落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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前回の後書き通り"暁側"から2名出ておりますが…見方によれば3人、かもです、然もプール回まで行けなかったというある意味三重でやらかしました感が半端ない話です()
王馬君ファンの皆様は閲覧注意なのと、前回と同じで過去に対する異物混入、軽度のグロ描写、原作最新刊の一部ネタバレ(と言っても勘の良い人なら予測は出来たかもですが)が苦手な方は注意願いますm(_ _)m


加速する歯車–過去から未来へ託されるもの–

「——目的は何だ、何故此のタイミングを選んだ…ッ!?」

 

 

凄まじい迄の剣戟、互いに斬り結ぶ姿は正しく羅刹か天魔…少なくとも人間とは思えぬ程に互いの剣を交差させる

 

 

「知れた事、俺は強い奴と闘いたい、そして貴様の今日の試合を観た者は誰もが思うだろう。

——此の強者(化物)と闘いたい、とな。尤も俺は貴様が強い事等彼の時から既に識っていたが…ッッ!!」

 

 

既に何合と斬り結んだであろうか

 

本来なら一太刀受けるだけで耐え切れずに体力を削られる筈の剛剣を王馬は自身の風使いとしての能力で補う形で真っ向から斬り結んでいる。

 

尤も最初から天龍具足…簡単に言えば普段風のギプスの様に扱っているそれを本来の使い方をして漸く"片腕"の悠騎と斬り結ぶ事が出来る程度だ。

今程彼の胸中には"努力する天才に対する羨望と度し難さ"という念しか無いだろう。

 

 

だが、悠騎には彼に関する記憶は無い。

否、調べた程度の知識はあるが此れ程迄の感情を向けられる事に身に覚えが無いと言うべきか。

 

 

「故に…他の誰かに狩られる前に俺が一頭先頭に貴様の相手をしてやる。

——彼のペテン師(愚弟)には万が一にも貴様を斃せるとは思わんがなッ!」

 

 

静かに、其れでいて地が蠢く様な衝撃が走る

 

 

「——…ペテン師とは、一輝の事か?」

 

 

強大な迄の魔力の奔流、天を衝き、地を鳴らす程の静かな怒りから来る悪寒に王馬は"あの時"と同じだと口許を歪め嗤う

 

 

「——他に誰が居る?黒鉄家の面汚しめ、何も成せぬならせめて大人しく泥に塗れていれば良いものを。」

 

 

恐らく、此の言葉が此の化物を本気に(キレ)させる地雷と悟り、敢えて踏み抜く

 

 

 

 

 

——其れが、自身の破滅を齎すと理解した上で。

 

 

 

「良いだろう、貴様には引き返して貰おう等とはもう思わん。

 

——戦闘では無く"戦争(コロシアイ)"で早々に肩を付けさせて貰う…ッッ!!!」

 

 

地の底から聞こえる様な昏く…そして狂気に満ちた声が山中に響く

 

 

 

 

「ッ!ふん、漸く"本来の貴様"を出すか…ッ!!」

 

 

得物を構えていなかった訳では無い、寧ろ何時斬り掛かってきても対応出来る様に感覚を研ぎ澄ませていた。

 

 

——だが、今迄嵐が如き風に護られていた其の身を…正確には胴を薙ぎ払われ無様に、手毬の如く転がる

 

唯一の救いは無意識に後ろに飛び其れ程傷は深く無い事だが其れでも鮮血は飛び散る、此れでまともに受けていようものなら……。

 

 

「ッッ!!」

 

 

「——立てよ、貴様は俺を怒らせた…簡単に死んでくれるなよ?」

 

 

土煙が激しい中ざ…っ、ざ…っと近付いて来る幽鬼…否、悠騎に畏れと歓喜、恐怖と幸福といった相反する感情を抱く王馬

 

 

「…其の表情(かお)だ…彼の時も貴様はあの愚弟達の為に…そして_____の為に怒り狂ったな…っ、今の貴様なら愉しい闘いが出来そうだ…ッ!!」

 

 

どく…どくと血を流しながら身を捻る、旭日一心流、迅の極である技の構えに対し怒りに我を忘れた悠騎は無防備其のもの

 

 

「嘗めるなッッ!!」

 

 

音すら発する事無く対象を両断する技の前に無防備な身体を晒す悠騎に憤慨した様に技を仕掛ける王馬

 

 

だが

 

 

「——何だ、此の程度の速さで迅の極等と自惚れるのか?貴様はッ!!」

 

 

真っ向から、漆の如き刀身が月明かりを反射する剣で受け止める

辺りの木々は音も無く崩れ落ちるが悠騎には擦り傷一つ負わせられない

 

 

「ッ…化物め…ッ!?」

 

 

剣士にとって速さとは即ち何れ程ヒトを斬れるかという斬れ味といっても良い、そして今受け止められた剣は正しく旭日一心流で最も速い剣技と言って良い。

 

 

——そして、王馬が地に脚を深々と減り込ませ受け止めた剣は未だ悠騎の剣は未だ"最速"では無い。

 

 

「…ほう、人間(お子様)の剣速に合わせて"やった"が一撃目は堪えたか。

——尤も、二撃目には気付かなかった様だがな。」

 

 

ぶしゅゥッ!

 

 

「ぐゥ…き、貴様…ッ!何時の間に…ッ」

 

 

太腿から噴水の様に血を吹き出す王馬、彼は確かに袈裟斬りを受け止めた、風の加護があるにしろ何にしろ確かに受け止めた。

 

——だが、風すらも斬り裂く逆手持ちに振るわれた二撃目には気付く事も出来ずに深々と…骨が見える程に斬られ、三撃目は飛び退く事すら出来ず腹を掻っ捌かれる

 

 

影無耀(かげぶよう)、一刀目が強烈且つ鮮烈ならば今の貴様の様に見る事すら出来ない二刀目を放つ…我が父の抜刀絶技(ノウブルアーツ)

——貴様が嗤った取るに足らんペテン師のチカラだ…ッッ!!」

 

 

唯激昂する、此奴は努力を馬鹿にした

 

兄だろうが何だろうが必死に…其れこそ血反吐を吐いて努力している者を…弟を侮辱した…!

 

 

 

—何より、親友を嘲笑された…!!

 

怒りから自ら禁じ手として固く封じていた技法に手を出す

 

 

「……じゃあな、一輝と珠雫には貴様は事故で死んだと伝えておいてやる。

 

森羅万象悉くを破壊せよ、真・三都破壊者(トリシューラ)ッッ!!」

 

 

全てを焼き尽くさんとばかりに迸る黒い龍を模した焔が辺りの木々を焼き尽くす

二人の戦闘に拠り辺り一面丸裸だったが其れでも山火事は避けられないだろう

 

 

そして、王馬に向けられし何百、何千もの神槍(トリシューラ)…其の一投擲が以前の憤怒の壊炎(パスパタ)の全力を軽く凌ぐ

 

 

つまり、第二宇宙速度で墜ちるデコイを焼き尽くすに飽き足らず物体、概念に限らず悠騎が認識したもの全てを破壊し尽くし天候を変える程の破壊兵器の全てをただ一人の男に向けているのだ

此れら全てが降り注いだ場合、何ら防御行動を取っていない場合は…残念ながら試せない為に明確な事は言えないが地獄を再現する事となる。

 

 

「……此処迄されると逆に爽快だな。

 

 

——やれ、弱さは…罪なのだろう?」

 

 

「ッ!」

 

 

何故、此の男が其の言葉を知っているのか…という驚愕の表情(かお)

 

此処で我に返る

 

荒れ狂う黒龍が如き焔

 

一人に対し…然も手負いの…親友の兄に向けるべきでは無いチカラ

 

 

(俺は…何を…ッ…!)

 

 

傷を庇う様に野太刀を杖代わりにしている王馬に一瞬だけ、ある幼い頃のイメージが浮かぶ

 

 

(…幼い…一輝…?珠雫……春姫…俺……王馬……っ………!?)

 

 

(いかんッ!思い出すな悠騎ッ、あれは…あれは其方の所為ではない…思い出すなァッ!!)

 

 

「—やれッ!!其れが貴様の…貴様達が辿った軌跡ならば其れを嘘にするなッ、悠騎ッ!俺を討てッッ!!」

 

 

「お…ぅ…ま……っ…」

 

 

からン…と、乾いた金属音が山中に虚しく響く

 

絶対的優勢に立っていた筈の悠騎

 

 

——…だが、先に折れたのは彼の心の方だった。

 

 

—————

———

 

 

「あれは…!」

 

結界の外から荒れ狂った龍の如き焔が舞うのを其の双眸で収めるエーデ、ステラも其れを見てある考えが過る

 

 

「若しかして、ユウキ…!?」

 

 

「恐らくそうでしょう、あの方角だと…合宿所の東側の川が近いですね…」

 

 

外から中へ侵入する分には術者である悠騎の意識次第で拒む此の結界だが中から外に出る場合は"出たい"と思えば出れるらしくエーデとステラは地上に降り立つ

 

「行きましょ、何だか凄く嫌な予感がする「残念じゃが行かせる訳には行かんのう」…!?」

 

 

何時もの如く空間の捻じれから姿を表す宗我の声、だが今日は付き添う者の顔に面を喰らう

 

「全く、何で私や母上が遥々日本迄足を運ばねばならんのだ…約1ヶ月ぶりだなステラ?」

 

 

「お、お姉様ッ!?」

 

 

ステラの姉、ルナアイズ・ヴァーミリオンである

 

 

「…宗我、私は行きますよ、遅れは取らないにしろ(王馬)は悠騎の心の傷を抉る存在ですから。」

 

 

ルナアイズを余所にエーデは悠騎の居る場へと向かおうとするのだが

 

 

「ほっほっ…流石に知っておったか、じゃが…——行かせんと言うたじゃろう?」

 

 

地下何十メートルにも及ぶ亀裂を発生させながら大鎌が大地を斬り裂く、立ち昇る闘気…否、最早覇気と言って良いそれは常人ならば卒倒するレベル。

 

 

「…ッ…」

 

 

ステラでさえ冷汗をかきながら固まっている、悠騎とは違い宗我(英雄)は必要とあらば笑顔でヒト(他人)を殺せる。

 

技術の進歩等戦に関与しない英雄も多いが彼や黒鉄龍馬は戦場に足を踏み込む処か踏み抜くレベルで多くの敵を屠っている。

 

今更小娘二人を殺す等花を摘む程度に造作も無い事だ

 

——其れが喩え、己が妻にとっては血縁関係にあたる者や孫の最愛の女であれど…。

 

 

「ソウガ殿、殺気を鎮めて頂きたい。

今日は父上の代理として私はステラを…母上が"彼方"を観に行っている。

 

——全ては…彼を見定める為の試練と言ったのは貴方だ、そして…この件はヴァーミリオン家の咎とも言える」

 

 

冷汗をかくステラを抱き締め宥めるルナアイズ、此の発言にステラは眼を丸くする

 

 

「お姉様…咎…って?」

 

 

「…宗我、まさか貴方は…」

 

 

——二人の問う声が重なる

——聞いたら、後には戻れないというにも拘らず。

 

 

「…今の彼奴は本当に強くなった、ヒトとしても、戦士としても。

じゃが、此れから先待ち受ける未来は彼奴の「…其処から先は我から言ってやろう、退がれ…下郎。」——…驚いたのぅ、モノホンの神が来おるとは」

 

 

大気が震える、強過ぎる異物に世界が悲鳴を上げるかの様に。

 

 

「「ッッ!?」」

 

 

二人は息を呑む。

 

何故ならば…あまりにも似過ぎているのだ、彼女達の最愛の男に。

 

 

 

 

 

 

—目の前の異物()が。

 

 

 

「——戯言に興味は無い、用件だけ伝える。

 

其処な白騎士と竜の姫君よ。

 

其方等が真に彼奴の選んだ者であれば引き抜いてみせよ、彼奴の"楔"を…呪いにも似た愛情…否、執着を…そして、彼奴の奥底に眠る悔恨の根を。

——其れが出来るのは導き手である其方等しか在るまい、…全く…対存在とはいえ此処迄似ると最早鏡よな。」

 

 

無数の髑髏を数珠繋ぎにし首に掛けた神は静かに語る、反論や疑問…其れ等全てを呑み下させる程の威圧感と存在感がある彼は正しく今の悠騎が辿らなかった道の対極に在る者。

 

 

「…頃合いだ、汝が施した"封印"を解く…一度封じたら最後術者には解けぬ代物故我が来た

 

——忌まわしき記憶の改竄…並びに封印を破壊する為に、な。」

 

 

そして、そんな彼が語る悲しい出来事に事情を知っている…というより術を施した宗我と宗我から事情を聴いているルナアイズの両者は悼む様に瞳を閉じ聞き及ぶ事となる

 

 

—————

———

 

 

「おれ…は…ッ…!」

 

 

俺は何時の間にか片膝を付いていた、目の前が真っ暗になる…何て…何て罪深い…ッ…

 

 

「ッ…ち、眼を覚ませ…ッ!貴様は此の程度で終わる器では無いだろうッ!」

 

 

傷だらけで満身創痍の王馬が胸倉を掴む…初めて逢った頃とあまり変わらない対応に思わず笑みを浮かべてしまう

 

 

「……王馬…久し振りだな…"冬華姉さん"も居れば良かったんだが…すまない、俺の所為、だ…ッ!!」

 

 

ゴッッ!

 

 

「あれは貴様の所為では無いッ!懲りずに謝る様なら俺は彼の人の代わりに貴様を殴る!」

 

 

頬に振り下ろされる拳骨…口の中が切れる…でも、今此の時だけは…痛みだけが唯一の救いだ…。

 

 

「………自惚れていたのは…俺の方だ……ッ…漸く…理解(わか)ったよ、何故俺が…能力をあまり使いたがらないのか…」

 

 

「黙れ…貴様の所為じゃない、あの場に居た誰もが出来ぬ事を貴様は成そうとした…しなければ彼の人は何の道死んでいた…ッ!」

 

 

だからと言って…ッ!

 

 

「——だからと言ってッ!人一人の存在を消してしまった免罪符にはならないッ!!姉を消して良い理由にはならないッッ!!」

 

 

嗚咽混じりの咆哮が虚しく響く…何故今まで気付かなかった…ッ!

 

 

6歳からの記憶と8歳の誕生日の前夜迄覚えている癖に、7歳の記憶が所々曖昧な事に…

 

 

—まるで"無理矢理縫い合わせた"かの様に記憶の一部が無い事に…ッ!

 

 

 

ゴッッッ!!

 

 

「黙れッ!彼の人の"消滅"を無駄にするなッ!!」

 

 

傷の深さも相まって王馬の力は次第に弱々しくなる…今処置すれば助かる…そうだ…能力に頼らずに…何とか…!

 

 

 

「あら〜…此処は何処かしら、さっき迄凄い風が吹いてたから迷っちゃったわ…——酷い怪我ねェ、早く"元に"戻さないと死んじゃうわ…さ、早く治してあげて?」

 

 

不意に背後から聞こえてきた声、振り返ると優しげな雰囲気を纏った女性が立っていた…涙で顔の輪郭迄は解らないが…

 

 

「っ…すまない…俺には…「大丈夫、ユウキちゃんは強い子だもの…あの時も、ステラちゃん達を助けてくれたでしょ?」ッ…貴女は…!」

 

涙を指先で拭われて初めて声の主の女性を視認出来た

幼い頃に見覚えがある顔に驚愕故に眼を見開く、其れと同時に何故かは知らないが当時の記憶が今になって甦ってくる…!

 

 

『ほら、大丈夫…——貴方のその手は…ヒトを傷付ける為のものじゃない…命を繋ぐ優しい手、…大丈夫…ゆう君は強い子だもの』

 

 

ッ!!

 

 

「——俺の力は人を傷付ける…ならば、せめて此の"能力"は人を救う為に…ッ…!」

 

 

 

過去と現在(いま)とで重なる声、声の質こそ違えど其の言葉に救われたのは…今も昔も変わらない…ならば…俺は其の声に応えるッ!!

 

 

「…——ふン…やれば、出来るじゃ、ないか…」

 

 

 

「…全く…相変わらず…憎まれ口は減らないな…」

 

 

酷い頭痛である筈なのに…あの時とは違う、何処か…漸く欠けていたピースの一つを手にした達成感を感じながらへたり込む

 

 

王馬も傷一つ残っていないが疲労感からか酷く眠そうだ…というか寝た、仮にも目上の方…然も王族の前で。

 

 

「…有難う…ございます、全く…貴女達親子には救われてばかりです、アストレア・ヴァーミリオン王妃」

 

 

だが、俺はそうも行かない…騎士の礼に倣い片膝を付き頭を下げる

 

 

「うふふ、ユウキちゃんたら…如何か頭を上げて?風の噂では《悪魔》なんて呼ばれているッて聞いたけど立派になってくれて"お姉ちゃん"嬉しいわぁ…♪」

 

 

「ぅ…や、止めて下さい…あの頃の僕は…いえ、俺は無知だっただけですから…」

 

 

7歳の頃のとあるミスを今更出され羞恥心を煽られ顔が熱くなる、頭痛は少しずつ収まるが其れと同時に靄が掛かっていた記憶が蘇る。

アストレア王妃は其の見た目とは裏腹にかなり若々しい、其の為俺と初めて逢った7歳の誕生日にはアストレア王妃は一回り歳上の女性にしか見えなかったのだ

 

 

「あの時のユウキちゃん…可愛かったわぁ、まるで女の子みた「ん"ん"…あ、アストレア王妃?…何故斯様な場所に?」ふふ…今日はユウキちゃんとステラちゃんに逢いに来たのよ?」

 

 

恥ずかしい…なまじ幼少期の自分を知られている分恥ずかしいのだが、今は彼女の"保護"が大事だ。

 

 

「…左様ですか、——処で、さっきから其処に隠れている二人は…貴女様の護衛ではありませんよね?」

 

 

 

「——流石だ、黒之悠騎君。

 

私は兎も角彼女の気配に気付くとは…恐れいったよ。」

 

 

 

 

唯一残った木々の間から現れたのは日本人なら一度は見た事がある人物…現在の日本の総理である月影獏牙と…

 

 

 

 

 

 

「——久しぶり…元気にしてた…?」

 

 

 

「サラ…如何して此処に居る…?」

 

 

サラ…サラ・ブラッドリリーだ、俺の昔馴染みであり《解放軍(リベリオン)》のメンバー…!

 

 

「……迎えに来た、貴方を。」

 

 

じッと見詰められたと思えば意図を解せぬ科白が紡がれる…俺を…迎えに来た、だと?

 

 

「…単刀直入に言おう、悠騎君…暁学園に編入して貰いたい。

 

——君の力や出自は其処にいるサラ君や解放軍(リベリオン)に所属している者達にも、そして《国際騎士同盟》の力を以て調べ上げた、何より…君の御祖父様、黒之宗我さんの口からも、ね。

 

そして今日の試合と今し方の戦闘、君は未だ力を使い熟してはいないが明らかに学生騎士のレベルを超えている…"世界を救う"為に、如何か君の力を貸して欲しい。」

 

 

困惑している間に深々と頭を下げられ面を食らう、ふと…ある映像が脳裏を過る

 

 

(ッッ!?)

 

 

視えた…否、"視えてしまった"未来の映像(ビジョン)…最早"地獄"とも言って良い惨劇に治っていた頭痛が再びぶり返す

 

 

「……視えた、様だね…其れでも嘔吐しないとは流石は黒之…いや、彼女と同じ現人神の血族だ。」

 

 

「…生憎…こんな光景は戦場では数多く観てきましたからね、…だが…此の事をあの男…《時空の翁》は知っているのですか?」

 

 

総理の口振りからして母さんとは旧知の仲なのだろう、吐き気を催す様な…到底許し難い未来に今は私怨を殺しながら問う俺に意外な人物から答えが返って来る

 

 

「…ソウガお兄さんなら知ってるわよぉ、だって…其の未来を回避する為にユウキちゃんを強くしようとしてたんだもの〜…。」

 

 

本当に意外な…否…本当は、知っていた

 

 

——彼奴(祖父)が、俺を愛してくれていた事を…

——其の愛に甘えて…如何しようも出来ない現実と感情をぶつけていただけの…糞餓鬼でしかない自分を認めたくない俺を…精一杯憎ませようとしていた事を。

 

 

「—…そう、ですか…。

 

——総理、俺にはアレともう一つの…二通りの未来が視えました、だから、少しだけ時間を下さい。勿論力は磨き続けますが…今は…ステラ達の側に…。」

 

 

ぎりッ…と歯軋りする音が聞こえた、アストレア王妃でも月影総理でもない、勿論サラはそういうタイプじゃない…一体誰かは解らないが…空耳かもしれない。

 

 

「…解った、だが決断は出来るだけ早い内に頼むよ…そうだな、最低でも選抜戦が終わる迄には頼む。

決心が付いたら此処に連絡して欲しい、今日は《凶運》の力を借りて君に逢えたが亜季君の息子である君とはゆっくり話したいからね…では、失礼する。」

 

 

王馬を抱え踵を返す月影総理の背を見送ろうとした矢先、サラに首筋を舐められ耳許で囁かれる

 

 

「ッ!?な、何だ?悪い冗談だな…」

 

 

 

 

「……見付けた、矢っ張りモデルは…」

 

 

ユウキが良い、と…。

 

 

—————

———

 

 

そんな事が起き微細だが歯車が狂いぎくしゃくした数日を過ごしたある日の朝

 

 

「……ステラ、あれは?」

 

 

「え…?あ、あぁ…何だかイッキに絡んできた生徒達をイッキが倒して弟子にしたみたいね、あの、ね?ユウキ…?」

 

 

「そうか…?どうかし「ゆ う き さん♪」…珠雫か、如何かしたのかい?」

 

 

くすりと笑うユウキ…如何して…?

 

 

「ふふ、何だか最近の悠騎さんは前にも増して素敵ですからお兄様同様、珠雫が此の家畜ブーミリオンさんから御守りしようとしているだけですよ?」

 

 

「…珠雫、悪戯に人を傷付けてはいけないよ?其れに俺とステラは交際していると伝えただろう?

妹の様に見ている君が彼女を傷付けるのは…少し悲しいぞ…?」

 

 

優しく微笑むユウキ…如何して…ッ…!

 

 

「はーい、でも…珠雫も悠騎さんから見たら異性な訳ですし…ね?

最近思い出したとはいえ矢っ張り…異性、としては見てくれませんか…?」

 

 

「…そうだな、確かに客観的に見ても珠雫は可愛いし凄く魅力的だが…俺が好きな人はステラと絵留(エーデ)なんだ、其れは理解して欲しい、な?」

 

 

…ユウキはお世辞は言わない、何時も本心からの 言葉をぶつけるからこそ最近は皆の見方も変わってきて人気が出始めている…一部では《求道者》とか《白銀の武神》と呼ばれている程に。

 

でも、アリスやシズクには私とエーデの事は伝えている、最初は微妙な反応だったけどユウキの覚悟を知ってからは…

 

 

——違う、あの晩からイッキとシズク…そして私は少しだけ変わった。

——まるで抑え込んでいた何かが解き放たれたかの様に。

 

 

「珠雫ちゃん、お兄様はぼーっとしている様で割とガードが固いですから正攻法じゃ堕ちませんですよ?」

 

 

「あ、春姫…成る程、お兄様同様に責めないと…よね?」

 

 

ハルキとシズク…性格は異なるのに二人とも仲が良い、同じクラスという事もあるんだろうけど…

——当然よね…あの日も二人は仲が良かったんだから。

 

 

「…二人共、責めだの受けだの言ってないでさっさと自分のクラスに戻れよ?珠雫、はるは昔からお調子者な処があるから大変だとは思うが宜しく頼むよ」

 

 

「勿論、だって春姫は私のお友達ですから…でも、お兄様は渡しませんよ?」

 

 

「ふっふっふ、一輝さんは優しいですからねぇ…ころっと行っちゃうかもしれません♪

あ、でもお兄様は私のものですよ?」

 

 

互いに牽制し合いながらも仲が良い、私の時とは嘘の様だ

 

 

「…ステラ…最近元気が無いな…如何かしたのか?」

 

 

二人が行った後に俯いていた私の顔を覗き込むユウキ…如何して…ッッ!!

 

 

「—ごめん、今日は…先に帰ってるわね…」

 

 

つい、突き飛ばしてしまった…こんな事したくないのに…ッ!

 

 

「…解った……」

 

 

すまない…と、何時もの様に謝る声…謝らなきゃいけないのは…私の方なのに…ッ!

 

 

—————

———

 

 

「あらっ、ステラじゃない?元気ないけど如何かしたの?」

 

 

廊下を走っていた処にアリスとぶつかりそうになる

 

 

「…ごめんなさい、ちょっと…色々あって…」

 

 

「ふぅん…悠騎お兄さん関係なのは明白として…良かったらコレ、やってみない?」

 

 

アリスはゲームのパッケージを見せる…しりぷり…?

きっとロクでもないものなんだろうけど…ユウキに似たキャラクターに目が向かう

 

 

 

「かがみんから借りたんだけどねェ…このキャラクター、お兄さんに似てるんだけど隠しキャラみたいな立ち位置だから攻略するのに苦労したわぁ…陰鬱な気分もきっと晴れるわよ?」

 

 

「………やって、みようかな…?」

 

 

—————

———

 

 

 

『…我が剣は貴女の為に…我が身は貴女の盾に…我が君(マイロード)…貴女は今日も美しい。』

 

 

「…確かに…見た目はそっくりだけど…」

 

 

こんなに気障ではない、ステラは苦笑するも彼に悠騎の内面を投影し選択肢を選びゲームを進めていく

 

 

『も、申し訳ありません我が君(マイロード)、——貴女が…あまりにも美しくてつい……騎士としてあるまじき行為……本当に申し訳ありません…ッ』

 

 

「ッ〜っ!?」

 

 

主人公が壁ドンされている場面、騎士として葛藤している隠れキャラは…中々に悠騎に似ている

 

 

(…ゲームの中くらい…素直になっても良い、よね…?)

 

 

自ら体勢を崩す選択肢を選びハプニングを発生させる

幸いな事に悠騎は生徒会の手伝い、エーデは何処かに出掛けている

 

 

『——私が愛しているのは、貴女だけです…我が君(ステラ)

 

 

隠れキャラの名に恥じぬ難易度ではあるがその甲斐あってかR15ぎりぎり、過激な内容にステラは赤面してしまう

というか最後だけ脳内変換された様だ…ほぼ毎日キスしているのに

 

 

(ッ!さ、最近のゲームって…!)

 

 

「……え、と…何をしているんだ?ステラ…?」

 

 

「ッッ!?!?」

 

 

思わず画面の前に立つ、こんな姿は見せられないとばかりに隠蔽行動を取るが悠騎は苦笑しながらも冷蔵庫から朝、砂糖と酒と味醂、醤油を混ぜたものとモモ肉を何枚か取り出す

 

 

「…簡素だが今日は照り焼きチキンを作るよ、あ…そういえば明日は一輝が皆を連れてプールに行くらしい、ステラは…如何する?」

 

 

フライパンに薄力粉をまぶした肉を乗せ焦げない様にフライ返しで弄りながら問う悠騎、ゲームと似た様な状況にステラは意を決す

 

 

「…ユウキが行くなら行くわ…——ユウキ…」

 

 

ぎゅ…っと抱き着くステラに悠騎の手許が狂う

 

 

「っ…き、今日は…その…大胆だ、な…?アストレア王妃やルナアイズ殿下に一応は交際の許可は得たとしても…ッ…」

 

 

「…今は…お母様やお姉様は関係ないじゃない…っ!」

 

 

哀しげに呟かれる声…何かおかしいと一旦火を消しガスの元栓を閉める

 

きっと…真面目に向き合わなきゃならない話だから、と真摯にステラと向き合う悠騎は…仮想ではなく本物の騎士そのものである。

 

 

—————

———

 

 

火を消して数十分、ユウキの言い分は聞き出せない

ただ…私が喚き散らしているだけ、でも…言わずには居られない…ッ!

 

 

「如何して…何も言ってくれないのよ…ッ!」

 

 

ぽすッ…彼の胸板を叩く様にして身体を密着させる…何度も、何度も…ッ…胸板を叩く私の頭を静かに…慈しむ様に撫でるユウキの指先は…

 

 

——痛々しい迄に優しい…。

 

 

「如何して…っ…何で我慢するの!?頼ってくれるんじゃないの!?

そんなに……私達は頼りない…ッ!?

——それとも…彼の人の死を招いた私達が許せない…!?」

 

 

あの人…もう一人の悠騎が記憶を呼び起こした時、悠騎だけじゃない…多分、一輝や珠雫も思い出したんだと思う

 

 

じゃなきゃ珠雫が一輝以外の男に色目なんて使う筈が無いから…。

 

 

 

「……あれは…さ、事故だったんだ…冬華姉さん…父さんと母さんが学生結婚したのは前にも話しただろ?

——俺とはるが産まれるよりも前に産まれた子供が冬華姉さんだった…学生ながらに召集を受け幾つもの組織を潰してきた天才騎士…俺や一輝…王馬、そして…」

 

 

(…私を、その身を挺して救ってくれた強くて優しい女性(ひと))

 

当時を思い出しているその眼が放つ眼光は…優しくて悲しく揺らいでいる

 

 

「…まさか使用人の中に解放軍の末端や伐刀者(ブレイザー)に内通している者が居るとは思わなかったんだろうな、冬華姉も…寧ろ、皆には怖い思いをさせて本当にすまなかったと思う、結局…あの時の俺は自分の身を護るのが精一杯で…」

 

 

(違う…っ、オウマと同じ様に必死に護ろうとしていたじゃない…ッ)

 

 

悔しそうに、呟く様に…それを言ったら私は火傷が完治したばかりでまた力を使おうとした、結果は…自滅だったけど

 

 

「…じいさんが俺を気遣った結果、遠い血縁関係であるステラやアストレア王妃、ルナアイズ殿下達と同い年位の一輝達を招待してくれた7歳の誕生日…ステラは5歳なのに火傷だらけでさ…子供ながらに凄いと思ったよ」

 

 

慰めようと…してくれているの?

 

ユウキの優しさは…時々毒だと思いながらも私は泣きたいのを我慢して苦笑して返す

 

 

「……其れを言ったら、7歳でプロの騎士を圧倒していたユウキの方が凄い「否…そういう意味の凄いじゃなくてさ…凄く、優しくて強い女の子だと思った」…優しい?」

 

 

私は…優しくなんかない、現に恩人の名前や顔すら今の今まで忘れていたのだから…

 

 

でも、ユウキは話を続ける。

 

 

 

 

「…俺は…はるを護る為に強くなろうとした、其れと同時に…はるを虐めた奴や俺の大事なものを傷付けた奴等に仕返しをしようともしてた。

——でもステラは…確かに皇女っていう立場もあるんだろうけど国民を護ろうとしてた、…あの時は…珠雫やはるを、な?

 

器が違ったんだ…今では恥ずかしくも思うよ」

 

 

苦笑しながら髪を解く様に撫でる指…優しい鼓動…

トウカさんと同じ…髪の色。

 

 

 

「——そんな君だから…俺は好きになった、憧れた……何時か、君を護れる様な強い騎士になりたい…否、強くなる…って。

 

気に入らない奴や敵を斃す力も時には必要かもしれない、でも…そんな事を繰り返してたら疲れるし何より誰も…自分すら護れていない。

 

力は誰かの為に使われて…そして其の誰かが利己的ではなくただ善良な者なら…

護る為に振るわれるなら…其れはとても尊いもの、冬華姉さんの背中と…ステラ、君の優しさがあったから今の俺が居るんだ…。」

 

 

だからもう…自分を責めないで…と、ユウキは微笑む

 

 

「…ばか…ッ…あんたこそ…自分を…ずっとずっと!責めてたくせに…ッ……」

 

 

「…かも、な…でも…今は大丈夫だ、何せ俺には道を間違えた時に"そっちじゃない"って無理矢理にでも引き戻してくれる心強い女の子と導いてくれる気高い翼を持った女性が居る…

——もし、また俺が間違えた時は…その時は頼って…良いかな…?」

 

 

自分の能力を過信した訳じゃない…必死に救おうとした結果能力の制御に失敗してお姉さんの存在を消してしまったトラウマを抱えたユウキと其の原因を作った私達。

 

そんな私達の記憶を封じて限られた人達だけで今の今までトウカさんの存在を覚え続けたソウガさんとお父様達。

 

 

後から聞いた話だと今のユウキにも、勿論ソウガさんにも"今は"トウカさんを救えないらしい…彼方のユウキ…ソウゲンは出来るみたいだけど此れも"試練"だと言って帰ってしまった。

 

 

 

なら…私が、エーデと私がユウキを支える。

 

 

 

——義務感でも責任感でもない

——純粋に、ユウキを愛しているから

 

 

「当たり前、でしょ…!頭良い癖にばかなんだからっ…

——ずっと、支え続けるわよ…ユウの事…!」

 

 

重なる影、重なる唇……どうか、永遠であって欲しい…!

 

 

(…ちがう、永遠にしていくのよ…っ…3人で…!)

 

 

—————

———

 

 

「…宗我、貴方は…あの地獄の未来を悠騎に押し付けるつもりですか?」

 

 

都内の高層ビル、傍に専属医師(シオン)を据えて対談するは悠騎のもう一人の最愛の女性である高貴なる白(エーデルワイス)

 

彼女は悠騎達とは違い年長者だ、様々な視点から物事を観れる

 

——その結果、直談判とも言える形で宗我に詰め寄っている訳だが

 

 

「……エッちゃんよ、それはちィとばかし違うのォ。

——儂もナンちゃん(南郷寅次郎)も、龍馬も若い世代に手間(テメェ)のケツを拭いて貰おうとは思わないぞい?…それ故のsurviveプロジェクトじゃ、ツッキー(月影獏牙)も其れは了承しておる…じゃが、儂等も儂等で手一杯なんじゃ。

 

何より未来を創るのは若い世代、あの坊主だけじゃないじゃろ…なら…自ずと限られる手段は決まってくるのう?」

 

 

何も全てを放り投げる訳では無いと銀の髪を揺らし老人に見えぬ老人は笑う。

 

星に定められし運命を回避する為に、若き騎士を本当の意味で強く育て、ぶつけ合い…そして騎士とは何かを伝承(つたえ)る為の謂わば英雄達の想いがsurviveには…時代の騎士達の為に心が込められている。

 

 

「……一人だけでは勝ち進めない道を敢えて与える事で個の限界を悟らせる、ですか…ですが果たして彼等に上手く伝わるとは限りませんよ?」

 

 

過酷な運命、其れを打破する為には卓越した一人の騎士(選定者)ではない…

 

人類全体で立ち向かう必要があると言う宗我に其の意図を読み取れる者が果たして何人居るか、甚だ疑問だと呟く白き騎士に時空の翁と呼ばれし優しくも厳しい英雄はぽつりと呟く

 

 

 

「…今年の七星剣王…頂に立つ者達は例年の常識を覆すかもしれんのう…否、ある意味では坊主が此の道を選んだ時からこうなるのは…」

 

 

必然だった、時代錯誤な電報を見詰めながらその送り主である祖父は笑う

電報の内容はエーデルワイスも知っていた、偶然…否、彼女こそが一番に悠騎を愛しているからこそ大人の対応を以て接している部分もあるからだ。

 

 

 

 

『…俺に力の使い方を教えてくれ、2週間後の午後9時、運命の歯車が動き出した地で待っている』

 

 

 

「…束の間の学生気分を味わっておけよ?…儂の可愛い孫や。」

 

 

電報を見詰め呟く男の顔は、祖父として…何より武人として愉しそうに笑いながら会釈をして立ち去る騎士に手を振り見送った。

 

 




次回は綾辻さんの初登場シーンでもあるプール回です、一輝君サイドの話にもなりますが果たして何処まで書ける事やら(苦笑)
オリジナルキャラである冬華さんが絡む話も後日書きたいなー…とは思いますが(笑)


後、懲りずにアンケートを実施しようかと思います、内容はアンケートスペースを後日作りますので振るって御参加下さいm(_ _)m
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