ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ~。
今回のエピソードは……女の子パイロット達が新規登場です(^^
思いついたまま徒然なるままに本編では回収やらフォローできない()()のエピソードをパッチワークしていこうと思って書き始めたエピソード集ですが、いよいよ話が膨張してきたなぁ~と(笑)





第13話 ”ルフト・フロイライン細腕空戦録 CODE1940”

 

 

 

戦争というのは始まってしまえば、常にめまぐるしく慌しい。

現在、エピソードに関わってきてる1940年の出来事だけでも……

 

5月26日-6月4日:ダンケルク撤退戦

6月17日:仏政府、英国ロンドンに亡命。

6月21日:フランス降伏。ヴィシー政権樹立。独ソ伊即日承認。

6月22日:占領地政策としては甘めの独仏休戦協定、伊仏()通商/協商条約締結

6月23日:英国はヴィシー政権を正統フランス政府の認定を拒否。ドゴール、亡命先のロンドンにて正統フランス政府を標榜する”自由フランス”の樹立を宣言。ヴィシー政権、ドゴールに重国家反逆罪で死刑宣告。

7月2日:メルセルケビール海戦、勃発

7月7日:イタリア、イギリスに宣戦布告

7月10日:英国本土直上防空戦(バトル・オブ・ブリテン)、開幕

7月11日:カラブリア沖海戦、勃発

 

もう何やら既に満腹感があるが……

 

とりあえずドイツのヒットラー、ソ連のトロツキー、イタリアのムッソリーニ、そしてヴィシーフランス首相のペタンは、連名ででドゴール政権を「フランスの国名を僭称する詐欺師のドゴールと敗戦の責任も取らず、国民と国土を見捨てて逃げ出した卑怯者の集団。国際指名手配の上に断罪されるべき犯罪者」と、要約すればそんな内容の世界各国のマスメディアの前でケチョンケチョンに罵ったコメントを発表。

 

しかもこの時、ドゴールが国防次官兼陸軍次官という名目で閣僚を務めたレノー政権の失態、例えば対独戦勃発時の参謀総長ガムラン大将の解任理由が梅毒による思考力の低下などといったスキャンダルをフランスに残っていた資料を基に次々に暴露し、彼らの権威を失墜させた。

 

これに加えて、英国H部隊(ジブラルタル艦隊)による「メルセルケビール海戦」もまた輪をかけて英仏関係を悪化させていた。

確かにフランス艦船がドイツに接収、あるいはイタリアに売却されることを恐れるあまり「敵に回るくらいなら沈めてしまえ!」という気持ちもわからなくはないが、その浅慮あるいは短慮な判断の結果として……

 

『降伏&新体制への移行による混乱で、軍隊の掌握どころか国家主権もまだあやふやな情況の仏艦隊に行われた卑怯な騙まし討ち』

 

という形で世界に配信されてしまったのだ。

これでフランスの世論は沸騰。英国は海戦では戦術的勝利を収めたが、フランスは決定的な不信感を英国とそれに組みする国に持ってしまい、ドイツに海戦で損傷したダンケルク級戦艦2隻、ダンケルクとストラスブールの譲渡を条件付き(譲歩を引き出し)で決定し、リシュリューの2、3番艦にあたる建造中のリシュリュー級戦艦2隻と改リシュリュー(ガスコーニュ)級2隻の4隻もの戦艦の売買契約をイタリアとの間に交わしたのだ。

無論、売るのは戦艦だけではなく、フランス自慢の並みの軽巡洋艦より巨大な大型駆逐艦など様々だ。

 

更にヴィシーフランス政府は、産油国の底力を見せ付けるイタリアの強い後押しもあり、ドイツの承認を得て早々と「自国領土防衛のための再軍備」を宣言。

リシュリュー級戦艦のネームシップ”リシュリュー”が旗艦としてヴィシーフランスに残され、ヴィシーフランス海軍の象徴とすることとなった。

また改リシュリュー級は前述の通りイタリアに販売する2隻に加え、戦艦などの売却益の一部で自国向けに1隻建造することが閣議決定されたのだ。

同時にまだ名称未定の1隻とリシュリューと戦隊を組ませ、戦力の中核とするという海軍再生プランまで立ち上がっていた。

 

 

 

実はパリの無血開城を含め、工業インフラの破壊がほとんど行われてないフランスでは、資材と資金さえあればいつでも艦船建造の再開や兵器生産が可能だったのだ。

そしてこれを最も用意したのは、皮肉なことに隣国であり歴史的に敵国であり続けたイタリアだった。

 

 

 

***

 

 

 

実はこの時のイタリアは、現用艦艇の修理に加え大物はアルバトロ級正規装甲空母4隻の同時建造に始まり、防空巡洋艦や各種駆逐艦、潜水艦や保用艦艇の建造ラッシュで戦艦建造に割ける造船リソースはなく、ドイツ人にして『我が国の20年は先を行く造船能力』と言わしめた欧州でもトップクラスのフランスの建艦能力は「まさに渡りに船」だったのだ。

イタリアは溜め込んだオイルマネーを武器に、ヴィシーフランスに大規模な資金投下を行い(仏通貨フランが大暴落状態だった為に思いのほか安く済んだらしい)、造船に限らず工業界のより戦争特需に対応した再編を促したのだ。

 

ここに最良の循環が生まれた。

フランスの全産業と金融市場を買い取るような勢いのイタリアの資本注入により市場と工業界は活気を驚くほど早く取り戻し、自前で戦後復興予算を捻出できる体制に移行したのに加え、ドイツ(フランスより戦艦や他の艦艇を移譲されたので消耗品はフランスより購入)とソ連(クリーモフ系液冷エンジンは、イスパノ・スイザ12Yのライセンス生産の系譜)、何よりイタリアという安定した巨大な兵器輸出先を得たことにより、むしろ戦前より兵器産業を軸とする仏工業界は大きな活況を迎えた。

もちろん、フランスの驚異的な復興の速さはそれだけが原因じゃなく、期せずに達成できた軍縮や地中海を挟んで地続きと言えるアフリカ以外の植民地の切捨てなども大きな要因だろう。

実際、どんなに言いつくろっても占領下の傀儡政権という事実は拭えないヴィシー政権にとり、彼方にあり出費だけがかさむ植民地管理などもはや無用の長物だったのだ。

実際、同じアフリカにあっても仏領ソマリランドなどは早々にイタリアに代金代わりとして売り払われてしまった。

実はエチオピア侵攻の舞台裏には、こんなエピソードもあっただ。

 

それどころかフランスは、かつてイタリア王国建国時に割譲され前々からイタリアが返還を望んでいたサヴォワとニース、イタリア語で言うところの”サヴォイア”と”ニッツァ”や、イタリアが欲しがっていたシチリア島の対岸にある仏領チェニジアの港湾都市チェニスまでも高値で売却することに成功していた。無論、対価はイタリア通貨のリラではなく原油である。

まさにパリが陥落するその瞬間まで他国向けの輸出用武器を満載した船を出港させていたフランス人、見上げた商売人根性であろう。

こうしてイタリアはいわゆる「未回収のイタリア」の一部を平和的回収すると同時に貴重な兵器供給国を得て、フランスは当面は国家の切り盛りに困らないだけの原油(エネルギー)を得ることができた。

 

 

 

こう言ってはなんだが……英国は戦術的勝利と引き換えに戦略的な、あるいは政治的な大敗北を犯してしまったようだ。

フランスの降伏と、浅慮な現場の判断でフランス艦隊にH部隊が手を出したせいで伊仏関係が劇的に改善され、相互繁栄ルートに入ってしまったのは実に皮肉だろう。

これにより英国は6隻のキングジョージ五世級に加え、更に議会が巨額な予算ゆえに渋っていた4隻のライオン級戦艦の建造が待ったなしになってしまったのだ。

 

英国は、いや英連邦は確かに日の沈まぬ大国であるのかもしれない。

だが、独伊仏をまとめて相手にできるほどのチート国家でもまたないのだった。

 

 

 

***

 

 

 

さて、本日のネタはいよいよバトル・オブ・ブリテンである。

史実では1940年7月10日から10月31日にかけて、ドーバー海峡を挟んで勃発した人類史上他に類を見ない大規模航空消耗戦だ。

 

そして7月7日にイタリアの英国への宣戦布告にあわせて、7月10日より”この世界”でもドイツは英国に対してこの大規模航空戦を仕掛けた。

 

ただし、史実に比べるとやや政治的/軍事的背景が異なる。

例えば英国では「ダイナモ作戦」という呼び名の救出作戦で、ドイツでは「トゥーランドット作戦」という呼び名の包囲殲滅作戦となった『ダンケルク撤退戦』で、英仏もさることながら、ドイツもまた少なくないダメージを受けていた。

 

ダンケルクのあとのパリの無血開城を代表とするフランスの全土掌握に関しては、余計な流血と消耗はせずに済んだために陸軍はさほどでもないのだが、空軍は少々洒落にならない消耗であり、海軍にいたっては洒落にも冗談にもならないダメージを受けていた。

 

本来ならば、この時点で【Unternehmen Seelowe(アシカ作戦)】、いわゆる”英本土上陸作戦”の中止の議論が出てもおかしくはなかった。

ただ、いかんせん中止論に勢いがつかなく精々慎重論になってしまったのは、やはりダンケルク撤退戦でドイツが()()()()()結果でもあった。

英仏16万人には逃げられたが、13万人を殺して13万人を捕虜にしたのだ。それも味方の被害は3万人にも達せずに。

おまけに英軍は陸上装備の大半をダンケルクの海岸に置きっぱなしにした上に逃げ出してるのだ。

噂では、本土決戦の兵器に困って兵器庫から槍だかハルバートだかまで持ち出してるらしい。

 

 

 

これではヒットラーを筆頭に、ドイツの上層部の誰もが、『ひょっとしてこのまま勢いに任せてイケるんじゃ……』と多かれ少なかれ思っても仕方のないことだ。

ただ、兵員輸送船を護衛する艦隊が揃いも揃って入渠してるのはいかんともしがたく、また想いの外痛手を負わされた英国王立空軍がどの程度の防空力を持っているのか今一つ判断が難しかったのだ。

そこで考えられたのが……

 

建前:『よし。”アシカ作戦”決行前に空軍自慢の航空艦隊で英国の空軍施設/軍港施設/工業地帯を徹底的に爆撃し、敵の抵抗力を根こそぎ奪おう』

 

本音:『艦隊の修復まで時間がかかるし、とりあえず空軍で攻撃して英国の防衛力を推し量ろう。強ければアシカ作戦は中止にすればいいし、弱ければ艦隊の修復が終わったら一気に上陸作戦を敢行すればいいさ』

 

という計画だった。

こうして英国名称”英国本土直上防空戦(バトル・オブ・ブリテン)”、ドイツではアシカ作戦の前哨戦と位置づけられたために、【Luftschlacht um England(イングランド航空戦)】と味も素っ気も面白みもない名前が付けられることになる戦いのお膳立てが揃ったのだ。

 

なんというか……あんまりと言えばあんまりな話ではある。

ただはっきりしてるのは、”この世界”のヒットラーたるアーダベルト・フォン・ヒットラー総統は、史実のアドルフ氏よりは「神がかって」はいないようだ。

というより天啓だの啓示だのとは無縁なのかもしれない。

無論、指導者として有能無能や、ましてや戦の上手い下手はまったくの別問題だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そういえば”冬戦争”の影に隠れて語られなかった物語がある。

そう、ドイツによるデンマーク&ノルウェー侵攻作戦である【ヴェーザー演習作戦】だ。

ただ、これも今回の戦闘の遠因となっているので軽く語っておこう。

ドイツは史実どおりにデンマークは占領したが、実はノルウェーには一切侵攻していない。

というよりむしろノルウェー王国に対しては超がつくほど友好的に接して懐柔、かの国に「親独現世中立」を確約した上に様々な非軍事通商条約を締結したのだ。

 

史実と比べてもドイツにとってのノルウェーの重要性は変わらない。

ドイツに輸入される鉄鉱石の90%はノルウェー海に面した北部の街ナルヴィクから運び出されるスウェーデン産の鉄鉱石だったし、ノルウェーのフィヨルドはUボート(潜水艦)の隠蔽基地にぴったりだった。

しかし、アドルフ小父さんではなくアーディー小父さんに入れ替わってるヒットラーは、

 

『せっかく適正価格で輸入できているのに、わざわざ戦費を投じて占領支配するなど愚の骨頂』

 

と言い放ち、宥和政策を選択したのだ。

となればデンマークを史実と同じく占領した意味も若干変わってくる。

そう、つまりノルウェーとの鉄鉱石を中心とした英仏に邪魔されない円滑な交易を行うためにデンマークを占領したのだ。

実際、現状においてノルウェールートを通る鉄鉱石のドイツへの積出港は史実のナルヴィクではなく、スカゲラク海峡のアーレンダールやクラゲレー、オスロなどの南部の港町に一度集積され、デンマークのカテガット海峡→ストア海峡を通りドイツの軍港キールに荷揚げされている。

もっともデンマークが陥落してからはスウェーデンは、ドイツとソ連の関係がきわめて良好であることからボスニア湾→バルト海航路の安全化が図られたと判断して直接ドイツとの海運取引にシフトしてきており、鉄鉱石のノルウェールートはなんとなく廃れそうな予感はある。

 

いずれにせよ、英国が通商破壊をやりにくい狭い海を通る航路で、なおかつ特にノルウェーの場合は輸送を代行しているのが配送料まで受け取ってる自国輸送船団であり、下手に手を出せば今度はノルウェーと緊張状態に陥り、最悪戦端を開く可能性まであるので迂闊なことはできないのだ。

 

というわけで単に艦船建造が前倒しになっただけではなく、北欧侵攻による消耗がなかったためにダンケルク近海にあれだけの艦船を集結させられたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「まさか、私がハインケル社の戦闘機に乗ることになるなんて思わなかったわ」

 

そうコックピットで呟くのは、赤毛が魅力の妙齢の美女。

総統若年近衛隊(ヒットラー・ユーゲント)】、特に年齢層が低めの『航空少女団(ルフト・フロイライン)』の中では年長組に入ってしまう”ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ”は、つい皮肉めいた笑みを浮かべてしまう。

 

彼女の両親は高名な音楽家なのだが、ナチ党が政権をとる前は公然と国家社会主義(ナチズム)を批判するような夫婦だった。

言うならば”Von(フォン)”こそ名に入れてないがハインケル社の社長と同じ、典型的な元ドイツ貴族(ユンカー)気質といったところだろうか?

お陰で両親は今となっては、ナチ党に睨まれることを恐れた業界から干されて冷や飯喰らいなのだが、それは仕方ないと諦めていた。

むしろ逮捕されないのは元々そこそこ高名な音楽家だったためにナチ党にとって都合の悪い風評的な悪影響が出かねないことと、ナチ党が政権奪取後はそれなりに自重してるのでお目こぼしを貰ってることぐらい判っていたからだ。

 

だが、ナチスが政権をとった今となっては、それなりの発言してきた自分達はともかく娘のミーナまで陰湿な誹謗中傷や悪意が及ぶことを恐れた両親は、幼いミーナを当時はまだ出来立てホヤホヤで若年婦女子の寄宿学校という体裁をとっていたヒットラー・ユーゲントに入団させたのだ。

学費が無料だったのも財政的に決して楽でなかった自分達にとっては渡りに船だったし、教養課程で音楽の授業があるのも魅力だった。

それに新たな国家指導者となった|総統の名を冠した()宿()()()に入るのだから、いきなり差別や迫害を受けはしまいとも思っていた。

 

しかしまさか両親も、それが親衛隊(SS)とはまったく別の意味の、あるいは本質的な意味での『ヒットラーの、あるいはその愛人たる”エヴァンジェリン・カーミラ・ミレニアム・ブラウン”の私兵養成所』だとは思ってなかったろう。

とはいえヒットラー・ユーゲントは体裁的には『次世代の第三帝国を担い、良妻賢母のみならず社会で飛躍できる優れた婦女子を養成する学校』であり、実際に「軍事教練や士官教育がカリキュラムにさり気無く組み込まれた全寮制の女子寄宿学校」と表現してもさほど間違いはない組織だったので、ある意味無理もないところだ。

 

その寄宿学校もどきの”教養”の選択科目だった音楽でミーナは大変優れた才能を現したが、それ以上に才能を大きく開花させたのがパイロットとしての適性だった。

 

 

 

ミーナは、教師あるいは教官からパイロット専修コースを強く推薦され、音楽家として食べていく気もなかった彼女は流されるように受けてしまった。

特に後悔は無かった。

空を飛ぶのは好きだったし、めきめきと腕を上げる感覚は愉快だった。

こんな時代に衣食住に困ることもなく、余暇には趣味の歌を歌って過ごすなんてことをやっていると自分が結構な身分にいることをつい自覚してしまう。

 

それに名門女子校然とした雰囲気の厳粛なバロック様式の寄宿舎や関連施設が自慢だが、その実中身はわりと砕けていて、ナチス政権化ではどことなく街から失われつつある自由と退廃と放埓と呼べる空気が漂うヒットラー・ユーゲントや、その延長線上にあるルフト・フロイラインはミーナにとり居心地の良い組織だった。

 

ミーナは自身では、自分がもしユンカー的要素があるというなら、従兄弟の同じヴィルケ姓を名乗る”ヴォルフガング・ディートリッヒ・ヴィルケ”のような貴公子然とした高貴さを象徴するようなそれではなく、どちらかといえば貴族という響きが持つ退廃的で享楽的な部分に現れていると思っていた。

その部分を抽出して煮詰めたほど濃くはないが、染み出す程度の退廃的享楽主義(デカダンス)を持っているのが自分だと思っていた。

 

 

 

だからミーナは自分を取り巻く現状を肯定的に見る。

もし難点があるとすれば……居心地が良かったので居ついていたら、気が付けばルフト・フロイラインの中でも最古参クラスのパイロットになってしまった自分に与えられた”大尉(正確には()()()()()()())”という飛行少女の中では上位の階級が、知識では理解していても実際に軍隊の中ではどれくらい偉いのか感覚的に理解できないこととか、与えられた乗機がナチスを戦闘機の形に具現化させたようなメッサーシュミット社のBf109だったことぐらいだろうか?

 

しかし、その難点の片方は既に解消されたようだ。

フランス北部のカレー基地に配属が決まった自分に与えられたのは、ハインケル社のHe100D-1という真新しい戦闘機だった。

操縦するにあたり多少のクセはあるが、繊細過ぎはしないこの機体をミーナは気に入りだしていた。

それに機種転換訓練が始まってからまだ日が浅いが、それなりに乗りこなせる自信はあったのも事実だ。

 

 

 

***

 

 

 

「どうしたミーナ? なにか楽しいことでもあったのか?」

 

そう話しかけてきたのは、同僚の”ゲルトルート・バルクホルン”だ。

ミーナと同じくルフト・フロイラインの一因で、長身&ツインテールがトレードマークの少女。愛称は”トゥルーデ”。

 

「ああ、トゥルーデ……なにね。反ナチ音楽家の娘が反ナチの会社が作った戦闘機に乗って、ナチスの中枢に近い組織の軍属扱いの戦闘員として、国家の命運がかかった戦いの最前線を飛ぶって現状にどうしようもなく皮肉を感じてただけよ」

 

バルクホルンは、一瞬きょとんとしたあと困ったような表情になってしまう。

 

「いや、まあ言われてみればそうなのだが……」

 

ミーナとは対照的にバルクホルンは生粋の軍人家系の娘で、実際に歳の近い叔父のゲパルト・バルクホルンは同じくパイロットでドイツ空軍(ルフトバッフェ)に所属し、父も伯父も軍人だった。兄弟がいればきっと軍人になっていただろう。ただ生憎と彼女にいるのはクリスという名の妹だけで、潜在的どころかかなりはっきりしたシスコンのバルクホルンは、妹には断じて軍人になって欲しくないと思ってる辺りが、実に業が深い。

 

というわけでバルクホルン、ミーナと違って最初から「婦女子でも軍人として戦場で戦える」という条件を求めてヒットラー・ユーゲントに()()したクチだった。

故に、

 

「だが、ミーナ……まさか、国家や民族に不満があるわけでもないのだろう?」

 

ちょっと心配そうに聞く国家への帰属意識と忠誠の強いバルクホルンだが、

 

「それこそまさかよ。私はこう見えても現状をすこぶる気に入ってるのよ?」

 

と他意なく微笑むミーナ。

愛国心と呼べるものが拠り所となるバルクホルンとはまったく理由は違うが、嘘は言ってない。

 

 

 

「それは何よりだ。我らが戦闘隊長サマが出撃前に物憂げな迷いでもあったら、士気に関わるからな♪」

 

と話に入ってきたのは、ピンクゴールドの長い髪といつも挑戦的な光を湛えた切れ長の碧眼が印象的な少女。

その名は”ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ”。そう、後の”Doppelsterne von Afrika(アフリカの兄妹星)”の妹の方だ。

 

「その心配は無用よ? 敵地上空に強襲をかけること自体は中々刺激的な体験だと思ってるもの」

 

このミーナ、どうやら平行世界(げんさく)より戦闘的というか好戦的というか……随分と戦闘向きな性格のようである。

やはり生い立ちの違いとか関係あるのだろうか?

少なくとも未通女(おとめ)非処女(おんな)かの違いはありそうだが。無論、”この世界”のミーナは後者だ。

 

「それは頼もしいな。ミーナは双発爆撃隊の護衛だろ? 敵の防空線の向こう側に飛び込むわけだから、ちょっとさ」

 

「あら? ”ティナ”、もしかして心配してくれてるの?」

 

「べ、別にそういうわけじゃ……」

 

と少し照れたような表情をしてそっぽを向くマルセイユ。

天上天下唯我独尊を具現化した(と一般には思われている)彼女にしては珍しいリアクションだ。

 

「フフン。マルセイユ、心配は無用だ! なぜならこの私がミーナの僚機(ロッテ)を務めるのだからな!」

 

と胸を張るバルクホルンに、

 

「アンタだから心配なんじゃない。やっぱりワタシも機種転換訓練、受けておけばよかったかなぁ~」

 

「なんだとっ!」

 

「事実を言っただけよ? ワタシや今は亡きハルトマンならともかく、バルクホルンの腕前じゃミーナの背中を任せるのは不安なのよ!」

 

「貴様、いわせておけば……というよりハルトマンを勝手に殺すな!」

 

「だってアイツってば忽然と姿を消したかと思えば、気が付いたらイタリア人になってたのよっ!? 我々の愛したドイツ人のエーリカ・ハルトマンはもう死んだのよ!」

 

いや、まあそれには色々と事情があるのだが……

ただ、ヒットラー・ユーゲントはともかくドイツ軍上層部としては、ハルトマンのイタリア国籍収得と移住に【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】への移籍は、渡りに船というか……「腕は立つけど、命令違反の常習者たる問題児」の体のいい厄介払いと判断されてるのは確かだ。

 

 

 

***

 

 

 

少し説明しておけば、ここはフランス北部の海辺の街カレーの近郊にあるヒットラー・ユーゲントに割り振られた飛行場だ。

ヒットラー・ユーゲントという少々特殊な軍事的組織は、それなりに一般軍より優遇されており、それは衣食住に始まり、支給される備品や装備にも及ぶ。

そしてその延長線上に腕のいい専用の施設大隊という存在もあるのだ。

要するにドイツやソ連、イタリアで量産が始まってるとはいえ、まだまだ貴重な「武装無き決戦兵器(ブルドーザー)」をはじめとする高度な重機を大量に配備した部隊で、彼女らの活躍によりドイツの水準ではかなり問題のあったフランスの航空基地の流用ではなく、ドイツ規格の新野戦航空基地を作り上げてしまったのだ。

 

そうなれば当然、フランス規格の基地では離発着不可能と言われたメッサーシュミットのBf109でも運用可能となるのだが……無論、こんなアメリカじみた力技で新規基地を作れる部隊はそうはない。

 

そんな理由があり、この基地にはミーナやバルクホルンのようなHe100D-1のパイロットと、マルセイユのようなBf109乗りが同居状態にあるのだった。

付け加えるなら、後に「破壊の女神」だの「魔王の妹」だのと恐れられる”ハンナ・ウルリーケ・ルーデル”率いるJu87急降下爆撃機(スツーカ)隊も駐留してるので、このカレー・ユーゲント臨時航空基地は、野戦飛行場としては割と大所帯だ。

また、この基地の飛行機乗りは大きく分けて三つの部隊に分類される。

簡単にまとめると、

 

一つ目は、基地自体の防空隊。数に余裕のあるBf109が主力で、レーダーや高射砲と連携して敵機を迎撃するのが役目だ。

 

二つ目は、敵の沿岸施設への攻撃部隊。これは敵のフロントラインである沿岸部のレーダー施設や高射陣地を破壊し、味方の長距離爆撃機隊を敵国奥地へ送り込む手助けをする部隊だ。これはある程度航続距離が短くても妥協できる任務なのでBf109やJu87がメインであり、マルセイユやルーデルが属してるのもこの部隊だ。

 

三つ目が、ミーナとバルクホルンが所属する元々ドイツ戦闘機としては航続距離が長く落下増槽を標準装備とすることでそれをさらに拡張できるHe100D-1のみで編成された護衛戦闘機隊だ。さらに内陸より飛来するHe111やJu88、Do217のような双発の中~大型爆撃機と同行し、敵の迎撃機から味方を守るのが役目だった。

 

言ってしまえば、マルセイユやルーデルが血路を開き、ミーナとバルクホルンが突入するというイメージだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、7月10日から始まったドイツから見れば「航空殲滅戦」は、当初は上手くいった。

メッサーシュミット社が政治力をフルに使い、ごり押しで護衛戦闘機として戦場に送り込んだBf110が散々な被害を出し、「Bf110にも護衛戦闘機が必要」という報告が公文書であがってしまうという体たらく……もとい。ハプニングはあったが、概ねドイツの想定から大きく外れたということはなかった。

 

それは別の言い方をすれば、英国が大損害を受けたということだった。

確かに英国は、史実と同等かそれ以上のレーダー統制防空網を形成していた。

 

だが爆撃ポイントを絞りこみ、史実に比べれば足の長い護衛戦闘機隊を引きつれたドイツの爆撃隊は非常に手強い相手だったのだ。

逆に言えば、ミーナたちにとっては……

 

『鼻歌混じりに出来る気楽な仕事ってわけじゃないけど、かといって神経と命を削り取られながら血を吐くようなストレスを感じる仕事でもないわね』

 

とのことらしい。

実際、当時のミーナ御本人によるコメントによれば、

 

「処女を失った時のことを思い出したわ」

 

「ミーナ、お前はいきなり何を言い出すんだっ!?」

 

最初の出撃から帰ってくるなりそんなことを言い出す隊長に、戦闘中ではありえない狼狽をするバルクホルンだった。

 

「いえね。始まる前の期待感と高揚感と一抹の不安、始まってしまえば無我夢中で、絶頂を越えて事後に至れば残るのは、虚脱感と『なーんだ。ふーん……』って感覚……なんか似てるなって」

 

「いや、その手の話を私に降られてもだな……」

 

「鋼鉄の処女(おぼこ)のバルクホルンにその同意を求めても無駄だと思うぞ?」

 

と言いながら姿を現したのは御存知マルセイユで、

 

「言ったな! マルセイユ、まるで自分が経験豊富のように言うな? だが、貴様とて男の一人もいないどころか、浮いた話など微塵もないではないかっ!」

 

「ふ、ふん! ただ興味がないから今までいなかっただけで、このワタシがその気になれば男などいつでも作れるさ!」

 

どう聞いても負け惜しみにしか聞こえないのは、何故だろう?

やたらとハルトマンと張り合いたいマルセイユだが、()()()()()()撃墜数(スコア)は既に追いつけないほどにハルトマンが圧倒しているようだ。

もっとも、ハルトマンは()()()()()()なのでスコアとは言わないかもしれないが。

空中ならまだしも、ベッドの上でも感度が良すぎるのもちょっと考え物だろう。なにしろ軽い被弾でも過敏に反応するし、その時は史実の日本製DB601デッドコピー・エンジン並みに繁盛に()()()起こすしでそれなりに大変なようだ。

 

もっとも、ご主人様(ケッタ)にはハルトマンの液漏れ(しっきん)する姿が可愛いと極めて評判で、そんな訳で飼い主に可愛がられたい彼女には色々と()()()()が付いてしまったようである。

萌え要素と言えばその通りなのだが……ダックスフントのパーソナルマークは、伊達ではないというところだろうか?

ついでにいえばそっち方面で躾けられてるのは、ハルトマン一人じゃないことは明記しておく。というか最低四人はいそうだ……

 

 

 

それはさておき……

確かに『イングランド航空戦』初期においての作戦の推移は非常に順調だった。

初日で早くも2機を撃墜してエースの片鱗を覗かせたミーナを筆頭に、バルクホルンもマルセイユも無事に戦的な意味での処女喪失(ういじん)を華々しく飾り、順調にスコアを伸ばした。

ルーデルがレーダーサイト潰しじゃ飽き足らず、対空陣地や港湾の燃料タンクに加えて入渠していた巡洋艦まで破壊して魅せたのは少々やりすぎなような気がしないでもないが、それが彼女のキャラなのだろう。

バルクホルンはメキメキと頭角を現しミーナの僚機を卒業し1個飛行中隊を任せられ、マルセイユは”ライーサ・ペットゲン”という空中でも痴情……もとい。地上でも長い付き合いになる伴侶を見つけ、初体験の相手が必ずしも男とは限らないことを証明してみせた。

そしてミーナは、同じ釜の飯を食った仲間を「部下として失う」という経験を経て指揮官として成長を果す。

 

だが、彼女達の……いや、ドイツ空軍(ルフトバッフェ)のドーバー海峡や英国上空における栄華は、残念なことに長くは続かなかった。

 

作戦発動から1ヶ月も経たずに”彼女達”は、反則技じみた手……パナマ運河によるショートカットを使い、遥か極東の彼方からやってきたのだから。

 

 

 

記録によれば1940年8月8日、この日より英国は凄まじい勢いで本国上空とドーバー海峡の制空権を取り戻してゆくことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
ミーナをはじめいよいよカールスラントのウィッチ達が登場したエピソードはいかがだったでしょうか?

それにしても……2話連続で1万字超えとは我ながら予想外でした(^^
これも書いてて妙にノリノリになってしまったミーナたちのせいです(笑)

ミーナは恋人との死別イベントがないせいか少し平行世界(げんさく)に比べて蓮っ葉というか……妙に割り切った性格になってしまいましたね~。
ちなみに初体験の相手は例の幼馴染で、別れた原因はミーナがユーゲントに入って多忙で会えなくなったので自然消滅という、遠距離恋愛の終わり方に似たごくごくありふれた終焉です(^^

次回はいよいよ扶桑チームの参戦かな?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



Ju88爆撃機(性能諸元はA-4型)

製造元:ドイツ・ユンカース社
エンジン:ユンカース Jumo 211J×2(1段2速軸駆動式過給器(スーパーチャージャー)付き液冷V型倒立12気筒SOHC、公称:1420馬力)
最高速:510km/h(高度5300m、爆装時)
航続距離:2700km
実用上昇限度: 9000m
固定武装:MG81機関銃×4(7.92mmx57弾、毎分1400-1600発、旋回銃)
プロペラ:定速式3翅
乗員:4名
特殊装備:防振処理空中無線機、30口径対応防弾装備一式、翼内燃料タンク、慣性航法装置、電波誘導機材、電波高度計、自動消火装置、ノルデン式射爆照準器
爆弾搭載量:3000kg、また航空魚雷の搭載可能。

備考
史実のそれと大きくスペックを異なることはないが、ゲーリングの降格処分と権限低下、ウーデットとイェションネクの失脚と軍よりの追放により途中で「急降下爆撃能力を付与せよ」など無茶振りされずに、双発の水平爆撃機として素直に完成された機体。
もっともJu88に急降下爆撃能力を付与しようとしたのは上記の三人のみならず、一説によればコンドル軍団のフォン・リヒトホーフェン将軍、かの”レッドバロン”ことマンフレート・フォン・リヒトホーフェンの従兄弟であるヴォルフラム・フォン・リヒトホーフェンだったとされるが……
未だはっきりしないが、”この世界”で現在生きているリヒトホーフェンはどうも”レッドバロン”とその弟の方で、第一次大戦で戦死したのが従兄弟の方であるくさいのだ。

ともあれ、急降下爆撃能力こそないものの水平爆撃機としての基本スペックは上昇し、拡張性や発展性も高く、さらには余分な構造強化を行わなかったために開発期間も短く史実に比べても生産は早期に始められ、また製造単価の引き下げにも成功した。
更には数々の最新式の誘導/航法装置や有名な”ロトフェルンロール 7”の原型となったノルデン式射爆照準機などの爆撃機材、自動消火装置などの防御機材も充実しておりオリジナルに比べても「非常に落としにくい爆撃機」と言えるだろう。

蛇足ながらスペックシートのA-4は、バトル・オブ・ブリテンにおいて名実共に主力となった機体である。

双発の主力爆撃機としての座はバトル・オブ・ブリテンに代表される大戦初期で、中期以降は順調に開発されたJu188/388などの直系の後継機やDo217シリーズに譲るが、後にその拡張性や発展性の高さゆえに史実同様に様々なバリエーション・モデルが作られ大戦全期を通じて爆撃機としてのみならず「ドイツ空軍(ルフトバッフェ)のワークホース」として活躍した機体だった。







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