ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ~。
今回のエピソードは……一応、カラブリア沖海戦のラストステージになります。
早くも満身創痍の英国アレクサンドリア艦隊は、果たしてマルタ島に辿り着けるのか……?





第11話 ”遠すぎた島 CODE1940”

 

 

 

「ああ、いい天気だな……」

 

その日、1940年7月11日……マルタ島が目視できる目前まで進んだ英国戦艦”ウォースパイト”の甲板上でイギリス人が大好きなポムポム砲の装填手、ジェフ・オマリーは迫りくる雲霞の群れごときイタリア機群を見ながらそう呟いた。

 

(ホント、死ぬにはいい日だ……)

 

敵の一部、目視で半分よりちょっと少ないくらいか?

名前の知らない空冷戦闘機が群れから別れ、リプレイするように低空から侵入してくる。

翼下に見える火矢(ロケット)は1発1発の威力は確かにないが、まとめて喰らうとボディブローのようにじわじわと利いてくる。

実際、直撃を浴びても()()()()()()()()()()()()()はないが、厄介な船内火災や高角砲弾/機銃弾や魚雷、爆雷の誘爆を引き起こし、駆逐艦や軽巡洋艦の大半は半死半生だった。

そして弾薬庫や燃料庫に火が回り爆沈した船、既に火の勢いに手のつけようが退艦命令が出た船も多い。

 

とはいえオマリーの見立てではロケット弾の威力はいいとこ駆逐艦の砲弾レベル、短時間で集中的に喰らったからこそこれだけ味方の被害が出たが、あの程度の威力では100発喰らったところで戦艦の分厚い装甲を射抜いて重点防御区画(ヴァイタルパート)の内側にダメージを届かせるとは思えない。

 

とはいえ、自分は残念ながらヴァイタルパートの外側どころか戦艦の表面に張り付いてる。

きっと細切れにされるんだろうなと思っていた。

 

もっとも、予想に反してオマリーはこの海戦を生き残り、89歳までの長寿をまっとうした上に戦後と呼ばれる時代にこの【カラブリア沖海戦】にまつわるノンフィクション作品を書いてベストセラー作家の仲間入りを果すのだが……それは彼の想像の範疇外にある未来だった。

 

 

 

***

 

 

 

第二波は、第一波と少々航空機の編成が変わっていた。

戦闘爆撃機のRe.2002(アリエーテ)は40機ほどで、残る半分以上の機体がBa.201急降下爆撃機(トゥフェッティ)だった。

明らかに英国艦隊に防空戦闘機がいないことを見越した編成であり、万が一にも生き残った迎撃機がいたら数機のアリエーテがロケット弾を目標にアバウトに照準をつけて投棄、航空制圧にかかる手はずだったに違いなかった。

 

40機のうち先行していた10機ほどのアリエーテが2機編隊(ロッテ)を組み、まだ比較的余力がありそうな駆逐艦や巡洋艦に向けてロケット弾を放つ。

対艦攻撃までロッテを組み互いのカバーをしながら攻撃ポジションに着くとは、”この世界”のイタリア軍は中々に徹底している。

 

彼らには「撃沈できるかっ!?」というような期待に満ちた高揚感はない。

イタリア人にしてはドライに聞こえるかもしれないが、本来の彼らは『マルタ島大空襲』において対空砲座の鎮圧を命じられていた部隊だ。

主任務は「敵艦を沈めること」ではなく「邪魔な対空砲を黙らせること」だと心得ている。

 

そして彼らは本来の任務で想定されていた的に比べたら遥かに巨大な標的(てきかん)に火矢を放ち、攻撃機から戦闘機の任務を担うべく発射機動から上空に離脱し、敵対空砲の射程外でエアカバーについた。

彼らに残された武器は1機あたり4丁の13mm機銃しかなく、敵が航空機を飛ばさない限り出来る任務はなかった。

 

 

 

では、残る30機と言えば……

 

「いよいよ来たか」

 

英国アレクサンドリア艦隊の提督、カニンガムは感情が伺えぬ鋭い目線で左舷より迫り来るアリエーテのロッテ×2、いわゆる2分隊4機からなる”飛行小隊(シュヴァルム)”を見ていた。

 

(驚くほどの技量ではないが、悪くない腕だ……)

 

英国人の裏の得意技である負け惜しみではない。

鈍足な旧式複葉機……ソードフィッシュで魚雷を運び敵艦に命中させる英海軍のパイロットを見慣れてるカニンガムにとり、英国人らしからぬ素直な評価だった。

 

そしてRS-132ロケット弾32発が僅かな時間差を置いて一斉発射される!

 

 

 

***

 

 

 

「予想はしていたが……やはり命中音はともかく、衝撃は感じないものだな」

 

ブリッジにホッとした空気が流れた。

まがいなりにもウォースパイトは38cm砲での殴りあいを前提に建造されたクイーン・エリザベス級戦艦の2番艦である。

船の防御力重大要素、船の浮力の基準となる排水量も基準で軽く30,000t以上もある。

対してRS-132は速度こそ最大で亜音速と中々立派なものだが、所詮は全体重量23kg&内蔵炸薬量1kgの榴弾頭に過ぎず、当然のように古くても戦艦をどうにかできるような武器じゃなかった。

まさか”鋼鉄の化物(レヴァイアサン)”をナイフで仕留められると思うものはいまい。

それが例え、的が大きかったせいとその大きさゆえに回避運動が自体が鈍かったせいで、32発中21発が命中という無誘導時代の噴進兵器としては中々驚くべき高い命中率をイタリア人のロケット弾が出したとしてもだ。

無論、対空機銃座や高角砲、探照灯やレーダーのアンテナなど戦艦にも構造的に非装甲にせざるえない部分はごまんとあり、運悪くそこに命中したロケット弾はそれなりの被害は出してるだろう。

だが、弾薬庫や主機が納められたヴァイタルパート内部には歪み一つ発生させず、ウォースパイトは「戦艦としての戦闘力」に関しては小揺らぎすらしてなかった。

それは僚艦である同級戦艦のマレーヤも同じだ。

 

無論、左舷の攻撃が終わればお次は右舷だとばかりにアリエーテのシュヴァルムが再びロケット弾攻撃を敢行!

しかし、結果は同じでいずれにせよ戦艦としての機能を奪うには至っていない。

無論、カニンガムもアリエーテ隊の意図には気付いている。

 

「対空砲潰しか……確かに我々の自慢の主砲は、航空機相手には無力だな」

 

「今後、改善策を考えねばならないかもしれません」

 

このエピソードがきっかけとなって、英国海軍は日本製の某対空拡散砲弾の導入と英国面的改良を真剣に検討するようになるのだが……それはまた別の話だ。

 

「対航空火器の再考も必要だろうな。こうも対空砲火が当たらないとは……」

 

英国海軍にとって非常に残念なことに、第一波/第二波と続いた攻撃の中で撃墜できたイタリア機は10機に届くかどうかというレベルだった。

当然、これには理由がある。

本来、輪形陣とは空母や戦艦などの高価値目標を中心に置き、その周囲に円周上に駆逐艦や巡洋艦の護衛艦艇を配し、敵が航空機の場合は高価値目標に近づこうとする敵を艦隊直援機と護衛艦の対空砲火で磨り潰すという発想で考案された陣形だ。

だが、イタリア人たちはその裏をかくように圧倒的な航空優勢を生かして、輪形陣の核となる()を真っ先に潰しにかかってきたのだ。

 

(イタリア人を散々挑発して仕掛けてみれば、この体たらくか……)

 

「笑えんな」

 

カニンガムは()()()()()()()()()()()()()()、イタリアの戦力評価を上方修正するように軍上層部にねじ込む覚悟を決めていた。

 

もっともイタリア人はカニンガムが予想したように「輪形陣の裏をかく」という思考からではなく、「魚雷が実戦での効果を期待できないから、代わりに積んだロケット弾でダメージ与えられそうなのが巡洋艦以下の船でしかないから、壊せるものからとりあえず壊す」という発想から来ているのであるが。

もっとも、イタリア人の発想を知ったところで現状が変わるわけではないが。

 

「さてこちらの対空砲の大部分を潰した以上は、次に来るのが本命かな?」

 

 

 

***

 

 

 

 

 

だが、そう呑気に構えていられなかったのは搭載機を全て失った上に戦場よりの退避が間に合わなかった空母のイーグルだ。

やや小ぶりで平べったいからロケット弾が当たりにくいと判断されたのか?

残る全てのアリエーテが襲い掛かり、100発以上のロケット弾に狙われたのだ。

お陰ですぐ沈むほどではないにせよ船体は随所で物理的に絶賛炎上中。

このまま鎮火に成功しなければ、そう遠くないうちに弾薬庫か航空燃料タンクに火が回りそうだった。

そうなれば一巻の終わりだということがわかっていた乗組員達は、不倶戴天の覚悟でダメージコントロールに勤しんでいたが……

 

「て……敵機直上! 急降下爆撃機(スツーカ)ですっ!!」

 

見張員の声が悲痛に響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

この時の様子を、偶然にも急降下爆撃機隊の一番槍を務めることになった”フェルナンディア・マルヴェッツィ”は語る。

 

『正直に言えば、そんなに大変なミッションには思えなかったのよ。私にはイーグルがあちこち火を吹いて瀕死に見えたしね。だから気分的には早く止めを刺して楽にしてあげたほうがいいかな?って思ってた』

 

イタリア軍の急降下爆撃による対艦攻撃のドクトリンは、ロッテもしくはシュバルム単位で左右から艦を挟みこんで一斉ないし僅かなタイムラグを開けて投弾する”挟叉爆撃”を基本としていた。

的が大きくなる横から狙うのはセオリーだし、挟叉投下すれば確率的にいつか命中弾は出るのだから問題ない。

また、標的艦が左右どちらに舵を切っても命中弾が期待できるので投下機に損はない。

 

この時、風は凡そ艦首から艦尾にかけて流れており、イーグル自体の速力と相まった合成風力により被弾煙は後方に向けて流れていた。

 

フェルナンディア率いる”パンタローニ・ロッシ(赤パンツ隊)”所属のBa.201”トゥフェッティ”8機は、煙で艦首方向から近づき敵の残存対空砲に捉えられる前に左右に展開……

 

「全機、Avanti(突撃)!」

 

艦首から艦尾に対角線を描くような斜めに横切るコースで急降下。

僅かなタイムラグを開けて1()6()()の250kg半徹甲対艦航空爆弾を投下する!

 

 

 

***

 

 

 

スペックシートによれば、Ba.201は500kg爆弾×1ないし250kg爆弾×2を抱えての急降下爆撃が可能な機体だ。

そしてイタリア空軍は旧式空母で板張りの飛行甲板を持ち、決して現代の基準では耐弾性が高いとはいえないイーグルに、500kg級の対艦爆弾は威力過剰(オーバーキル)と考えたらしい。

オーバーキルなデカイの(500kg)1発落すより適切な威力の250kg弾を2発積んで、確率を2倍にしたほうがいいと……

 

イタリア軍の考え方は、「1発の高威力弾で急所必殺を狙うのはスナイパーの仕事、そこまでの腕のない俺たちはとりあえず弾を当てて相手の出血多量を狙う」だろう。

これはさっきのロケット弾攻撃にも当てはまるが、あっちの発想は「当たれば凄いが当たらない魚雷でラッキーヒットを狙うより、威力は低くてもとりあえず当て易いロケット弾を使って手数で勝負する」となる。

なにやらマフィアのヒットマンやストリートファイトの指南のような気がしないでもないが……イタリアは自分達の技量を鑑みて、()()()()()()()ことに「堅実にダメージを与え続ける」方法で戦争(ケンカ)に勝とうとしていたのだった。

 

そして、ここには一つの真実がある。

人も船も、急所への一撃でも死ぬが出血多量でもまた死ぬのだ。

 

 

 

Colpisca!(命中!) Ottimo!!(やったぜっ!!)

 

急降下後の急上昇をするコックピットの中で、思わずガッツポーズをとるフェルナンディア。後席の無線航法手兼機銃手と互いにサムズアップ!

 

パンタローニ・ロッシの放った重量250kg……強化ニッケル合金鋼弾殻の先端に重金属の貫通体(ペネトレーター)を仕込み、空いたスペースには接触作動の遅延信管と保険の時限信管、そして可能な限りの炸薬を充填した”対艦半徹甲弾”は、16発中5発の直撃と多数の至近弾を出し、決して装甲の厚くないどころか木製飛行甲板のイーグルを浮かぶスクラップに変えた……

飛行甲板突き抜けて、その内側の格納庫やらなにやらの可燃物密集区画で爆発したのだから無理はない。

 

無論、急降下爆撃はこれで終わったわけではなく、弱ったところに間髪入れずに第二波の8機、第三波8機の急降下爆撃が追い討ちをかける。

ダメコン処置をする間もなくまたしても立て続けに直撃弾を受けたイーグルは、ついに耐え切れずに大爆発を起こし轟沈する……

こうしてイーグルは、英国最初の喪失空母になると同時に「史上最多の命中弾を浴びて沈んだ空母」として海軍関係者やマニアの記録と記憶に残ることとなったのだった。

 

 

 

***

 

 

 

ロケット弾攻撃に加え合計24機三波の急降下爆撃を受けたイーグルは、あっという間に海の藻屑となった。

だが、上空にはまだ30機以上のBa.201が滞空しているのだ。

もちろん、彼らは爆弾なんて危険物をわざわざ基地まで持ち帰る気など毛頭なく、迷うことなく落とし先を……辛うじて損害軽微だった2隻の戦艦に狙いを絞り襲い掛かったのだ。

とはいえ、流石は全ての軍艦の中で最強のタフネスっぷりを持つ戦艦、数多くの直撃弾を浴びながらも中破判定にとどめ、未だヴァイタルパートの中まで達するダメージは受けてなかった。

ここは”老嬢”などと呼ばれながらも、未だ現役のクィーン・エリザベス級戦艦の頑強さをほめてもいい。

 

 

 

「流石に急降下爆撃はロケット弾ほど軽く防ぐとはいかなかったか……」

 

上部構造をめちゃくちゃに破壊され、煙突にも損傷を受けて機関爆発を起こさぬよう速度制限は加わってしまったが、主砲をはじめ戦艦としての戦闘力を失ってない乗艦の打たれ強さに改めて感心するカニンガムであった。

 

イタリア空軍の二波合計約200機の空襲は、唐突に終わりを告げた。

航空機による轟沈判定を喰らったのは哀れな空母イーグルだけだったが、弾薬庫に火が回ったりなんだりで既に9隻が爆沈もしくは総員退艦の上に雷撃処分命令がされており、また3隻が未だ総員退艦続行中だった。

無傷の幸運艦なんて御伽噺はここにはなく、ただマルタ島救難のために編成されたアレキサンドリア艦隊が事実上、壊滅したという味気ない現実だけがあった。

 

だが、ふと気付かないだろうか?

そもそもイタリアの航空隊は「3()0()0()()()()()」で英国艦隊の迎撃に向かったはずだ。

更に未だ姿を現してないイオニア・カンピオーニ中将率いる”タラント艦隊”はどこにいったのだろうか?

答えは艦隊首脳部の一人が運んできたようだ。

 

「提督」

 

艦隊参謀長は敬礼しつつ隠しきれない沈痛な面持ちで告げた。

 

「ジョンストン・トーヴェー中将より入電です。『我、有力ナ敵艦隊ニヨル攻撃ト航空隊ノ大規模ナ空襲ヲ受ケリ』……以上です」

 

 

 

どうやら”この世界”に住むイタリア人たちは、海軍の在り方や海の戦争のやり方を忘れてはいなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さほど難しい話ではない。

国土と領海の防衛を最優先とする沿岸海軍ならともかく、重商主義型海洋国家における海軍の本質とは「自国の通商船団の自由で安全な航行を確保し、敵国通商船団の航行を阻害する」ことであり、通商破壊作戦(トレーダーレイド)船団護衛任務(トレーダーエスコート)がその原点と言っていい。

 

制海権とは本来、国際法で定められた自国の領海を含めた、「好きな時に好きな海を好きなだけ船を走らせることが出来る権利(ちから)」であり、その任意で使える海の面積を確保するために艦隊は整備されるのだ。

 

それを見誤ってなかった戦争指導者(コンドティエーロ)バルケッタ・ムッソリーニとイタリア海軍お偉いさんは、最初からタラント艦隊の主目標(ターゲット)をトーヴェー中将率いる船団護衛艦隊(エスコートフリート)と、それに守られたマルタ島への救援物資を満載した「英国輸送船団」に絞っていたのだった。

 

 

 

だからこそ、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」が与えられたカニンガム艦隊は、とりあえず航空機による二波の先制攻撃でダメージを与え、殲滅よりも”足止め”を重視されたのだ。

広域索敵にロングレンジ攻撃が可能な空母(イーグル)は、どこで邪魔をしてくるかわからなかったために最優先で潰したが、他の船に関しては「航空攻撃で沈められれば御の字」程度の認識だった。

無論、イタリア軍もケッタも航空攻撃だけで終わらせる気はなかったが。

 

 

 

***

 

 

 

カニンガムはこの時、英国人らしからぬ……いや「七つの海を統べる」と豪語する英国人ならではのミスを犯していた。

そう、アレキサンドリア艦隊(かれら)は、自覚はあっても大きな危機感がないままに敵地に近づき過ぎていたのだ。

 

 

 

ナポレオンの失脚以降、確かにマルタ島は英国領であり続けた。

マルタ島以外にもアレキサンドリアとジブラルタルという二大軍港に加え、キプロス島という拠点を持ち、そこにイタリア海軍ごとき即座に粉砕できるだけの艦船を持つ英国人ならば地中海を”我らの海”と考えてもおかしくはない。

 

だが、いつから英国人(かれら)は思い違いをしていたのだろうか?

もしかしてマルタ島をあまりに長く占有していたからこそ、危機感が麻痺してしまっていたのかもしれない。

だからこんな単純なことも忘れていたのだ。英国に宣戦布告した1940年7月7日以降、地中海全域はともかく慣習法的解釈で定められたイタリア王国の領海は”()()()()”となっていることに、だ。

アレクサンドリア艦隊とイタリア本土との距離は、航空攻撃からの回避運動の為に今や50kmを割っていた……

そして、この距離ならば沿岸防衛用の300t基準級小型潜水艦や、史実ではある意味においてイタリア海軍最強の艦艇だった”MAS(魚雷艇)”のテリトリーだったのだ。

 

 

 

輪形陣は本来、空母や戦艦などの高価値目標を敵航空機だけでなく潜水艦よりの防衛も考えたものだ。

しかし、アレキサンドリア艦隊はとっくにその輪形陣が破綻してしまっている……

 

その中で領海/港湾警備名目でカラブリア半島の各港、シチリア、タラント近郊に配備されていた30隻以上のMASが、その40ノット以上を誇る最高速を生かし水上の高速戦闘機のように接近、1隻あたり2本搭載している標準のG7/533mm魚雷より小ぶりな450mm魚雷を次々とまだ深手を負っていない2隻の英国戦艦に放った!

 

だが、イタリアの魚雷艇乗りが驚いたのは、まだ()()()()()()()()()だけにしか見えなかった……搭載火器のほとんどを航空攻撃により破壊しつくされ、高速小型な魚雷艇に有効な対抗手段を喪失した巡洋艦や駆逐艦が立ちはだかったのだ。

 

史実では「イタリア海軍人の勇気は、排水量に反比例する」と事実とも冗談とも取れない歴史的評価を持つ勇敢な魚雷艇乗りも、流石にこの行動には驚いた。

 

MASからの雷撃を邪魔するために射線に入り、残されたなけなしの火器を……それこそ船内に備品やあるいは私物として装備された小銃や拳銃まで持ち出し、雷撃を妨害しようと試みる英国海軍の船乗り達……

 

「やらせん! 戦艦をやらせはせんぞっ!!」

 

自ら傷ついた船体(ハル)を魚雷の射線に飛び込ませ、戦艦を守り轟沈する駆逐艦を見たとき、ある佐官はこう呟いたそうだ。

 

『流石は海賊の末裔であることに胸を張るロイヤル・ネイビー。天晴れなり!』

 

海軍人として、何より戦う船乗りとして感心と感銘を受けたイタリア魚雷艇部隊は、傷ついた今もなお戦艦をアレクサンドリアに帰港させることを諦めてない小型艦を強敵と認めた。

ひょんなことから魚雷艇戦隊の臨時指揮官を任されたヴォルケーノ中佐は、同じ戦いに生きる海の漢として深く共感するものを感じながら命じた。

 

「全艇に告ぐ! 敵はどれほど傷ついても海賊の末裔である矜持は忘れていない! なれば我らは全力をもって相手するのみ! 優先攻撃目標を、”残存護衛艦群”に変更せよ!!」

 

 

 

***

 

 

 

こうして後に伝説的な色彩すら持ち語られる、アレキサンドリア艦隊の最後の輝きの瞬間が訪れた。

標的が小さく速いために容易に当たらないことを承知で主砲を放つ戦艦に、満身創痍でありながら最後は時代遅れのラム・アタックじみた体当たりまで用いてMASと戦おうとする英国巡洋艦/駆逐艦の生き残り達……

 

そんな手負いの獣のような相手にMASは全力で挑み……そして1隻1隻を葬りながら、沈み逝く姿に静かに敬礼を贈った。

 

 

 

だが英国紳士達にとり残念だったのは、彼らの奮闘が結局は実を結ばなかったことだろう。

たしかにMASが魚雷を放ち終えるまでウォースパイトもマレーヤも大きな損傷を受けた様子もなく地中海に浮かんでいた。

いや、むしろ尊い犠牲と献身を無駄にしないためにも、2隻の戦艦は軽やかとは呼べないまでも可能な限り速やかに撤退へと移っていたのだ。

 

だが、何とか生き残り救命筏や脱出艇、浮き輪や浮遊物にしがみついている英国王立海軍将兵達の前でそれは起こった……

唐突に水中に幾つもの雷跡が現れ、真っ直ぐに鈍足な戦艦へと伸びてゆく姿を……

 

「ああっ、神様……」

 

ある兵は天に祈ったが、その願いはついに聞き遂げられることはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

速力の関係で時間差を置いた形で水中からG7a型魚雷を放ったのは、もう一つの刺客である沿岸型300t基準級潜水艦群だった。

 

UボートⅡ型を原型(ベース)に建造された、別名”潜水魚雷艇”とも呼ばれた小型潜水艦は1隻あたり3門の魚雷発射管と6発の魚雷を内蔵していた。

そしてMASが引っ掻き回してる間に、この海域には既に20隻を越える300t級が集結しており、それぞれ最適と思われる位置から魚雷を放っていたのだ。

 

戦いが終わるまで……浸水に耐えかね、2隻の戦艦がどこか英国の古城を思わせる巨大な船体を地中海に没するまで放たれ、まともに作動した魚雷は100発を越えた。

そのうちの2割が2隻の戦艦に命中したといわれている。

 

 

 

自らの愛艦が沈む様を、敗残の将という立場で救命艇(カッター)から見るカニンガムの心境はいかなるものだったのだろうか?

結局、この後に他の生存者共々やってきたイタリア海軍の海防艦(コルベット)に救助され、捕虜生活を経て戦後に無事英国へ戻った彼が、この海戦について多くを語ることは終生なかった。

 

『結果は私じゃなくても優秀な研究者や専門家が証明してくれるだろう。老兵の口から新しい時代の戦争を語るなどおこがましい』

 

が帰国した彼の口癖だった。

代わりに彼が戦後に語ったのは、捕虜生活時代の料理の旨さについ食べすぎ、運動不足と相まってメタボ気味になってしまったなどの日常のエピソード(この時捕虜になり戦後帰国した英国海軍将兵は軒並み体重が増加していた)と、その時に生活態度の改善を口を酸っぱくして注意したイタリア人看護婦……歳若の今の妻の話だったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

こうして後に三つの海戦を総称して【カラブリア沖海戦】と呼ばれることになった戦いの第1ラウンドはその戦いの激しさに反して静かに幕を閉じた。

 

本来、この戦いは『旧時代(第一次大戦)の海の王者が、航空機や潜水艦という新世代の兵器や小兵の魚雷艇に負けた』というセンセーショナルな事例で語られなければならなかった。

だが、残る二つの海戦の派手さに隠れ、この戦いの教訓は「イタリア本土に近づきすぎた英国海軍の失策に起因する特殊事例」と考えられ、再検証が行われるにはいくばくかの時を必要とした。

 

結局、航空攻撃で()()()()()()()()()()()()したのは空母イーグルだけで、他は航空機と魚雷艇と潜水艦の「圧倒的な多数による連携攻撃の結果」と認識された。

 

むしろ驚くべきはイタリア軍がそれだけの戦力を集中させ、効率的に運用できたという事例であり、魚雷艇や潜水艦の魚雷攻撃による大型艦の撃沈例は第一次大戦でも、始まったばかりの独英戦でもあるのでさほど特別視はされなかった。

 

影響があったとすれば、イタリアが誰もが想像するより戦力集中/投入/運用が上手く、国家としての戦力評価が各国で上方修正されたことと、英国で急降下爆撃では容易に撃沈できない装甲空母の実用化に拍車がかかったくらいだろうか?

 

だが総じてアレクサンドリア艦隊の壊滅という事象が、米英の大艦巨砲主義に影響を与えることはなかったようである。

逆に【カラブリア沖海戦】と総称される二つの戦いとその結果が、ますます米英の戦艦至上主義を強化してしまったのは歴史の皮肉といえよう。

 

そう、新鋭イタリア戦艦2隻を中核とするタラント艦隊は、その持ち前の大火力と100機の航空機と通商破壊用の800t基準級潜水艦の群狼戦術(ウルフパック)との連携集中攻撃を存分に生かしマルタ島へ向かう護衛艦隊と輸送船団を壊滅させ、陽動のジブラルタル艦隊は損傷艦多数だが中でも空母アークロイヤルだけが()()()()()()となっていたのだ……

 

 

 

史実と大幅に異なる様相を見せた……合計3つの海戦が行われ、その総称として【カラブリア沖海戦】と名づけられたこの戦役は、英国地中海艦隊のほぼ一方的な敗北という予想外な結果で幕を閉じた。

 

イタリア艦に救助されまずは着替えと暖かいカプチーノを用意されたカニンガムは、輸送船団とそれを守る護衛艦隊の壊滅と陽動のH部隊がダメージを受けての撤退の報を聞いた時、こう呟いたという。

 

「あの島は、我々には遠すぎたのだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
史実と大幅に異なる経緯と顛末を迎えたカラブリア沖海戦は如何だったでしょうか?

実はサブタイ、「遠すぎた橋」のパロディだったりします(^^

何気に大活躍のフェルナンディア&赤パン隊♪
アーク・ロイヤルもですが、ここでイーグルを沈めとくのは、チャーチル涙目以上に後々響いてきそうです。

それとどうしても書きたかったのは、「勇気が排水量と反比例する」とまで謳われた史実イタリア海軍の武勲艦艇”MAS”シリーズの活躍でした♪

さてさて、次回くらいにはアンチョビ再登場かな?
とはいえ話があちこち飛ぶのがこの外伝シリーズの特徴ですから(笑)
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



MAS魚雷艇シリーズ

全長:18~20m
基準排水量:33t前後
最大出力:2400馬力×2(ディーゼル・エンジン、2軸推進)
最大速力:43ノット
航続距離:43ノットで395km
武装:ブレダM35/20mm65口径長機関砲連装×1
   ブレダMG38/7.92mm機関銃×2
   450mm魚雷×2
   小型対潜爆雷投射装置

備考
史実では「第二次大戦のイタリア海軍最強艦艇」の呼び声高い”Motoscafo Armato Silurante”、通称”MAS”と呼ばれる魚雷艇。
オリジナルよりほんの僅かに武装が強化されているが基本的な特性は変わらず、現代の感覚では「武装を施したトレジャーボート」のような感じである。

本来なら狭いアドリア海での使用を想定され、地中海で使うには「航続距離も短く小さすぎる」という評価がされ、地中海に面した海軍基地や港には基本的には港湾近辺での警備任務(パトロール)をメインに使われていた。
しかし作中では英国アレクサンドリア艦隊がイタリア本土に異常接近したために緊急出動の命令が下り、その持ち前の高速性能を生かして素早く海戦域に駆けつけ、予想外の大活躍をしてみせた。

ただ、このような使い方はあくまで例外で、本来ならばドイツのSボートを規範とする100t級の”MS水雷艇”が行うべきミッションをこなしたという感じだろう。
実際、この時にカラブリアの各港やタラントに配備されていたMS水雷艇は、より遠くにいた輸送船団の迎撃に向かったようだ。






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