落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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最近痛ましい事故…否、災害をTVで見る度に5年前の記憶が蘇り、その度に現在戦闘場面を大幅に改変しております…投稿が遅れてしまい申し訳ありません;

今回はある意味痴話喧嘩?と青くさい青春、意外な人物の暗躍行動、微ヤンデレ、タイトルの肩透かしが苦手な方はご注意下さいm(_ _)m


闇と光–暗躍と涙–

 

「終わりました、流石は悠騎(クロノス)様、私の治癒を妨げる程のロングレンジ攻撃を放てるなんて…」

 

 

「うぅむ…めちゃくちゃ痛いわい、ッ…此れ程こっ酷くやられたのは龍馬と遣り合って以来かのぅ」

 

 

次元を捻じ曲げた先、観葉植物や水槽が設置された部屋で治療を受けていた宗我は未だ身体が引き攣っている様な感覚に眉を寄せながらも何処か嬉しそうに笑う

 

 

「…嬉しそう、ですね?」

 

 

「まぁ、の…儂の背中をちょこまかと追い掛けていたあの坊主が此れだけ強くなったんじゃ…祖父としては成長を喜ばぬ筈がなかろう?」

 

 

不思議そうに問い掛けるシオン、無理もない…医師としては彼等の血塗られた闘いなど本当は止めたいのだ、何より…悠騎に救われた者としては彼に此れ以上痛みを与えたくない。

未だ顔を合わせた訳では無いが彼女以外にも救われた存在は多い、其れはアリスが以前言っていた事でもある。

 

そして…そんな孫の成長と人望に祖父としての表情(かお)を見せる宗我は指を開いたり閉じたりを繰り返し感謝の言葉を告げる

 

 

 

「御厚意、痛み入るぞい。…報酬以外に礼をしなければならんのぅ…何か欲しいものはあるかの?」

 

 

報酬、つまり彼女は表面上は彼の専属医師として雇われた身でもある。

本来であれば治療は彼女の義務であり礼を支払う義理は無い…だが、此の老人は微笑みながら"何でも佳いぞ?"と、礼は受け取れないと首を振る彼女に更に勧める

 

 

——彼女の答えを知っている上で。

 

 

「……其れでしたら…私の希望は…———。」

 

 

少女は本来付き従う者に己が希望を伝える、其れはある意味人道に反した願い、人に拠っては吐き気を催すエゴ。

 

 

然し…自分以外の誰かを強く想う優しくも哀しい望み。

 

 

そして、彼女自身が予測すらしていない展開を齎すとも知らずに。

 

 

—————

———

 

 

「…情けない…一昨日に続き昨日も二人に迷惑を掛けるなんて…」

 

 

気付けば自室に運ばれていた己が醜態を恥じる、記憶を辿るに分身(クロノス)が俺の身体の主導権を一時的に握り瞬間的に膨大な魔力を使い脱力し切った身体を二人の肩を借りながら帰路に着いたようだ、二人とも疲れていたらしくベッドに凭れ掛かり眠っている。

 

白と赤の頭部を優しく撫でる、中途半端と思われる答え。

二人の内一人を犠牲にしろという問いが出されたら…

 

 

(…其の時は…俺は…ッ…)

 

 

脳裏に過る嫌なイメージ、振り下ろされる鎌、何方か一人しか助けられないという状況に寒くもないのに身体が震える。

 

何時の間にか二人は俺にとって大切な存在になっていた。

 

 

エーデとの奇縁とも呼べる邂逅と彼女との間に生まれた確かな絆。

敵であった筈の彼女を愛してしまった、其れでも…此の胸は彼女の身動ぎ一つで高鳴ってしまう。

 

 

ステラとの何気ない日常

 

だけど、何時も真っ直ぐで、笑顔が太陽みたいなあの娘に…一輝を救って欲しくて……でも、何時の間にか…救われていたのは…

 

——彼女が、他者の為に涙を流す事の尊びを改めて教えてくれた、なんて暖かい…優しい温もりだろうと……でも…

 

 

 

(…言い訳をするな、俺は…)

 

 

結局の処…俺は一輝()を裏切った。

今思えば巫山戯(ふざけ)た話だ、何方も失うのが怖くて…結局の処二人を選ぶという不誠実な答えしか出せなかった、護ると言っておきながら其の実彼女達を傷付ける選択しか出来ていない。

 

 

「…其れでも…二人は…」

 

 

護りたい、…その時、もし"生きて"一人だけしか救えないと言うのであれば此の命を…魂を投げ捨ててでも二人を…護りたい…ッ!

 

 

(矛盾、してるかな…《クロノス》…?)

 

 

内側で腕を組み俺を…僕を見守っている相棒(クロノス)に問い掛けてみる、銀色の瞳をしたもう一人の僕は不敵に笑うのだ。

まるでケツが青いとでも言わんばかりに。

 

 

(——…話は少しズレるがな、悠騎よ、余の記憶を有す其方に語るのも何だが…余は妻の他にピリュラーというニンフと(まぐ)わったが…彼れは余の過失だ)

 

 

(…確かケイローンの母だったね、過失…か、確かにゼウス程では無いにしろ貴方も中々罪深いな、然も過失ときたか…)

 

 

クク…と喉を鳴らし笑う姿に肩を落とす、起源からしてこうなのだろうか、と思い悩む僕に対し彼は言葉を続ける。

 

 

(そう言うな、——まぁ…なんだ、余は"妻の目を欺き"彼奴と子を設けたが今になって思うよ…其方の様に、あの時は報復が怖くて逃げたが…逃げずに、真摯に…ただ真っ直ぐに二人を愛せば今頃少しはマシだったのかもしれない、とな?)

 

 

真摯…なのだろうか?人類以上に酸いも甘いも噛み締めた先人()の言葉は僕にはイマイチ良く解らない。

内心首を傾げている様子がツボに嵌ったらしく彼は更に笑っている…僕としては不快だ、第一何故何方か一人しか救えないという問から…話を摩り替えている分身(クロノス)をジト目で見詰める。

 

 

(ふふ、そうむくれるな…其方はあの二人を真剣に愛しておるからこそ悩むのだろう?

ならば、其の愛は本物だ…誰が何を言おうと、な?)

 

 

愛しているからこそ悩む、か…確かに…僕は二人を愛している。

 

だが同時に彼の時、もしも僕がステラを拒絶していたら…とも思う、其の強さと覚悟があれば…彼女の幸せを…

 

 

(…一つだけ忠告しておくが、其れは覚悟でもなければ強さでも無い、否、寧ろ想いを正面から受け止められぬ弱さだ。

——彼奴(祖父)に負け不安だからといって一度決めた事から目を背けるな、其れに…其方の(一輝)は傷心のステラを見たら確実に其方を憎むぞ?

此の話はステラが其方に好意を向けた時点で多かれ少なかれ傷が残る話だ…其方は、決して最善では無いにしろ彼女の想いに…何より其方の心に従った、其れだけよ。)

 

 

言うだけ言った彼は、後は自分で考えろ…と突き放す

だが…魂で繋がった僕には解る、彼が言いたいのは…

 

 

(二人を護る、護り抜く…其れが…せめてもの誠意でありケジメであり…誓い、そして)

 

 

紛れも無い愛情、だから。

 

 

 

二人(一輝とステラ)の未来を奪った僕には…泣き言は赦されない

 

 

明日は一輝の試合が終わり次第事情を全て話そう、大事な試合が控えているんだ…朝に何てとても話せない。

 

 

(…愛してる…言葉の意味以外にも…愛しい、って気持ち…君達が教えてくれた…)

 

二人の寝顔を見ながら掛けられていた布団静かに掛ける

 

側に、居るから…否、違うな…僕が側に居たいんだ…大好きな二人の側に…。

 

—————

———

 

一方その頃

 

 

「……ステラ…」

 

僕は今、いや…最近苛立っているみたいだ、理由は、大好きな友人と大好きな女の子の事。

 

 

(悠騎君…君は…)

 

 

隠鉄を振るい想うのは彼の急激な変化、合宿後から明らかに可笑しいのに彼は…僕達には何も言わずにいる。

 

 

(…そんなに…ッ!)

 

 

そんなに…僕達は信用出来ないのか?

 

 

そんなに…頼りないのか?

 

 

 

そんなに…僕達と君の間には溝があるのか…!

 

 

そう詰め寄りたくても出来ない、否…彼の中の"ナニカ"に圧倒され今迄みたいに上手く接する事が出来ない僕自身が情けない。

 

 

(…ステラは…君を…!)

 

 

好きなのに、合宿前から…いや、初めて逢った時から気付かない程に微妙な兆候はあった…彼女をずっと見ていた僕には解る、其れが表面化されていなかっただけで。

 

 

はっきり言って悔しいし、何より彼にはエーデルワイスさんが居る、普通に考えてあり得ない考え方だし、きっとそれは周りには理解出来ない感情かもしれないけど…

 

 

(僕は…ステラが幸せに成れるなら…ッ)

 

 

(悠騎君)なら、既存の考え方を逸脱してでもステラを幸せに出来る、そう思っている、なのに…ッ!

 

 

「君がそんなんで…如何するんだよッ!!」

 

 

ビュンッ!

 

 

「は…っ…は…っ……くそ…ッ!」

 

 

何度振るっても砕城君と対峙していた彼を斬るイメージが湧かない、此れ程迄に君は…悠騎君は僕の中で高いレベルで根付いている…此れ程迄に…君は僕の予想を超えているというのに…!

 

 

パチパチパチパチ

 

 

「…君は…悠騎、君…?」

 

不意に聞こえた拍手に視線を向ける、満月と季節外れの桜の花弁(はなびら)を背に僕に微笑み掛ける人物は…今迄僕がイメージの中で斬ろうとしていた人物と髪の色以外は瓜二つだった、でも何処か雰囲気が違う

 

 

「ふふ、流石に男の子と間違われるのは嫌ですね〜、あ…でもお兄様は男の子の皮を被った女の子ですし問題ないかも、それはさておき。——今晩は、黒鉄一輝さん。私は——。」

 

 

風に靡く暗い桜色の様な髪、破軍の制服を着た彼女から紡がれた名前に僕は眼を丸くする…だって、聞いた話じゃこの娘は…!

 

 

—————

———

 

 

翌日、悠騎はステラと共に登校するのだが

 

 

「…私が居ない間に悠騎が浮気しない様に見張っておいて下さいね?」

 

朝食の目玉焼きを乗っけたトーストを齧りながらステラに念を押すエーデ、彼女としては教室に乗り込めない分ステラに頼んでおく方が一番確実だし何より安心出来る。

 

一ヶ月とはいえ実戦形式で扱き、扱かれた仲だ、そんじょそこらのなぁなぁ師弟よりは絆は深いだろう。

 

 

「当たり前よ、浮気なんてしようものなら…」

 

 

真っ二つに斬っ(バラし)て半分こにしましょ?と、笑顔でグロい事を言うステラに悠騎は苦笑する。

彼としては二人以外に愛を誓うとしたら死んだ双子の妹や家族位だ、この二人が安心出来る様にするには矢張り…。

 

 

「…エーデ?」

 

 

「はい?何です…ん…ん…っ」

 

 

「んな…ッ!?」

 

 

頭を抱き寄せ舌を差し込むキス、時間があれば何分でも出来ると言わんばかりに情熱的且つ濃厚な口付けにステラは赤面する

 

 

「ン…っ…昼間は休日位しか一緒に居れないが、俺だって寂しいんだからな…?」

 

 

舌を解放しじッと見詰める、彼が素直に寂しいと言うのは稀である為に虚を突かれたエーデは赤面し俯いてしまう

 

 

「…今度、またデートをしましょう…寂しい等と言えない位に、ね?」

 

 

「あァ…楽しみにしてるよ、じゃあ行ってくるッ!?」

 

 

「っ…!」

 

 

微笑みを浮かべ靴を履こうとした矢先胸倉を掴まれ無理矢理唇を奪われ眼を見開く、ついでにエーデも全く同じリアクションだ

 

 

「は…ッ…わ、私にだけしないなんて赦さないんだから……ばか!」

 

 

やらかした張本人、ステラは涙眼で訴える…自分だけ除け者にするなと。

 

 

「…すまない、そういうつもりじゃないんだ……ん…っ…」

 

 

「っ…ン」

 

 

今度は悠騎からの口付け、ぴくん…と震えるステラの後頭部に手を回し触れるだけのキスだが…

 

 

「——矢張り、私も教室に行きます。いえ、此の際今から貴方(悠騎)を監禁してしまえば寂しくありませんよ?是非そうしましょう、そうするべきです…!」

 

 

嫉妬に狂ったエーデは何処からか首輪と鎖を持ち出し微笑みを浮かべる、だが眼に光は無い…所謂最高にハイってやつだ!

 

否、真面目に笑えないが。

 

 

 

「な、何言ってんのよ!ユウキは今日の放課後に試合を控えてるんだからそんなのダメッ!ほら、行くわよユウキッ!」

 

 

「あ、あぁ…その、御仕置きはまた後で、な?」

 

 

「っ!待ちなさい悠騎!後で絶対穴埋めはして貰いますからねッ」

 

 

姦しい事極まりないが三人で居る事が悠騎にとって心地良い居場所になりつつあるのも事実、彼は今…心から笑えている。

 

其れは、過去を忘れた訳でも己が罪を誤魔化している訳でも無い。

偏にエーデとステラの御蔭なのだ、彼は確かに肉体的な面では二人を護れるかもしれない

 

 

だが、精神的に護られているのは悠騎だ。

彼女達の愛が彼を護り…そして其れを自覚しているからこそ悠騎も二人を護りたいと純粋に願った結果、今日の試合後に親しい者達にある程度教えられる範囲で真実を伝えようと行動に移そうとしている。

 

 

——其の結果が彼の予想の範疇を超えたものを引き起こすとも知らずに。

 

 

—————

———

 

 

「はぁーい☆今日は皆さんに重要なお話があるよ〜♪」

 

 

何時もの様に一輝を真ん中に据え教卓を隔て折木講師の無駄に明るい帰りの挨拶を聞いていた処珍しい情報に瞼を開ける…断じて眠っていた訳では無い事は理解して欲しい

 

まぁ、何となく予想は出来る、如何せあの男(宗我)絡みの件だ。

 

 

 

「実は今年から七星剣武祭は補欠2名を含めて各校の代表選手7名で競う団体戦、通称survive(サバイブ)を導入するみたい〜生き残るって意味だね、ユリちゃんも目指せ大往生!80、90喜んげぼぉォッッ!」

 

 

 

「「「ユリちゃんーーッ!?」」」

 

 

…健康体じゃ無いのに元気な人だ、だが矢張りデマでは無かったか…保健委員に運ばれて行く折木講師を見送りながら溜息を漏らす

 

 

「…元気ないね、何かあったのかな?妹さんの事とか…?」

 

 

隣に座っていた一輝が声を掛けてくる、妹の事かと問われ悩み事の一つを見抜かれた様でぎくりとするが首を振り会話を変えようと試みるのだが…今朝から何やら様子の可笑しい一輝に何か違和感を感じる

 

 

「いや、例のsurvive…俺の血縁者が糸を引いている。御祭り騒ぎが好きな奴だからな…昔から。」

 

 

「そっか、黒之家って大財閥でもあるからね。」

 

 

「…あァ、そうだ、な…!?」

 

 

あまりにも普通の返し、だが漸く違和感の正体に気付いた。

 

 

 

 

 

 

…一輝、如何して御前がそれ(実家の事)を知っている?

 

 

「…俺は…一輝に実家の事を話したか?」

 

 

気付けばステラも一輝に視線を向けている、不審そうな…そして身を案じてもいる眼差しに一輝はくすりと笑っている

 

 

「いや、"君からは"何も聞いてないよ?…寧ろ、君の口から聞きたかった…何で…」

 

 

何で…僕に何も言ってくれなかった?と…笑っていた一輝の眼からは涙が…ステラの時と同じ様に

 

 

否、その言葉の端々からはステラ以上の哀しみと悔しさ…そして、怒りが見て取れる。

 

 

「…れだ…」

 

 

無意識に、呟く。

 

 

「ユウキ…?」

 

 

ステラの声が聞こえる…だが、怒りが…悲しみが…止まらない…!

 

 

「誰だ…!御前にそれを教えたのは…誰だッ!!」

 

 

俺はステラと一緒に登校はした、だが一輝とは途中からしか合流していない。

 

つまり、一昨日から今日の午前中にかけて俺の内情を知る何者かと一輝が接触していた事を意味する…声を荒げ彼の肩を掴もうとする手は一輝に拠り振り払われ睨まれる

 

 

「誰でも良いだろ…僕は…僕達は…ッ!君にとってそんなに信用出来ない存在なのか!?そんなに……そんな、に…ッ…!」

 

 

一輝の口振りから殆どの事を伝えられたと見て間違いない、…間違いないのだが…ッ

 

 

「ッ…すまない…ッ!俺は…俺は…ッ!」

 

 

ただ、謝る事しか出来なかった…一輝を傷付けたのは俺の弱さだ…ッ、言い訳なんて出来ないし何よりしちゃいけない

 

 

——先に裏切ったのは…俺だから…っ!

 

 

其れでも、一輝に全てを教えた者を見付け出さない限り…俺の怒りは収まらない…、譬え傷付けたのが俺だとしても話そうとしていた、なのに…こんな…一輝にとっては大事なタイミングで!

 

 

「…ごめん…そろそろ試合の時間だから…行くよ…」

 

 

力無く笑い立ち上がり教室から離れていく一輝、俺は…その背中を…

 

 

「追い掛けなさいッ!!」

 

 

ッ!

 

「ステラ…でも…」

 

 

「でももヘチマも無いわよッ!…今のままじゃ絶対ダメッ!さっさと行きなさいッ!!」

 

 

「ッ…!有難う!」

 

 

今迄の遣り取りを黙って見ていたステラに叱咤され席を立つ、一輝の脚は速いが俺の脚なら未だ追い付く…!

 

 

 

「…頑張って…ユウキ」

 

 

—————

———

 

 

「……あんな筈じゃ、無かったのに…」

 

 

教室を出てからは校則など頭に無く走っていた為既に教室からはかなり離れている場所で小さく呟く、自己嫌悪…今の一輝の胸中を占めるのは正にそれだった。

 

昨晩の邂逅が齎したのは悠騎が抱えていたある真実であり一輝にとっては嬉しくも…そして、複雑でもある未来(もしも)の話。

 

其れ故に…友人だと思っていた悠騎が自分達を…否、自分を頼って来なかった事に深い哀しみと憤りを抱いてしまった。

 

だが、それと同時にずっとその重荷を背負っていた事に気付いてやれなかった自分自身に対する憤りと不甲斐なさも抱いていた。

 

 

(…彼自身の苦悩(家族の事)は彼自身が解決しなければいけない事だよ、それでも…っ…)

 

 

自分達を護ろうとしていた彼はあまりに不器用で、普段は殺すとか物騒な事を言う癖に優し過ぎて…っ

 

誰かの痛みを…哀しみを、世界(人間)を憎んでいる癖に世界(人間)を愛している綺麗な心を持ってる癖に悪ぶって…!

 

 

(何で…君がそんなものを背負わなければならないんだ…!違うだろッ!苦しいなら苦しいって言ってくれよ…ッ)

 

 

 

——そして、矢張り…ステラとエーデの二人を愛するという端から聞いたら中途半端でいい加減な道を彼が選んだとしても。

 

其れを彼自身が本気で…其れこそ死ぬ覚悟で、悪意の無い純粋な"愛"を以てステラを愛するのであれば、自分は…心底悔しくて堪らないが嫌いになど成れない。

 

 

其れ程迄に…馬鹿で、優しくて、大好きな親友だ、少なくとも自分はそう想っていると…涙を拭い前を向く。

 

 

(君が…悠騎君が僕達を信用出来ないなら…僕が!)

 

 

 

彼に笑われない為に、彼の考えを改めさせる為に、勝って…勝って勝って勝ち続けて!

 

 

 

 

(悠騎)に自分を認めさせる。

 

 

 

 

其れこそが彼に自分の意見を通し彼を救う唯一の手段であると見出してしまった。

 

 

 

そんな事をせずとも、今の悠騎ならば…己が傲慢さと弱さを受け入れた悠騎ならば聞き入れるというのに。

 

 

「一輝ッ!!」

 

 

「…悠騎君…」

 

 

気付けば悠騎が自分の背後に居た、何時もの様に微笑む一輝…其れが悠騎には悲しくて…そんな表情(かお)をさせている自分自身が赦せなくて、彼は涙を浮かべ深々と頭を下げる

 

 

「すまなかったッ!俺は…ッ」

 

 

頭を下げた侭謝罪する。だが、紡がれしは万感の想いを乗せた友人…黒鉄一輝に対する想い。

 

 

 

 

 

 

「俺はッ!一輝…御前が好きだッ!!」

 

 

思わず呆気にとられる、無理も無い、普通に考えて好きだと宣う事自体あり得ない…此の場に珠雫が居なかった事が唯一の救いか。

 

 

「な…ッ…なに、言ってるのかな…?」

 

 

耳を疑ってしまった一輝は呆気にとられながらも問い掛ける、当然の行為ではあるが問われた悠騎としては何処から話したものかと思い悩み口を開く。

 

 

「…俺は以前、珠雫から御前の生い立ちを聞いた…黒鉄家は優秀な伐刀者(ブレイザー)を輩出する家だというのは前から知っていた。

だが、正直予想以上だったんだ…俺と同じ英雄の血を引き継ぐ御前が"初めから居ない存在"として扱われていたのが…!」

 

 

以前、アリスと共に聞いた話、"初めから居ない存在"というのは言葉にするよりずっと陰湿で…悲惨で、何より悲しいものだという事は蔑まれていた彼には何となくだが理解出来る。

 

 

「………」

 

 

一輝は黙って聞く、彼が口下手なのは其れなりに長い付き合いに成りつつある人物なら解る事だからでもあるが…彼が此処まで感情的に何かを話す姿は滅多に無いから。

 

 

「俺は父も、母も…妹すら祖父(英雄)に殺された…だが、先生に拾われた、一人ではなかったんだ。

でも、御前は一人でその高み(強さ)迄登り詰めた…其の生き方に…泥に塗れても、誰に見向きもされなくても…!

——ただ純粋に、強さを求める気高く尊い御前に惹かれた……祖父を殺す為…妹と先生に託された想いを…俺自身のたった一つの望みを叶える為に"力"しか求めなかった俺とは違う、辛くとも陽の当たる道を歩いている御前の"ヒトとしての強さ"に焦がれた!」

 

 

孤独を抱えたのは同じ、されど自分と一輝は違う道を歩いてきた。

 

 

かたや家族に加え師すら喪い…己が心すら見失った挙句血に塗れ、訓えと己が抱く願望から弱き者を救いはしたがそれ以上に血に塗れた闇の道

 

 

かたや妹と曽祖父以外の家族には存在しない者として扱われ、尚己が心に…魂に誓った道を歩むべく剣の道を邁進した棘だらけだがヒトとしての暖かみは失わなかった光の道

 

 

闇である己にとって光は眩しい存在だった、何せ失ったもの()すら健在なのだ、その光は更に眩しく視える。

 

 

——だが、その心に、その誓いに、その気高き魂に…何時の間にか憧憬を…羨望を抱いていた…!

 

そう強く言い放つ、その言葉の前にはAランクだのFランクだの…神だのヒトだの関係無い。

 

 

「俺は…黒鉄一輝(御前)という人間を好いている!

否…喩え万人が御前の生き様を嗤ったとしても、俺は御前という気高き剣士を肯定するッ!」

 

 

此の言葉が全てだ。

 

否…未だステラの事や家の詳しい事等はあるが…少なくとも黒之悠騎は黒鉄一輝を好きであるという事。

 

 

そして、そんな彼を認めていないという事は更々無いという事を明言した。

涙を浮かべ一輝を見詰める悠騎、彼の言葉に…冷静そうに見えて胸の中に秘めた想いに、一度でも彼を疑った一輝は涙を流す

 

 

「ッ…悠騎…く、ん…僕だって…君が好きだ!」

 

 

「ッ!」

 

 

「君の強さに憧れたッ!自分も…他人の誇りも尊ぶ姿勢が好きだッ!何気ない優しさが好きだ……ッ…なのに…何で君ばかり…ッ…」

 

 

重過ぎる運命(使命)を…背負わなければならない、と友人の生い立ち、得た力の代償…其れ等全てを知って涙が止らない。

そして、ステラが悠騎を選んだ事も…彼は既に知っている。

 

 

(…馬鹿だな、俺は…一人で抱え込んで…)

 

 

心底、自分の愚かさ加減に頭に来ながらも悠騎は嬉しそうに笑う

 

 

自分は…一人では無くなった事…友人ではなく"親友"が出来ていた事

 

 

 

全ての感謝から、心から笑う…だからこそ、此の(親友)なら何時の日か自分と最高の試合が出来ると信じ真っ直ぐに見据える

 

 

 

「一輝、…悠騎…で良い、まだ…話したい事は山程あるし言わなければならない事もある…。

——だから一輝、今日も勝ってこい、俺も…今日の試合は剣士として本気を出すから…!」

 

 

決して侮る事は無い、学園最強の騎士の名は伊達ではないし彼女(刀華)とも本気の立会いを約束した。

 

 

だからこそ、自分の"剣士"としての本気を一輝に見せたい。

 

 

西洋剣術と東洋剣術の違いはある、一般的に西洋の剣は兵器として長く扱う為に斬れ味を犠牲にして丈夫さをウリにしている。

 

 

其れに対して東洋の剣、一輝が使う様な刀は鋭さを追求し西洋の剣に比べ横に対する力に脆さが生まれる。

平たく言えば、ステラの剣術を模倣剣技(ブレイドスティール)で模倣出来はする一輝も得物が刀である以上その理からは逃れられない。

 

 

ならば、同じ刀種を扱う刀華と自分の試合を観てその弱点を、己に対する対抗策を、自分を打倒出来るだけの強さに至ってくれ…と、一輝なら今日の試合に勝った上で何時か自分と戦う日の為に其れを活かせると述べている。

 

 

「…悠騎って、何気にドMだよね…自分から苦しい方苦しい方って向かってる気もする位に。」

 

 

くす、と一輝が笑う、教室での痛々しい笑顔では無い…悠騎が好きな笑顔だ。

 

 

「……否定はしない、性癖はリバ?らしいが…エーデが言ってた」

 

 

「いや、勿論性癖じゃないからね?というか生々し過ぎるよ!」

 

 

サドゥとは自らに苦行を課す者、長年の習慣でそうしている節は有るから否定はしないと頷きながらも性癖の話になればツッコミを入れる一輝、泣きながら笑い合う二人…ステラの事も話さなければ成らないが

 

 

二人の奇妙な…其れでいて確固たる友情は壊れはしないだろう。

 

 

試合10分前になり二人は各々の戦場へと向かう、悠騎は30分前、一輝は10分前とかなりタイムラグがあるが今の一輝なら迷いの無い剣を以て一刀の元に対戦相手を制せる筈だ。

 

 

(——絶対追い付くよ、何時か、僕の最弱(最強)で君の最強を打ち破る為に…!)

 

 

新たな誓いを胸に刻み一輝は進む、悠騎が望む…互いの剣を競い合う高みに至る道を。

 

—————

———

 

 

一輝の試合は無傷の元に決着が付いた、湧き上がる歓声、実況が彼を称する新たな呼び名に悠騎は自分の事…否、それ以上に微笑む

 

 

無冠の剣王(アナザーワン)か、俺が居なくても何時かは認める者も出て来る…良かったな、一輝」

 

 

親友の努力がまた一つ報われた事に微笑む悠騎、そんな彼に分身(クロノス)が問い掛ける

 

(ふ…本当に嬉しそうだな?——此度の試合、如何戦うつもりだ?)

 

 

「…親友の努力が報われたんだ、嬉しいよ。

——さて、如何戦うとは?」

 

 

分身もまた、何処か嬉しそうだ、だが同時に不安も抱いている

 

 

((とぼ)けるな、余が出ても良いのだぞ?悠騎()は未だ力を使い熟せぬだろう…?)

 

 

獣を捕らえるのは殺すより難しい事、其れを為すのと同じ様に《雷切》の実力は今の悠騎の"剣士"としての実力…否、力加減の配分では難しいと語る。

 

 

元より此度の試合は勝敗云々より如何に"周囲に被害を出さずに自分らしく"戦えるか、此の一点のみである。

 

試合前に何らかの仕掛けを施すのは禁止であった為、前回…砕城戦の時は苦心の結果クロノスが出たという経緯もあるのだ、まぁ砕白を試金石に現在の自分が何れ程の力を出せるのか見極めるのもあったのだが。

 

 

 

「——僕自身の力で彼女に…東堂刀華と相対しなければ彼女に失礼だ、だから…君にお願いがある、クロノス。」

 

 

(…成る程、言葉にせずとも解る余は其方でもあるのだからな?観客達は余に任せよ。)

 

 

「…有難う、此れで心残りは消えた。」

 

 

『黒之悠騎選手、試合開始時刻となりましたので…』

 

 

(行くか、其方自身の剣技を見せてやれ)

 

 

「勿論、君と僕との初めての共同作業でもあるからね…!」

 

 

(……何時か、雄にも言い寄られそうだからもう少し教育を施すべきか…)

 

 

馬鹿な掛け合いをしながら彼等は歩む。

 

相対するは破軍学園最強の座に君臨せし騎士…東堂刀華、彼にとっては事実上の選抜最終戦が幕を開ける。

 

—————

———

 

 

「…解りきってた事だが、矢張りアウェイだな。無理もないが。」

 

 

リング状に上がると観客達はブーイング、無理もない…そういう試合を見せてしまったのだから。

 

 

(まぁ、取るに足らぬ事よな、気に食わないからと鎌を振り下ろしていたらあの"8人"以外は全員骸に成ろうよ。)

 

 

この事態を引き起こした張本人たる存在が頭の中で声を響かせる、その声に視線を送れば

 

 

「頑張って〜お兄さんッ!勝ったら私のハグが待ってるわよ〜!」

 

 

「アリス…流石にそれは引きます」

 

 

「私も……って!頑張りなさいよね、ユウキ!」

 

 

「あはは…」

 

 

一輝、ステラ、珠雫、アリスの4名と

 

 

「うふふ、何方を応援しましょう…困りましたね?」

 

 

「まぁ、後輩君には悪いけど僕は刀華に一票…と、二人は?」

 

 

「……二人とも」

 

 

「やっぱ?実は私も!頑張れーー二人ともーーッ!」

 

 

生徒会メンバーの4名、そして

 

 

「…黒之君」

 

 

「…東堂」

 

 

今回の対戦相手、東堂刀華…気負いは無い、実に良い騎士の顔だ。

そんな彼女だから、謝らなければならないと頭を下げ口を動かす

 

 

「…すまん、東堂…3日前、俺は剣士としてあンたと相対するといったが——騎士として、剣を振るおう、約束を反故にしてすまないが…。」

 

突然の行動に刀華は面を食らうが

 

 

「——寧ろ、其れだけ私との戦いを真摯に受け止めてくれていたなら喜ばしい事です…矢っ張り」

 

 

待っていて良かった、と刀華は呟く…眼鏡を外し周囲には電撃が迸る中彼女は微笑む

互いの、二人の騎士としての誇りが静かに火花を散らし賽が投げられるのを今か今かと会場全体を覆う緊張感と共に渦巻いていた。

 

 




次回は10,000超えの戦闘描写です、割と近い時期にまたお逢い出来るかと思います
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