ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ~。
今回のエピソードは……最初は物語開始から20年近く前のアドリア海の一幕から始まります。
果たしてケッタが出会うのは?




第04話 ”小船、出会う CODE1921&CODE1940”

 

 

 

1921年夏、アドリア海

ホテル【Albergo Adriatico(アルベルゴ・アドリアティコ)

 

 

 

「覚悟はしていたが、このあたりの治安の悪さは中々のものだな」

 

ケッタことバルケッタ・ムッソリーニがこのホテルに滞在して三日目。

そろそろ美しい夕日がアドリア海を染める頃……一日、愛機の漆黒に塗った”サボイアS.21コンペツォーネ(カスタム)”を飛ばしてきたらしいケッタがホテルに戻ってくるなりそうぼやいた。

 

「うふふ。ボウヤにはちょっとハードな場所でしょ?」

 

まだ若いホテルの女主人、そして戦争未亡人らしい”ジリオーラ・マルケッティ”は苦笑混じりに出迎えると、

 

「まあね。陸に上がれば革命なんてどこ吹く風の似非社会主義者(コミューン)が哀れな被害者をリンチにかけようとしてるわ、職にありつけなかった退役軍人が退職金代わりに持ち出した銃で銀行強盗をやってる現場に出くわすわ、帰り道に飛んでたら”空賊”にエンカウントするわ……確かにちょいハードだったかな?」

 

”空賊”とは、内海の為に波穏やかなアドリア海やエーゲ海を中心に最近はやりだした飛行艇を使った盗賊だ。

主に客船や輸送船を狙うが、払うもの払えばそう滅多に人は殺さない……らしい。

本当のところはわからないが、要する海賊行為を飛行艇でやってるのが彼らだった。

 

この辺りの海は静かで飛行艇の離着水に向いてるし、アジトとなる小島も多いためにこの手の荒仕事には向いてるのだろう。

 

「……よく無事だったわね」

 

半ば呆れるジリオーラに、

 

「こう見えても悪運だけは強いもんでね。それにどういうわけか昔から揉め事には縁があるほうだから一応慣れてはいるよ」

 

ケッタは小さく肩をすくめた。

初日のどこか剣呑なやり取りと違って、どうやら軽口叩き合える程度には歩み寄れたらしい。

 

「ところで背中に担いでる鉄砲は、なんなの? 朝出るときは持ってなかったわよね?」

 

「本日の戦利品。MP18短機関銃(ベルグマン)なんて中々の掘り出し物だからな。似非コミューンか軍人崩れのギャングのどっちだったかは忘れたが……空賊じゃないのは確かかな? ちょっかい出される前に置き去りにしてきたし。どさくさにまぎれて掠め取ってきたのさ。後は拳銃だの弾倉だの小物と一緒にな」

 

「困ったお坊ちゃまね」

 

思わず溜息を突くジリオーラに、

 

「マダム・ジルにボンボン扱いされるのは悪い気分じゃないが、生憎とそこまで育ちがいいわけじゃないかな」

 

「そうなの?」

 

「まあね。特に寄宿学校(コンビット)を出てから、最前線からの帰還兵ほどじゃないけど割と硝煙と血の臭いには不自由はしてないさ。荒事の教授を願う人間も事欠かなかったし」

 

と彼は腰に下げたホルスターを叩く。そこには愛用のルガーP08自動拳銃が収められてる筈だった。

 

「ボウヤはどこかのマフィアの御曹司なのかしら?」

 

ケッタは楽しそうに笑い、

 

「ははっ。悪いけど、御曹司だとしたら心持ちもう少しガラが悪い集団のさ」

 

そんな馬鹿な話をしていると、

 

”Chin Chin”

 

ホテルの入り口が不意に開いた。

 

 

 

***

 

 

 

長身でちょっと短めのカイゼル髭に丸眼鏡のサングラス・スタイル。

着てる飛行帽と飛行服は階級や国籍などあらゆる識別マークを外した使い込んだもので、ケッタのまだ真新しい雰囲気の黒い飛行服と好対照だ。

 

身に纏う空気はまだ若そうだが、同時に人生の奥底を見てきたような……どこか老成した枯れた渋さを滲み出させていた。

実際の年齢はともかく、”青年”と呼ぶにはやや憚られる雰囲気の男は、

 

「坊主、表の黒い戦闘艇はお前のか?」

 

「その通り」

 

扉を潜ると不意に話かけてきた男に、ケッタは躊躇いなく頷く。

ジリオーラは「あっちゃ~……」と言いたげな顔をしているが、それに気付いているのか気付いていないのか、邂逅を果たした二人の男の会話は勝手に続いていくようだ。

 

「フネの形から見れば”サボイア”臭いが……見た事のないタイプだな?」

 

「よくわかったな。いや、それとも流石と言うべきか? 一発でサボイアだって見抜かれるとは思ってなかった」

 

ケッタは男の洞察に素直に感心しながら、

 

「見た事のないのは当たり前さ。本来なら、愛機(アイツ)はアドリア海じゃなくてヴェネツィアを飛ぶ予定だったんだから」

 

「ヴェネツィア? ああ、今年の”シュナイダー杯”の参加機か」

 

 

 

シュナイダー杯、シュナイダートロフィーとも呼ばれる飛行艇スピードレースで、高揚力装置(フラップ)なども開発される前の時代だったため、水面の長い滑走距離を使える飛行艇や水上機の方が離陸距離に制限があった陸上機よりも速かった時代であり、事実上その年の最も早い航空機を決めるチャンピオン・シップであった。

 

もとは世界の各都市を結ぶ航空機の主流は、広大な滑走路を使用せずとも湖水や河川から離着水できる水上機であると考えたフランスの富豪、シュナイダーが航空技術の発達のため主催したスピードレースだったが、第一次大戦でレース自体が戦時中は休止となり、また大戦の影響でシュナイダー自身が破産した後、その趣旨は大幅に変わってしまっていた……

国家の威信を欠けた国威発揚や技術力の高さを内外にアピールするための政治的側面を持つレースへと変貌を遂げつつあったのだ。

 

「正確には、”参加予定”だった機体でね。アイツに乗る予定だった専属パイロットがレース直前に急病で倒れてさ。過激なセッティングが祟ってそのパイロット以外誰もまともに飛ばせなかったから、そのままお蔵入りするはずだったんだが……」

 

「坊主が引き取って戦闘艇に改修したってわけかい?」

 

「御明察。本格的な戦闘艇ってより、機銃乗っけてとりあえず自衛できる程度にしたって代物だけどさ」

 

「レース艇引き取って改修ねぇ……お前はどこのボンボンだよ?」

 

「思ってるほど金はかかってないよ。知ってるかい? サボイア社は、去年の暮れにSIAI(Societa Idrovolanti Alta Italia)社に吸収されたのさ。だから俺の愛機は”サボイアS.21”ってより”SIAI/S.21”って呼ぶほうが正しいらしいけど……それは、どうでもいいな。SIAIの経営陣ははシュナイダートロフィーで飛べなくなった機体なんぞただの負債と考えたみたいでさ。どうせ来年のレースには時代遅れになる上、専属パイロット以外誰もまともに飛ばせないって代物じゃ、叩き売りたくもなるだろ?」

 

「だが、坊主は飛ばせた」

 

「ああ。俺が飛ばせるように調整(チューン)したからな。機銃を2丁も乗っけて重くなったのが返って良かったらしい」

 

「坊主、名前は?」

 

「バルケッタ・ムッソリーニ。以後お見知りおきを」

 

「長い付き合いになるわくでもあるめぇし」

 

シュッとバードアイ(硫化燐)マッチでタバコの先に火を燈すファゴットに、

 

「”ジタン”のカポラルか? フランスタバコとは非愛国的だな?」

 

と苦笑するケッタ。

 

「愛国心とやらは関係ねぇさ。単純に好みの問題だ。タバコはフランス、機銃はドイツが一番だ。ワインと料理はイタリアだがな」

 

「違いない」

 

もっともケッタはまだこの頃は喫煙癖はなかったので、今のところタバコの良し悪しは判らないのであるが。

 

 

 

「”マルコ”、どうしてのこのこ出て来ちゃうのよ?」

 

飛行艇談義の次はタバコ談義でも始められたらたまらないと思ったのか、ジリオーラは言葉を挟んだ。

 

「御挨拶だな。ジルにちょっかいかけてる若造がいるって風の噂で聞いてな。どんな奴なのかツラを拝みに来たってとこだ」

 

するとジリオーラは深々と溜息を突き、

 

「なんでそんな話になっちゃってるのかしら? ねえ、マルコ……そのボウヤが会いたがってたのは私じゃなくて貴方よ?」

 

「あん?」

 

怪訝な顔をするファゴットにケッタはニヤリと笑い、

 

「御尊顔拝見できて光栄ですよ。”マルチェロ・ファゴット”()イタリア王立空軍大尉。アドリア海のあちこち派手に飛び回って、大尉の幼馴染のホテルに寝泊りした甲斐はありましたよ」

 

 

 

***

 

 

 

「なるほど……俺はまんまと釣り出されてきたってところか」

 

「まあ、そうなるかな」

 

立ち話もなんだということで呆れ気味のジリオーラにテーブルに案内され、男二人は差し向かいでワインを傾けることになる。

 

「とんでもねぇクソガキだな。んで、俺に何の用だ?」

 

「そう大した話じゃないよ。少なくともマダム・ジルの歌声より優先させる話じゃない」

 

ケッタがそう促すと、まるでそれに合わせるようにジリオーラの歌声が広がってくる。

甘く、どこか切ない声で歌い紡がれる曲は……

 

「”さくらんぼの実る頃”か……」

 

言うまでもなくシャンソン(フランス歌謡)の名曲だった。

 

「坊主、今度は非愛国的とは言わねぇのか?」

 

「良い物は良い。そう言ったのは大尉自身でしょうが?」

 

「……大尉はよせ。俺はもう軍人じゃねぇ」

 

 

 

ジリオーラの妙なる歌声が空気に溶けるようにフェードアウトすると、

 

「貴方が”イタリア最高の飛行艇乗り”と聞いて顔を見に来た……そんなとこかな?」

 

拍手を終えたケッタが唐突に話を切り出した。

 

「そんな与太話信じてきたのかよ?」

 

「あながち与太とも思えなかったんでね。何しろ飛行艇乗り(パイロット)として信頼してる二人が、そろって口にしたのが貴方の名前だ」

 

「どこのロクデナシだよ、そりゃ?」

 

するとケッタは窓の外を見て、

 

「”サボイアS.21コンペツォーネ”……ガチのレース艇を機銃乗っけてとりあえず俺でも操縦できるようにした工房がミラノにあってさ」

 

「それがどうした? いや、待て。ミラノ?」

 

「名を”ピッコリーノ社”。聞き覚えは?」

 

「ジュリアスの奴か……あいつは元気にしているのか?」

 

ジュリアス・ピッコリーノ。大戦中のファゴットの部下で今は退役し、故郷にもどり実家であるピッコラーノ社で働いてるはずだった。

 

「ああ。嫁さんと娘さん二人と仲良くやってるよ」

 

「んでもう一人は誰だ?」

 

「フェラーラ元少尉、現中尉さ。こっちも貴方の部下だったな」

 

ルイジ・フェラーラ中尉。ファゴットの戦友の中では珍しく今でも軍に残ってる青年だった。

 

 

 

「あいつら……ロクでもないことしか言わんな。坊主、そりゃただの身内贔屓だ。あくまで『あいつらの知ってる中じゃ一番腕の立つ飛行艇乗り』かもしれねえが、イタリア最高ってほどじゃねえよ。同じフネでも俺より速く飛ぶ奴もいれば、俺より強い奴もいる」

 

「そうかもしれないが、俺もそこまで顔が広いわけじゃないから。だが、俺が知ってる腕の立つ飛行艇乗りが揃って同じ名前を挙げたんだ。ただの身内贔屓とは思えないだろ?」

 

「口がよく回るガキだな。何が楽しいか知らんが、俺のツラはもう見たんだ。明日の朝にでもさっさと帰れ」

 

「ツラは見たけど、生憎ともう一つ目的があってさ」

 

「あん?」

 

「貴方に”空の飛び方”を教えて欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

 

そして再び舞台は1940年のリビア……

 

 

 

「とまあ、これが私がマダム・ジルから聞いた”殿下”と”マエストロ(お師匠)・ファゴット”との出会いのあらましだ」

 

「うふふっ♪ ”殿下”も私たちと同じ年頃の頃は、まだまだやんちゃで可愛かったんですね~♪」

 

アンチョビの語るケッタの過去話に思わず頬を綻ばせるカルパッチョ。

会議の休憩時間、旅団首脳部の娘達にせがまれ、アンチョビは出征前の休暇で一人訪れたアドリア海、ホテル【アルベルゴ・アドリアティコ】でジリオーラから食事に付き合ってくれたお礼にと聞かされたケッタとファゴットの馴れ初めのエピソードを話す事になってしまったようだ。

 

「でもそれってあたし達が生まれた頃の話だよな? あたしらが赤ん坊の頃にケッタの旦那は飛行艇を乗り回してたのかぁ~。なんからしいって言えばらしいなー」

 

素直な感想を述べるはペパロニで、

 

「へぇ~。ケッタの師匠(マイスター)かぁ。ちょっと会ってみたいかも」

 

そう興味深そうに呟いたのは、ドイツのヒットラー・ユーゲントから空戦技指導官として【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】に招かれ、そのまま居ついて(一説にはケッタにベッドで再起不能一歩手前になるまで”撃墜”されまくったとも……)イタリア国籍までとってしまったアンツィオ旅団戦闘機隊空技指導官のエーリカ・ハルトマンで、

 

「あれ? ハルトマン、アンタってマエストロに会った事なかったけ?」

 

と聞くのは生粋のイタリア少女の精鋭戦闘機部隊”パンタローニ・ロッシ(赤パンツ隊)”の飛行隊長、フェルナンディア・マルヴェッツィだった。

 

「ないよ~。話は聞いてるけどさ。先の世界大戦のエースで、戦後は空賊狩りやら何やらで常勝を誇った凄い飛行艇乗り……”アドリア海のエース”って呼ばれてたんだよね?」

 

「そうよ。”殿下”も、『結局、現役の頃の師匠には一度も勝てなかった』ってこぼしたたもん」

 

とクスクス笑っていたのは、黒髪の美少女”フェデリカ・N・ドッリオ”だ。

元々は黒リボン少女軍団の中でも技術畑寄りの人間で、多くの期待のテストパイロットをこなした経歴の持ち主だった。

ハルトマンとマルヴェッツィの上官で、アンツィオ遊撃旅団航空部隊の総指揮官でもある彼女は、前線指揮を取るアンチョビに代わり後方から旅団を支える姿から「実質的な旅団長」とまで言われている。

ペパロニやカルパッチョとは別の意味でのアンチョビが頼りにしてる副官といえた。

 

組織の運営は抜群に上手いし仕事もテキパキと卒がないが奔放な一面があり、例えばまだ英国に宣戦布告する前に彼女が士気向上の為という名目で自分自身をグラビアにして作ったカレンダーがあるのだが……軍上層部が「セクシーすぎて逆の意味で士気と品位に関わる」と反対した曰く付きの代物で、その案に呵呵大笑したケッタが軍部を説き伏せ発行させた。

基本的には非売品で、勲章の副賞としたので確かに士気は上がった。

普段は勲章など見向きもしない者が目の色を変えたので、効果はあったのだろう。

 

だがこの話には続きがあり……そのカレンダーは今やプレミアが付き、敵味方を問わず奪い合いとなり、「殺してでも奪い取る」「金に糸目をつけない」などなど言葉が比喩でなく実際に流血沙汰にまでなってるらしい。

世に言う『カレンダーガール事件』と呼ばれる珍事だが……この他にも色々やらかしてるようだ。

 

 

 

***

 

 

 

さてさて、ここがリビアであることは既に書いたがより詳しく言うならアルベイダにある『アンツィオ遊撃旅団』の旅団司令本部だ。

言ってしまえば、航空部隊の基地まで備えたアンツィオ遊撃旅団の最大の拠点である。

 

ちなみにこの地域のすぐ東に史実では北アフリカ戦線有数の激戦地である最前線のトブルク(イタリアのトブルク要塞)があるが、今のところは平穏なようだ。

もっともエチオピアでピエモント・バドリオ将軍に率いられ快進撃を続けるイタリア軍の報告を聞いては、リビア-エジプト国境線に張り付いてる英軍も気が気でないだろう。

 

普段は前線に近いという理由で、トブルク要塞に隣接した”アンツィオ・トブルク前線司令部”にいることの方が多いアンチョビも、今は航空部隊のいるアルベイダに戻ってきていた。

 

アンツィオ遊撃旅団は、基本的に完全自動車化した……機甲旅団編成である地上部隊と、航空部隊の二つの部隊が主力となり、それを支える数々の支援部隊からなる。

実を言えばその総兵員は明らかに増強師団規模になるのだが、欺瞞という意味も含めて旅団と名乗っているようだ。

 

もっとも彼女達がどれほど戦闘的な部隊かと問われれば、旅団本部をアルベイダに置き最前線のトブルクにも前線司令部に置いてある辺り、その性質を物語っていた。

物資搬入のための後方拠点は港町ベンガジ郊外なので、全ての拠点は前線に近い東部に集中してることになる。

参考までに言っておけば、在リビア伊軍の司令部は遥か後方のリビア北西部トリポリにある。

フランス降伏後、現状ではリビア西部と国境を接するアルジェリアやチュニジア、”ニジェール/マリ/モーリタニア(仏領西アフリカ)”はドイツの傀儡であるヴィシー・フランスの制御下におかれてるので陸路侵攻には安全地帯と言っていい。

もっとも、マルタ島の英軍/英艦隊は事実上無力化したとはいえ、ジブラルタルの英国H部隊は健在であり、航空機や艦隊での攻撃に関しては未だ要注意ではあるのだが……

 

 

 

まあ、前線近くに全ての拠点を構えるのは合理的な理由がある。

アンツィオ遊撃旅団の特徴あるいは強みというのは、地上部隊と航空部隊を一元的に攻防にわたり戦術投入できることだった。

諸兵科連合(コンバインドアームズ)を越えた濃密な空陸一体戦術(エアランドバトル)の実現を狙ったもので、ドイツ人の考え付いた新世代の戦法である”ブリッツェン・クリーク(電撃戦)”の発想をイタリアで真っ先に取り入れた部隊といえた。

例えば、『アンツィオ遊撃旅団』の由来であるイタリアのアンツィオ近郊にある広大な【黒リボン少女軍団】専用の演習場では、日夜電撃戦の訓練が繰り返していたようである。

 

イタリア軍でさえまだ実現し切れてない発想を我が物としている辺り、アンツィオ遊撃旅団は多分に実験部隊としての性質も兼ね備えていると言っていい。

正規軍扱いではなく基本的に【ケッタの私兵集団】という名目のアンツィオ遊撃旅団、いやその母体である【黒リボン少女軍団】だからできる荒業なのかもしれない。

もっともそうでなければP40重戦車やMC.202戦闘機など最新装備が、これでもかと投入されるわけもないのであるが。

 

とはいえ濃密な連携を取るなら、イタリア航空機の航続距離の関係で陸上部隊とあまり離れた場所に飛行場は置けない。

また機甲戦は酷く効果的な戦力の短時間集中投入だが比例して物資の消耗も激しいため、いくら史実より格段に上回るとはいえイタリアの兵站能力から逆算してまとも戦力を維持しようと思うなら物資集積地もあまり後方に置けないのだ。

これが英軍に攻められるリスクを承知でリビア東部に拠点を集中させてる理由だった。

 

 

 

蛇足ではあるが、彼女達は一応は在リビア伊軍最高司令官である”Quadrumviro(ファシスト四天王)”の一人、”イタル・バルボア”将軍直轄の部隊という扱いにはなっているが、独立軍事行動権が認められていて実質的には”独立師団”という待遇だった。

なので補給から何から自前で何とかできる権限と施設の設営が許されていた。

もっとも一説には……

 

『あの小娘達の戦術は斬新過ぎて、古くて硬い俺の頭じゃ十全に使いきれんよ。ケッタの野郎は昔から何を考えてるかわからんところがあるが、あの娘達はそれを具現化したようなもんさ』

 

とバルボア将軍自身が語ったという。

彼自身もイタリア軍の中では開明的で斬新、”イタリア空軍の父”として知られる人物ではあるのだが。

ちなみに史実ではムッソリーニの同志であったが40年の時点では政敵になっていたイタロ・バルボ将軍という人物が、着任早々の1940年6月28日にトリポリ上空で「味方の対空砲火の誤射(フレンドリーファイア)」で乗機を撃墜されて死亡すると言う”不審な事故”で非業の最期を遂げているが、”この世界”でのバルボア将軍はピンピンしてるようだ。

 

どうでもいい話だが、バルボア将軍は同じく飛行機乗り(パイロット)という共通性と歳が近いせいもあり、バルケッタ・ムッソリーニとは無二の親友(悪友?)であるらしい。

噂では、「イタルが最高司令官やるなら安心して黒リボンを預けられる」と言っていたそうな……

 

 

 

***

 

 

 

さてそんなこんなで、アンチョビこと”アンジェリカ・チョリビーナ”大佐(正規階級ではなく戦地において大佐待遇という意味)の主催の旅団首脳部会議が始まった。

議題は、『友軍のエチオピア侵攻に対する予想される英軍の反応と、それに対処した行軍指針』だ。

 

「まあ、いざ英軍との戦端が開かれたとなれば、我々が切り込み隊になるというのは確定だな」

 

何やらイタリア正規軍に対して史実と似たような偏見……もとい。正直すぎる評価を読者諸兄が持ちそうなことを言い切るアンチョビである。

擁護するわけではないが、別に”イタリア軍=ヘタリア”という図式が必ずしも成立してるわけではない。

 

「我らの部隊は規模や装備から考えても局地戦向きだからな。戦術レベルで眼前の敵を駆逐するには向いてるが、敵地を占領するには向いてない。何しろ歩兵が少なすぎる」

 

少女……一応年齢的には女性というべき面子も多いが、やはり歩兵戦は体力的に不利ということなのだろう。

 

「なのでとりあえずの目標は、国境線に張り付いてる英軍の駆逐。あるいは英軍が逆撃してきたら空陸機動防御で侵攻を食い止めるのが役目だ。というわけで……」

 

アンチョビは集まった面子を見回し、

 

「基本計画を叩き台に現状を鑑みた修正案を詰めておきたい。諸君らの忌憚のない意見を期待するゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
ホテルの若い女主人に加えて、後にアドリア海のエースと呼ばれそうな男が出てきたエピソードはいかがだったでしょうか?

黒い飛行艇とか、実はケッタはカーチス・ポジ?

後半では何気にストパン・ウィッチ組がまた初登場しとりますが(笑)
実は「ケッタ! 大好き♪」と言い切りる情熱的な一面を持つハルトマンとケッタに対して「王子様に対する憧れ」色が強いマルヴェッツィに対し、フェデリカは良くも悪くもガールフレンド的な立ち位置のような気がします。

それにしても……ドゥーチェが優秀だこと(^^
英国も苦労しそうだな~と。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



サボイアS.21コンペツォーネ

製造元:イタリア・SIAI(旧サボイア)社/ピッコリーノ社(改造元)
エンジン:Ansaldo San Giorgio(アンサルド・サン・ジョルジオ) 4E-14(水冷直列6気筒、295馬力)
最高速:280km/h
航続距離:300km
固定武装:ヴィッカース航空機関銃×2(7.7mm×56R(303ブリティッシュ)弾、機首)
プロペラ:木製固定4翅

備考
作中に登場するバルケッタ・ムッソリーニの最初の愛機。
映画”紅の豚”にて『サボイアS.21試作戦闘飛行艇』という機体が主人公機として登場するが、あちらではなく史実の”SIAI S.21”同様の機体がベースになっている。
そのため異長複葉機/木製固定4翅の推進式プロペラをもつ飛行艇だ。

史実のS.21はシュナイダー・トロフィー用のレース機で、レース直前に専属パイロットのグイド・ジャンネッロが急病に倒れ、あまりに過激なセッティングの為に結局ジャンネッロ以外の誰もまともに飛ばすことが出来ず、レースには不参加でお蔵入りとなった曰く付きの機体である。
性能的には当時最速の飛行艇だったらしい。

”この世界”でも同様の運命を辿りそうだったが、バルケッタ・ムッソリーニがその高性能を惜しんで買い取り、伝手のあるミラノのピッコリーノ社に持ち込み、武装を施すと機内タンクの大型化と同時に自分でも操縦できるように再調整(チューン)を依頼した。
デリケートすぎるレース用セッティングだったエンジンの耐久性や実用性を引き上げるためピークパワーを心持下げ(デチューン)したのと、武装などの重量増加に加えて機体セッティングをややマイルドにしたために自慢の最高速は10km/hほど原型より低下している。

赤が基本のイタリア・レース機に反して黒に塗装されていて、以後のケッタの愛機のパーソナル・カラーとなったようだ。
これもケッタの二つ名、”黒のケッタ”の由来の一つと言われている。



楽屋オチ
ケッタの愛機は当初マッキM.7でしたが、”紅の豚”のオマージュという意味でサボイアS.21の改造機となりました。
ちなみに黒のパーソナルカラーは、カーチスのイメージだったりして。






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