有栖とアリス   作:水代

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驚いた。驚き過ぎて目玉飛び出るかと思った。
二、三日で総合評価が1000以上上がってた。
ランキング見たら日刊二位だった。のどまですら三位だったのに。


有栖と幻獣

 

 襲い掛かってくるのはぼんやりとした青い光。

「っぐぅ!!!」

 飛び退りその攻撃を避けた…………はずだった。

 避けたはずの攻撃、そのはずなのに俺の背に刻まれた爪痕。

 なんだ今のは?! あまりにも不可思議な出来事に混乱する。

 俺は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだと言うのに、どうして背中に傷跡ができる?

「アリス!」

「メギドラ」

 俺が青い光を目視し、同時にアリスに命令を下す。

 アリスの放ったメギドラが青い光へと吸い込まれ…………。

 

 直後、俺の体が跳ねた。

 

「な…………に…………?」

 海老反りになりながら、背中の衝撃に宙を舞い地に激突する。

「ぐ、く…………」

 やばいやばいやばい、よりにもよってアリスのメギドラを受けた。

 アリスは俺の仲魔の中でも最強だ。何より最初にマグネタイトを供給したせいで今は過不足無く力を発揮しているのが仇になった。ダメージの大きさに体が動かない。

「さまなー!!」

 近くでアリスが叫ぶ声が聞こえる。顔を上げると真正面から襲い掛かる青い光。

 迫る。まだ体は動かない。

 迫る。まだ体は動かない。

 迫る。指先が動いた。

「有栖!!!!!」

 アリスが叫び、魔法を使用しようとする…………がもう遅い。

「あんま…………舐めんな!!!」

 腰に下げた銃に手をかける、がもう遅い、真正面まで敵が来ている。

 そして青い光が目の前まで迫り…………。

 

 俺は、ホルスターから半ば抜いた銃を、構えることなく後ろに向かって撃った。

 

 バァン

 

 スススススススス、と言う衣擦れのような音。

 迫りくる青い光が…………消えた。

「はあ…………はあ…………はあ…………アリス、敵はまだいるか?」

「………………たぶん、いない、とおもう」

 俺の問いにアリスが自信なさ気に答える、が俺はそれどころでは無かった。

 立っていられず座り込む。慌てた様子のアリスを気にする余裕も無く左腕のCOMPを操作する。

「ランタン…………出て来い」

 SAMMON OK?

「ヒーホ! サマナー大丈夫だホ?」

 能天気な声が聞こえると同時にジャックランタンが召喚される。

「回復頼む」

「ディアラハンだホー!」

 ランタンが魔法を唱えると、体の調子が回復していく。

 全身の動きに支障が無いことを確認し、ようやく一息吐く。

「だいじょうぶ? 有栖?」

 やや心配したような声で俺の顔を覗きこむアリスに大丈夫だ、と返す。

「やられたな…………視覚情報に惑わされて自滅するところだった」

 最初の一撃で気づくべきだったと、今更ながらに思う。

「ランタン、ちょっと周囲警戒。何か来ないか見てろ」

「了解だホ」

「アリス、ちょっと背中見てくれ…………服は破れてるか?」

()()()()()()()()()()?」

 やはりか、と歯軋りする。俺の苦虫を潰したような表情にアリスが首を傾げる。

「なんでアリスのメギドラが俺に当たった、っていうことだよ…………」

 

 最初の一撃、避けたはずの攻撃、しかも真正面から来た敵の攻撃なのに何故背中を負傷したのか。

 さらに言うなら、攻撃され負傷したのに服は破れていないという。

 

「つまり…………俺たちが見てたあの青い光は幻か何か、いやそれだとアリスの魔法が俺に当たったことの説明にならないな」

 思考を整理し、考えてみる。それからふと思いついた言葉を口にする。

「俺に擦り付けた? そうも考えられるか?」

 自分の受けたダメージを相手に擦り付ける? だったら何故最後の銃撃は当たった?

 よく考えてみれば分からないことだらけだ。

 真正面から来たはずの攻撃が背後に受けた。だから敵は後ろにいる、そう思った。

 だから最後の銃撃は後ろに向けた。実際敵は消えた。撃ったはずの銃弾がどこにも見当たらないので着弾した、と考えるべきだろう。

 だとすれば正面にいた敵は幻? ならば何故自分が攻撃を受けた?

「そういう能力か?」

 正直悪魔に関してはなんでもあり、が基本なだけに否定できない。

 纏めると、あの悪魔は常に自身の背後に存在しており、正面にいるのは幻か何かで幻が受けたダメージは全て自身へと還元される。

「種さえ分かれば簡単だな」

 用は幻影を無視すれば良い…………のだが、本当に幻影に実体は無いのかどうか。

 それから服は破れていないのに負傷した背中の謎。

 この二つはどういうことなのか。

「……………………考えても仕方ないか。うし、朔良を探すぞ」

 分からないことをこの非常事態にいつまでも考えてもいられない。取りあえずはぐれてしまった朔良との合流が最優先だろう。

「……………………しっかし、なんて悪魔だ?」

 この異界内にあんな悪魔がいるなんて話聞いたことが無い。

 あんな特殊な悪魔、存在するなら普通事前情報で聞いているはずなのだが。

 情報として、青い光、増えた足音、そして振り返った途端に襲ってきたこと、途中までは見えなかったこと、幻影を生み出す能力に…………。

「分からん」

 正直さっぱりだ。

 お手上げ、とばかりに肩を竦め、俺はアリスとランタンを伴って異界内を歩いていった。

 

 

 

「こんなものかしら」

 周囲に散らばった悪魔たちの死骸を見て呟く。

 血の臭いはすでに薄れつつある。悪魔たちの血肉は基本的にマグネタイトの塊だ。結合する分霊が無くなれば自然と消滅していく。

 ここは一体どこだろうか、敵を全て排し、ようやく余裕ができたので周囲を見渡す。

 広い。一言で言えばそれに尽きる。有栖と共に歩いていたような廊下とは比べ物にならない広さ。そして一角にある演劇でもするかのような舞台。

「体育館?」

 木造の校舎にそんなものがあるのだろうか?

 そう考えた…………直後。

 

祭場(さいじょう)だよ」

 

 声が返ってきた。

 声のしたほうへと視線を向ける。

 そこに先ほどまで無かったはずの人影。

 すっと目を細め人影を見る。

 細身の男。ダークグレーのスーツを着た二十代前後の男がそこにいた。

 男がその乱れたぼさぼさの髪をかきながら苦笑する。

「参ったな、今日に限って誰か来るなんて…………しかも俺がけしかけた悪魔たちを全員倒せるほど強いなんてな」

 呟きながら男が舞台から降りてくる。ゆったりとした歩みで階段を下り、ゆっくりと歩いてくる。

「あんた誰?」

「私か、私は…………そうだな、群体(cluster)とでも呼んでくれ。ただのダークサマナーだ」

 ダークサマナーと言う言葉に眉を顰めた。

 

 日本にいる無所属のサマナーは須らくヤタガラスの傘下に入っている。例えるならヤタガラスと言う超国家機関に身元を保証されている、とでも言うべきだろうか。

 …………()()()()

 どこにでもアウトローと言うものはいるもので、ヤタガラスの傘下に入っていることで制限付きの自由と身元の保証を得た者たちとは別に、己の身一つで裏社会に生きる者たちもいる。分かりやすく例えるなら医者に対する闇医者のようなもの…………それがダークサマナーと言うものだ。

 言葉の響きとは違って、ヤタガラスに登録されていないサマナーの総称であり、必ずしも名前の通りのダーティーな存在と言うわけではない…………無いのだが、基本的に自由に課せられた制限を嫌う者が多く、実質的に悪魔を使って犯罪行為を行う者が多いのも事実だ。

 

「…………群体(クラスター)? それ名前?」

「ああ、そうさ。私は孤高にして群体。故のクラスター。故にそれが私を示す唯一の名前だ」

 たしか群れとか集団とかを意味する言葉だっただろうか。目の前の男を見るがどう見ても一人だ、名前とは合致しない。

 いや、今はそれもどうでもいいか。

「それだ…………あんた、ここで何してるのよ」

 問題はそこだ。ここはヤタガラスが持つ、霊穴を管理するための重要な霊地だ。

 そこにヤタガラスに所属しないサマナー…………ダークサマナーがいる。

 それがどういう意味を持つのか、わからないわけがない。

「ああ…………何をしているか、か。なに、簡単なことだ。この地に眠る強大な力を呼び起こそうとしているだけだ。そのための祭場さ」

 パチン、と男が指を鳴らすと同時に、周囲を一変する。

 そこはまるでどこかの防空壕のような、洞窟を掘り進んだような場所。

 さきほどまでの木造建ての校舎は見る影も無い。

「こうして時間稼ぎに付き合ってもらったお陰でどうにか間に合いそうだよ…………おや、どうした? まるで風景が一変してしまったかのような表情をして。狐にでも化かされたかい?」

 男の背後、洞窟の奥でゆらゆらと揺れて見える蝋燭の立った祭壇のようなそこに。

 自身たちが追っていた呪の姿を見る。

 男がそれに気づいたのか、振り返り。

「ああ、あれか。どこから迷い込んできたのか知らないが、どうやら良い生贄になりそうでね。お陰で召喚が早まりそうだよ」

「…………呪を捕らえている? どうやって?」

 あの呪は縛られている。物理的に、では無く魔術的に。だがどうやって? 見たところ呪符も何も使った様子は無いというのに。

「ふふ…………こういうことさ、コグリ」

 男が名を呼ぶと、呪の周囲を取り巻くそれが見える。

 狐だ。何匹もの狐の霊が呪の周囲を渦巻いている。

「コックリさん、と言う名前のほうが君たちには分かるかな?」

 聞いたことはある。紙とコインを使ってやる簡単な降霊術…………。

「そう言うことね」

 

 降霊術、か。

 

「ああ、そう言うことさ。子供の遊びも中々バカにならないだろ? こうして少し形態を整えてやるだけで、あっという間に無差別に低級な霊を集め出す」

 ()()()。先ほど周囲の景色を偽っていたのは狐と狸の力か。

 無差別に霊を吸収させることで、その力を高める…………それを契約によってサマナーの意向に従う、つまり方向性を与えれるのならそれは便利だろう。

「それにしても、随分とお喋りね…………ペラペラと聞いておいて何だけど、返事がまともな返事が返ってくるとは思わなかったわ」

 自身の言葉に男が苦笑する。

「私はね、理不尽が嫌いだ。不条理が嫌いだ。死に行く者に、自分が何故死んだのか、それを教えてやるくらいはしたいと思うのさ」

「……………………そう、良く分かったわ」

 要するに、冥土の土産に教えてやろう、ということか。

 だったら簡単だ。もっと早くこうしておけば良かった。

 

「召喚」

 

 召喚…………モコイ。

 召喚…………ヨシツネ。

 召喚…………オルトロス。

 召喚…………ツチグモ。

 召喚…………ネコマタ。

 

 そして。

 

 召喚…………ライホーくん。

 

 両の手に持った六本の管。

 淡い光を放ち出てきたのは…………六体の悪魔。

 

「ああ、やはりキミは抗うのか…………ならばこちらも召喚だ」

 

 召喚…………レギオン。

 召喚…………デカラビア。

 

 召喚されたのはたったの二体。こちらは六体。

 数の上では有利だが、一体一体は相手のほうが遥かに強い。

 さらに言えばこれを従えている本人も相当な実力だろう。

 

 だからと言って臆する気も無い、まして尻込みする気も。

 

「二十一代目葛葉ライドウ…………候補の葛葉朔良よ。覚えていきなさい、冥土の土産にね」

 

 それは意気込み。普段なら絶対に言うことは無い、守護者の名前を冠することで絶対に引かない、と言う決意の表れ。

 

「…………ははは、アハハハハハ。候補とは言えライドウか。本当に私は運が悪い。だが引くわけには行かない」

 

 二人のサマナーが対峙し。

 

「「ここでくたばれ!!!」」

 

 それを契機に戦いが始まった。

 

 

 

 * * *

 

 

 どくん

 と心臓が脈打つ。

 …………………………ォォ

 掠れたような声。

 ごぼごぼ、と言う音と共に溢れ出す気泡。

 ………………………ォォォ

 広がる声、波打つ莫大な魔力。

 だが足りない。復活を遂げるには。

 誰かが龍脈を塞いでいる。

 

 邪魔だ、邪魔だ。

 

 眠っていた思考が徐々に意識を取り戻す。

 塞がれていたはずの龍脈の門が開かれている。

 そのことに歓喜しつつ、けれどまだ足りない。

 

 もっと、もっと。

 

 貪欲に、龍脈より流れてくる気を貪り食らう。

 そして気づく。

 

 足りない。畏れ(ネガイ)が足りない。

 

 どうして? 何故?

 まさか、忘れ去られたと言うのか?

 どうして? 何故?

 浮かんできたのは、怒り。

 

 不敬謙なる者どもめ。

 

 何故忘れた。何故捨てた。

 怒りがむくむくと沸きだし。

 

 途端に収まる。

 

 感じたのは畏れ(イノリ)

 そして信仰(ネガイ)

 

 その優しさに、怒りが鎮火される。

 ささくれだった心が静まる。

 

 小さな小さな祈りの言葉。

 

 人間一人分の小さな願い。

 

 だが、今の自身にはあまりにも眩しくて。

 

 一体どんな人物なのか、顔を見てみたくなって。

 

 不完全な体を引きずりながら…………そこから抜け出した。

 

 




有栖が出会った悪魔…………こいつの正体がわかる読者はまだいまい。
情報少なすぎの上に、メガテンにはいない。しかも作者がけっこうアレンジしてしまっている上に元ネタになったやつもマイナー。これで分かるやつがいたら名探偵になれる。

最後のはあれだ、次回への伏線…………多分。
ちょうど良いので伏線にしてみた。覚えておくと何かいいことあるかも。


あ、そうだ。レベルとかステータスとか色々独自の設定があるのでちょっと解説。

この世界のレベルの解釈は『活性マグネタイト』の蓄積量のことです。
非活性マグタイトをMPとするなら、活性マグネタイトは経験値だと思ってください。で、この活性マグネタイトを蓄積する度に体が人間から悪魔へと変化していく。つまり人外の力を得ていくからステータスが上がる、と言う感じですかね。
なのでレベルを上げすぎた人間の行き着く先は魔人化、英雄化、超人化あたりですね。
自身が溜め込める活性マグネタイトの許容量をレベル上限とし、それを超えたら完全に人間ではなくなります。この許容量の個人差がレベル上限の違いですね。
逆に悪魔のほうは魔界にある本体の識能を使うためのキャパシティが増量していきます。PCで例えるならよりハードディスクの拡張によって中にインストールできるプログラムの数増えた、と考えてみると分かりやすいかも? メモリがステータスで、CPUがMP? まあとにかく、分霊が本体から引き出す力の大きさに耐えれる限界量を活性マグネタイトで上昇させる=レベルが上がると強くなる、と言う話ですね。

あとステータスの話ですがこの世界ではステータスの成長度合いは個人差があります。
例えばアリスなら魔力が突出して伸びます。有栖のジャックランタンも同様で、有栖のジャックフロストなら力と魔力が大きく伸びますがランタンやアリスと比べると魔力の伸びは一つ落ちます。
人間の場合、その人の性質に寄ります。要するに普段どんな戦い方してるか、ですね。有栖みたいに銃振り回してると速度を中心に伸びますし、朔良の場合体質的に運が特に伸びやすく、他の能力も全体的に高めに伸びます。和泉はちょっと特殊ですが、力と魔が伸びやすい傾向にあります。
要するに、戦闘の中で素質が磨かれている、と考えてください。活性マグが人物ごとの素質にあった成長をさせます。
なのでレベルが1上がったからと言って全能力が1上がる、なんてこともありません。まあそう言う素質の人はそう言う風になる可能性もありますが。
それとレベルと言うのは活性マグの蓄積階梯であってあくまで人間側が決めている基準値ですので、ゲームみたいに経験値貯めてもレベルが上がるまでステータス変わらない、なんてこともありません。

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