ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ~。
ちょっと間が空いてしまいましたが、今回のエピソードは……
何やらアフリカが騒がしくなるのと、新キャラ登場の予感?
更に伏線回収などもこっそりしております(^^




第18話 ”増援来たりて CODE1940”

 

 

 

イタリア最大の軍港でイタリア海軍の本拠地と言えるタラントへの艦上機による夜間爆撃を狙った作戦、英国名『Operation judgement(オペレーション・ジャッジメント)』は、攻撃隊発艦ポイントであるタラント沖南約272kmに辿り着く前に、アレキサンドル・ダ・ザラ中将率いるイタリア海軍第1空母機動部隊の偵察隊に捕捉される。

 

空母2隻の航空隊の攻撃を受けて空母グローリアスを含む巡洋艦、駆逐艦数隻が撃沈された。作戦の実行部隊だったアレキサンドリア艦隊は作戦続行が困難と考え、夜陰に紛れるように撤退。

 

要約すれば……ジャッジメント作戦は失敗し、英国はアレキサンドリアにあった最後の空母を失った。

インド洋から戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスがインド洋で空母ハーミーズと合流し、アレキサンドリアへ向かっているが……それがどのような歴史的役割を果すのか? 今は誰にもわからない。

 

ただ、彼らが通るであろう紅海の入り口であるソマリランドは、現状ではイタリアの支配下であり、また史実でも”この世界”でも低評価ばかりが目立つバドリオ将軍が司令官より解任され、参謀長だったナージ将軍が昇格して東アフリカ・イタリア軍の最高司令官に座った。

これが果たしてどのような影響があるのか……?

 

 

 

***

 

 

 

それはともあれ、大慌てなのはウェリントン・チャーチルを中心とする英国上層部だ。

海はからっきしの筈のイタ公相手に二連敗(数え方によっては四連敗)、戦艦4杯に空母3杯巡洋艦以下は数知れずという感じにぺロリと平らげられているのだ。

これはもはや予想外の大惨事だろう。

 

そもそも、この『ジャッジメント作戦』とて大作戦【MB8】の一つに過ぎなかったのだ。

MB8作戦とは、英国が地中海の覇権を掌握し続けるため(この前提が既に間違ってるような気もするが……)に提唱された複数の作戦の総称で、史実では……

 

・エジプトからギリシャへ向かうAN6船団護衛

・アレクサンドリアからスダ湾(クレタ島)とマルタへ向かうMW3船団護衛

・マルタからアレクサンドリアへ向かうME3船団護衛

・エーゲ海からエジプトへ向かうAS5船団護衛

・地中海艦隊への増援とマルタへの兵員、物資輸送(Operation Coat(コート作戦))

・シチリア島の飛行場空襲(Operation Crack(クラック作戦))

・軽巡洋艦2隻によるポートサイド(エジプト)からスダ湾への兵員輸送

・軽巡洋艦オライオンによるポートサイドからギリシャへの空軍の人員などの輸送

・タラント夜間空襲(Opetation judgment(ジャッジメント作戦))

・オトラント海峡での敵船団攻撃

 

がそこに含まれる。

笑ってはいけない。あくまで”()()()()()”の話だ。

この中で真っ先に消えるのが、ME3船団護衛とコート作戦……マルタ島への物資輸送だ。

現状、マルタ島から不用意に出ようとしたり近づく英国人は自殺志願者かそれに準ずる何かだろう。

 

次にクラック作戦、つまりシチリア島への空襲だ。さらに西にあるサルデーニャ島の空襲すら上手くいかないのに、サルデーニャ島の警戒網をすり抜けイタリア本国の目と鼻の先のシチリア島に接近するなど無茶もいいとこだろう。

ぶっちゃけシチリア島爆撃は、今となっては地中海に直接面したタラント空襲よりも難易度が高い。

 

そして、最後はオトラント海峡での敵船団攻撃。

オトラント海峡とはイオニア海とアドリア海をつなぐ海峡で、イタリアの「ブーツの踵」にあるブリンディジと、ギリシャ領だが場所的にはアルバニア沖と言っていいコルフ島の間にある海峡だ。

無論、イタリア空海軍はアドリア海の玄関口であり、生命線の一つであるこの海域に英艦隊の接近を許すほど温い、あるいは緩い警戒網は敷いていない。

下手をすればオトラント海峡に誘い込まれ、タラントの艦隊で出口を塞がれ包囲殲滅されかねない場所なのだ。

むしろ、タラントよりもこちらの海域に侵出するほうが危険度が高いと判断され、タラントが選ばれた節さえあるのだ。

 

 

 

***

 

 

 

もう少し背景を細かく書けば……アルバニアは1939年、独ソのポーランド侵攻&東西分割や冬戦争の裏でこっそり行われたイタリアの侵攻で今はイタリア領になっていて(豪族達を表看板にした間接支配はその遥か前からだが)、当然のようにイタリアの重点哨戒圏内だ。

つまりタラントにイタリア主力艦隊が居座ってる限り、オトラント海峡は迂闊に手出しできない海域だった。

 

さらにギリシャは、”この世界”ではイタリアの友好国。

イタリアにしてみれば史実のように侵攻なんてとんでもない。むしろギリシャに侵攻しようかと思っていたドイツを止めた位だ。

何故かって?

それはギリシャが、欧州でも有数のボーキサイト産出国だからだ。

無論、ボーキサイトとはアルミの原材料で、アルミに限らずギリシャの地下資源開発/採掘企業のほとんどはイタリア資本が入ってるのはお約束だろう。

 

であるならば、”最高戦争指導者(コンドティエーロ)”バルケッタ・ムッソリーニにしてみれば、『金の卵を産むガチョウをわざわざ殺す必要はない』ということなのだろう。

御伽噺のオチから考えてもその判断は正しい。

 

ちなみに前出のアルバニアは、高強度合金には欠かせない素材、クロームとニッケルの有力産出国だったりする。

どうも”この世界”のイタリア人はグノームやコボルト並みに地下資源や鉱物資源が大好物なようである。

 

 

 

話を戻すが、史実でもギリシャは元々は枢軸側に友好的な国だった。

ところがぎっちょん、イタリアが侵攻してドイツが占領したものだから一気に反枢軸の連合国の仲間入りをした経緯がある。

 

しかし”この世界”でも史実よりは縮小というより規模が半減以下になりながら、MB8作戦でギリシャ領クレタ島に対する作戦のみは続行されていた。

 

どんな意図があるか知らないが、イタリア海軍は今のところ潜水艦による通商破壊以外に目立った行動はおこしていない。

いや、それでも度重なる海戦の負け越しで対潜防御に有益な巡洋艦以下が大幅に目減りしているのでガードが甘く、甚大な被害は出しているのだが……

 

では未だにドイツはともかくイタリアとは友好的で経済的な繋がりが強いギリシャが、クレタ島への英軍の駐留を許してるか?だが……

 

これはもう国際政治力学の端的な例であろう。

実際、ちょっと前まで英国は世界最大の海軍国だったのだ。

そりゃあ政治的圧力をかけられれば、突っぱねるほうが難しい。

逆に言えば、孤島である「()()()()()()()に駐留を許してる」こと自体、何らかのいみがあるのかもしれない。

とはいえ、このクレタ島に駐留した英国紳士達は、時間は限定しないが()で文字通りの地獄を見ることになるのだが……

 

 

 

***

 

 

 

ともかく、どのような歴史の悪戯か?

イタリア近海(領海)では、イタリア海軍に何故か勝てない英海軍だった。

書いもおいてなんだが、ホームグラウンドでの戦いなんだから当たり前と言えば当たり前な気がするが……それが当たり前ではなかったのが史実なのだろう。

 

イタリアに対して圧倒的な優位を誇ってると考えていた英国の海軍力は、蓋を開けてみればどうもそうではなかったようだ。

では、ならばどの戦いの種類においてイタリアを圧倒できるのか?

 

英軍が行き着いた結論、が陸軍だった。

普通は何を言ってるかわからないだろう。

イタリア本土に直接ぶつけられる場所に英軍陸上戦力はなく、あるのは伊領リビアに隣接した在エジプト英軍だけなのだから。

 

 

 

だが、英軍上層部は本気だった。

海で勝てぬのなら、空は論外だ。

英国はイタリア本国を空爆できるような位置に有力な基地はなく、仮にあったとしてもドイツに対して行った空爆のように、それなり規模を行えるだけの大型長距離爆撃機を揃える余力が無い。

というか、その余力があるなら空母によるタラント空襲の前にそちらを選択している。

例えば、つい1ヶ月前まで続いていた国際的な非難を浴びたドイツへの夜間爆撃は、効果的だと判断された反面、消耗が少なかったとは誰も一言も言ってない。

 

では、エジプトからリビアへの爆撃はどうだろうか?

答えはNG。

英国上層部の判断は「今は本土防衛を最優先すべき」ときであり、バトル・オブ・ブリテンで消耗し、ドイツへの夜間飛行で磨耗した英国王立空軍(ロイヤルエアフォース)を全力で立て直すべき時なのだ。

海軍は地中海で伊軍相手に酷い目にあってるが、空軍も独軍相手に大差ない目に合ってるのが現実だった。

あえて違いをあげるとするなら、今のところ前者は一方的に殴られてるだけなのに対し、後者はとりあえずは痛み分けになってるところだろうか?

もっとも、そんな物は何の慰めにもならないだろうが。

 

ともかく本国の航空兵力の建て直しに忙しい最中、アフリカに最新鋭機を多く送る余裕はない。

ただ、バトル・オブ・ブリテン時に日本から届いた初期型スピットファイア準拠の九七式重駆逐戦闘機や現行型スピットファイアに準ずる一〇〇式重駆逐戦闘機(フェンファイア)の導入で、余力の出たホーカー・ハリケーン戦闘機を80機強をエジプトに、クレタ島とジブラルタルにそれぞれ30機ずつ、同じく余剰機だったグロスター・グラディエーター戦闘機共々回せたのは僥倖だったろう。

正直、紅海がまだ通り抜けられる今だからこそできる荒業だった。

 

確かに、時期を考えれば史実とは比べ物にならない補強だが、それでも脇目も降らずにMC.202やRe.2002といった新世代戦闘機を全力生産し、アフリカにも推定数百機単位で配備されてる可能性がある……いくら「ドイツ空軍(ルフトバッフェ)には劣る」と評されるイタリア空軍相手でも英軍にとり相変わらず厳しい情勢であった。

 

 

 

***

 

 

 

さて、そうなれば残るのは陸軍である。

確かに陸軍はダンケルクでこそ酷い目を見たが、北アフリカではそうではない。

不断の努力を続け、今やアーチボルト司令官の率いる在エジプト英軍の総兵力は、史実の倍以上の7万8千人規模まで膨れ上がっていた。

アジア・オセアニア地区で大陸の赤色勢力を除き特に大きな敵対勢力がおらず、オーストリアやニュージーランドなどのオージー英連邦兵力を順調に集中できたのが大きいだろう。

 

もっとも……集中したというわりには数がしょぼいが、これは太平洋/インド洋地区から集めた兵力を、史実と違って大損害を受けたダンケルク撤退戦の喪失兵力の穴埋めや、ドイツがギリシャ政府と秘密協定を結び狙ってると噂されるクレタ島にも回せねばならなかったからだろう。

 

だが、それでも正面兵力20万以上(アンツィオ遊撃旅団まで入れれば25万近く)の兵力を持つ在リビア伊軍や、司令官交替により有能な頭を得て、一気に気勢が上がりエチオピアを今にも占領しそうなほぼ同数の兵力を持つ在東アフリカ伊軍に比べれば微々たる物だ。

しかもほとんどが徴兵でかき集められた新兵ばかりとなれば、更に頭が痛くなる。

 

だが、それでも英国上層部も軍上層部も勝ち目のある戦いと見ていた。

その論拠となっていたのが……論拠にされてしまったのが、【第05話”アンツィオ遊撃旅団のお仕事”】のラストのほうに書かれた、とある偵察隊の『在リビア伊軍に対する報告書』と情報部の分析だった。

それを引用すれば……

 

 

 

『在リビア伊軍の国境線守備部隊はいずれも低く、まともな装備もなければ士気も錬度も低い』

 

『派遣理由など謎が多いアンツィオ旅団に関しては、実戦部隊ではなく伊軍の士気高揚と英軍の士気鈍化を狙った配備である公算が大きい』

 

『アンツィオ旅団は、航空兵力は最新なれど規模は小さく、地上兵力は数は正規旅団規模だが装備は軽装で、実戦向きの装備とは言いかねる。また在リビア伊軍の正規命令系統には事実上、入ってはいない』

 

『よって少数でも国境周辺の伊軍は現有兵力でも排除可能。またアンツィオ旅団と対峙した場合、戦闘力軽微な少女達を殺すということは英軍兵の士気の破綻を招きかねない。故に「少女達の保護」という意識の元に降伏を主目的とする戦術を推奨する』

 

『実質的な戦争指導を行うバルケッタ・ムッソリーニにエジプト侵攻の意思はなく、「ドイツのバルカン半島侵攻を支援するため、北アフリカ英軍権勢のためのリビア伊軍増強」というのは額面どおりと考えていい。またエチオピア侵攻は”五国委員会によるエチオピア管理の不履行”という情況のために起こったことであり、このタイミングを待っていたというより5年前から有事の際に対するエチオピア制圧を企図してことであり、このタイミングで起きたのはフランス/ポーランドの陥落やスペインとトルコが事実上、管理不可能となった現状によるものであり、偶発的な要素が大きい』

 

 

 

……全てが嘘というわけでも全てが誤りというわけでもないが、それでの多分の現実の歪曲と意図的に誘発されるように仕向けられた誤認が混じっている。

悪魔が人を騙すコツは、「100の嘘の中に1つの真実を隠す」あるいは「100の真実の中に1つの嘘を隠す」とはよく言ったものである。

 

また、つい最近エチオピアの最高司令官だったバドリオ将軍が「ハーグ条約違反の毒ガス使用未遂」により更迭されるというスキャンダルがあり、東アフリカ軍伊軍の人事異動に伴う指揮系統再構築の為に時間を要していることも、英軍に対するプラス要素として働いたようだ。

もっとも、これも情報操作の影が見え隠れしてたりするのだが……

 

更に言えば、特にリビアのイタリア軍は歩兵部隊ばかりで戦車を頂点とする機甲兵力に乏しく、特に遮蔽物がなく機動力が物を言う砂漠では頭数を機動力で覆せる可能性が多分にあった。

 

であるならば、チャーチルを首班とする挙国一致内閣の存続のためにも明確な勝利を何より望む英国で極秘裏にリビアへの侵攻作戦……世に言う【コンパス作戦】のGOサインが出るのは必然だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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1940年11月後半、アンツィオ遊撃旅団アルベイダ基地に珍客……いやいや、頼りになる増援が現れる。

おそらく昨今、増強されつつある在エジプト英軍への対抗策の一環だろう。

 

 

 

その先頭を飛ぶのは、”この世界”のイタリア空軍でも我らがアンツィオ旅団でも、現状の主力戦闘機と言っていいMC.202”Folgore(ファルゴーレ)”戦闘機だ。

だが、その機体と2機編隊(ロッテ)を組むのはどうにも毛色の変わった機体で……

 

「塗装はうちの砂漠迷彩だけど……なんか妙にコックピットが後ろにある機体ね? 水冷戦闘機なのは間違いないだろうけど」

 

戦闘機乗りらしく視力の良さを見せ付けるように、真っ先に基地に接近する”友軍編隊”を滑走路上の待機機のコックピットから見つけるのは、”フェルナンディア・マルヴェッツィ”。

常人なら豆粒に毛が生えた程度にしか見えない大きさなのに、識別までしてしまうとは素直に驚きだ。

 

蛇足ながらマルヴェッツィは、1ヶ月ほど前に愛機を乗り換えていた。

水冷のMC.202ではなく、空冷の戦闘機……彼女たちより1週間ほど遅れてアフリカ入りした戦闘爆撃機(ヤーボ)的な性質を持つRe.2002”Ariete(アリエーテ)”にだ。

本人曰く『繊細なところのあるサラブレッドより、やっぱり急降下爆撃とか高速大分とかできるタフな子の方が相性いいのよ』とのこと。

 

「うーん……感じからしてフランス機っぽくない? うん。カプチーノよりもエスプレッソかな」

 

そう隣に駐機する戦闘機……双子の妹の手による(魔)改造と調整を終えて、なんとなく中身がF型仕様(フリッツ)の砂漠対応モデルに近くなったような気がする愛機の”Bf109E(エミール)・スペツァル”のコックピットから、暇そうに待機していた少女……短い金髪がトレードマークの”エーリカ・ハルトマン”が気の抜けた声で返した。

 

彼女達が気にしてるのは、どうやら隊長ポジの先頭機とロッテを組む”見慣れない機体”らしい。

実は、マルヴェッツィとハルトマンの二人、何気にスクランブル待機中だった。

要するに今日、友軍の……というか本国の【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】から増援が来る知らせは届いていたが、万が一にも情報が英国に漏れ、味方に偽装した敵の空爆隊だったら洒落にならないため、保険の待機要員と言ったところだ。

 

故に気になるのは当然だった。

主に色気(エロ)方面で自由奔放で大胆なドッリオだが、本職の航空指揮官としてはそこに慎重さやら他の要素も組み入れた優秀な女性だった。

 

 

 

「あっ、言われてみれば確かに形はD.520(ドボワチーヌ)ね? だけどD.520に増槽は搭載できないし……噂の”イタリア空軍仕様”のテストモデルかなんか?」

 

確かにその”妙にコクピットが後方ある水冷戦闘機”は、フランス機が採用していなかった増槽を左右主翼の内側に装着していた。

 

「さあねー。どうせ降りてくるんだし、操縦してる本人に聞いてみたら?」

 

口ではそう言いながら、ハルトマンは別のことを考えていた。

マルヴェッツィ以上に目のいいハルトマンは、この距離と角度から件の機体の横に書かれた”盾と猫のシルエット”を象ったパーソナルマークと、その下に青い塗料で綴られた文字列……おそらくはその機体の愛称を捉えていた。

 

(ふ~ん……”La Tonnerre(ラ・トネール)”ねぇ~)

 

「だったら、”アイツ”しかいないじゃん」

 

「ハルトマン、何か言った?」

 

「べっつにー」

 

 

 

***

 

 

 

お手本どおりの綺麗な着地を決める戦闘機隊。

そして、その戦闘機のコックピットから、

 

「たっだいまぁーーー♪」

 

軽い身のこなしで文字通りにぴょんと飛び降りてきたのは、黒真珠のような黒髪をコントラストが眩しい白いリボンでツインテールにまとめた、猫のような印象の翡翠色の瞳を持つ少女だった。

耳にはルビーの赤いピアス、もっとも耳に限らず服の下(あるいは下着の内側)の見えない「敏感な部分」にもピアスを入れて()()()()()ようだが。

 

「お帰りなさい♪」

 

とその小さく幼い肢体(からだ)をしっかり胸でキャッチするのは、いつの間にか滑走路まで迎えに出ていたのはドッリオだった。

同じ黒髪に健康そうに焼けた小麦色の肌を見ていると、なんだか姉妹に思えてくるから不思議だ。

すると……

 

「もう。ルッキーニさんたら……久しぶりに戦友に会えて嬉しいのはわかりますから、せめて着任の挨拶をしてからにしなさい」

 

そう声をかけたのは、高い知性と気品が漂う眼鏡少女(ガネっ娘)

襟元を黒いリボンで飾った蒼空を思わせるミロリブルー(紺青色)の飛行服と、砂漠を渡った風に舞う少しクセのかかった長い金髪のコントラストが美しい。

 

「うにゃー」

 

『怒られちった』と言いたいのかあるいは不満なのか? 猫のような鳴き声をあげるルッキーニだが、嫌がってはいないようだ。

そして金髪のガネっ娘はビシッと敬礼し、

 

「このたび、【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】に入隊し、アンツィオ遊撃旅団に合流を命じられました”ペリーヌ・クロステルマン”と申しますわ。階級は中尉待遇です。以後、お見知りおきを。ドッリオ司令官殿」

 

するとルッキーニは名残惜しそうに顔を埋めていたドッリオの胸の谷間から顔を離し、距離をとるとペリーヌよりは些か奔放な、平たく言えば崩れた敬礼でニシシと笑い、

 

「”フランチェスカ・ルッキーニ”しょーい(少尉)。赤ちゃん生まれたし、原隊復帰するよー♪」

 

……ルッキーニ、どうやら一児の母として帰還したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「でねでね。マンマったらひどいんだよー! 『アンタが子育てなんて10年早い! この娘はアンタの妹としてきっちり育ててやるから、さっさとご奉仕しておいで! 大体、アタシはまだ”Nonna(お婆ちゃん)”なんて呼ばれる歳じゃないさね』だってさー」

 

身振り手振りを加えて現状を語るルッキーニ。

父親はもちろんバルケッタ・ムッソリーニで、既に認知済み。

ルッキーニの現在の年齢を気にしてはいけないのはお約束だ。

ただ一応、年齢は二桁のようなので、1931年生れが公式設定の平行世界(げんさく)よりは年上だろう。いや、多分……

 

「いや、それすっごくまっとうな意見だから。というか10年くらいで何とかなると思ってるあたり、存外にマンマ・ルッキーニは親馬鹿?」

 

「ぶーぶー! ”フェル”、それどういう意味だよー!」

 

「いや、子供が子供生んだんだから適切な判断……というか、むしろ甘い見積もり?」

 

久しぶりの再開ながら、思わずそう呆れるマルヴェッツィだった。

 

 

 

***

 

 

 

ルッキーニは出産と産後の肥立ちの為に産休をとっていただけであり、手続きはごく簡易。ぶっちゃけドッリオに黒リボン専属医師の太鼓判つき健康診断書を含む何枚かの書類を提出しておしまいだ。

というわけで旧交を温めるルッキーニだったが、ただそうはいかないのはペリーヌだ。

 

彼女はドッリオと共に向かったのは、旅団全体の総責任者アンチョビの執務室だった。

 

 

 

「歓迎するぞ。ペリーヌ・”La Bleu Tonnerre(ラ・ブラウ・トネール)”・クロステルマン中尉」

 

「うふふ。改めて自分の二つ名を上官から聞かされるというのも、中々気恥ずかしいものですわね?」

 

そう。フランス語で”青い雷”を意味する”Bleu Tonnerre”だが、本来ならば定冠詞は男性名詞の”Le”となり”Le Bleu Tonnerre”となるはずであるが、わざわざ女性名詞の定冠詞である”La”を使っているあたり特別なのだ。

つまり一般名詞としての雷ではなく”()()()()()()雷”が指すのは、世界でペリーヌただ一人であるということだろう。

 

「照れることはないんじゃないか? 独仏戦では、メルダース大尉を落したのだろう? 世界のどこに出ても胸を晴れる立派な戦歴じゃないか? 私なんか未だに半信半疑なくらいだ」

 

「どんな名パイロットが相手でも、あんな不意打ちなら誰でも落せますわ」

 

 

 

ペリーヌが事も無げに言うのは、おそらく【第09話”マルタ島=撒き餌?”】に出てきた話題のことだろう。

曰く、

 

『まだフランスが降伏する前に、自分の領地の上空を許可なく横切ったっていうんで「この無礼者!」って大激怒。庭に駐機してたD.520に飛び乗って追いかけ、単機でBf109の2機編隊(ロッテ)を瞬殺したって女の子』

 

『その落した2機のパイロットは、その娘が手加減したせいもありパラシュートで脱出。その富豪の屋敷の庭に降り立ったが、彼女はフランス軍に捕虜として突き出さず、丁重に客人としてフランスの降伏でドイツ軍の使者が来るまでもてなしたそうだ。「わたくし、軍人として敵を討ったのではなく、無礼者を成敗しただけですわ。であるのなら、きちんと謝罪していただいたのなら客人としてもてなすのは当然でしょう?」と言い切った』

 

しかもその落した相手の片割れというのが、『スペイン内乱のトップエース』こと”ヴィルヘルム・メルダース”だ。

 

 

 

「おいおい。それじゃあメルダース大尉、いや今は少佐だったか?の立場がないぞ」

 

いくら周囲に飛行場がないといっても、一応は敵地上空だ。

油断をしていたとしてもそれなりに警戒をしていただろうし、まさか遊覧飛行のつもりだったわけではあるまい。

そんな状態の敵を2 vs 1で、しかも片割れはメルダースというのに瞬殺したペリーヌは只者じゃないだろう。

 

「あら? そんなことはございませんわ。わたくしが落したお二人は、腕前だけでなく立派な紳士でしたもの。きっと不意を突けなければ、わたくしが返り討ちにあっておりますわね。今でも尊敬しておりますわよ?」

 

どうにもフランス降伏まで、メルダース達はクロステルマン家の屋敷で穏やかな時間を過ごしたようである。

というかペリーヌは時折、戦闘機乗りとしてのアドバイスも貰っていたようだ。

それどころか、メルダース達二人はペリーヌとその後輩も加え、ドボワチーヌD.520×4機で飛行小隊(シュバルム)を組み、彼女の家の広大な領地を遊覧飛行やら模擬戦を楽しんでいたという情報もある。

 

 

 

今更の話であるが、第16話で話題に出てきたイタリア資本のフランス側の”大口トンネル”のクロステルマン家とはまさに彼女の家で、イタリアと手を組む前からドボワチーヌ社やイスパノ・スイザ社の大株主であったらしい。

より正確に言うなら、彼女の家は元々第一次世界大戦前から航空産業各社やエンジン業界各社に出資/投資して大きくなった資産家であり、フランスでは元々わりと有名な家だったようだ。

しかし、中小企業の乱立し中々統廃合を含む業界再編が進まぬフランスの航空産業に嫌気が差し、近年はイタリアの石油産業や造船分野に出資していたらしい。

バルケッタ・ムッソリーニと関わりが始まったのは、その頃と思われる。

 

そして今、イタリアというバックボーンを得たクロステルマン家は上記の2企業だけでなく、降伏前は国営だった【Arsenal de l'aeronautique(アルスナル国営航空工廠)】を買収。他にも航空産業/兵器産業を中心に多額の出資&投資を行っており、現在絶賛進行中のフランス航空産業再編の旗手となっていた。

 

そんな中で娘のペリーヌは、共に自ら操縦桿を握り遊覧飛行を行うのが趣味というある意味、貴族らしい優雅さを持つ両親の影響を受け、幼い頃のより飛行機に慣れ親しんだらしい。

実際、父親は冒険飛行家のようなこともしており、資産家として以外にも知る人ぞ知るという感じだった。

 

その環境のせいでペリーヌは冒険心に溢れた飛行機乗りという気質に育ち、それがD.520のテストパイロットを務めたり、前出のメルダースとのエピソードに繋がったり、何より【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】の入団に結実していた。

もっとも、彼女の入団にはケッタの強い意向も関わってるようだが……

 

 

 

***

 

 

 

「いずれにせよ、この時期の戦力補強はありがたい」

 

そう言うアンチョビの言葉に何かを感じ取ったペリーヌは、

 

「その口ぶりですと、何やら差し迫った情況がおありのようですわね?」

 

「ああ」

 

アンチョビは徐に頷き、そして半ば確信を持って告げる。

 

「そう遠くない先……おそらくは1ヶ月以内に、在エジプト英軍はリビアに総攻撃をかけてくるだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、ご愛読ありがとうございました。
ルッキーニのマンマが登場するのではなく、ルッキーニがマンマになってたことが判明するエピソードは如何だったでしょうか?(えっ?

ケッタ、手の早さとストライクゾーンの広さは相変わらずのようです(^^
えっ? ルッキーニの年齢は気にしてはいけません。
まさか原作と生年月日が同じで、1940年現在まだ1桁ということはないでしょう……ないといいなぁ~(ヲイ!

それにしても……ペリーヌの大物感が、何故か半端ないことに(笑)
このシリーズのペリーヌさんは「ツンツンメガネ」というよりむしろ「ちゃっかり眼鏡」という感じでして、むしろ中身は原作ペリーヌより中の人つながりでむしろ某ミントさんの方がずっとちかいかもしれません。
あっちも凄腕のパイロットで、青色がパーソナルカラーですし(^^

さて、英国は政治的に追い詰められ「海で勝てぬのなら陸で」という考えに陥りそうですが、リビアを守るイタリア軍は史実とは似ても似つかぬ偽物語状態。
果たしてどうなることやら……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



ドボワチーヌD.520RA(テストモデル)

製造元:フランス・ドボワチーヌ社
エンジン:イスパノ・スイザ12Y-51(1段1速軸駆動式過給器(スーパーチャージャー)付き液冷V型12気筒SOHC、公称:1180馬力)
最高速:545km/h(高度6000m、戦闘重量)
降下制限速度:815km/h
航続距離:998km(機内燃料のみ)
実用上昇限度:10300m
固定武装:イスパノ・スイザHS.404bis-BCA/試作20mmモーターカノン×1(20mmx110弾、毎分600発、プロペラ軸)、MG17機関銃×4(7.92mmx57弾、毎分1100発、主翼)
プロペラ:可変ピッチ・定速式3翅
照準機:Revi12C(ライセンス生産品)
特殊装備:防振処理空中無線機、防弾装備一式(30口径級弾対応。パイロット背面防弾板、セルフシーリング・タンク、防弾ガラスなど)、熱帯用防塵/防砂装備一式
オプション:200リットル落下式増槽×2(左右主翼内側下)

備考
差し詰めドボワチーヌD.520のマイナー・チェンジverのイタリア空軍仕様といった感じの戦闘機。
この時代、イタリア戦闘機は対英戦を強くしており、英空軍のブリティッシュ303(7.7mm)弾に対する防弾性を重要視していた。
故にオリジナルでは装備していなかったパイロット背面の防弾板などの防弾装備の搭載に始まり、航続距離の短さを補うためにドロップタンクの懸架装置を両翼の付け根付近に増設し、それに対応する配管と機体構造の強化を行っている。
航続距離は史実と違いイタリア空軍にとり重要要素であり、「巡航速度でイタリア南部からリビア沿岸部の基地まで問題なく飛べる」ことが採用条件になっていた。

またイタリア規格の無線機と照準機を当時のイタリア戦闘機では標準的なRevi12Cのライセンス生産品をそれぞれ搭載し、それに合わせて主翼機銃をフランス独特の7.5mm弾を用いるMAC機関銃からイタリア空標準のMG17航空機関銃に交換している。
また武装のハイライトとしては、20mmモーターカノンの変更が挙げられるだろう。
フランスのイスパノ・スイザHS.404機関砲と言えば、世界初のモーターカノンとして知られているが、同時に欠点も多くあった。
サイズ/重量的な物を除けばドラムマガジンを採用しているゆえの装弾数の少なさ(60発)と、一定以上Gがかかると装弾不良を起こす給弾装置が主だった物だろう。
実は史実でも1940年にこの二つの欠点を是正するべくベルト給弾仕様のモデルがイスパノ・スイザ社で行われていたのだが、フランスの降伏で開発が中断してしまった。
しかし、”この世界”では降伏後処理の違いとイタリア資本の参入により開発は継続され、ついに試作モデルの完成にこぎつけたようだ。
他のフランス兵器と同じく”bis”は改良型を示し、”BCA”は”Balles Ceinture Alimentation”、フランス語の「ベルト給弾仕様」の略である。
実際、装弾数はD.520RAなら275発に増え、また給弾/装填機構にテンショナーを導入するなどの改良により明らかに耐G性能が向上している。

実際、この機関砲の威力は素晴らしく、徹甲榴弾を使えば当たり所によってはほんの数発で大型爆撃機も撃墜可能だったようだ。
また、イタリア海軍のMG-FF機関砲より30mmも長い110mmの長薬莢と長銃身の相乗効果で初速が高く、弾道直線も良好であり威力もさることながら有効射程が長く非常に当て易かったらしい。
まさに主翼内蔵型より大型/高威力のモーターカノンの面目躍如と言ったエピソードだろう。
特にこの時期のイタリアの単発戦闘機は割と軽武装で、50口径かそれ以下の航空機銃が主流であり、MG151/20のライセンス生産モデルが出回る1941年後半までD.520RAはイタリア空軍唯一の大口径20mm機関砲を搭載した高性能戦闘機と言ってよく、対戦闘機のみならず対爆撃機や対装甲車両においても大いに活躍したようだ。

略語が出てきたついでに言えば、D.520RAの”RA”は「イタリア王立空軍」を意味する”Regia Aeronautica”の略だ。

これらの装備の改変や増設は、当然のように重量増加を招いたがそれを是正するために選ばれたのが、原型機の12Y-45(最高出力:935馬力)より強力な12Y-51エンジン(公称:1180馬力)を選択している。
フランスよりオクタン価の高い100オクタンのイタリア標準航空燃料に対応するようにセッティングされてるため、出力は実に250馬力以上も向上し、性能も底上げされている。
例えば表記される最高速度も、計測重量ではなく戦闘重量(コンバットペイロード)であることから、オリジナルとの速度差は数字以上だろう。
ただ、それよりも注目すべきは燃料気化装置(キャブレター)の交換かもしれない。
マニアックな話になってしまうが、100オクタンのイタリア燃料を使用するに当たり、キャブレター自体がイタリア・マレッリ社製の新型の物に切り替えられている。
実はこのキャブレター、フロート針に細工が施してあり後期型マーリン・エンジン(マーリン45以後のエンジン)のように「マイナスG状態によるオーバーフロー対策」が取られていた。
つまり、いわゆる”マイナスG状態におけるエンジンの作動停止”が発生しにくいように調整されていたのだ。

作中でペリーヌが搭乗するモデルは上記のようにあくまで試作機であり、新装備のHS.404bis-BCAを含めた実戦テストの為にリビアに投入されたようだ。
その為、MC.202等の他イタリア戦闘機に準じたトロピカル・フィルターなどの砂漠対策装備が標準搭載されている。


史実では、フランス戦闘機の中では唯一と言っていいBf109に対抗できる戦闘機であったにも関わらず主力戦闘機として華々しくは活躍できなかったD.520だが、”この世界”ではD.520自体がヴィシー・フランス政権の初代主力戦闘機として大量生産されただけでなく、改良型がイタリア空軍にもドボワチーヌD.520RAとして1000機以上納品され、またD.520RAのフランス本国仕様がD.523(D.520bisとする資料もある)として逆再採用。
また42年からは、燃料噴射装置&4バルブ・ヘッドのイスパノ・スイザ12Z系エンジン+新型過給機を採用した発展型が登場し再び伊仏空軍に採用されるなど、大戦全期間を通じてその一族は大空の一角を占めた。






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