嵐の前の静けさ
「……ッ…」
「今のは惜しかったな、半年前に比べたら随分マシにはなってきたがまだ術の構築が甘い…今日はこの辺りにしておくか。」
黒鉄との試合を終えてから今後の方針を話し合った後校内の敷地内である木々に覆われた場所で"報酬"である鍛錬に勤しんでいたが陽も傾いてきた為に今日の鍛錬の終了を言い渡される、然し納得のいかない俺は首を振る
「……後は俺一人でやる…もう少しでコツを掴めそうなんだ…!」
酷使し過ぎた魔力を用い再度二対の釵を顕現させる、新宮寺はといえば溜息を吐きながら腕を組み俺を黙って見詰めている
「………其処までして仇を討ちたいのか?それとも歴史を改変でもする気か?…そんな事をしても碌な事にはならんだろう…寧ろ、今以上に苦しむ可能性もあ「歴史の修正なら試した、…結果は…幾つもの並行世界を悪戯に作るだけだったがな」…やる事が早いな、なら何でだ?」
枝木の様に分岐する並行世界、その何れもが"家族の死"という最悪の未来を導き出しその度に心は摩耗していった、思う所があるのか咎める様な視線を真正面から見詰め返し答える
「…確かに仇打ちもある、だが其れだけではない。…此の世は弱肉強食、弱ければ虐げられるだけだ…そして、神はそんな者達を救おうとはしない。——ならば、誰かが此の世界の歪みを否定せねばならん。何一つ救わない神でも政治的な手法として他国や自国で戦争を行い、その皺寄せを力の無い女子供に押し付ける独裁者でもなく誰かが"全てのか弱き命が平等に平和を享受出来る世界を作らねばならない"…
「………私には神だの何だのは解らんが一つ云える事は御前が大馬鹿野郎だという事は理解した、まァ…依頼主と傭兵である前に教師と生徒として3年間教えられる事は教えてやるさ」
俺の目的を聞いた新宮市は肩を竦めるが紡がれる言葉には刺々しさは無くそのまま踵を返し校門への道へと向かう、…自分でも傲慢である事は自覚しているが仕方が無い…本当に人間に救いの手を差し伸べる神が居るのなら今頃春姫達は生きているし世界から虐めや差別は無い筈だから。
「………此の国は平和で良いな、ある国の貧民街には親を亡くした子供達がゴミ箱を漁っているだろう…或いは暴力に曝され強姦されても抵抗出来無い被害者も居るだろう。
動物に到っては理不尽に飼い殺され要らなくなれば捨てられる、植物を始めとする自然は泣く事も出来ず汚染され続けられている…世界は苦痛と嘆きに満ちている。——俺が憎むとしたらそんな存在を生み出す存在だけだ、心に何の強さも矜持も宿さぬ眼を向けるにも値しない弱者…痛みを感じようとしない歪んだ心そのものが嫌悪すべきものなんだよ…そんな世界に…
誰に聞かせるでもなく傭兵稼業の傍で見てきた世界が抱える"痛み"を呟く、宇宙の破壊神と謳われる主神シヴァ…その憑代として人並みの幸せを放棄した俺の人としての望みは誰にも理解出来無いだろう、少なくとも…同じだけの痛みを感じた者でなければ。
〈…盟約者よ…我が言葉に耳を傾けよ〉
「……誰だ…頭に直接…」
〈我はトリシューラ…何千、何万もの盟約者の手を渡りし者…若き盟約者よ、汝は力を欲するか?〉
…本来霊装とは生まれ持ったもの、其れを譲渡された時点で説明は受けたが本当に語り掛けて来るとは思わなかった
が、問いの答えに頷き俺は当たり前とばかりに肯定する
〈然れば盟約者よ…我が力の本質を識るが良い〉
「…?破壊という概念が御身の力では無いと…?」
〈…其れは我の《意志》に拠る力、歴代の盟約者は3つの内己が最も信ずる力を己が力として発現させていたが汝ならば残る2つ…見事引き出せるであろう。盟約者よ、我の本来の力を識り引き出すが佳い…然れば汝は更なる高みへと到るであろう。——若き盟約者よ、汝が真に我が主の憑代と成らん事を願う〉
伝えるべき事は伝えたのか無言になるトリシューラ、師の言葉が真実であった事に驚きつつも夕陽を眺める
(意志を持つ霊装、連綿と受け継がれてきた聖火が如き神槍…必ず使い熟してみせよう…!)
誓いを胸に《トリシューラ》を構え舞い散る桜に向け連続で突きを繰り出す、ミリ単位のズレもなく5枚の花弁を刺し貫き其れ等を薙ぎ払い、棒術の如く左右に回転させ軌道を読ませない役割を持たせつつ最後には遠心力を活かした振り降ろしに拠り地面を深々と抉る槍捌きは師の訓えもあるが皮肉な事に戦場で培われた技術に拠るものが大きい。
「……上があるというのか…
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(ある日私は気付いてしまった、私が大好きなあの人がずっと抱えていた痛みに。父も母もあの家の誰もが決してあの人を愛さない、其れ処か今以上に苦しめる事を厭わない。)
朝陽が窓から差し込む電車内、何処か物想いに耽る白雪が如き髪をした少女
彼女が胸に抱くは遠い日の兄、誰からも愛されぬ孤独を抱えた少年の背は忘れる事が出来ず知らず識らずの内に想いを馳せる。
(…それなら…私は…)
だが、彼女は未だ知らない…身内の誰もが愛そうとはしなかった兄には少なからず理解者…
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翌日、何となくではあるが輪郭が見えてきた隠された能力にある意味途方に暮れながらも黒鉄の誘いに応じ20キロのランニングに興じていた
10歳の頃、師に必要最低限の食料と水を渡されタール砂漠を5日以内に横断して戻ってくる様に苦行を毎月課された思い出に比べればマシだがステラの話を聞くに黒鉄とステラは3日間この20キロランニングを行っているらしい…黒鉄に対し人として好感を抱いたのはこういった眼に見えない努力を積み重ねてきた面が強いのであろう、恐らくは…だが。
「悠騎君には物足りないかな…全力疾走したわりにはあまり汗を掻いていない様だけど」
「…否、砂漠の熱さに慣れてしまってるだけだ、気にするな、寧ろ最近は仕事ばかりで碌に動いていなかったから丁度良い汗を流させて貰った、また誘ってくれ。…ステラも女性にしてはタフな方なのだな、剣技や魔力は兎も角走りきるとは思わなかった」
「僕は毎日20キロ走ってるけどステラはあまり無理をしなくても…って言ったんだけどね…」
暫く経ち姿を見せた黒鉄があまり汗を掻かず息も乱していない俺を案じてか声を掛ける黒鉄に対し気にするなと返す、師の扱きの御蔭で今では1時間で50kは走れるようにはなったが最近各生徒の情報を集めていた為良い汗を掻かせて貰ったと思いながら遅れて現れたステラへと視線を向け称賛する
「あ、当たり前よ…っ……平気よ…このくらい…!」
(初日は途中で倒れて昨日は吐いたけど…というかイッキもユウキも体力馬鹿なのよ!—は…っ、ま、まさか…これがジャパニーズシンピというやつなのかしら?)
飲料を口にする黒鉄とあの鍛錬法は良いだの此の道よりは道が整備されていない獣道の方が足腰が鍛えられるだのと雑談に花を咲かせている俺達に対しステラがこの様な事を考えているとは思わなかったが息を切らしているステラを気遣ってか黒鉄は自身の水筒を差し出す
「負けず嫌いなんだね、ステラは」
「…その…間接キス…」
「あ…ごめんね…僕の飲みかけなんて嫌だよね…」
「別に嫌じゃないわよ…寧ろ…」
…目の前で初々しい遣り取りを見せられ流石に苦笑する、ステラ…君は本当に皇女か?勝手な偏見かもしれんが姫とはもっと…何だ、恥じらいや慎みを持つものかと思ったが間接キスを嫌がらない辺り余程喉が渇いていたようだ。
それにしても…今日の黒鉄からは嬉々とした感情が見て取れる、まぁ…無理も無いか…何せ今日は、
「…今日は入学式だな、黒鉄にとっては漸く始まる年になる訳だが…」
「何だか嬉しそうよね、何かあるの?」
そう、黒鉄にとっては雌伏に耐え漸く掴んだ好機の一年が始まるのだ、其れは理解出来るのだがこの様子だと他にも何かある様だ。
「悠騎君の言う通り、今年は僕にもチャンスがあると思うとね……それに、4年位逢ってない妹が入学するから余計に…かな」
ふむ……確か黒鉄 珠雫だったか、Bランクながら魔法制御ではAランク相当の実力者らしい、個人の思想や人柄等は流石に把握しきれていないがめぼしい生徒の情報はある程度調べ上げている
「……その妹さん、実は血が繋がってなかったとか言わないわよね?」
「?いや、普通に血縁関係だけど…?」
「そ、なら良し」
……一体何が良いのだろうか?
ステラの何処かほっとした表情に理解出来ぬ何かを感じつつ俺達は其々の部屋へと戻り制服に着替える
此の後、色々と問題が降り掛かる事も知らずに。
次回は今回のサブタイトルから察して頂ければ幸いです、はっちゃけ回ですので(笑)