これはちょっと学校いけないと思って休んでたんです。で、時間あるし執筆でもするか、と思ったらどうにも頭がぼうっとして何も思い浮かばない。
熱測ってみると38.6度。これは無理だと諦めて寝てました。
今日は朝から38.1度あったけど学校行って来て帰ってもまだ37.4度ほどあった、と言う。
でもまあ頭は働いているので執筆再開しました。
以上、言い訳完了。
電車で揺られること一時間。
辿り付いた駅の名は、青海駅。
「うーん、東京にまだこんな綺麗な海岸があったなんてな」
悠希が手提げ鞄に入れた荷物をアスファルトの道路に置きながらぐっと背伸びをする。
「青海町って名前も聞いたこと無かったけど、けっこう素敵な街だね」
麦藁帽を被った詩織が楽しそうにきょろきょろと周囲を見渡す。
「何でこんなことになっちまったんだか」
うな垂れる俺にトドメを指すようにCOMPの中から伝わってくる声。
どんまい!
案の定だホ!
サマナーだから仕方ないホー!
はあ、とため息を吐きつつ思考する。
そう、三人だ。悠希と詩織も一緒に三人揃って俺たちはここに来ている。
何故、と聞かれたら俺も何でだろうと空を仰ぐしか無い。
電話を終えて戻った俺を二人が迎え、悠希が悪戯っぽい笑みを浮かべながら一枚のチラシを見せてくる。
「商店街の福引キャンペーン?」
最近この街にもどんどん増えてきた大型ショッピングモールから客を取り返すための商業戦略だろうか。
俺も悠希も家が近い上に昔からの馴染みなので行くことが多いのだが、最近行ってなかったせいで知らなかったが、こんなことやってたのか。
「特賞のところ、見てみろよ」
悠希の言葉に従い特賞と書かれた項目を見る。
特賞、ゴールデンウィークに家族と行く豪華温泉旅館二泊三日の旅…………と書かれている。
「で、これが何なんだ?」
呟き悠希を見やると、すっと差し出される手。その手に握られた三枚のチケットらしきもの。
そこに書かれている文を読み…………驚きの声を漏らす。
「特賞か…………驚いた」
「当たったんだぜ!」
どこか誇らしげな悠希の表情に苦笑しつつ、けれど断らなければいけないことに多少心苦しさもある。
「あー悠希、盛り上がってるとこ悪いんだが俺は…………」
ふと、その時チラシが目に入る。温泉旅行…………目的地、青海町。
絶句した。
どんな偶然だ、と言いたくなったが、それを言っても仕方ない。
「有栖は行かないのか? なら」
「いや、待った。やっぱり行くわ」
俺の答えに悠希と詩織がぱあ、と笑みを咲かせる。
「バイトはいいのか?」
「ん、まあな」
「そうかそうか、いやー、俺たち三人で遊びに行くのなんて久々だからなあ、テンション上がっちまうぜ」
「そうだね、有栖いっつも忙しそうだしね」
「それは、まあ悪い」
と言ってももうバイトと言うか仕事のレベルでがっつりやってるので、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「いや、事情は分かるから良いんだ」
「うん…………仕方ないよね」
両親がいない上に一人暮らし。となればどうやってか収入が無いと生活できない。そのことを理解している二人は気まずそうにしながらもそう言う。
「ま、まあ。とりあえずこれでゴールデンウィークは二泊三日の旅行だぜ
気を取り直してか、悠希が努めて明るい声を出し、詩織も笑う。
「そうだな」
俺も同調しておく。
街中は大丈夫だとキョウジも言っていたが、それでも念を入れて俺が同行し、二人がこっちの事情巻き込まれないようにしないとな。
むしろさまなーがいるからまきこまれるんじゃないかな?
ホッホー! 姉御、それは言わない約束だホ!
オイラは楽しければ何でもいいホー!
お前ら煩いぞ…………ていうか、ランタン、お前まだアリスのことそんな呼び方してたのか。
ジャアクフロストとジャックランタンは別の悪魔だが、あのジャアクフロストとこのジャックランタンは同一でもあるらしいのであの時の影響が残っていてもおかしくは無いのだが。
「まあ何にしても…………平和だと良いな」
けどまあ、多分そんなことにはならないんだろうな。
アリスたちの弁ではないが、なんとなく俺もそんな気はしていた。
と、まあそんな事情もあり三人で青海町にやってきたのだが。
「目的の旅館はどこにあんだよ?」
駅から出てすでに三十分くらいは歩いている。と言うのも、最初に宿泊先の旅館に行って荷物を置いていこう、と言う話になったのだが、肝心の旅館が駅から遠い場所にあったのだ。
「駅から徒歩三十分だからそろそろ着くはずなんだがなあ」
さらに見知らぬ街なので地理も分からず携帯で地図を検索し、それを見ながら右往左往しているのだ。
「タクシーでも使うか?」
「俺にそんな金はねえよ」
「バスも無理だしねえ」
バス亭があったので時刻表を確認してみれば、一時間に一本しか通っていないと言う。
一体どんな田舎だよ、と思いつつも時間を見ればちょうど四十分後、だったら歩いたほうが早いだろ、と歩いてみたは良いものの迷子。
「初日からこれとか、豪華温泉旅館とやらに期待するしかないな」
「発端者なんだから下調べくらいしてきなよ、悠希」
「うーん、地図を見る限りこの近く…………なんじゃないかと思うんだが」
右往左往。荷物を抱えて迷う俺たち。
そんなことをしながらだが、確かに俺は感じていた。
異界の気配、だな。
だねえ…………。
俺の内心の呟きにアリスが同意する。
どこからとも無く異界の気配がする。
恐らくこの町の近く。街中には無いらしいから、周辺だろうが…………。
こんなにはっきりとした気配を感じるのに、それがどこからなのか分からない。
なるほど、ヤタガラスの連中が梃子摺るはずだ。
ここまではっきりとした知覚できておきながら、まるで蜃気楼か何かのように具体的なものが分からない。
「厄介だな」
「何がだ? 有栖」
俺の小さな呟きを耳聡く聞きつけた悠希が振り返って尋ねる。
「…………いや、なんでも無い。ちょっとこっちに来るってことでバイト先から用事頼まれてな、それがちょっと面倒になりそうってだけだ」
「用事?」
「あー、悪いが企業秘密だ」
あ、そう。とあっさり納得して再度道探しに戻る悠希。俺のバイトに関しては言えないことが多過ぎるため、悠希たちには何度もこういう対応をしており、さすがに慣れられてしまった。
悪い、とは思いつつもけれどこっちのことなんて知らずに過ごして欲しい、とも思う。
だからきっとこれで良いのだろう………………多分、良いんだ。
さてそろそろ十分がさらに経過し、いい加減詩織が痺れを切らす。
「あーもう、これタクシー捜したほうがいいと思うよ。私たちだけじゃいつになるか分からないよ」
「金がなあ」
「お金なら私が出すよ。このまま当て所無く歩き続けるほうが嫌だ」
たしかにそろそろ疲れてきたし、そう言う選択肢も止む無いだろう。
やや田舎だが幸いタクシーは駅前で何台か見たし、途中走っているのを何度か見ているので乗れないと言うことは無いだろう。
「確かにそうするしかないか」
悠希が諦め気味に声を吐き。タクシーを捜そうと道路側に目をやった、その時。
「あの、何かお困りですか?」
一人の少女が声をかけてきた。
俺たちと同じくらいの歳の紺セーラー服を着た髪の長い少女。
黒く長いその髪が一瞬朔良を想起させた。
「えっと? もしかして地元の人?」
唐突に声をかけられ一瞬戸惑ったがこういう時真っ先に動き出すのは俺たちの中で最も対人スキルの高い悠希だった。
「ええ、そうですよ? あまり見かけない顔ですけれど、お三人がたは別のところからやってきたんですか?」
「そうそう、俺たち吉原町ってとこから来たんだけどさ」
そう言う悠希の言葉に少女が驚いたように目を丸くする。
「驚きました…………本当に他所から来た人なんですね」
「え、え? どういうこと?」
少女の反応に悠希のほうも驚いて尋ね返す。
「えっと、まあ見ての通りの何も無い田舎町ですから…………旅行者なんて滅多に見ないんですよ」
「そうなの? その割には豪華温泉旅館があるとかって書いてあるけど」
悠希の見せたパンフに目を通した少女が苦笑する。
「ああ、これですか。町の目玉になるんじゃないかって町の人たち言ってましたけど、あんな遠いところにある旅館早々人が来るとも思えませんよ…………って、あ、失礼しました」
パンフを見せたと言うことは俺たちはそこに行こうとしている、と言うことなのだが…………少女もそれに気づいたのかすぐさま謝罪してきた。
「そっか、いや、まあそれはいいんだ。実際俺たちも良く知らないで行ってるわけだしさ…………それはそれとして遠いところにあるってこの辺じゃないの?」
悠希の言葉に少女苦笑いする。その様子に俺も悠希も、詩織ですら嫌な予感を覚える。
やがて少女はすぐ近くに見える山を指差す。
「この町が山に囲まれているのは知ってますよね? それから海に面しているのも」
「来る途中の電車で見たけど、それが?」
「で、今指差している山なんですけど裾が海辺にまで繋がってるんですよね…………で、先端が崖になっててけっこう高い場所にあるんですけど」
そこにあります、と言う少女の言葉の意味を理解し、げんなりとした気分が漂う。
なるほど、地図上ではすぐ近くに見えるはずだ…………山一つ挟んだ向こう側か。
「地図だけで見ると近くなんですけど、実際は山の麓をぐるりと回らないとダメなんでまともに歩くと駅から一時間以上かかるんですよ」
思わず脱力しかけた俺たちを見て苦笑する少女が続けて言う。
「良ければ案内しましょうか? まともじゃない道なので多少歩きにくいですが、十分もあれば着きますよ?」
その言葉に悠希が驚いたように言う。
「良いの? そりゃ俺らとしては助かるけど、そっちの都合とかは?」
「大丈夫ですから、お気になさらず」
三人で顔を見合わせる…………まあ向こうが良いと言っているならお言葉に甘えさせてもらったほうが良いだろう。
「じゃ、お願いするわ」
悠希がそう言うと、少女が快活に笑って。
「了解しました! 着いてきてください」
そう言って歩きだし、俺たち三人もその背を追って歩き出した。
程なくして辿り付いたのは…………。
「海岸?」
そう、何故か海岸だった。
「山の麓にあるんじゃないの?」
悠希の疑問に少女が笑って答える。
「今から通る場所は私だけのとっておきの場所ですから、内緒ですよ?」
くすくすと笑い、少女が海岸の砂浜を歩いていき…………すぐに砂浜が途切れる。
「ここの砂浜ってとっても狭い上に岩がいっぱいだから基本的に誰も使わないんですよね、だから意外と知られていないんですけど」
そう言って少女がすっと壁伝いに足を踏み出し。
そのまま海の上を歩いていく。
「は?」
「え?」
「なに?」
起こったことが一瞬理解できずに目を見開くが、すぐに気づく。
「ああ、なるほど」
やや浸かってしまった砂浜の上にごろごろと岩が敷き詰められている。勝手になるには綺麗に壁伝いになっているので、恐らく少女か誰かがやったのだろう。
「滑ったりしないから大丈夫ですよ、こっちです」
少し離れた場所で少女の声がする。
三人で顔を見合わせ、悠希が一歩踏み出す。大丈夫そうなのを確認し、頷くと詩織が続いて、最後に俺が歩く。
「ここです」
壁伝いに数メートルほど歩くと少女が立っていてそう言った。
見ると壁に穴が開いている…………と言うか洞窟だ。一段か二段高いところに入り口があり海水も入ってきていない。
「これが最後ですよ」
まるで子供の頃にした探検ごっこのような気分を覚えながら少女に着いていき、少しばかり歩く。
「登り坂のせいか、ちょっときついな、これ」
荷物を持って歩くには少しきついと思うが、バイトの影響か、そこまで疲れてもいない。
そうして三分ばかり歩き続けると。
「着きました」
少女の声で顔を上げる。洞窟の先に光が見える…………出口だと気づくと、少しばかり安堵した。
そうして洞窟を出るとどこかの岩場のような場所で…………。
「あちらをご覧ください」
少女の招きにしたがって視線をやると、三方を崖に囲まれた場所の上に立つ一軒の建物。
「到着です」
そう言って少女が建物へと歩いていく。
「疲れたぜ、詩織と有栖は大丈夫か?」
「私も疲れた」
「ま、到着したなら結果的に良しとしようぜ」
ようやく到着したこととちゃんと到着できたことの両方に安堵のため息をしつつ、ゆったりと歩いていき。
少女の消えた建物の入り口にたどり着く。
「へー、凄く立派な和風な建物だね」
「あの子が色々言ってたからどうなのかと思ってたけど、けっこう立派じゃん」
豪勢と言われればたしかにそう思える和風の屋敷然とした旅館の佇まい。
商店街の福引でロハで泊まれるなら中々に良いと言えるだろう。
二人ともそんな旅館の佇まいと、旅行と言う開放的な雰囲気のせいか、疲れも忘れてはしゃいでいるようだった。
「ま、とりあえず入るぞ、悠希、詩織」
と言ってもまあ、入り口でごちゃごちゃしていても仕方ないので二人にそう声をかけ、開き戸に手をかけ、引く。
「いらっしゃいませ、お三人様方」
そしてそこにいたのは、着物こそ着ているが間違えようも無く…………先ほどまで俺たちを案内してくれた少女だった。
「当旅館の案内を務めさせていただきます、私、石動小夜と申します」
そう言って、少女…………小夜がにっこりと笑った。
この三人をこんなに長く書くのは久々だ。
子供の頃に探検と称して山を駆け回ったり川を歩いたりするのは非常に楽しかった記憶です。
都会育ちの人はあんまり馴染みが無いのかもしれないけど、田舎の子供は良くやってる。
雨の日は川かさが増してて上流からフナとかが流されてきてそれをつかませて楽しんだりしてたなあ…………懐かしい。
しかし商店街の福引って一等とか特等抜いてるって噂があるけど、本当なのだろうか…………? ティッシュしか当たったこと無い。
あのガラガラって回すのって何故か無性に楽しいですよね。