灰と幻想のグリムガル~死霊術師の物語~   作:arc00

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木曜日位に投稿しようとしていた内容が気にくわなかったので書き直していました。遅くなり申し訳ありません


40話 奇襲攻撃

オークが1匹無警戒に歩いている。周りからの情報では近くに敵はいない。

 

『前方のオークの始末お願いします』

 

オークの始末をお願いしてすぐに近くにいた盗賊が背後から組み付いて無防備にさらけ出された首筋にダガーを突き刺す。

 

「ッ!」

 

オークは声を出し暴れようとする。しかし、口は手で押さえられ、体は関節が決まっていてまともに動かせない。まるで蜘蛛に絡め取られた獲物のように。盗賊のスキルの蜘蛛殺し〈スパイダー〉だ。

首筋。致命傷を受けたオークは徐々に動きが鈍くなっていく。倒れそうになったところで盗賊が所属しているパーティーメンバーがオークの体、身に付けている防具を受け止め、できるだけ音を出さないように倒す。近くに敵はいなくともコボルドの聴力には十分注意すべきだ。

 

『草葉の影などの見つかりにくい場所に隠してください』

 

オークの体を支えていた人が片手を上げ、了承の意を伝えてくる。

 

『前方のオークの処理は完了しました。引き続きゆっくりと前進お願いします』

 

オーク発見により、待機してもらっていた後方の部隊に連絡する。無駄な声や人の行き来がないため、私達の耳には木々の声や鳥の声などの自然音しかしない。

今、私達はナナンカ防衛要塞線から出てオークが築いた陣地に向かって移動している最中だ。

本来なら隊長であるブリちゃんが指揮すべきなのだが今私が指揮を取っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたなかなかいいの持っているそうじゃない」

 

朝早くにブリちゃんに呼び出されての第一声はそんなセリフだった。

 

「はい?」

 

ほぼ寝起きだったため、ブリちゃんの言っている意味が理解できない。

 

「ネクロマンサーが持つ固有のアビリティのことだよ」

 

ブリちゃんの後ろに立っていたオリオンのシノハラさんが教えてくれる。

 

「あ、あー」

 

思い出した。最近色々ありすぎてどうでもいいことはすぐに忘れてしまう。

 

「その様子じゃ、確かなようね」

 

そして始まる質問の嵐。

 

「どれくらいの距離まで使えるの?」

「試したことないからわかりません」

「何人まで伝えられるの?」

「全体に伝えることはできますが個別は試したことないです」

etc

 

「どういうこと!?何で調べないのよ!」

 

ブリちゃんがテーブルに拳を叩きつける。まぁ質問ほぼ全部に「試してないです」とか「わかりません」って言われたら怒るか。

 

「ちょっと来なさい!」

 

そこから私への実験が始まった。壁を介した連絡。どこまでの距離まで伝えられるか。最大何人まで個別に伝えられるか・・・

そしてその実験が終了した次の日からブリちゃんとホーネンさんのツーマンセルからの兵法や指揮についての勉強。かなりの詰め込みで朝早くから日が落ちるまで続く。

 

「次の作戦私の代わりにあなたが指揮を取りなさい」

 

連日続く指導でくたくたの私にブリちゃんはそう言った。

 

「えっ!?無理ですよ」

「指導している私とホーネンかオッケーを出すのよ。それに0から立案するのじゃなくて大筋の作戦があるからあなたはそれに沿って指示を出すだけ。大丈夫。横に私がいるから」

 

そんなこんなで私がブリちゃんに代わり指揮を取ることなった。

大筋があると聞いていたが大まかな進行表で誰を抜擢するかとかそこに至るまでの方法はないのでこちらが考える必要があり、2人の指導の合間に必死で考えた。そのお陰でかなり寝不足だ。

 

ユサユサ

 

肩を揺すられて意識が戻る。振り向くとメリイが肩を揺すっていたようだ。意識が飛んでいたみたいだ。問題ないことを伝え移動を再開する。

 

 

 

夜の11時、月の明かりは・・・まぁ明るい方。天候は少し相手に味方したみたいだ。

周りを見渡す。私の姿が見える人は皆私をじっと見ている。深呼吸。こんなに注目されるのは初めてなので顔が赤くなるのを感じる。私の一言でみんな行動し、死ぬ。ブリちゃんやホーネンさんには叱られてばかりだったから自分に才能があると思えない。が、やるしかない。皆私の言葉を待っている。

 

『それでは作戦を開始します。盗賊の方お願いします』

 

作戦開始:0分経過

 

作戦開始と同時にあらかじめ選抜されていた盗賊が闇夜に紛れ敵陣地に浸入する。目的は兵糧庫かそれに準ずる施設への放火。まずは重要施設への攻撃で相手の意識を反らしてこちらの奇襲を成功させる。ゆっくり数えて5分位。煙が登ってゆくのが見えた。

 

「騒がしくなってきた」

 

地面に耳を当て音を聞いていた盗賊からの報告がくる。少し気づかれるのが早い?しかし、もう止められない。

 

『火矢お願いします』

 

作戦開始:10分経過

 

狩人や弓を扱える人達が順次焚き火に矢を入れ火をつけてゆく。隠れているのに堂々と焚き火ができるには理由がある。まず縦穴を掘り、焚き火ができるスペースを作る。次にその横に穴を掘って横穴で繋げトンネルを作る。最後に穴の中で焚き火をすれば完成だ。焚き火から出る明かりは穴の中なので見えない。またトンネルを通して風が通るので効率よく火を燃やすこともできる。

 

『じゃんじゃんお願いします』

 

放たれた火矢は大きな弧を描いて敵陣の中に消えてゆく。

 

『突撃隊の皆さんそろそろです』

 

火をつけるのだったら魔法使いの炎熱魔法も加えるべきだが、魔法は術者から直線に飛ぶのがほとんどだ。まだこちらの位置を把握できていない内にこちらの位置を教えるような行為はできない。位置をがわからないからこそ突撃の成功率が高まる。

火矢の効果が出てきてそこら中から煙が上がり、オーク達の声がこちらにも聞こえてきた。いい感じに混乱してきている。

 

『突撃!』

 

私の号令を待っていたのかのように大きな掛け声を上げ、突撃する。ここで行う指示は全て終わった。私達も行こう。

作戦開始:20分経過

 

「じゃあ。行くわよ」

 

ブリちゃんが剣を抜きながら立ち上がる。その顔には笑みがこぼれている。

 

「いい、あなた達は私とこの子を守ること。でも、私とこの子両方が危険な状態になればこの子を優先させなさい」

 

ブリちゃんは護衛についた人に優先事項を伝える。名目上の隊長なのだから自分より私を守れと言ってくれている。

 

「光よ、ルミナリスの加護の元に・護法〈プロテクション〉」

 

光が体を包み込む。他のパーティーも準備ができたみたいだ。

 

「行くわよ!」

 

ブリちゃんの掛け声で私達も敵陣に突撃する。

私達が到着したときにはもうすでにいたる所で乱戦が始まっていた。見た感じ、やはり数で劣っているので少し押されぎみだ。突撃は成功している。なら単純に敵の対応能力がこちらの予想よりもいいことだ。

 

『今は耐えて敵の目を釘付けにしてください!』

 

これくらいで焦るな。自分に言い聞かせながら指示を出す。声は震えていないだろうか?指揮官の同様は隊全体に伝わる。こんなことで味方の士気を下げる訳にいかない。

 

「プギュ!」

 

乱戦の合間を縫ってこちらにも敵がなだれ混んでくる。が、護衛のパーティーが間に入る。敵とのぶつかり合う瞬間、横から盗賊が敵の1体に組み付き攻撃する。敵の足並みが一瞬崩れた。そのスキを見逃さず逆にこっちから討って出る。不意を打たれた敵は建て直せずに剣の餌食となった。

 

「すいません。遅くなりました」

 

作戦開始と共に敵陣に浸入した盗賊達が合流してきてくれた。彼らは遊撃隊の動きで苦しい戦いをしているパーティーを助けてくれている。よし、持ち直した。

 

ガラララ

 

目の前の掘っ建て小屋が崩れる。まだ火の手が上がって少し。崩れるのにはまだ早い。視線を向けると2つの影が戦っている。レンジとイシュ・ドグラン!2人は激しく剣を打ち付け合っている。

 

「レンジ!そいつは危険よ。数で囲みなさい!」

 

ブリちゃんの言葉を無視するレンジ。見かねた何人かがレンジの元に駆け寄る。

 

「・・・邪魔するな!」

 

レンジは1歩引き、寄ってきた人を制する。あくまで俺とこいつの戦いなのだと気迫がそう言っている。イシュ・ドグランはレンジのその姿を見て嬉しそうだ。

 

「レンジ。決着がつかなかったら次に持ち越しですから!」

「はぁ?あなた何ってるの?」

 

レンジは無言でイシュ・ドグランに突撃する。返事がないのは了承したことだろう。

 

「レンジは大丈夫です。むしろイシュ・ドグランを1人で抑えてくれています」

「チッ、レンジ!死んだらタダじゃおかないからね!」

 

次のフェイズまで約20分。それまでに決着はつくのだろうか・・・

 

作戦開始:30分経過

 

地面が揺れる。ここに突撃して早く時間がくるよう祈っていたがやっときた。それは雄叫びを上げながら姿を表す。義勇兵と辺境軍の混成隊。本隊だ。

私達の目的。それは本隊の突撃を成功させるための囮だ。放火と突撃の奇襲で敵の目をこちらに集中させる。その間に本隊は正面から突撃する。

正面にはもちろん柵や堀が作られており、浸入者を阻む。阻まれている間に矢を射かけられれば本隊は大きな被害がでる。しかし、こっちに意識を集中させれば正面への対応が疎かになる。おそらく司令官であるイシュ・ドグランがレンジにかかりきりになったことで対応がさらに遅れたのだろう。

本隊は私達より少し離れたところで戦っている。同行している魔法使いは炎熱魔法を集中して使っているのか爆発音が断続的に聞こえる。

 

『本隊の近くに移動します。本隊との間にいる敵は本隊と挟み撃ちにするように倒してください』

 

敵陣は完全に私達の浸入を許してしまい、大混乱なのは確定だ。そしてこれを忘れてはいけない。

 

『アダチさん。いくつかのパーティーを連れてレンジの退路を確保させてあげてください』

 

戦線が少し広がった感覚。レンジはそれほど遠くに行っていないようだ。

 

「本隊と合流してしまうのも手よ」

 

ブリちゃんが助言をくれる。確かに隊の安全は高まるけど

 

「いえ、この作戦は敵陣を使い物にならないようにするのが目的です。このまま2つの隊で破壊活動を広範囲に行います」

 

ブリちゃんは納得してくれたのか何も言わない。

 

作戦開始:50分経過

 

本隊が参加してから約20分。突撃してからの10分と比べるとほぼ同じか早い位の感覚だと感じる。作戦開始から50分。私はブリちゃんから借りている懐中時計で時間を確認する。

地理的にこことデットヘッド鉄骨要塞は竜騎兵で1時間ちょっとかかる。このままここに留まるとデッドヘッドからの援軍まで相手することになる。私達の目的はここを陣地として使用できなくすることだ。決してここにいる敵を全滅させるためではない。

 

『時間です。ナナンカ防衛要塞線まで後退です』

 

まず最初は私達の隊に続いて本隊に伝える。よし、まずは本隊と合流だ。

 

『本隊と合流します。前衛は切り開いてください』

 

本隊との間にいる敵を蹴散らす。挟み撃ちしながら戦っていたので他と比べ敵の密度が低く、突破は容易だった。

はっ!レンジは!?辺りを見渡す。アダチがいた。アダチは私が見つけたことに気づくと人影に紛れて見えなくなった。アダチがここにいるということはレンジもこっちにきているってことだ。イシュ・ドグランとの決着は!?

 

「シオリ!次は?」

 

メリイの声。しまった。今はみんなの命を預かっているんだった。気になるがレンジのことは二の次だ。

 

『退却します。殿へのフォローを忘れずにいきましょう』

 

作戦は次のフェイズに移行する。どれだけ消耗少なく撤退できるかが勝負だ。

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