灰と幻想のグリムガル~死霊術師の物語~   作:arc00

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30話

「んっ」

 

急な意識の覚醒。まるで誰かに無理やり起こされたような感覚。意識があるのだけれど体が瞼が起きるのを拒否している。

 

「何~?」

 

私は瞼を開ける。

 

「・・・えっ?」

 

目に入ってきたのは私の部屋ではなくどこかで見たことのある木の天井。これって夢に出てきた・・・

 

「えっ?ちょっと・・・」

 

体が勝手に動く。起き上がりその場に立つ。動く視界には夢で見た壁に等間隔で置かれた松明。前と違うのは床に何か魔方陣がかかれているくらい。

 

「これってホントに夢?」

 

私は自分の部屋のベットで就寝して目が覚めたら別の場所・・・普通なら夢だ。夢のはずだ

 

ガチャ

 

扉が開く音。誰かが入ってきた。足音が近づいてきて誰かが視界に入る。

 

「やっぱりオーク・・・」

 

髪を白く染め、顔には刺青、牙の模様はワンポイント程度、恐らくだが上位オーク。そいつは私の前で立つと恭しく礼をして壁際に。その後も上位オークが入ってくるが、皆視界に入った時に礼拝して壁際に並んでいく。そして最後に入ってきたオーク。顔にはあまり派手ではないイレズミ、牙には何かの紋様が彫ってあり、動物の骨で作った首飾りをしているオーク。あの時最後に出会ったオークだ。

 

「あなたが私を呼んだの?」

 

オークに問いかける。しかし無視。何度も問いかけるが無視。どうやら声を出しているのだけれど私の体が声を出していないみたいだ。

そのオークは私の前に立ち恭しく礼をすると懐から何かを取りだし私の顔全体に塗る。塗り終わると魔方陣の外に出て

 

「'#9'2269?…・2!#9'~#@-"))」

 

何かを唱え始めた。その瞬間頭痛と顔全体が熱くなる。身をよじろうとしても体が言うことを聞かない。それが終わるまで私は耐え耐えた。何かを唱え終わったオークは再び礼をするとか私の意識は急速に落ちてゆく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トントン

 

「・・・んっ」

 

誰かが扉をノックする音で私の意識は覚醒した。

 

「・・・うわっすごい寝汗」

 

服だけではなくベットにまでぐっしょりと汗の跡・・・多分じゃなくて確実にあの夢が原因だろう

 

「いったいなんだろう・・・」

 

「マナトだけど起きてる?」トントン

 

えっ?マナト?今日は昼からレッドムーン事務所で依頼の確認をするんだった。私は慌ててベットから降りドアを開けて・・・

危ない!今寝汗で全身ずぶ濡れだった。着替えないと

 

「あ、大丈夫。まだ朝だよ。今日の事なんだけど別の日にできないかなって」

「えっどうして?」

「実は俺やユートの連絡ミスでシュウやハルヒロが出かける準備をしちゃってて、悪いのだけれど約束をずらして欲しいなって」

 

服を脱ぐ手を止める。ああ、そういゆう事ですか

 

「ごめんね。この埋め合わせはするよ」

「分かりました。戻ってきたら連絡ください」

「うん。風邪引かないように気をつけてね」

 

あ、寝汗かいちゃったって言ってたっけ・・・恥ずかしい。でも予定が空いちゃったな。メリイにも連絡しないと

着替えを済ませ布団を干す。今日は天気もいいし乾くよね。私は外に出てメリイが住む借宿に向かう。メリイの借宿は1階部分がカフェテラスになっており、メリイはそこで本を読んでいた。私が近づくとメリイは顔をあげる

 

「どうしたの?今日はずいぶんと早起きじゃない」

「ちょっとね。何読んでるの?」

「恋愛小説」

 

メリイは本に栞を挟むと私に渡してきた。表紙には貸し本屋の判子。中身を流し見ると同姓同士の恋愛物

 

「メリイこういうの読むんだ」

「結構人気だったから気になって」

「面白い?」

「読んでからのお楽しみ。何か用事だったんだじゃないの?」

 

私は本を返し、今日の予定はなくなった事を伝えた。

 

「どうしよっか?」

「メリイは何か用事ある?」

「特にない。シオリも特に用事がないし、しばらくここでゆっくりしたら?」

 

う~ん。メリイの言う通り予定はないし、ゆっくりしようかな?メリイを見ると何だか怪訝な顔をしている

 

「メリイ?どうしたの?」

「シオリ・・・あなた今どう「なあ?」」

 

声をかけられ振り向くとブレストアーマーを着た女性が立っていた。

 

「私は荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉のユウコ。あんたはオリオンのシオリでいいんだよな?」

「オリオン?」

「ん?そっちは神官のメリイ?だよな」

「ええ」

「あっれ~メリイってやつといつも一緒にいるのがシオリって聞いてたんだけどなぁ」

「オリオンってのはわからないですけど私はシオリです」

 

ユウコと名乗った女性は笑顔になり

 

「やっぱりそうだよな!シオリ、うちのリーダーが話をしたがっているんだ。ちょっと付き合ってくれよ」

 

荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉って確か女性だけのクランだったよね

 

「ああそうさ」

「あ、ごめんなさい」

 

何だろう。今日は思った事を口に出しちゃうなぁ

 

「で、どうなんだい?」

 

私はメリイを見る。メリイは頷く

 

「いいですよ」

「よし!じゃあついてきてくれ。あ、今からマライカ、知ってるだろ?に行くから昼の心配はしなくていいぜ」

 

ユウコはテーブルから勢いよく立ち上がるとさっさと出ていく。ああ、支払いがまだなのに。

 

「ああ、すまない。せっかちでさ」

 

ユウコは大きく笑い。私達を待つ

 

「シオリ、ちょっといい?」

「どうしたの?」

 

メリイは私の腕を掴むと店舗の隅の方に移動する

 

「あなたやっぱりおかしいわ」

「えっ?」

「喋ってもいないのにあなたの声が聞こえる」

「えっ、どういうこと?」

「その・・・何か考えていることが直接聞こえるような?」

 

考えていることが聞こえる?そんなことありえない・・・

 

「それ。今考えていることが聞こえる?そんなことありえないって聞こえた」

「・・・嘘」

「お~い。まだか?」

「あ、ごめんなさい。私の部屋に荷物を取りに戻るからもうちょっと待ってて」

「おう」

 

メリイは腕を取って2階に上がり、私を部屋に連れ込む

 

「とにかく。聞いてる感じ相手に聞くような考えは相手に伝わってると思って」

「ええっ?」

 

相手に聞くようなかぁ。そんなこと言われても・・・いったいどうやって?

 

「私もわからないのだけれど、聞こえたり聞こえなくなったりしているから何か条件があるのよ」

「条件?」

「うん。聞こえる内容が相手に伝えたり、聞いたりする内容だからそれを考えないようにすれば多分大丈夫」

 

いきなりそんな事言われても・・・。メリイは「行くわよ」と言って私を連れていく。

カフェテラスの出口で待っていたユウコと合流し、マライカに向かう。

北門の大通りの1つ花園通りの近くに、マライカと呼ばれている料理屋がある。看板が出ているわけではなく、店長の名前がマライカさんだからそう呼ばれている。マライカを利用する客はほぼ100パーセント女性だ。別に男性お断りじゃないのだけれど女性だらけだから男性は入りづらいのだろう。だから女性も足を踏み入れやすく、居心地がいい。こういう店は他にもあるのだが、値段も味もお手頃で美味しいので女性だけでの食事はマライカが第1候補になる。

無論、人気店なのでいつも混んでいる。私は人が多いのと外で待っている人に急かされている気分になるのが嫌で利用したことがない。

私達が入った時間はお昼前のかなり早い時間だったので空きテーブルがちらほらあった。

マライカの内装を見ながら2階に上がる階段を昇っていき、義勇兵らしき人達が集まっている場所に移動した。

 

「カジコ姐さん!連れてきたよ!」

 

カジコと呼ばれた長身の女性がこちらを向く。メリイと同じくらいの美人だ。いや、メリイは綺麗な美人、カジコは格好いい美人。ちゃんと住み分けはできている。

 

「ははっ、ありがとよ。しかし喋らずに声が聞こえてくるなんてネクロマンサーのアビリティか?」

 

メリイが「もう」と言ってお尻を叩く。あ、いけないいけない。

席に座るように促されメリイと座る。ユウコはカジコの後ろのテーブルの席に座る。

 

「荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉の頭をやっているカジコだ。えっと、そっちがシオリでそっちがメリイ。あってるよね?」

「はい。ユウコさんから話があるって聞きました」

「ああ、話ってのは今いるクランオリオンから私達のクラン荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉にくら替えしてもらおうと思ってな」

「あの・・・私達別にオリオンに入ってません」

 

カジコは周りの人に声をかける。声をかけられた内の1人が席を立ち紙を持ってくる。それをカジコは受け取って内容を見ながら

 

「オリオンの奴らと依頼を受けたり、オリオンの義勇兵見習いと行動したりしてるけど入っていないと言うのかい?」

「オリオンの義勇兵見習い・・・もしかしてマナト達のことですか?」

「ああ、確かそんな名前のやつだったな」

「マナト達はオリオンに入っていないし、オリオンの人達と依頼を受けたのはたまたまです」

 

カジコは受け取った紙を丸めながら「そうなのか?」と聞いてきたので「そうです」と答えた。

 

「なら問題はないな。どうだ?入らないか?オリオンに負けない位有名なクランだと思っている。入って損はないぞ」

 

クランにスカウトされるのは嬉しい・・・でも荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉は・・・

 

「もし入った場合、今私のパーティーにいる男性は?」

「抜けてもらう。代わりのメンバーか?必要ならこちらで用意する」

 

やっぱり・・・荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉は女性だけしか所属していないクラン。もし入ったらヒロトを追い出さないといけない。

 

「すいませんがお断りさせていただきます」

「どうして?」

 

カジコの横に座っていた女性が口を挟む。

 

「私達の所には男なんていないのよ。あんなやつら、どんなに取り繕っても一皮剥けば私達女性を性欲の捌け口にしか見てないのよ。メリイ、あなたもそういうのが嫌でその子と一緒になったのでしょ?」

「ちょっ!それどういうことよ!」

 

メリイが顔を赤くして立ち上がる。メリイと一緒?どういうこと?

 

「キクノ。その話は噂だ」

「あ、ごめん、カジコ。つい・・・」

「あの、噂って?」

「シオリ!」

「カジコさん知りたいです」

 

カジコは天井を見上げ「あ~」と唸ってからこちらを向く

 

「メリイ。ちょっと気分が悪くなるかもだがすまない。シオリ、ちょっと前のメリイのこと知ってるだろ?パーティーを抜けたり入ったり。理由を知ってるやつは何も言って来なかったが、心ないやつや、知らないやつはメリイの事について色々悪口を言ってたんだ。その中に性悪メリイって渾名があった」

 

私はメリイの手を握る。大丈夫

 

「性悪。パーティーを男と例えて取っ替え引っ替え。まぁ男遊びだ。ところがシオリ、あんたのパーティーに入ったメリイはすぐに抜けずにずっといる。それにそんな風に中が良すぎる。噂好きには2人はできてる風にしか見えん訳だ。性悪メリイはシオリの女に。シオリはノーマルをあっちにする魔性の女だって」

 

ちょっとそんな噂が・・・私は一応ノーマルよ。顔が赤くなってる気がする。メリイの方を見ると赤い・・・あの感じメリイはその噂知ってた?

 

「まぁ、単なる与太話で信じてるやつは・・・ってホントかい?」

「「違います!」」

 

私とメリイは否定する。カジコは笑いながら

 

「まぁ、信じてるやつもいねぇから気にするな。因みに男厳禁なのはあくまでもクラン内だけだ。プライベートで付き合う分は一向に構わないよ。で、どうだい?」

「ヒロト・・・私のパーティーの男性は一緒に頑張ってきた大切な仲間です。そんな仲間と別れることなんてできません。この話は断らせてください」

 

カジコは頭をかきながら「・・・振られちゃったか~」と言った。

 

「まぁいい。いつでも待ってるから気が変わったら言ってくれ。それと・・・」

 

カジコはテーブルの下から紙を取りだし私達に手渡す

 

「これはバイトの勧誘だ。どうだい?2人とも私達の店で働かないか?」

 

紙を見るとキャバクラのキャバ嬢募集のチラシだった。

 

「「やりません」」

「ちょっと待ってくれ!これはいかがわしくないキャバクラなんだ」

 

話を聞くとここオルタナには荒野天使隊〈ワイルドエンジェル〉が経営するキャバクラがあるらしい。そのキャバクラはただ、純粋に接待するのみでいかがわしいことは一切なし。もし手を出したら相当の報いを受けさせる。そんなことで儲かるのかと言うとかなり繁盛している。他の店のキャバ嬢よりも高レベルのキャバ嬢が在籍しているし、全員が義勇兵なのでスタイル維持も完璧だ。それに怪我とかで義勇兵を続けられなくなった女性の働き口でもあったりする。

 

「気が向いたらでいいから」

 

私達に無理矢理チラシを持たせる。興味全然ないんですけど・・・

取り合えずお昼になったのでマライカで食事を取った。話で聞いていた通り安くて美味しい。これは評判になるのは当然だ。食事中、食事後にクランの人達と色々と話をした。どうも勧誘は諦めて私達とのパイプ作りをしようとしている気がする。

そんなに頑張ってもバイトはしませんよ・・・・・・しませんよ?

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