ガルパン×ゲート・シリーズ外伝 黒き小船の物語 CODE1903-1940   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ~。
さて今回のエピソードは……ちょっと風変わりな戦場の日常を書いてみようかと思ってます。
まあ、どっかで聞いたことのあるような名前の人も出てきたりしますが(^^




第05話 ”アンツィオ遊撃旅団のお仕事 CODE1940”

 

 

 

1940年の秋、といっても赤道直下のリビア&エジプトは年がら年中暑い。

寒暖差は季節ではなく昼夜に激しくなるのが砂漠の国の特徴だ。

 

「あーあー、本日は晴天なり。いや違うか。本日()晴天なりだな」

 

ここはリビア-エジプト国境沿い……より230kmほどエジプト側に奥まった場所、具体的な地名をあげるなら”マルサ・マトルー”。そう在エジプト英軍有数の拠点がある地点だ。

正確にはそこの英軍基地に隣接した野戦飛行場だった。

 

「おい、”オリバー”。どうやら黒リボンが新作の”紙爆弾”を落したらしいぞ? 今や前線の兵士(ヤロー)共が血眼になって奪い合いをやってるらしい」

 

”ヒュ~♪”と口笛を吹きながら、英国軍の新米空軍少尉”オリバー・ポプラン”は楽しげに、

 

「んで、今回の”グラビア”は誰だよ!?」

 

と話を持ってきた僚機のビリー・コールドウェルに思い切り食いついた。

 

「聞いて驚け。”アンジェリカ・チョリビーナ”旅団長サマ直々だ! こりゃプレミア付くぜ~♪ C.V.33豆戦車(タンケッテ)の上で乗馬鞭をビシッと構えた凛々しいお姿で、おまけにレアな私服Verときたもんだ♪ 『お前らチーズとスコッチの備蓄は十分か? 足りぬというのなら降伏せよっ! 今夜はワインを用意して待っててやる! 赤白好きなほうを選ぶがいい!』って降伏勧告文句がまたいい」

 

「そりゃお前、マゾ野郎にはご褒美じゃねぇか! おれはもうちょい胸が大きくて露出度が高いほうが好みだが……ざっとマッカラン(高級スコッチ)の12年物1本ってところか?」

 

「2本ついてもおかしくはねえわな!」

 

 

 

さてこの若い英連邦産の若い空飛ぶ種馬……もとい。戦闘機パイロットが何を話してるのかと言えば、在エジプト英軍の指揮官であるアーチボルト・パーシィヴァル将軍の止むことのない頭痛の種である”イタリア人の紙爆弾”こと、『降伏勧告ビラ』のことだ。

 

これがどこの国でも前線の兵士や敵国民の士気や戦意を挫く為の勇ましいイラストと厳しい文章で綴られるものなら別に問題はなかったのだが……

 

 

 

***

 

 

 

話は【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】から分派された『アンツィオ遊撃旅団』が着任し、旅団本部と航空隊基地があるアルベイダ/前線司令部があるトブルク/後方物資集積地であるベンガジの三ヶ所に拠点を開いた頃まで遡る。

 

ある日、マッキ社の新型戦闘機(MC.202のこと)4機を引きつれ、1機の爆撃機が飛んできた。

機体自体はイタリア空軍のらしい3発の爆撃機、カント社のZ.1007bis”アルチオーネ”爆撃機でさして珍しいものではなかったが、珍妙なのはそのカラーリングだ。

普通、イタリア機の迷彩と言えばサンドブラウンの下地にグリーンやココアブラウンの斑を描いたものだが、そのZ.1007bisに加え護衛と思わしきMC.202も同様に、サンドブラウンの下地は同じながらペパーミントグリーンにチェリーピンクの斑点柄で、垂直尾翼のイタリア王国の国家識別マークは良いとしても、翼には英国人が毛嫌いする”ファスケス”の意匠を持つファシスト党のシンボルではなく”黒い小船(ネロ・バルケッタ)”をあしらっている……

おまけに各機体の機首にはダックスフントだの猫だのといった小動物をモチーフにしたパーソナルマークまで描かれているのだ。

 

編隊の機動は緩やかで、速度といい高度といいまるで遊覧飛行のようだったと多くの英国将兵は後に語っている。

 

とはいえ今は戦時下。

しかも英軍は”カラブリア沖海戦”で、イタリア軍を甘く見たために酷く痛い目に合ったばかりなのだ。

お陰でマルタ島は無力化され、地中海中央部は半ば「イタリア人の海」と化している。

このような情況である以上さすがに何もしないわけにもいかず、国境付近上空に接近する奇妙なカラーリングの5機の小編隊に、英国軍は慌てて配備されたばかりの虎の子、最新のハリケーン戦闘機(スピットファイアはバトル・オブ・ブリテンの影響から本国配備が優先され、まだ北アフリカには回ってきていなかった)を飛ばしてスクランブルをかけたのだった。

 

するとイタリア空軍……いや、イタリア機編隊は一斉に左右の翼を上下に揺らせるバンクという運動を行った。

バンクというのは、国際的に『我に戦意なし』を示す運動だった。

 

怪訝に思ったハリケーンが警戒しながら近づくと、護衛の戦闘機は道を譲るように空間を開ける。

そして、爆撃機の天窓が開き一人の乗組員が姿を現した。

その天窓から上半身を乗り出した人物は、ぱっと飛行帽とゴーグルを脱ぎ捨てる。

 

「「WoW !!」」

 

その瞬間、二人の英国人パイロットは紳士らしからぬ声を上げた。

何しろ重苦しい装備の下から、上空2000mの砂漠の風に美しい黒髪を靡かせ、健康的な日に焼けた肌と神秘的なエメラルドグリーンの瞳……文字通りの「目が覚めるようなイタリア美少女」が降臨したのだから無理もない。

 

彼女はニッコリ微笑みながらブリティッシュなパイロットに手を振り、ハンディライトを使った発光信号を送ってきたのだ。

内容は……

 

『ワレ”あんつぃお遊撃旅団”航空隊指揮官、「ふぇでりか・N・どっりお」ナリ。当方ニ戦闘ノ意思ナシ。タダ英国軍諸君ヘノ挨拶トびらヲ散布スルコトノミヲ目的トス』

 

そして同時に爆弾倉が開き、大量のビラが熱風に舞った。

 

 

 

そのビラは西からの風に乗り、用は済んだとさっさとリビア奥地へ舵を切ったイタリア機編隊……”アンツィオ遊撃航空隊”の残り香のように国境線を守る英国兵士達の元へと届いた。

とある兵士が、おそるおそる手に取ると……

 

「神様ありがとう。これはきっと熱砂の中で戦う俺たちを哀れんで天使運んできてくれた贈り物に違いない!」

 

跪き神への祈りを捧げ、猛烈にビラへキスしだしたのだ。

その歳若い兵士の奇行を眼にした兵士達は、何事かとビラを拾うと……

 

「おお神よ……」

 

「天にまします我らが乳よ……」

 

思い思いの変態紳士に相応しい行動をとり始めたのだった。

そのビラにフルカラー・オフセット印刷されていたのは半裸の少女、赤いパンツにシャツ一枚羽織っただけの、しかもシャツのボタンは一箇所しか留めておらず、胸の谷間が丸見え&へそ丸出しのフェデリカ・N・ドッリオ御本人のセクシーショットだったのだ!

そして投げキッスのポーズと共に踊る文面は、

 

『貴方の投降をお待ちしてるわよん♪』

 

どうみてもベッドへのお誘いにしか見えないのだが、これが降伏勧告だと気付くのに兵士達は時間を要したようだ。

読者諸兄ももう察しが付いたであろう……

そう、前話に出てきた『カレンダーガール事件』のセクシーカレンダーを参考に、フェデリカが考え付いた応用戦術(?)が、まさにこの”天使のビラ撒き作戦”の全貌だった!

 

 

 

冗談のような作戦だが、効果は間違いなくあった。

史実のイタリア兵じゃあるまいし、いきなりイタリア軍に投降するとか脱走するという不心得者はさすがに出なかったが、定期的に繰り返されるアンツィオ遊撃航空隊の”ビラ撒き(ばくげき)”を兵士達が心待ちにするようになってしまったのだ。

 

何しろ、娯楽に乏しく目の前に広がるのは年がら年中代わり映えのしない砂の平原……

しかもこの時代、「紳士たるもの、女子供を戦場に出すのを恥と知れ」という価値観がまかり通っていた英軍なので、とにかく女っ気が少ないのも災いした。

英国上層部が顔色を変えて戦争になりふり構わなくなるのは、もう少し後の話だった。

 

総括すれば士気が低くなったのではなく、士気自体が緩んでしまった……

もはや前線の兵士は、「ファシストは敵だが、黒リボンはケッタの私兵だろ?」と言い出す始末。英国軍司令官が頭を抱えるのも無理はない。

アーチボルト司令は皮肉が持ち味のジョンブルらしく、

 

『黒リボンの少女達がばら撒く紙束は、あらゆる戦略爆撃をも為しえない心理的効果を英国将兵に齎した』

 

と諧謔気味に語ったという。

そんなわけでアンツィオ航空隊が散布するセクシービラは、司令の言葉とその心理的効果からいつの間にやら”紙爆弾”と呼ばれるようになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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実際、アンツィオ遊撃旅団の”活躍”はビラだけに留まらなかった。

普段はトブルク前線司令部にいることが多いアンチョビ、”アンジェリカ・チョリビーナ”旅団長だが、何の「気まぐれ」を起こしたのか、自らC.V.33を操って前線視察に出かけ、英国の国境パトロール部隊とばったりエンカウント。

パニくりながら体に染み付いた訓練から当然のように銃を構えるイギリス兵に、

 

「やめんか馬鹿者! 宣戦布告してるとはいえまだ砲火さえ交錯していない情況で、貴様らはこの静かな時間を台無しにするつもりかっ!!」

 

と一喝。

ついで左腕に巻いた私物(ケッタから出征祝いに貰った)腕時計、パテック・フィリップ社の元祖カラトラバ・モデルである”Ref.96”を見やり、

 

「今は昼だ。どうせ鱈腹喰らうなら鉛弾より料理が良かろう。ついて参れ。お前らに我らが『アンツィオ遊撃旅団』の真髄を見せてやろうではないか」

 

彼女は戸惑う英国兵にニヤリと笑うと、

 

「お前達が喉から手が出るほど欲しがってるアンツィオ遊撃旅団の秘密が、一部とはいえ手に入るのだぞ? いつ私が次の気まぐれ起こすか保証の限りではないのだがなー」

 

これがダメ押しとなり、パトロール隊は断るという選択肢を奪われた。

そのまま無線でタンケッテを呼び寄せると、英国兵達を連れてトブルク前線司令部に帰参。そのまま敵地で昼食会となってしまったようだ。

 

 

 

***

 

 

 

「生憎と私は小食でな。男性諸君には物足りないかもしれんが我慢してくれ。ああっ、それと任務中だったな? ではワインはやめてカプチーノにしておくか」

 

そして地中海のリゾート風の真っ白なパラソルが強烈な日差しを遮るオープンテラスに、アンチョビは以下の少女達の手により運ばれてきたのは魚介類のズッパ(スープ)に、トマトとモッツァレラチーズを使ったサラダであるカプレーゼ、パンの一種であるフォカッチャとスティックパンのグッシリーニ。本日のランチのメインディッシュは鶏のカッチャトーラ(猟師風煮込み)だった。

 

((((何この昼真っからフルコースまがいの食事は……? これで小食? いや、それ以前にここは本当に前線基地か!? まさか黒リボンは戦地でレストランを経営してるのか!? 給仕の娘達も可愛いし……))))

 

というのが英国紳士達の反応、あるいは心の声であった。

 

 

 

「やはりトマトがフリーズドライというのはいただけんな。多少、重くても風味が飛ぶよりはいい……いや、でも保存期間がなぁ。水不足ゆえに毎日パスタといかんところが残念ではあるが」

 

どうやらイタリアはフリーズドライの食品を既に軍隊食に試験導入してるようだ。

巷でよく聞く「フリーズドライ製法が始まったきっかけは、イタリア人が戦場でもおいしい食事をしたかったから」というのは実は誤りで、本来は食品用ではなく医療用に開発された技術であり、物質の保存を目的としてフリーズドライが利用されたのは1909年が最初とされてるので、開発時期は第二次大戦どころか第一次大戦前だ。

記録によれば1920年代に欧州へ大量に血漿を送る為に大規模に使用され始め、第二次世界大戦中では食品に転用された実例は極少数。

主に研究用の一方法として、特に薬学/生物学上の活用として大規模な血液の乾燥が行われたとされている。

史実でフリーズドライ製法が食品の保存に大々的に研究されるようになったのは、戦後も戦後、1950年代に入ってからだ。

しかもそれを牽引したのはコンバットレーションで、率先して行ったのは冷戦時代に入り世界中に軍を展開する必然に迫られた米国でイタリアではない。

こんな都市伝説じみた話が事実のように広がったのは、イタリア軍が常備していたペパロニ……女の子の方じゃなくて、本物のドライソーセージが原因と思われる。

フリーズドライではないが、イタリアの乾燥食品は全般的に種類も豊富で味もいい。

 

しかし”この世界”でのイタリアは本当にフリーズドライを軍用食品(レーション)に転換している……

技術開発はされたものの「飯に使う技術じゃない」と誰もフリーズドライを食品保存に転用しなかったこの時代に、これまた随分と先進的な発想をしたものだ。

理由は史実の米国と異なり、痛感している自国の輸送力の脆弱さを少しでも補うための苦肉の策というところだろうか?

 

 

 

「保存を考えてもトマトの妥協点は、ホールトマトの缶詰だな。ところで英国人諸君、私は既に満腹だがデザートは所望か?」

 

「いやいい。十分だ」

 

そう答えたのは隊長格の男だった。

 

「……何故、涙ぐんでる?」

 

「飯が美味くて、ついな」

 

「英国軍は普段から何を食ってるんだっ!? この程度、我が軍では普通だぞ!?」

 

「うるさい。だまれ。頼むからそれ以上言うな。惨めな気分になる」

 

するとアンチョビは慈愛に満ちた瞳で、

 

「なあ……悪いことは言わんから、このまま亡命するか投降しないか? うちなら捕虜にだってこの程度の食事は用意できるぞ?」

 

隊長は一瞬迷う顔になるが、

 

「……せっかくの申し出だが遠慮しておく。これでも祖国に忠誠を誓い聖書に宣誓している」

 

「そうか。そう言えばまだ名乗っていなかったな。我が名は”アンジェリカ・チョリビーナ”。階級は一応大佐扱いであり、アンツィオ遊撃旅団の旅団長を務めている。通称”アンチョビ”とは私の事だな」

 

「なっ!?」

 

”からーん”

 

思わずナイフとフォークを落す隊長であった。

 

 

 

「旅団長自らが、俺たちをエスコートしたというのかっ!?」

 

「そうだぞ。気まぐれを起こしたと言ったではないか? それにしても意外だな……優秀なはずの英国諜報部から私の資料を貰ってなかったのか? これでも私は本国ではそこそこ有名だぞ」

 

事も無げに返すアンチョビに隊長は呆れたような表情で、

 

「いや、そんな資料は回ってないし、回ってたとしても俺みたいな下っ端のとこには来ないさ。大体、前線の一兵卒のとこに敵の旅団長が来るとは普通思わないだろうが……」

 

「そう言うな。我々は扱い的にはリビア駐留イタリア軍直轄だが、それはあくまで戦地で捕虜になった場合、ハーグ陸戦規定に準じた扱いを受けるための措置だ。お前たちとて軍人ではないものが戦地に立っているとなれば、扱いに困ろう。特にそれが年端も行かない少女や妙齢の女性だけで編成された集団ともなれば尚更だろ?」

 

「それはそうだが……つまり軍属扱いでも実際には、正規将兵というわけではないということか?」

 

「まあな。だから私も正規軍大佐ではなく、厳密には”大佐待遇”だ。まさか我々がバルケッタ・ムッソリーニ閣下の私兵集団たる【Nastro Nero Ragazza Corpo(黒リボン少女軍団)】からの出向組だと知らないわけではあるまい?」

 

「それぐらいは知ってるが……そういう仕組みだったのか」

 

「そうだ。私兵である黒リボンを、軍の直轄する部隊としてリビアに送るわけにはいかないのでな。そこでイタリアのアンツィオにて編成されたのが我々というわけさ。面倒ではあるが、どんな場面においても体面というのは気にせねばならんし、大義名分というのは必要になってくる。大人の世界では特にそうだ」

 

「つまりアンツィオ旅団は、在リビア伊軍(トリポリ)総司令部の正規命令系統にはない部隊ということか?」

 

「大体正解だ。だからこうして軍規を無視して諸君らを相互理解という名目で、昼食に誘ってもトリポリからは何も言われん。というより、我々は戦力としてはみなされてないのかも知れんな」

 

「どういう意味だ?」

 

「周りをよく見てみろ。この基地にあるまともな戦車は試作の重戦車1両のみで、後はタンケッテだけだぞ? これでどうやって戦争をしろというのか?」

 

隊長が見回せば、確かに基地にあるのは場違いに見える形式不明の重戦車が1両あるだけで、残りはイタリア陸軍の代名詞と言えるC.V.33豆戦車ばかりだった。

 

「あの戦車、あP40というのだがな。あれとて実戦で使い物になるかを暇な我々が砂漠でテストしているだけだ。ある意味、それが最重要任務と言えるな」

 

 

 

***

 

 

 

アンチョビの言葉に、隊長は考え込む。

考え込んだ末に、

 

「なあ、大佐……あんた達はどうしてこんな戦場にいるんだ? どうして、何が目的にここに来たんだ?」

 

直球の質問だった。

 

「前々から疑問には思ってたんだ。あんたらは航空機はいい物をもってるらしいじゃないか? だが、それを爆撃やら戦闘に使うわけでもなく、空からビラをばら撒くだけだ。ダメージがあるとすればうちの司令官の胃の調子ぐらいなもので、前線の兵達はいい娯楽として喜んでる。かといってあのビラで投降するような阿呆はいないし、いたとしたらそいつは英軍兵士じゃない。あんた達が何をしたいのか甚だ疑問なんだよ……」

 

困惑を隠さない顔で問う隊長に、

 

「強いて言うなら”友軍の士気の向上”と敵軍の”士気の鈍化”だな」

 

「???」

 

「イタリア男は酒と女が関わると強い。酒は飲兵衛の集まりだから当然だとしても、イタリア男は格好付けが多い。後ろで我々が見ているとなれば、あまり無様な負け方はできないだろ?」

 

「そういうもんか?」

 

「そういうもんだな。士気の鈍化は……隊長、君が私に腰のウェブリー&スコット社の拳銃を向けないことで証明しているではないか?」

 

「何が哀しくて、女子供に銃口を向けねばならない」

 

アンチョビは嬉しそうの微笑むと、

 

「それだよ。私が確かめたかったのはな。君の行動自体が、今の君の台詞が我々の戦術の正しさを証明しているのだ」

 

 

 

***

 

 

 

そして戦時下のちょっとした邂逅、不意に始まった昼食会は和やかなままに終わり、英国兵達は国境線までエスコートされた。

無論、土産は一人に一本ずつ持たされたイタリア・ワイン、トスカーナ州産(キャンティ)の中々の上物だった。

ちなみにトスカーナの州都、フィレンツェ出身のアンチョビお勧めの一瓶である。

 

「なあ、大佐……」

 

「なんだ?」

 

「何故、国境のイタリア兵達は大好きな昼寝を止めて俺たちを殺意を込めた目で睨んでるんだ?」

 

するとアンチョビ、クックックと喉の奥で笑い声を漏らし、

 

「きっと羨ましいのだろう。自慢するわけじゃないが、この私が男性を誘って食事をするなど滅多にないからな。しかもそれが敵国の男ともなれば尚更だろう?」

 

「怖い怖い。背中から撃たれないうちに退散するとするか」

 

「名残惜しいが、それがよかろう」

 

「アンチョビ大佐」

 

「今度はなんだ?」

 

隊長は真っ直ぐにアンチョビを見ると、

 

「俺たちは敵同士だ」

 

「当然だな」

 

「弾丸飛び交う戦場で会えば、殺しあうしかない」

 

「もちろんだ」

 

「だから、戦場で俺たちを見かけたら……早めに投降をしてくれ」

 

隊長の言う言葉にアンチョビは一瞬、きょとんとしてから……

 

「おかしなことを言うな? 自身で言ったではないか? 今はともかく弾丸飛び交う戦場で会わば、殺しあうのが宿命だと」

 

「だからこそだ。あくまで個人的な意見だが、俺はあんたを……いや、」

 

隊長は空を仰いで、

 

「”あんた達”を傷つけたり、ましてや殺したくはない」

 

”とんっ”

 

アンチョビは隊長の厚い胸板に軽く拳を当てて、

 

「ありがたい申し出だ。善処するよ。願わくば、弾丸飛び交うことなくこのまま……ただ睨みあったままで戦争が終わればいいのだが」

 

「まったくだな。やれやれ」

 

隊長は大きく溜息を突き、

 

「敵の素顔なんて知るもんじゃないな。これから戦いにくいったらありゃしない」

 

「そう思ってくれるなら、食事に誘った甲斐があるというものだ」

 

アンチョビはそう快活に笑うのだった。

 

 

 

 

 

さて、隊長以下パトロール隊の面々は無事に英国基地に着き、心配していた同僚達に大いに歓迎され、上官からは敵地へ入りこみ情報を探ってきた英雄と称えられた。

 

……と、ここで終われば綺麗な英雄譚なのだが、世の中そう上手くはいかない。

隊員の一人がうっかり口を滑らせ、噂の美少女部隊の隊長さんに逆ナンされて基地へ御招待、美少女達に給仕され英国じゃありえない豪勢な昼飯にありついたばかりか、土産に上物のワインまで持たされたことが発覚。

英雄が一転、嫉妬とやっかみの対象となり、せめてワインを奪おうとする友軍からパトロール隊が一丸となり防戦に挑むという展開になった。

 

その後、危険な国境線パトロールを志願する部隊が急増し、アーチボルト司令官の胃はまたしても痛めつけられ、胃薬の量が増えるついでに頭痛薬と酒量も増えたのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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後日、基本的は真面目で職務に忠実な隊長によって作成された39頁にも及ぶ、『在リビア伊軍に対する報告書』により、在エジプト英軍首脳部は頭を抱えることになる。

報告書全文を書くと長くなるため、簡潔にまとめれば……

 

『在リビア伊軍の国境線守備部隊はいずれも低く、まともな装備もなければ士気も錬度も低い』

 

『派遣理由など謎が多いアンツィオ旅団に関しては、実戦部隊ではなく伊軍の士気高揚と英軍の士気鈍化を狙った配備である公算が大きい』

 

『アンツィオ旅団は、航空兵力は最新なれど規模は小さく、地上兵力は数は正規旅団規模だが装備は軽装で、実戦向きの装備とは言いかねる。また在リビア伊軍の正規命令系統には事実上、入ってはいない』

 

『よって少数でも国境周辺の伊軍は現有兵力でも排除可能。またアンツィオ旅団と対峙した場合、戦闘力軽微な少女達を殺すということは英軍兵の士気の破綻を招きかねない。故に「少女達の保護」という意識の元に降伏を主目的とする戦術を推奨する』

 

ということになろう。

そしてこれは、英国情報部の分析を裏づけするものであった。

彼らはまったく別のレポートでこう纏めているのだ。

 

『実質的な戦争指導を行うバルケッタ・ムッソリーニにエジプト侵攻の意思はなく、「ドイツのバルカン半島侵攻を支援するため、北アフリカ英軍権勢のためのリビア伊軍増強」というのは額面どおりと考えていい。またエチオピア侵攻は”五国委員会によるエチオピア管理の不履行”という情況のために起こったことであり、このタイミングを待っていたというより5年前から有事の際に対するエチオピア制圧を企図してことであり、このタイミングで起きたのはフランス/ポーランドの陥落やスペインとトルコが事実上、管理不可能となった現状によるものであり、偶発的な要素が大きい』

 

とのことだ。

しかし、賢明な読者の皆さんは気付いただろう。

この”結論の違和感”を。

 

 

 

そもそも大量配備されてるはずの、特にアンツィオ遊撃旅団が主力戦車として最も集中配備されているP40重戦車はどこに消えたのか?

無論、煙のように掻き消えたわけではない。

トブルク近郊に当然のように配備されていた。

ただし、アンツィオの「トブルク前線司令部とは別の場所」にだ。

トブルク前線司令部は、伊軍の要所であるトブルク要塞の中にあるわけではない。

トブルク要塞が遠めに見える位置にあるだけだ。

パトロール隊長達が国境守備部隊以外の伊軍兵に合わなかった理由は、「彼らがトブルク要塞の中に入ったわけではない」からだった。

そしてトブルク要塞の中を見なかったからこそ、アンチョビの言う”試作戦車”を信じてしまったのだ。

 

更に言えば、アンツィオの地上部隊の「車両整備/保管/補給施設」は前線司令部からもトブルク要塞からも肉眼で見える位置にはない。

もし要塞の中やアンツィオの車両施設を見れば、P40が試作戦車なんてホラは信じなかったろう。

 

それは最前線に配備された「装甲車両の主力がC.V.33だけの部隊」にも言えた。

在リビア伊軍の主力車両がタンケッテだなんて、誰が決めたのだろうか?

 

そしてこの昼食会の日、どういうわけかトブルク要塞を拠点とする機甲部隊や航空部隊、いや全ての戦闘部隊の訓練は”急に休止”されていた。

 

 

 

***

 

 

 

アンチョビは極めて優秀な装甲将校である。

それについては疑いようはない。

ただ彼女の属性、あるいは分類をいうなら”智将”もしくは”謀将”に該当するのだった……

 

「英軍のミスリードを上手く誘発できればいいのだがな」

 

 

 

1940年11月、アンチョビたちアンツィオ遊撃旅団が到着してからはや1ヶ月。

リビアとエジプトの国境線で睨みあう伊英両軍の間に大きな軍事衝突は未だ起きず、膠着状態は続いていた。

だからこそアンチョビはアンツィオを動かし、自らも動いた。

無論、在リビア伊軍バルボア総司令官も、ファシスト党副統帥で実質的な戦争指導も行っているケッタも了承済みだ。

 

全てはアンチョビが筋書きを書き自ら役者を演じた、動かない情況を動かすための「英国人をはめる壮大なペテン(オペラ)」、その一幕だったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





皆様、御愛読ありがとうございました。
実は、みほやカチューシャとは違う方向性で、ドゥーチェがけっこうおっかない性格だったと判明したエピソードはいかがだったでしょうか?(^^

弾丸を一発も飛ばさず、紙爆弾(セクシービラ)と旨い飯とワインで英国軍の士気を鈍らせるアンツィオでした。
果たしてエジプトの英軍戦場紳士は幸運なのか不幸なのか?
間違いなく、一番可哀想なのはアーチボルト司令でしょうが(笑)

このシリーズのアンチョビはかなり頭の切れる娘で、カルパッチョはまた違うベクトルでおっかなく、ペパロニは……多分まんまかな?

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!



***



設定資料



C.V.33/38(L3/38)豆戦車

主砲:ブレダMG38×2(7.92mmx57弾) or MG131機関銃×1(13mmx64弾) or ブレダM35/20mm機関砲×1(20mm×138B弾、セモベンテ型砲塔)
エンジン:フィアットSPA CV3-005(水冷直列4気筒ガソリン、48馬力)
車体重量:3.3t
装甲厚:5-18mm
サスペンション:トーションバー式
変速機:前進5段/後進1段
操向装置:クラッチ・ブレーキ
最高速:45km/h
装備:小型車載無線機
乗員:定員2名

備考
黒き小船第05話の主役(?)メカ。
史実ならC.V.38と呼ばれる車体が最も近いのだが、”この世界”のイタリア軍ではC.V.33/38(カルロ・ヴェローチェ33年式の38年型モデル)という名称が使われ、軍の内部資料では略称で単にL3/38(3式軽戦車38年型)と記されている。
C.V.33という名称が使い続けられたのは、イタリアにとっては非常に輸出に成功した外貨の稼ぎ柱の一つである商品名を安易に変更するとセールスに影響すると考えられたかららしい。
また、カタログ上の重量は型式を問わず3.3tだった為に、30年代中盤以降は「カルロ・ヴェローチェ3.3t豆戦車」という意味でC.V.33の名称が輸出向けに使われていたようだ。

オリジナルとの最大の違いは、38まで車体に溶接構造が取り入れられていることだろう。史実ではイタリアは溶接技術が未熟で、C.V.33は溶接構造で製造されたが、量産性の向上などの小改良がなされたC.V.35ではリベット接合に戻されている。
しかし、”この世界”では溶接技術の習得と向上がイタリア工業界の命題であり国是とされたためにその後も溶接は取り入れられC.V.33/35、C.V.33/38と全て溶接構造になっており、特にC.V.33/38はイタリアで初めて電気溶接で全面的に作られた車体となっている。

他にもイタリア全体の工業力が上がっているせいでエンジンの出力が5馬力上がっていたり、トランスミッションが4速→5速化していたりと微妙に強化され、装甲が最大部で3mm厚くなってるせいもあり重量が100kg以上増加しているにも関わらず最高速は向上していた。

またエポックメイキングというのなら、38はイタリア戦闘車両で初めて小型簡易化された無線機を装備した車両であるということだろう。
この無線機の標準搭載により、斥候としての価値が大きく引きあがったのは言うまでもない。
また史実どおりイタリア戦車としては初めてトーションバー式サスペンションを採用した車両であり、以後のイタリア戦車の開発に大きな影響を残していくことになる。

イタリアの工業力が底上げされてるせいもあり生産台数は輸出分を含め史実よりずっと多いくらいだが、史実のように「イタリア参戦時の戦車の75%がC.V系列」ということはない。
つまり、P40をはじめ他のイタリア戦車の生産数が格段に多いということだ。
逆にC.V系列は既に改良限界に達していたことは明らかだったために、1940年時点では自国向けの生産は終了していて、物語開始時ではC.V.33が国内の警備向け、C.V.33/35がリビア-エジプト国境線の”欺瞞部隊”などに使われ、C.V.33/38は貧弱な装備のエチオピア軍相手かもしくはアンツィオ遊撃旅団が足代わりに使ってるようだ。










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