灰と幻想のグリムガル~死霊術師の物語~   作:arc00

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36話

鐘が鳴り終わったシェリーの酒場。ソウマクランに常連客を取られたとはいえ新規の客を開拓し、前の活気を取り戻したのだが今日は様子が違った。1日の疲れを癒そうと酒場に入ってきた人はある席を見るとUターンしていってしまう。

ある席には2つのパーティーがいた。1つは新人義勇兵の中ではトップクラスの実力を持つレンジパーティー。もう1つは新人義勇兵の中ではそれなりに名が売れているシオリパーティー。2つパーティーは以前に組んで依頼を受けていたので再開して酒を酌み交わしているのでなく・・・

 

「・・・・・・」

 

レンジパーティーは他のパーティーと基本的にあまり関わらない。こうして他パーティーとこうして同じ席に着くことが珍しい。しかし、レンジパーティーからかなり不機嫌なオーラが漏れている。まるでレンジパーティーがシオリパーティーを攻めているように・・・。

周りに座っていた人も私達のただならぬ雰囲気を察してかそそくさと食事を済ませるか途中で席を立ち去ってしまった。

今酒場にいるのは私達以外には噂好きの人達。ナナンカ防衛要塞線崩壊の危機を救ったパーティーを人目見ようと訪れた人達だ。

 

「お前・・・なめてんのか?」

 

ロンはテーブルに足を投げ出し腕を組んで不機嫌な顔を隠さずに私を睨んで言った。もちろんレンジ達も目線でロンの言葉に同意している。

 

「ほ、本当ですよ・・・」

「はぁー、なら夢でオークに変なことされてそれが原因で狙われてると・・・」

 

ロンがため息をつきながら疑いの目を向けてくる。

 

「サイリン鉱山の時にオークに恨みを買ったとか?」

 

周りの雰囲気に気づいたサッサが助け船を出してくれる。

サイリン鉱山の時・・・調査の時と拠点攻撃の時・・・別に何も恨みを買うようなことはしていない

 

「それはないでしょう」

 

私の言葉を代弁するようにアダチが言った。

 

「むしろそれならレンジや我々レンジパーティーの方が恨まれていると思います。それに恨まれているならその場で殺すはずです。しかし拐おうとしていた・・・」

 

アダチはそう言って手を顎に持っていき思考の海に入っていった。

調査の時は上位オークをレンジが倒した。拠点攻撃の時はレンジ達のパーティーが正面からの攻撃班に参加していた。私達の班も上位オークと遭遇したが倒したのはオリオンの人達で私達のパーティーではない。

 

「オークはシオリを拐おうとしてたけど他のはどうなの?リザードマンとか」

「あ、オークに比べると私の扱いがぞんざいだったような・・・」

 

リザードマンに城壁上に運ばれ投げ捨てられた時はモータルレイを唱えるのを中断させるためだと思っていたがリザードマンはこちらの言葉を喋っていなかったから理解できないと思う。それにサッサが私の首に押し当てたダガーを強くした時はオークだけ殺気が強くなった・・・

 

「オークはシオリさんを拐おうとしていたがリザードマンなどの種族はどうでもいいと・・・」

「私もシオリとずっといるけどオークに関わったことのあるのはそれだけのはずよ」

 

メリイが私が攻められるのが気に食わなそうにレンジパーティーに言う。

 

「どちらにせよ情報が足りなすぎます」

「あ~いたいた~」

 

重い空気を気にしないほど陽気でそして甲高い声が酒場全体に響いた。酒場中の視線が入り口に集まる。ロンから「あの野郎・・・」と怒りの声が聞こえる。

 

「みんな~ひっさしぶり~。ひよむーだよ~。レンジパーティー、シオリパーティーは~今すぐレッドムーン事務所に集合~。ブリちゃんが呼んでるよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達に緊急の依頼を受けて欲しいの。受けないなら兵団指令〈オーダー〉扱いにするから」

 

兵団指令〈オーダー〉というのは言葉の通り、オルタナ辺境軍義勇兵団所属の義勇兵に下される指令だ。ただし、指令ではあるが強制ではない。受諾するかどうかは自由だ。もっとも、適任者が特段の理由もなく受諾しない場合は、信用を失うらしい。拒否したら兵団指令〈オーダー〉扱いにする。これは絶対に受けなさいということか。

 

「依頼の内容を教えてもらえませんか?」

「依頼は2つ。ソウマのクラン暁連隊〈DAY BREAKERS〉への言付けとセントール族への書状の送付」

 

アダチの質問に所長が答える。

セントール族は半人半馬の種族だ。誇り高く半身が馬なので機動性がかなり高い。ここオルタナ周辺では風早荒野に集落を築いていると聞いた。ソウマは前に風早荒野をさらに越えたところにあるワンダーホールにいる。

 

「風早荒野のセントール族に辺境軍からの書状を渡してソウマクランと合流して言付けを伝えるってことですか?」

「ソウマクランへの合流を先にして」

 

現在ナナンカ防衛要塞線はオークと休戦中だ。休戦と言っても双方分かりましたと言って各砦に戻る訳ではない。

片方が武装解除する降伏ではなく、双方が力を保持したまま一時的に戦闘行為を中断した状態だ。ここでどちらかが手を出すと休戦は破られて戦闘状態になる。オーク側は城壁外に大きな陣地を築いていたが私達の側は城壁の修復、失ってしまった人員の補充や治療とやることはいっぱいある。準備が整っていない時にソウマクランがオークと戦闘行為を行ってしまうと休戦協定に違反したといちゃもんをつけられて再開してしまうと目も当てられない。

 

「本国から兵士を呼ぶのは?」

「ダメよ」

 

所長曰く、本国の兵士は使えない。本国は周りに敵はいない。敵らしい敵、蛮族がいるのだが基本的に蛮族同士で争っていて仲裁のために派兵する程度だ。だから兵の練度が恐ろしく低く、士気も低い。そんなのが最前線、しかも最大の敵対国家オークと戦おうものならオークへのボーナスタイム。ナナンカ防衛要塞線の崩壊だ。

 

「だから辺境軍との協議の結果、周辺地域の兵の召集と同盟国家との共同戦線で乗り切ることになったわ」

 

同盟国家最大派閥の影森のエルフ族、黒金連山のドワーフ族、セントール族はナナンカ防衛要塞線から離れすぎているので風早荒野からそして少数種族だが噴流大河〈ジェットリバー〉に住むマーフォークとセファリッド。

噴流大河〈ジェットリバー〉は他の同盟国家と面していないが2つの種族は水中で生活するのでオーク達は手が出せないでいる。

 

「マーフォークとセファリッドはセントール族がどうにかしてくれるから気にしないで。1番優先するのはソウマクランとオークがかち合う前に合流してこの事態を伝えることいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所長に依頼を受諾することを伝えてそのままシェリーの酒場に戻る。入ってきた瞬間店員の責めるような目線を受けつつさっきと同じ席に座る。料理が並びきってからアダチが口を開く。

 

「依頼に関してですがシオリさんの力は使うのは厳禁です」

「えっ?別にいいですけど」

 

別に言われなくても本当の緊急時位しか使わないし・・・

 

「本当にオークの儀式で手に入れたのなら使った場合相手に気取られる恐れがあります」

 

リバーサイド鉄骨要塞とデットヘッド監視砦がどれくらい離れているかわからないけどオークには竜騎兵がいる。私が城壁外にいることが分かればすぐにでも拐いに来るだろう。

 

「大丈夫。今度こそ守って見せる」

 

メリイが真剣な顔で私を見る。リザードマンに不覚を取ってしまったのを気にしている。しかし、あのリザードマン他のと比べてかなり早かった。イシュ・ドグランに対しても一歩も引かなかったことからかなり力を持っていると思う。

 

「メリイ、ありがとう。でも・・・」

 

私はレンジを見る。私がいると分かればイシュ・ドグランが出てくる。そしてレンジと死闘をする。

 

「大丈夫だ」

 

私の思いに気づいて左腕を上げて答える。チビに治療してもらってそれほど日数はたっていないが動きには問題無さそうだ。

 

「我々がちんたらしている内にソウマ達がオークと戦ってしまうとアウトです。準備ができ次第ここを立ちます」

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