「傷によく効く塗り薬だよ~」
朝、開け放たれた窓から行商人の声が響く。早朝から出発するパーティー向けに巡回しているのだ。
「う・・・うるさい」
必要以上の大声で目が覚めてしまった私はベットの中でモゾモゾと蠢いた。低血圧気味のせいでボーっとする頭にガンガン響くのが非常に不快だった。早く窓を閉めて、早く夢の世界にダイブしたい。が、そのためにベットから起きるのが本当に億劫だった。
「・・・無視しよう」
決めた。うるさいとは言え布団を頭からかぶれば耐えられる。だから寝る。こんなのに負けない!決意と共に布団をガバッと頭までかぶった。
「何やってるのよ。起きなさい」
布団をかぶった瞬間。あきれかえった声が私の耳に届いた。そして、同時に頭までかぶっていた布団がガバッと捲くられる。
「ふぇ!?」
突然の出来事に思わずまぶたを開ける。
「おはよう。シオリ」
ベットの脇には1人の女性が立っていた。
青い髪に女の私が見てもドキッてするくらいのきれいな顔。しかし、表情は目をすぼめてジーっと私の方を見ていた。
「もう朝よ。今日は朝から外に行く予定でしょ」
「えっ?」
確かにそんな約束をしていたような・・・
「忘れてた?」
「もっと日が昇ってからだと思ってた」
「起こしにこなかったらお昼ぐらいまで寝てるくせに何言ってるのよ」
横になっている私の腕を引っ張って起こされる。二度寝を諦めた私はベットから起き上がった。
手鏡で簡単に身だしなみを整えメリイの方を向くとテーブルに何かを広げている姿が見えた。
「何それ?」
「ここで朝ごはんっていったら硬パンに水でしょ?サンドイッチとミルクを持ってきたからこっちを食べなさい」
席に座り袋を広げる。そこには手作りのサンドイッチが入っていた。
「店で買ってきたんじゃないんだ」
「崩れてた?」
「ううん。朝早くから起きて作ってくれたんだなって」
「普通でしょ」
サンドイッチにかぶりつく。レタスに卵にトマトそしてチーズ、オーソドックスなサンドイッチだ。私には朝からこんなのを作ることはできない。コップに注がれたミルクを飲んで一息ついたところでメリイが口を開いた。
「そういえば引越し、するつもりない?」
「えっ?」
「料理作らなきゃ上達しないでしょ。今の内に引越しするのもいいのかなって」
料理かぁ、外で当番の時ぐらいしか包丁を握らないからなぁ。女の子だったら料理ができないとダメっていうしなぁ。
「・・・前向きに検討します」
「ホントよ」
引越しするならメリイの部屋の近くがいいかも。そうすれば起こしに来てもらうのも楽だろうし、料理も作ってもらえそう。何なら一緒に・・・
「・・・だらけさせるために提案したわけじゃないのよ」
「ナンノコトカナ~」
メリイはまたジトーとした目で私を見てきた。本当にメリイは鋭い。私はメリイの追及を避けるようにサンドイッチにかぶりついた。
それからゆっくりと着替えて2人で商店街に移動した。
「朝から人がいっぱいだ~」
通りに出た瞬間に人、人、人。これからこの中に入ると思うとげんなりする。
「その気持ちわかるわ」
メリイもちょっと嫌そうな顔をしている。今日は何か特別な日だっけ?それとも旅商人が一気に北側に来ちゃったとか。
「まぁ、こんなに混むってことはいいのがあるってことよね」
「そ、そうよ。きっといいのがあるわ」
主に北門で活動する私たちはここ以外の商店街は知らない。いや、場所は知っているが今日は冒険をする気はない。でもここに入るのかぁ
「・・・帰ろう」
やっぱりやめておこう。私はメリイにそう告げるとくるっと方向転換して歩き出した。
「行くわよ!」
「ぐぇ!?」
逃げられない。首元を掴まれた。そして悶える私を引き連れて人ごみの中に入っていく
「中に入れば多少ましね」
みんな目的の店に入って買い物を楽しんでいるのか人口密度が減る。混んでいたのは時間が早すぎただけのようだ。
「今日はどうするの?」
「どうするのって、もちろん服よ」
「服ってメリイ結構持ってるじゃない」
「私のじゃなくてあなたのよ」
メリイは私を引き連れて歩く。歩く姿に迷いはなく事前に下調べしていたか行きつけの店に行くようだ。
「まずはここよ」
最初に案内された店は大衆向けの服屋ではなくもっと高級な店。置いてある服はどことなく初めて私たちがここにきた時に着ていた服っぽい。
「メリイこの服・・・」
「この店は私たちが着ていた服を参考にしたのを置いてるの」
近くにあるブラウスを見てみる。普段私が利用している服屋に置いてあるのは1種類だけなのだがここにあるのはビーズや刺繍、レースで装飾され、袖や襟の有無、形状で色々なバリエーションがある。値段は・・・う、高い。
「種類が多いんだけど基本的に現品限り、高いのがネックだけど欲しくなってくるでしょ?」
「・・・うん」
確かに。それにどこか懐かしい気持ちになってくる。
「まずはこれね」
メリイはあらかじめ目星をつけていたのか衣服をいくつか私に手渡すと押してきた。
「あそこで試着するの」
「試着って外で着替えるの!?」
「外じゃなくて店の中よ」
そのまま個室に押し込められる。個室は1人が入ってやっと位の広さ、目の前には大きな鏡が置いてある。着替えないと出してもらえないのよね。
しゅるしゅる
ドアの向こうは外。そんな無防備な場所で下着だけになる。意識をしちゃいけないのはわかっているが恥ずかしくなってくる。なるべく意識しないように急いで着替える。
着替えが終わって目の前の鏡にはワンピースにブラウスを合わせてカーディガンを羽織った姿が映し出される。ちょっとスカート短くない?スカートの裾を引っ張るがそれ以上下がらない。諦めた私はその場で体を捻って他におかしいところがないか確認する。他におかしいところないよね?
「ど、どう?」
ドアを開き、メリイに自分の姿を見せる。
「うん、いいよ。似合ってる。えっと・・・次はこれね」
メリイは次々と新しい服を選び、渡していった。
「本当にいいのお金?」
服の代金はメリイと割り勘した。結構買ったのに。
「いいの。感謝するならその分大切に着てよね」
「うん。もちろん大切に着る」
お昼も食べ、午後も色々な店を回った。それはとても楽しい時間だった。
「ブリちゃ~ん。お客さんだよ~」
レットムーン事務所所長ブリトニーはいつもの定位置であるカウンター奥ではなく、所長室にいた。
「わかったわ。ひよむーお茶お願いね」
「は~い」
ひよむーにお茶を入れてくるように指示をしてゆっくりと応接室に移動する。
応接室に入ると見知った顔、要塞都市オルタナに存在する各ギルドの代表が椅子に座ってブリトニーを待っていた。
「待たせちゃった?」
「今来たところだ」
デートの待ち合わせのようなやり取りをしつつ席に着く。席に着いたところでひよむーがお茶を持って入ってくる。そして、そそくさとお茶を置いて出て行ってしまった。
「本土からガーラン辺境伯へ早馬がきたわ」
それは召集する際に伝えたことなので7人は無言でうなずく。
ただ、早馬の内容はガーラン辺境伯に呼び出されたブリトニーしか知らない。アラバキア王国や辺境軍の対応はブリトニーが窓口となっている。ガーラン辺境伯との会談のあとにこうして各ギルドの代表を集めたのだから会談の内容があまりよくないものだというのは容易に想像できた。
「・・・大きく2つ」
ブリトニーは人差し指と中指を立てて顔の高さまで掲げた。
「ナナンカ王国領の侵攻が決まったわ」
過去何度もナナンカ王国領に侵攻したことはある。7人の表情は「・・・またか」っといった表情が浮かんでいる。
「して、今回はどっちを先に攻略するだ?」
「両方よ」
ホーネンの言葉にブリトニーが即答する。その言葉に残りの代表は顔を見合わせる。
過去ナナンカ王国領に侵攻した時はデットヘッド監視塔かリバーサイド鉄骨要塞のどちらかを攻略していた。それを同時攻略となると
「うまく両方攻略できればよいがリバーサイド鉄骨要塞の攻略が遅れたり失敗すればデットヘッド監視塔が自動的に失敗することになるぞ」
両方砦という扱いとなっているが規模が全然違う。リバーサイド鉄骨要塞の攻撃の遅れでデットヘッド監視塔に援軍が送られてしまえばデットヘッド監視塔の攻撃は失敗してしまう。それにリザードマンの
「そうは言っても本土の兵は準備が出来次第こちらに来るらしいわ」
すでに作戦は承認され動いている。義勇兵団は基本的に自由だが所属は辺境軍、アラバキア王国軍の正規兵だ。この場で話されている時点で義勇兵にも参戦命令は出ているのだろう。
「もう1つは?」
ため息をつきながらブリトニーに聞く。ブリトニーは苦い顔をしながら口を開いた。
「デットヘッド監視塔を義勇兵団で攻略することのお達しを受けたわ」
「なっ!?」
思わず席から腰を浮かすほど驚愕する内容だった。代表達は互いの顔を見合わせる。
「すでに他の街に点在するギルドに親書は送ってあるわ」
他の街の義勇兵をかき集めても限度がある。総数は2千を下回るだろう。砦を攻めるにしては少なすぎる。ギチギチとした動きでブリトニーの方を向く
「ガーラン辺境伯から兵を借りてかろうじて2千これでデットヘッド監視塔を攻略する」
部屋にいる全員が嘆きたい気分だろう。しかし、拒否権はない。
「本土は義勇兵団をつぶす気か」
ギルド代表の1人が言った。普段から活動実績が悪く、辺境軍に迷惑をかけているなら「適当に使いつぶしてしまえ」という判断がでてもおかしくはないがそういった問題は起こした記憶はない。
「多分だけど作戦行動中の食料は向こうが用意してくれる・・・させるから心配しないで」
何を心配しなくていいのだろうか。ブリトニーに文句を言ってもしょうがないので誰も何も言わない。
「そういうことだから具体的なものは後日連絡するから・・・解散」
解散の宣言が出されても誰も動こうとはしなかった。やがて1人が退室するとまた1人と退室していった。1人残されたブリトニーはため息をついて部屋から出て行った。