落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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今回は過去捏造、似非方言、合間に入るギャグパートが苦手な方は注意ですm(_ _)m


騎士としての誓い–《雷切》との決着–

「…待ってました、貴方と戦える日を。」

 

眼鏡を外した刀華が穏和な笑みを浮かべる、初めて見た彼から感じた印象…其れは自分や彼女の幼馴染である御祓泡沫と同じ孤児院育ちが持つ特有の雰囲気、彼女は彼に自分達と似た何かを感じ取っていた。

 

 

「そうか、俺も…あンたと闘い(やり)たいと思っていたよ。——こんなに早く来るとは思わなかったけど、な。」

 

 

そして、悠騎もまた同じ印象を抱いていた…否、日本という体裁(上辺)だけは良い国に居るしかなかった分彼女達の方が周囲の好奇の視線に晒され嫌な思いをしたかもしれない、と考えた事もあるが、然し、其れは詮無き事…何方が辛い等と不幸自慢をしても始まらないと自嘲気味に笑う悠騎の眼差しを裸眼である彼女は見え難い眼で確り見詰め

 

 

「矢ッ張り、良い人ですね…閃理眼(リバースサイト)は本来人の脳が発する微弱な電気信号を介して先読みする力です、けど…今の悠騎君の身体は無駄な緊張が一切無い。

——まるで、月そのもの…優しくて私は好きです」

 

微笑みを浮かべる、無駄な気負いも無ければ殺意も、危害すら感じない。

太陽の様に燦々と、悪い言い方をすれば無遠慮に人を照らす光では無く、太陽の光があってこそ輝くがその光は闇夜を彷徨う人々を導く優しい光の様だと刀華は述べているのだ。

 

 

「…以前、買い被り過ぎと言ったが…今は有難うと言っておく。

月は太陽があって初めて輝く、そして俺が定める太陽(一輝とステラ)達の為に…何よりあンたと俺自身の為に、最初から本気で行かせて貰うぞ…ッ!」

 

 

試合開始前だというにも関わらず今にも吹き飛びそうな程の魔力の奔流、ステラと同じ…否、明らかに其れ以上の魔力に以前は畏れと昂揚感を抱いていた刀華は嬉しそうに笑う。

 

 

同時に悠騎も何処か嬉しそうに笑う。

エーデとの死合いで彼は5年のブランクを上回る程の戦闘経験と剣技を磨いた、其れを全力で震えるかもしれない相手…彼は今、一人の戦闘狂(バトルジャンキー)として其の存在に唯々感謝しているのだ。

 

 

霊装(デバイス)を展開すらしていないにも関わらず悠騎の魔力で会場全体は震えている、張り詰めた空気に観衆は呼吸する事すら忘れ魅入る。

——自分達が敵に回した者の未だ見ぬ全力に畏れを抱きながら。

 

 

其れは、彼が愛する女性(ステラ)や親愛なる親友(一輝)も同じ、否…寧ろ一ヶ月の合宿でなまじ彼の実力を知っているからこそ…解説役の西京も先日の試合を気にしてか表情が固い。

 

 

が、実際に死地に立つ刀華は其れ等は見えていない。

 

 

(全力を尽くしても敵わないかもしれない、何て何時ぶりだろうッ…私は…此の人と、此の…底が見えない強者(怪物)と戦いたかったんだ…ッ!)

 

 

(…東堂刀華、ただ不意打ちが効かないだけじゃない、真に注目すべきは学生騎士にしては場数を踏んだ"戦闘経験から来る戦術眼"だ。其れ等が上手く合わされば俺の剣にも対応は出切る——ならば…!)

 

 

先程迄笑顔だった二人は途端に騎士の顔に成る、刀華も悠騎も胸中に抱くは"歓喜"…互いの存在に対する"感謝"

 

 

そして、——賽は投げられる。

 

 

 

let's go ahead!

 

 

 

 

「轟け、鳴神(なるかみ)!」

 

 

 

「行こうか、時空神の鎧と双剣(クロノス)…ッ!」

 

 

 

 

互いの霊装(デバイス)を顕現させる、刀華は鳴神の銘を持つ刀

 

 

悠騎は白銀の翼を生やした軽鎧、籠手にレギンスと必要最低限の部位しか護っていないが彼の背後には12の菱形のビットが円環を描く様に浮いている…其の出立ちは正に天使や神と呼ぶに相応しい。

 

 

そして、彼の手には闇よりも昏い黒と血よりも赤い赤の刀身と腹を持つ両刃の大剣

 

 

 

「何だあれは…霊装が変わっている!?」

 

 

一度対戦した砕城が呟く、悠騎が二つの霊装(デバイス)を使うのは知ってた…だが、此れは明らかに常識を逸脱している、と彼と戦いたいと願った者として呟かずにはいられなかった。

 

 

尤も、次の瞬間そんな事は如何でも良いとばかりの嵐が如き突風が吹きさぶる

 

 

オオォォンッッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

何億もの人の雄叫びの様な風切り音、其れと同時に斬り結ぶ刀華と悠騎

 

 

正確には、牽制とばかりに放った電撃に対し剣を振るっただけの風圧が飲み込むに飽き足らず目隠しとなり、そのまま雷光もかくやという勢いで突っ込みながら刀華の鎖骨から斜め下に振り降ろす一撃を力では対抗せず刀身を斜めにずらし受け流そうとしている

 

 

きゃッ!?

 

 

こっち迄飛んで来やがったぞ!?

 

 

 

(っ…まともに受けてたら確実に折られるッ!本当に人間の力…ッ!?…なら!)

 

 

(今のをいなしたか、二割では剣圧で雷撃を飲み込むカーテンしか作れぬ様だ。

流石は南郷寅次郎を師に…否…偏に彼女の努力の賜物か…ッ!)

 

 

 

クロスレンジを得意とする刀華が初めて"退いた"、其れを目の前の騎士が見逃す等思わないが勝つ為に最善の手を打つ布石

刀華は先程よりも殺傷能力の高い高出力な雷撃を巨大な矢の様にして二本連続で飛ばす、無論此れはフェイクである。

 

一方悠騎は背後のビットを二つ飛ばすだけ、否、正確には"全体の8割"の魔力を込めた12あるビットの内二つを飛ばすだけで貫通し霧散させる

 

 

ちょ、ありえないわよあの一年…!

 

 

機動戦士かよ、ファンネルか!?

 

 

観客の皆の声も当然だろう、今の彼は刀華の動きやクセを0.001秒感覚で脳に焼き付け凡ゆる可能性から次の一手を予測すると同時にファンネルと称された得物を扱いロングレンジも熟しながら刀華を圧倒している

言うなれば片手ずつで並行して難度が非常に高い技を繰り出している様なものだ、彼自身が刀華の実力を認めているからこそだが…同時に"観客達"をどのタイミングで保護するか思考を巡らせている

 

 

「!でも…ッ!」

 

今のには流石の刀華も驚いた、大きさが全てを決着付けるという訳ではないが其れでもあんな…サッカーボールよりも小振りな霊装(デバイス)が雷撃を貫いただけで霧散され一瞬しか隙を作れなかった、そして踏み込みが浅い。

否、途中でビットに腹部を貫かれそうになり鞘で弾いた上での居合だ、そんな中途半端な技では擦りはするが命には届かない。

 

何より、弾いた際にもう一つのビットにより肩を貫かれている。

ミスディレクション、一流のマジシャンの多くがこの技術を会得しているが命懸けの戦闘、そして一流の剣客に此れを行えるのは悠騎位だろう。

 

 

「…流石は、《抜き足》…否、東堂刀華か…思考を巡らせながらじゃ難しいな」

 

 

「ッ…完全に虚を突いた筈なのに…腕を掠っただけですか…」

 

 

 

 

真っ二つになった会場全体と地表1キロという深さまで裂かれたリングを見る…矢張り一撃しか持たないか、と思考していた処に彼女の刃が腕を掠め己が未熟を恥じると同時に東堂刀華という存在は矢張り強いと昂揚感を覚える。

刀華と西京の師である人物、《闘神》南郷寅次郎の技術に拠るものだが其れを使い熟す目の前の騎士を賞賛した上で口許を歪め笑う、『御前は、矢張り強いな』と。

 

刀華はといえばそんな悠騎に呆れながらも矢張り愉しそうだ

肩から血を流すが利き腕は避けた、本来なら肩から二の腕にかけて両断されるであろう一撃を最小限に収めたが今ので確信した

 

 

(ロングレンジでも強い、何より未だ彼は本気を"出せない"…出したいけど出せないなんて…)

 

ある意味可哀想だ、と思う…如何いった経緯で彼が今の強さに至ったかは知らない刀華だが"本気の1000分の1以下"でしか生活出来ないというのはストレス以外の何物でもないだろうと…騎士として相対しているこの身は思ってしまう

 

 

(…敵に回った人も極力傷付けず、そして大切な人達が自分の行動で傷付くのが耐えられない人…だとは思ってたけど、何か吹っ切れたと?

剣に迷いも以前の様な冷たさも感じない、寧ろ更に…)

 

 

ヒトとしての暖かみを感じる、彼の中の凍えた何かが絆されているのを感じる、と考えつつ更に追撃を仕掛け様と《抜き足》を仕掛けるが

 

 

 

 

 

 

 

——受け止められた、確りと、刀身で。

 

 

「良いものを見せてくれた礼に一つ…御返しをしよう…《トリローチャナ》…!」

 

 

「ッ…効いてない?!そんな筈…!」

 

 

 

急に《抜き足》が役に立たなくなるという不可思議な事態に刀華に動揺が走る。

そんな彼女を尻目に今の内と足場と左右の三方向にビットを四つずつ展開し陣を描く

 

 

「東方青龍、南方朱雀、西方白虎、北方玄武、四方を司りし守護神よ。

我、汝等に深く願奉る、汝等の力以て此の地の守護を願奉る…急々如了ッ!」

 

 

母が用いた祝詞を略し神霊に呼び掛ける、本職の陰陽師では無いし文化圏も違うが同じ神族のよしみとでも言わんばかりにビットに青、赤、白、黒と色が灯りリングから外の会場全体と地殻を強力な結界で守護する

 

其の堅牢さは彼が"本気"で剣を振り抜いても周囲に被害が及ばない程。

 

 

つまり、此のタイミングを以て彼の本気が炸裂する事となる。

 

—————

———

 

 

『な、何でしょうこれは!?解説役の西京寧々先生解説お願いしま…ッて!また居ないーっ!?』

 

 

突然張られた結界に驚く実況だが例の如くとんずらこいていた西京寧々人形を指差し一人でキーキー騒ぐ、尤も西京自体は観客席に居るのだが。

 

 

「漸くね、でも本気を出すとか言っておきながら出し惜しみし過ぎじゃない…。」

 

 

観客席で観ていたステラが小さく呟く、彼とエーデの戦いを識る唯一の存在だからこその一言だが解せないとばかりに首を傾げる。

 

 

「ステラ…多分、だけど…悠騎は本気で剣を"振り抜けない"んじゃないかな…?」

 

 

近くで観ていた一輝がステラに尋ねる、100以上の剣技を修めた視点で思った感想を其の儘呟いただけだが傍に座っていた珠雫とアリスは首を傾げる

 

 

「お兄様?悠騎さんの剣技はやや重心が低いだけで基本に忠実な構えだと珠雫は思いますが…」

 

 

「そうね〜…実際最初の一振りで会場が半壊したけど……って…まさか…!」

 

 

「アリスは気付いたみたいだね。

——悠騎は僕達や他の皆に危害が及ばない様に"基本"の構えしか取れていない、いや…他の人なら此れでも充分驚異だし異常だけど今の彼は東堂さんと"剣士として本気で"相対しようとしてる…正直、怖くも愉しみでもあるよ…此処からの戦いは、既に僕達の想像を遥かに超える事になる…!」

 

 

冷汗を掻く一輝、悠騎の剣技は確かに想像を絶する程に高いレベルに在る。

 

だが、ソレは高いレベルで"基礎"を追求したものだ、彼らしい…何て飾り気の無い、其れでいて恐ろしいレベル迄高められた剣術。

 

 

仮に模倣剣技(ブレイドスティール)で模倣した所で無意味だろう、地味だからこそ使い手の力量が問われる類の其れは一輝自身が自分の技術を小手先の技だと認めている時点で意味がない…全ての攻撃を紙一重で躱し、又は剣の腹で受け流し的確に反撃を与えるというどっしりと構えたものなのだ、今の悠騎の剣術は。

 

 

 

「…ユウキのばか…優し過ぎるのよ…」

 

 

「ふふ、そう言う割には悠騎が紙一重で東堂さんの剣を躱している時はかなり焦ってるよ?

大丈夫、東堂さんの凄まじい猛攻を完全に見切った上で東堂さんが受け流し切れない力で体力を削ってる……あれは、まるで剣術の教本みたいな戦い方だよ、勿論剛剣の、だけど。」

 

 

「なっ…べ、別に心配なんか…」

 

 

自分達を案じて本気を出せないでいると聞きぽつりと呟くステラ。

 

何故本気を出せないでいるのか疑問だったが納得出来る説明を聞き、矢張り自分が愛した男性は優しく気高いと内心頷くも素直になれず小さく呟く

 

そんな彼女を気遣い問題無いから安心しろと言う一輝。

彼にも複雑な感情はある、其れでも…否、だからこそステラに微笑む表情(かお)は優しい。

 

 

そんな微妙な空気をその存在感でぶち壊す人物がぽつりと呟きを漏らす

 

 

「ありゃぁ、存在自体が禁技だろ…ウチは絶対戦いたくないねェ。

ていうか、前に見せただけなのに悠坊は…マジか、眼を瞑ってやがる。」

 

 

二人…正確には四人の背後で何時の間にかリングの二人を見詰めていた西京が戦いたくは無いと肩を竦める。

正直、予想の遥か上だったのだ、英霊集イシ冥界ノ星刻剣(エリュシオン)の破壊力、そして眼を瞑った上で己と同じ呼吸法と歩法の合わせ技(抜き足)をしてのける等。

 

尤も刀華相手に《抜き足》の効果を期待出来るとは思わないが。

 

 

「わっ!びっくりした…」

 

 

「西京先生、矢ッ張り悠騎も…」

 

 

「あァ、さっきから足音だけで判断してんのかと思って見に来たけど…如何いう訳か"視えて"るね、視えてる上で同じ技(抜き足)で応酬してやがる。」

 

 

驚きの声を上げるステラと席から立つ一輝、実況席からは見えなかったが漸く得心を得たとばかりに頷く西京、有り得ないといえば有り得ない状況に頭を抱える西京にステラが問う

 

 

「えっと、さっきから視えてるとか何とかって何の話ですか?」

 

 

何の異変も無いからだろう、刀華や悠騎が何かが一つでも顔色を変えれば話は変わるが残念ながら刀華も悠騎も何事も無いとばかりに斬り結んでいる

 

 

 

その為、西京寧々という人間は悠騎が見れば静かに怒りそうな事をしでかす。

 

 

「んー?…面倒くさいから体感してみな、よっと!」

 

 

「ちょッ!?ん…ッ…」

 

 

「まぁ…」

 

 

「…下品な乳だから狙われるんですよ」

 

 

(悠騎…後でぶち切れるだろうなァ…)

 

 

其の大福かマシュマロが如き乳房を揉み(しだ)かれるステラ、甘い声を漏らす様に彼女を除く三人は其々のリアクションを取るが当の悠騎は既に報復を決めた後だ

 

 

「…ま、此れは《抜き足》って言って古武道の呼吸法と歩法の合わせ技。今は悠坊も使ってるけど…つーか胸でけーな、揉んだらうちのもデカくなるかねェ?」

 

 

「っ、なら自分のか珠雫のを揉みなさいよ!」

 

 

「揉むほどねェんだよ馬鹿ッ!!後そっちのも!可哀想だろうがッ!」

 

 

「逆ギレッ!?」

 

 

「…ふふ、()りますか?」

 

 

 

散々揉まれたステラからしたら堪らない、後珠雫さん…出来れば霊装(デバイス)は「何か?」…いえ、何でもアリマセン。

 

 

「ま、まぁ…兎も角、東堂さんも悠騎もその抜き足を使って視覚から得た記憶を意識的に"要らない"情報として生命の危険ギリギリ迄悟られぬ様に肉薄してる訳だよ、人間の脳は見聞きした情報全てを機械の様に認識は出来ない様になってるからね。」

 

 

苦笑しながらも大体の原理を語る一輝、殺気立つ珠雫を宥めるアリス…リング上より此方の方がある意味カオスだ。

 

 

 

…怖いから言及はしないが。

 

 

「…其れにしても、夜叉姫以外にも…ましてや学生騎士で《抜き足》を使えるなんて驚きましたよ、悠騎も同じ流派なんですか?」

 

 

「いんや、悠坊の場合はウチとやり合ってる内に勝手に覚えたんだろうさ。それに「寧々と東堂は同じ騎士に師事しているからな。…南郷寅次郎…聞いた事位はあるだろう?」ちょ!くーちゃんっ、ウチはあんな爺を師匠だなんて思ってないっての!」

 

 

さらっと怖い事を言った、かなりのテクニックが要るだろう技術を見て覚えるとは何処の模倣魔(一輝)だ。

まぁ…悠騎が会得した武術、カラリパヤットは空手や少林寺拳法等の武術の祖となったもの…つまり骨組みさえ確りと会得していれば出来ない事も無いのだろう、と納得し、照れ隠しに下卑た事を言う西京をスルーしつつ話を進める。

 

 

「《闘神》、南郷寅次郎さんを知らない人は多分騎士の中には居ませんよ、成る程…だから東堂さんは…いや、なら何で悠騎は東堂さんの攻撃を…?」

 

 

見切れるのか、確かに今彼は眼を瞑っているが其れだけじゃ理由にならないと不思議に思い呟く、全ての技術を此の戦いで見れるとは思わないが一輝は悠騎との約束を果たさなければならないと一挙手一投足までに注意を払っている。

 

 

「……其れが奴の抜刀絶技(ノウブルアーツ)トリローチャナ(三眼を持つ者)の力だからさ」

 

 

「トリ、ローチャナ…?」

 

 

恐らくインド圏の言葉だろう、ステラが聞き返す

 

 

「トリローチャナ、私が奴から聞いた話じゃ視覚を閉じる事で精度が上がるのは東堂と同じらしいが…要は眼に見えない存在すら知覚出来る"最強の眼"らしいな。

ステルスも無効される上に周囲の状況すら完全に把握出来る、今の彼奴が東堂の《抜き足》に翻弄されないのも視覚を閉じ第六感と言ってもいい感覚に従っているからだ。」

 

 

「お、お化け…って事よね?眼に見えない存在って…」

 

 

「あら、大きい割には以外とお子ちゃまなんですか?ステラさんは」

 

 

新宮寺が口にする答えに途端に怯えるステラ、可愛らしい限りだが珠雫に馬鹿にされ頬を膨らませている、一輝としては魔力を持たぬ自分には出来ぬ芸当…否、アプローチの仕方が違うだけで悠騎も完全掌握(パーフェクトビジョン)に近い事が出来るのだと知り(つくづ)く人間離れしていると苦笑する。

 

 

 

「…お兄さん、本当に化物じみてきたわね…」

 

 

そんな彼等とは対照的に小さく呟くアリス、その呟きには何処か悲しみに彩られていた…其れは、エーデやステラが悠騎を想う気持ちに似た感情から来るものだろう。

 

 

そんな遣り取りを他所にリング上の二人は既に何合か斬り結び徐々にではあるが差が出始めていた、素の身体能力が違い過ぎる上に経験も違う。

強いていえば高過ぎる身体能力に今迄培ってきた技術を馴染ませる事に四苦八苦している悠騎の僅かな隙を刀華が突いているという点では刀華が僅かに有利か。

 

 

 

「…埒が明かないな、此の儘体力切れを待てば勝てない試合でも無いが…お互い戦闘狂(バトルジャンキー)を自覚してる以上そんなつまらない決着の付け方、面白く無いだろう?」

 

 

前述した通り、閃理眼(せんりがん)と戦闘経験則、剣士としての高い技量から何とか真っ直ぐ受け止める事なくいなしていた刀華ではあるが…大地を斬り裂く一撃を一合斬り結ぶ度にごっそりと体力を削られ今や肩で息をしている

 

 

そんな彼女に静かに腰を落としながら構えを取る悠騎、彼は息すら乱す事なく『俺は…あンた(雷切)の全力が見たい』と、眼を瞑りながら微笑む。

 

 

「は…ッ…は…っ…やっと、本気を出してくれるんですね?」

 

 

刀を鞘に収め今迄両刃片手半剣(ハンド・アンド・ハーフソード)という得物の特殊性からやや重心を落としていた彼が漸く独特な構えを取り出したのを感じ荒い息を整え笑う刀華、会場全体を潰す破壊力のある剣をいなし続けていたのだ、彼女の実力は紛れもなく本物である。

 

刀華の周りには電気が迸る、伝家の宝刀、己が二つ名《雷切》の由来である伐刀絶技(ノウブルアーツ)、雷切の構えを取る

 

 

「今迄も本気さ、俺は他人を下に見れる程"最強"でも無ければ上に見る程"最弱"でも無い…宙ぶらりんの中途半端な男だ。

 

——だが…そんな男にも護りたい誓い、護りたい存在、誇りたいものが居る。

故に此処からは全力、騎士の名に掛けて、貴女の全力を討ち破らせて貰う、東堂刀華殿。」

 

 

更に低く…そして普段の話し方ではない、言うなれば"彼の騎士として"の話し方。

12の歳から真っ当に成長すれば普段から此の言葉遣いであろう口調で語り終え、眼をぎんッ!と見開けば周囲の氣を取り込み己が魔力と…否、"根源"へと到る準備を整える。

 

 

(下界の氣と自己の魔力の融合…己の内側を見据え更に其の眼を刻一刻と流るる外側(世界)へと向け自身を宇宙と一体化させる感覚…静かに、けれど遥か彼方の高い次元へと自分を到らせろ…ッ

——余計な事は考えるな、今此の"刻"は…目の前の誇りある騎士の為に…ッ!!)

 

 

元々この技には名前は無かった、技術としては完成させたが名もない技だった。

 

急激に増大したのは何も筋力だけではない、本来増えはしない総魔力量もまた増大した故に氣を溜めるのに苦心したが

今、自分が何者かを理解し其の己を生み出し、彼女達に名を呼んで貰る悦びを与えてくれた者への感謝を込めて小さく…然し確りと名を刻む。

 

 

刻皇神拳(こくおうしんけん)ッッ!」

 

 

ゴオォゥッッ!!

 

 

「ッッッ!」

 

ビリビリと大気が震える、悠騎自身は自分の内側に力を留めているが彼の一呼吸が純粋なる"力"そのもの。

——ましてや、本気で剣を振るおうものなら此処ら辺り一帯は…(まさ)に力の根源そのものである。

 

 

そして其れを今現在、身体で痛感している刀華の感想は化物じみた…等ではない。

冷汗等のレベルでは無い…確実に生命(いのち)の危機に立たされながらも彼女は嬉しそうに笑っている。

 

 

 

目の前の騎士(化物)の本気を漸く間近で見られる、と。

 

 

然し、此処で待ったが入る。

 

 

「いかんッ!今直ぐ試合を中止させろ!彼奴等戦いを愉しみ過ぎて我を忘れている!!幾ら結界を張った処で此の儘では東堂が死ぬ…否…下手をしたら!」

 

 

理事長である新宮寺黒乃の焦りは相当のものだ。

この結界自体はかなり特殊だ、術式としては外側の衝撃をエネルギーとして変換、四方の中心…即ち黄龍が座す面かは大地へと還す謂わば環境にも人にも優しい結界、彼女の大先輩にあたる女性が得意とした術式だからこそ、その効能は身に染みて理解している

 

——だからこそ、結界の外側に居る"刀華"の命が危ない事、何より結界から漏れた余剰エネルギーが下界に齎す影響をいち早く察知し実況席へと中止の合図を呼び掛けるのだが

 

 

 

「待ってください…やらせて、あげて下さい」

 

 

「…私は、お兄さんのあんな愉しそうな表情(かお)を見るのは初めてだわ…やらせてあげて下さい、理事長センセ」

 

 

最初は珠雫、そしてアリスと試合の続行を望む嘆願の声を上げる

 

 

「な…駄目だ、此れ以上は御前達にも危害が「理事長先生、僕からもお願いします。」ッ…御前達…!」

 

完全なる実力主義、此れは新宮寺黒乃の方針だ。

その点で言えば今の悠騎の力は自分を遥かに超えた化物としてまず間違いなく去年の七星剣王、諸星雄大すら上回っている。

 

何せ彼が今からやろうとしているのは唯の"氣と剣を使った殺陣"

能力の範疇ではない、地味な基本も極めれば立派な狂気…否、極致そのものだ。

 

 

だからこそ、教師としての彼女はその極致(チカラ)が未来ある生徒達の未来を奪うなど到底許し難い事。

此れは教師としての彼女の矜持でもある、未来ある教え子を護るという立派な誇りだ。

 

 

だが、騎士としては止めるなど野暮だとも思っているのも事実、そして先程迄、黒之悠騎に対し嫌悪感を抱いていた次代を担う騎士達、生徒会の面々ですら継続を望む事態に彼女は頭を抱える

 

 

「…理事長先生、私からもお願いします。」

 

 

「ヴァーミリオン…御前迄…餓鬼の我儘じゃ済まないんだ「解ってます、それでも…」…それでも?」

 

 

国賓扱いだからといって特別扱いはしない、溜まりきったチカラは最早国ではなく世界を滅ぼすレベルだ

其れを解っていて…否、解り過ぎているからこそステラは続ける

 

 

「二人とも、あんなに楽しそう。うぅん、最初は険悪だった会場の皆も何時の間にか身を乗り出す位夢中で…だから、今此処で止めたら二人の意地も、誇り(プライド)も、魂すら穢してしまうから…だから、続けさせてあげて下さい…!」

 

 

悠騎の為に頭を下げるステラ、我儘なのは重々承知、学生の我儘に学園全体を…下手をしたら世界を巻き込む等言語道断

 

 

——其れでも、こんなに迄も騎士として焦がれる戦いを止めて欲しくは無い、と純粋な気持ちから頭を下げるステラに新宮寺は言い淀む

 

 

 

 

そして、そんな生徒達に感化されそうにも無い人物が口を開く。

 

 

「いや〜…参ったねェ、完全にウチ等の予想なんざ超えて成長しやがってさァ?

——ウチやくーちゃんがフォローに入れば良いんじゃないかい?何より此の結界、悠坊なりのアレンジが入ってるから騒ぎ立てる事もないかもよ?…あっちゃん先輩の時と違ってさ?」

 

 

にへりと笑う西京、入学式…否、初めて逢った時から嘗て二人が憧れたあの女性(ひと)の息子だとは気付いていた。

強く凛とした立ち振る舞い、けれど自分以外の痛みは見過ごせない甘さや弱さと言っても良い優しさを秘めた処等そっくりだ…まぁ、父親に似て少し優柔不断でちょっと…(ばか)な処も似てしまったが

 

 

だからこそ、憧れでもあった二人の息子だからこそ。

 

 

此の清々しい迄に互いの誇りをぶつけ合う純粋な騎士同士の死合いは見てみたい、と西京は笑う。

 

 

皆の説得に新宮寺は溜息を吐き瞼を閉じ沈黙する新宮寺…確かに此の結界からは自分が知っているものの他にも何かを感じる、何より

 

 

(…亜季さん…貴女の息子さん、信じさせて貰いますよ?)

 

 

古い記憶、尤も十数年程度の記憶だがどんな逆境でも微笑みを絶やさぬ女性に対し呟くと不敵な笑みを浮かべ

 

 

「…………ふ、まさか私が御前に説教されるとはな。良いだろう、何かあった時は御前の給料から差っ引いてやる」

 

 

口許を歪め笑う新宮寺、高みを目指す騎士としての本質は彼女も同じなのだ…ある意味当然の帰結である。

 

 

『な!それは勘弁してよくーちゃん〜っ!悠ぼーッ!何かあったら承知しないからーー!!』

等の声援が出る程、今の二人の戦いは皆の不安をある意味で裏切る良い試合だ、そして…其の二人自身戦いを愉しんでいる、優勢劣勢を問わず…唯純粋に。

 

 

ヒトの歴史とは即ち闘いの歴史、血に塗れた陰惨たるもの…ある意味此の状況は人類史の縮図だ、周囲の血が騒ぐのは当然の本能。

 

 

同時に闘う事でヒトは"成長"する生き物。

恒久的平和等無い、あったとしても其れは人類史を一度白紙に戻す以外あり得ない。

ならば、一層の事今の二人の様に互いの誇りを尊重し合う上で代表を選出し全力で争えば良い。

 

犠牲はある。

 

だが、少なくとも当の本人等が納得した上での其れは…先人達の犠牲よりかは未だ惨たらしく無い、誇りある結末の筈だから。

 

新宮寺を含め各教員はもしもの事態に備え、散開しフォロー出来る様にし其の"誇り"を護る準備を整える。

 

 

 

そうした思惑もあるsurviveプロジェクト…、次代を担う騎士達への英雄達への"餞別"…その代表選手への切符を掛け

 

 

 

否、純粋に闘いを愉しむ二人の戦いが今…決着を付けんとしている。

 

 

 

 

 

「…行きます、黒之君…ッ!」

 

 

 

「承知、俺の()…俺の()…此の"二刀"、一撃目は防いでも良いが二撃目は避ける事を勧める…ッッ!!」

 

 

 

大人(教師)達の苦労など御構い無しにお互いに笑い合いながらも二撃目は防ぐのでは無く避ける事を望む悠騎。

 

 

其れは…振り下ろされれば終わる、と暗に言っている。

 

 

(冗談じゃない…ッ!今更逃げるなんて…この人の全力を受けられるなら…ッ!!)

 

 

刀を鞘に納め居合…雷切の構えに入る刀華、其の姿に僅かに眼を閉じる悠騎は「…お互い、馬鹿だな」と小さく呟き氣を落ち着かせる

 

彼自身を鞘に見立てるなら今まさに雷光よりも速い最速の居合対全てを受け止め両断する最"剛"の居合がぶつかり合わんとする静けさに観衆は息を呑む

 

 

 

「《雷切》ッッ!!」

 

 

お互い一歩で踏み込める位置で構え、先に仕掛けたのは刀華。

クロスレンジからの超電磁抜刀術、リング全体に雷撃が迸る様はあまりの鮮烈さ、観衆が勝利を確信したその時…!

 

 

 

「——先等幾らでも差し上げよう、だが…"後の先"は俺のものだ…ッ!」

 

「っ!」

 

 

静かに、けど満面の笑みの刀華。

自分の本気を出して負けたのだ…悔いは無いとばかりの笑み。

仕掛けた者が負ける等剣道のルールなら良い顔はされぬだろう、…だが、此れは剣術、更に言えば"剣士"として本気を出した者達の文字通り凌ぎを削る真剣勝負。

 

 

先を急ぎ巨神の鎌の前に立った時点で彼女の勝ちは刈り取られていたのだ。

 

 

悠騎は今迄溜めに溜めた全身のバネを活かした左切り上げから《雷切》を真っ向から受け止め、そのまま会場全体を揺るがし天井を其の挙動が齎す風圧だけで崩落させる事なく瓦礫ごと消し飛ばす。

肝心の技…つまり刀身に秘められた其の威力たるや彼が先日祖父に向けた閃光よりも数倍…否、数十倍は超える破壊力を内包しているものも未だ其の力を研ぎ澄ます、使い手の内面を示すかの如く。

 

 

無間・剛昇龍ッ!!(むげんごうしょうりゅう)

 

 

その状態で剣を振り抜き咄嗟の判断で全魔力を用いた電磁波を膜の様に張り身に纏った刀華を天高く吹き飛ばし、エリュシオンを伴い跳躍。

 

 

「っ…ッ…負け、ました、黒之さん…ッ、でも…私は最後、まで…ッ!!」

 

 

刀華も彼方此方傷だらけになり、制服もボロボロになりながらも空中で刃を構え直す、彼女達の中で勝敗は決まったとはいえ最後迄…此の一刀が砕ける迄食らい付く気概を見せている

そして、そんな彼女の誇りを汲んだ悠騎は追撃を仕掛けるべく雲を突き抜ける勢いで尚も飛翔し

 

 

「——誇りある騎士よ、我が二撃を手向けとして散れ…ッ!無間・剛破刃(むげんごうはじん)ッ!」

 

 

「ッッ…!」

 

 

女人とはいえ人一人を天高く吹き飛ばす、此の状態で既に技術と身体能力の合致は到る。

何より雷切を放つと同時に放たれた唯の基本技だけで鳴神の刀身には既に小突いただけで砕けそうな程にヒビが入っている、此れで最大限の一撃等来ようものなら彼女は耐え切れずに死ぬだろうが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何で、剣を降り下ろさないんですか?」

 

 

 

 

追撃を仕掛ける為に跳んだ悠騎は剣を握ったまま停止する。

 

 

 

一向に自身を襲わぬ斬撃に疑問を抱き問い掛ける刀華、目の前の強者(デタラメ)なら自分を追い越した上で背中を斬る等造作も無いにも関わらず、其れをしない事に侮辱しているのかと…言葉には出さないが眼で咎める

 

 

然し彼女の言葉とは裏腹に悠騎は尋ね返す

 

 

「…そう言えば、先程"負けた"と言ったな?」

 

 

「……えぇ、言いました…其れが何か?」

 

 

 

「…其れは、降参したと見て良いと言う事で宜しいか?」

 

 

何を言っているのか解らない、という顔の刀華だが確かにそういう見方も出来るかと…小さく頷く

 

 

「——なら、二撃目は此れで…。」

 

 

 

「え?っ…は、恥ずかしかばい…っ…」

 

 

振り下ろされる筈の剣を納め騎士が口にする二撃目とは口ばかりの抱擁、否…実際には抱き抱え雲を突き抜けた青空を浮いているだけだ

 

 

「…御容赦を、技を仕掛けた者が言う事では無いが普段の貴女なら兎も角、傷だらけで疲弊した今の貴女は此の高さから落ちて無事で済むとは思えない…其れに…」

 

 

「…其れに…?」

 

 

先を促す、確かに刀華は負けを認め満身創痍だ、だからと言って剣を納めて良い理由には成らないと言葉は咎めているが…同時にこの行動で彼の"騎士"としての本質が理解(わか)った上で確信した。

 

 

 

「…負けを認めた者を斬る等騎士の誓いに反する、何より貴女は騎士であり女性だ。

 

——騎士は手前(てめぇ)の護りたいものの為に絶対に引かぬ者

 

其の()誓い()を込めて振るう者

 

其の戦技(技術)誇り()を持つ者

 

其れ等を十全に揮える様に研鑽を惜しまず心身を鍛える力の求道者たれ、卓越した戦闘力は騎士の十戒の一つ也。

 

俺は、中途半端な男だが其の訓えだけは護る、負けを認めた時点で貴女は俺からしてみれば騎士であり保護すべき存在であり強さとは力の有無も確かにあるが真に強さを決定付けるのは"心の在り様"、…他者を貶め傷付けるだけの力等唯の力が強いだけの餓鬼の暴力。

…護ると定めたものの為に最善を尽くすは騎士として当たり前の事だ。」

 

 

語り終えた悠騎の表情(かお)は優しく、其れでいて悲しそうな眼をしている。

 

 

誰かを、自分と同じ様な境遇の人々を護る。

 

其れは二人の共通点であり誓い、護れなかったもの…取り零してしまったものの方が多い悠騎の"騎士としての誓い"に刀華は自分と同じものを見た。

故に此れはお節介であり悔しさから来る言葉、聞き届けられるか如何かは別として言わずにはいられない…と、言葉を紡ぐ

 

 

「……もっと、素直な貴方を出してみたら良いと思うばい、皆誤解しとるちゃよ?」

 

 

恐らく貴徳原カナタによるものであろう、ある程度素性を知っている者の口振りに白銀の騎士は瞳を閉じる

8歳から12歳迄、騎士として振る舞う時の口調から現在(いま)の言葉で心配してくれている優しき騎士に報いる為に。

 

 

 

「——俺の過去も、現在も、未来も…全部引っ括めて俺だから…今更良い子ぶっても意味がないだろう?《悪魔》として傷付けたものはもう元には戻らないし戻してはいけない。

例外はあるが、俺の口調(コレ)は戻したら犠牲になったもの迄嘘にしてしまう。

…あの時から、決めた事だ…騎士として振る舞う時と普段の俺は同じ存在ではあるが既に手の届く事の無い存在である、とな。」

 

 

ケジメなんだよ、と悲しそうに笑う。

12歳と何ヶ月という若過ぎる歳から新宮寺黒乃と出逢う迄に傭兵として奪った命は決して少なくはない

だから、自分は此れで良い…否、こうするのがケジメだと微笑みながらゆっくり下降しすっかりステージ全体が灰塵と化していた大地へと降り立つ。

咄嗟に雷撃を膜の様に展開して防いだ刀華は矢張り流石と言うべきだろう

 

 

『あ!今両選手降りてきましたッ、東堂選手は彼方此方傷だらけですが…悠騎選手は序盤に受けた一太刀のみで後は無傷そのものの様です!』

 

 

会場は事前に展開していた結界に拠り被害は最小限、消し飛ばしはしたが途中で崩落した瓦礫らしきものは各自の判断で排除されたのだろうが観客そのものには被害は出ていない。

 

 

格好良かったぜ黒之ーーッ!

 

 

生徒会長も痺れるーッ

 

 

 

 

曽てない程の試合に観客である生徒達からは歓声が上がるが

 

 

「ユウキーッ!何時まで抱えてんのよーーッッ!!」

 

と、ステラの声に苦笑する悠騎、単純に見て二股を掛けている以上もう御前だけ…等とは言えないが代わりに

 

 

「ステラが望むなら俺は何時でも抱き抱えるぞ!」

 

満面の笑みを浮かべる、エーデに向けるものと同質の笑顔だ

試合前に…正確には昨晩から事情を知っていた一輝は苦笑しながらも祝福する様に拍手している

 

 

「なッ!?そ、そんな事言ってんじゃないわよっ…本当…(ばか、なんだから)…」

 

 

「ステラさん?お兄様だけに飽き足らず悠騎さんまで…?」

 

 

「珠雫、今は放っておいてあげましょ…私も、お兄(悠騎)さんからはちゃんと聞かないといけない事でもあるし、ね?」

 

 

タコの様に赤面しているステラに悠騎とステラを交互に見る珠雫、そんな彼女を嗜めつつ悠騎には色々聞かなければならないと呟くアリス

 

姦しいなんてものではないが、当初の不穏なムードよりはマシ…寧ろ真逆の空気に戦いを愉しんでいた悠騎は困惑気味でいたが

 

 

 

「黒之さん、この試合…私の負けです」

 

 

流れを切る様に鳴神を納める刀華、そして自身の負けを認め眼鏡を掛け裸眼では見え難かった彼の翼を見る…其の目は剣士として相対していたものではなく一人の騎士として目の前の騎士を称賛する眼だ。

 

 

「…綺麗な翼ですね、其の翼で彼と私達を(いざな)って下さい、私の分まで。」

 

 

託された想い、損得等考える迄も無い純粋な想いに、ヒトとして愛する者達と共に歩む事を誓った騎士は裏表の無い微笑みを浮かべる

 

 

「……東堂、其れは違う。俺の器で先導者等務まらん…精々"共に歩む"事しか出来んさ、だから

——卒業迄、あンたも共に歩む仲間(メイト)だ、あンたの知識も貸してくれなきゃ困るぞ?…ほら、何時までもそんな格好するな」

 

 

屈託の無い笑み、自分は先導者に相応しくはないと謙遜でも誇張でも無い…飾り気の無い笑顔と差し出された彼の上着に東堂刀華は一瞬呆気に取られながらもくすりと笑い上着を羽織る

 

 

「—勿論!でも、期待はしとるからね?」

 

 

可笑しそうに笑う表情(かお)、負けるつもりで対峙した訳ではないが…本当の意味で彼の内側を知れた事が嬉しく

 

そして、そんな彼ならば安心して後を任せられると確信出来た喜びが滲み出ている。

 

 

様々な想いが入り混じった壮絶な試合は此れで終わる、後は本来の歴史(未来)同様一輝達が選抜戦を勝ち抜くだけ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

の、筈だった

 

 

「ふふ…矢っ張り私のお兄様です、——あァ…速く私の所有物(モノ)にしたいですね〜…生きて(苦しんで)生きて(苦しんで)生き抜いて(苦しみ抜いて)…私の気持ちを識って下さい、お兄様?いえ、弟ちゃん…うふふ、ふふふふふ…ッ」

 

 

…会場の出入り口から悠騎達を、否、悠騎"だけ"を見ている桃色の髪の女、狂気に彩られた緋色の瞳が映し出す未来(明日)は波乱に満ちたものとも知らずに悠騎達は束の間の時間に浸るのであった。

 




割と最初期から出していたにも拘らず名前が無かった技に名前を付けた回になりました、刀華ちゃんのファンの皆様には申し訳ない回になりましたが…(苦笑)
次回からはタグの容量により『前書きは大事』としか書けていませんが完全に色々な要素を取り入れつつオリ路線を突っ走り、一輝君が辿る道はステラの代わりに______が収まる、かもです。基本はアニメや原作で見たものと相成りますので宜しくお願いいたしますm(_ _)m
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