落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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色々と伏線を回収したら6話オープニング辺り迄にしかなりませんでした(苦笑)


今回は鍛錬パート、作者の別作品のキャラ(複数)の登場、嬲り描写が苦手な方は御注意下さいm(_ _)m


強さとは何か–破壊神達との邂逅と春姫の戦い–

 

剣の稽古を付けると約束した夜が明け二人は今、何時もの合宿所の庭先で"本気"で剣を交えている

 

 

 

「はァァッッ!!」

 

 

「良い気合だ、身体の使い方も申し分無い…だが…直線的過ぎるッ!」

 

 

裂帛の気合を以て振り降ろされる一撃、当たれば怪我では済まない其れを深紅の刀身を持つ長剣を以て斜に滑らせる様に往なし乍片脚を軸に回し蹴りを放つ

この一連の動きに要した時間は約0.001…能力に頼らずに此れを成せるのは正に巨神を祖に持つ者が持つ遺伝子レベルに刻まれた筋力、そして其れを十全に引き出す事が出来る"経験値"

——幾多の戦場を渡り歩き無我の境地へと達した謂わば反射神経の域を超えた"条件反射"の賜物である。

 

 

 

「ッ?!」

 

 

ビュォォッッ!

 

 

「…戦場では使える物は何でも使って生き残らなきゃならん、俺の場合あまり気は進まないが能力を使う事も多々あった。

 

——が、基本は槍か釵を用いた蹴り技等も磨いていた。命懸けの戦場で手の内()を見せたがる犬っころではないからな。」

 

 

尤も…能力を使う場合も主に再生や防御行動が主流だが、と首元に踵が当たるか如何かという距離感で脚を制止させながら語る。

 

皇族とはいえ何時も護衛が付いているとは限らない…否、億が一の事態に備えて"命懸けの実戦形式"で剣術を教えている最中でステラは嬉しそうに微笑む

 

 

そんなステラに違和感を感じ脚を降ろし首を傾げる悠騎、彼の蹴りで生じた風圧は加減したとはいえ周囲の木々を揺らし落ち葉を舞わせる程、にも拘らずステラは微笑むので益々悠騎は問わずにはいられない

 

 

「…如何かしたか?」

 

 

「ん…ユウとこうして鍛錬出来るのが嬉しいの、今この時だけは私だけを見てくれているから…ね?」

 

 

予想を裏切る言葉に内心羞恥心を煽られるが噯気にも出さず小さく頷く。

確かに普段は二人きりになるという事は少ない、そう考えるとエーデにもステラにも寂しい想いをさせていると思い至ったからだ。

 

 

 

「…鍛錬に集中しないと血肉と成らんからな、…其れに…」

 

 

「其れに…?」

 

 

なぁなぁで剣を合わせる拠りも一日に決められた時間、其の時間に全てを出し切る様な鍛錬の方が効率は良い…だが、其れだけではないと言いたげな悠騎にステラは首を傾げる

 

 

「——君達(エーデとステラ)との時間を蔑ろにはしないさ。」

 

 

ぽつりと呟かれる言葉にステラは意外にも微笑みで返す、そして——。

 

 

「——知ってるわ、漸く…ユウの気持ちが知れたんだもの、愛してくれていたから手を出さないっていうちょっと奥手な処も、ね?」

 

 

奥手な再従兄に撓垂れ掛かる、春姫の乱入さえなければ公共の場で事に及ぶ程我慢していた悠騎の首に腕を回しながら。

 

 

「あまり、言わないでくれ…その…恥ずかしい、から…」

 

 

お互いに動き易いジャージ姿とはいえ意識してしまう

 

——運動直後の少し荒い吐息

——朱に染まった頬

——しっとりとした肌質

 

 

 

「可愛い…ユウ、良いのよ?今は誰も居ないんだし…此処なら時間はあまり関係無いんでしょ?其れに今日の鍛錬は終わりだし…ね?」

 

 

暗に襲えと仰る淫ピ…「…何か言った?」基、ステラ殿下、確かに今現在此の地には結界を張り下界での1分を此方側では数時間の時の流れとし、周囲への被害を零にしている謂わば特殊空間。

 

此処でならお互い全力で…『騎士』ではなく『魔導騎士』として互いの戦技を競える。

尤も鍛錬に適した場所でもあるが同時に蜜月を過ごせる訳だが…。

 

 

「……全く、真面目にやらないと怪我するぞ?

——余裕があるなら"魔導騎士"として相手をしようか?」

 

 

窘める、魔獣が如き本能を許容した上で理性を総動員させ押し留めかなり抑え目にこつンと額を小突く

彼自身も求めには応えたい、だが譬え鍛錬が終わろうと…否、鍛錬が終わったからこそ気を引き締めて貰いたいと願い突き放す、油断も慢心もせぬ心身共に最強を目指して欲しいと願っての事だが彼女は漸く身を離し彼女らしい(......)笑みを浮かべる

 

 

 

 

 

「ふふ、矢っ張りユウは優しいわね。

—試す様な真似をして御免なさい、でも安心したわ…明日からも安心して師事出来るって。」

 

 

真面目なのは解ってる、だが線引きが甘くなってはいないか?と考え初日だからこそ試したのだろう

此処で突き放さない様なら恋人としては兎も角、師事を受けるには足らない…前回の合宿と今回の違いは(まさ)しく二人の関係性なのだから。

 

 

尤も、彼ならきっとこうするという信頼関係があって初めて出来る事だ、他の男にはしないだろう。

そして悠騎も、そんな彼女の思惑に気付いていた上で突き放す事が出来たのだから今後のトレーニングメニューについて案を出す

 

 

「…今日は通常の走り込みやヨガ、剣技と体術のみだが明日からは絶技を用いたより本格的な鍛錬が出来る様に新宮寺に掛け合ってみよう、俺の場合結界を張らんと辺り一面をぶっ壊しかねん…無論ステラも、な」

 

 

早朝朝食を済ませた後ヨガに入り次に40キロの険しい山道を全力疾走、其の後フル活用した心臓に負荷を与えぬ様に小走りに合宿所の周りを走った後水分補給を済ませ1時間の間に何度か手合わせといったある意味では一輝と共に居た頃よりハードな扱きにギリギリついて来れたのは偏に一輝との鍛錬も功を奏しているがステラ自身が"悠騎"を超えたいと願う執念もある

 

そんな彼女に自分が未来視に拠り視たものの断片位は伝えておこうと悠騎は呟く

 

——『ステラも…本来の力に気付いたら通常状態の俺となら充分に斬り結べるよ』と

 

 

「…矢っ張り、私の能力って炎じゃないのね…」

 

 

風に乗って聞こえた呟きにぽつりと呟く、其の言葉に悠騎はある程度察したのだろう…宗我かもう一人の自分(想厳)が何かしら吹き込んだのだろう、と。

 

 

「…答えを教えるのは簡単だ、だが苦しみの伴わないチカラ等君や一輝は欲しがらないだろう?

——というか…俺もステラの考え方に同感だ、此処で答えを与えてしまっては苦労出来無かった分挫折するだろう…だから、ヒントだけ与える」

 

 

一輝の様に事前に対戦相手の情報を調べ上げるのは尊い、勝つ為にあらゆる方面から手を打つのは自分も為る事だ

 

 

——だが、戦争はそうも行かない。

 

戦時中に能力を教えろと言われて簡単に教える馬鹿は居ない、負けるとは即ち『死』…僅か8歳の時に其れを悟った彼が此処迄生き残れたのさ類稀なる才能と血筋もあるが彼自身が戦上手でもある事に他ならない。

 

 

尤も悠騎の様に解っていても手の付けようが無い…己の身を別次元に置き凡ゆる干渉を受け付けない人外めいた能力の使い方をする者には教えても教えなくてもアドバンテージ的には変わらない者には其れは当て嵌まらないが其れでも応用の仕方は自ずと紐解かれる為に悠騎は敢えて使わない様にしていたが…。

 

 

(…本当は…使いたくなかったんだな…特に『時間』の方は。)

 

 

全てを思い出した悠騎は己が能力の暴走で喪った姉を思い出し悼む、要は《絶掌》に拠る"存在の消滅"に近い状態だ…今よりもっとチカラを身に付ければ在るべき因果に引き戻し元に戻せる

というか、一輝の腕も戻したのだから両親よりも確実に救える筈なのだ。

 

 

物想いに耽ている恋人にステラは押し黙る、其のヒントは既に手に入れている…だが、ピンと来ないだけで

 

沈黙を崩すべく悠騎は自分や祖父を例に挙げて口火を切る。

 

 

「…『能力』と『反動』を照らし合わせてみろ、俺の場合は三都破壊者(トリシューラ)の場合は異例みたいなものだから割愛するが強過ぎる能力は何処かしらに他人とは違う特徴があるものだ、例えば…飯を沢山食う、とか…人より寿命が短い…若しくは成長が止まる、とかな。」

 

 

「ッ…!其れって…ユウ…?!いやッ!死ぬなんて赦さないからッ!!」

 

 

反動について聞き慌てふためく、筋組織が常人とは全く違うとはいえ人間に変わりはない寿命は当然あるが悠騎は首を横に振る

 

 

「…決して征服されぬ者(アダマス)だった頃は三都破壊者(トリシューラ)のチカラでチャラにしていたが覚醒してからはバリバリ寿命を持っていかれていたな…尤も今は大丈夫だ、ステラ達のお蔭で」

 

 

確かに、ステラ達が何もしないままなら七星剣武祭迄保つか如何かすら解らない程切迫した状態だった…中途半端に覚醒したから今迄保っていた均衡が崩れたからだ。

其れ故にエーデは悠騎との子を欲した…生きている間に彼との確かな絆を求めたからである。

 

 

そして彼の先祖達も、ルーツを同じとする黒乃の家も皆子沢山だ、特に黒乃の方は黒瀬という分家筋もある程繁栄し能力さえ高ければ次代の跡目(クロノス)として家長の座に就く程である

 

 

 

然し…エーデ達の決死の行動に今では『時空神(クロノス)との共生』という歴代の神性覚醒者が辿らなかった道を辿る事が出来た為寧ろ反動処かメリットばかりが増えたと言って良い。

 

だが、足りなかったピースが悠騎の口から紡がれる事でステラはすっかり"親しい者の死"という恐怖に取り憑かれてしまう

 

 

「…そっか、そういう意味もあったからあんな事を…そうなんだ…」

 

 

「…ステラ?…大丈夫、俺は…死ななンん…ッ!?」

 

 

突如唇を塞がれる、然も昨日の焼き直しとばかりに舌を差し込むキス

くちゅ…っと甘美な水音が聞こえるが当の悠騎には訳が分からず唯受け入れる事しか出来ない

 

 

「ん…ンっ…は、…ッ…」

 

 

外からの助けは期待出来ない、かといって結界を解いてもし誰かの目に触れればステラに負担が行く

無論…愛しい女性(ひと)が刻む行為は受け取りたいし拒絶はしたくない

 

舌を絡め取られながら朦朧とする意識を繋ぎ止め如何すれば止められるか思考を巡らせる悠騎であったが

 

 

「っ…ふ…——私にも、エーデみたいに…シて…?」

 

 

服を脱がしに掛かるステラに悠騎は観念するが、ふと此方に近付く"無数の気配"に目を丸くする。

 

 

(…七星剣武祭迄は手を出すつもりは無いと思っていた日が懐かしく感じるな…1週間と少しだというの…に?)

 

 

おかしい、そう思うのも無理は無い、"外部からは"進入不可能、元々内部に居たとしても気付かない筈がない。

そんな場所である此の地に集まる気配…然も其の中の一つは…!

 

 

 

「——盛んよな、対存在()よ。汝の求めに応じたは佳いが…我の分霊"達"にも修練の場を提供するという約束、果たせよ?」

 

 

「っ!ソ、ソウゲン!?」

 

 

舌を抜き慌てて距離を置くステラ、まさかの来訪者に口をパクパクと開閉するが来訪者達は其々の反応でお茶を濁す

 

 

「あ、あはは…やぁ、また逢えたね?」

 

 

左の胸ポケットに八枚花弁の刺繍がされた緑色のブレザーを着た青少年、だが腕には不可思議な魔力を発する手甲を身に付けており彼が内包した"魂"の在り様は悠騎や眼前の破壊神(シヴァ)に酷似している

 

 

「…また、逢えたな…勇気。」

 

 

「あ、ユウキ…よね?知ってるわ、初めまして、私はステラ、ステラ・ヴァーミリオンよ?宜しく!」

 

 

「初めまして、ステラさん。僕は黒乃勇気、別の次元で高校生をしてます、…尤も今は別の世界で良く分からない"敵"と戦っていますが」

 

 

あり得た未来(もしも)で助力を得た並行世界での子孫に微笑みを浮かべる、ステラも以前断片的にとはいえ宗我から知らされた為彼には寧ろ友好的だ。

 

 

だが

 

 

「此の者について今更言う事はあるまい?

——然し…」

 

 

「…あァ、——後ろの御前、此処から出て如何するつもりだ?まさか此の世界を滅ぼすとはいうまいな?」

 

 

見た目的な印象は勇気を幼くした様な印象、然し内包する『闇』は彼や自分よりも濃く…絶望や怒り、悲哀といった"負"の中に——。

 

 

「—ん〜?何か僕達以外に気配がするんだよねー…魔法使い(ウィザード)としては放ってはおけないよ、ねーナンちゃん?」

 

 

「もきゅっ!あらき、やさしー♪」

 

 

|破壊神の雄牛たるナンディンの名を持つ少女の頭を優しく撫でる"一度絶望を経験したからこその優しさ"を内包した少年はくすくすと笑いながら二丁の拳銃を顕現させ黒から銀色へと変わった短髪を揺らす

 

 

「…二つは敵、では無いみたいだけど他はファントムや眼魔だったら大変だから破壊(抹殺)する準備はしとこ?放っておいてもしも士織達に怪我させたら——。

 

——僕は其奴等を皆殺しにしなくちゃいけないからさ。」

 

 

「ちょ、あ、あんたも伐刀者(ブレイザー)?」

 

 

二丁の拳銃を顕現させるあらき…基、新希にステラは疑問をぶつけるが新希は首を振る

 

 

 

「あは♪僕はブレイザー?とかじゃないよー?

僕はただの高校生で…負の塊(ゴースト)で、世界の破壊者で——

 

——希望を護る魔法使い(ウィザード)さ。」

 

 

行くよ、全ての終わりと始まりを告げる者(パーシュパタアストラ)と呟く新希を想厳が片手で制する

 

 

「…如何いう訳か気配が其の二つに減った、此の気配は汝達の兄姉のものだろう。」

 

 

 

「——ッ!此の気配…確かに悠輝兄さんと那岐姉さんだ…ッ、でも…何でこんなに…?」

 

 

川の方で確かに気配を感じた勇気は首を傾げる、見知った兄と姉の気配に比べて弱々しいからだ。

此処で初めて悠騎が動く

 

 

 

「……あーだこうだ言っても始まらんだろう、ステラ…君は如何する?」

 

 

自分が招き入れた火種だ、と言わんばかりにステラを遠ざけようとする悠騎。

然し彼の思考は最早エーデもステラも御見通し、故に彼女の答えは問われる迄も無く決まっていた。

 

 

 

「馬鹿ね、良く分からないけど他の世界の孫か曽孫が困ってんでしょ?なら行ってやるわよ!」

 

 

正確にはエーデかステラの血を引くかは定かでは無い、だが勇気が悠騎を助けたのなら今度は自分が勇気を助ける、と微笑む

 

 

 

「——佳き妻達を得たな、汝等も少しは見習え…」

 

 

「ちぇ、佳く言うよ、悠騎君は僕みたいな存在(負の塊)を生み出さない様に頑張ってよね。」

 

 

「まぁ…僕も其れは思ったかな。僕の魂は想厳の一部でもあるから…新希には申し訳ない事をしたけど…ね。」

 

 

三者三様、統率は取れていないが個々の力は其々の世界を壊す事も護り抜く事も出来る。

 

 

——然し、其々の世界で大切な約束を護る為に力の使い方を学ぶ機会を模索していた彼等は今、奇跡と言っても過言では無い邂逅を果たした。

 

 

選抜戦も半ばとなり巡り巡った邂逅が齎すもの、其れを此の時は未だ知らずに悠騎とステラは森の奥へと向かう事となる。

 

 

—————

———

 

 

『出たァァッ!《マッハズリード》!!無限に加速し続ける兎丸恋々選手の伐刀絶技(ノウブルアーツ)ッ!!』

 

 

「驚いたっしょ?黒鉄君!!」

 

 

「あぁ、流石は生徒会役員を務める兎丸さんだ…でも…!」

 

 

観客の目には恋々の動きは見えず一輝もまた、目で追う事は放棄している

 

 

(悠騎よりは遅いッ!)

 

 

音速を超える攻撃等嫌という程見てきたし味ってきた、変幻自在の槍捌きから繰り出される一撃を何度想定して其の度に負けてきたか等最早数えるのも億劫だ

 

故に…其の攻撃に比べたら御し易いとばかりに恋々の一撃を躱すが

 

 

「甘いよッ!黒之君に鍛えられてんのは黒鉄君だけでは無いっての!」

 

 

躱された侭左右に動く、あくまで直線的ではあるが"無限に加速する"という観念を活かした其の速度から繰り出される残像に一瞬太刀筋がぶれる。

 

 

「!…全く、君は面倒臭い事をしてくれるね…悠騎…!」

 

 

本来の正史では此の一撃で決まっていた。

 

が、思いの外苦戦する一輝、然しその表情は愉しげに笑っていた

 

 

 

一方その頃

 

 

「ッ!成る程ね…何時も生徒会室で雑務をしてる訳では無いって訳…」

 

 

「…某はもう一度あの男と戦う迄強くなると誓った、ランクの差はあれど戦い方次第で引っ繰り返せるのは黒鉄の特権では無い事を…あの男の訓えと"あの人"の言葉を此処に証明してやろう!!」

 

 

斬馬刀でリングを叩き割り舞い散った瓦礫を利用しての追撃、力と工夫(クンフー)の前に同じ人物に師事しているステラは僅かに嫉妬する

 

 

(ユウったら…後で絶対御仕置きしてやるんだから…!)

 

 

確かに"力のみ"で向かってくるなら真っ向から捻じ伏せるのは容易い

だが、砕城は其処に工夫を加えAランク相手にも一方的な戦いにはしていない、寧ろステラにやり辛さを感じさせている時点で観客席を沸かせている

 

 

すげーッ!

 

あの《紅蓮の皇女》に食い付いてやがる!

 

 

 

「…良いわ、此処からは私も"本気"で相手をしてあげる…ッ!」

 

 

剣技のみではやり辛いと判断したステラは嬉しそうに笑う

 

 

(此れ位して貰わなきゃ面白くないもの…ッ!)

 

 

戦う場は違うがお互いに親友であり最愛の恋人が課した試練に打ち震える

 

 

 

「「絶対ッ!追い付いてやるッッ!!」」

 

 

—————

———

 

 

「…負けたか、流石というべきだが…すまないな、期待には答えられなかった」

 

 

隣で観戦していた東堂に謝罪する、もう少し時間があれば…等言い訳はしない、結果を出せなかったのだから

 

 

——同時に…ほっとしている俺が居るのも否定はしないが

 

 

「仕方がなかと、兎丸さんも砕城君も精一杯やったばい。寧ろ…黒之さんが謝るのは二人に失礼だと思うとよ?」

 

 

対戦相手を午前中に見て申し訳なさを覚えた、例の合宿でステラも一輝も実戦経験を積んだ為即席で授けた戦術では砕城も兎丸も善戦はすれど一歩及ばず負けたのが現実だ。

 

 

尤も、二人とも負けたにも拘らず嬉しそうに笑っているし東堂も心なしか嬉しそうだ。

 

 

「戦いを愉しむのは解る、確かに良い戦いではあった…だが、何故あんたは嬉しそうなんだ?」

 

 

今ある全力を尽くして負けた二人、とやかく言う事では無いが戦いの中で"次に繋がるもの"を見付けられたなら其れは尊いし何より喜ばしい事だ、二人の笑みには悔しさもあるが其れを得たと思わせるものである

 

 

然し、東堂の笑みにはそんな二人の笑みの他に別の何かが混在している様に見えてならない為問い掛ける

 

 

「だって二人とも未だ未だ"強く"なれる事が解ったから、黒之さんが来年生徒会長に就任したらきっともっと強くなります。

——その件は、考えてくれちょる?」

 

 

…成る程、矢張り…

 

 

「…あんたは優しいな、自分が卒業した後の事も見据えて二人の成長を喜んでいる。

——確約は出来無い、既に知っている様に俺にも色々あってな…だが…」

 

 

此処で区切る、出来ない約束はするものでは無い。

 

 

 

だから、"出来る約束"をする

 

 

 

「——もし、俺が来年迄居るなら…其の時は、あんたの想いも全部引っ括めて引き継ぐよ。」

 

 

精一杯の約束、彼女の願いを踏み躙る事はしたくないからこその狡い逃げ方…先の事など解らぬというのに。

そんな俺に東堂は微笑みを浮かべる

 

 

 

「……黒之さんは矢っ張り狡い、…けれど、逃げないで気持ちに向き合ってくれる人だから好かれるんでしょうね」

 

 

くすりと笑いながら眼鏡を掛け直す東堂に俺は首を振ろうとするが

 

 

——今朝拾った来訪者(落し物)に遮られる

 

 

 

「ヒャッハー!目の前でイチャつく汚物はしょーどくにゃーーッ★」

 

 

見た目は小学生位の背丈、所謂チョコ○頭の中性的な顔立ちをした少年が背後からドロップキックを喰らわせん近くが敢えて動かない…、此の後の出来事が何となくだが読めるからだ。

 

 

「あらあら、下水で2、3回位煮込んだ汚物の分際でお兄様達やお姉様に御迷惑をお掛けするつもりですか?こんなのと双子だなんて私げんなりします〜お姉様〜。」

 

 

背後からもう一人の声、二人共其れなりに身分のある家柄なのか女の子の方は白のワンピースドレス、男の子の方は子供用タキシード…然し、仲悪いな此奴等

 

 

 

「ぇ…と?黒之さん、此の子達は?」

 

 

「あァ…まぁ…俺の親戚の子供達みたいなものだ、(別の次元での、な)

 

 

口喧嘩が絶えない二人を抱き上げ膝の上に乗せる、周りに迷惑を掛けない為もあるが

 

 

「……不安なのは解る、だが勝手に抜け出すのは感心せんな?

——安心しろ、夜にでも送ってやるからな?」

 

 

「ぅー…べ、別においらはへっちゃらだけど?でも…姉ちゃんの抱っこ気持ち良いし姉ちゃんに免じて那岐が帰りたいなら帰って良いにゃ〜」

 

 

「それは私の言葉ですわ、…でも本当に…お姉様の抱擁は心地良くてほっとするので悠輝さんが帰りたいなら帰っても宜しくてよ?お姉様に免じて」

 

 

 

腕の中で暴れる二人…というかお姉様じゃないんだがな…というかそんなに女顔なのか…俺は…

 

 

「ふふ…何だかお父さんみたいですね?ほら、喧嘩ばかりしてたら駄目ですよ?」

 

 

ショックを受けていた俺を他所に東堂はポケットから飴を二つ取り出し二人に手渡す、その姿に冬華姉さんや母さんを思い出しながら双子の頭を撫でてやる

 

 

「ありがとー綺麗なお姉ちゃんにゃー☆」

 

「有難うございます、綺麗なお姉様♪」

 

 

 

「如何致しまして♪…?如何かしました?」

 

 

笑顔で飴を頬張る二人に思わず微笑みながら小首を傾げる東堂に抱いた感想を述べる

 

悪意も他意も無い感想を。

 

 

「いや、俺がお父さんならあんたは優しくて良いお母さんになるだろうな、とな?母としても、妻としても。」

 

 

「〜ッ?!」

 

 

うん、厳しくも優しいし可愛いというよりは綺麗だ、無論エーデやステラの方が俺は好きだが客観的に見ても東堂は良い母親になるだろうな…一輝と東堂がくっ付いたら実に良いが…流石にそんな事は頼めな、い…?

 

 

「い、いきなり何てことばゆうんやか、なッ、は…恥ずかしかこと…っ!」

 

 

 

脳内でもしも一輝が彼女と交際したら、という想像をしていたら何故か顔を真っ赤にして訛りに訛りまくる東堂、一体何があったというのだろうか?

 

 

「姉ちゃん…流石にそれはないにゃー★」

 

 

「お姉様?若しかして鈍感さんですか?」

 

 

 

…子供にも言われてしまった、俺に不備があったのだろうか…。

 

 

—————

———

 

 

「お待たせ!…?ナギ、ユウに何かあった?」

 

 

「ん〜…ちょっとだけ御自身の鈍感さに頭を悩ませてるみたいです、悠輝より鈍感さんな人は初めて見ました〜♪」

 

 

思いの外苦戦したが其の才と弛まぬ努力で培った剣技で勝ちを捥ぎ取ったステラ、一輝や珠雫も遅れて観客席に座る

 

 

「あれ?その子達は?」

 

 

「初めて見る子達ですね、お兄ちゃん?まさか隠し子等とは言いませんよね?」

 

 

「珠雫、それ仕舞いなさい…大丈夫よ、私とかがみんの調べではそれは無いから」

 

 

霊装(デバイス)を手にする珠雫にアリスが制する…というか、おかまとブン屋の情報網について物申したいのは私だけだろうか。

 

 

「良いんじゃない?寧ろ私は安心出来るからアリスとカガミには感謝してるわよ?」

 

 

…左様ですか。

 

 

「あはは…ま、まぁ宜しくね?僕は黒鉄一輝、こっちは妹の珠雫、でこっちは…「有栖院凪よ、宜しくね?」…君達の名前を聞いても良いかな?」

 

刀華は今でも恥ずかしそうに俯いている、悠騎は悠騎で何処か明後日の方向を向いたまま思考を巡らせて其れ処では無いとばかりに何やら呟いている…なら、二人に聞くのが手っ取り早いと一輝は自己紹介をするが…

 

子供ながらの感覚というべきか、アリスの名を聞いて悠輝が笑い出す

 

 

「ぶふっ!にゃひひふひッ、お、おいらは黒乃悠輝(くろのゆうき)にゃ☆こ、こっちは…にゃははぶげらぁッ!」

 

 

腹を抱えて笑う悠輝に対し那岐はぷるぷると震え無言で双子の兄を殴る、無理も無い…同じ名前の持ち主がおかまなんて彼女にとっては嫌なものがある

 

 

「笑ってんじゃないですわ!此の下水に漬け込んだ汚物!……く、黒乃那岐(くろのなぎ)西暦2069年生まれの5月28日生まれのA型、双子座で今は10歳になります…っ、こんなのとは双子なんかじゃないので悪しからずですわッ!」

 

 

涙目で自己紹介を済ませる那岐、きッ!と悠輝を睨み付け悠騎に抱き付く様は…可愛いのだが哀れだ

 

 

「…まぁ、私もナギから聞いた時は似た様な事を思ったし仕方ないかも…」

 

 

「ステラさん、貴女何気に失礼な事を言ってますよ?…でも…まぁ…」

 

 

「…なっさん、今だけ胸貸して…?」

 

 

…誰がなっさんだとツッコミたいがスルーしよう、今日は"彼等"の大切な…

 

 

 

『さぁ、始まりました!果たして再起復活はあり得るのかッ!桐原静矢選手対噂の転校生ッ!《白銀の武神》の妹とされる彼女の力は未だ未知数!!黒之春姫選手にも注目ですね!西京先生!?』

 

 

『あー…注目も何も、ねェ…あんまり期待はしてないから、さっさととんずらするわ』

 

 

『え!?ちょッ!西京先生ーーっ!?』

 

 

…彼方も彼方で平常運転、まぁスペック的には差はあるが果たして如何なる事やら…。

 

 

—————

———

 

 

 

「…御前の所為で…!僕は…僕はっ!」

 

 

「やーん、怖いですね〜、誰からも相手にされなくなった人のヒ ガ ミ は…♪」

 

 

試合開始の合図から僅かの間に木々を展開し姿を消す桐原、そんな彼の声にくすくすと春姫は笑う…否、"嗤う"

 

 

「ッ!馬鹿にするなァァッッ!!」

 

 

黒鉄一輝に負けた次の日から彼の環境は一変した、今迄自分の周りに居た取り巻きや女達は掌を返した様に去って行き残ったのは彼に負けたという現実(リアル)…敗北感と生き恥を晒させた黒之春姫という女に対する固執と身勝手な復讐心

 

 

 

其れ等をぶつける様に何十、何百と矢を射るが——。

 

 

「惜しい!ほら、もう一回チャレンジチャレンジ〜♪

——其れとも、弱い者いじめしか出来ないんですかァ?狩人(薄汚い野鼠)さんは。」

 

 

当たらない、否、彼女を囲う蔦が彼の矢を悉く防ぎ開始から既に何百と放たれた矢から彼女は桐原静矢という人間の癖を見抜いた上で挑発を繰り返す

 

 

「はぁ…っはぁ…ッ…!驟雨烈光閃(ミリオンレイン)ッッ!!」

 

 

息切れを起こす…否、ストレス性の過呼吸というべきか、目の前の女のあまりの…異常な迄の強さ

 

何より知っている上で傷口を抉る残忍さに桐原のメンタルはズタボロだ

 

 

——そして、次の瞬間には身体もズタボロになる事になる

 

 

「——終わりですか?…サヨウナラ」

 

 

「ッッがァァッ!?」

 

 

 

確実に射た筈の蔦の先に目標は在らず、響く声は鈴のような愛らしい声だが彼女の逆鱗に触れていた男にとっては正しく『死神』を連想させるには充分過ぎる程だった。

 

 

ゴオォゥッッ!!

 

 

両腕に走る爆撃が如き一撃、其れを可能とするは彼女の尋常ならざる膂力と其の力を杖の先端に集中させる技術に拠るもの。

腕は無惨にひしゃげ吹き飛ぶ、完全に姿を消していた筈の桐原は此処で漸く姿を現した。

 

 

 

此れに観客席で見物していた東堂と一輝が疑問を口にする

 

 

「今のは…《抜き足》では無いですね、観客席で見てる私達ですら"見えない"なんて…」

 

 

「《比翼》とかの類でも無いよ、春姫が其れらしい動きをする素振りはなかった。」

 

 

《抜き足》とは個人に掛ける分には確かに難度は高いが達人クラスの人間が模倣出来ないものでは無い

 

が、其れを『複数』の人間に掛けるとすると話は別だ、西京クラスが行うなら兎も角、春姫が観客席に居る一輝や東堂を誤魔化す程となると其れこそ神業になる

 

 

同時に、初速から己が最速を引き出す《比翼》でも無いと一輝は語る

 

 

 

「ありゃぁ…あっちゃん先輩の力かねぇ?其処んとこ如何なのさ悠坊?」

 

 

ふむふむと頷く西京、此の際リアクションは控えさせて貰うが彼女は何となく気付いている様だ、子供達は未知の技術に目をキラキラさせている

 

 

「…俺自身信じられないが…皆、天動説と地動説の違いは解るか?」

 

 

「確か天動説は…地球は宇宙の中心に静止していて、すべての天体は地球のまわりを回転しているとする説…ですよね?お兄ちゃん?」

 

 

「逆に地動説は地球が自転しながら他の惑星とともに太陽のまわりを回っているとする説、だったかしら?お兄さん、まさか…」

 

 

珠雫に続いて地動説について語るアリスは察しの良さを働かせ悠騎が言わんとする事に気付いてしまった。

 

 

「——其のまさかだ、はるは桐原という座標を中心に魔力を使って一瞬で移動(自転)した。

 

無論矢の出処からある程度固定しただけに過ぎないから当たったのは全くの偶然だがな、幾ら属性が大地だからといって出鱈目過ぎる…西京はアレに見覚えがあるのか?」

 

 

自身も空間転移は出来るが故に其の異常性を口にする悠騎、大地とは本来ならば草木を操ったり地盤沈下させたり等が主な力だが地動説や天動説を操る能力では無い、寧ろ其れは"概念"の範囲だと"勝手に決め付け"て話を進める

 

 

「あれが能力の範囲か如何かは別として、悠坊が陰陽道を齧ってる様にはっちゃんもあっちゃん先輩みたいに地霊でも使役したのかと思っただけさ、つぅかはっちゃんの能力…あれは本当に"大地"なのかねェ…って!流石に止めないとヤバいんじゃないかい?」

 

 

 

「何を…ッ!はる!やめろッ!!」

「ッ!春姫ッ!もう充分ですからッッ!!」

 

 

 

大地以外に何があるのか、と問おうとした矢先にリング上での凄惨な"死刑"に悠騎と珠雫が声を張り上げる

 

 

—————

———

 

 

「ぅぐ…ッ…げぼッ!!」

 

 

「……此れは、珠雫が一輝君の為に悲しんだ分…ッ!!」

 

 

ゴスゥッッ!!

 

 

「かはッ!!」

 

 

「此れは…一輝君が苦しんだ分ッッ!!」

 

 

メキャァッッ!!

 

 

「げぼォッ!かは…っ…も…や、め…」

 

 

蔦で捕らえた溝鼠さんの髪を引き千切りながら掴み顔を上げさせます

無様な顔、こんなに弱い癖に私の…私とお兄様の大切なお友達を傷付けたなんて何て恥知らず、生きる価値も無い汚物そのもの…

 

 

「…立って下さい、後お兄様が一輝君達の為に苦しんだ分と私の分が残っています…未だ死なない程度に殴ってる分マシでしょう?

——巨神の末裔の膂力、あまり甘く見ない事です。」

 

 

ぁ…レアちゃんも怒ってますね〜

 

…ブチ切れってやつです、元々選抜戦には出ないつもりでしたが初戦が此の人だったので。

本気で殴らない分"人間の考えられる力"で殴ってる分マシですよね、お兄様?

 

 

「な、なんでもします…っ…だからもぉ…ッ!」

 

 

泣きながら謝るなんて…なら最初からしなければ良いのに、"人間"は愚かですね。

 

 

「——貴方は、そう言って来た人達に慈悲を与えたのですか?」

 

 

「ひいぃィッ!?」

 

 

私の分とお兄様の分は纏めて振り落とす事にしましょう…後で身を清めなければ…。

 

 

杖術、日本では唯一『剣を破る』武術として知られる武術…お兄様や私の様に巨神の末裔ならば耐えられるでしょうが生憎此の杖は折れもしなければ斬れもしません、唯一ステラさんクラスかそれ以上の魔力量で漸く焦げる程度…

 

 

「さぁ…逝きなさい…ッ!!」

 

 

 

杖を振り降ろさんとした時、私の耳に聞こえたのは…

 

 

(止めよッ!レアッッ!!)

 

 

「ッ!!」

 

 

後、数センチという所で聞こえた愛しい人(クロノス)の声

 

そして、試合終了の声と共に私の意識は薄れ誰かの温もりを感じながら視界は暗転しました。

 

 

 




次回はさくさく行きたいと思いますがそろそろ他作品にも着手しないと此奴誰?状態になりかねませんので別作品に着手するかと思います、矢張り作品のコンセプトである、全ての始まり(想厳)(悠騎)の物語にする以上は避けては通れませんでしたから(苦笑)


ですが別に読まなくとも問題なく先には進める様には書いてありますので暇があったら読んでやるかな?程度のスタンスで構ってくれれば幸いですm(_ _)m
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