カポーン、と言う効果音を考えたやつは天才だと思う。
あれを聞くだけで何故か温泉を想像できてしまうのだから、不思議だ。
まあそれは置いといて。
現在午前六時半。こういう温泉旅館には良くあることだが、現在俺は朝風呂を満喫中だった。
「はあ…………生き返るわ」
癒される。疲れた体が芯からほぐされていくような感覚。暖かさに包まれているようなこの心地は日本人に生まれて良かったと思わされる瞬間だ。
そもそも、何で俺は旅行一日目から魔人などという物騒極まり無い存在と生死を賭けた勝負をしていたのだろうか。
自分でも疑問に思うが、しかし出会ってしまったものは仕方が無い。
まあ実際は自分から街へと足を向けてわざわざ首を突っ込んだんだが。
あれからのことを簡単に説明すると、ヤタガラスに連絡して魔人などと言う存在に出会った報告と治療の救援をし、無事腕がくっついたのが二時半ごろだったか。連絡から一時間半で準備を終えて車で駆けつけてくるヤタガラスの人間のフットワークの軽さに驚きながらも治療を受け、血まみれになった服の代わりを見繕ってもらったりとそんなことをしていたらすでに三時過ぎ。車で旅館にまで送ってもらい、床に就いて起きてみればまだ六時。ただ深夜のドンパチのせいで汗と土で不快感を覚えたので眠気を振り払い朝から旅館の温泉に入っていた…………そして冒頭に戻る。
「つうか…………なんでこの街は魔人なんているんだ?」
魔人と言うのは少々特殊な悪魔だ。基本的に悪魔はこの世界のどこにでも現れるのだが、魔人はそうではない。
魔人は不運の象徴だ。陰の気が一箇所に集中している状態で、新月の夜にどこからともなく現れる。
かつて帝都中の人間の幸運が奪われる、と言う事件があった。
最初は小さな変化だった。ツいてる人間とツいてない人間。幸運が続く人間と不運ばかりに見舞われる人間。
世界中探せばよくある話だ。だがそれが帝都中で起こっていた、となればそれは最早立派な異変だ。
だが幸運が続いた人間もやがてはそのツキを失い、不幸に見舞われ続けた人間はどんどん絶望に染まっていく。
そんな帝都にはいつしか陰鬱な人々の念が溜まり、淀んだ空気を放っていた。
そしてそこに現れたのが…………魔人と言う存在。
そしてそれら全てを討ち果たしたのが…………十四代目葛葉ライドウ。
「あんな化け物何体も倒すとか…………本当に人間か怪しいな」
湯につかりながら呟く。繋がってはいるがどこか違和感の残る左腕を見つつため息を吐く。
近代火気をあれだけ当ててはいたが、COMPを見る限りマグネタイトの収集ができていなかったので撃退しただけだったのだろう。
あれだけぼろぼろになってまで戦ってようやく撃退できた化け物を六体以上倒したと言う十四代目のその実力は俺ごときには計り知ることもできない。
朔良はそんなものを目指しているのか、と思うと顔が引きつる。
そんなこんなと朝から風呂に浸かりながら思考を巡らせていると。
ガラッ、と音がして浴場の扉の開く音。
俺以外にこんな朝から客でもいるのか? と振り向き。
「わーい、おふろー」
「は?」
絶句した。何故? だってそこにいたのは…………アリスだった。
ここって男風呂だよな? と一瞬考えたが、こいつにそんな常識が通用するはずも無いか、とすぐにその考えを破棄する。
「な、お、お前、なんで、つうか勝手に出てきたのか?!」
「だって有栖だけおふろにはいるのずるいよ。わたしもはいりたーい」
「だからって…………いや、くそ、もういいわ」
こういうやつなのは分かってたことではあるし、考えようによっては人のいない今の時間帯で良かったのかもしれない。
「きのーはほかのひとがいたからがまんしたんだよ、だからきょーはいいでしょ?」
「分かった、仕方ねえな…………人が来たら送還するからな?」
「はーい」
多少は気を使ったらしいアリスの言に、許可してしまう俺も甘いのだろうか、と思いつつ湯に浸かる。
「そういやお前服は?」
「んー? けしたよ?」
「まあいいけどな、だったらタオルくらい作っとけ」
基本的に世界中に存在している悪魔はマグネタイトの体に宿った分霊だ。つまり全ての悪魔の体はマグネタイトで構成されている。
だからこそ変化したりもできるのだが、その応用で服装を変えることもできる。
逆に服を消したりもできるのだが、アリスも例によって全裸だった。
まあこんな幼児の裸見てもなんとも思わないのだが、そもそもアリスだしなあ。
「たおるをおゆにつけるのはまなーいはんだよ?」
「変なところで常識人ぶるな、お前。悪魔のくせに」
どこからそんな知識を得てくるのか、と思うが多分普段家でテレビ見てたりする時なのだろう。
基本的に何にでも興味を示すからな、アリスは。
「ランタンとフロストは?」
「寝てるよー?」
まあ昨日は激戦だったしな。第一フロストが温泉に浸かったら溶けてしまう。
「有栖、せなかながしてあげる」
「いや、いいから」
「だーめ、せなかよごれてるよ?」
主に血で、だろうか? 湯に浸かる前に一応も湯を被ったのだが取りきれてなかったらしい。
「いや、でもなあ…………変なことするなよ?」
自宅の湯船でもないのにそれは不味いか、と思い体を洗うことにする。
「はーい」
元気良く、多少不安になるが、アリスが返事をし俺についてくる。
積み上げられた桶を一つ取り、タオルを入れて洗い場に座る。
タオルに少々洗剤をつけ後ろにいるアリスに渡す。
「んじゃ、頼む」
「おまかせー」
ごしごしとアリスが俺の背中をタオルで擦る。のはいいのだが。
「力加減してくれ…………悪魔の力で擦られたら痛い」
「あ、ごめんごめん」
アリスはあまり力が強いほうでもないが、それは悪魔の中で、と言う仮定であって人間と比べれば呆れるほどの力がある。レベルが高いだけに並の悪魔よりも強い力で擦られては手加減されていても痛い。
と言うかそれでも痛いで済む俺も多分おかしいのだろうけれどあまり気にしない。
しばしの沈黙。アリスが俺の背中を擦る音だけが聞こえる。
そしてその沈黙を破ったのは俺からだった。
「んで、何か言いたいことでもあるのか?」
そんな俺の問いにアリスが少し不思議そうに後ろから声をかけてくる。
「わたしわかりやすい?」
「いや、なんとなく、だ」
きっと首を傾げているのだろうことが、振り返らなくても分かる程度には俺はこいつのことを理解している。
「で、本当に何かあるのか?」
「うん、あのねー」
アリスが一旦言葉を止め、そして言葉を紡ぐ。
「このままだとつぎのしんげつにしんじゃうよ?」
七時前になって部屋に戻ると、悠希も詩織も起床していた。
「起きてたのか」
「朝風呂か? 俺も行けば良かったかな」
「私も行こうかなあ、寝汗かいてるし」
「朝食どうする?」
「夕飯みたくここに持ってきてもらっていいと思うよ」
「じゃあ八時くらいに持ってきてもらうぞ?」
端的なやり取りをし、浴場へと向かう二人を見ながらロビーへと向かいフロントにいた小夜の母親(旅館の女将)に朝食の話を伝える。
「分かりました、では八時にお部屋のほうへお運びします」
「お願いします。それと一時間くらい時間があるけれど、どこか散歩するのにいい場所とかありますか?」
俺の質問に女将が数秒考え、口を開く。
「岬の先に小さな祠がありますけど、一度見に行ってはどうでしょうか? なかなかの景色ですよ?」
ふむ? 祠…………か。俺にとって面白い話だ。
「祠、って何を奉ってるんですか?」
俺の問いに女将が、さあ、と首を傾げる。
「私の母があそこには神様がいる、と良く言っていましたが何を奉っているのかは…………」
口ごもり、それからふっと思い出したように顔を明るくする。
「小夜なら何か知ってるかもしれません。あの娘は祖母に一番懐いてましたから、毎朝その祠へと行っているようなので、ちょうど今なら会えると思いますよ?」
「そうですか、ありがとうございます」
一つ礼を言って旅館を出る。
教えてもらった場所はここから歩いて十分ほどのところ。
小夜がいつまでそこにいるのかは分からないので、急ぎたいところだ。
「こりゃ思わぬところから有益な情報が出たかもな」
街から外れたこの旅館だ。カラスの連中も調べてない可能性もある。
もしかしたら、そんな期待を抱きながら俺は足を進めた。
「あら、おはようございます」
言われた通りに歩いていくとすぐに件の祠を見つけることができた。
そこには女将の言った通り小夜がいて、持っていたタオルで手を拭っていた。
祠は全長一メートル半ほどの小さなもので、中には神棚のようなものとミニチュアサイズの鳥居らしきものがあった。
ふと視線をやると水の入ったバケツや、清掃に使って汚れた布巾らしきものがある。どうやら、ちょうど祠の掃除を終えた様子だった。
「ああ、おはよう…………何やってるんだ?」
話には聞いていたが、一応本人にも聞いてみると、小夜があはは、と笑って答える。
「祠のお掃除です。毎日この時間帯にやってるんですよ」
「毎日?」
鸚鵡返しに尋ねると、ええ、と小夜が頷く。
「亡くなったお婆ちゃんとの約束でして、もう五年以上続けている日課みたいなものですね」
「信心深いんだな」
俺の言葉に何故か小夜が驚いたような顔をし、そしてくすりと笑う。
「決してそういうわけでもないんですけどね…………この日課のことを言うとみんな同じように言いますけど、別に私は信心深くなんて無いんですよ、だって」
神様なんて信じてませんから。
「…………でも毎日こうして祠を綺麗にしているんだろ? 何故?」
問うと小夜が少し困ったような苦笑いしながら答える。
「お婆ちゃんとの約束だったからです。お婆ちゃんは六十年以上毎日にようにこの祠にやってきては祠を綺麗にして参拝していたらしいです。私は大のお婆ちゃん子で、そんなお婆ちゃんについてきて毎日この祠にやってきてお婆ちゃんを手伝っていました。でもお婆ちゃんも歳ですから、そのうちここまで来れなくなっちゃって、その時にお婆ちゃんと約束したんです、これからはお婆ちゃんの代わりに私がこの祠を綺麗にするって。それが無ければきっと私はこんなことしてませんね」
ほら、信心なんて無いでしょ? と笑う小夜だったが、俺は別の感想を抱く。
「立派な信心だよ。理由はどうあれ、やっていることは立派に信仰になるさ」
まあそれを良しとするかは人次第なのだが。
「きっとお婆さんも喜んでるだろうよ、だってそうだろ? 自分の信じたものを孫がずっと信じ続けてくれてるんだからよ」
「…………そうですね。竜宮でお婆ちゃんが喜んでくれているなら、嬉しいですね」
そう言って微笑を浮かべる小夜だったが、俺は小夜の言った一言に見逃せない言葉を見つける。
「ちょっと待った、竜宮?」
「え、あ、はい…………この祠の祭神様の住まう場所ですね」
「竜宮…………ってことはこの祠の祭神って」
俺の予想を裏付けるように小夜があっさりと答える。
「この祠の祭神は…………龍神様です」
「あれ?」
「どしたの悠希?」
朝風呂に行くため廊下を歩いている二人。と、ふと声を上げた悠希に詩織が首を傾げる。
「いや、携帯がどこにも無いなって」
「部屋に忘れたんじゃないの?」
「そうか? うん、そうかもな」
気にすることも無いか、と悠希が頷いた時。
「お客様の携帯ならこちらにありますよ?」
背後から声がする、多少驚きつつ二人が振り返るとそこに旅館の従業員の女性がいた。
「ちょうど良かった、皆様を探していたんですよ。実はこれが外に落ちていた、と言う話でして、こちらお客様の携帯で間違いないでしょうか?」
そう言って女性が差し出した携帯は、確かに悠希のものだった。
「あ、ありがとうございます」
一言を礼を言ってそれを受けり、首を傾げる。
「外って昨日の晩まで部屋にあったよね?」
「ああ…………それから外に出た覚えが無いんだが、盗まれた? ってことは無いよな、朝見た時は財布とかあったし」
「うん、私も何も盗られてなかったと思うよ」
起きた時に見た自身の荷物の中身を一つ一つ指を折りながら数えている詩織。そして全てあることを確認し、一つ頷く。
自身も携帯以外は全てあったはずだ、と悠希が考え、女性に尋ねる。
「えっと外のどこら辺にあったんですかね?」
「さあ、ちょっと分かりかねます。私が見つけたわけではないので」
困ったような表情で首を傾げる女性に、悠希が次いで尋ねる。
「あ、だったら…………誰が見つけたんですか?」
その疑問に、女性は端的。
「小夜さんですよ」
そう、答えた。
アリスちゃんとお風呂入りたい。背中流してほしい、いやむしろ背中流したい、むしろprprし(略
なんか物足りない。寧ろ一話丸まる使ってアリスちゃんのお風呂回にしても良かった。
水着回はまた次の機会に、今回は全裸だ。それはそれでいいんだが有栖枯れてるな。
そういや十四代目のこと書いてて思いついた妄想。
仮に十四代目がヒトキリと戦ったら。
開幕銃で牽制。それから仲魔で魔法攻撃。切り払われる。その隙に十四代目が接近、刀で斬る。ヒトキリの反撃、ガードしながら仲魔で魔法を当てる。
羅刹斬→ガード+召し寄せでほぼ無傷。修羅闘使用。やること変わらず。人斬刃→前転で避けて背後から切りつけながら召し寄せで仲魔の魔法。
修羅闘+羅刹斬→召し寄せ+ガード。終わったら回復。銃で牽制、近づいて刀で斬る。向こうの攻撃をガードして仲魔の魔法。ダメージが深くなったら回復薬。
ひたすら繰り返し。
WIN
十四代目パネェ。左腕どころかかすり傷くらいで勝利できるよきっと。
刀は勿論陰陽葛葉。
メガテンシリーズの中で十四代目だけが何故かアクションゲームと化してるよな。
基本的にプレイヤースキルさえあれば仲魔いらないと言う。
因みに魔人の解釈などについてはオリ設定ふんだんにあります。