落第騎士の英雄譚–力の求道者–   作:黒乃 柳

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前回の後書きにも書きましたが今回は一輝君強化フラグ回につき閲覧注意です、予め御了承下さいm(_ _)m


《悪魔》の実力

『…儂の血を継ぐなら強くなれ…でなければ…何も護れぬぞ?』

 

ッ…春姫…ッ…パパ…ママ…ッ…!

 

『——弱さは罪、所詮此の世は弱肉強食よ……強ければ生き、弱ければ死ぬ…そういう世界に生まれた以上弱い侭では何をされても文句は云えないと識れ。』

 

やめてッ!パパ達を殺さないで…ッ!

 

 

『……終いじゃ…』

 

ぴぴぴぴ、ぴぴぴぴっ

 

目覚ましを止めむくりと起きる、鏡には髪の長い男…つまり俺が写っていた

 

「………嗚呼…理解(わか)ってる…弱さは罪、俺が成し得たい願望の為には……圧倒的な力を…」

 

家族が…妹が死んでから彼奴と同じ位の長さにしか整えない髪に櫛を通し顔を洗い歯を磨きながら気持ちを整理する。

 

ステラ皇女と黒鉄の試合から2日経ち紆余曲折あったが二人の仲は良好と云っても良い程良くなっていた、最早部屋を賭けて一戦交える理由は無いのでは?と訊ねたのだが

 

『いや、折角だし御手合わせを願うよ、あのエーデルワイスを相手取れる程の実力…是非見てみたいからね。』

 

と、意外というか矢張りというべきか判断が難しい科白と共に闘志に満ちた眼差しを向ける彼に此方も安心して事に望めると身支度をする。

 

—————

———

 

「あら、ユウキ…如何かしたの?」

 

「……いや、黒鉄を呼びに来たが居ないのだろうか?」

 

インターホンを鳴らし暫くして出てきたのはステラ皇女であった、ちらりと彼女の背後を見遣るが如何やら部屋には居ないようだ

 

「イッキなら先に控え室に行くって言って出たけど…何か用事?」

 

「…そうか、否…あの後は大丈夫なのか気になっただけだ、コンディションに問題があったら愉しめる試合も愉しめないからな。」

 

黒鉄らしい行動に納得はするが身体のリミッターを強制的に解除するという荒技を行い平気なのか気になっただけと答える俺にステラ皇女は想う処があるらしく考え込む

 

 

「そっか…優しいのね、コートの時もそうだけどそういう気配りって相手の目線に立てないと出来ない事だもの。…でもイッキは今日の試合を楽しみにしていたから手加減なんてしないであげて、…って、貴方なら解ってる筈よね」

 

 

優しい、と言われ自分ではそういうつもりは全く無いが手加減をするつもりが無いのは事実である為小さく頷く

 

「……今日の試合、俺は奴が苦手であろう戦闘スタイルで相対する……奴が自分自身の弱点を克服しない限り傷一つ負わせる事は不可能だろうな。」

 

「苦手なスタイル…?」

 

怪訝そうな表情を浮かべるステラ皇女に一礼した後背中を向け「知りたければ見に来る事だ…ステラ皇女ならばそれで解る」と言い会場へと向かう、後ろで「ステラで良いわよ、堅苦しい傭兵さん」と聞こえた為手を振り了解の意を示す。

 

 

—————

———

 

観客席はステラと黒鉄が対戦していた時同様疎らながら生徒が観戦しようと椅子に座っていた、つくづく暇な奴等だと肩を竦めるが目の前で気合い充分な面構えを見せる黒鉄を見ていたらギャラリーの存在等馬鹿馬鹿しく感じ意識を集中させる。

 

「…今日の試合を楽しみにしていたよ」

 

「……そうか」

 

短い言葉の遣り取り…後は互いの武技が語るとばかりに其々の霊装を幻想形態にて取り出す

 

「来てくれ、《陰鉄》」

 

「拒絶せよ、決して征服されざる者(アダマス)

 

ステラとの試合で見た刀剣型の霊装に対するは2,5m迄柄を伸ばし三つの刃を持つ三叉戟として顕現させたアダマス、完全なる不定形と迄は行かないが長さや刃の形状は変えられるのは対戦した者で無ければ解らない厄介さがある

 

「let's go ahead!」

 

試合開始の合図と共に互いに得物を取り構える、と同時に俺は大気に流れる氣を取り込み"外側に漏らす事無く内側から魔力と共に練り上げる"

 

「ッ…これは…」

 

「…一刀修羅、己が持つ力の全てを1分間で絞り尽くす伐刀絶技、確かに生まれつき魔力が他人より劣っている御前"個人の力"ではそれ以外道は無いだろう…——だが、其れでは圧倒的強者には届かない。」

 

先日黒鉄が見せた様な魔力の奔流は無い、ただ腰を僅かに落とした構えと刀を青眼に構えた侭動かない俺達にブーイングが飛び交う

 

「……まして、魔力を外側に漏している様じゃ無駄遣いも良い所だ。さァ、何処からでも斬り込んでこい…ッ!」

 

—————

———

 

観客席で私は信じられないものを見ていた

 

「…何…あれ…!?」

 

イッキと直接戦った私だから解る、あの鬼の様に強いイッキが軽くあしらわれているのだ、彼の繰り出し剣の悉くをユウキは穂先や柄で巧みにいなしながら石突きで鳩尾や顎を的確に殴打している

 

「強いとは聞いていたけど…それにしたって…」

 

余りにも一方的だ、先程からイッキの身体からは《一刀修羅》の光が見える…其れにも拘らずユウキはイッキを圧倒しているのだ

 

「……とんだ狸だねェ、悠坊。」

 

「え…?」

 

何時の間に居たのか小柄な身体に下駄を履いた少女…基女性に振り向く

 

「ありャあ気功術でいう処の硬気…いや、仙術の類だ、空気とか草花とかの"自然に流れる氣"を取り込んで魔力を融合させてるねェ、然も其れで身体能力や危険感知能力を数十倍に上げている上に黒坊とは違って外側に漏らさず内側で静かだけど淀みなく高まり続けているから燃費が良い。其の上で敢えて能力に頼らず地力だけで防戦に徹している…そういう事かい」

 

何時でも猛攻を仕掛けられるくせに、と扇子で口元を覆う彼女に私は問わずにはいられなかった

 

「それは…ユウキがイッキを甘く見てるって事ですか?西京先生」

 

だとしたら此れ程許し難い事は無い、あの日…理事長先生からイッキの生い立ちを聞いた身としては

然し西京先生はいんや…と首を振り二人の闘いを観察する

 

「寧ろ武芸者として評価しているからこそだろうね、悠坊が本気で能力《時空間制御》を使えば私ですらまともに傷は負わせられない。多分公平じゃないとでも思ってるんじゃないかい?黒坊の遣り方では何れ壁にぶち当たる…だからこその戦い方だと思うがね」

 

—————

———

 

「が…ッ、っ!」

 

「……懐に入ったからといって安全圏という訳ではない、次の一撃…御前の全力で来なければ……——殺す。」

 

静かだがその内に潜む悪鬼羅刹も裸足で逃げ出す程の強大な力の前に黒鉄一輝は歯を食い縛る

 

(彼の言葉に嘘は無い…っ、これが…本気のエーデルワイスと戦えるだけの力か…ッ!)

 

もう何度受けただろうか、幻想形態とはいえ石突きで突かれ、蹴りを腹に打ち込まれれば身体に激痛が走る

長物共通の弱点である懐に入り込まれた時の脆さを感じさせない卓越した白兵戦闘力もだが此方の動きに対し反射神経等生温い…喩えるなら殺気や気配を感じ身体の各部が無意識レベルで反応し決定打が入れられないのである、黒鉄にとっては同年代処か年輩の遣い手にも仙術の類に到る者等現れる事もなかった為やり辛い事此の上ない。

 

 

「やっぱり…強いよ君は…ッ、——第七秘剣で…僕の最弱《最強》で君に挑むッ!!」

 

「来い……我が奥義の前に沈めてやろう!」

 

互いに距離を取り構えを取る、両者の間に芽生えた感情は"惜しい"…悠騎は目の前の気高い剣客との戦いを愉しみ一輝もまた、死力を尽くし尚届かない強者との戦いを愉しんでいたのだ。

 

——然し、愉しい時間も1分限りの刹那の時間、常人には眼にも映らぬ速度で疾走する黒鉄に対し悠騎は最初の構えをやや前傾姿勢に変えた構えで相対する…刹那、《陰鉄》が宙を舞った

 

「……散れ、《無間》の前に。——咆哮を上げる者(ルドラ)!!」

 

自身が放った巻き技に拠り舞った刀に見向きもせず追撃を仕掛ける、繰り出されるは殺意に満ちた津波が如き魔力の奔流、霊装を弾き飛ばされた黒鉄は此れを躱すべく後ろに飛び退くが一瞬で間合いを詰められ観念したのか満足したのか小さく笑う

 

(…これが…君の伐刀絶技という訳か……)

 

《無間》眼にも止まらぬ連続行動からその名を冠する伐刀絶技、ステラや一輝といった超一流の剣士が一つの行動を行うに対し悠騎は防御や攻撃といった複数の行動を行うというシンプルなものだがそれ故に強力だ、何十倍にも引き上げられた身体能力を以て初速から稲妻の如き速度で槍を突き出す事に拠り生じるけたたましい衝撃波が幾度も辺りに鳴り響く。音速を超えた超音速の凶刃は幾筋もの閃光と成り閃光の雨を身体に浴びた黒鉄は地に倒れ伏す、…此れが幻想形態でなければ彼は確実に死んでいた

尤も精神には大きなダメージを負った上に自爆技である一刀修羅を使ったのだ、結果的に見れば圧勝である。

 

——が、手の甲に痛みを感じ自然と口許が緩む。

 

 

「……御前は未だ強くなる、今後が愉しみだ。」

 

気絶した黒鉄に対し歩み寄ろうとしたがギャラリーは好き勝手な事をほざき始めた

 

 

「見ろよ、矢っ張りFランクがAランクに勝てる訳がないんだ」

 

「そうよね〜…一昨日の試合だって八百長だって噂だし」

 

「所詮落第騎士(ワーストワン)落第騎士(ワーストワン)だったって事か〜」

 

 

ずがァンッ!!

 

 

「「「!?!?」」」

 

 

「……がたがた吐かすな、恥知らず()共が。」

 

気付けば《アダマス》の石突きで地を砕き会場全体を大きく揺らしていた、地は砕け観客席にも被害が出ているが知った事では無いとばかりに肩には黒鉄を担ぎながら俺は言葉を続ける

 

「…ステラも黒鉄も互いに死力を尽くし闘った誇り高い剣士だ、それ以上の侮辱や彼等の矜持に傷を付ける事は俺が赦さん…死にたい奴から前に出ろ。」

 

静まり返った会場全体に響き渡る声、静かな…喩えるなら氷柱で心臓を串刺しにせんばかりの殺意を込めた言葉でギャラリーを黙らせる、ふとステラと眼が合ったが今は黒鉄を医務室に運ぶのが優先だ。

 

 

—————

———

 

医務室に運ぶ道すがらステラが後を追ってきた、良く見れば西京も一緒だ

 

「……ステラは兎も角、西京は何故此処に居る?」

 

「いやァ、臨時講師を頼まれたからそのついでに観戦しに来たんだけどさァ…私の時にはやらなかった技を堂々と見せつけてくれた御前さんに文句の一つでも言ってやろうかなー…なんてね?然し…前々から思ってたけど容赦無いねェ。」

 

僅かに笑う西京だがその視線は咎める様な拗ねている様ななんとも言えない代物だ、一方隣で佇むステラは黒鉄が心配らしく瞳が潤んでいる

 

「……今は軽口を聞くつもりは無い…、其に…俺が黒鉄の立場ならトドメを刺される迄は諦めないし寧ろ手を抜く様なら末代迄祟る…闘いに生きる者にとってそれは侮辱以外のなにものでもないからな。」

 

「ぷ…ッ…いやはや実に悠坊らしいねェ…こと戦いに於いて嘘が吐けないというか何というか…後でくーちャんの部屋においで、今後の話をしたいらしいからね」

 

「……了解した、黒鉄を医務室に運び次第向かうと伝えてくれ」

 

あいよ、と理事長室へと向かう西京と此の場に留まるステラ、何かを言いたそうにしているが構わず医務室へと再び歩み出すが彼女は反対側から黒鉄を担ぐ

 

—————

———

 

「…助かった、感謝する」

 

途中迷ったがステラの御蔭で何とか無事に医務室に辿り着き礼を述べる

 

「良いのよ……私も、その…ありがとう…」

 

八百長云々の事だろうと思い小さく頷いた後椅子から立ち上がる

 

「………自分では戦いもせぬ弱者の言い分に勝手にキレただけだ、…新宮寺が待っているからそろそろ行く、起きたら飯でも食いに行こうと伝えておいてくれ…出来れば肉が良いとも、な?」

 

「ふふ…解ったわ、その時は私も御相伴に預かろうかしら…♪」

 

愛らしく笑う仕草にふ…と笑みが零れるのを感じつつ部屋を後にする、手を振りながら見送る視線を感じるも後は若い2人に任せよう。

 

 

 

「…——行っちゃった、…起きてるんでしょイッキ?」

 

「………ステラには敵わないな、といっても悠騎君に担がれた後からは気を失ってたけどね…ッ…」

 

肉体のリミッターを強制的に排除し何十倍にも自身の力を高める荒技を使った反動に顔を顰める、だが不思議と負けても清々しい気分だ

 

「……彼は…周りが言う様に本当に《悪魔》なのかな…確かに彼に滅された組織は多いらしいけど……僕には彼の根底に根付く感情はとても暖かいものに感じるよ、——同時に深い哀しみと怒りも感じたけどね…」

 

初めてだった、同年代で…落第騎士(ワーストワン)と呼ばれている自分と同じ目線になって対峙してくれた人物は。

戦いを愉しいと感じたのもステラを除けば悠騎が初めてだ、…何より自分の為に怒ってくれたのも妹の珠雫を除いて彼が初めてだったのだ

 

故に識りたいと思った、彼が何故悪魔と呼ばれるのか…何故何時も笑う時は哀しそうなのか

如何して力に固執するのか…識りたいと感じた。

 

「…私には良く解らないわ、でも…今思えばユウキはイッキの事を最初から認めていた上で何かを伝えようとしていた気がする…如何してそうしようとしたかは解らないけど…。」

 

「そっか……友達に…なれるかな…」

 

戦っている最中に気付いてはいたが自分にも心当たりは無い為ぽつりと呟く、彼とはライバルとしても友人としても良い関係を築きたい…心からの呟きであった

 

「ふふ…大丈夫よ、向こうも御飯に誘ってたし…焦らずに今はゆっくり休んで…ね?」

 

イッキは私の御主人様何だから、とステラは微笑む

 

今は…此の微笑みを見詰めながら微睡んでも良いかと意識を手離す一輝は未だ識らない、己を打ち倒した槍使いの心の闇を。




次回は珠雫登場回になる予定です、割と好きなキャラクターではありますがヒロインは未だ未定です
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