ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ~。
なにやら息抜きのつもりの外伝でしたが、いつの間にか10話を越えてました(^^
そろそろ本編に戻らないとな~と思いつつ、初書きの海戦が思ったより面白くて(笑)


さて、今回のエピソードは……海の英国紳士の皆さんが苦労するみたいですよ?





第10話 ”ロケットマンだ、ベイベー! CODE1940”

 

 

 

1940年7月11日、アレクサンドリアから出港した英国艦隊は、順調にマルタ島に向けて航行を進めていた。

 

「順調すぎるな……」

 

戦艦ウォースパイトに据え付けられた提督席(アドミラルシート)で、アンドリュース・カニンガム中将は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 

常識的に考えて、イタリア海軍は既に哨戒部隊を放っているはずである。

だが、

 

「未だ接触しないとは……」

 

今のペースであと2時間も航行すれば、天気がよければマルタ島が目視できる距離に入るだろう。

しかし、未だイタリアの空海戦力と接触した兆候はない。

ただ、同時にマルタ島とは一切連絡がつかないことが強い懸念を招いていた。

いや、懸念ではない。

素直に不穏で不気味な空気だった。

 

 

 

「相手はイタリア軍ですからね。我々の常識は通用しないのでは?」

 

そう言ったのは大佐の階級章を付けた艦隊参謀だった。

 

「何かね? 君はリビアの国境にいる陸兵同様に、イタリア空海軍も我々の接近に気付かず昼寝(シエスタ)しとるとでも?」

 

「そうであればありがたいという希望的観測も含んでいますが」

 

「そうであるならば、そんな輩にいいようにやられた我々の同胞……マルタ島駐留軍は輪をかけ間抜けということになるな」

 

さして楽しそうでもない表情を浮かべるカニンガムに、

 

「まだ壊滅したとは決まっておりません。どこぞの”最高戦争指導者(コンドティエーロ)”とやらが言うように未だ抵抗を続けているのかもしれませんし、イタリア軍はそれにかかりきりという可能性も残っております」

 

「あのイタ公の若造の言うことを信じると? それは英国人としてどうかと思うぞ」

 

 

 

***

 

 

 

「潜水艦からは、敵艦隊が出港したという報告は入っていたが……」

 

英軍は昨日、イタリア最大規模の軍港タラントから艦隊の出港を潜水艦が探知した。

だが、潜水艦はその後に消息を絶ち、イタリア艦隊がマルタ島の追加攻撃に向かう艦隊なのかこちらの艦隊への迎撃艦隊なのかが判然としなかった。

正直に言えば勢力も不明な部分が多い。

 

(タラントを母港とする艦隊なら、”インペロ”と”ローマ”が出張ってもおかしくないか……)

 

イタリアが保有する虎の子、彼の国が4隻しか保有していない戦艦のうち2隻を振り向けてくる可能性は決して低くない。

 

慎重なカニンガムは、最悪イタリアの最新鋭戦艦2隻を中核とする同程度の艦隊と交戦することを想定していた。

どうやらマルタ島を襲撃した艦隊にも戦艦2隻がいたそうだが、イタリアに忍び込ませたスパイの報告では、現在その艦隊はシチリアのメッシーナ海軍基地で補給と損傷艦の修理を受けてるようだ。

 

イタリア海軍の行動パターンとしては考えにくいが……万が一にも修理や補給を切り上げ、シチリアの艦隊まで出てこられたらさすがに勝ち目が低くなる。

その艦隊への陽動の役割を担うのが、ジブラルタルから出張ってきたサマーヴィル中将率いるH部隊というわけだった。

 

とはいえ、優秀なことに疑いの余地はない英国情報部の分析によれば、シチリアの艦隊がイタリア人らしからぬ無理をして出動したとしても、彼らの出港準備は敵哨戒圏に入ってからで、その前にH部隊は空襲を終え敵の追撃圏内から十分に離脱できるはずだった。

 

(彼に追撃部隊にびつかったとしてもH部隊は戦艦2、巡戦1、正規空母1の本格的な戦闘部隊……そうそうイタリア艦隊に引けをとるとは思えないが)

 

 

 

カニンガムは優秀な提督だったが、残念ながら二つの英国艦隊を取り巻く事態は、彼の懸念や想定した情況より更に悪いようだった。

そう……とっくに英国艦隊の動向は察知されていたのだ。

アレクサンドリアに限っては慌しく出港する姿も捉えられていたし、通商破壊の為に地中海に広がっていた潜水艦にも複数回捉えられていた(これはジブラルタル艦隊も同じ)。

 

ただ800t基準級を主力とした通商破壊潜水艦には、「艦隊規模の敵には一切手出し無用。敵が過ぎ去るのを待ち、安全を確保できたと判断してから連絡せよ」と厳命されていたに過ぎない。

彼はマルタ島に近づくにつれ哨戒機を飛ばし、周囲を警戒するが……

 

「敵哨戒機発見! おそらくこちらの艦隊に気付かれた模様!!」

 

そう報告が入ったのは15分後のことだった。

やはり残念なことに、その双発の陸上機にはあっさり逃げられてしまったが。

 

 

 

「パイロットの報告からすると、どうやら敵はフィアットBR.20”チコーニャ(コウノトリ)”だったようです。最高速は430km/hに達するといいますから、戦闘機隊が振り切られるのは無理もないでしょう」

 

「……我が国の艦上戦闘機もそろそろ新型機を登場させねばな」

 

ゼロ戦なんて代物を作っていた日本からは信じられない話かもしれないが、史実でもこの時期のイーグルは、()()戦闘機のグロスター”シーグラデュエーター”×3機と()()雷撃機のフェアリー”ソードフィッシュ”×18機の合計21機しか搭載してなかったのだ。

今回は史実とミッション内容が違うので飛行甲板に並べる形で限界の30機まで搭載し、その内訳もシーグラデュエーター×12機にソードフィッシュ×12機、加えて一応戦闘機としての機能を持つが本質的には艦上爆撃機のブラックバーン”スクア”×6機を追加し増強を図っていた。

そして、いずれの機体もBR.20に追いつける速度性能は持っていなかった。

 

 

まあ、それを例に出すならH部隊のアーク・ロイヤルもあまりイーグルのことは言えず、スクア×21機にソードフィッシュ×21機、そして史実より前倒しして配備されたらしい艦上()()戦闘機のフェアリー”フルマー”が12機配備されて、合計54機が航空戦力の全てだった。

ぶっちゃけてしまうと英国は、史実でも”この世界”でも不思議なことに艦上機全般の開発に完全に出遅れていた。

実際、英国がまともな艦上戦闘機を開発するのはシーハリケーン、いやむしろシーファイアの登場まで待たねばならなかった。

その為、英国は米国グラマン社のF4F”ワイルドキャット”を急遽輸入し、”マートレット”として穴埋めの艦上戦闘機として使うことになるのだが、その機体もこの時期では未だ1機も届いてはいない。

 

そして彼らが向かう先には合計1000機もの航空機が、それも30年代中期以降に量産された新鋭の物ばかりがそろえられていたのだ。

はっきり言おう、『無謀である』と……

 

だが、二つの艦隊で戦艦5隻に空母2隻を中核に合計41隻という大艦隊を動かしている彼らは自信に満ち溢れていた。

更にこの作戦、二つの主力艦隊以外にも救援物資を満載した輸送船団を守る”ジョンストン・トーヴェー”中将の巡洋艦/駆逐艦合計16隻の海上護衛艦隊(エスコートフリート)までも来てるのだ。

合計57隻の大艦隊など、陸上基地から飛び立った()()()()()()で簡単に沈めきれるものであるはずなかった。

 

 

 

つまるところ……英国海軍(かれら)はバルケッタ・ムッソリーニという男も、彼が梃入れしまくり潤沢な資金や油と引き換えに鍛え上げた「”この世界”のイタリア軍」という物も理解してなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

 

カラブリア半島というのはイタリアのつま先であり、カニンガム艦隊はカラブリア半島沖南東58kmまで近づいていた。

マルタ島もそうだが完全にイタリアの目と鼻の先である。やろうと思えば、マルタ島救援どころかイタリア本土空襲だって出来ただろう。

ただし、()()()()の話であるが……

 

 

 

「敵機来襲!!」

 

とある瞬間、航空参謀はそう声を張り上げた。

 

「ようやくのお出ましか……一体どこで昼寝を楽しんでいたんだ?」

 

カニンガムはニヒルに笑い、

 

「参謀、敵機数は?」

 

「不明です!」

 

「……報告は正確に」

 

だが航空参謀は困ったような顔で、

 

「敵機の数が多すぎ、艦隊直上の護衛機でもレーダーでも把握し切れませんっ!!」

 

この時、カニンガムがなんと答えたのかは残念ながら記録に残っていない。

 

 

 

***

 

 

 

英国航空参謀の正確さを欠いた報告も無理もなかった。

この時、イタリア近海ギリギリまで敵を接近させてタイミングを見計らって飛び立った航空機は、合計300機に達した。

いや、これだけの航空機を集中投入するために、あえて英国艦隊が領海内に侵入するまでまで手を出さなかったのだ。

ただ、ここでカニンガムや英国海軍作戦本部を責めてはいけない。

結局、彼らのゴールがマルタ島である以上、結果は変わらなかったのだ。

読者諸兄も御存知の通り、マルタ島に対してなら600機の航空攻撃をかける能力を既にイタリアは有している。

ただイタリアは、「300機で作戦目標達成には十分」と判断し、「マルタ島に到着させるより合理的な迎撃ポイント」を選んだに過ぎなかった。

 

空中集合や機体ごとの航続距離や滞空性能の差があるので、大きく分けて攻撃隊は三波に分けられた。

そして最初に飛んできたのは、MC.202(ファルゴーレ)Re.2002(アリエーテ)を中心とする戦闘機と戦闘爆撃機の混成航空部隊だった。

 

 

 

「ひゃっほーい!」

 

艦隊直上防空に当たっていたスクアに真っ先に飛び込み、喜び勇んで撃墜したのはたった1機だけ参加しているBf109E(エミール)、エーリカ・ハルトマンの乗機だ。

 

スペイン内乱のときには、まだイタリアに来る前で本国のヒットラー・ユーゲントに所属していた。

だが当時は、年齢的にまだ若いというより幼かったので戦場に出してもらえなかったハルトマンは、こうして初陣……実戦での「人生初の撃墜」を記録した。

 

先日の「マルタ島大空襲」にも爆撃機の護衛として参加はしていたが、その時には狩るべき獲物はマルタ島上空のどこにもおらず、結局初陣は飾れずじまいだったらしい。

瞬く間に今度はシーグラデュエーターを撃墜するあたり、彼女は早速将来の『イタリア最高の撃墜女王』として、国境をまたいで実兄と撃墜数を競うことになる片鱗を見せ付けたのだった。

しかし……

 

「ざーんねん」

 

ハルトマン……というより彼女の操るエミールの欠点なのだが、機内燃料も胴体内のタンクだけで主翼にはなく、また増槽を装備することが出来ないので航続距離がファルゴーレに比べてもかなり短いのだ。

この増槽導入前の初期型Bf109系共通の欠点は、史実でも”この世界”でも【英国直上防空戦(バトル・オブ・ブリテン)】の敗因の一つと考えられていた。

この時期(増槽搭載前)のBf109E型の航続距離は、搭載エンジンにもよりけりだが、平均して600km~700km程度。

だが、一回り大きなMC.202は機内燃料だけで900km以上、増槽を装備して経済巡航速度を用いれば1300km以上の航続距離を誇るといわれている。

 

 

 

余談ながら”この世界”では、その空戦性能の低さゆえにBf110が開戦前に初期生産分を除く全機キャンセルされ、代わりに同数のHe100Dが投入されていたので、途中からなんとか間に合った日本軍の増援がなければ英国は割と危なかったのかもしれない。

その初期生産分のBf110も時系列的には昨日始まったばかりのバトル・オブ・ブリテン(1940年7月10日~)に、メッサーシュミット社が得意の政治力を使いごり押しで参加させて復権を狙ったが、史実どおりに「航続距離以外に取り得なし。むしろBf109の護衛がいる」と散々な評価を既に二日目にして得られたようだ。

 

こうして見事なまでの役立たずっぷりを露呈させて後にヒットラーの大激怒を買い、メッサーシュミット社はBf109シリーズ以降のレシプロ戦闘機開発全てから外される事になり、唯一許されたのがまだ実験段階のジェット戦闘機の開発だった。

メッサーシュミット社は社運をかけてジェット戦闘機の開発に全力を傾注、これが大戦後半に連合軍を震撼させたMe262の開発と大量生産に繋がるのだから、世の中わからない。

 

とはいえ史実と違ってHe100Dを受け入れられDB601の優先安定供給指定を受けたハインケル社はハインケル社で、戦闘機の生産に加えて人気が高かった爆撃機の継続生産やP1080計画から発展した夜間戦闘機の開発(後のHe219シリーズ)、He178試験機から継続して受注したジェット戦闘機の開発(He280シリーズ)、イタリア海軍からの艦上機のバックオーダーを抱えてかなりあっぷあっぷな状態だったらしい。

なので他の航空機メーカーと話し合い、爆撃機はユンカース社、戦闘機はフォッケウルフ社と住み分けを図ったようだ。

 

 

 

***

 

 

 

機体特性と滞空時間の違いから、ハルトマンは最初から2機編隊(ロッテ)ではなく単機で戦うという手段をとったが、上記の理由で真っ先に戻る羽目になったのも彼女だった。

とはいえ、元々性能の劣る旧式機ばかりの上に戦闘機の搭載数の少ないイーグルだ。

後始末は残る36機のファルゴーレで十分だった。

そしてイタリア戦闘機隊は、瞬く間に上空に上がっていたシーグラデュエーターとスクアを喰い散らかしてしまう。

では第一波の残る60機以上のアリエーテは何をしていたのか?

ヒントは片翼に8発ずつ鈴なりに吊るしたRS-132ロケット弾だ。

そして低空から侵入し、艦艇の横っ面に飛び込むような機動を取ったアリエーテは……

 

”シュバンッ!”

 

水平飛行から次々と巡洋艦や駆逐艦にロケット弾を放つ!

 

 

 

「連中は何をしてるのでしょう?」

 

そう呟いたのは航空参謀だ。

有効的な手段を見出す前に航空隊が壊滅したために、どうやら手持ち無沙汰になってしまったようだ。

この時、英国艦隊は”輪形陣”を取っていた。

輪形陣とは、戦艦や空母などの高価値目標(HVU)を中心におき、その周囲を対空/対潜目的の巡洋艦や駆逐艦を円状に配して守るという、敵艦隊に加え航空機や潜水艦が発展し強敵となりつつある現代海洋戦において、最近注目されつつある陣形だ。

その最新トレンドを早速取り入れるあたり、流石は「現代海戦に関わることは大抵英国人が作った」と豪語するロイヤル・ネービーと言ったところだ。

 

だがイタリア人は戦艦や空母を狙わず、環状の外縁を形成する駆逐艦や巡洋艦に火矢を放っているのだ。

 

「判らんかね?」

 

カニンガムは苦みばしった顔で、

 

「被害極小だよ」

 

 

 

***

 

 

 

この『機動力の高い戦闘爆撃機(ヤーボ)によるロケット弾を用いての空対艦攻撃』こそが、イタリア空海軍が出した『航空魚雷攻撃の代替手段』の()()だった。

 

そもそも、バルケッタ・ムッソリーニ&イタル・バルボアのイタリア航空機界大物コンビやその他大勢の軍や兵器産業の重鎮の前で行われた「航空機による魚雷攻撃」の大々的な公開演習が行われたときの事だ……

 

『命中率3%以下か……』

 

回避運動を続ける欧州海軍としては極めて平均的な技量の()()()イタリア艦隊に対する空軍/海軍それぞれの航空隊の放った魚雷の命中率がこれだった。

 

『しかも投射後の作動不良も多い。投射時の母機の高度や速度の制限がシビアなんだな』

 

『オマケに魚雷の射程から考えれば、母機は敵艦の上空をフライパスするからな……対空火器の被弾も増えるだろう』

 

この二人、結論として出したのは……

 

『『魚雷が威力はあるのは認めるが、我が軍の対艦兵器には向かん!!』』

 

だった。

動作不良分まで含めれば実際の命中率は1%を切っていた。元々『航空機から投下してまっすぐ走らせる』航空魚雷は、安定したプラットフォームである水上艦や潜水艦発射型に比べてより技術的に難しいのは百も承知だし、また当時のイタリアには航空魚雷を搭載できる単発高機動の航空機はなく、大型の機体のみが使われたのもマイナス要素といえただろう。

だがそれを差し引いたとしても、いくら史実に比べてリビアのオイルマネーの御利益で圧倒的なほど潤沢な予算を持つ”この世界”のイタリア軍でも、有効弾の発生率が1%以下は許容できる数字ではなかった。

ただでさえ魚雷は、砲弾や爆弾のような他の無誘導使い捨て兵器より単価が高いのだ。

 

 

 

結局、イタリア軍は空海共に航空魚雷は「将来的に技術的ブレイクスルーがあれば使えるかもしれない兵器」という扱いで研究予算の捻出と継続開発にとどめ、より現実的な対艦攻撃手段をあらん限り考えることになる。

急降下爆撃はその最右翼だが、それだけではすぐに見破られてしまうので、それとは別の攻撃手段が求められたのだ。

 

その一つがソ連より製造技術や機材ごと大々的に輸入した空対地ロケット弾の対艦攻撃への転用だった。

要するに1機落されれば犠牲の多い大型機で当たりもしない魚雷を放つより、運動性の高いヤーボで単価の安いロケット弾をばら撒き、少しでも命中弾を出せればいいという発想だった。

 

もっともこれは本当に今はまだ榴弾弾頭の対地攻撃ロケット弾を軍艦相手に放つだけの方法で、現状でできる工夫は小型のRS-82(82mmロケット弾)ではなく、より大型でいくらか効果が高いことが期待できるRS-132(132mmロケット弾)を選択するくらいだった。

効果的な戦術の確立や対艦攻撃に向いた「半徹甲榴弾構造による威力の増大/ジャイロ安定装置+電波高度計による直進安定性と集弾性の向上/大型化により更なる射程の延伸/直撃+近接信管の採用による無駄弾の軽減」を狙った特化型高性能空対艦ロケット弾の登場は、もう少し時間が必要だった。

 

というわけで、現時点でこの攻撃で効果があるのは装甲がないに等しく「何が当たっても壊れる」駆逐艦か、巡洋艦の高角砲や機銃座などの軽防御ないし非装甲部分だ。

だからこそ、アリエーテは巡洋艦や駆逐艦を『移動する対空砲群』と捉え、それを真っ先に潰しにかかったのだ!

無論、後に続く第二波の攻撃をやりやすくするために、だ。

 

 

 

***

 

 

 

カニンガムの言った「被害極小」とはそういう意味である。

彼は優れた海軍提督であったが、同時に海の戦いしか知らないわけではなかった。

陸上基地を航空機で爆撃する場合は、機数に余裕があるのなら航空基地や防空陣地から先に潰すのがセオリーだ。

重点攻撃目標だけを集中的に狙うのは、あくまで機数に余裕のないときの非常手段で、対空砲火や迎撃戦闘機による味方の被害を考えるなら本来は避けるべき手段だ。

実際、圧倒的な兵力差を生かして『マルタ島大空襲』では被害極小のための措置が各地で行われていた。

 

もっとも別の言い方をすれば、イタリアの飛行機乗りは別に輪形陣の効果を知っていたわけではなく、手持ちのロケット弾で壊せるのが巡洋艦か駆逐艦しかないので、単にそれを狙っただけとも言えるのだが。

多分、大半のアリエーテ乗りたちの感想は……

 

「あれ? 駆逐艦や巡洋艦が円状に並べてあるぞ? 妙に狙い易いが……まあ、いいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

 

 

 

「悪い冗談だな……」

 

カニンガムは苦虫を噛み潰したような顔で呟く。

敵のロケット弾攻撃は斧で断ち切ったような唐突さで終わりを告げたが、その損害は想像以上に酷かった。

逆に言えば、イタリア人の放ったロケット弾は、英国人どころか放ったイタリア人の想像以上に命中し、英国艦隊に重篤な損害を齎せていたのだ。

そもそもRS-82/132ロケット弾は「航空機で戦車を撃破する」ことを目的に作られた兵器で、対戦車兵器としての命中精度はイマイチでも、的が信じられないほど大きいな対艦攻撃に転用するなら話が変わってくる。

しかもいくら巡洋艦や駆逐艦の回避力が高いといっても、それは速度がさして変わらぬ魚雷や基本的には直線方向の点攻撃である爆弾相手の話で、水平方向から亜音速で飛んでくるロケット弾はいくらなんでも考慮されていない。

 

発射母機の回避運動を考え平均4~5kmの距離で放たれたロケット弾は、十分な加速を得て装甲(ドレス)の薄い、あるいは全裸の巡洋艦/駆逐艦群(かのじょたち)に襲い掛かったのだ。

 

 

 

ここでいくつかの不幸がアレキサンドリアから航海して来た艦隊に訪れた。

まず、英国の巡洋艦以下の艦は植民地警備を任務に加えてるために航続距離と航洋性を優先した装甲防御を犠牲にしてる部分がある。

またロケット弾など見たこともない対空火器要員は、発射母機とロケット弾のどちらを狙ってよいのか判らず混乱、結局多くの命中弾を許してしまう結果となった。

 

そして最悪だったのが、RS-132の有効射程はカタログスペック的には約7kmであり、接触信管により炸裂したロケット弾の多くにはまだ推進剤……固体ロケット燃料が残っていたことだ。

そして炸裂と同時にばら撒かれた固体ロケット燃料は、焼夷弾と同じ効果を出し周辺に火災を引き起こした。

この時代の代表的な固体ロケット燃料は『ダブルベース火薬』と呼ばれるもので、主成分はニトロセルロースとニトログリセリンとなっている。

焼夷効果は十分に期待できた。

 

 

 

***

 

 

 

船舶火災とは実に厄介なもので、爆発により消火設備やダメコン用の機材や要員が破壊されたり吹き飛ばされたのなら特にそうだろう。

そしてこの時、不運にも消火あるいは鎮火に失敗して弾薬庫に火が回ったり、更に運悪く魚雷に直撃したり高角砲弾が誘爆したりなどが重なり、()()()()()()()()()()()轟沈した船はなかったものの、巡洋艦1隻と駆逐艦3隻が既に爆沈しており更に5隻に退艦命令が出ていた。

もはや無傷の巡洋艦や駆逐艦は存在しておらず、無事なのはアリエーテの群れから無視される形となった2隻の戦艦と1隻の空母だけだった……

 

(撤退するか……)

 

大物を除けば、既に戦力の大半は喪失しているのだ。

まさか戦艦や空母を丸裸で、このまま敵地を進ませるわけには行かなかった。

 

しかしカニンガムが何かを命じる前に、

 

「敵編隊、第二波来襲っ!!」

 

悲鳴のような報告がブリッジに響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
イタリア空軍がロケット祭りでヒャッハァァァ――ッ!(?)するエピソードは如何だったでしょうか?

魚雷が当たらないからロケット弾攻撃に切り替えたけど、でもまだ空対艦用の本命はできてないのがイタリア軍らしいというか(笑)

それにしてもはしゃぐハルトマンがなんだか可愛いと思ってしまいました(^^
実はこの戦いが初陣になるんですよね~。
マルタ島のときは既に落すべき英国機は残ってなかったみたいだし。

次回は急降下爆撃機乗り時代の赤パン登場かな?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



RS-82/132空対地ロケット弾(イタリア軍仕様)

RS-82
本体直径:82mm
全長:600mm
重量:7kg
炸薬量:0.4kg基準
最高速度:340m/s
射程:6km

RS-132
本体直径:132mm
全長:850mm
重量:23kg
炸薬量:1kg基準
最高速度:340m/s
射程:7km

備考
1930年代後半、友好国であるソ連からイタリアが製造設備/機材ごと正規輸入/製造している空対地ロケット弾で、1939年末に制式化&量産されイタリア軍には既にある程度まとまった数が配備されてる模様。
性能はほぼオリジナルに準ずるが、いくつかの改良点がある。

・交換式弾頭とユニット構造
ソ連は膨大な量産能力を生かして徹甲弾使用のBRS-82/132や破片効果弾頭のROFS-132など弾頭に合わせたロケット弾を製造したが、イタリアは生産効率を考え、ロケットモーター部、弾頭部などそれぞれユニットで製造し最終工程で結合する構造に改められており、基本筐体に複数種類の弾頭を組み合わせるロケット弾の種類ではなく弾頭の種類でバリエーションを増やす方式になっている。

・アルミ製ショート・ガイドレールの採用
オリジナルがかなり長い鋼製弾道安定レールを使用しているのに対し、空気抵抗や装備重量を増やしたくなかったイタリアは、ロケット弾の弾道が安定する最低限のレールランチャー長さを割り出すと同時に軽量なアルミ合金で製作することにより空気抵抗の低減と軽量化を測っている。

・推進剤の改良
固体ロケット燃料に黒色火薬ではなくニトロセルロースとニトログリセリンを原料とする『ダブルベース火薬』が用いられていて、弾道安定性を含む性能の安定に寄与している。

などがオリジナルとの大きな違いだ。
このRSシリーズは大戦中に猛威を振るうことになるイタリア空海軍のロケット弾の出発点となる物であり、以後、RSシリーズの正常発展型といえる空対地モデル、命中率や実用性が悪すぎたために航空魚雷を諦め、代替手段の一つとしてより大型/高威力/長射程になっていく空対艦型、そして対大型爆撃機用の空対空型など分化していく一連のロケット兵器シリーズのマイルストーンとなった。

ソ連が逆に種類を絞りより大量生産に邁進し、ドイツが誘導弾の開発に向かう流れと比較してみるとイタリア軍のロケット開発は面白いかもしれない。






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