「新入生の皆さん、入学おめでと〜☆皆さんの担任
「…何だか面倒くさそうな先生ね」
目の下の隈が酷く見るからに不健康そうな弱担任、折木講師に抱いた感想、恐らくは皆ステラと似た様な事を抱いたであろう、彼女の実力や黒鉄が破軍学園に入学出来た理由を知る黒鉄や俺からしてみれば良き教師である事は疑いようは無いが。
「はは…まぁね、でも良い先生だよ?」
「能力自体も面倒くさそうだがな、無効化系の能力か痛みに耐え抜く強靭な精神力を持った者でなければ敵に回さない方が利巧だ」
黒鉄を中心に左側に座るステラへと注意を促す、あんな虚弱そうな出立ち…基、1日リットル単位で吐血する虚弱体質だが伐刀者としての実力は高い部類だろう、無論相性はあるが。
「皆、理事長先生が入学式で言っていた事は覚えてるよね?」
入学式…というとあれか、新宮寺が言っていた能力値に拠る選抜では無く実戦形式に基づいた学内選抜試合、詳細は折木講師が語ってくれるだろうとスクリーンに映し出された映像を観る
「という訳で学内戦は来週から開始だよー、試合日程や対戦相手は生徒手帳にメールが来るからこまめにチェックすべし。」
「先生」
質問があったらしくステラが挙手する、因みに俺は学校というものに通ったのは小学校低学年迄だが元大学講師だった師に読み書きや歴史、牽いては薬草学等も仕込まれていた為学力に関しては問題無い。
然しこういった電子機器は傭兵になってから扱い始めた所為か物珍しくて生徒手帳を開き観る
インドもIT大国ではあるが日本の技術力は良くも悪くも高いと思う。
「ノンノン、ユリちゃんって呼んでくれなきゃ返事してあげないぞ♪」
ふと視線を横に向けるとリボンが萎えている、きっとステラ自身の感情の機微がそうさせたのであろう、気を取り直すように「ゆ、ゆりちゃん…」と呼び直す様はある意味哀れだ。
そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか笑顔で「なぁに?ステラちゃん♪」と血の気の無い笑みを浮かべる折木講師…他の誰がユリちゃん呼びに矯正されようとも俺だけは折木講師と呼び続けよう、せめて講師を付けているだけマシと思って頂きたい。
「全部で何試合位するんですか?」
「んー、一人軽く十試合以上かな、三日に一度は必ず試合があると思ってくれて良いよ〜」
ふむ…それなら黒鉄にも公平に好機があるな、ぼやく声も聞こえる中横を見遣ると気合いに満ちた眼差しで前を向いている。
「やりたくない人は棄権してくれても構いません、棄権してもペナルティとかは特にないから安心して。——でもね、誰にでもチャンスがあるって先生素敵な事だと思うよ、だから是非頑張ってみて欲しいな」
此方…正確には黒鉄に一瞬視線を送る折木講師、思う処があるのは理解出来るがそろそろ御身を自愛すべきだろう、恐らく新入生への気遣いでテンションを上げているのだろうが前述した様に本来彼女は病弱だ、故に…この辺りが
「はーい、それじゃあ皆、此れから一年全力全開で頑張ろー!エイエイ…ブフォエェッ!」
「「「ユリちゃんッ!?」」」
…言わんこっちゃない、新宮寺を交えての初面談の時もそうだが少し引く位吐血したのは記憶に新しい。
周囲が慌てふためく中講師に駆け寄る黒鉄とステラ、血には慣れている俺だけが冷静だった為助力を請う。
「誰か、すまないが折木講師を保健室へ運んでやってくれ、出来れば女生徒も一人同行した方が良いな…着替えが必要な時に同性の方が講師も気兼ねなく助力を請えるだろう」
「其れなら僕が行くよ、ステラも来てくれるかい?」
「解ったわ、ユウキ、また後で落ち合いましょ?」
「…了解した、今日は授業は無いらしいから人間観察でもして待ってるさ、連絡は此の生徒手帳で取れば良いしな」
ははは…、と苦笑する二人に講師を任せ其の背中を見送る、クラスメイトも其れで良いらしく特に反論は無く教室を後にする者もちらほらと出始めた。
俺も血をモップで拭き終えた後教室を後にする、人間観察をするなら渡り廊下やカフェテリア等の大勢の人が出入りする場所の方が適切だからだ。
…後、流石に血生臭いモップをそのままにも出来ないから水洗いをする為でもある。
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「さて、何処で待つか「黒之君♪」…?」
教室を出て暫く歩き外の景色が見える渡り廊下で不意に背中に柔らかい感触が走る、振り返ると眼鏡を掛けた女生徒が笑みを浮かべ此方を見上げていた
「…誰だ?俺は其方の事は知らんが」
「むぅ…酷いですよぉ、一応クラスメイトなのに」
「そうだったか、悪い事をしたな。」
じゃ、と、その場を離れ様とする俺の裾を引っ張り「待って待って、取材させて取材!」と慌てて引き止めようとする眼鏡女子、仕方が無いので時間を割く事にする。
——此方に鋭い視線を送る一人の存在に注意を払い何時でも対応出来る様に廊下の壁に背を預け話しを聞く事にする、人目があった方が後々証人を集め易いからだ。
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「——つまり黒鉄先輩が当面のライバルって事?でも私とか昨日の試合を観ていた人は皆黒之君の圧勝だと思うんですけど?…まぁ、先輩はステラ皇女を倒してたし私もあれで先輩のファンになったんですけどね〜」
眼鏡…基、
「…俺は昨日の戦い、"武芸者"としては本気だった、その攻撃を奴は殴られる方向に飛び退き、時に敢えて利腕以外で受ける事で被害を最小限に留めていた。
そういう点では武芸者としてなら此の学園でもトップクラスだろう…——仮に《悪魔》としての俺と対面した場合如何なるかは解らんがな。」
戦場で1日に何十、何百という数を相手にしていた俺は一対多数の闘いに於いて一撃で相手を戦闘不能ないし殺める事を心掛けている、幻想形態とはいえ其の一撃を緩和する技量を過小評価するつもりは毛程にも無いと告げるが仮に"戦争"で出くわしたら如何なるか解らないとも述べる。
「?…取り敢えず、リスペクトしてるって事?」
「…そうだ、奴は「たかだかFランク相手に何熱く語ってんだァ?」…やれやれ、無粋な事だ」
ひぃ、ふぅ、みぃ…全部で十数人って処か、視線の主では無いが此れは此れで後で新宮寺に叱られるな。
「死にたい奴は前に出ろ…と言ったが初日から大繁盛だな」
え?え?何、スクープ!?と眼を輝かせ辺りを見渡す日下部を横目に冗談交じりに肩を竦めるが諸先輩方は熱り立っているのか其々の霊装を取り出す、割と本気で来ている様だ
「Fランク如きに勝っただけで得意げにしてる生意気なAランク様に世の中の理を教えてやろうって訳さ、ついでに校内戦に出れないように潰しといてやんよッ!てめェも撮ってんじゃねぇよッ!!」
「あぁ!私のカメラ返しなさいよっ!」
パシャパシャとシャッターを切る日下部、其れを拒むべくカメラを取り上げレンズを殴って壊すモヒカン頭の上級生…今時こんな前衛的な髪型の奴が居るのだな、と感心するが同時に嫌悪感を抱いた為一つのアクションを起こす。
「——ほら、壊れているがちゃんと持っておけ」
直後、"周囲の氣と同化し一瞬だけ透過した後"モヒカンからカメラを奪い取り日下部へと差し出す。
「な…ッ!?」
「見えなかった…今何したの?」
忍者か?!と驚愕の声を上げる周囲を無視し満面の笑みを浮かべる、このカメラは彼女の"矜持の一部"らしい…つまり…此奴等は数少ない俺の逆鱗に触れたのだ
「——先輩方、一手御教授願おう。対価は…そうだな、"本物の暴力を教えてやる"事で手を打って貰おうか。」
微笑みを浮かべモップを槍代わりに構える俺に後退り膝を震わせる、理性ではなく本能が"霊装を抜かれたら間違い無く殺される"と理解(わかっ)てしまったのだろう
「ッ!や、やっちまぇェーッ!!」
さて、御勉強の時間だ。
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「ちょっと遅れちゃったね、電話にも出ないし怒ってるかな…」
「多分大丈夫よ、もしかしたら理事長先生と話してて其れで出れないのかもしれないし」
折木先生を医療室へと運び少し話した後僕はステラを連れ立って悠騎君を探していた
彼は普段は僕と一つしか年齢が違わないにも関わらずずっと大人びているが其れ故に心配だ、…自分にしろ他人にしろ矜持を傷付ける事を赦さないから
「せんぱーい!」
ふにゅん…っ
「な…っ、ななな、何やってるのよイッキ!」
「し、知らないよっ!誰君!?」
突如腕に抱き着かれ動揺が走る、勿論僕自身に身に覚えが無いしこんな娘知らない
「同じクラスの日下部加々見です!先輩のファンで本当は今直ぐにでも取材したい処ですけど今は悠騎君を止めて下さいッ」
「っ…悠騎君が如何したの?何かあったの?」
「と、取り敢えず来て下さーいッ!」
ぐぃぐぃと引っ張られながら前へ進むと人集りが出来ていた、其れを掻き分け最前列迄出ると刀剣型の霊装から繰り出される唐竹を左脚を軸に半回転するという動きで紙一重で躱しその勢いで回し蹴りを繰り出し刀の腹を蹴り壊す悠騎君が見えた
「…弱いな…信念も矜持もない
折れた
「…撃ってみろ、或いは擦りはするかもしれんぞ?」
「…ッ、馬鹿にしやがって!!」
ぱンッ!ぱぱンッ!
渇いた音に続き其れにつられる様な発砲音、何時の間にか増えていた外野が眼を逸らすが僕とステラは逸らさず観ていた
「——軽く人間辞めてない?あの動き…」
「あはは…、でも参考になるよ。モップの柄の先端で弾丸の軌道をずらす辺り…」
ステラの何気ない発言に苦笑しつつフォローを入れる、僕自身遣ろうと思えば消しゴムを指弾で飛ばして引鉄に挟めるが悠騎君は敢えてモップの柄の先端で先に発砲された弾丸を受け流し軌道を変え、他の弾丸にぶつけ自分を中心に囲む3人の頬に擦り傷を負わせるという曲芸めいた事をやって退けたのだから
「…失禁とは情けない…とでも言っておこう。
——さて、先輩方、俺は身体も其れなりに暖まってきたがそろそろ昨日の宣言通り…死ぬか?」
彼の周りには折れた刀や斧、戦意喪失しへたり込んだ上級生が居るが皆目立った外傷は無い、強いて言えば頬に擦り傷を負った3人程度だが恐らくあれでも手加減している
皆頭を地面に擦り付け「すンませんでした兄さんッ!!」等と見事な土下座を衆目の前に晒す、…圧倒的な迄の死そのものには恥も外聞も無いのだろう
「…これに懲りたら他者の矜持を傷付けぬ事だ、誇りなき生に意味が無い様に誰にも誰かの矜持を穢す権利は無い……解ったら往ね。」
「「「はいッ!失礼しましたァッ!!」」」
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「…済まないな、待つつもりが待たせてしまった」
「良いよ、待ったと言っても途中からしか見てないしね?」
「そうよ、それにしても追い返すだけなら他に手はなかったの?ユウキなら他に手を考えそうだけど」
外野を押し退け漸く黒鉄達と合流出来た、心配そうに述べるが俺は首を振る、確かに追い払うだけなら殺気をぶつければ良いだけではあるが彼処迄したのには理由があると言葉を続ける
「否、あの手の集団は一度徹底的に恐怖を植え付けないと同じ事を繰り返す……其れに、日下部の矜持を傷付け黒鉄を侮辱した時点で俺にとっては交渉の余地は無い」
「…そう…まぁ、私も同じ立場ならそうしただろうし後で理事長先生に責められたらフォローするわ」
力強い後ろ盾だ、と口許を弛めるが日下部は惚けた様に此方を見ている…如何かしたのだろうか?
「さっきの黒之君、まるで正義の味方みたいです!此れは『驚異の伏兵!噂の超新星を一蹴!!』と『驚愕!帰国子女の超絶的実力!!』のツートップで決まりですね!」
…超が好きな娘の様だ、二人は苦笑しているが俺としては何方でも良いが一つだけ言っておかねばならない。
「…日下部、俺は自分で正義の味方を名乗るつもりも成る気も無い。」
「えー!何で?騒がれるのが嫌とかじゃないですよね?」
ぶーぶーと抗議する日下部と何処か納得しているが不満気な黒鉄、ステラは不思議そうに小首を傾げている
「…正義の味方なんてものは大勢のヒトの都合の良い幻想だ、主観が違う分正義は無数に存在する…時に踏み躙られる者も居るかもしれない、そう考えると絶対的正義は存在しないからだ。…国もまた然り。」
「ぁ…」
ステラは此処まで聞いて漸く納得したようである
日本国外、主にアメリカやロシアになるが日本を中国や韓国と同じ『アジア人』と一括りにする様に我々日本人の大多数もイギリスを含めたヨーロッパ諸国を一括りにする傾向がある…特にイギリスはインドを植民地にした過去もある為インド出身である俺がヴァーミリオン国を恨んでいると勘違いしたのだろう
「……国絡みの事なら気にするな、イギリスとヴァーミリオン国は違う。
——兎に角、絶対的な正義の味方が居るとすれば其れは今にも空腹で死にそうな者達に食料を分け与えられる者だ…我が身を削り、敵であったとしても笑顔で危険を侵して迄他者の腹を満たせられる者こそが偽りなき真の正義の味方だろうよ。…だから俺は俺の価値観で動いただけに過ぎない、あまり良い風には書かずありのままを書いてくれるだけで良い…唖然、校内でモップ片手に大暴れした無法者、等が妥当か。」
3人とも沈痛な面持ちで聞いていた為最後は冗談交じりに語る、だが伝えたい事は伝えた
真の意味で正義の味方になるなら武力と同時に"慈愛"が必要である、武器を捨て、弱き者に手を差し伸べる事もまた"強さ"である。
少なくとも、師にそう教わり12歳迄救われていた俺は今でも其れが真の強さだと信じてはいるが…その師すら父母と同じく殺したあの男を赦せない時点で正義の味方を名乗るつもりはない。此の身は俗世に染まりサドゥとしての資格は無くなれど…俺は大切な家族を殺めた彼奴を殺せるなら悪魔で一向に構わない。
「あは、あはは…無法者なんて的を得ていて逆に笑えないですよぅ?(んん…何だか難しい話に…)」
力なく笑う日下部を片手で制し黒鉄が問い掛ける
「…悠騎君、それが…君の"哀しみ"なのかい…?…黒乃先生から聞いたけど君は働いた分のお金を孤児院や愛護団体に寄付してる…其れは君が言う"強さ"じゃないのかな?」
…全く、お喋りな
「…所詮は汚い金だ、それに年収に直すと割と儲るからな、日本円にして1000万以上稼ぐ時もあった、余分な金を処理しただけの事。
——其れに戦場で大なり小なり犠牲を出してる時点で親を亡くした子や妻からしたら唯の偽善であり哀しみ等抱ける筈もなかろう。さ、此の話は此処までだ。日下部は黒鉄に取材があるのだろう?カメラを寄越せ、直してやる。」
「え…はい、どうぞ…(汚いお金?…何だかスクープの匂いがぷんぷんしますねぇ…)」
片手でカメラを受け取り《アダマス》をもう片方の手で取り出す、ついで術式を構築するが不思議そうにステラが問うのですかさず答える
「昨日最後に見せたのが能力じゃないの?音速超えたってい「あれは能力じゃない、硬氣と呼ばれる気功術と体術の一環だ、さっき一瞬だけモップの強度を増したのも其れ。発勁は恐らく黒鉄も使えるぞ」…底が見えないわ、貴方達」
折木講師とは逆の意味でげんなりするステラだが構わず術式を展開、途端カメラの"時間"を逆戻しにして壊れる前へと戻す
「うわっ、ちょ…新品同様!?やったーお小遣い浮いたー!」
「此れがユウキの…」
「……悠騎君…」
「…俺の能力は『時空間制御』テレポートや空間圧縮は『空間』に属するが俺は新宮寺同様『時間』も操れる。
他にも隠し球は幾つかあるがな。まぁ停止させたり速めたり…逆に戻したりも可能だ、昨日は黒鉄と小細工なしの真剣勝負がしたかったから見せる暇は無かったがな。」
カメラを高々と掲げ片足で回転してる日下部を他所に自身の能力を明かす、別に知られた処で問題無いと判断したのもあるが……何より、俺の話を聞いて苦しそうにしている黒鉄には知っていて貰いたいと思ったからだ。
更に言うなら…モヒカン達と戯れる少し前から視線を送る存在を招き入れる為でもある
「…ふふ、凄い能力ですね…流石は次席です」
「——さっきからずっと無視して済まなかったな、誰に用事かは知らんが少なくとも最初の殺意と敵意は感じない…歓迎しよう」
物陰から現れた小柄な少女に視線を向ける、「いえ、お兄様の御友人に粗相をして申し訳ありません」と頭を下げるが何処か危ういものを感じさせ幽鬼の如く黒鉄に歩み寄る彼女を見詰め腕を組む
「ん…?」
「珠雫…?」
「お兄様…ずっと御逢いしたかった…ん…っ…」
その時、俺は能力を使ってはいないが確かに周囲の刻は固まっていた。
「「うぇぇーッ!?」」
刻は再び動く、閑散としていた廊下に響き渡る無数の絶叫、兄妹でキスをするのは不自然なのか…と割と頻繁に妹と口付けを交わしていた幼少期の記憶を掘り起こしながらねっとりと舌が絡む様な口付けを観察するのであった
次回は遂にあの方の登場です、悠騎君と顔合わせがあるかは未定ですが(笑)