早朝、私はレッドムーン事務所のカウンターの前で所長から受け取った依頼書を読んでいた。
「これを私達にですか?」
「そうよ」
依頼の内容は旧ナナンカ王国とオルタナの間にあるナナンカ防衛要塞線への警護。
オーク達が支配する旧ナナンカ王国領、その周辺にはいくつもの砦があり、オルタナに近い砦がデットヘッド監視砦とリバーサイド鉄骨要塞。デットヘッド監視砦は攻めたり守ったりする砦ではないのである程度無視はできるが、リバーサイド鉄骨要塞はかなり危険な砦でナナンカ防衛要塞線もこのために作られた。
「でもナナンカ防衛要塞線って辺境軍が常駐してたんじゃなかったでしたっけ?」
「そうよ。けどここしばらく両砦が活発に動いている。辺境軍は守ることはできてもこっちから攻撃する余裕はない。そこで私達義勇兵の出番よ。依頼主は辺境軍、内容はナナンカ防衛要塞線近くを徘徊するオークへの攻撃と調査。調査に関しては別のパーティーに回すつもりだからあんたのパーティーには攻撃側に回って欲しいの」
報酬は前金10シルバー、後金20シルバー、戦利品は全てこちらの物。ただ期間がない。
「あの・・・滞在期間は?」
「調査が完了するまで」
「長くて一週間位ですかね?」
「多分それぐらいかしら?寝床や食事は向こうが準備するらしいから体だけでいいわ」
報酬は安いけど必要な物は準備してくれるのかぁ・・・。辺境軍は義勇兵のこと見下してそうだし信用できそうにないなぁ。
「ああ、辺境軍と義勇兵の溝はないわよ。だって同じ人間族を守るってことで共通しているんだから」
「う~ん。メンバーと相談でいいですか?」
「いいけどあたしとしては受けて欲しいわ」
「私達にまで声をかけるってことは結構大規模な作戦なんですか?」
所長はため息を吐き首を振る。
「ソウマがクランを作っちゃって使えるやつがごっそりと持って行かれたのよ」
そう言えばソウマがシェリーの酒場でクランのメンバーを大々的に募集したんだっけ?それで元々他のクランに入ってた人もソウマのクランに鞍替えしちゃったとか。真面目な人が多いオリオンや女性だけの荒野天使隊〈ワイルドエンジョル〉のようなクランはそこまで問題になっていないようだけど
「多分抜けた穴を埋めるために勧誘が激しくなるからあなたも気を付けなさいよ」
「でも、ソウマさんならこういう依頼喜んで受けて貰えるんじゃないんですか?」
「なんかワンダーホールの方で活動していてこっちには戻っていないの」
ワンダーホールはデットヘッド監視砦を越えたところにある風早荒野をさらに進むとある巨大な地下洞窟だ。中は複雑で凶悪なモンスターが徘徊している。一説では異世界に繋がっていると言われている。
普通に行くとデットヘッド監視砦とかち合ってしまうため、通常大きく迂回して進む。
「戻るときにデットヘッド監視砦に攻撃してくれたらいいのに」
「いくらソウマ達でも無理よ。あたしとしては同じ北西のサイリン鉱山に攻めて欲しいわ。希少な素材より安価で大量な素材よ」
メリイがハヤシさん達とまだ一緒にいた頃はサイリン鉱山への道のりが開拓されたばかりの時だった。当時は競うように行われた内部の探査とその結果によって持ち帰られる素材でオルタナは大きく発展できたが、デットスポットの存在やそこまで素材が高く売れないという理由で今ではほとんど内部を探査するパーティーはいない。
「あれさえどうにかできたら行ってくれそうなパーティーはいるのに」
所長は掲示板に貼られている手配書に目をやる。そこにはずっと貼られていたのか黄ばんでしまっている手配書がある。デットスポット討伐30ゴールド。かなりの高額だ。やっぱりそれほどまでに強くで危険なのか・・・
「あなた達がやってくれる?」
「無理ですよ」
「ま、無理よね」
所長と別れレッドムーン事務所から出る。サイリン鉱山か・・・
翌日の夜、パーティーメンバー全員でシェリーの酒場へ、ソウマの一件があって以来、常連客のほとんどがクランに参加してしまっているので見ない顔が多い。
「ヒロトとアオイちゃん訓練お疲れ様」
「お疲れ二人共」
「お疲れ様」
「「ありがとうございます」」
ジョッキをぶつけ合う。この休みの間2人はギルドにスキルを学びに行ったり装備を購入したりていた。
ヒロトは先見〈フォーサイト〉、盾突〈バッシュ〉の2つのスキルと剣と盾を購入した。アオイちゃんは護法〈プロテクション〉、戒光〈ブレイム〉の2つのスキル。
ブレイムは相手を拘束する光魔法だ。回復しかできないアオイちゃんが前衛へのせめてへの援護として覚えた。プロテクションは私達の警護を担当してもらっているメリイの負担軽減のため、アオイちゃんもパーティーに貢献できると言って喜んでいた。
「ギルドから戻ってきたばかりなんだけど私達宛に依頼がきているの」
料理も飲み物もある程度進み、私はレッドムーン事務所で受け取った依頼書を出して内容の説明をした。
「ゴブリンじゃなくてオークですか・・・かなり強いのですよね?」
ヒロトが私達3人の方を向いて質問する。アディが答える
「ああ、ただ他の義勇兵が一緒にいるから連戦になることはほぼないね」
「現在保留中でみんなはどうかなって。多数決でいきたいけどいい?」
みんなを見渡す。反対意見はない
「じゃ、賛成の人」
アオイちゃんを除く4人が手をあげる
「賛成多数決で参加で、アオイちゃんそれでいい?」
「・・・はい」
「アオイ大丈夫だよ。もしもの時はヒロトが守ってくれるよ」
アディさんがビールを飲みながら言った。アオイちゃんはヒロトを見るとヒロトはアオイちゃんの顔を見ながら「大丈夫」と言った。
「そうよ。私と護身法の練習したじゃない」
「・・・あ」
「へぇ。なら逆にヒロトを守ってあげなさいよ」
「そんな・・・私全然で・・・」
やっぱり何もできないのが気になって?メリイの方を向いてメリイだけに伝える。メリイは頷く。
ここ数日、メリイとの特訓で自由にON、OFFができるようになった。こうなるとこれもかなり便利だ。こうやって内緒話をしてもばれないのだから。
「よし。受諾の連絡はしておくからいつでも出られるように準備をお願い 」
その後は依頼の受諾のためにレッドムーン事務所に行ったり、まだ戻っていないマナトやユート達にメッセージカードを届けたりした。
「あれがナナンカ防衛要塞線ですか~」
私達はナナンカ防衛要塞線を丘から見ている。大きな土嚢?で作られたような城壁に後方には等間隔に配置された砦。城壁には人が巡回している姿が見える。そしてナナンカ防衛要塞線に到着した私達は辺境軍の人に案内されて大きめの部屋に案内された。期間中パーティー全員でこの部屋を利用する
「ヒロトにはちょっと肩身の狭い思いをさせちゃいますね」
「いえ、大丈夫ですよ」
「体を拭く用のお湯貰えるみたいよ」
辺境軍と話ながら何処かに行っていたメリイが戻ってきた。
「やっぱりお風呂はないか」
「お湯を準備してもらえるだけでもありがたいですね」
これで動いて汗をかいても安心だ。
「今日はゆっくりして明日から頑張りましょう」