ、私がどれだけ…!」

 

 

貴方を好きでいるか…無理矢理抱き寄せられながら耳許で囁かれた、意味を理解するのは簡単なのに…数秒だけ思考が停止する…

 

 

…!?

 

 

「……私が…ステラ・ヴァーミリオンが好きなのは黒之悠騎、あんたよ……大好きなの…貴方が…!」

 

 

 

ちょ…待って欲しい…!

 

 

「ダメだッ!俺は…俺だけ、は…絶対ダメだ!俺は…エーデと約束したし何よりその約束を果たしたいッ、それに…君は一輝と結ばれなければならない…!それがッ『"正しい未来"…だから?』っ……君は…一体何処ま…んン…ッ!」

 

片腕を掴まれ顎を強引に向けられ無理矢理唇を重ねられる、エーデの時の様に舌こそ(はい)っていないが…こんなの…ッ

 

 

「こん…ひゃの…らめ……ッ!」

 

 

「…何がいけないんですか?いい加減気付くべきでしょう、悠騎も、貴方(クロノス)も、"皆が皆貴方と同じ様に強い訳でも…況してや弱い訳"でもありません…

——貴方の真の強さは戦闘力ではありません、矜持(誇り)を尊び貴方が体現した"痛み"から他者を思い遣れる事…其れは騎士にとって一番大切な事です。

 

が、貴方の弱さは…いえ、罪は…"自分と同じ強さ"をヒト全体に求める事。矜持(プライド)の有無にしろ、其れは力の無いヒトには希望にも絶望にも映ります…悲しい事ですが」

 

 

ヒトは…貴方(クロノス)程強くも弱くも生きられない…と、呟かれる

 

 

 

な、にを…?

 

 

舌が(はい)って来ない様に唇を閉ざすが背中に当たる柔らかい感触に下手に動けなくなり、話に耳を傾けるしかない俺自身が情けない…こんな、…こんなの…っ…

 

 

(戻れなく…なる…っ…一輝とステラ……未来…ッ)

 

 

「……ステラは…全てを知っていますよ…

(!?)

貴方の出自も

(やめろ…)

貴方の過去も

(やめろ…っ)

貴方の苦しみも

(やめて…くれ…ッ)

そして…——一輝と自分自身(自分達)の未来も…

(やめ…ッ!)」

 

 

…最愛の女は哀しげに語る…俺に…俺自身が気付かない事を突き付ける様に。

 

 

「……っ…っ…」

 

 

此処迄聞いて悟れない程俺は馬鹿では無いつもりだ…哀しげに俯き力が抜けたステラから身を離し振り返り俯いた侭必死に笑顔を作ろうとする…否…笑えているのかすらワカラナイ…ッ

 

 

「……裏切った…のか…?…余を…あの薄汚い裏切り者(オケアノス達)のようにッ!?」

 

 

(余は…また…裏切られたのか?!)

(違う…!裏切ったのは…ッ!)

 

 

片腕を翻す…《絶掌》の気配を感じた俺は片腕を掴み制するが…ッ…邪魔をするなッ!余を…余を裏切る者は妻であれ子であれ…親兄弟でさえ赦さぬッ!!

 

 

「ユウキ…ッ!」

 

()の胸板に赤毛の姫が抱き着く、跳ね除けるのは造作も無い筈なのに…

翳した腕に()の最愛の女性が掌を這わせる…今、悲しみに任せて殺そうとした腕を慈しむ様に…

 

 

(ぽろぽろと眼から水が出る…余の身に何が起きている…?——だが、今は…このうらぎりものを…ッ…!)

(止めろッ!裏切ったのは…っ!俺だ…ッ!!昔の様に…今度は彼女達を傷付けるというのであれば俺は御前(オレ)を赦さないッッ!!)

 

 

「貴方を…いえ、"貴方も引っ括めた黒之悠騎"の全てを愛する者の務めです。

——《クロノス》…悠騎、貴方達を愛しています…喩え血に染まろうと…私は…私達が貴方達を愛し続けますッ!」

 

 

ぎゅぅ…っと下半身をタオルで覆い隠しただけの俺を…

 

…余達を優しく抱き締める…愛しい温もり……あぁ……()は…

 

 

(…誰かに…心の底から愛されたかっただけなんだ…な…(クロノス)は)

 

—————

———

 

 

精神世界とでも言うのだろうか…壊れた砂時計が何十…何百と転がる世界で同じ顔をした男が向き合う、先程迄裸に極めて近い彼等は鎧を纏い対峙していた

 

まるで…合わせ鏡の様に。

 

 

(…母に言われるがまま父を王座から引き摺り下ろし…愛情を与えられる筈の父から呪詛の言葉を贈られ…恐慌に陥りながら子を呑み込み続けた結果長兄(オケアノス)の娘に薬を盛られ吐き出した子等に…彼奴等の体裁だけは良い"中立"という名の裏切りさえなければッ!…否…黄金期とも呼ばれた治世を崩落させたのは…全ての引き金は…母だ、母さえ居なければ父を斬る必要も…っ、まして10年に渡る戦争(ティタノマキア)等起きなかったッ!)

 

 

男の一人…銀髪と銀の瞳をした男は嘆く、こんな筈では無かった…自分は精一杯護ろうとした…兄妹を、母を…そして地上の民を、確かに黄金期と呼ばれる時代を創り上げたのだ、彼の尽力は並々ならぬものだろう

 

だが、結果は…子を呑み込む狂王として(レア)母なる存在(ガイア)の怒りを買い兄夫婦(オケアノス達)に裏切られ…己が築き上げたものを神の寿命からは早過ぎる10年足らずで地上は疎か宇宙すら一度滅んだ、…その癖、オケアノスは後世に名を残し息子達はやりたい放題。

 

全知全能?笑わせるな、武器の扱いと女癖の悪さだけは一丁前な愚息が…ッ

 

女の嫉妬で地上に戦火の種(トロイア戦争)を撒くな、やりたきゃ勝手にやれ…!

 

 

(オレ)が愛した地上の者(ニンゲン)達に…これ以上痛みを与えるな、と…全ての原因である存在達を憎み銀色の瞳から涙を浮かべる様は…誰にも咎める事は出来ないだろう、何せ彼の"痛み"を誰にも気付かなかったのだから。

 

 

 

(あァ…そうだな、…その苦痛も…嘆きも……無念も…想いも…未来の人間に嘘偽り無く識って欲しいから俺達(子孫)の中に潜んでたんだろ?)

 

 

最初は…嫌だった、途方も無い力に振り回されていたが…蓋を開けてみれば唯のお節介で…思い遣りのある存在、だが…その涙を見て確信した。

 

 

 

彼はただ…

 

 

 

(余は…本当は……愛されたかった…!愛されたかったのだ…余は…ッ!)

 

 

確かな愛情が欲しかった、エリュシオンで幽閉などされずに…ただ、家族として酒を飲み交わす事を望んだのだ

 

 

だが…果たしてそれは皆が理解できたのだろうか?

 

 

呪詛を掛けられた者にしか解らぬ苦しみがある様に…掛けられなかった者の苦悩もある…掛け違えただけだとしても、最早過ぎ去ってしまった時間は元には戻せない。

 

だから、黒い瞳、射干玉の髪をした男は毅然と…真っ直ぐにもう一人の自分に…胸の奥から溢れる言葉(おもい)を伝える。

 

 

(理解(わか)ってる。…でもな、力があるからって其れを無闇に振るったら其れは唯の暴力であって"強さ"じゃない…それじゃあ愛される筈もない。

この手は…この力は、愛しい女性達(エーデとステラ)に向けちゃいけない手だ…!

この手は…今度こそ大切な者達を護る手でなければならないんだよ…勿論、例外はあるけどな。)

 

 

この力は…手は、血に穢れて尚…誰かに差し伸べる事が出来る、否…昨日言われたでは無いか?『自分の心を…見捨てるな』と

 

ならば…俺は見捨てない、力を求め掴もうとしたこの手は力と心を得た。

 

なら…護るんだ、何があっても…と静かに微笑む男に神の王と呼ばれた存在は首を振る

 

 

(…護る?そんな事出来るものか…ヒトと神は違う…何より余達は巨神…ヒト等何れ程科学が進化しようが蟻に等しい…意図せずして踏み潰すやもしれぬぞ…?)

 

 

力ある者は力無き者の真の痛みは解らない、と首を振る

 

確かにそうだろう、誰しも誰かの痛みの全貌等とても把握しきれない、況してや自分達は人智を超えた超常の身…何れは意図せずして傷付けてしまうかもしれないと…嘗ての記憶から来る経験則から語るが

 

——其れを認めた上で、今代の己が子孫は其の素顔(本音)を明かした上で尚も…偽りの無い笑みを浮かべる。

 

 

(かもな?でも、逆に言えばそうじゃないかもしれない…赤の他人を信じるなんて根拠の無い事は言わない…それでも。)

 

 

 

満面の笑み、其れが出来るのは…彼女達が与えてくれた温もり(優しさ)から…そして、ずっと…自分を護ってくれた相棒が目の前の人物(アダマス)だから。

 

 

(俺達の事を識っても…其れでも…愛してくれるエーデも

こんな俺を好きだと言ってくれたステラも

何より友達だと言ってくれた一輝達は…信じたいよ……なにより…僕は

——君を信じたい…ずっと僕を護ってくれた…優しい君(アダマス)を…今まで有難う…姿形は変わってしまったけど…此れからも…!)

 

 

心からの笑顔、偽り無き言葉…彼本来の一人称が出て来る程の…己に向けられた感謝と…深い愛…

 

 

(……心底、大馬鹿者だな…(オレ)は……余も……信じよう…《アダマス》ではなく《クロノス》として…気が遠くなる昔から其方等の血の中に潜みし余は…何れ他の者と同じ様に其方と同化するだろう……その時迄は…)

 

 

(…言わなくても解る…その時迄は…否、その先もずっと…)

(…馬鹿者め、だが……あァ……其方の愛と(つがい)の愛…其方を想う者の愛…余は……今、満たされている…)

 

 

そうか…まぁ、——()達は……魂で繋がれたもう一人の家族であり…親友であり……(未来)(過去)も共有した…二人で一人の"黒之悠騎"だからな…。

 

 

 

 

 

幻聴等ではなく彼に触れていたステラとエーデは確かに聞こえていた。

 

 

(…愛し続けます…貴方達を…)

 

(…神様も…使える力が…規模(スケール)が桁違いなだけで私達と変わらないのね…泣いたり、怒ったり…悲しんだり…笑ったり…)

 

 

其れは…二人の女と其の名…悠久なる騎士と書き悠騎と読む者が彼女等を護ろうとして起こした奇跡が織り成した奇蹟…意識を失いながらも微笑む表情(かお)は何方かが犠牲になるでもなく、自我を潰し合うでもなく…"共存"という宗我も悠騎の対存在(想厳)も辿らなかった道を生み出した。

 

彼の未来は、神の力等ではなく現在(いま)を生きるヒトの(想い)で変わり始める事となる

 

—————

———

 

 

「…すまない…」

 

 

あれから、再び気を失った悠騎をエーデが担ぎバスローブを羽織らせ寝かせ付けていたが暫く経ち眼を覚ました彼が頭を下げている、二人ともアレは荒療治ではあったが上手く行った事に内心胸を撫で下ろしているもエーデは何故か不満げだ

 

 

「…キス…」

 

「ぇ…?」

 

 

ずィッ!と顔を近付けてくるエーデに戸惑いながらも「速く…」と急かされ唇を重ねる、その様子に今度はステラが不満げだが大人しく見守ってる。

 

 

「は…っ……エーデ…?」

 

 

「…おかえりなさい…悠騎…良かった…ッ!」

 

先程よりも強い抱擁、あれはエーデにとっても賭けでもあった…自分達と悠騎と…彼の血に流れる《クロノス》の魂が確かな絆を持っていなければ今頃悠騎の自我は失せていただろう、だが…上手く行った。

 

つまり、悠騎は自分達を心から愛して…信頼していたという証でもある。

 

 

ぽろぽろと涙を流し抱き着く愛しい女性に「…ただいま…」と囁くが先程の口付けを思い出し気まずそうにステラへと視線を向ける

 

 

「……ありがとう…」

 

 

「べ、別に?ただ……知らない処で護られてるなんて癪だし…好き…って言ったのはじ、事実だし?」

 

 

先程の口付けを思い出していたのだろう、顔が紅い、衝動的に悠騎は彼女の手を引きステラも蹌踉(よろ)めきながらエーデの傍に脚を踏み込む

 

 

「っ…危ないじゃない…さ、さっきのキスの時のお返し?」

 

 

泣きそうな表情(かお)、男には同時に複数の異性を愛せる者も居るらしいが女は違う…愛着こそ残れど基本的に一人の男しか愛せない仕組みになっている。

 

 

ならば…エーデにああは言ったが此の想いを胸に仕舞うつもりであった

 

 

だが、悠騎の中では既に答えは出ていた…散々煽ったのだ、彼女には答えを聞く義務と義理と——権利がある。

 

 

「……今更、かもしれないが…俺にはエーデが居る…」

 

 

「…うん…知ってるわ…うぅん、痛い程識ってる。」

 

 

そんな事は百も承知だ…と悲しげに微笑む、其れでも…ステラは彼を好きになってしまったのだから

 

 

「…此の際、未来の事も、俺達一族の事も識っているという前提で話を進めるが…俺は、一輝とステラの幸せを願っていた、だが…ステラは…ステラの意見を聞きたい」

 

 

銀と黒の瞳がステラを見詰める、ただ真っ直ぐに…そして真摯に。

 

 

(…残酷ね…ユウキは…)

 

 

「…私は…——そんな(未来の)事で私達から離れようとしていたユウキが赦せなかった…!どうして!?何で相談してくれなかったのッ!?

私の未来は私自身が決めるわっ、それはイッキも同じ事を言う筈よッ!」

 

 

堰を切ったように紡がれるは悠騎に対する不満、離れようとする?其れで幸せになっても自分達は心の底からは笑えない…!

何より…そんな重荷(未来)を大事なヒトに背負わせるつもりなど毛頭無いと涙を流す

 

 

「…そうだな、でも…俺は君達4人…否、エーデを入れて5人に救われた…、君達5人の為なら俺は最も幸せであろう未来を君達に…」

 

 

言い掛けて指先を充てがわれ止められる、エーデもまた…ステラと同じ気持ちだから

 

 

「ふざけないで…っ!私の未来は私が作るの!第一、ユウキ()にも星にも其れを決める権利は無いわッ!!…本当に…私達の……私の幸せを願ってくれるなら……側に居てよ…ユウキ…ッ…!」

 

 

言われて気付く……自分が…傲慢であった事を

 

 

彼女の涙を見て悟る…もう二度と…誰にも、星が定める因果や…自分自身にも…ッ…彼女達を泣かさせやしない…と

 

 

 

 

(…あァ……我ながら…何て……)

 

 

 

 

 

罪深い、と…自分自身の心の在り方に気付いた人間…黒之悠騎は…

 

 

 

 

 

 

 

「っ…!」

 

 

抱き締められ身を震わせているステラ…己が心に気付いた悠騎は…もう大丈夫だ。

 

神であり連綿と引き継がれた血に宿る自分自身(クロノス)にあれだけの啖呵を切ったのだ、…もう…悩む事は無いだろう

 

 

「…ッ…」

 

 

「…不誠実だと罵ってくれて良い、最低だと詰ってくれても良い…だが俺は…ッ——俺も…ステラ…、君が好き、だ…っ」

 

 

「…ッ……ばか…ッ……離れ…られなくな、るじゃない…ッ…!」

 

 

すまない…と謝る、こんな筈では無かった…と、悠騎とステラは彼女と一輝が結ばれるという本来の大筋を根本から覆す道を選ぼうとしている…二人を抱き締める悠騎は…大切な友人を最も酷い形で裏切った事になる。

 

 

「…其れでも…俺は……ッ…」

 

 

「ステラとエーデが好きで…大好きで…ッ!…二人を…此の手で護り抜きたい…ッ…其れが…現在(いま)を生きる俺の…俺個人の願いだから…ッ!!」

 

あまりにも厚顔無恥、我儘な願い、常人からしたらあり得ない思考、忌むべき想い、道徳に反している。

 

何より…此の願いは当初の"力無い無辜の人々を救う"という願いから半ば逸脱している。

 

 

簡単に見て優先順位が二人に増えただけだと思われるかもしれないが…その実、"大切な友人"を事実上救う処か踏み躙ったも同義だ。其れは何れ彼自身の心を苛む事態を引き起こすだろう。

 

 

——だが、其処には不純物が一切ない二人の女性に対する()としての強い想いがある。

誰にも祝福はされないだろう。

今迄の環境が変わるなんて当たり前だ。

一輝に怨まれても文句は言えない。

 

其れでも…!

 

 

「…俺は……二人を愛している…ッ!だから…ッ!皆も…いや…俺を愛してくれた二人を…本当の意味で護れる様になるからッ!!」

 

 

確かな…力強く紡がれた言葉、嘘も隠し事もするその身。

されど、一度口にした言葉を唯の一度も変えようとはせず己が身を…否、魂すら削って護ろうとしていた覚悟を持つ今の悠騎(騎士)は…残念ながら既存の常識からしたら途轍もなくいい加減だ…だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのいい加減さが…曖昧さが……不器用で優しいヒトという種そのものを表しているとも言える。

 

 

 

「…我儘な旦那様ですね…でも……隠れて浮気をされるよりは全然男らしいです…」

 

 

「本当よ…っ、こんな最低な男……私達位しか貰い手居ないんだから…バカユウキ…ッ!」

 

 

気付けば二人…否、三人は泣笑い、本当の意味で通じ合えた心…今は唯…祝福する様に浮かぶ満点の星空と月明かりが静かに三人を見守っていた

 

—————

———

 

 

そして、互いの気持ちが通じ合った翌日

 

 

「忘れ物はないか?ハンカチは?ティッシュは?あ、窓開けっ放しじゃなかったか?」

 

 

「…ユウキ…何だかジャパニーズオカンみたい…ハルキも、ああなるのが解ったわ…」

 

 

「まぁ、私は慣れましたよ?元々そういう面はありましたから…ステラの御蔭で其れが明確に表層化された訳です、責任は取って下さいね?」

 

 

「ぅ…ま、まぁ…ね?ユウキの中では私達二人に優先順位なんて無いみたいだし…処でエーデ…?」

 

 

「はい、何ですか?悠騎が好きなキスの仕方なら御自分で模索した方が愉しみが増えますよ?受けに見えて激しいですからね」

 

 

「ち!違うわよッ!…いや…興味は…ある…けど、…その…丸3日…シた…って話…結局嘘…なの…?」

 

 

「あァ、その話ですか……彼、割と嫉妬深いんです、だから彼の能力の応用でちょっとした御守りを作って貰ったのですが…ついでに他の男性では最早満足出来ない位(調教)されましたよ?一種の呪い並に…流石は巨神です」

 

「〜ッ!?」

 

 

つまり、3日間ぶっ続けというのは嘘だがその代わり更に高次元のナニカをやらかしていたと照れながら白状するエーデにステラはぶち切れる…まぁ…恋人同士だ、大事にしてるから手を出さないと青くさい事を言う程悠騎は甘っちょろい少年期は過ごしていない

 

寧ろ、喪う苦しみを識っているからこそ求め過ぎてしまう帰来がある

 

 

ぷるぷると震え無自覚だろうか…霊装(デバイス)を顕現させ背後に居る愛しい彼氏へと向き直るステラは嫉妬に狂った一匹の竜だ。

 

 

「ゆ、ゆゆゆ…ッ!ユウキのバカァァァッ?!なら昨日にでも襲いなさいよォッ!!」

 

 

「な…ッ!ステラ!どうした!?俺が何を襲うと!?」

 

 

「うっさい!もーッ!帰ったらイッキに土下座しなさいよねッバカユウキッ!!」

 

 

「いや!土下座はするし殴られても仕方が無いが取り敢えず剣は納めろッ!ホテルが火事になる!?」

 

 

剣の達人も見切れるか、という剣筋を的確に見切りながら先へと走り出す悠騎とそれを追い掛けるステラ、そんな二人を見守るエーデ

 

 

 

そして…

 

 

「——両手に花とは流石儂の孫じゃのぅ?」

 

 

「——…そういうあンたも、其処の女は誰だ?まさか愛人とは言わないだろうな…英雄(ヒトゴロシ)ッ!」

 

 

バス乗り場への道をステラに追い掛けられながら全てのはじまりである英雄との邂逅を果たす、ステラ、エーデの両名は…恐らく直感的に感じ取っていたのだろう。

 

 

 

此のタイミングで(宗我)が悠騎に接触するつもりだった事を。

 

 

 

 

 

「ほっほっ、儂は幾つになってもモテるからのォ?じゃが…流石に御主自身が"救った"存在を忘れるのは如何なもんかのぅ?」

 

 

 

「…矢張り、あの時の…」

 

 

エーデは彼女の顔に見覚えがあった、何故なら…彼女もあの白髪の少女に"逢っているから"

 

 

「…?あンたは…否、其方は…成る程、其方も覚醒を果たし"到った"者か。余としてはケイローンを…もう一人の息子を今世で愛してやりたいのだがな、…彼奴にはすまぬ事をした…。」

 

 

「…流石の御慧眼、そしてお久しぶりで御座います。

私は…2年前に悠騎様に救われました…親兄妹を殺され、貞操さえ奪われ…此の力の所為で異国へと売られる為だけに生き延びらされ…死ぬに死ねずに…ただただ絶望していた私に生きる目的を与えてくれた貴方様に…せめて御恩返しさせて下さい悠騎(クロノス)様…!」

 

 

「ユウキの事を知ってる…?誰なの、あなた!」

 

 

隣で警戒していたステラが女の正体を問う、女はくすりと微笑みながら一礼をして

 

 

「私はシオン《医療神(アスクレピオス)》のシオンです…勿論、医療神(アスクレピオス)の名は二つ名ですが…私の"能力は"本物です…、今では家族も元通り"生きて"います。」

 

 

悠騎に向け2枚の紙切れ…否、写真を放るシオンと名乗る女、指で挟み写真を見ると確かに2年前と現在の時間が刻まれた写真を見て《クロノス》から主導権を譲渡された悠騎は驚愕の表情(かお)を浮かべる

 

 

「——…あんた…俺がエーデと初めて逢った時の…そうか、だが…恩返しとはどういうつもりだ?あんたは…否、あんた達は何を言いたい?」

 

 

「神話の時代、貴方様《クロノス》は我が(ケイローン)の父君であられた…私は…《アスクレピオス》として貴方様親子の恩義に報いたい…

—何より、私はヒトとしても貴方様に一生の敬愛と私が此の2年で…いえ、"覚醒"を果たし身に付けた医療技術を、此の身を、魂すら捧げる所存。

貴方様が野望の為に死ねと言えば私は喜んで死にます、その為に…もう一人の《クロノス》様の呼び掛けに応じ参上仕りました、さぁ…私に命じて下さい、貴方様の望みを…!」

 

 

理解が及ばないというよりは…長年求めた存在が目の前に居るという歓喜、だが同時に…一輝達との出逢いで…エーデとステラが灯してくれたヒトとしての心が其れを行い果たして良いのか、という葛藤が入り乱れる

 

 

——故に、宗我はとても厭らしい顔で悠騎に囁く

 

 

 

「…のう?儂は春姫と御主だけは生かすつもりだと幼い御主に言ったんじゃが昨日…漸く見つけたんじゃよ。

 

 

 

 

 

——春姫を生き返らせる事が出来る者を、の?」

 

 

「…ッ!」

 

 

「尤も、ただでさえ苦労して見付けたんじゃ、簡単には春姫の遺骨は渡せんのぅ…?」

 

 

思わず眼を見開く、察するに春姫が生き返るには遺骨が必要で其の遺骨は目の前の仇、否…宿命に抗わず従う事を佳しとした男が預かっているという事になる。

 

シオンと名乗る少女も遺骨が無ければ蘇生は出来ないのだろう。

其れでも遥々日本に…宗我の呼び掛けに応えたのは純粋に悠騎の力に成りたいから…其の気持ちはエーデとステラ、何より悠騎が理解した。

 

 

だが、此の老人の遣り方は許容出来ないと悠騎は二人が刻見(ときみ)の力で過去と未来を見た時以上の怒りに燃えた眼で己が祖父を睨む

 

 

「外道め…ッ!どうすれば…春姫を返す!?また…また彼奴を…俺達を…ッ…!」

 

 

「…御主は今の自分が消えても春姫が生き返れば…否、"春姫が生きている未来"を望み幾度となく御主等を巡る歴史を改変しようとしたが…其れでは何の解決にもならんと気付いたのじゃろう?其処でじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

『御主…儂の跡目に成らぬか?』

 

 

 

 

 

 

 

波のせせらぎの音に老人の…袂を分かッた筈の祖父の声が静かに、その場に居る者の…悠騎の耳を衝いた。

 

 

「な……何を言ってやがるッ!誰が貴様な「七星剣武祭、今年から個人戦以外に勝ち抜き形式の団体戦もやるからのぅ、儂の匙加減一つで御主の友人…如何なる事かの?」ッ!?貴様ァァッ!」

 

 

「ちょ…ッ!そんなの私聞いてないわよっ!?」

 

 

「…財閥の権力を使った実力行使、ですか。表向きには観衆は楽しみが増えますが…彼が…悠騎が自分(宗我)を殺さない事を選ばぬ様に…其処までして…煽って迄"死"を選ぶというのですか…貴方は…!」

 

 

殴り掛かる拳を受け止めただけで激しい暴風が吹き荒れ上空の雲を霧散させ、深さ10メートルに及ぶクレーターが生じる、だがそんな事よりも宗我により齎された情報に皆が浮き立つ

 

 

 

「如何したのかのぅ?儂は老婆心で龍馬の曽孫が七星剣王に成れる可能性を増やしてやったんじゃが?」

 

 

 

涼い表情(かお)で天候すら変える一撃を防ぎ、いなす英雄…彼は明らかに己が孫を挑発している

エーデとステラは宗我の本心を知っているが悠騎は俄かには信じられずにいた、そして今の煽り、完全に心象を悪くした…大事な友人をコケにされたのだ。

 

 

——尤も、此れさえも宗我の企ての一つなのだが。

 

 

「少しは見直そうと思っていた自分が情けない…ッ!

俺が…俺とステラがッ!全力で戦いたいと惹かれた漢を愚弄するなァァッッ!!」

 

 

「——…吠えよるわ、其の漢を…友を裏切った身での。」

 

 

「ッ!?」

 

 

完全に虚を突かれた一言、其れは…罪悪感が強ければ強い程効く名刀よりも鋭く…心を斬り裂く凶器。

己が力を完全に利用され悠騎は宙を舞う、合気道。

 

最近急激に増大した力を未だ扱い切れていない悠騎には最も鬼門となる武術の一つだ

 

 

ズダアァァンッ!

 

 

「ユウキッ!?」

 

 

「…手を出してはいけません、私も…我慢しているんです…ッ」

 

 

「《クロノス》様の邪魔はさせません、私は…彼の方(悠騎様)の本当の望みを識りたい…その邪魔をするなら…!」

 

背中を強く打ち付け地に減り込む様に飛び出そうとするステラ、其れを制するエーデだが正体不明の威圧感を発するシオンが杖…恐らく《アスクレピオスの杖》と呼ばれるソレを構えているのを見て手出しが出来ないでいる

 

 

 

「がは…ッ…!」

 

 

「…確かに強うなった、(英雄)に両手を使わせたのじゃ…誇るが佳かろう、じゃが…力に振り回され過ぎて今迄培った技術が追い付いてこんのは御主の未熟さよな。」

 

 

「こ、の…ッ…」

 

 

「動けぬ様じゃな…まさに"非力"…あァ、丁度良い。

——彼の娘っ子共を殺そう、さすれば御主は更に力を増すじゃろう?」

 

 

二人を…悠騎が愛した女性(エーデとステラ)を殺すと宣う祖父に…何も出来ず地に這い蹲る己に…静かに、其れでいて心の底から怒りを覚える

 

 

(!?ふざ…けるな…)

 

ドクン…

 

(ふざけるな…ッ)

 

ドクン…ッ

 

(二人は…ッ!)

 

ドクンッ!

 

 

(余の力を貸そうッ!全力でいけッ悠騎…ッッ!!)

 

「二人だけは…ッ!俺の命を掛けてでも…護るッッ!!!」

 

 

 

 

 

ドゴオォォッッ!!

 

 

「ぐ…ゥッ…!やるのぅ、迷いを抱いていた拳より余程強い…その覚悟に及第点をやろう。綺麗な翼じゃのう、まるで…天使じゃ。」

 

 

舞い落ちる純白の羽…否、羽の様な魔力の残滓…宙を舞うは嘗て《悪魔》と呼ばれた男…全身を覆う金属で要らぬ部分だけ取り除いた様な軽鎧に身を包み12の菱形のビットを円環状にした其の姿は…

 

 

「霊装が…変化した…ッ!?」

 

 

「…(ゴッド)…神の時計…ですか…」

 

 

大切な存在を護る為に自らの意思で限界を突き破った姿はまさに神、此れ程の力を解放して意識があるか如何か等解らない、だが…彼は片腕を翻し己が分身(デバイス)に命じる…!

 

 

「い、け…ッッ!!!」

 

12のビットが無軌道に動く、先端から対象(宗我)を討つ為だけの小規模だが破壊力の高い閃光が撃たれる様は…想厳が見せた技の一つバイラヴァ(恐怖の殺戮者)に似ているがあれよりも禍々しくはなく周囲に与える影響は小規模…然しながら対象のみを狙った閃光の爆撃の破壊力はAN602並という常識的に考えあり得ない威力を一発一発から繰り出していた。

 

然し…

 

 

「…強き覚悟よ、因果を書き換えてでも御嬢さん等を護ろうとするとはの。

—じゃが、御主が死ねばあの御嬢さん等が哀しむ事に気付けよ…?」

 

 

メキャアァッッ!!

 

 

「ぐ…はッッ!!」

 

 

油断していた訳では無い、初めて防御の上からその顔に一発当てた孫の成長と新たな霊装の進化、そして…己が命を燃やして迄二人を愛し抜くという覚悟に満足気な笑みを浮かべる宗我

 

然し、其れでは…命を捨てるつもりでは結局二人を本当の意味で救えないとした上で"魔力と気を練り合わせたエネルギー"を込めた拳で其れ等を殴り飛ばした上でボディブローを食らわせ昏倒させる

 

 

「…強くなりたかったら、何時でも稽古をつけてやる、御主は儂の孫であり…《クロノス》の永い因習を終わらせる事が出来る存在じゃからな。シオン殿、御主は今暫く儂の元に留まって下され。」

 

 

「…解りました、ですが治療だけは…」

 

 

倒れた悠騎の腹部に杖を翳す、彼女の霊装だろう、杖の先で衣類を捲り腫れ上がった患部はみるみる赤みと腫れが治る。

 

シオンが動いた事により漸く二人も動ける、気を失った悠騎の頭を膝に乗せるステラ、空間を捻じ曲げその場を離れ様とする宗我を睨むエーデ…そんな二人に宗我は踵を返し深々と頭を下げる

 

 

「ユウキッ!!」

 

「宗我…ッ…」

 

 

「…孫の事、深く願い奉る…昔から不器用で言葉足らずな面もあるが…一端の漢の面をする様になったわい…御主等の御蔭じゃの。

——時間と同じ様に…打算の無い愛はヒトを成長させる、そして愛とは様々な形がある……儂に其れを気付かせてくれたのは…ステラ嬢、其方と起源を同じとする妻じゃ…尤もかなり遠い親戚じゃがの、其方と悠騎は」

 

 

「ぇ…!?」

 

 

「まぁ、結婚したら其奴をヴァーミリオン家に帰依させるなりなんなり好きにすれば良い…ちゅーことじゃ、是が非でも黒之家は継いで貰うがの?」

 

 

先を見通したかの様に笑う宗我にステラは赤面する、エーデは悠騎個人を愛しているし其れはステラも変わらないが…小国に強い騎士の血が入ればヴァーミリオン皇国も安泰だという考えなのだろう

 

 

「じゃあの!来週の試合、其奴にとってはある意味試練じゃろう…気張る様に伝えといてくれィ!」

 

 

年甲斐も無くピースで別れを告げる宗我、だが…二人は見た

 

 

(…(つくづ)く莫迦ですね、痩せ我慢ですか…)

 

(…非力、って言ったけど……)

 

 

肌は焼け爛れ、防御に使っていた指はあり得ぬ方向に曲がっている…かなりの痛みであるにも拘らず孫の身を案じる不器用で…(悠騎)に対し優しさを表に出さない英雄(祖父)の背を見届け楽しくも波乱に満ちたデートは幕を閉じる

 

 

一輝が辿る筈であった未来とは大きく異なる邂逅が幕を開けるのを彼等は未だ知らずに。




次回は一輝君との修羅場回にするか《雷切》との試合にするか悩み中です、恐らく何方の要素も取り入れると思いますが(苦笑)


14日18時30分頃の追記

!気付けば色が…感激ですッ!もっと頑張りますッ!
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