ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ~。
なんか久しぶりに深夜アップになってしまいました(^^

さて今回のエピソードは……本格的な戦闘に入る前に、ちょっと二人のウィッチに脚光を当ててみたいと思います。
平行世界(げんさく)では相性がさほどよくはなかった二人ですが……





第19話 ”雷鳴と疾風 CODE1940”

 

 

 

1940年11月後半……クリスマスまであと1ヶ月をきったという頃、リビアの地中海沿岸部の都市アルベイダ近郊にある”アンツィオ遊撃旅団”の本拠地、正確には隣接する旅団飛行場に24機の戦闘機隊がイタリア本国より飛来する。

 

Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】本隊より増援で送られた部隊だった。

 

基本的にはイタリア・マッキ社自慢の最新鋭の戦闘機MC.202”Folgore(ファルゴーレ)”で編成された部隊だったが、1機だけ毛色の変わった機体が混じっていた。

妙にコックピットが後ろに寄ったエスプリ臭のする戦闘機……

 

いや、その戦闘機よりもむしろパイロットの方が問題か?

そのパイロットの名は、”ペリーヌ・クロステルマン”中尉。

ヴィシー・フランスの資産家令嬢にしてD.520戦闘機のテスト・パイロットまで務めたという女傑で、細めの肢体に眼鏡がトレードマークの知的かつ可憐な外観に反し、対独戦の際にはドイツのエース”ヴィルヘルム・メルダース”を撃墜したという強烈な武勇伝を持つ。

 

さて、彼女が航空隊総指揮官であるドッリオに連れられやってきた旅団長執務室において、アンチョビから告げられたのは……

 

「そう遠くない先……おそらくは1ヶ月以内に、在エジプト英軍はリビアに総攻撃をかけてくるだろうからな」

 

 

 

***

 

 

 

なるほどとペリーヌは納得する。

今回のイタリア派遣は急遽決まったもので、無理なスケジュールではないが慌しいスケジュールではあった。

現場司令官まで話が降りてきてるのなら、その情報はほぼ確定なのだろう。

 

「あまり驚いてはいないようだな?」

 

「今の英国の置かれてる情況を考えれば、さほど不思議のない結論ですわ」

 

「そのこころは?」

 

「『一日でも早く、明確な勝利を』でしょうね。資料を読む限り、在リビア伊軍はその為にあえて()を作っておられるようですし」

 

「腕っ節だけじゃなくて頭も切れるか……安心したよ」

 

満足げに微笑むアンチョビだった。

 

「ふふ。司令官殿の御期待に添えたようで何よりですわ」

 

そうたおやかに微笑むペリーヌだったが、

 

「いちいち殿は付けなくていいさ。というよりここは正規軍じゃないからな。好きに呼んでくれてかまわない」

 

「あら、そうですの?」

 

「ああ。”姐さん”なんて呼ぶのもいるくらいだ」

 

「ず、随分と自由ですのね」

 

「まあ、ここはそういう場所だ。ところで……」

 

アンチョビは思い出したように部屋の片隅に目をやり、

 

「お前はここで何をしている? ハルトマン」

 

 

 

***

 

 

 

「あれ? もしかして来ちゃまずかった?」

 

そう、いつの間にか部屋に入っていたのはエーリカ・ハルトマンだった。

 

「いや。ただ、お前が呼ばれもしないのに私の部屋に来るのが珍しいと思っただけだ」

 

するとドッリオは相槌を打ち、

 

「まったくだ。ハルトマンが始末書や説教以外で司令官室に来るのはレアケースだな?」

 

するとハルトマン、不満げな様子で、

 

「えー。始末書や説教はドッリオのところで大体止まるから、アンチョビにその手の呼び出しを喰らうなんて滅多にないよー」

 

滅多にってことは、呼び出されたこと自体はあるようだ。

 

「それで? どういう風の吹き回しだ?」

 

「エヘヘー。ちょっと噂の”ブリッツェン・ヘクセン(雷鳴の魔女)”に興味があってさ♪ それにあの機体にも」

 

にゃははーと気の抜けた笑みをこぼすハルトマン。

実に愛らしい娘である。どうりでケッタに「お気に入りの愛犬」と呼ばれるわけだ。

まあ、本人も「はだかくびわ+垂れ犬耳(ロップイヤー)+尻尾」の愛玩犬プレイが好みで、特にお散歩プレイはお気に入りのようであるし。

 

「わたくしと”La Tonnerre(ラ・トネール)”にですの?」

 

ちょこんと小首をかしげるペリーヌにハルトマンは頷き、

 

「うん♪ だってドイツのエースを落したパイロットと機体だよ? 同じ戦闘機乗りとして興味持つなって方が無理じゃない?」

 

「そういうものですの? ん? んー……」

 

今度はペリーヌが細身のフレームの眼鏡を直しながらじぃーっとハルトマンの顔を見て、

 

「もしかして貴女、エーリカ・ハルトマン中尉ですの? ”ユーリヒ・ハルトマン”大尉の妹御の?」

 

「そだよー」

 

あっけらかんと言うハルトマンに、ペリーヌはにっこりと微笑み、

 

「あらあら、これはこれは。まさか、”かの有名”なハルトマン中尉に気にかけていただけるなんて、予想外の光栄ですわね?」

 

コロコロと鈴のような笑い声を上げる。

 

「ほえ? かの有名な?」

 

頭上に?マークを浮かべるハルトマンだったが、

 

「『兄はバトル・オブ・ブリテンのトップエース、妹はイタリアで初の実戦でいきなり敵機撃墜を飾った、国境をまたいで大空で活躍する鉄血にして豪傑の鉄十字兄妹』……今、欧州の戦闘機乗りの間では普通に有名ですわよ?」

 

「うげー」

 

ハルトマンはうんざりした顔で、

 

「兄ちゃんは知らないけど、ワタシのそれは思い切りプロパガンダって奴だよ。上は独伊の良好な関係をアピールでもしたいのかな? ワタシはマルタ島空襲にも参加してたから、初撃墜は二度目の実戦だしさー。それに……」

 

彼女は表情を詰まらなさそうな物に変え、

 

「”ウルスラ”の存在が無視されてるようなのも気に入らない」

 

「ウルスラ?」

 

再び小首をかしげるペリーヌに、ハルトマンは「やっぱりねー」という顔で、

 

「”ウルスラ・ハルトマン”。ワタシの双子の妹で、航空技官をやってるよ」

 

「あら? 航空技術者の妹さんとは素敵ですわね♪ いつか機会があればお話してみたいですわ」

 

「ふえ?」

 

ペリーヌの食いつきに驚いたのはむしろハルトマンの方だった。

 

「どうしたんですの? そんなハトが豆鉄砲を食らったような顔をなさって?」

 

「えっと……ウルスラの話をして、そういうリアクションされたのって初めてだから、どう反応したらいいのかなって」

 

「そうなんですの? わたくしに言わせれば、ハルトマン中尉の妹さん、ウルスラさんでしたっけ?」

 

「うん。あっ、ワタシのことはエーリカでいいよ」

 

「それでは、わたくしのこともペリーヌでいいですわ。ウルスラさんのお仕事は時代の最先端、航空機の未来を示す大事なお仕事ですわ。わたくし、こう見えても幼少の頃から戦闘機に限らず飛行機全般に慣れ親しんでますの。だからこそ、技術者がどれほどの熱意と才能を持って飛行機を発展させてきたか、技術がどれほど大事かを肌で感じてますわよ?」

 

 

 

前にも話は出ていたが……ヴィシー政権下におけるクロステルマン家はフランス航空産業の首領(ドン)と言っていい立場の家だ。

だが、かの家が飛行機とかかわりを持ったのはそのかなり前のことで、それこそシュナイダー杯華やかかりし時代の頃からだった。

 

第一次世界大戦の頃、フランスの航空産業は一つの頂点を迎えていた。

だが、戦後……その歩みは急速に足踏みすることになる。

一つの象徴が、シュナイダー杯の提唱者でありフランスの鉄鋼王だったシュナイダー家の破産と没落だろう。

 

そして第一次大戦以降、フランスは緩慢に……自覚できぬほど緩慢に一級の航空先進国の座から滑り落ちていった。

件のシュナイダー杯では英伊米の後塵を浴び、提唱者の母国であるにもかかわらずついに一度もトロフィーを手にすることはなかった。

中小企業が乱立し、誰も確固としたイニシアチブが握れず、航空産業界の統合はままならなかった。

エンジンと機関砲に定評のあるイスパノ・スイザなど一部の企業は相変わらず世界の最先端にいたものの、航空産業全体は活況を失い次の時代に繋がる新しい”何か”へのチャレンジを尻込みするようになり、保守的な技術がもてはやされるようになった。

そして、世界の最新トレンドから取り残された結果が先の敗戦だ。

 

クロステルマン家はその一部始終をつぶさに見ていたのだ。

そして飛行機に深く関わる家に生まれ、多感な時代に自国の航空産業の衰退を……近代化の波に乗り遅れた航空機群を目の当たりにしたペリーヌは何を感じたのだろうか?

 

 

 

もしかしたら、彼女に取り祖国の敗戦すらも悪いものじゃないのかもしれない。

フランスの航空産業を生まれ変わらせるためには、荒療治も必要……煉獄の彼方にあるそれを求めるように、ペリーヌがそう考えてもおかしくはなかった。

 

 

 

***

 

 

 

歩み寄りというと語弊があるが、想定もしていなかったくらいの妹込みのペリーヌの自分に対する好意的な反応に、ハルトマンは内心で少し戸惑っていた。

飄々とした雰囲気が邪魔をして他人に気付かれることは少ないが……実はハルトマン、けっこう人見知りな部分があるのだ。

人懐っこいように見えてつかみどころのない性格も、自分を守るための手段と言えば判り易いだろうか?

人怖じはしないし人懐っこく見えるかもしれないけど、本質的には人見知り……表面は単純なように見えて、見えない内面は複雑というのが、ハルトマンの実像なのかもしれない。

そういう意味では、目で見えて堅物でとっつきにくいバルクホルンや傍若無人を装うマルセイユの方が、存外に掴み易いキャラではないだろうか?

 

「どうかしましたの?」

 

きょとんとしっぱなしのハルトマンを不思議そうに覗き込むペリーヌ。

 

「えっ? あっ、いや~……本当に興味深いなって。ペリーヌも、えっとD.520も込みで」

 

D.520という単語にとってつけたような印象があるのは気のせいじゃないだろう。

 

「うふふ♪ なんでしたら乗ってみますか?」

 

「ほえっ? ペリーヌに?」

 

平行世界(げんさく)ペリーヌなら顔を真っ赤にしながらさぞかし面白いリアクションをとってくれるだろうが、”この世界”のペリーヌはどうやら一味違うようだ。

彼女はたおやかに微笑み、

 

「わたくしとしてはいつでも大歓迎ですが……問題は、どっち()()でどっちが()()かということですわね? 個人的な要望を言わせてもらえれば、同性同士ならわたくし、タチの方が素質はあると思いますわよ?」

 

うん、訂正。一味違うどころか、百合的な意味での立ち位置からして原作と違っていた。

このペリーヌ、どうやら攻めの姿勢(それとも”責めの姿勢”か?)がデフォらしい。

 

「えっ? ペリーヌ()ソッチ方面がいけるクチ?」

 

純粋に驚いたような顔をするハルトマンに、ペリーヌははしたなくぺろりと唇を舐める。

その手の蠱惑的な仕草が妙に似合うのは何故だろう?

 

「ソッチが具体的に何を意味するかはわかりませんが、百合という意味ならバッチこいですわ♪」

 

 

 

***

 

 

 

「わかったわかった。ペリーヌに乗っかるにしろ、D.520RA(ドボワチーヌ)に乗るにせよ部屋を出てからなら好きにしろ。私が許可する」

 

『言うべき事は終わった』とばかりに、何やら面倒くさそうに退室を促すアンチョビに、

 

「あら? アンチョビ司令はこの手の話や行為に興は乗りませんの?」

 

「生憎と私はNLでな。GLの趣味はないよ。少なくとも現状の”殿下”の寵愛で十分に満足してるさ」

 

「司令ったら存外に淡白ですのね?」

 

意外そうな顔をするペリーヌに、

 

「私はこれでも敬虔でね。”Sette Peccati Capitali(七つの大罪)”に進んで抵触する気はないのだよ」

 

抵触するとしたら”強欲”と”色欲”だろうか?

 

「とてもソドムとゴモラの世界観を耽溺するようなお方の寵妃の台詞とは思えませんわね」

 

「殿下は確かに『七つの大罪? 何それ美味しいの?』という型破りな方ではあるがな……後宮の住人(おんな)まで揃いも揃って破格じゃそれこそ収拾がつかなくなるだろ? だから私のようなものも必要となる。もっとも、」

 

アンチョビは苦笑し、

 

「私自身さして誉められた倫理観や道徳心があるわけじゃないが。一応、一通りやることはやってるわけだし」

 

「その”一通り”のボーダーラインをいつかゆっくり聞きたいとこですわ」

 

「そのうち共に杯を交わす機会でもあれば、酒飲み話がてらに聞かせてやるかもな」

 

 

 

さて、ペリーヌとハルトマンの退室を見届けたドッリオは……

 

「我らが”ドゥーチェ”、ご感想は?」

 

「使える人材のようで何よりだ」

 

ドッリオは面白そうな顔をして、

 

「そのココロは?」

 

「戦闘機乗りはあのくらい鼻っ柱が強くないと勤まらん。ただでさえアンツィオ(うち)は曲者揃いだからな……その中でやっていこうと思えば、あのくらいでなければ埋没する」

 

「お眼鏡にかなったようで私もホッとしたよ」

 

「ふん。まっ、それに……」

 

「それに?」

 

「ハルトマンが『他人に興味を持つ』なんてレアな姿を見れたんだ。それだけでクロステルマンが只者じゃない証明になる」

 

「それもそうか」

 

アンチョビ遊撃旅団全体……主に陸を統べる少女と、空の責任者の少女が笑いあう。

しかし、そこには「少女の姿をした別の何か」……そう思わせる凄味があった。

つまるところどんな愛らしい外観をしていようと、アンチョビもドッリオも紛れもなく一軍を預かる”将”だということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************************************

 

 

 

 

 

 

「ところでルッキーニ、アンタって赤ちゃん産んでマンマになったってわりには体形変わってないわね? というか胸がまったく膨らんでないわのはなんでなのよ?」

 

「う~……これでもお腹が膨らんでたり、赤ちゃんが生まれた直後はちょっとは大きかったんだい! ただ、その……多分、ぺったんこになるまで吸われつくされたっていうか」

 

「赤ちゃんに?」

 

「それとケッタに」

 

「……殿下、なにやってんのよ」

 

 

 

***

 

 

 

「ひゃっほ~い♪」

 

空中で華麗に舞うD.520RAの中で、中々にはしゃいでるハルトマンがいた。

 

「フランス戦闘機もよく動くね~♪」

 

『うふふ♪ お気に召して頂いたようで幸いですわ』

 

と通信機越しに答えるのは当然のようにペリーヌ。

彼女は彼女でちゃっかりハルトマンの愛機Bf109E(エミール)、より正確に言うなら”Bf109E-4NS/Trop-V3(ハルトマン・スペツァル)”に乗っていたりするのだが。

ちなみにウルスラ達のドイツ砂漠使用戦闘機試験評価チーム(仮称)は、新しい機体を受領するために既に本国に戻っており、機体の所有権やメンテナンスやその他諸々はハルトマン&アンツィオの整備娘達に移管されていた。

要するに必要なデータは取り終えたから、ハルトマンやアンツィオが好きに使っていいということだろう。

 

『正確にはその子、D.520RAと申しましてイタリア空軍仕様に小改良を施された機体なのですが……こう第三者の操縦を外側から見ても、中々素性のいい機体ですわね』

 

「うん。乱暴に振り回しても機体はしっかり追従してくるし、高速になっても舵が重くならないのがいいなー」

 

 

 

Bf109シリーズの欠点の一つで、「400km/hを越えると急に舵が重くなる」というものがあった。

タイプにもよりけりだが、「500km/hを越えるとほとんど舵が利かなくなる」という証言すらあるくらいだ。

どうも資料を調べてみると「Bf109は運動性(旋回性)が悪く、格闘戦が苦手な機体」が転じて「高速一撃離脱を得意とする」という評価は、この”高速域で性能劣化する舵特性”に一因があったようだ。

Bf109は本来なら失速特性改善のために搭載されていた自動スラットの恩恵もあり、400km/h以下ではむしろ運動性が高い格闘戦向きの機体特性を持っていて、実際そのように戦うパイロットも多かった。

例えば、史実では一撃離脱の代表格エースがハルトマンとするなら、格闘戦のエースはマルセイユがあげられる。

 

本来の軽戦闘機的な格闘性能を十全に生かせる速度/高度域で戦おうとしたのがマルセイユであり、舵が利かなくなるのを承知であえて速度と高度に先鋭化した戦術、舵が利かなくとも上昇と下降の縦軸運動の一撃離脱で勝利を得ようとしたのがハルトマンだったのかもしれない。

 

この辺りの欠点が綺麗に払拭されてるのが、”この世界”ではHe100Dシリーズであり、ある意味においては史実では完成しなかったMe209と採用されなかったHe100のハイブリッドと言える立ち位置の機体といえた。

 

「この機体……ううん。原型機のD.520が制式機になっててまとまった数とまともな運用ができてたら、結構ドイツもやばかったかもね?」

 

『それが出来なかったから戦争に負けたのですわ。配備される頃には旧式化することが目に見えていた旧態依然とした設計の戦闘機を主力機に選び、梅毒将軍に国防を託すような無能な政府ですのよ? 最初から勝利を期待すること自体、せん無きこと』

 

「……もしかしてペリーヌって、自由フランス軍とか嫌い?」

 

『敗戦責任を放棄し、国土国民を見捨て国庫から資産を持ち逃げし、偉大なる祖国を騙るような卑怯千万な輩をどうして好意的に見れましょう?』

 

 

 

ペリーヌ・クロステルマンという少女、あるいはクロステルマン家という家はフランスが第三共和制に移行する段階で多くの特権を失い、名ばかりの名誉称号のみが残ったフランス貴族の御多聞に漏れぬ家ではあったが、時代の荒波を乗り切り未だ多くの領地領民を資産家という新しい立ち位置から抱え、こうして敗戦後も権勢を維持……いや、むしろ拡大させてる名家だ。

 

彼女の家が収めるのが原作のパ・ド・カレーではなく、ワインで有名なブルゴーニュ地方にあることも大きな違いではある(実際、彼女の家はいくつものワインシャトーを保有している)のだが、領地領民を大事にする姿勢は変わってはいない。

そんな貴族の家に生まれ育ち、貴族でありながらも自由と冒険心を見失わなかった父母の影響を多分に受けたペリーヌにとって自由フランス軍の、あるいは首魁であるシャルルマーニュ・ドゴールの所業は許しがたいものがあるのだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「ところでさー、”La Tonnerre(ラ・トネール)ってペリーヌの愛機の名前、それともD.520全体のペットネーム?」

 

『もちろん、わたくしの愛機の名ですわよ♪ 昔からわたくし、愛機には”ラ・トネール”と名づけ、ステンシルを入れてますの。我が家の家紋と一緒に』

 

某”謎の食通”さんの「トロンベ」のようなものだろうか?

 

「へぇ~。なんか格好いいね?」

 

『うふふ。そう言ってもらえると嬉しいですわ』

 

「ワタシもなんかそういうの付けようかなぁ」

 

『そういえば、わたくしが今乗ってるこの機体、確か”ハルトマン・スペツァル”って呼ばれてましたわね?』

 

「でも、それって何も捻りがないじゃん? だって、ただの”ハルトマン特別仕様機”だよ?」

 

『確かに。機体の素性は良く現してはいますが……確かにシンボライズ性と言いますか、諧謔に欠けていますわね?』

 

「でしょ? ねえねえ、ペリーヌ。何かつけてよ」

 

『えっ? わたくしがですか? よろしいんですの?』

 

「ペリーヌがいいんだよー」

 

『あら♪ ()()()()にそんな風に言われたら、後には引けませんわね? ここはとびっきりのを考えないと……エーリカ、長いのと短いのどっちがお好みですの?』

 

「もっちろん短いの! 覚え易くて、”ラ・トネール”みたいに覚え易いのがいい!」

 

『なるほど……そうですわね、』

 

ペリーヌは機上にありながら深く考える。

今更だが、今は遊覧飛行ではなく独仏の最新鋭と言っていい戦闘機の相互テストフライトの真っ最中だ。

それでも操縦をそつなくこなしながら、たわいのないおしゃべりに興じられるあたり、この二人にとってもしかしたら飛行機の操縦とは思考の余地すらない呼吸するように自然な動作なのかもしれない。

 

『”Die Sturm(ディー・シュトゥルム)”……こんなのはいかがでしょう?』

 

「あっ! それいい!」

 

”Sturm”とはドイツ語で「疾風」のことだ。

本来なら定冠詞は男性形の”Der(デア) ”が付くはずだが、それをわざわざラ・トネールのように女性定冠詞に変えてるあたりが心憎い。

 

「”シュトゥルム(疾風)”かぁ~。うん、気に入った! ペリーヌ、Danke(ありがとう)!」

 

De rien ♪(どういたしまして♪)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

 

ペリーヌやルッキーニの到着から日数が流れ、カレンダーは今年最後の月を示した。

 

ルッキーニは旧交を温め、ペリーヌとハルトマンは友好を深めた。

この間にも、アンツィオ旅団専用の飛行場は彼女達が到着前から続けられていた滑走路や付属施設の増設/拡張工事も終わり、90機に達する航空機の運用も無理なくできるようになっていた。

その工事には何故か輸入されたばかりのアメリカ製のブルドーザーや工事車両が多くあったが、そこは言及しないほうがいいだろう。

少なくとも米伊は今のところ明確な直接的敵対関係にはないのだから。

 

その様子に満足しながら、アンチョビはトブルクの前線司令部に戻った。

無論、副官のカルパッチョやペパロニを連れてだ。

 

 

 

そして時は1940年12月8日……史実ならちょうど真珠湾攻撃の1年前のこの日、リッチモンド・オコーナー中将に率いられた「在エジプト英軍”西方(W)砂漠(D)(F)”」は、最終的に4万5千人を越えるまでに膨れ上がったその全力を持って、エジプト/リビア間の国境を越えたのだった……

 

 

 

「クックックッ」

 

アンチョビは心の底から嗤う……

 

「この時を今か今かと待ちわびていたゾっ!!」

 

そして1940年という年の最後を飾るに相応しい、砂漠を舞台にした巨大な戦いが幕開ける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
しっかり者のペリーヌと、妙に可愛くなってしまった(?)ハルトマンのコンビは如何だったでしょうか?(^^

関係性の参考にしたのはエイラーニャだったりするのは内緒です(笑)
実はこの二人、前々から少し掘り下げてみたかったんですよ~。

ちなみにネタ的にきわどいのはルッキーニだったりして?

アンツィオのパイロットも出揃ったところで、どうやら在エジプト英軍がリビアの国境を越えた模様……アンチョビ隊長がやけに嬉しそうです(汗

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



Bf109E-4NS/Trop-V3 ”ハルトマン・スペツァル”

製造元:ドイツ・メッサーシュミット社
エンジン:ダイムラーベンツDB601N-Trop/S(流体継手型1段無段階変速軸駆動式過給器(スーパーチャージャー)中間冷却機(インタークーラー)付き倒立液冷V型12気筒SOHC、100オクタン&熱帯仕様、公称:1350馬力)
最高速:615km/h(高度6000m、戦闘重量)
航続距離:755km(機内燃料のみ)
実用上昇限度: 10900m
固定武装:MG151/20モーターカノン×1(20mmx99弾、毎分800発、プロペラ同軸)、MG17機関銃×2(7.92mmx57弾、毎分1100発、機首)
プロペラ:可変ピッチ・定速式3翅
特殊装備:防振処理空中無線機、防弾装備一式(30口径級弾対応。パイロット背面防弾板、セルフシーリング・タンク、防弾ガラスなど)、セルフシーリング。タンク、ハンドレページ式自動前縁スラット、トロピカルフィルター、熱帯/砂漠用装備一式、トーションボックス型主翼構造+主翼内側内小型造設タンク
オプション:200リットル落下式増槽×1(胴体下)+100リットル落下式増槽×2(左右主翼下)

備考
1940年11月時点でのエーリカ・ハルトマンの乗機で、位置づけ的には「砂漠上空での航空戦に必要な技術的データ収集」を目的に作られた機体。
ベースとなっているのは史実では35機しか作られなかったといわれているDB601N搭載のBf109E-4、”Bf109E-4/N ”がベースとなっていると思われる。

アンツィオには他にBf109Eはないので表記的には単にBf109E(エミール)と書かれる事も多いが、正式名称は上記のように”Bf109E-4NS/Trop-V3”が正解。ただ無駄に長いのでハルトマンは滅多にこの名称を呼ばない。
一応、意味はあって”NS”は「DB601N()型エンジンのSpezielle(特別仕様)」、”Trop”は熱帯/砂漠用を示す「Tropen(トローペン)」の短縮で、”V”はドイツ語で試作機を示す「Versuch(フェアズーフ)」の略で”V3”は試作3号機となる。
つまり「Bf109E-4をベースに特別仕様のDB601Nエンジンを搭載した熱帯/砂漠用の試作3号機」という意味だ。
確かにドイツ人らしい理詰めの名前だが、ハルトマンが嫌うのも頷ける。

まずこの機体を語る上で忘れてはならないのは、ダイムラーベンツDB601N-Trop/Sエンジンだろう。
上記の例に照らし合わせると「熱帯/砂漠用の特別仕様のDB601N」となるが大体正解で、吸気系を砂漠仕様のいわゆるトロピカル・フィルターに換装し、大型高効率の中間冷却機(インタークーラー)を装着するなどして過給気の冷却効率を上昇させている。
加えて、ドイツの標準的なC3燃料(96オクタン)よりハイオクのイタリアの標準航空燃料の100オクタン燃料に対応するように調整されていため、原型より高出力だ。

蛇足ながらこのイタリアの航空燃料、100オクタン航空燃料ににテトラエチル鉛を混入したいわゆる「有鉛ガソリン」で、英米で言う「グレード100/130航空燃料」に準ずるものだと考えてもらっていい。
このあたりのからしてケッタと米石油メジャーとの繋がりが見え隠れするものがある。

それはともかくエンジン強化や熱帯/砂漠対応のみならず機体の随所が強化&改良されていて、新型主翼を採用すると同時に翼内武装を廃止し、換わりに小型燃料タンクを翼の付け根に増設するなど後のF型に通じるカスタムがされている。
そういう意味においては、ハルトマン・スペツァルは単純な砂漠用技術テスト機というより、「砂漠用Bf109F型のプロトタイプ」と位置づけたほうが正しいのかもしれない。

特に落下式増槽を標準搭載できるようになった上に、ほぼ機内燃料に匹敵するだけ搭載できるようにしたのはバトル・オブ・ブリテンの反省と、”この世界”においては欧州戦闘機の中では航続距離の長いイタリア戦闘機に追従できることが開発条件とされたからといわれている。

ノーマルのBf109E-4/Nに比べればクセの強い機体だが、ハルトマンやペリーヌが難なく乗りこなしてるあたり、二人の技量の高さが伺える。









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