有栖とアリス   作:水代

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学祭で土日完全に潰れてました。
今日は代休で朝から執筆してました。


有栖と閻魔

 

 

 その名を泰山府君と言う。

 一言で言い表せば、死神だ。

 と言っても俺自身それほど多く知っている訳でもない。

 サマナーになった時に、悪魔の情報についてキョウジに叩き込まれた分を覚えているだけだ。

 一言で言えば、死神。付け加えるなら…………閻魔王と同じ十王の一体。

 ただ仏教を起源とする閻魔王たちとは違い、中国の死の思想から独立した信仰を得た死冥の神格だ。

 

 泰山府君其我也。

 

 自身こそが裁く者であり、死であると言う名乗り。

 ああ、目の前にいるだけでこれほど感じるのだ。

 認めよう。

 

 これは…………死、そのものだ。

 

 

 

 風が吹く。

 死の臭い漂う黒い風だ。

「…………冗談だろ」

 旧校舎全体に広がった魔法陣に呼応するように現れた、屋上に広がった魔法陣。

 そこから出てくる巨体に目を見開く。

 屋上と言っても一つの学校の校舎の屋上だ。長いところで四十メートル以上はある歪な四角形をしている。

 その半分以上のスペースを埋める巨大な魔法陣ですら尚収まりきらない巨体。

 まだ上半身しか出てきていないと言うのに感じる威圧と死の臭い。

 化物なんて言葉じゃ生ぬるい。

 怪物なんて言葉でもまだ足りない。

 

 死だ。これは…………現実となった死、そのものだ。

 

 これでもまだ分霊だと言うのだから最早笑いすら出てくる。

 そして、その巨体が現れると同時にそこから溢れてくる異形。

 ガキ…………餓鬼と書き表し、生前に贅沢をしたものが餓鬼道に落ちた姿。常に飢えと渇きに苦しみ、物を口にしようとすると、焔となり消えてしまう為、永遠に飲食をすることができない。体は痩せ細り、腹部だけが異様に膨らんだ姿をしている。

 ただ…………おかしい。

 餓鬼が何故いる? あれは本来、泰山府君となんら関わりの無い悪魔だ。

 そう考えた時、再度召喚される…………骸骨姿の剣士。

 トゥルダクと言う。死の病魔。病気をもたらし人を死に至らしめるが、踊ることで逆に病気を払うことも出来る。

 そして。

 

 閻魔大王に仕える者。

 

 

 

 日本人と言うのはとにかく大雑把だ。

 特に宗教において日本は、魔窟と呼んでも良いほどに混沌としている。

 中でも神仏習合と言うのは日本の宗教の最大の特徴だろう。

 神道も仏教も元は全く別々の神を祭る宗教だ。けれどこの日本においては合併され、一つの宗教、一つの神とされている。

 こうなるとどうなるか? それが今目の前で起こっていることの全てだ。

 

 つまり。 

 

 閻魔王の権能『も』宿した泰山府君。

 地獄の裁判官、十王が二体の権能を持つ、まさに死神だ。

 

 

「アリス、メギドラ!」

 放たれた魔法がガキとトゥルダクを一掃する。

 だが、次の瞬間には再召喚されすぐにまた補充される。

 ジリ貧の展開。

 あの分厚い死者の壁を突破しないと泰山府君にはダメージを与えられないと言うのに、早く泰山府君を倒さなければまだ召喚されきっていない今が最大のチャンスだと言うのに。

 倒しても倒しても召喚され続けるガキとトゥルダクが溢れ続け、壁となる。

「ランタン! マハラギダイン! フロスト、吹っ飛ばせ!」

 さらにランタンとフロストがそれぞれ最大範囲の攻撃を放つ…………がそれでもまだ足りない。

 泰山府君はすでに上半身は召喚し終わっている。それだけでこの威圧。完全に召喚されたらどれほどになるというのか。

 本来なら召喚している人間のほうを狙うのだが、あの群体とか言う男。

 こいつを全く制御する気が無い。そんなことをすれば自身も殺されると言うのに、完全になすがままにしている。

 だとすれば召喚者を殺しても意味は無い。すでに召喚は始まっている以上、完全に召喚されきるまでは止まらないし、召喚者であるこいつを殺せば完全に自由になった死神が現れるだけだ。

 どうする? どうすれば良い? そう考え、思考を走らせ…………次の瞬間。

 

 召喚が止まる。

 

「なに?!」

 その現象に群体が疑問の声を上げる。

 これ以上召喚が続く気配は無い…………だが上半身はまだ出たままだ。

 と、同時に沸き続けていたガキとトゥルダクたちの召喚も止まる。

「よく分からないがチャンスだ。アリス、ランタン、フロスト! 全力でぶっ飛ばせ!」

「「メギドラオン!!!」」

「ブーメランフロステリオスだホー!」

 爆音が響き、一気に半数以上の死者たちが吹き飛ばされる。

 えぐれるように空いた空白地帯。さらに進もうと足を出し…………。

「泰山府君祭」

 聞こえた声。視線をやると群体がニィ、と笑っており。

 直後、屋上が悪魔で溢れた。

 

 

 

 リス…………リス!

 

 声? 誰の…………?

 

 どこかで聞いた覚えのある…………。

 

 懐かしいような、近しいような…………。

 

「有栖!!!」

 瞬間、ハッ、となって目を覚ます。意識が覚醒した瞬間、体の痛みを感じる。

 だがそれを振り切って、立ち上がる。

「…………アリス、俺はどのくらい気絶してた?」

 傍で俺を起こそうとしていたアリスにそう尋ねると、五秒くらい、との返答。

 前面で俺を守って経つフロストとその後ろで敵を焼き払う炎を放つランタンの姿を確認し、安堵の息を漏らす。

「…………何が起こった?」

 同時に屋上に溢れるほどに増えたガキとトゥルダクの姿に目を見開く。

「フロスト、ランタン、もうしばらくそうして前線を保ってろ!」

「了解だホ!」

「お任せだホー!」

 頼りになる仲魔に前を任せながら、考える。

 気を失う前に起こったこを一つ一つ整理する。

 まず何故気絶しのか?

 突如爆発的に増え、屋上に溢れかえった悪魔の波に飲まれたから。

 では何故悪魔たちが増えたのか?

 原因不明。

 

 考えるべきポイントはそこだろう。

 召喚は止まったはずなのに、それまでとは比べ物にならない勢いで増えた悪魔。

 召喚陣は見えなかった、ということは召喚ではないだろう。

 恐らくキーワードは群体の呟いた言葉。

 

 泰山府君祭。

 

 どこかで聞いた覚えのある言葉だ。

 何かとても重要だった気がする。

 

 思い出せそうで思い出せない、そんなもやもや感に頭を捻っていたその時。

 

 オオオオ

 

 死神が、()いた。

 瞬間、倒したはずの敵が起き上がり、何も無い空間に光が弾け、敵が現れる。

「…………あ…………ああ!! 思い出した!!!」

 その光景を見て、ようやく思い出す。

 泰山府君は中国における死冥の神格。と同時に日本において一つの神格を得ている。

 陰陽道の主祭神。その究極こそが泰山府君祭。

 表の人間に見せ付けるためのものではない。裏の世界で行なわれる、本当の意味での祭。

 

 その意味は…………死者の蘇生。

 

 日本で召喚された主祭神だ、その権能くらいは宿しているだろう。

 倒しても倒しても沸いてくるはずだ。倒したやつらが全部復活してたのだから。

 広いとは言ってもさすが数百と言う数の敵がいれば狭くもなる屋上だ。どこに撃っても数十という単位で敵が倒れていく。だから俺たちが倒した数は千を超えるだろう。

 それらが一斉に復活するのだから、学校の屋上程度では一気に飽和もする。

「とりあえずからくりは分かった」

 問題はこの事態をどうするか?

 何で俺こんなことになってるんだろうか、と思いつつも事態を冷静に分析する。

 まずあれに勝つのは無理だろう。死神、と言うのはアリスとすこぶる相性が悪い。基本的に呪殺属性の効かない敵はアリスの持ち味が生かしにくい。ただ逆に即死系の攻撃はアリスには効かないので相手にっても相性が悪いとも言える。だが根本的な基本能力が違い過ぎて、同じ魔法を使ってもアリスが撃ち負けるのは確実だろう。()()()()()()()()()()()()、今のアリスでは魔力が違い過ぎる。

 かといってこのままあの死神を放置、と言うのは無理だろう。異界から出られた瞬間、体に纏っている死の気配だけで並の人間では死ぬ。被害が甚大なのは確実だろう。

 つまりまあ、方法は一つしかない。

 

「ここのマグネタイトが全部尽きるまで付き合ってやるよ、死神」

 

 召喚コスト切れ。それを狙うしかないだろう。

 

 

 

 

「溜めろ、アリス。ランタンとフロストは補助だ」

 命令に従ってアリスが集中し始め、ランタンとフロストのマハマカカジャが魔法を強化する。

 波打つような悪魔の群れがこちらへと向かってくる。

「フロスト、止めろ。ランタンはもう一度だ!」

 ジャックフロストが拳に纏わせた氷を横薙ぎに生み出し、氷の壁を作る。

 ジャックランタンがさらにもう一度、マハマカカジャで魔法強化を行い…………。

「ぶち抜け、アリス!」

「メギドラオン!」

 コンセントレイトによって威力が倍増したメギドラオンが数百と言う数の悪魔を飲み込む。

「泰山府君祭」

 が、それを見た泰山府君があっさりとそれを蘇らせる。

「どんどん撃て、こっちがマグネタイトを消費すれば相手の分が減るぞ」

 負けじと仲魔たちが次々と消費の激しい魔法を連発し亡者の壁を削っていく。

 

 考えれば簡単な話だ。

 あんな巨大な悪魔、存在しているだけで莫大なマグネタイトを消費する。

 どこにそんなマグネタイトがある?

 答えは校舎のあちこちで見かけたマグネタイト結晶。

 恐らくあれはこの悪魔を召喚するために群体と名乗ったあの男が仕掛けておいたものだろう。

 契約するのならともかく、契約も制御もしないの野良悪魔ならああして周囲に置いておくだけで勝手に吸収し活動するだろうことは明白だし、それならあんな大量のマグを保管する必要も無い。

 恐らくあの大量のマグは霊穴から引っ張り出したのだろう。それなら今日まで誰にも気づかれなかっただろう理由にも予想が付く。

 そして最初の校舎全体を包むような魔法陣は校舎全体のマグネタイトをこの屋上に集めるためのものなのだろう。

 あの死神の消費が多過ぎて気づくのが遅れたが、ちらりちらちと新しくマグネタイト結晶が生まれている。

 一つ心配だったのは、直接霊穴と接続してマグタイトを補給されないか、と言うことだったが、どうやらされていないらしい、屋上にたくさんあった結晶化したマグネタイトが減っていっている様子からもそれは伺える。

 もしかすると途中ではぐれた朔良が何かしたのかもしれない。あいつは昔から勘だけで重要な一手を打つことが時々あったし。

 とまあ、散々考えてようやく見えてきた希望だ。

 

 この異界にどれだけのマグネタイトを溜め込んだかは知らないが、多く見積もってもあの死神が活動できる時間は五分も無いだろう。

 

 それまで耐えれば俺たちの勝ち。それまでにやられれば俺たちの負けで、死神は異界を出て街へと進むだろう。敵がいなくなれば今度は上半身だけでなく全身が正統に召喚されるかもしれない、となればもう勝てる気はしない。

 結局、ここで防ぎ切るしか道はない。

 あの蘇生魔法を使わせることで消費を多くできるので、今やっている取り巻きを倒すことも無駄ではないはずだ。

 

 

 そうした思考の元、ランタンで焼き払い、フロストが打ち砕き、アリスが吹き飛ばす。

 そうして倒しても倒しても復活する悪魔の群れを倒していき、なるほど予想通り目に見えて周辺のマグネタイトの量が減ってきた、これならもう時間はかからない。

 そう安心した…………その時。

 

 オオオオオオオオォォォォォォ!!!

 

 死神が叫ぶ。

 

「マ……ハ……ムド……オン」

 

 掠れたような声が響き…………屋上全域に、呪詛が広がった。

 

 マハムドオン。呪殺魔法の最上位に位置する攻撃だ。一撃で全員を即死させてしまう極めて凶悪な魔法だが。

 そもそも俺とアリスは呪殺属性が効かない無効耐性を持っているし、ランタンとフロストも呪殺に耐性を持っているのでダメージはともかく即死は防げる…………はずなのに。

 

「ホ?」

「ホー?!」

 

 ランタンとフロストが崩れ落ちる。

「っな?!!!!」

 俺も全身から力が抜け、膝を突く…………がなんとか耐える。

 視線をやればアリスはどうやら平気だったらしい。

「…………おいおい、どうなってやがる」

 口調こそ平然としているが、正直けっこうきつい。

 どうなっている? 耐性持ちのはずなのに何故ランタンたちは即死した?

「有栖…………よくわかんないけど、まずいかも」

 アリスの言葉に首を傾げる。

「つぎがきたら、たえられないかも」

「っ、お前でもか?」

 こくり、と頷くアリスに状況の最悪さを理解する。

 アリスですらダメ、となるとあの死神の呪殺魔法は…………耐性を貫通する。

 貫通とは文字通り、耐性を貫いて通す。

 反射以外の耐性は無視され通常通りの効果が発揮される。それが耐性貫通だ。

 正直、これを持っている悪魔はほとんどいない。

 俺が知っているのはたった一体だけ、と言うほど希少なものなのだ。

 想定外だ、これはやばい。俺も次に同じものが来たら耐えれる気がしない。

 思考しつつ顔を上げ、目を見開く。

 

 群体も、ガキも、トゥルダクも。

 

 全て等しく、死んでいた。

 

「無差別かよ」

 

 だが。

 

「泰山府君祭」

 

 あっさりと悪魔たちが蘇る。

 

「どうしろってんだよ、これ!」

 

 詰んでいる。あいつのマグネタイトが切れて動けなくなるよりこちらが全滅するほうがどう考えても早い。

 時間が…………足りない。

 

 と、その時。

 

「ぐ、ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「…………う、ぐぐぐぐぐ」

 

 起き上がる、ランタンとフロストが。

「大丈夫か? ランタン、フロスト」

「よ、余裕だホ!」

「ヒーホ、ッホ!」

 明らかに無理がある、と言うか即死攻撃食らったのにどうして動けるのか。

「「気合だホー!!!」」

 俺の問いに対し、ピタリと声が揃う。

「そ、そうか…………」

 少々面食らって、声が上ずる。まあそれはいいとして、現状は何も変わらない。

 次にまた呪殺魔法が来ればランタンとフロストは耐えられない。

 どうする? そう思考していた…………その時。

「サマナー!」

 ランタンが俺を呼ぶ。

「オイラはサマナーのことを信じてるホ」

「あ、ああ、ありがとう」

 面と向かって言われ照れくさいのと、この状況で一体何を言っているのか、と言う二つの感情が渦巻き返答に詰まる。

「だから、サマナーもオイラのこと信じて欲しいホ」

「…………ああ、分かった」

 何か考えがあるのだろうか? そう考え。

「サマナー!」

「今度はフロストか、何だ?」

「オイラはサマナーについてけばもっと強くなれると思ったホー! 実際こうして強いやつといっぱい戦えてオイラは満足してるホー」

「何なんだ、さっきからお前ら一体何を」

「オイラもっともっと強くなるホー。だからサマナー、こんなところで負けてられないんだホー。信じるホー、オイラたちのこと、そうしたら」

「オイラたちもいっぱいがんばれるんだホ!」

 言いたいことだけ言ってランタンとフロストが互いに手を差し出し、繋ぐ。

 

「「デビルフュージョン」」

 

 溶け合う。ランタンとフロストの姿が。

 混ざり合う。赤と青が。

 そうして。

 

「ヒホヒホヒホー! このワルの帝王に全部まかせるホ! ってことでオマエら全員ごーとぅーへる!」

 

 紫色のソレが表れる。

 

「罪に彩られるホ、クライシス!」

 

 ソレがぐっと伸びをするようなポーズを取ると、薄紫の光が俺とアリス、ソレに宿る。

 

 そして。

 

「マ……ハ……ムド……オン」

 

 二度目の呪殺魔法が、俺たちを襲った。

 

 

 




段々なんでもありになってきてる気がするが気にしない。
デビルフュージョンはあれです、ネトゲのメガテンから持ってきました。
似たようなので合体技ってペルソナ2にもありましたよね。ライドウの合体技とはまた違う。
元々、召喚してる悪魔がCOMP内の悪魔の力を一時的に借りて強力な技を出す、っていうのがデビルヒュージョンなんですけど、組み合わせ次第だと一時的に二体の悪魔が別の悪魔へと変化して攻撃するんですよね。
例えば、オーディンとロキでデビルヒュージョンするとトールになって全体電撃属性のスキル使ってくれる、みたいな。
これから引っ張ってきて、こういう風にアレンジしてみました。

ゲームでもできるなら、小説でやってもいいじゃない、と言う感じで。

意外とこの小説、ネトゲのメガテン要素多いです。
と言ってもあれ準公式なんであまり当てにしすぎるのもアレなんですけどね。

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