42話 プロローグ
-アラバキア王国首都-
王宮内にある、豪華な調度品に囲まれた評定の間にこの国の権力者が集まっていた。
大きな卓の上座には他の椅子と比べても明らかに豪華な椅子が設置されている。そこに腰掛けるのはギュスターブス・ベルナップ・アラバキア。アラバキア王国を統べる王だ。身に纏う物は豪華絢爛でその顔は尊大な面構え。ノーライフキングとの戦争に唯一生き残ることのできた人間族の王族であることに絶対の自信を体中から滲ませ周囲を圧している。卓の左右に着席しているのはアラバキア王国の重鎮たち。先王の時代からその権力を支えていた老臣がほとんどだ。
「リバーサイド鉄骨要塞を先に落とすべきでは?」
「前哨戦としてデットヘッド監視塔を先に落としてその勢いでリバーサイド鉄骨要塞を攻略するのがよいのでは?」
「デットヘッドからリバーサイドの間には
卓上に広げられた巨大な地図をはさんで次々と意見が出され議論は白熱している。
事の発端はナナンカ防衛要塞線での一件。ナナンカ王国領を支配するオークに奇襲攻撃を受け防衛戦を行い停戦。その後、膠着状況に陥ったが人間族主導の奇襲攻撃によりこれを撃破。生き残ったオークはナナンカ王国領に撤退した。
過去に散々オークに苦渋を舐めさせられていた所に無傷での勝利。このままの勢いでオークの支配している地域を取り戻したいという意気込みが重臣たちの目から感じられた。
「デットヘッド監視塔を落とせはリバーサイド鉄骨要塞とそれ以降の侵攻がやりやすくなる」
「デットヘッド監視塔程度の防備ではオークの攻撃は防ぎきれん。リバーサイド鉄骨要塞ほどの規模であれば攻撃も容易に防げる堅牢な拠点になる」
「堅牢な拠点になるということは同時に落としにくいということであろう。攻めあぐねている隙に増援に襲われたらどうする?」
デットッド監視塔とリバーサイド鉄骨要塞どっちを先に攻めるかは一長一短で難しい問題だ。やがて居並ぶ重鎮の意見がおおよそ一巡した。意見は割れた。どちらの意見も優勢というわけでもない。そうなった場合、王の意思を聞くしかない。重鎮たちは王に視線を集中させた。
重臣たちの視線を意に返さぬように王ギュスターブスは口を開いた。
「お前たちの意見はどちらも利にかなっている。だが私はお前たちに第3の提案をしたい」
重鎮たちがざわめく。そのざわめきを楽しむかのように聞き入り、そして提案した。
「どちらを先にするか決めかねるほど、どちらも大事。ならば両方すればよいだろう」
「ですが王よ、両方と・・・なりますと、かなりの兵力を準備しなくてはなりません」
すぐに1人の重鎮から発言があった。ギュスターブスはふんっと鼻を鳴らして居並ぶ重鎮たちを見渡す。
「こんなときのためにごくつぶし共を生かしていたのだろう?」
「あのような者達を信用するのはどうかと」
「そうですぞ王よ。それに王の威厳を意に反さぬ蛮族共もいます。下手に兵を動かすと楯突く可能性もありますぞ」
ギュスターブスは「ふむ」と納得し意見を取り下げる。その様子を見て重鎮たちは安心した。しかし、「王よ」と呼ぶ声がして皆その声を発した末席に座る若い臣に注目する。
「ここであえて警戒を解く振りをするのはどうでしょうか?」
「どうゆうことだ?警戒を解く・・・振りをする?」
「ええ、しかし、本当に警戒を解くわけではありません。わが国は比較的友好的な蛮族共に対しても他の蛮族と同等の扱いをしております。それを解いたと見せれば、相手を信用したと内外に示せます。そうすれば我が国が信頼に厚い国だと訴えることができます」
ここで言う内外というのはエルフなどの同盟国家のことだ。人の姿を真似た下等な種族共は王宮を信用しておらず、王宮よりも要塞都市オルタナを治める辺境伯ガーラン・ヴェドイーの方を信用している始末だ。
「蛮族ならまだしも下等な種族共にそんなことができるか!」
「むしろ先に落として吸収してしまえばいい」
長くから仕えている老臣たちが声を荒げ、若い重鎮の意見に反対する。
ギュスターブスは「なるほどな」とうなずき重鎮たちをもう一度見渡した。
「どうだ?」
「若さゆえ、荒さは伺えますがよいのではないでしょうか」
「アラバキア王国の権威を自ら貶めることはないかと思います」
「やってみる価値はあるかと」
「成功すればオーク共から領地を取り戻すことができ、下等国家の信頼を得られるかと」
老臣からは否定的。しかし、多数を占めている中堅以降から出てくる意見は肯定的だった。数の上では肯定。その様子を見てギュスターブスはうなずいた。
「ではどちらが先というわけではなく両方ともという方針でよいな」
ギュスターブス・ベルナップ・アラバキアが決定した時点で、デットヘッド監視塔とリバーサイド鉄骨要塞の同時攻略という方針が決まった。
「思いつきで言ってみたものの我の案が採用されるとはな」
「王は聡明です。王が方針を言ってくだされば細かい部分は我々が詰めさせていただきます」
「ふふ。お前たちにそういってもらえると嬉しいぞ。して、指揮官は誰にする?」
「グラハム・ラセントラ将軍が適任かと」
グラハム・ラセントラ将軍は要塞都市オルタナに駐留する軍の総指揮を長く任されている。確かにデットヘッド監視塔とリバーサイド鉄骨要塞の同時攻略を任せるにはその辺の地理が明るい将軍に任せるのが適任だろう。
「お待ちください。グラハム・ラセントラ将軍は先日オーク共に出し抜かれ失態を演じています。贖罪もすんでいないのそのような大役を任せるのはどうかと思います」
先ほどの若い重鎮が声をはさんできた。ギュスターブスは若い重鎮の方に向いた。
「では誰が適任か」
グラハム・ラセントラ将軍に並ぶ将軍は本土にはいるが地理に明るいというアドバンテージを覆させるほどの力を持つ将軍はいないはずだ。
「ウォーター家の者が」
名門貴族のウォーター家。確かに忠誠心が厚く。仕える者の能力が高いと聞くが・・・
「ウォーター家?リチャード・ウォーター将軍は最近病で本家に療養中で将軍職もその際に一時返納したのではないのか」
「実は隠し玉がありまして・・・」
「隠し玉?」「そんなもの聞いたことがないぞ」周りからささやき声が聞こえる。忠誠心が高いウォーター家が王宮に対して出し惜しみするようなものではないはずだが、あの自信は・・・まぁどちらにせよ今はそのようなことを説いただすときではない。
「ふむ。それは大筋が決まってから聞くとするか。楽しみにしているぞ」
ギュスターブスは警護の兵と共に評定の間を出て行った。
「・・・よし!」
若い重鎮はギュスターブスを見送った後小さくガッツポーズをした。
「これで俺も計画に一役噛める。後は俺の息のかかった者を出世させれば・・・」
自分の息がかかった者を重要な役につかせるには大量の
「これが俺のスタートだ」
若い重鎮は1人声を押し殺して笑う。自分の描いた未来を想像して
要塞都市オルタナ辺境伯ガーラン・ヴェドイー邸
高が天井高く、広々とした部屋の執務机にガーラン・ヴェドイー辺境伯が座っており、執務机に対面して置かれている応接机にはグラハム・ラセントラ将軍。そして、オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン所長ブリトニーはいた。
「急に呼びたててしまってすまないな。すぐに家の者が飲み物を持ってくる」
「お気になさらずに」
しばらくして使用人がテーセットを載せたワゴンを持ってきて3人に配る。ブリトニーが優雅にカップに入ったカウヒーを一口のみ終わった後にガーランは口を開いた。
「王都で少し動きがあってね」
「動きというと先日の一件でしょうか?」
ブリトニーの顔がこわばる。あの一件でガーラン・ヴェドイー辺境伯やグラハム・ラセントラ将軍に何か制裁があったのだろうか?最悪どちらかが解任され別の者。王都暮らしのボンボンが就いたらいろいろとまずい。
「いや、ブリトニーの思っていることは起こっていないと断言できる」
「そう」とブリトニーは安堵した。だが、将軍と私が呼ばれた理由は想像できない。
「向こうにいる私の友人からの知らせでオークの支配地域に侵攻する作戦を企てているらしい」
「なるほどだから私やグラハム将軍を呼んだということですか」
おそらく先の戦いで人的被害なしでオークに被害を与え、その傷が癒えぬうちに領土を取り戻そうという算段か。ガーラン辺境伯はブリトニーの思惑に気づいた。本当なら「そうだ」といいたいのだが少し違う表情を暗くしたガーラン辺境伯に怪訝な表情を見せているブリトニーにグラハム将軍は口を開いた。
「此度の侵攻指揮を取るのは私ではない」
「えっ?」
ブリトニーは驚愕した。将軍はここの総司令になって長くナナンカ防衛要塞線を守ってきたのでナナンカ王国領周辺の地理に詳しい。その将軍に指揮を頼まないなんてどうかしている。驚愕するブリトニーにガーラン辺境伯は説明する。
「向こうはどうもグラハム将軍の指揮に疑問を感じている一派がいるみたいだ」
「みたいだ・・・ってグラハム将軍は長くここオルタナとナナンカ防衛要塞線を守っていたじゃないの」
「ブリトニーの言っていることは当然だ。おそらくだがこの一件、権力増強のダシにされている可能性がある」
怒りを覚える。こっちは命がけで守っているのに向こうは当然として受け止めている。いや、別に指示するなというわけではないが私たちの命をそんな軽々しく扱わないでほしい。
「ナナンカ王国領に侵攻することはほぼ決定だろう。そうなるとここオルタナの兵も動かさなければならない。なので、そちら助けてもらうことになる。その時は頼んだ」
「判っておりますとも」
内心は不機嫌そのものだがブリトニーはそんなことを一切出さずに2人ににっこりと笑いかけた。
「お声をかけていただければすぐに駆けつけます」
「頼りにしている」
ガーラン辺境伯の言葉に続いてグラハム将軍が頭を下げた。
「して、ブリトニー殿。あの戦いの時不思議な能力を持った者が指揮を取っていたようだが?」
「はい。最近うちに入ってきた子です」
「言葉使いは指揮を取るものとしては全然だがかなりよかったと評判だったぞ」
「つたない状態でお披露目してしまい申し訳なく思っていますわ」
「いや、責めているつもりはない。して、次も出るのかね?」
「はい。必要な時に留守にしないように確保しております」
話は最近入った義勇兵の話題になった。今度は心のそこからにやりと笑った。
「義勇兵にもブリトニーやホーネンのような者が入ってくれるのはうれしい。その才が正しく成長してくれることを願おう」
「それはもう。2人で鍛えていく予定なので」
「それは頼もしい」
ガーラン辺境伯とグラハム将軍が笑う。
ガーラン・ヴェドイー邸の帰り道。馬車に揺られてブリトニーは考える。
あの力、あの子は
「考えてもしかたがないか」
現状わからないことだらけだ。肝心の
ナナンカ王国領への侵攻。どこまでやるか判らないがデッドヘッド監視塔とリバーサイド鉄骨要塞は確実に落としにくる。デットヘッド監視塔ならともかくリバーサイド鉄骨要塞は被害が大きくなりそうだ。
「準備を入念にしなくちゃね」
ひよむーが庶務を取り仕切っていた時は書類が適当で大掛かりな作戦が取りづらかったが大型新人のおかげでその辺も解消できそうだ。このまま順当に育てれば副所長も夢ではないだろう。
「でもあの子そんなに強くないのに何で外に出たがるの?」
庶務の仕事を始めてから少ないが給料は出している。しかし、パーティーを組んで外に出たがることに頭を捻る。実際はシオリがネクロマンサーギルドに多額の借金を作らされて日々資金調達のために外に出ていることを知らないのだ。
「まあ、よく外に出ることがなければ庶務に引っ張ってこなかったし、よく外に出てくれるおかげでこんなにも使えることが分かったのよね」
結果オーライか・・・
「あ、ふぅ・・・まぁ明日のことは明日に考えましょう」
欠伸をしながら窓を見る。馬車から見える風景はもうすぐ自分の家だとつげている。ブリトニーは考えるのをやめて窓の風景を眺めていた。